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東急不動産と耐震強度偽装

耐震強度偽装問題は多くの市民を不安にさせたが、東急不動産は別次元の悩みを抱えている。偽装発覚後、民間検査機関や自治体に既存物件の再検査等の依頼が殺到している。この状況に対し、東急不動産の植木正威社長は検査機関が新規分譲分の検査に手が回らず、検査の遅れを懸念する。「物理的な限界で遅れが出かねない」と語る(「耐震偽装、マンション販売に影」日本経済新聞2005年12月13日)。

住民の多くが生命財産の不安を抱く中で、自社の金儲けしか考えない、身勝手な見解である。東急不動産の体質を示す発言である。建築主として、社会的責任を果たす気持ちが希薄なことだけが空しく伝わってくる。収益を生み出すことにしか建築に価値を見出していいない。全国で国民の不安、被害者の嘆きが天を圧している。しかし東急不動産は自己の異常さに気付くこともないようである。

企業トップとしての見識を疑う。ヒューザーのオジャマモン小嶋進社長や東横インの西田憲正社長に匹敵する名物社長となりそうである。植木正威社長は1942年2月17日生まれで、東京都出身である。トップリーダーが方向性を見失い、行ってはいけない方に進み始めると、取り返しのつかない企業不祥事に発展してしまう。

東急系のマンションで構造計算書偽装(アーバン武蔵小金井)

東証一部上場で東急電鉄系の建設会社、世紀東急工業株式会社(東京都港区、奥澤靖司社長)のマンションで構造計算書偽装が判明した(「新たに「姉歯マンション」判明、最も古い偽装物件」読売新聞2005年12月8日、「<耐震偽造>東京・小金井のマンションでも改ざんの疑い」毎日新聞2005年12月8日)。

偽造物件は同社が建築主となった賃貸マンション「アーバン武蔵小金井」(東京都小金井市本町1-8-11)である。施工も世紀東急工業である。設計は世紀東急工業一級建築士事務所が担当した。

アーバン武蔵小金井は1999年1月に都多摩東部建築事務所(当時)が建築確認をし、同年12月に完成した(「東急の物件でも偽造判明 都が建築確認」共同通信2005年12月8日)。構造計算書の作成日は1998年12月10日である。これまでに判明した偽造物件の中では最も古い(「東京・小金井の賃貸マンションも偽装 最古の偽装物件」朝日新聞2005年12月8日)。

構造計算書偽装の発端に東急系の関与があることを疑わせる事実である。姉歯元建築士も「偽造は98年ごろから60件前後やった」と証言した(「<耐震偽造>「98年から60件」証人喚問で姉歯元建築士」毎日新聞2005年12月14日)。東急系マンションの偽装が初期のものであることは間違いない。

世紀東急工業が設計を委託した木村建設(熊本県八代市)が構造計算を子会社の平成設計へ下請けに出し、さらに姉歯事務所へ孫請けに出していた(「世紀東急工業が建設のマンションで偽装判明」日本経済新聞2005年12月8日)。木村建設に発注した理由について、同社は「工期が短いと評判で、試しに使った」とする(「東急系でも耐震偽造」東京新聞2005年12月8日)。熊本に本社がある木村建設やまして平成設計など聞いたこともないところを、東急ともあろうものが何故使ったのか。

世紀東急工業に対しては以下のコメントが表明されている。「建築主として被害者だが、木村建設に丸投げしたことが仇となった。設計工事監理も丸投げしたことになる。ここで発覚できていればと思うと残念である。賃貸に住むのは人間である。利益追求による丸投げの発想はもの造り家造りに真摯に取り組む人々に弊害をもたらす。企業の倫理をもう一度再考していただきたい」(荻原幸雄「耐震強度偽装問題時系列」建築よろず相談2005年12月23日)。

偽装発表の翌日、世紀東急工業の株価は下落した。2005年12月9日の主な値下がり銘柄として紹介される(「9日東京株式、日経平均反発・前日のジェイコムショックをほぼ吸収・落ち着きを取り戻す」テクノバーン2005年12月9日)。「8日に東京都小金井市の賃貸マンションで姉歯元建築士による耐震強度偽装が見つかったと発表した世紀東急工業は商いを伴い3日続落」(「耐震偽造の波紋広がる、トーアミなど耐震関連は軒並み高、マンションで偽造発覚の世紀東急は続落」株式新聞ダイジェスト2005年12月9日)。

アーバン武蔵小金井は耐震強度は建築基準法が求める水準の53%しかなく、震度六弱で倒壊する恐れがある。世紀東急工業は耐震補強工事で対応するとする。本当に耐震補強工事だけで大丈夫なのだろうか。強度は半分程度しかない。耐震補強工事も丸投げで手抜きされるようなことがあったら、話にならない。

世紀東急工業は、偽装が見つかった一階部分の補強工事を2005年12月に終了したと発表する。今後、さらに詳細な建物調査を実施する計画とする。補強工事費用のほか、住民の退去費用、不動産ファンドに対する賃料補填は世紀東急工業が負担している。最終的な負担額はまだ確定していない。

世紀東急工業、偽装物件を問題なしと当初回答

偽装問題発覚後、アーバン武蔵小金井のオーナーである不動産ファンドは世紀東急工業に物件の安全性を問い合わせた。世紀東急工業は目視による検査で、問題ないと回答した(篠原匡「ファンドが姉歯に怯える理由−巧妙な偽装が不動産の市場心理冷やす」日経ビジネス2006年01月2日号)。手計算でのチェックを実施しても偽装を発見できなかった。

その後、東急建設に委託して精査すると一転、姉歯建築設計事務所による数値改竄が見つかった(「マンション各社、「ウチは安全」、火消しに躍起――耐震偽装、止まらぬ余波。」日経産業新聞2005年12月14日)。構造計算プログラムに実際の数値を打ち込み計算したことにより、偽装の事実が判明した。

「当初、簡便法にて計算いたしましたが、構造上の問題は認められませんでした。その後さらに確認のため、構造計算プログラムを用いて精査した結果、2点について構造計算書における計算過程において数値の改ざんが加えられていた疑いが認められました」(世紀東急工業株式会社「姉歯建築設計事務所による構造計算書の偽装問題に関して」2005年12月8日)。

世紀東急工業、不動産ファンドに売却

世紀東急工業は約3億円を投じて1999年12月にアーバン武蔵小金井を完成させた。9階建てのワンルームマンションである。土地面積422.81平米、延べ床面積1397.04平米の鉄筋コンクリート造である。

