既存大型航空機を利用したABSL(Aircraft based Satellite Launch)の国際技術動向

既存大型航空機を利用したABSL(Aircraft based Satellite Launch)の国際技術動向 
エアワールド2005年12月号抜粋+(UPDATA情報)

 本稿では空中発射ロケット発射機母機である大型航空機の現状について紹介したい。

◎空中発射母機の現状と傾向

 空中発射ロケット母機は上空へロケットを「運搬」してそこから打上げるために使用される機体である。したがって、より大型の衛星を宇宙空間へ打上げるのであれば、「搭載重量が大きい」&「空気の薄い上空へ上昇が可能」という大型航空機を使用することが最も理想である。したがって、このような空中発射ロケット開発初期には下記のようなSinger、Spiral、ヤコグレフ・スカイリフターという発射母機が考案された。


Singer(出典:Helmut Ciezki)  Spiral(出典: www.burAn.ru)


ヤコグレフ スカイリフター(出典::www.aeronautics.ru)


 上記の3機は「推進力」、「コンセプト力」、「金力」と3つの要素が揃わなかった事と、技術的にも「飛躍しすぎ」という面もあり、開発リスクも高い。
  一方、短期的な打上げ手段確立においての空中発射母機は既存航空機を改造しようとする動きが活発である。現実問題として空中発射型ロケットによって打上げトータルコストを下げるにはAn-124、AN-225、C-5、C-17、B-747を空中発射母機として使用したほうが「コスト的」・「技術的」・「開発速度的」に最も実現性が高いようだ。では海外の発射母機動向について述べたい。

◎Transformational Space (T/space)

  T/Spaceはアメリカのベンチャー企業であり、この企業はNASAから2004年9月に$300万ドル(約3億円)資金を受けて次期新型宇宙船を開発しようと研究を進めている。宇宙船搭載ロケットの縮小モックアップモデルの切り離し試験が2005年6月に実施された。この実験はNASAがスケールドコンポジットらと開発した高高度を飛行できる航空機プロテウスを用いて行われ、切り離し実験に成功している。


切り離しの瞬間(出典:T/Space)


          連続撮影    カプセル落下実験
(出典:T/Space)


さらに余談ではあるが有人宇宙船の回収技術も取得するため、回収実験も2005年8月に行っている。これらの一連の実験をNASAの開発検討予算約3億円という低予算で検討・実施している点は見習うべきだろう。

さらにt/spaceの開発ロケットは、AirLaunch LLCが米国防省研究機関DARPAから受注したFALCONロケットを流用する構想でコストダウンを実施しようとしている。


DARPA Falconロケット技術の流用(出典:T/Space)

  このDARPA FALCONロケット開発プログラムを簡単に言えば「低コストで低軌道へ小型衛星を即応打上げできるロケット開発プログラム」であり、現在は4社がしのぎを削って開発している。そのうち1社のAirLaunch LLCは開発フェーズUの予算獲得し、2005年7月にエンジンの燃焼試験を実施している。し

 このT/spaceは有人宇宙船を打上げるため、空中発射母機の使用を検討しており下図の2つを考案している。



VLA                   B-747(出典:T/Space)

このB-747の図を見ていただきたい。よく見ると脚部が「収納型」ではないのだ。確かにB-747の胴体下部と地上とのクリアランス(高さ)はあまりないため、何とT/spaceではB-747の脚部を固定型としてロケットを搭載できるクリアランスを確保し、脚部は空気抵抗を考慮した設計としているのだ。これならばVLAと比較して低コストで開発できるかもしれない。

◎Kelly Space & Technologyのアストロライナー

 次にKelly Space & Technology社のアストロライナーである。このアストロライナーは内部にロケットを搭載し、ボーイング747胴体後下部からワイヤーでアストロライナーを結合し、牽引して離陸する。そして高度6000mになった時点でB-747から切り離し、アストロライナーはロケットエンジンを点火する。切り離したB-747は民間機と同様に着陸する。

 
       アストロライナー     アストロライナーの構成
(出典:Kelly Space)  

  
アストロライナー上段放出   F-106牽引試験離陸
(出典:Kelly Space)     


