ジャパン・オリジナル・モバイル・ランチ戦略(航空機による衛星打上げ開発の現状)
 
エアワールド2005年9月号抜粋版(詳細はエアワールド9月号をお買い求めください)
+UPDATA情報

本稿では、エアワールド2005年7月号に引き続き、空中発射型ロケットにスポットを当てて最近の動向を述べたい。

◎空中発射ロケットの概念
 空中発射型ロケットは近年出てきた新しい概念、というわけではないが地上からロケットを打上げる方法と比較して「高度・速度を航空機が稼いでくれる」ため、比較的安価にロケットが打上げられるメリットがある一方、航空機の搭載重量に左右される側面があるため、大型化には限界があるというデメリットがある。名称についても海外ではエアクラフト・ベースド・サテライト・ランチ(Aircraft Based Satellite Launch:ABSL)と言われている。したがって本稿では空中発射型ロケットシステムをABSLと呼びたい。(インターネット回線のADSLと間違えないように、、、、)
次にABSLが可能な既存航空機の種類・上昇限度・低軌道衛星投入重量を示す。


出典:筆者調査より

これは筆者らが海外のABSL対象として民間機、軍用機を問わず調査した結果である。これらの航空機の選定条件は「上昇力」がキーポイントである。それでは、エアワールド7月号に引き続きABSL(空中発射型ロケット)の海外動向を述べたい。
◎M-55X
 ロシアにあるスペース・アドベンチャー社では、サブオービタル(弾道飛行)用にM-55Xジオフィジカという高高度を飛行する航空機に、弾道飛行用の民間宇宙船C-21を搭載し、これを空中発射する宇宙観光サービスを模索している。

    
M-55


C-21(奥にM-55)
(出典スペース・アドベンチャー社)

 しかし、その一方でM-55Xは1990年代に高度21.8kmの高度からロケットを打上げ、低軌道へ100kg以上の小型衛星を打上げた実績があるそうだ。つまり高度100kmの弾道飛行の前にABSLを達成していた経緯があるのだ。これは興味深い情報である。

◎プロテウス
 Xプライズで一躍有名となったスケールド・コンポジット社であるが、同社がNASA向けに開発したプロテウスは、2000年に最高62786フィーと(約18.8km)を達成しており、1000kgのペイロード(ロケットなど)を搭載しても高度55878フィート(約16.7km)まで上昇可能とされている。実のところプロテウスは2機製造され、もう1機はノースロップ・グラマン社が保有しており、その機体をt/Spaceへ貸し出して2005年6月にABSLであるパラシュート落下打上実験を行なっている。

   
プロテウス(出典:NASA)     ロケット切り離しテスト(出典:t/space)

◎F-4ファントム
 過去の誌面にて紹介したRASCAL(Rapid Access Small Cargo Affordable Launch)であるが、この開発を進めていた企業はカリフォルニア州にあるスペース・ランチ社である。しかしRASCALはDARPAの研究が打ち切られたため、今のところ開発予算はついてないが。しかしその一方で会社のホームページを見ると、F-4ファントム戦闘機を用いたマイクロサテライト衛星打上げ事業を考えているようだ。


F-4を用いたABSL(出典:spacelaunch社)

F-4ファントムのF-4E型は、実用上昇限度は10975mとなっている。しかし空中発射用に兵装やアビオニクスなど空中発射に不要なシステムを外して軽量化し、エンジンもF-100に載せかえれば高度17.7kmまで上昇できるとのことだ。よってスペース・ランチ社は退役したF-4ファントムを使用し、固体ロケットブースターを搭載して小型衛星を格安で打上げようと計画しているようだ。

◎F-14トムキャット
 次に紹介するABSL候補はF-14トムキャットだ。この機体はグラマン社(現、ノースロップ・グラマン社)が製造したが、そのグラマン社を退社した社員、米海軍パイロット、元NASA職員らがPANAERO社を設立、F-14を使ってABSLを計画しているそうだ。そのコンセプト図はこうだ。


F-14トムキャットABSL(出典:PANAERO)

 コンセプトは2つ考えられており、有翼型と通常ロケット型がある。
以上のようにPANAEROではF-14を使ったABSLを計画しており、退役したF-14の譲渡を申請しているとのことだ。また支援施設はNASAが保有する施設(滑走路など)を時間借りして使用する方向で調整しているとの事で、もしF-14の譲渡がなされればABSL実現へ向けて一歩近づくであろう。