その後、大手財閥系の不動産投資ファンド「有限会社ホーム・プロパティ・インベスターズ」(東京都新宿区西新宿、中澤真二取締役)に8億3千万円の信託受益権譲渡で事実上売却した(2005年3月)。野村不動産インベストメント・マネジメント(NREIM)に売却と説明する記事もある(「世紀東急工業、小金井市の耐震偽装マンションを買い戻し」nikkeibp.jp 2006年3月2日)。所有権譲渡ではなく、信託受益権譲渡とした背景には、不動産の流動性の低さ(所有権の登記事務等)や譲渡時のコスト軽減(登記費用の優遇措置等)が考えられる。不動産ビジネスを展開する上で、信託は使い勝手のいい器となっている。

信託先は三菱信託銀行である。三菱信託銀行は現在の三菱UFJ信託銀行株式会社である。この譲渡により世紀東急工業は2005年3月期において譲渡損等8億9300万円を固定資産売却損として特別損失に計上すると発表した(世紀東急工業株式会社「固定資産の信託設定および信託受益権の譲渡ならびに業績予想の修正に関するお知らせ」2005年3月24日)。

世紀東急工業は、アーバン武蔵小金井の信託受益権を買い戻すと発表した(世紀東急工業株式会社「信託受益権の買戻しに関するお知らせ」2006年2月28日)。2005年の売却時と同額で買い戻す。世紀東急工業では、「入居者がいなくなり未稼働物件となってしまったことや、店舗テナントへの補償問題も残っていることから、売り主・建築主の責任として物件を買い戻すことにした」と話す(「世紀東急工業、小金井市の耐震偽装マンションを買い戻し」建設総合サイトKEN-Platz 2006年3月2日)。

東急不動産らのマンション「アルス町田ブライシス」が販売中止

東急不動産らの新築マンション「アルス町田ブライシス」(神奈川県相模原市)が販売中止を発表した。姉歯建築設計事務所(姉歯秀次一級建築士)による構造計算書偽装事件が大きく報道される中での突然の販売中止発表であり、不気味である。販売中止の理由は「売主の諸般の事情」と述べるのみで、具体的に明らかにしていない。

「アルス町田ブライシス」(神奈川県相模原市上鶴間本町)は東急不動産株式会社及び株式会社明豊エンタープライズを売主とし、東急リバブル株式会社を販売代理とする。建築確認番号は第ERI05004007で、偽装を見抜けなかった検査機関の日本ERIが建築確認を担当した。

2005年11月中旬販売開始予定としていたが、11月20日にモデルルームを閉鎖した。耐震強度偽装問題は11月17日に公表された。但しそれ以前の10月にはイーホームズが問題を把握し、水面下で関係者(国土交通省、ヒューザー等)間の折衝が行われていた。

マンション建設地では建物が建設途中の状態である。アルス町田ブライシスマンションギャラリーに電話(0120-109-504)で問い合わせた人の話では販売中止の理由は説明されず、今後も「未定」とのことであった(2005年11月26日)。

アルス町田ブライシスの施工会社は株式会社ピーエス三菱である。ピーエス三菱は株式会社ゴールドクレストのマンション「ザ・クレストウイング」(流山市西初石)も施工していたが、2006年4月に突然建設を中止した。理由は不明である。

問題物件の販売中止はヒューザーが採った手法である。小嶋進社長は2005年10月27日、耐 震強度偽装についてイーホームズの藤田東吾社長らと協議した後、全姉歯物件の販売中止 を指示した。販売中止の理由を問われた場合には構造計算書改ざんの事実を伏せ、「分譲 マンションを社有物件や賃貸マンションに切り替えるかもしれないから」と虚偽の説明を するよう指示した(「姉歯物件の販売中止指示」読売新聞夕刊2006年5月19日)。

東急リバブル、グランドステージ茅場町を媒介か

東急リバブルがグランドステージ茅場町を媒介したとの情報がある。東急リバブル銀座コンサルティングセンターが担当したとされる。グランドステージ茅場町(中央区新川)は構造計算書の偽造が判明したマンションである。建築主はヒューザー、設計はエスエスエー建築都市設計事務所、施工は木村建設である。RC造、地下1階地上13階、37戸、2005年7月竣工である。建築確認はイーホームズが下ろした。建築確認時はグランドステージ八丁堀と称していた。

情報によると、竣工から僅か三箇月後の2005年10月9日に東急リバブル銀座コンサルティングセンターの広告チラシが出されている。新築マンションの売れ残り物件を系列外の不動産業者が中古として販売・媒介する例がある(橋本一郎、サラリーマンでもできるマンション投資・家賃収入で儲ける極意、明日香出版社、2004年、146頁)。国土交通省による耐震強度偽装発表(2006年11月17日)の二日後の11月19日に価格を値引きしたチラシが出されている。売り抜けようとしたのだろうか。

にほんばしブログ2005/10/09
【中古マンション】グランドステージ茅場町
東急リバブル 銀座コンサルティングセンターのチラシ。日本橋区ではなく近隣の新川。
物件はグランドステージ茅場町
中央区新川2丁目
築平成17年(2005年)7月
八丁堀3分、茅場町4分
13階建ての2階、2LDK、106.93u
お値段5680万円、管理費月14,400円、修繕積立金月7,070円
※11月19日のチラシでは5,480万円の表記。

東急不動産と総研内河健セミナー開催企業

東急不動産は、総合経営研究所の内河健所長を講師とするセミナー主催企業からビジネス書を出版している。東急不動産コンサルティング事業本部を編者とする「踊る舞台を求めて―情報を形にかえ、事業化していくために」(綜合ユニコム)である。

綜合ユニコム株式会社(中央区銀座、代表取締役河崎清志)は株式会社総合経営研究所の内河健・代表取締役所長を講師として「免震ホテル「エクセルイン小山」(栃木県小山市)視察ビジネスホテル事業研究セミナー」を開催した(2005年4月11日)。

エクセルイン小山は川村建設株式会社がオーナーで総研がプランニングした。川村建設はエクセルイン古川、エクセルイン渋川も運営する。エクセルイン渋川は耐震強度偽装が判明している。

綜合ユニコム株式会社は事業開発・経営のためのノウハウを発信する情報企業と称する。関連会社として日本ホテルシステム株式会社、株式会社ユニコム企画設計がある。

綜合ユニコム|免震ホテル「エクセルイン小山」視察ビジネスホテル事業研究セミナー
http://www.sogo-unicom.co.jp/pbs/seminar/2005/0401.html

東急不動産とイーホームズ

東急不動産は多くの物件で耐震強度の偽装を見逃した民間検査機関「イーホームズ」に建築確認申請をしている。判明しているだけでも以下がある。
クオリア恵比寿パークフロント(第eHo.05.A-327-11号(平成17年4月28日付)、第eHo.05.A-0032700V-11号(平成17年7月22日付) )
湘南袖ヶ浜レジデンス(eHo.05A-00130400V-02号(平成17年8月12日付)、eHo.05A-00130500V-02号(平成17年8月12日付))
アルス桜上水(eho.04.A-5536-01号(平成17年1月28日付))
クオリア桜新町(eHo.04.A-3574-02号)
南大沢レジデンス(eHo.05.A-00972300-01)
アルス東陽町(eHo第A-289変2号)