  牽引試験飛行
(出典:Kelly Space)



 この牽引式のアストロライナーであるが、牽引デモンストレーションを1997年8月から1998年2月にかけてエドワーズ空軍基地にて実施した。発射母機はC-141でありアストロライナー模擬としてF-106デルタダートを使用して実験が行われ、成功裏に終了した。

◎M-V空中発射概念の検討

 さて次は日本である。日本でも宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)や日産(現IHIエアロスペース)や富士重工がB-747背負式の空中発射ロケットの検討を1990年に発表している。この資料によると、有翼型と無翼型が考案されており、有翼型はB-747の上部に1段目を外して翼を取り付けたM-VロケットをB-747上部へ搭載し、高度10kmから0Gで降下するB-747からロケットを切り離し、B-747とロケットの高度差が100mを越えた時点で点火打上げする方式である。そして点火したロケットは機体を引き起こして上昇するのだ。しかも論文では重量配分からロケットの最適化まで行っており、非常に興味深い資料である。


     B-747(出典:IAF-90-178)


空中発射の流れ (出典:IAF-90-178)

 この資料によると、この空中発射ロケットの打上げ重量は51.85tであり、高度250kmの円軌道へ1270kgの衛星を投入できるとしており、ロケット全重量に対するペイロード比率は2.45%と発表している。つまりM-V技術を流用してB-747を使用した空中発射ロケットであれば、1t以上のペイロードを宇宙空間へ運ぶ事が可能なのだ。この能力ならば今後需要が拡大される小型衛星打上げ需要へ十分対応可能である。やはり旧宇宙科学研究所のコンセプト力は非常に高いと言わざるを得ない。これに金力と推進力さえ加われば筆者は国際競争力のあるロケットが実現可能であると考えている。

 また、空中発射へ使用するB-747についても、搭載重量が多く日本の国内線向けに製作されたB-747SRの使用が可能であれば、発射母機としてはもっと理想であろう。実は日本のではこの理想としているB-747SRを稼動状態で保有している航空会社があるのだ。

◎米空軍の空中発射ロケット・ライトニング

米空軍では、AFRL(Air Force Research Laboratory)がライトニングと言われる空中発射ロケットを開発中である。この空中発射母機としてC-5ギャラクシー、C-17グローブマスターが挙げられているが、これに加えてB-747も候補として挙げられているが詳細は不明である。

  
ライトニング
(出典:www.jfss.gr.jp/) 

◎TRWのSPACEVAN

 これは、現在ではノースロップグラマン社へ吸収合併されたTRWが1981年代からスペースバンという発射母機であるB-747から単段式完全再使用宇宙往還機を打上げる計画をしている。資料によれば高度12kmからスペースバンを切離し、スペースバンが搭載しているプラット&ホイットニー社製のRL10ロケットエンジンを点火して上昇する。

  
スペースバン(出典:www.tour2space.com)   RL-10(出典:P&W)

◎中国の空中発射動向

  過去の誌面で中国がロシアの高高度航空機M-55を用いて空中発射をやろうとしている情報を述べたが、ここへ来て中国が弾道ミサイルであるDF-31技術を流用して製作したKT-1を増強させたKT-2とB-747を組み合わせて空中発射ロケットを検討しているとの情報が入ってきている。

  
KT-1(出典:www. astronautix.com)

   このKT-2を使った空中発射実現なのかは分からないが、中国が世界で唯一稼動状態のB-747SRを保有している日本の航空会社へ対し、第3国を経由して自国へ輸入しようと躍起になっているとの噂を聞いている。中国は武器輸出大国である一方、「AS15 Kent」として呼ばれている射程3000km、核弾頭200キロ・トンが搭載可能な巡航ミサイルをウクライナから極秘裏に購入したのとの報道があるように正常とは考え難い活動が心配である。このため、もしB-747搭載の空中発射技術を確立されたら海外へ転売する可能性は十分あるため、ミサイル拡散の危機が広まる可能性が高い。よってB-747SRの動向には注意を払う必要がある一方、エアワールド2005年9月号の「ABSLの問題点と解決案」が現実のものとなり防止手段が必要となるだろう。

◎パキスタンの空中発射ロケット開発動向(UPDATA)

 パキスタンでも空中発射母機を手に入れて空中発射ロケットをやろうとする噂が入ってきている。それは弾道ミサイル「シャヒーン2」といわれる2段式のミサイルとB-747SR-146Bを組み合わせた空中発射ロケットを計画しているとのことである。このシャヒーン2は中国が固体燃料技術を供与したと言われており、射程2500kmの中距離弾道ミサイルで、核弾頭が搭載可能とされている。ここからは憶測だが、もしかしたら中国がパキスタンと共同で開発しているのではないだろうか?