◎F-15イーグル
 さらにF-15のABSLも考案されている。それは米空軍とイスラエルだ。まず、イスラエルではラファエル社がF-15ベースで最大150kgの小型衛星を軌道投入するロケットを考案中とのことだ。イスラエルでは高性能の小型衛星の製造能力や独自のロケットを保有している。こうした技術的背景からラファエル社は「手ごろな価格(アフォーダブル)」で「低軌道衛星投入に効率の良いABSL」へ興味を示しており、おそらくイスラエル空軍も協力していると思われる。

 
イスラエル・ラファエルABSL        NASA F-15アクティブ

 次に米空軍のF-15もABSLが出来るようだ。実は米空軍の研究所であるエア・フォース・リサーチ・ラボラトリー(AFRL)がF-15を使って100kg衛星の試験打上を実施したと2003年に報道されている。この報道によると「高度12km、速度マッハ1.7、仰角60度」から約5億円($5 million)でロケット打上げが可能であるとし、空軍研究者やペガサスロケットを開発したオービタルサイエンス社らが開発している。
以上のようにF-15のABSLについては、イスラエルのラファエル社や米空軍が検討を進めており、米空軍については必要と判断できれば、100kgのマイクロ衛星をいつでも打上げられるだろう。

◎トーネードADV
 イギリスでも、ABSLが検討されているようだ。それはパナビア、トーネードである。トーネードはご存知のように防空戦闘機(ADV)、地上攻撃機(IDV)、電子戦機(ECR)とあるが、ABSL向けにはADV型が有利とされており、上昇力は21.3kmまであるそうだ。なぜこの機体が有利かと言うと可変後退翼の機体だからだ。よってイギリスでは検討が行われているようだが、予算拠出が困難なため、一説によるとサウジアラビアとイギリスで共同開発しているとのことだ。


トーネードADV

◎Mig-25&Mig-29&Mig-31
米国や欧州でもABSLの動きが存在するが、ロシアでもM-55Xの他にMig-31で打上げようとする動きがある。実は旧ソ連時代にソ連空軍が米空軍と同様に衛星を攻撃破壊する兵器ASATの開発を進めており、Mig-25にて実験を行っていた経緯がある。しかしその一方で衛星の打上げ手段としても利用できる側面にも気付き、過去に非公式で戦闘機ベースのABSLを実施している。したがって旧ソ連にはABSLの技術があるのだ。また、マレーシアが発表している論文によるとMig-31は高度20.6kmまで上昇しそこからロケットを打上げれば、150kgの衛星を投入できると発表している。


Mig-31 ABSL想像図          Mig-31フォックスハウンド

 マレーシアの大学論文では、ロシアよりロケットを購入し、自国のMig戦闘機を使用すれば小型衛星ならば簡単に安く上がると下表にて公表している。また、ロシアやウクライナがシンガポール、マレーシア、タイなどへこのようなABSLシステムの売込みを図っているとの情報もある。以上の背景からロケットをアジアで打ち上げられる国は日本・中国・インドであり、将来的に韓国も加わると考えられるが、これに加えてABSLが普及すれば、Mig-25、Mig-29、Mig-31を保有する国は低価格の打上げ手段を持つようになるだろう。

ロケット別打上げ単価(一部筆者翻訳)

◎Xerus
 最後にXerusだ。これはカリフォルニア州にあるXCOR社が開発を掲げている弾道宇宙旅行用の機体Xerusがあるが、この飛翔体にロケットに発射装置を取り付けて離陸する。そして高度100km付近でロケットを放出する。放出されたロケットは上昇を開始し、低軌道に10kgのペイロードを投入するのだそうだ。

 
Xerus(出典:XCOR社)

◎その他の開発
 この他にも国名はあえて避けるが、ノースロップ・グラマン社F-5EタイガーUを保有する東南アジアの国が、F-5ベースのABSLロケットをカナダで製造している噂を聞いている。また、オセアニア諸国でもF-111を使用したABSLの可能性を検討しているという噂も聞いている。さらにイタリアでもユーロファイターを使ったABSLを検討しているとのことだ。またF-16ベースでロケットを打ち上げようとする動きもある。以上のように民間航空機や民間貨物機の他に戦闘機・偵察機・有人宇宙船を用いたさまざまな“衛星打上げ手段“が確実に開発されているのだ。

◎ABSLの未来像
 以上のようにエアワールド7月号と本稿の動向から分析すると、ABSLは短期スパン・中期スパン・長期スパンと3つの戦略的観点で考えられているのではないだろうか?

