オーストラリアとロシアがABSLを共同開発する模様

オーストラリアとロシアがABSLを共同開発する模様(2005年10月24日)

 自国での打上げ手段を持たないオーストラリアが、小型衛星打上げ用ロケット開発をロシアと共同で進めるという報道(Spacedaily)がなされました。M-55は過去のエアワールドでも紹介したように、米軍偵察機U-2に対抗するために開発され、少なくとも5機製造された機体(2機は墜落し部品取りとなってます)ですが、現在ではスペースアドベンチャーズ社らが「宇宙旅行事業」や「衛星打上げ用航空機」や「大気観測機」として使用・検討しています。

M-55は主翼の翼端から中間までが複合材料、他は軽量合金(チタンとアルミ)だそうで、スケールドコンポジットのバート・ルータンも参考にしているそうです。

この空中発射ロケットによる衛星打上げシステム(ABSL: Aircraft Based Satellite Launch)は、飛行場を使用して離陸し、空中で打上げるため、下記のメリットとデメリットがあります。

 <メリット>

・ 射場が必要ないため、大規模な固定資産を持たずとも低コストで構築可能

・ 打上げポイントを変えられるため、ドックレッグが無くなる。このため、ロケットの能力をフルに発揮できる

・ 日本特有の環境(射場付近が豊富な漁場のため、365日自由に打上げられない)による打上げ制約をクリアできる

・ ロケット1段目が航空機(M-55など)のため、再使用?!できる。このため、ロケットをコストダウンできる。

 <デメリット>

・ 航空機搭載重量以内でロケットと衛星を搭載しなければならないため、大型衛星打上げは困難。

という特徴があります。また、研究開発費用は3年で$200 million(約200億円)程度だそうです。実はH-2Aでオーストラリアの小型衛星Fedsatを打上げて、国際協力をした経緯が日本にはあるため、筆者はM-VやS-520のABSLシステムを日米豪でできたら、太平洋で打上げが出来て理想かな?と構想を考えていましたが、ロシアに取られてしまいました。残念です。

 
M-55ジオフィジカ(Spacedaily) 


オーストラリア小型衛星Fedsat (SSTL HP)

イギリスGeoscanも関与か?

  さらにイギリスも関与している可能性がありそうです。M-55は大気観測機として使用されており、イギリスとロシアの合弁であるGeoscan Plcが管理しています。オフィスはモスクワとロンドンとマレーシア(クアラルンプール)にあります。このGeoscanのHPを見ると、M55を使ったエアランチを提案しています。


M55エアランチ(Geoscan)

 HPの内容によれば、M-55に2段式のロケットを搭載して高度17kmから打上げます。そして高度500〜3000kmの遷移軌道へ10〜200kgの小型衛星を投入する方式を考えている模様です。イギリスでは、トーネードを使ったABSLが考案されている例をエアワールド2005年9月号で述べましたが、一方でM-55を使ったエアランチも検討している模様です。また、ある宇宙情報に詳しい方の情報によれば、イギリス、オーストラリア、ロシアと共同で宇宙途上国へ小型衛星を打ち上げするサービスも検討しているとの事で、ビジネスとしても検討している模様です。

オーストラリアにとって、いいタイミング?

 また、将来の衛星は静止通信放送衛星や特殊衛星を除いては小型化することが予測されており、宇宙先進国が舵を切りにくい「小型衛星打上げ手段」を獲得すれば、ある程度の宇宙開発国の地位を築けると考えたのではないでしょうか?つまりオーストラリアは「低い投資で最大の効果を得る」ためと、「参入のタイミングが良い」という判断から、今回の空中発射ロケット開発に参加したと考えています。実はオーストラリアにおけるロケット開発は、様々なプロジェクトが立ち上げられましたが、構想段階で消滅する例が殆どでしたが、今回の経緯は過去と違って可能性があるようです。また、小型衛星も即応性があると叫ばれながらも「大型ロケットに相乗り」させられているのが現状で、結局は打上げに時間がかかってしまう問題があります。よって低コストの小型衛星打上げ手段を獲得できる国が、今後宇宙開発国として生き残る事ができる可能性が高いと筆者は考察しています。着々とABSL開発が進められていますね。

◎海外では提携が活発

 また最近、各国の宇宙提携が激しく行われています。インドでは小型衛星の技術とコストダウンを目的に欧州衛星メーカー(EADS)と米国衛星メーカー(ボーイング)がこぞってインド宇宙機関及び宇宙企業と提携を結びつつあります。そうした中で日本の宇宙機関の政策、メーカーは今後どういう方策を取るのでしょうか?今後の動向に注目していきましょう。

<関連ページ>

豪露、空中発射ロケット共同開発(Spacedaily誌)

   http://www.spacedaily.com/news/rocketscience-05zzj.html

GEOSCAN (UK) Plc: http://www.geoscanuk.co.uk

Air launch LLCでもABSL模擬実験(2005年10/6ブログ)

RASCAL復活(2005年9/28ブログ)

ジャパン・オリジナル・モバイル・ランチ戦略(航空機による衛星打上げ開発の現状)(エアワールド2005年9月号抜粋)

サイエンス・ランチスペースビーグルからコマーシャル・ランチスペースビーグルヘ(学術ロケットの商業打ち上げ機化計画:M-Vマルチプロジェクト)(エアワールド2005年11月号抜粋)

既存大型航空機を利用したABSL(Aircraft based Satellite Launch)の国際技術動向 (エアワールド2005年12月号抜粋)


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