 また、発射母機のB-747SR-146Bは1980年1月21日に飛行した機体で、購入先は日本の航空会社であった。このB-747SR-146Bは日本の国内線需要増大に対応するために購入した機体であり、1998年4月に日本の航空会社から売却され、その後持ち主を変えながら今ではLogistic Airが2004年2月から所有し、ロジスティック用航空機としてパキスタンにて運用されている。

  
シャヒーン2          パキスタンLogistic Air保有のB-747SR-146B

◎NASAシャトル輸送機

 さて、空中発射ロケットではないがNASAのシャトル輸送機SCA(Shuttle Carrier Aircraft)もB-747が改造されて使用されている。ご存知のようにシャトルはグライダーのように飛行して地上滑走路へと着陸するため、自分で飛行する事は出来ない。したがって、スペースシャトル打上げ射場であるケネディー宇宙センター以外へ着陸した場合は、B-747に載せられて帰らなければならないのだ。このジャンボは2機あり、1機はアメリカン航空のB-747-100で、もう1機はJALのお下がりであるB-747SRである。

  
                  シャトル輸送中のSCA(B-747SR)        切離し直後のシャトル(B-747-100)(出典:NASA)

◎B-747が母機として採用検討されている理由

 さて、ここまでB-747を用いた空中発射ロケット等を紹介してきたが、なぜB-747が使用されているのか?これについて考えたい。

 第一にB-747は大型ジャンボ機でもあるため、大量の人員や物資を搭載できる事。

第二にB-747は100型〜400型とSR、SP等全て合算して1200機以上生産されているため、非常に信頼性が高い航空機だ。したがって“NASAシャトル輸送機”や“米国、UAE、サウジ、オマーン、日本などの政府専用機”、“空中指令機E-4B”、“天体観測機SOFIA”等の改造実績があり、改造しやすい航空機なのだ。


NASA-DLR天文観測機SOFIA                            SOFIA搭載望遠鏡(出典:NASA)

第三にB-747は入手しやすい機体である。

◎B-747シリーズの中で最も母機としてふさわしいのは?

エアワールド2005年12月号をお求めください。


B-747の発展の歴史(筆者作成)

 以上から考えると、B-747SRを第三国経由で入手しようと躍起になっている国があるという噂を耳にしているが、その理由がわかるような気がする。日本仕様に作られたB-747SRは派生型を含めて49機が製造され、現存は12機あるとのことだが、スクラップされた機体を除いて既にB-747SRの争奪戦が始まっている可能性があるだろう。よってこの機体の動向を今後注目する必要があると考えられないだろうか?

◎An-124

 次にAn-124である。

  
着陸するAn-124(出典:www.bredow-web.de) ヘリ搭載中のAn-124(出典:www.aopa.org)

 このため、An-124の貨物スペースにロケットを搭載し、飛行中に後ろの貨物扉を開けてロケットの落下打上げをする機体として現在、ロシアとアメリカの企業や大学機関が空中発射母機として使用を検討している。

◎ゼニット空中発射(SvitiazとPOLYOT

 先月号で地上打上げと海上打上げという「マルチランチビークル」として活躍中のゼニットロケットを紹介したが、さらに空中発射ロケット用としてAn-124とAn-225を使用した打上げが検討されている。


AN-225 +ゼニット(Svitiaz)       AN-124 +ゼニット(POLYOT)

◎カリフォルニア工科大学、スウィフトランチ


スウィフトランチ(論文AIAA2001-4619)

◎イタリア・ベガロケット(UPDATA)

