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小笠原ふらり一人旅 ページ4


母島

10月1日、早朝に母島に向けて出港する。船は「母島丸」、片道2時間で、料金は2等で4000円程度。母島に行くかどうかについては多少迷ったが、小笠原諸島まで来ることは、なかなかできないことだから、この機会に行ってみることにした。船内の約2時間は特に待つこともなく過ぎる。おがさわら丸の25時間に慣れてしまえば、2時間などは時間のうちに入らない。

民宿

またしても、出迎えの人に迎えられて宿に向かう、父島のときと違うのは、その宿の客がわたし一人だけということだ。乗合の車に乗って宿に着く。宿は民宿で、レンタルバイクが並んでいる。水道の流しを直しているらしく、流しが表に出ている。宿に着いてはみたが、他に客がいるようにも見えない。とりあえず部屋に案内される。宿には家族とヘルパーと見える女の子が数人いる。男達は流しの修理に忙しく、女達は家事で忙しそうだ。特に母島の観光について案内してくれる様子もない。部屋に座り込み、果たしてこれからどうしたものかと考える。

繁華街

部屋にいるわけにもいかないので、ふらりと街を歩いてみることにした。歩いていくと記念館のようなものが立っている。なんでも母島に住み着いたドイツ人を記念して立てられたものらしい。中に入ると受け付けの人が一人座って編み物をしているが、他に客がいる様子もない。「本日の閉館は1時半です」と張り紙がしてある。なんとものどかなことだ。中に入ると、昔の写真や漁具の展示があった。するりとそこを抜け出ると、繁華街のほうに向かって歩いた。商店がひとつ、農協がひとつ、漁協がひとつ。この島にある店はそれですべてらしい。商店に入ってみる。昔の田舎の商店のようだ。生活に必要な最低限のものが無節操に何でも並んでいる。その代わりに機能が同じなら種類はひとつしかない。なるほど、逆に言えば、人はこの小さな店に収まるだけの物があれば十分に生活していけるのだ。都会に溢れている商品たちは、本当に必要なのだろうか。そんな思いが脳裏を過ぎる。

母島観光

母島は山岳の険しい島なので、上り下りが激しく歩いて観光することは難しい。時間もあまりないので、島の観光ガイドを頼むことにした。2〜3時間で島内の観光名所を車で案内してくれるらしい。一人4000円で、一人でも受け付けてくれる。一件目は電話しても誰も出ない。店の名前があっても実質は個人でやっているようなものなのだ。二件目で相手が出た。電話したのは、昼頃であった。もちろん、客はわたし一人だが、午後1時から車で案内してくれるという。なんと融通の聞く話だろう。宿に帰り、観光ガイドの車を待つ。宿には貸し出し用と思われる水中メガネ、シュノーケル、フィンの三点セットがあった。主人に借りれるかと聞くと、「うちの宿泊者には貸すんだが、そうでない人には貸すサービスはやっとらんだよ、あんたぁ、いったいどこの人だね」と言う。どうやら、わたしが宿泊客だと気づいていないらしい。なんとものどかなものだ。

御幸の浜

観光ガイドの人に連れられて観光に出かける。ガイドは頭をほとんど坊主にして、後ろ頭に少しだけ丸く剃り残した髪をゴムで束ねている。自然が好きで小笠原諸島に来て、さらに人のいない場所を求めて母島に移り住んできたのだと言う。天皇陛下も行脚されたという御幸の浜を訪れる。ごつごつした岩と石ころばかりでとても泳げる浜のようではない。それでも、まずまずの美しさだが、手前を見れば、浜にはペットボトルや洗剤の使用済みボトル、切れた網、紐の切れたブイなどが打ち上げられている。南海の孤島であっても、ゴミだけは辿り着くらしい。

山中

母島の幹線道路は、南北の島に沿って一本の道があるだけだ。山道をくねくねの登りながら山中で車を停める。学術調査のために来たと見られる車が2台ほど道端に停めてあるが、人は見あたらない。小笠原諸島固有種である「こぶの木」などを見学する。木からこぶがにょきにょきと生えている不思議な木だ。この場所には夜になると光る茸であるグリーンペペも見られるのだと言う。

北港

車中で、「泳ぐ気ありますか?」とガイドが聞く。ガイドは泳ぎたいので北港で泳ごうということらしい。もちろん、通常の島内案内にそんな内容は入っていない。これが母島の魅力なのだろう。北港に来ると地元の人が子供たちを連れて遊びに来ている。湾の中ではハシナガイルカがジャンプしている。さっそく、泳いでみる。水中に珊瑚があるが、泥をかぶっているようであまり美しくない。聞けば近くに山からの水が流れ出す場所があるらしい。水といっしょに土砂も流れ出すのだろう。海底の珊瑚を眺めながら、すいすい泳いでいるうちに簡単にかなり沖のほうに出てしまった。海底は遥かに深い。岸辺にいる人達の姿が、遥か遠くにとても小さく見える。あわてて岸のほうに向かって泳ぎ出すが、ふと顔を上げてみると、何故か全然違う方向に向かって泳いでいたりする。一生懸命、岸に向かって泳ぐが、全然岸が近づかない。岸から沖に向かって風が吹いているようだ。こんなところで溺れたら、誰も助けにこれないな。必死に泳いで、岸に近づいた頃には、もう足が棒のようになっていた。死ななくて良かったね、ウン。泳いで沖に出るのは十分に注意しよう。

雄大なる眺望

景観の良い場所にも、いくつか案内してもらった。母島では標高が高い山の上に道がついているので、そこから見下ろす海はとても気持ちがいい。穴場に案内してもらった。注意してその崖っプチに腰掛けた。足の下を見れば、遥かな崖に吸い込まれそうだ。自分の前に遥かに上下左右360度の視界が広がる。こんな雄大な風景はこれまでに見たことがない。海は遥かに広く広がり、空もまたどこまでも広い。何度も見る方向を変えなければ、全体を良く見ることができない。写真にしてしまうと何と感動のない風景になってしまうことだろう。


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