東急リゾートが販売代理のレアージュ箱根湯本もイーホームズ確認物件である(eHo.05.A-673-31(平成17年6月3日付))。

日本ERIの建築確認物件には(仮称)西大津マンションプロジェクトがある。建築確認番号は第ERI05026243号(平成17年8月4日)、計画変更確認番号は第ERI05036852号(平成17年10月21日)。分譲戸建住宅では東急あすみが丘東がある(第ERI04041720号、平成16年12月17日)。

東急ホーム、イーホームズに多数の建築確認依頼

東急ホームはイーホームズに建築確認を多数依頼していることをプレスリリースで自認する。「イーホームズ(株)については、多くのお客様の建築確認を依頼しております」(東急ホーム株式会社「イーホームズ株式会社(建築基準法に基づく指定確認検査機関)による建築確認に関するお問い合わせについて」2005年11月28日)。

東急コミュニティーと田中テル也構造計画研究所

株式会社東急コミュニティーは耐震強度偽装物件「セントレジアス鶴見」の構造設計を行った株式会社田中テル也構造計画研究所(田中瑛也取締役会長)と接点がある。セントレジアス鶴見はヒューザーが売主、木村建設が施工を担当した非姉歯の偽装物件である。

東急コミュニティーは田中テル也構造計画研究所が構造設計を担当した新築マンションの管理会社を予定する。マンションはピュア・アクア大森(東京都大田区大森本町一丁目)、プラーティノ南大井(東京都品川区南大井1丁目)である。両マンションでは醍醐建設(代表取締役田中常雅)、ハウジングマスター(代表取締役磯本健一)、田中テル也構造計画研究所、東急コミュニティーが共通する。

ピュア・アクア大森は株式会社ファースト・プランニングが売主、株式会社ハウジングマスターが企画・販売代理、株式会社松山建築設計室が設計・監理、醍醐建設株式会社が施工を担当する。

プラーティノ南大井は醍醐建設株式会社が事業主・施工、株式会社ハウジングマスターが事業主・企画・販売を担当する。設計・監理は株式会社下河辺建築設計事務所(下河辺隆夫代表取締役)が担当したが、耐震強度偽装事件発覚後に株式会社アリエル都市研究所に変更された。アリエル都市研究所は醍醐建設のグループ企業である。

下河辺建築設計事務所は姉歯秀次元一級建築士が構造計算書を偽装した物件(グランドステージ船橋海神、グランドステージ東陽町)の元請け設計者である。2006年2月9日付けで東京都から設計事務所の登録を取り消された。

下河辺建築設計事務所は偽装事件発覚後に以下の弁明をWebサイトに掲載した。「構造計算書の偽造を見抜くには、大規模な建築設計事務所であれば構造設計専門スタッフを加える事で、チェック機能をより密に出来たかもしれませんが、小規模建築設計事務所では担当構造設計事務所を信頼し、加えて行政機関等を信頼するしかございませんでした」(「姉歯建築設計事務所による構造計算書偽造について」2005年11月24日)。下請に丸投げし、元請け設計者としての責任を果たしていなかったことを自認している。

東急コミュニティーとアトラス設計

東急コミュニティーが管理会社として指定されている「パレ武蔵浦和ヒューマンスクエア」(埼玉県戸田市)の構造設計は有限会社アトラス設計(渡辺朋幸代表)が担当した。アトラス設計の渡辺朋幸代表は株式会社下河辺建築設計事務所(代表取締役・下河辺隆夫)の下請として、株式会社ヒューザー(小嶋進社長)物件「グランドステージ川崎」の構造設計を手がけている。

偽装物件に電鉄系ホテルが集中

構造計算書偽装物件には電鉄系のホテルが集中している(ex.京王プレッソイン茅場町、京王プレッソイン五反田、京王プレッソイン池袋、京王プレッソイン東銀座、名鉄イン刈谷)。

京王プレッソインではコンサルタント会社「総合経営研究所」の指導を受けていたことが判明している。構造設計は姉歯建設設計、設計は平成設計、施工ははるばる熊本に本社を置く木村建設と、何れも実績も知名度もない各社が担当した。検査機関はイーホームズである。このため、偽装の背後に京王電鉄グループとの癒着を疑う指摘がなされた(山岡俊介「耐震偽造問題ーー京王電鉄グループと総研との間に癒着はなかったのか?」ストレイ・ドッグ2005年12月2日)。

鉄道業界は同業者間の競争は少なく、悪しき慣行も含め、横並び意識が強い。東急電鉄、京成電鉄、小田急電鉄、京浜急行電鉄、京王電鉄が揃って元暴力団幹部で右翼団体幹部の関係するゴルフ場・宅地開発会社「酒々井開発」に出資していたことが判明している(「OLC出資の右翼関連企業、私鉄大手5社も出資」読売新聞2005年6月20日)。

耐震偽装事件に対する東急不動産の粗末な対応

耐震強度偽装事件に対する東急不動産の対応は粗末である。東急不動産は分譲したマンション「アルス」(江東区)について、構造計算の再計算を実施するつもりはないと管理組合に表明した。

東急不動産も含めた大手不動産各社はマスメディアに対しては自主点検を実施すると表明した(「大手、99年以降のマンション数千棟自主点検へ」朝日新聞2005年12月11日)。しかし肝心の点検内容においては構造再計算を行わず、東急不動産と他社とでは大きく異なることが判明した。

マスメディア向けには都合の良いことを発表し、実際は履行しない。構造計算再計算を実施しない東急不動産の「自主点検」は居住者の不安を完全に解消するものではない。入念な再チェックがなされない点は物件の価値にも反映するが、一切の責任は東急不動産にある。

東急不動産の不誠実な姿勢

耐震強度偽装事件発覚後、デベロッパー各社は自社物件の構造再確認実施を表明したが、東急不動産の姿勢は同業他社に比較して群を抜いて不誠実である。ルポライターの泉あい氏はデベロッパー各社に質問状を送付した。質問内容は以下の通りである。
1.偽造問題発覚後、貴社内で耐震構造の再確認はなさっていますか。
2.なさっているのでしたら、具体的にどの様な方法で行われているのですか。
3.再確認の結果、問題点は見つかりましたか。あればどのようなことかも教えてください。
4.問題点があった場合、貴社者内で具体的にどのように是正するのですか。

これに対する東急不動産の回答は群を抜いて不誠実であった。回答内容は以下の通りである。事実上の回答拒否に等しい。
1.再確認しています。
2.現時点ではお答えできません。
3.現時点ではお答えできません。
4.現時点ではお答えできません。