 イタリアでは、ベガという固体燃料ロケットが開発中でほぼ完成に近づいている。ベガはイタリアが独自の打上げ手段を持つために開発をスタートさせた経緯があり、日本のM-Vロケットを研究して開発されたと言われている。欧州のロケットではアリアン5が主流であり開発の中心はフランスであるが、イタリアは小回りのきく中小型ロケットを持とうと考えたようだ。しかしコスト高のようで一部では止めたほうがいいという声も存在する。このためベガは地上発射型を進める一方でコスト削減を目的としてAn-124を使用した空中発射ロケットバージョンも検討しているとのことだ。このような背景と近年の状況から欧州最大の宇宙機関であるフランスCNESは、アリアン5という大型主義を本当に進めて良いのか内部で検討をしている。フランスでは「国策として宇宙を!!」というスローガンを掲げており、アリアン5はその象徴であるが、大型過ぎて使い勝手の悪いロケットである一方、政府支援を得ても打上げ会社のアリアンスペースは赤字を垂れ流しているにも係わらずロケット技術者が「さらに大型ロケットを作りたい」というコスト意識に欠けた声を上げている。このため年輩のフランス議員から「これ以上赤字を出すならアリアン5を中止すべきだ」との発言も飛び出している。このためCNES内部で現行の宇宙開発が本当に正しいのか検討が行われており、近い将来結論を下すとのことだ。フランスのこのような「自身を律するために現行体制を問い直そうとする姿勢」は尊敬に値する。

 話は少しずれたが、このような見直しの一方でイタリアのベガは低コストの打上げ手段確保のために地上打上げに加えて空中打上げを検討中である。打上げ方式は不明だが、An-124を使用するという観点から恐らく後部貨物扉から落下させる放出落下打上げ方式ではないかと考えられる。


ベガ(出典:ESA)                                                     An-124(出典:www.atr56.it)

◎SS-18ドニエプル空中発射

 先日、JAXAのOICETSとINDEX衛星がロシアの弾道ミサイルを改造したドニエプルロケットにて打上げられて成功したが、このSS-18弾道ミサイルを改造してAn-124を空中発射母機とし、ロケットとして打上げる計画が進められている。

   
SS-18/ドニエプル        An-124(出典:www.globalsecurity.org)            


◎エアランチ社 FALCONロケット

 アメリカ、エアランチ社では、アメリカ空軍の低価格で即応性のある小型衛星打上げロケット、FALCONの開発を受注し、研究している。当初は空軍からフェーズ1として提案研究だったが、フェーズ2も受注し約12億円というさらなる研究費を獲得している。

また、10月初旬の報道によれば、C-17を用いた模擬落下実験を実施して成功したとの報道がなされてる。詳細はこちら

 
エアランチ社FALCONロケット(出典:エアランチ社) C-17(出典:USAF)

燃焼試験(出典:Airlaunch LLC)

◎ロッキードマーチン社 FALCONロケット

 DARPA FALCONロケットプログラムは2005年9月現在、4社で開発が行われている。その1社が前章のエアランチ社であり、他の3社はロッキードマーチン(LM)社、SPACEX社、マイクロコズム社である。このうち、空中発射ロケットを検討しているFALCONは、「LM社FALCON」と「エアランチ社 FALCON」である。マイクロコズム社とSPACEX社のFALCONロケットは構造上困難との事である。

 
LM社FALCONロケット(出典:LM)
     
発射母機(出典:LM)

 こうした中で空中発射が出来るもう1社のLM社はハイブリッド型ロケットを目指している(ハイブリッド型ロケットの仕組みは、本誌2005年3月号をご覧ください)。実のところLM社は2002年12月にNASAワロップス射場から観測ロケットとしてハイブリッドロケットの打上げに成功している。そしてこの技術を流用し、大型化させてFALCON用のハイブリッドモータを製作、2005年1月にエドワーズ空軍基地にて燃焼試験に成功している。LM社では、このハイブリッド技術でFALCONロケットを開発し、打上げ価格はロケット製造費と打上げ作業費用コミコミで約5億円とし、打上げ重量は低軌道へ700kg〜900kg前後を目標とし、初打上げは2007年を予定している。

