ウォルナンブールのすぐ沖にあるミドル・アイランドには、夜になるとコビトペンギンが上陸してくる。島までは、引き潮であれば歩いて渡れる。しかし、この引き潮というのがクセモノである。昼間に渡ったときには腰までくらいの深さであったが、夜に行くとしっかり胸まで浸かってしまった。水も冷たく、必死の思いである。さらに、島の上部では沖からの強風で吹き飛ばされそうである。苦労したかいあって、なんとかペンギンが見れた。帰りはずぶ濡れで身体も冷えて宿まで歩いて帰る。死にそうである。島は海洋に面して断崖絶壁である。ヨチヨチ歩きのペンギンはいったいどこから登ってくるのであろうか。

グランピアンズは激しい地殻変動でできた山脈地帯である。もちろん、この一帯は国立公園になっている。ここでは、ドイツ人旅行者に誘われて、山の頂まで登ったり、滝を見に行ったりととにかく歩き回る。ほとんどの人はただ通り過ぎてゆく場所であるが、滞在してみるとあまりの長閑さに感動させられる。朝夕は近くの高いユーカリの木々に多くの鳥達が集まりうるさい。夜になるとカンガルー、ワラビーが庭を闊歩する。海沿いを通って山に来てみると、山もまた良いものである。肌に纏わりつく湿った空気もなく、澄んだ空気が清清しい。ユーカリの強い油の匂いが辺りに漂う。

ここはロック・クライミングで有名な場所である。360度見渡せる平原に突然に聳え立つ山というよりも岩。この辺りのオーストラリアでは良くある驚くべき風景である。まわりに何もないのに、どうしてここにポツンと岩が聳えているのか、誠に不思議である。山頂から眺めると、同じく低くポツンとある岩と、その向こうには白い塩湖が見える。

アデレードは、大き過ぎず、小さ過ぎず、ちょうど良い大きさの都市である。料理もおいしく、町並みも美しく、日本人にも人気が高い。穏やかな地中海性気候でワインもおいしい。中華街もあり、レストラン街もあり、由緒正しいボタニカルガーデンもあり、姫路と姉妹都市なのか日本庭園もある。

アデレードから北へ向かう。いよいよ砂漠の旅の始まりである。途中には捨てられた集落が幾つもある。このあたりはマージナルと呼ばれ、緑地と砂漠の中間である。雨が降れば水場ができるが、降らなければ完全に干上がってしまう。人々はこの辺りにやってきて、小川を見つけて、住み着いた。水があれば、生きていける。だが、それは束の間の潤いだった。やがて水は枯れ、暮らすには過酷な環境となった。今では、墓と廃墟のみが残る。

パラチルナは、無名な場所である。人里を離れ、公式な人口は二人。幾つかの建物がある他は、遥か遠くの町へと続く鉄道が一本、自動車道が一本。それ以外には、360度、遥か彼方まで何も無い。おそらくは、鉄道保線のためにだけ存在している場所である。だが、パラチルナの落日は素晴らしい。空は一瞬一瞬に、その美しい色を別の美しい色に変えながら、いつまでも美しい一瞬を描き続けて、やがて夜に至る。

フリンダーズ・レインジーズは480kmにも及ぶ山脈である。ウィルピナ・パウンドはその中でも特に美しい場所である。険しい崖に囲まれた100平方kmにも及ぶ低地である。ツアー客全員でマウント・オールセン・バッジに登る。三時間の険しいハイキングである。午前中とはいえ、太陽の日差しが強い。乾いた砂漠の暑さが、じわじわと体力を消耗させる。全員は頂上まで辿り着けないのではないかと思えるほど過酷な登山であった。頂上は風が強く、見晴らしが良い。

果てしない砂漠の中に、忽然と町が広がる。クーバー・ピディは不思議な場所である。外から見える物は、砂色の風景と僅かな建物、そして怪しげな掘削装置。その地球のものとも思われない風景は映画のロケにも良く使われる。クーバー・ピディではオパールが採れる。オパールが採れなければ、ここは価値のない砂漠に過ぎない。わたしが訪れたときに気温は40度で、十分過ぎるくらいに暑かったが、50度には平気でなるという。人々は、暑さを凌ぐため地下に穴を掘って暮らす。生活のほとんどすべての機能が地下にあり、教会もまた地下にある。