短期スパン:既存の航空機で技術水準を確立しつつ、小型衛星という今後劇的に増加する打上需要に対応する。

中期スパン:B-747、An-124、An-224など既存大型機ベースで大型衛星打上げにも対応しつつ、有人宇宙飛行にも対応する。

長期スパン:乗員輸送用小型宇宙船(CEV: Crew Exploration Vehicle)の進捗状況を見ながら、DARPAが進めているFALCONの一案のように既存機ではなく専用機も製造する。

というような方向で再使用技術の開発を進めて、最終的には有人・無人を含む完全再使用の宇宙往還機を目指しているのではないだろうか?
 また、今後の宇宙開発は国家主体から一部は民間委託となることが十分予測できる。米国では2004年1月に月・火星を目指すブッシュビジョンが発表された後に、NASA職員をメーカーへ移動させて実質NASA職員の削減を実施した。
 さらに民間企業がABSLにこだわる理由もある。民間ベースでロケットの打上げをすると射場が必要となる。しかし射場を建設するには莫大な投資をしなければならない。よってSpaceX社のように簡易式のトラック移動型の射場建設ならば実現可能だが、ABSLならば既存の滑走路や施設を使用すれば良く、地上設備に莫大な投資をかける必要がないため、民間ベースで事業をするならばABSLは経営上都合がいいのだ。現にスペース・シップ・ワンも空中発射方式である。また、エンジニアにとっても空中発射型ロケットは「おもしろい」から「やりたい」という理由もあるだろう。
 しかし、宇宙先進国が進めているABSLもやり方次第では宇宙開発を全く実施していない国でも「容易に打上げ手段を導入」できるため、弾道ミサイル技術の拡散など、様々な問題が発生するかもしれない。

◎ABSLの問題点と解決案
      (エアワールド2005年9月号をご覧ください)

◎日本におけるABSL案
 では、今後における日本の“打上げ手段”について考えたい。単刀直入に言えば、今後日本のロケットは「大型衛星が打上げ可能なH-2A」と「中小型衛星打上げはABSL」という方式を将来的に進めてはどうだろうか?H-2Aロケットは液体水素/液体酸素を用いた高効率で性能の高いロケットであることは間違いない。この技術を放棄する事は国際戦略上得策ではないと考えられる。しかし、その一方でH-2Aは射場にかかるコストを含めてトータルコストが高いという噂は存在するため、今後は“ハイエンドクラス”に対応したロケットとして位置付け、打上市場拡大のためにコストダウンをしつつ、日本をプライムとして“外国企業との共同開発”も視野に入れた方策によって、生き残りを模索する必要があるだろう。
 その一方、現役の固体燃料ロケットM-Vは世界最大で究極の固体燃料型ロケットであることは間違いない。しかし“1980年代の設計“であるため、現行ロケットの主流になりつつある、「一部光ファイバーケーブルの採用」などの改良余地があり、また推薬も既存のモノよりも低毒性で高性能なモノが研究・検討されている。また、過去にM-Vライトという低コストのM-Vロケットが提案されたが、海外ロケットと比較するとまだコスト高のため、国際競争力を考えれば厳しいかもしれない。したがって、開発企業が同じ系列であるIHIのGXロケット技術とIHIアエロスペース社(旧日産)M-V技術を統合し、将来的にM-VとGXを発展解消させる形でキロ単価100〜50万円の大・中・小のABSLロケットを開発してはどうだろうか?M-Vの製造現場では恐らく「80年代の設計は優秀であるが、こうすればもっとコストも下がって良くなるのでは?」と思っているだろうし、GXロケット開発者も「エンジン開発には時間がかかるが、この他の技術は世界最高で早く実証したい」と考えているだろう。よってIHIの技術を結集し、B-747ジャンボ機を使用したABSLロケット開発を進めてはどうだろうか?実は、宇宙研ではB-747搭載型のロケット研究を何と1970年代後半から実施しており、図面まであるとのことだそうだ。

 さらにM-VやM-3S-U型の「1段目」を外すと、B-747に懸架可能だ。実はロケット1段目は全体重量の65%〜70%(M-VやM-3SUなどの固体燃料ロケット)を占めるため、この一部が再使用(航空機)されるだけでもコストダウン効果が大きい。さらに打上げにおいて地上支援施設を作らず、「MTSAT通信を有効活用する」方法で打上げれば、圧倒的にコスト競争力のあるロケットを作ることも可能であり、MTSATという日本の気象・航法のプレステージを有効活用できる。
 そしてABSLロケット開発において、国際競争力を考えれば「性能とコスト」がキーポイントとなるであろう。したがって今後はメーカー中心にABSLロケット開発をさせ、宇宙機関はシンプルに「キロ単価100〜50万円で○×kg衛星をLEOへ投入できるABSLロケット」という米空軍ロケット開発方式のように「要求と開発費のみ」を出して監視すれば良いのではないだろうか?

