自尊心

自尊心とは

ジラーは、自尊心とは「自己-他者志向の文脈から生じる、個人の価値観」と考えました。

彼は、自尊心に関する先行研究の問題点として、

1)自己システムの社会性が十分に強調されていない
2)記述的なものである
3)自尊心の測定が口頭による自己申告が主体である

などを指摘しました。

そこで彼は、自己と他者のトポロジカルな表象を用い、言語的要求を制限した独自の評価方法を紹介しています。

例えば、「自分」についての6種類の項目と「大切な人」についての5種類のカテゴリーが与えられ、被験者は各項目を水平に配置された6つの円のいずれかに記入します。

その結果、

・より価値の高い社会的対象は水平方向の表示で左側に配置される傾向があること
・自己と地位の低い社会的対象の位置の絶対差は自己の左右方向の位置と有意に関連すること
・自己の左右方向の位置は自己の上下の位置と有意に関連すること

が示されました。

自尊心を育てる

自尊心を育むのは、その人が生きている間に経験したことです。

ポジティブな体験は、自分自身をポジティブにとらえることにつながり、その逆もまた然りです。

子供の幼少期において、親は自尊心の発達に肯定的にも否定的にも大きな影響を及ぼします。

子育てに関する文献によると、無条件の愛情は安定した情緒の発達に大きな影響を与えるとされています。

このような感情は、子供の成長過程で自尊心に影響を与えます。

発達心理学における多くの実験的研究は、安全な愛着(愛着理論参照)とその後の自信の間に因果関係があることを示しています。

学校期間中は、成績が自尊心の一因となります。

合格・不合格が続くと、その学生の自尊心に影響を与えます。

また、社会的な経験も大きな要素です。

学校に通う子どもは、クラスメートと自分を比較するようになるかもしれません。

このような比較は、子どもの自尊心に重要な役割を果たし、子どもの自分に対する否定的または肯定的な見方に影響を与えます。

思春期には、親しい友人との関係から自分を比較するため、自尊心や自己評価の意見が重要になります。

子どもの自尊心を育むには、友だちとの心地よい関係がとても大切です。

また、社会的受容は高い自尊心につながりますが、拒絶や孤独は自信喪失につながり、低い自尊心の発生を促します。

自尊心の発達には、親の態度や子育てのスタイルが重要な役割を担っています。

育児に協力的な子どもは、自尊心が高く、判断も早くなります。

権威主義的、放任的、ネグレクト的といわれる子育てスタイルと比較して、権威的な子育てスタイルと自尊心の発達には正の関係があるとする研究報告があります。

自尊心を育む良い幼少期の体験には、他人からの注目、尊敬の言葉、適切なケアや愛情、成功したときの評価などが含まれます。

低い自尊心を育てる原因となる悪い経験には、強い批判、身体的・道徳的・性的な嫌がらせや虐待、無視、嘲笑、いじめなどがあります。

自己肯定感を低下させる問題と対策

健全な自尊心は、心理的安定と積極的な社会活動を支え、子どもの心理的発達に不可欠な要素です。

多くの研究が、低い自尊心と様々な心理的問題との関連性を示しています。

日本では、1950年代後半から不登校の問題が注目されるようになりました。

文部科学省は、不登校を引き起こす要因として「自尊心の不足」を挙げています。

粕谷は、中学生において、不登校の子どもは対照群よりも自尊心が低いことを報告しており、増田も同様に、思春期の少女が不登校の子どもに比べて自尊心が低いことを示唆しています。

青年期の精神疾患の存在が自尊心の低下と関連していることが示されました。

メンデルソンとエイバーは摂食障害をもつ青年や若年成人において低い自尊心を観察し、ロバーツはうつ病の成人も同様に低い自尊心を持っていることを明らかにしました。

ゲイマンは、自尊心の低さが若年成人のうつ病の病歴および発症時期と関連していることを指摘しました。

これらの患者は、子どもの頃に十分な自尊心を育むことができず、ストレスに対処するための効果的なアプローチをとることができず、精神障害の発症につながったという説明が可能でしょう。

また、慢性的な身体疾患が子どもの自尊心を低下させるという報告も多くあります。

肥満、心臓病、慢性腎臓病の子どもの社会的不適応とQOLに関する研究では、自尊心の発達過程が身体疾患による不適応を受け、その結果、積極的な社会活動が制限され社会的不適応が悪化することが明らかにされています。

近年、多くの研究が、何らかの病気や問題を抱えた子どもたちの予後は、周囲の環境、人との良好な関係、自尊心などによって作られる子どもの回復力によって決まると指摘しています。

治療においては、失われた自尊心を回復させることが重要です。

成功体験を積み重ねることで、自己を肯定的なものとしてとらえることができるようになります。

また、所属する集団(家族、クラスなど)により、自分の役割を十分に果たすことができると感じれば、肯定的な自己概念を持つことができると思われます。

学校では、教師が子どもたちに学業達成の機会を多く与え、子どもたちの経験を肯定的に解釈することが重要です。

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