10月4日、今日は父島を見てまわることにしよう。父島も山あり谷ありなので、できればレンタルバイクが望ましい。まさか免許が必要と思わなかったので、免許は持って来ていない。ガーン。しかたないので、近くの民宿でレンタサイクルを借りた。24時間で1500円。南に向けて走りはじめた。目標はコペペ海岸。急な坂道を登りながら、何度も自転車を降りては押しながら進む。長いトンネルをいくつか抜ける。誰もいないトンネルの中を一人で走るのは不気味だ。「ア〜」と叫んでみた。「ア〜、アワァ、アワァ、アワァ、アワァ、アワァ〜」不気味な音が響き渡る。途中にいろいろな浜辺を通り過ぎながら、朽ち果てた座礁船を右に見ながら、長い坂道を上ったり下ったり。バイクや自動車がすいすいと横を通り抜けていく。長い旅路の果てに、ついにコペペ海岸が見えてきた。防風林の向こうに僅かな輝きが見えるだけなのだが、それでもとても嬉しい。ここまで街中から自転車で約50分かかっている。海岸には車でやってきた島民、観光客が何人かいる。小笠原諸島は珊瑚島ではないので真っ白な砂浜というわけにはいかないが、まずまずのビーチだ。潜ってみると、砂と岩の入り交じった海底に珊瑚がぽつりぽつりと見える。

陸路で小港海岸に行くのは、コペペ海岸よりさらに山中の道を進まなければならないので大変だが、コペペ海岸からは遠くに小港の海岸が見える。泳いで行ってみることにした。小港の方向に向かって泳ぎ出す。ここでも気がつくと、反対方向に向かって泳いでいた。方向を間違わないように度々、水面に顔を出しながら泳ぎ出す。海底はどんどん青さを増し、遥か遠くに砂模様が微かに見える。かなり深くなっていることが分かる。青いばかりで退屈な風景を見飽きた頃、岩が増えだし、小港海岸に近づいた。小港海岸はかなり遠浅で、砂ばかりのビーチのようだ。コペペ海岸の倍程度の海水浴客がいる。といっても10人程度だ。上陸して、しばらく歩き回った後、コペペ海岸に向けて帰ることにした。
今度は陸よりの岩場のコースを通る。波が岩を洗って、岩のかけらが海に落ちる。落ちた岩は波にもまれる間にどんどん丸くなっていく。岩の中にある石英らしい結晶が削り出されて、磯辺の海底に落ちている。なかなかきれいだ。貝殻も落ちているので、きれいなのを探してみる。
突然、雨が降ってきた。ずいぶんとひどい雨だ。磯辺で波と戯れながら休憩することにしよう。背中が雨で冷たいが、海の中は温かい。しばらくすると雨は小雨になった。再び出発することにしよう。岩間に波が削り取ったアーチが2つほど開いている。そのアーチの下を泳いで通っていくのは、なかなか素敵な気分だ。岩場と珊瑚を下に見ながら、どんどんとコペペ海岸に近づく。岩の穴場には黄土色をしたウニが沢山住み着いている。ピンク色のパイプを身にまとったパイプウニも初めて見た。コペペ海岸に辿り着くと、泳ぎ始めてから約2時間が経過していた。

コペペ海岸で持参の弁当を食べ、帰路にある赤灯台を目指すことにした。赤灯台は枝珊瑚の群生で有名らしい。今朝来た道をまた上ったり下ったりしながら、進んでいく。それでも来たときよりも、ずいぶんと楽だ。赤灯台に着くと、地元の母親たちが子供たちを連れて水浴びをしている。枝珊瑚の位置を聞き出し、堤防沿いに赤灯台に向けて泳いでみる。堤防沿いにあるだけあって、海底には沢山のゴミが沈んでいる。そんな汚らしい風景が一段落したころ、前後左右、見渡す限り一面の枝珊瑚の群落が現れる。中には死に絶えて石灰化した群落もあるが、生き生きとした群落もある。その群落の中を黄色や青の鮮やかで小さな魚達が群れ泳いでいる。まるで違う世界にトリップしたようだ。赤灯台に近づくと枝珊瑚は次第になくなり、岩場が多くなる。波のゆるやかな場所には紫色の長い触手をしたウニたちが集団でたむろしている。小笠原諸島では間違っても生き物には触ろうとしないことだ。亜熱帯に属するこの地域では猛毒を持つ種類もある。知らずに触れば、そのまま、おさらばだ。

赤灯台を後にし、街中まで帰った。夕食にはまだ少し時間がある。宮の浜まで出かけることにしよう。宮の浜は前浜を除けば、街から最も近い浜辺だろう。それでも、一山超えなければならない。連日の運動で足はもうガクガクだ。いったい、どこから、そんな気になるのか不思議でならない。またまた、自転車を押しながら山を超える下り坂は楽ちんだ。しかし、その坂が長ければ長いだけ帰りが恐くなる。宮の浜では浜にある屋根と柱だけの建物に観光客が集まり、駄弁っている。少し離れた浜では子供たちが戯れている。時間もあまりないので、とりあえず潜ってみる。砂が舞い上がっていて視界は悪い。珊瑚がところどころに見える。きれいな浜だと聞いていたが、それほどでもないように思う。先日、ドルフィンスイムのときに習った、深い水中への潜り方を試しながら、イルカのようにくるくると身体を回転させて泳いでみる。少し浅かったようだ。シュノーケルから砂が入り込んだ。うげげげげ。

食事を済ませて、のんびりとしていると、同じ宿の人が釣りに出かけるという。いっしょについていって見学させてもらうことにした。餌は小海老のようなもの、または魚の切り身という感じだ。数人並んで、ひょいひょいと釣り糸を垂れる。ほどなく、かかる人にはかかる。大きいの小さいのいろいろと連れるが、30cmくらいの大物が平気でかかる。海の恵みのなんと偉大なることか。川釣りで小物しか釣ったことの無い身には、感動的である。名前はいろいろあったが、覚えていない。釣った魚が食べられるかどうか判断するのが難しい。幸い、宿の主人もいっしょだったので、食えない魚、小さい魚は、ほいほいとリリースしていた。青灯台の堤防には照明がついているので、夜であっても海の中の魚影が見える。釣れる魚よりも遥かに大きなのがすいすいと泳いでいる。不気味な影が浮かんだ。出た。サメだ。くねくねと身体をくねらせて泳いでいる。1m以上はありそうだ。堤防の上から眺めているだけでも恐いものだ。ここにいるということは、つまり、いつも平気で泳いでる浜にもいるということになる。コワー。