   
ハイブリッド観測ロケット打上げ  FALCONハイブリッドモータ燃焼試験(出典:LM)

 以上のようにハイブリッド型ロケットのFALCON開発は着実に進められているが、その一方で打上げ価格5億円という壁は高いため、空中発射によってロケットの段数もしくは搭載燃料を減らして価格を下げようという試みが一部で進められている。また空中発射母機としてC-5、C-17、C-141、C-130が検討対象として挙がっており、恐らく自社製品であるC-5、C-141、C-130を使用するものと考えられる。打上げ方式は後部カーゴ扉から放出落下打上げする方式であると考えられる。胴体懸架ではクリアランス確保が困難で、翼懸架は構造強度的には困難だからだ。

◎アメリカ弾道ミサイル派生型ロケットのABSL

 以上のようにDARPA FALCONプロジェクトで空中発射ロケットをやっているが、弾道ミサイルであるミニットマンやピースキーパーをピーストランスファーしたロケットを空中発射させる方策も考えているようだ。このうちミニットマン3の初期型であるミニットマン1は、空中発射打上げを何と1974年に空軍が実施している。もちろん実験であって弾道を搭載しているわけではなかったが、すでにミニットマンは空中発射技術の実績があるのだ。したがってその派生型のミニットマン3と全段固体燃料型のピースキーパーはABSLが可能と判断されている。


 C-5からの打上げ
(出典:USAF)

◎空中発射母機でなぜエアバス機がないのか?(UPDATA)

 以上のように、海外ではB-747、C-5、C-17、An-124で空中発射ロケットをやろうとする動きが存在する。しかしなぜエアバスの機体が出てこないのだろうか?それは機体構造が民間旅客機向けに製造されたため、空中発射ロケットを搭載する重量及び構造強度が上記の機体と比較して十分でないからだ。よって空中発射母機へ改造するならば、他の母機よりも改造費がかかってしまう。この理由によりイタリアはロシアのAn-124を使用しようとしているのだ。ではB-747はどうだろうか?ご存知の方も多いと思うが、もともとB-747は空軍が発注する大型輸送機入札案としてボーイング社が提案したが、ロッキードマーチン社に負けたために民間旅客機向けへ設計案を波及させた背景もあり、B-747は“C”という軍用輸送機としての型式証明を持っており、構造強度がしっかりしている。したがって余談だがB-747は“禁止事項”としつつも宙返りができる機体だ。したがってABSL改造機としても有望というわけである。

◎M-V空中発射の可能性

このように世界動向を見ながら日本はB-747かAn-124とM-Vを組み合わせた打上げ手段を持つべきだろう。このような打上げ手段が出来れば、小刻みな宇宙活動が出来る可能性が高い。現状の日本は、H-2Aの打上げを待っている状態であり、多くの大型衛星が打上げを待っている状態だ。これはH-2Aで打上げて経験を積ませるべきだが、一方で小型衛星や大学の衛星は海外の打上げ手段を頼って出て行ってしまっている状態だ。よって彼らへ使いやすく低価格の打上げサービスを提供すれば、衛星の輸出書類作成の手間を省くことも出来て利用してくれるだろう。しかもM-V空中発射ならば恐らく数年間で150億円の開発費があれば十分でH-2/H-2Aのように3900億円かけた金額に比べれば26分の1程度で開発可能だ。しかも大量生産でコストダウンが出来れば、海外企業や打上げ会社から「うちの製品群に加わらないか?」との誘いが期待できる。そうなれば採算性も期待でき民間ベースで打上げ事業が出来るかもしれない。大いに可能性のあるM-V空中発射である。

しかし「いらぬ疑い」を招かぬようにもしなければならない。一歩間違えればM-Vは弾道ミサイルと間違われる。そうした場合はエアワールド2005年9月号の「ABSLの問題点と解決案」を実行し平和利用と商業打上げを示せばよい。場合によってはアメリカや欧州などで事業会社を作ればミサイル使用を防止できる。純粋な国際競争力ある空中発射事業が目的なのだから、、、、。また、多弾頭技術を持たないよう、2重、3重の段組を採用した“小型衛星切離機構”を採用し、M-Vを悪いように使わせない方策も考えられる。

以上から恐らくM-V空中発射は上手く行けば今後10年、トップランナーを走れる可能性が高い。しかも低軌道ならば1t程度は打上げられるため、今後小型化する低軌道衛星打上げロケットとしては申し分ない。なぜ今まで我々はM-Vのすばらしさに気がつかなかったのだろうか?

