私自身が初めて自然界での遺伝子の水平転移の探求にかかわったのは、１９７６年の春に遡る。その当時私は、ノックスビルのテネシー大学の助教授だった。当時の私は、厳密にいえば、遺伝子研究者であり、生きた細胞がどのように活動するのかが主な感心だった。当時から、私はバクテリアの中には、ごく自然に、完成したバクテリアの細胞からもう一つの完全なバクテリアへ遺伝子を伝えることができるものがあるの知っていた。しかしながら、私の視野からは、遺伝子の水平転移によって、新しい遺伝子を、つまりは、新たな特徴を実験室で研究中の細胞へ導入するという実用的な方法を得られる、という点においてのみ関心があったに過ぎなかった。
大学のゲーリー･セイラーともう一人の若い助教授と行ったある土曜日のつり旅行の午後で、私の狭い視野は変わった。私たちが、ボートの中で座っていた時、微生物学者のセイラーが下にある湖の中でバクテリア同士での遺伝子交換が起きてるのだろうか、と私に問うたのであった。私は、バクテリアの細胞は水中に拡散していて互いに接する機会が余りないだろうと予想した。それで、遺伝子交換の比率は小さいと推測した。だが、彼に対して自論を認めさせようとしたら、水平遺伝子転移の自然界における実体についての科学的論文に、自分は精通していないことを認めざるを得なくなった。
次の月曜日､書籍に当たれば何か載ってるとたかをくくりながら､もっと威厳のある答えを求めて図書館に行った。数時間後､私はショックを顕にし、失望していた。事実上何もわかっていなかったのである。
だが、セイラーの方はご機嫌であった。彼はちょうど､真水生物の研究のための小さな入れ物を作り上げたところであった。私達は､装置の試験をして、釣り場で起こっていた形質導入の量を図って､我々の科学的知識の実際とのくいちがいを埋め始めることが出来た。続くあき､春､全般に渡って､形質導入が真水で起こりうることを実証する初めての研究を成し遂げた。
１９７８年に、私達がその結果を出版したときは､他の人たちも私達と同じくらい興味をそそられるに違いないと思った。そして､自然界でのバクテリア遺伝子交換の研究プロジェクトが営々と続く中で､私達の論文がその最初のものとして認められるはずと思ったものだ。しかしながら、当時は、私たちの考えに共感して出資してくれる機関は一つもなかった。だが、１９８５年までには､遺伝子操作を受けたバクテリアを自然界に放出するという懸念はすっかり変わっていた。それから、セイラーと私は他も加えて､遅れを取り戻し始めた。そして、様々の条件のもとで遺伝子水平転移が起こる可能性を探り始めた。 |