他社回答と比較すると東急不動産の不誠実さが良く分かる。
● 三井不動産株式会社
1.当社では、信頼できる建設会社、設計会社に設計・施工を依頼し、また、当社技術スタッフが品質管理、施工管理を行っており、耐震性能を含めた品質について充分に信頼に足るものだと考えています。しかしながら、今回の耐震強度偽造問題を受けて、お客様から安全性についてお問い合わせをいただいていることもあり、お客様のご不安をやわらげるため、民間機関に建築確認審査が開放された平成11年5月以降に民間機関で建築確認を取得した物件を対象に、当社技術スタッフによる再チェックや、発注先の建設会社、設計会社に構造関係の再確認の依頼を行っています。
2.上記のとおり、構造図面や構造計算書の確認などを行っています。
3.現在、上記1のとおり、再確認中ですが、現在のところ、特に問題となるようなことは見つかっておりません。
4.当社では、従来より、信頼できる建設会社、設計会社に、設計・施工を依頼するとともに、当社技術スタッフが品質管理、施工管理を行っております。今後とも、法令関係の遵守はもとより、当社独自の品質管理体制によるチェック等、品質管理に万全を期し、お客様に安心して暮らしていただける住まいづくりに努めて参ります。なお、万一の場合においても、品質については、当社が売主として責任を持って対応させていただく所存です。

● 三菱地所株式会社
1.行っている。
2.当社が分譲を行ったマンションについては、各設計委託先より、適正な構造計算に基づく設計であることの確認を得ている。
また、今般、建築確認業務が民間検査機関に開放された1999年5月4日(改正基準法施行)以降に民間検査機関において建築確認を取得し、当社が単独もしくは幹事会社として分譲を行ったマンションを対象に構造計算に係る再調査を行う。
3.見つかっていない。
4.仮定の質問にはお答えできない。

泉あい「デベロッパーへの質問状を〜回答」Grip Blog 2006年3月26日

東急不動産、構造再計算を拒否

東急不動産が新築分譲したマンション「アルス」への東急不動産の対応も粗末の一語に尽きる。アルス管理組合が東急不動産から最初の連絡を受けたのは偽装公表から一月後の2005年12月14日である(東急不動産「「アルス」構造設計について(お知らせ)」2006年12月5日)。

文書の宛先は「管理組合御中」となっていたが、管理会社の東急コミュニティーに送付されていた。そのため、東急コミュニティー経由で文書を受け取った。文書に作成日付は2006年12月5日となるが、間に東急コミュニティーが入ったため、管理組合の受領は遅れた。

文書中では姉歯建築設計事務所とは関係ないと記載する。しかし総合経営研究所、木村建設との取引有無は明らかにしていない。また、「イーホームズ株式会社にて建築確認を取得しております。よりご安心いただくため第三者機関による再チェックをいたします」と記載する。しかし東急不動産の文書は管理組合及び居住者を安心させるものではなかった。

第一に東急不動産は再チェックの内容を全く説明していない。ただ単に漫然と形式的な再チェックを行えば安心できるというものではない。実際、耐震強度偽装事件では再検査によって一度は「偽装なし」と報告された物件が再々検査で偽装物件と訂正されるケースが相次いでいる(長谷川豊「[耐震偽造]自治体再調査、一転「偽造あり」次々」毎日新聞2005年12月8日)。

アルスと同じ江東区にあるヒューザー物件「グランドステージ東陽町」は当初は「偽装なし」とされていたが、2006年1月30日に構造図からの再計算で耐震強度の不足が判明した(「<耐震偽造>姉歯氏物件が97件に 東京・江東区」毎日新聞2006年1月30日)。従って再検査の質は重要な問題である。

第二に何時までに再チェック結果を明らかにするかも書いていない。期限を定めないならば居住者は何時までも不安定な状況に置かれる。被告のやり方は居住者に安心を与えるのではなく、不安を与えるだけである。

そのため、アルス管理組合は2006年2月13日に「耐震強度偽装事件その他の件についての質問状」を東急不動産宛に東急コミュニティー経由で送付した。2月19日にも再送付した。東急不動産の回答は2月24日付けになされた。管理組合は東急コミュニティー経由で2月26日に受け取った。回答では「弊社では構造の再計算を行うつもりはありません」と記述する。

再計算をしなければ単純に書式のチェックしかしなくても「再チェック」と称することができる。書類のチェックだけで偽装なしと報告したが、実は偽装物件であったというケースは少なくない。

東急グループの世紀東急工業株式会社が建築主で施工したアーバン武蔵小金井もそのような偽装物件の一つである。世紀東急工業は当初、目視による検査で「問題なし」としていた(篠原匡「ファンドが姉歯に怯える理由−巧妙な偽装が不動産の市場心理冷やす」日経ビジネス2006年01月2日号)。構造計算プログラムに実際の数値を打ち込み計算したことにより、偽装の事実が判明した。

東急不動産の対応は他の不動産業者とは対照的である。多くの不動産業者では自社物件について構造計算書の再検査を実施している。他の業者では真剣な再検査により、強度偽装が判明した例もある。東急不動産の再検査では期待できないことである。

住友不動産は構造計算書偽造事件を受け、1999年4月以降に自社が手がけた分譲マンション約400棟の構造計算の再検査を第三者の設計者等に依頼している(「「耐震性に疑問」住友不動産がマンション2棟の販売中止」マンション新時代(日経BP社)2006年3月8日)。その結果、「シティハウス福住公園通」、「パークスクエア発寒駅前メイプルサイド」の耐震強度に疑問が生じたことが判明した(「住友不動産が2棟分譲中止 札幌で耐震強度に疑問」共同通信2006年3月5日)。

北海道電力のグループ会社「北電興業」(札幌市)は札幌市中央区に建設した賃貸マンション2棟で、耐震強度に疑問が生じたとして、入居者に説明するとともに、入居予定者とは解約手続きをとった(「札幌で新たに2棟強度不安 北電系の賃貸マンション」共同通信2006年3月6日)。問題の物件は「エナコート大通22」(9階建て、23戸)と「エナコート山鼻」(10階建て、30戸)である。

特定行政庁も構造計算書の再計算を安全宣言の根拠としている。長野県では過去三年間に県が建築確認した三階以上の全物件を再計算し、安全性を確認した(「県が建築確認の物件耐震再計算 全274件「安全確認」」信濃毎日新聞2006年3月8日)。

東急不動産回答(2006年2月24日)は、管理組合の期限についての質問に対し、不誠実にも一切の回答をしていない。半年近く経過した2006年6月11日現在においても何の経過報告もない。どこの団体に再検査を依頼したのかすら明らかにせず、実際に再検査を依頼したのかさえ怪しいものである。

東急不動産の不可解な要求

東急不動産回答(2006年2月24日)には不可解な箇所が存在する。以下のように記述する。「再確認の正確を期するために確認通知書(副本)の貸し出しをお願いしておりました。しかしながら、貴管理組合のご事情は分かりませんが、いまだに貸し出しの承認はいただいておりません」。東急不動産回答では管理組合が依頼に対応していないと非難するかの如くである。