◎M-V空中発射の先には?

日本の宇宙ビジョンは総花的と言われているが、日本は幅広い研究をしてきたことは確かだ。それを誇りに思うべきだろう。よってこれからは研究成果を「切り捨てる」のではなく「将来的な視野に立って組み合わせて発展させる」ことも必要となってくる。実のところ筆者はM-V空中発射案を単なる固体燃料技術の維持と商業打上げだけとして捉えていない。空中発射技術を取得して最終的には有人宇宙往還機を目標に出来ればと考えている。しかもどこかの国のように国威発揚を掲げて使い捨てロケットを打上げる「資源を無駄使い思考」の有人宇宙活動ではなく、下図へ示すような完全再使用の有人宇宙船を目標として進むべきだと考えている。これはNASAの研究でマスタングと言われている。

これは完全再使用宇宙往還機で、打上げ時はB-747がマスタングを背負って離陸する。そしてメキシコ湾上で切離して打上げるのだ。しかもこの往還機は2段構成になっていて、1段目は加速・切離し後に無人で飛行して地上へ着陸する。そして上段は最大8人の乗員を乗せて宇宙空間へ行くのだ。したがって将来的にこのような往還機が出て来る可能性はあると同時にコンセプト力も非常に魅力的だ。このマスタングはアエロスペース・タクシーとも言われている。したがって今後我々もこのようなコンセプトを学んでもっとインテリジェンスな革新的打上げ手段を追求してはどうだろうか?そのためにはまずはM-V空中発射で低コストの打上げ手段を取得して打ち上げ能力とコストでトップランナーを走り、その次にはハイブリッド型や液体燃料型を実施、そしてスクラムジェットやラムジェットエンジン等と航空機技術とUAV技術を組み合わせ、最終的には下図のような完全再使用往還機を目標とするのはどうだろうか?このようなビジョンなら国際共同開発だって可能だし、ISSのような膨大な投資も必要としない。


マスタング(出典:NASA)


2段式完全再使用往還機「マスタング」(出典:NASA)



実はこのマスタングにはまだ先がある。このB-747母機で実証できた次はB-747を引退させて2段式の1段目を大型化し、滑走路から離陸する完全再使用の宇宙往還機を目標としているのだ。このような観点ならば、着実な技術積上げのロードマップを描ける可能性が高い。今こそ日本も「発想転換」と「夢ではなく着実で飛躍しない」方法とロードマップを描いてはどうだろうか?宇宙開発には「推進力」、「コンセプト力」、「金力」が揃わなければ前へは進めない。

◎まとめ

 空中発射ロケットの発射母機としてB-747をはじめAn-124、C-5ギャラクシーなどを使用し、有人宇宙飛行から衛星打上げまで様々なABSLの開発・研究が各国の機関や企業で進められている現状を述べた。特にB-747は日本仕様向けに製造された機体が有望で、この機体を入手するための争奪戦が水面下で始まっている現状も述べた。

このようなABSLの出現は今後の宇宙アクセス手段の先駆的立場になる一方、飛躍し過ぎない技術でもあるため数年以内には多くの打上げサービスが登場する可能性があるだろう。そうした中で筆者はM-Vの空中発射ロケットが日本の今ある技術で唯一世界と対抗でき、さらに格安の打上げ手段を日本自身へもたらすことができると考えている。そしてさらにその技術は日本の有人宇宙への道を開く可能性を秘めており、着実なロードマップを描きつつ、コツコツと技術を積上げれば国の予算ではなく民間投資を期待できる一方、対等な国際協力による開発さえも出来る可能性が高い。今回はM-V空中発射ロケットの可能性を扱ったが、次回は衛星システムをナショナルな視点で検証・提案したいと思う。


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