◎ABSLの波及
 次にABSLシステムの波及である。これはかなりのものが期待できる。まず、B-747のABSLシステムが仮に出来たとすると、再使用機(B-747)であることにより、
 ●微小重力実験機として使用可能
 ●研究機材として使用可能
 ●広報的効果
 ●再使用機体の研究が可能
 など、既存のJAXA研究の幅が広がる可能性が高い。微小重力実験では大型の微小重力実験や宇宙飛行士の訓練が可能であり、場合によっては小学生や中学生など未来を担う子供たちの宇宙教育として「無重力体験」をさせたり、場合によってはアジア・オセアニア諸国の子供たちも無重力体験をさせられれば、教育的効果が高いだろう。
 次に研究機材として使用することも可能だ。例えば開発したエンジンを懸架装置で取り付ければテストヘッドとして使用可能であり、通信実験や自動操縦技術の研究にも使できる。
 このような機体は非常にインパクトが強いため、広報活動においてもメリットがある。例えば、全国のエア・ショーにて展示させてはどうだろうか?米国では各地で開催されるエア・ショーにNASA所属の航空機を展示させている例は多々ある。さらに中古機を使っているのであれば、既存資産の有効活用をアピールでき、国民から支持を得られるであろう。
最後に再使用への波及だ。まずは下図をご覧頂きたい。


DLR再使用機構想(出典:Flight International)    SART(出典:DLR)

 これはドイツの宇宙機関DLRが研究している再使用ロケットだ。左側はデルタ翼型のロケットが飛翔し、宇宙空間で頭部を開口してペイロード(衛星)を打ち出した後に再突入して帰ってくる再使用機なのだが、何と帰還時にデルタ翼の翼が開いて滑空帰還するのだ。また、SARTについては何と補助ロケットが飛行機のように飛翔して帰ってくるのだ。

 以上のようにABSLは現行の研究レベル上昇、広報、再使用技術研究、有人宇宙など様々な波及が期待できるのだ。

◎自衛隊航空機を平和転換活用する方法は?
 また、外国が戦闘機を用いたABSLをしている事例を学んで、日本もF-4ファントムの兵器システムを全部外して軽量化し、平和利用転換して10kg〜100kgの小型衛星ABSLにチャレンジしてみるのはどうだろうか?F-4ファントムであれば高度17.7kmまで上昇するため、パイロットは宇宙服のようなものが必要となるかもしれない。そうなれば、小型衛星打上げ技術を取得する一方で、日本が得意とする繊維技術を用いて日本独自の宇宙服が製作できるかもしれない。


日本版宇宙服の開発も(出典:NASA)

 また将来的にはF-15戦闘機が引退するので、この機体を譲ってもらって兵装システムを全部外して軽量化し、NASA研究機のように可変ノズルを取り付けて最高高度まで上昇してABSLをするのはどうだろうか?自衛隊の機材を使えば「宇宙の軍事化」と言われるかもしれないが、兵装を外せばただの高速航空機である。よってこのような平和利用限定で行えば、自衛隊パイロットも喜んで協力してくれるのではないだろうか?

◎海外から評価の高い日本のSS-520ロケット(UPDATA)
 さらに旧宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)が開発したSS-520と言われる観測ロケットも「ABSLとして非常に有望だ」という指摘を海外のロケット技術者から聞いている。あまり知られていないがこのロケットは非常に優秀であり、アドバイスをしてくれた外国のエンジニアも「わが国はSS-520の技術を高く評価している一方、同等の観測ロケットを開発する際にはSS-520を参考にした」と言っている。この観測ロケットは、地上から打ち上げれば10kgの小型衛星を軌道投入可能であるが、航空機を使ったABSLならば、もっと重量のある衛星を打ち上げられる可能性が高い。つまり日本ならば小型レベルのABSLなら新規開発が殆ど無く実現可能なのだ。しかしSS-520は一説によると1機3億円と価格高のため、民生パーツを利用すれば相当のコストダウンが可能であるとも指摘されている。以上のように、小型ABSLは実現可能で、日本の固体燃料ロケット技術は海外からは評価が高いという事実も私たちは把握すべきだろう。