しかし、管理組合は東急不動産から確認通知書(副本)の貸し出し依頼を受けたことはない。「アルス構造設計について(お知らせ)」には確認通知書(副本)の貸し出しについて一言も言及されていない。管理組合が依頼されていない要求に応じないのは太陽が東から昇るのと同程度に自明である。

後日、東急コミュニティー担当者・積田一志は東急コミュニティー宛に貸し出し依頼文書が来ていたと明かした。「東急不動産は確認通知書に挟まっている差入書を求めていた」と説明する。建設中に現場で修正が行われると、修正内容を差入書という形でまとめて、挟み込む。それは現場にしか保管していない。管理組合保管の書類を借り、差入書が挟まっているか否かを確認した上でコピーを求める趣旨であったと説明した(2006年2月26日)。

東急不動産のマンションに対する杜撰さには驚きを禁じえない。第一に構造に影響を与えるような修正を現場判断で行っていることが判明した。耐震強度偽装物件「グランドステージ藤沢」と同じである。グランドステージ藤沢では構造図と、現場用の施工図に食い違いがあることが判明している(「施工図の強度、構造図より劣る 耐震偽造のマンション」朝日新聞2005年12月22日)。現場用の施工図は姉歯秀次元建築士が作成した構造図以上に軟弱なもので、木村建設は手抜き工事によりコスト削減を行った。東急不動産の説明では同種のことがアルスでも行われた可能性がある。

第二にアルスではまともに工事監理をしていないことが判明した。差入図が現場にしかなく、実際に確認しなければ分からないということは設計監理を担当した株式会社SHOW建築設計事務所が現場監理を怠っていたことになる。本来ならば施工者が設計図書通りに施工しているかを工事監理者が日々の進行に合わせて照合・確認しなければならない。造られる過程を記録していてこそ、マンションは社会の優良なストックとなることができる。

東急不動産、半年後に結果通知

東急不動産からアルスの構造再チェック結果が住民に通知されたのは半年後の2006年7月10日である。半年後に通知することに、どれほどの意味があるのだろうか。

東急不動産は民間検査機関の株式会社国際確認検査センター(山田耕蔵代表取締役)に依頼したとし、国際確認検査センターが東急不動産に宛てた検討書が添付されていた。検討書の作成日付は6月24日であるが、住民への通知は7月10日である。半月程度、国際確認センターの調査結果が東急不動産の中で眠っていたことになる。東急不動産の仕事の進め方は亀よりも遅い。

東急不動産の文面では「マンションの構造設計に関する第三者機関による再検査」とするが、国際確認検査センターが行ったことは「検討書」とある通り、検討に過ぎない。羊頭狗肉の類である。

株式会社国際確認検査センター

株式会社国際確認検査センター(山田耕蔵代表取締役)は2005年12月9日に国土交通省の立ち入り検査を受けた民間検査機関の一社である(「6都府県、6社立ち入りへ」東京新聞2005年12月9日)。立ち入り検査は耐震強度偽装問題で民間機関の検査業務の実態を確認するために行われた。

国際確認検査センターと同じ日に立ち入り検査を受けた機関に株式会社東日本住宅評価センター(奥沢泰一社長)がある。東日本住宅評価センターは「グランドステージ船橋海神」の偽装を見逃した。2005年10月28日にイーホームズから「構造計算書が偽造されているのではないか」と連絡があった。担当者2人が確認したが、改竄を見つけられず、上司にも報告しなかった。11月11日に国交省に同マンションの申請図面のコピーを提出し、同省の指摘で偽造を確認した(「東日本住宅評価センターも耐震強度偽装見逃し」日本経済新聞2005年12月2日)。

国際確認検査センターは湘南袖ヶ浜レジデンスの建築確認済証交付者である。湘南袖ヶ浜レジデンスは東急不動産らの新築マンションで、当初はイーホームズが建築確認を下ろした。その後、東急不動産らは国際確認検査センターに計画変更確認申請を出した。近隣住民が平塚市建築指導課に確認したところ、湘南袖ヶ浜レジデンス構造設計書の数値に疑義があり、返却したとのことである(2006年3月6日)。

東急不動産物件(イーホームズ建築確認)の問題

東急不動産が2003年に分譲したマンション「アルス」(東京都江東区)の構造計算下請業者は不明である。誰が構造計算をしているかは消費者には見えない。構造計算書は株式会社昇建築設計事務所・武内久一級建築士名義で作成されている。しかし建築確認申請書には、設計を総括する建築士の名前は記入されているが、実際に構造設計を担った建築士は記載されない。姉歯建築設計事務所の名が取引実績になくても偽造の疑いはある。

一般に下請業者を使用したとしても元請けの設計者名義で作成される。そのため、実際に作成したのは下請け業者である可能性はある。名義だけ貸して、工事監理に行かない設計事務所も多い。意匠専門で東京都江東区に事務所を構える井本雄・一級建築士は、意匠の専門家にはチェックのノウハウがないことが多く、「計算内容までは見ない」という(根本太一「耐震偽造 1級建築士、その実態 分業進み収入格差」毎日新聞2005年12月7日)。

管理組合向けのマニュアルにも「構造計算については外部委託されている場合があるので、管理組合等で保管している構造計算書に記載されている設計者名が該当する者でなくても、念のため問い合わせることをお奨めします」と記載されている((財)マンション管理センター、(社)高層住宅管理業協会、マンション管理士団体連絡会「ご自分のマンションの耐震性を確認したいマンション管理組合の皆様へ」2005年12月2日)。

居住者が販売会社・東急リバブルに下請業者を確認した(2005年11月18日)。しかし一ヶ月近く経過しても回答はなされていない。東急不動産からも同じく何の連絡もない(2005年12月12日現在)。東急リバブルや東急不動産が何かを隠していることは既にヒシヒシと伝わってくる。それが何なのか、鳥肌が立つ。すごい騒ぎになる気がする。

マンションによっては、不動産会社や管理会社から住民に事件との無関係性を即座に告知してきたところもある。このようなところで企業のリスクマネジメント力が問われている。東急不動産はWebサイト上では「姉歯とは一切関係なし」との「死に物狂いの否定文書」を掲示している(「ゼネコン、不動産業界の潔白宣言」日刊ゲンダイ2005年12月9日)。

株式会社昇建築設計事務所の嘘

居住者が江東区建築課構造係に電話して相談したところ、「構造計算書の名義が姉歯建築設計事務所でなくても、姉歯建築設計事務所が作成した可能性はある」とし、設計業者に直接確認することを助言された(2005年11月25日)。

株式会社昇建築設計事務所(03-3811-8981)に電話し、アルスの下請業者について問い合わせた(2005年11月25日)。最初は「下請業者は使用していない」と否定した。監理報告書の構造設計担当に有限会社アトラス設計(渡辺朋幸)の名前があることを指摘すると、「意匠は自社だが、構造はアトラス設計が担当した」と改めた。昇建築設計事務所が発注者としてアトラス設計を下請業者として使用したことも認めた。即ち最初の回答は誤りだったことになる。アトラス設計以外の下請業者及び孫請業者の有無については不明のままである。

東急リバブルや東急不動産が、有限会社アトラス設計(渡辺朋幸)がアルスの構造設計をしたことを隠したいと考えていることは十分に伝わった。しかし設計者を選択した責任は建築主にある。被告は康和地所から一切の権利義務を承継している。アトラス設計が構造設計を行ったことによる不利益は有形無形に関わらず、被告が全て負うべきものである。

東急リバブル問い合わせ内容(2005年11月18日)
アルスの設計下請業者について問い合わせ
アルスの設計業者について問い合わせます。私は2003年6月に貴社の販売代理でアルスの売買契約を締結しました。
アルスの設計・監理(元請)はSHOW建築設計事務所ですが、確認したいのは下請け業者です。ご存知の通り、下請の建築設計事務所が構造計算書を偽装した事件があり、ホテルが営業中止になるなど大きな影響を及ぼしています。偽装建物は21件が判明していますが、全ての建物名までは明らかにされていません。また、21件というのも現在、判明している限りです。一方、偽装物件21件中20件の建築確認を代行したのはアルスの建築確認検査機関であるイーホームズ株式会社であることが判明しています。
そのため、アルスの設計・監理の下請け業者名についてご回答お願いします。
もし御社で把握していないのでしたら、施工業者への確認をお願いいたします。
ご回答は、他の入居者にも見せたいので、できましたならば文書でお願いします。
また、お願いばかりで恐縮ですが、10月9日、10月15日、10月22日、10月30日、11月3日、11月5日、11月13日と問い合わせさせていただいている別件のアスベスト使用の件についてもご回答お願いします。

東急リバブル、販売マンションの下請設計業者を回答せず

アルス監理業者の謎

アルスで工事監理が適切になされたかを疑う事情が存在する。SHOW建築設計事務所が監理を全うしたかは疑わしい。

第一に検査機関に提出した工事監理報告書を施工会社ピーエス三菱の現場責任者が作成した(イーホームズ株式会社宛「建築基準法第12条第3項の規定に基づく工事管理報告書」2003年9月4日)。報告者は株式会社ピーエス三菱の山下洋史・東京建築支店工事第二部所長となっている。施工会社が監理を報告したことになる。監理のいい加減さを物語るものである。

第二に関係文書では監理者を空欄とするものがある。販売時の図面集ではアルスの監理を株式会社SHOW建築設計事務所が担当したと明記する(甲第16号証最終頁)。しかし、管理会社の株式会社東急コミュニティーがアルス管理組合のために作成した建物診断結果報告書(東京東支店技術チーム・池田誓志、櫻井義勝)では「建物概要」において監理者を空欄とする(株式会社東急コミュニティー「建物状況と修繕等のご提案」2006年2月6日5頁)。

この点についてアルス管理組合役員が作成者の池田誓志マネージャーに確認したところ、「一般的には設計者が監理を兼ねることがあるが、詳細は不明なため、調査の上、回答する」とのことであった(2006年5月28日)。

しかし回答がなされなかったため、管理組合役員が東急コミュニティーに再問い合わせした。池田誓志マネージャーは「監理業者ですが、確認したところ株式会社デザイン・クルーでした」と回答した(2006年7月3日)。この回答は電子メールでなされた。メールのCCには以下の東急コミュニティー従業員が含まれていた(仲田浩史・常務執行役員兼首都圏第二事業部長、大曲孝二・東京東支店長、益岡正浩、白樫信祐、片峯雄志、野口裕一、島崎敢志)。事業部長や支店長をCCに含めているため、いい加減な回答ではないと判断できる。

ところが、7月8日に池田誓志マネージャーは監理業者を株式会社SHOW建築設計事務所と訂正し、回答内容が変わった。名目上の監理業者が株式会社SHOW建築設計事務所であることは建築確認関係書類からうかがえるが、実際に監理をしていたかは大いに疑わしい。

工事監理の重要性

工事監理(「管理」ではない)は、設計した内容が実際に施工されているかを検査・確認する行為である。施工者と工事監理者のダブルチェック機能が成立してこそ正常に施工品質が保たれる。工事監理がなされていない現場では品質よりも工期短縮を優先することは火を見るより明らかである。「「監理」が行われているかいないかが、欠陥住宅発生の重要なポイントである」(中村幸安、建築Gメンが暴く!!欠陥住宅59の手口、日本文芸社、2004年、93頁)。

日本では監理に対する建築士の職業的意識は希薄である。そもそも設計監理と一つにしてしまうこと自体が日本の後進性を物語る。設計と監理は全く別物である。その意識が持てない自称建築家が担当する限り、日本の建築は良くならない。名義だけ貸して、工事監理に行かない設計事務所も多いと指摘される。一回も現場に行く気がないのに確認申請書の工事監理者の欄に名前だけを貸して記入させる建築士もいる。

「責任を持って設計・監理を行わなければならない肝心の建築士が、建築基準法の条文の主旨を理解しておらず、工事監理者でありながら工事現場に一回も行かないことが多いことも事実だ」(中村幸安、建築Gメンが暴く!!欠陥住宅59の手口、日本文芸社、2004年、75頁)。

「ほとんど現場に行かず、電話や施工者に提出させる写真を見るだけで済ませる、というような不誠実な監理もまかり通っています」(河合敏男『「欠陥」住宅は、なぜつくられるのか』岩波ブックレット、2006年、43頁)。

建築Gメンの会によるアンケート結果によると、欠陥住宅の主たる原因の第一位が「工事監理ができていないから」(30.0%)である。第二位は「設計図書が不備だから」(19.2%)である(中村幸安、建築Gメンが暴く!!欠陥住宅59の手口、日本文芸社、2004年、168頁)。両方ともアルスに当てはまる。

東急不動産のマンションで竣工図書と実物が齟齬

東急不動産のマンション「アルス」は竣工図と実物に齟齬が見られる。事業主・東急不動産、施工・ピーエス三菱、設計・昇建築設計事務所、検査機関・イーホームズの杜撰さを示している。仮に構造計算がしっかり出来ていても、その通りの施工をしなければ無意味である。建築確認申請書通り施工せず、手抜き工事をすれば、いくらでもコストが削減できてしまう。設計士と施工会社の馴れ合いも指摘されている。