◎民間宇宙パイロットの登場も
 空中発射型ロケット(ABSL)が世界的に実用化が進んでいる中で、将来は航空機パイロットの延長線として民間宇宙パイロットが必要になるだろう。高高度を飛行するパイロットは45ドル〜50ドルの危険手当がつくが、宇宙飛行士は5000ドル程度の危険手当がつくとの事で、将来的にはパイロットの延長線上で民間宇宙パイロットを育成しないとコスト的に見合わない環境となるだろう。また、B-747を操縦する日本の大手航空会社の機長よりABSLパイロットとして「ぜひやってみたい」という話も聞くことができた。
 よってもしABSLシステムを日本が構築でき、一部の打上システムの権限をJAXAから民間へ開放させれば、自然と投資家が現れて民間レベルで宇宙開発が進むかもしれない。その一方、現状ではJAXAしかロケットを打上げる権限がないため、米国のように許認可制度によって宇宙機関以外でもロケット打上げができる法的枠組みが将来的に必要となるだろう。

◎宇宙を産業化させるために
 今後の宇宙開発を産業化させるためには、日本は“宇宙開発”と“宇宙活動”という枠組みで考えるべきかもしれない。つまり“宇宙開発”は宇宙機関(JAXA、USEFなど)が進めるもので、“宇宙活動”は民間ベースで進めるべきだと考えている。よって今回取り上げたABSLは宇宙機関(JAXAやUSEF)が開発し、開発後は民間ベースで運用して「JAXAや一般ユーザーが利用(購入)する」環境に一部はしなければならないと考えている。そうしなければメーカーはいつまで産業化できないだろうし、宇宙機関も民間宇宙活動を阻害してしまう可能性がある。つまり技術者の「作りたい」というスピリットと「皆が利用するスキーム」がマッチしなければ、“宇宙開発だけ”で止まってしまい、公共事業化してしまう可能性があるのだ。

◎国際連携してコスト競争力のあるABSLを製造・販売しては?(UPDATA)
 先述に記したように、日本にはABSLを製造できる能力がある事を述べた。そして海外企業とのアライアンスをし、日本以外にも海外へ販売できれば、日本の宇宙産業を国際化できる可能性が高い。近年、海外の宇宙産業の合併や業務提携が激しく行われている。こうした次世代を見据えた宇宙産業の整理・統合が行われている中、日本の宇宙企業は残念ながら「取り残されている」のが現状だ。こうした嵐に生き残りをしなければ、宇宙産業が公共事業化し、少子高齢化によっていずれ国家宇宙予算が減少されるのと同時に産業が衰退していってしまうだろう。それを防止するためにも海外企業との連携によるABSLシステムは国際市場へ出るきっかけとしていいのではないだろうか?技術者の「やる気」も重要だが、それだけでロケット開発を進めるのは今後は厳しいものとなるだろう。

◎まとめ
 実はエアワールド2005年9月号の原稿を書くにあたり、上記で述べたt/spaceのプロテウス実験はまだ行っていなかった。しかし原稿を書き上げた後に空中切離し実験報道がなされ、「予測している以上に現実は先を進んでいる」という事実を筆者は痛感してしまった。やはりABSLの重要性を認識している企業や国はアクションが早いようだ。 ABSLはロケット再使用技術確立の“入り口”であり、また射場費用の削減や1段目の再使用によって効率化できる事を説明した。
宇宙開発や宇宙活動を実施するにあたって必要な要素は「推進力」、「コンセプト力」、「金力」の3つが必要であり、これが合致しなければ実行が困難である。しかし緊縮財政下である日本では、金力が厳しい状況になりつつある。よって宇宙開発のさまざまな現状を考えて、今後日本はABSLのような「kg単価50〜100万円」を目指した次世代オリジナル・ランチ・ビークルを持つべきだろう。実施にあたっては「既存資産の有効活用」、「波及」、「低コスト」、「再使用」を中心に考え、その結果として産業化(民間の宇宙活動)ができる体制が最も望ましい。つまり10年、20年、30年先を見据えた技術積上げ方式のファースト・ステップが既存航空機(B-747や高速航空機)を用いたABSLかもしれないと筆者は考えている。


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