竣工図書は「網入型板ガラス(Dタイプ:2F洋室)×1、網入透明ガラス×6」と記述する(株式会社SHOW建築設計事務所「建具表-2」2003年1月31日)。これによれば、網入型板ガラスは二階だけなので一枚、網入透明ガラスは六枚となる。二階以外の三階、四階、五階、六階、七階、八階の各居室で六枚である。しかし、実際は二階と三階が網入型板ガラスで、四階以上が網入透明ガラスである。

また、竣工図では洋室の三つの窓の大きさは全て同じである。しかし、実際に測定すると幅に差異がある。西側の窓は幅51cmであるのに対し、真中の窓は幅50cm、東側の窓は幅51.5cmと区々である。角度にして僅か一度の誤差が先へ進むことにより巨大なズレになることもある。

建築の世界には「神はディテールに宿る」という有名な言葉がある。建物を企画し設計した人のセンスは細部にこそ現れる。残念ながら東急不動産のマンションは神も仏もいないような、思いの欠片も感じられない投げやりな物件である。

図面の管理及び実物との総合は非常に重要な問題である。マイクロソフトの三村嘉徳・ゼネラルビジネス本部新規ビジネス開発部地場中小建設業担当課長は以下の指摘をする。「原本管理がきちんと行われていないことが耐震強度の偽装や改ざんの一因にもなっている」(「中小建設業、電子納入に向けた最大の課題は「PCの汎用スキル」」ITmediaエンタープライズ2006年1月11日)。

東急アメニックス対応せず

竣工図書と実物に齟齬がある点について、居住者はアフターサービスを担当する株式会社東急アメニックス[email protected]に正しい仕様(図面)の提示を求めたが、何ら回答はなされなかった。

2005年7月18日
東急アメニックス御中

はじめまして。××と申します。
2003年9月に東急不動産から引渡しを受けた
アルスの所有者です。
アフターサービスに関して問い合わせ致します。
301号室の、図面集で洋室1とされる6畳の部屋について問い合わせします。
この部屋には窓が3つあります。3つの窓は一見、ほとんど同じ大きさに見えますが、窓の幅を測定したところ、不審点がありました。木枠の内側から内側までを測りました。
・西側の窓 幅51cm
・真中の窓 幅50cm
・東側の窓 幅51.5cm
以上のように幅が区々になっています。
これはアルスの設計仕様通りのものでしょうか?
窓のサイズの仕様についてご教示いただきたく、存じます。
ご多忙のところ、恐縮ではございますが、ご回答のほど宜しくお願いします。

2005年7月31日
東急アメニックス御中

お世話になります。
下記件で問い合わせさせていただいた××と申します。
下記件につきましては7月26日に東急不動産カスタマーセンター様(注:東急不動産カスタマーセンター中高層住宅チーム・大山浩を指す)より一番東側の窓が1cm長いのは、外部にタイルを貼り付ける際に、外観を綺麗にするためで、それが正しい仕様であるとのご回答をいただきました。
それに対し、私からは「こちらの持っている図面とは異なり、図面の誤りということになるので正しい図面のコピーを送付いただきたい」と依頼しました。ご担当者様はカスタマーセンターなので判断できず、確認の上、回答するとのことでしたが、未だ回答がありません。ご対応宜しく致します。

東急不動産のマンションで構造上の疑問

東急不動産のマンション「アルス」では二階から七階まで全て同じ構造である。部屋の面積も同じである。設計図書の平面図でも二階から七階までは同内容として一枚の平面図で済ませている(株式会社SHOW建築設計事務所「平面図-3」2002年12月9日)。アルスの設計は株式会社昇建築設計事務所であるが、構造設計は有限会社アトラス設計(東京都渋谷区)の渡辺朋幸代表が担当した。施工はピーエス三菱である。

国土交通省が最初に発表した偽装物件21棟は、最上階から一階までの柱の鉄筋の本数が同じであった。これは異常な構造とされる。通常、建物への負荷が大きい低層階ほど柱は太くなり、鉄筋が多くなるためである。高層建築物には、地震などによってさまざまな外力がかかる。外側に引っ張る力、内側に圧縮しようとする力である。

外力で柱や壁が崩壊するのを防ぐ重要な資材が鉄筋である。下の方が上の荷重(重さ)を支えるわけであり、多くないといけないことは容易に理解できる。しかし、各階の形状を均一にすれば、施工が容易で工期も短くなる(「「姉歯」21棟、異常な構造…全階で鉄筋数変えず」読売新聞2005年12月19日)。

アルスは一階がエントランス及び駐車場である。「広いエントランスやコンクリートで囲まれた階段室、一階あるいは地下のコンクリートで囲まれた駐車場などは音が反響して躯体に伝わりやすい」(河北義則『3年間、家を買うのはやめなさい!』ダイヤモンド社、1999年、214頁)。

東急不動産、虚偽内容で住宅性能評価申請

東急不動産がイーホームズに申請したアルスの住宅性能評価申請書には虚偽内容が含まれていることが判明した。虚偽内容が含まれるのは住宅性能評価申請書中の株式会社SHOW建築設計事務所「採光・換気チェック表」である。

採光・換気チェック表では住戸の間取りタイプ別に採光有効面積・換気有効面積の計算がなされている。しかし、アルスに実際に存在するLD、洋室1、洋室2の間取りについては全く記述されていない。逆に「採光・換気チェック表」に記載されているるLD、洋室、和室の間取りは実物には存在しない。

この事実は東急不動産消費者契約法違反(アルス)訴訟(平成17年(ワ)3018、東京地裁)において明らかになった。東急不動産住宅事業本部プロジェクト事業部・関口冬樹が証人尋問で証言した(2006年2月8日)。関口冬樹の証人尋問では以下のやり取りがなされた(関口冬樹証人調書20頁)。

原告「先程、主尋問で甲第22号証(採光・換気チェック表)について、Dタイプというのが今回問題になっている私の住戸と同じものでそれについて説明されましたが、このDタイプというのは、今私の本件で問題になっているアルス301号室で間違いありませんか」
関口冬樹「はい」
原告「ここによりますと、LD、和室、洋室となっています。私が住んでいる限り洋室は2つありますけど和室というものはございませんが、これがDタイプで、これを民間の指定確認機関であるイーホームズに申請されたということになりますけど、実際和室はないんですけど、これがそれを申請されたということで問題ありませんか」
関口「はい、それを申請しております」
原告「これは実際の現物に和室がないのは問題ではないんですか」
関口「私どもの販売の方法として2パターンプランをつくって、お客様に選んでいただくという方法をとっています。セレクトプランと俗に言ってるものなんですが、和室タイプありのものと和室タイプなしのもの、ある時期が来ると竣工に間に合わせるためにプランを固めなければいけないと、その過程の中でたまたま301号室については洋室、洋室になったというふうな経緯であるというふうにとらえていますので、これは和室で申請させていただいたということで間違いありません」
原告「それは私がセレクトしたということですか」
関口「いや、もう原告さんが契約されたときにはもう6月だったんで、プランのほうは我々事業者のほうで決めさせていただいていると」
裁判官「中には和室の方もおられたんですか。早ければ和室にもできたの」
関口「早ければ和室を選んだ人もいらっしゃるということです」
原告「LD、洋室、洋室というのがDタイプにもう一つプランがあるのでしたら、そちらの間取りの方がここに一覧に出てくるのではないですか」
関口「窓の大きさは変えていないというふうに記憶していますので、窓の大きさ自体はこの数値から変わるものではないというふうに認識しています」
原告「ここは和室または洋室になるんではないですか」
関口「そうですね」
原告「そうじゃなくて和室として申請して、イーホームズは報道されているように余り調査していないようなんですが。間違った間取りでこの窓の面積、採光がどうなっているかとなると、全然前提が変わりますので」
関口「窓の面積は変わっていません。表記上はその面積だと思いますけれどね」

関口は最初から和室と洋室の2パターン用意していたと証言する。それにもかかわらず、住宅性能評価申請では和室の間取りプランしか申請していない。住宅性能評価申請のチェック対象から意図的に抜いたことになる。チェック対象が少なければ審査も通りやすくなることは自明の理である。アルスの住宅性能評価には問題がある。

関口冬樹は「間取りプランが異なっても窓の面積は変わらない」と強弁するが、住宅性能評価申請の意味を無視する理屈である。自己の住戸についてチェックされていなければ、住宅性能評価を取得していようと意味がない。

セレクトプランについては東急不動産Webサイトで以下のように説明されている。「当社マンションにもセレクトプランのシステムはございます。通常のセレクトプランでは、3LDKの和室に面するLDをひろげて2LDKにするといったあらかじめ決められた2つ程度のプランを選択するだけで、それ以外の変更はできません」(東急不動産「提案します!マンション選びの新発想」)。

イーホームズ、検査日当日に検査済証交付

民間検査機関「イーホームズ株式会社」はほとんど検査をしておらず、検査日当日に検査済証を発行するのが恒例となっていると指摘される。実際、イーホームズが建築確認を代行したマンション「アルス」(東京都江東区)では中間検査、完了検査において全て検査日当日に中間検査合格証及び検査済証を発行している。

本来、建築物に関しては、設計段階で建築確認がなされ、その後の施工段階で中間検査、完成後に完了検査が行われる。中間検査とは工事段階での検査であり、最低でも一回は実行される。工事の金額や規模によっては複数回の検査が行われる。工事の規模によっては中間検査は書類の検査だけでも数日かかる。現場の検査も二週間近くを要する。検査担当者が要所要所の検査を行い、建設材料が搬入されるその都度、強度や耐性をチェックする。場合によっては工場まで出向いて建材の検査を行うこともある。

しかし、イーホームズにおいては名目だけの形式的な検査であったことをうかがわせる。「完了検査の際、建物内に入らず、外観だけ見て検査済証を交付した担当者もいた」と話す検査員もいる(「民間検査、甘い実態…「早く通すところが繁盛」」読売新聞2005年11月24日)。どこまでキチンと調べたのか疑わしい。時間をかけて調査しなければならない項目が、不十分な調査で終わっていることも考えられる。

アルスは2003年9月竣工、8階建て27戸のマンションである(事業主・東急不動産株式会社、施工・株式会社ピーエス三菱、設計監理・株式会社昇建築設計事務所、株式会社SHOW建築設計事務所とも表現する)。

アルスの建築確認は康和地所株式会社により、民間検査機関「イーホームズ株式会社」(東京都新宿区、代表取締役藤田東吾)によってなされた。建築確認申請は2002年8月になされた(eHo第A-289号)。手続は康和地所から委任を受けた株式会社SHOW建築設計事務所・武内久が実施した。委任状の日付は2002年7月24日となっている。

建築確認番号は度重なる設計変更により三回も出されている。
eHo第A-289号、2002年8月12日付
eHo第A-289変号、2002年12月3日付
eHo第A-289変2号、2003年2月21日付
eHo第A-289号の確認検査員は佐藤忠である。eHo第A-289変2号の確認検査員は佐々木和彦である(イーホームズ株式会社作成、東急不動産宛「建築基準法第6条の2第1項の規定による確認済証」2003年2月21日)。設計住宅性能評価もイーホームズが実施した。建設住宅性能評価は取得していない。

耐震強度偽装との関連で言えば、変更確認を悪用する手口がある。一回目の確認申請ではまともな設計図書を出しておき、設計変更の段階で施工に都合の良いものに差し替える。検査機関はまさかいじってあるとは思わず、チェックが甘くなる。

10月22日、康和地所からイーホームズ株式会社に事業主変更届が出される。変更理由は土地売却、変更期日は10月22日、変更後の建築主は東急不動産株式会社である。

2003年3月14日、イーホームズ株式会社により、中間検査(2003年2月21日付建築確認)が実施される。確認検査員は佐藤忠、補助検査員は高村利昭である。立会者は株式会社SHOW建築設計事務所・名倉敬、山下洋史である。中間検査合格証は検査日当日に発行された(イーホームズ株式会社作成、東急不動産宛「建築基準法第7条の4第3項の規定による中間検査合格証」2003年3月14日)。

9月4日、工事監理報告書がイーホームズに提出される(イーホームズ株式会社宛「建築基準法第12条第3項の規定に基づく工事管理報告書」2003年9月4日)。監理報告書であるが、報告会社は株式会社ピーエス三菱の山下洋史・東京建築支店工事第二部所長となっている。施工会社が監理を報告したことになる。監理のいい加減さを物語るものである。

同日、イーホームズ株式会社により、完了検査が実施される。確認検査員は本島司朗、補助検査員は小山勝宣である。立会者は名倉敬、山下洋史である。確認済証は検査日当日に発行される(イーホームズ株式会社作成、東急不動産宛「建築基準法第7条の2第5項の規定による検査済証」2003年9月4日)。

9月8日、イーホームズ株式会社から東急不動産にエレベータについての「建築基準法第7条の2第5項の規定による検査済証」が交付された。確認検査員は向山賢である。

イーホームズは検査日当日に中間検査合格証や検査済証を交付するが、消防署の検査結果通知書では日付が検査日から約2週間後になっている。検査は2003年9月3日に実施し、通知書の日付は9月16日である(東京消防庁深川消防署長作成、東急不動産宛、検査結果通知書、2003年9月16日)。

杜撰な検査についての証言

イーホームズの検査の杜撰さについては下記の指摘がなされている(「勝谷誠彦の××な日々。」2005年12月04日)。

「日づけが変わるまで作業をしてホテルに戻るべく乗ったのが個人タクシー。私と気づいた運転手が話しかけてきた。「例のマンションで渦中にあるイーホームズね、ようこの車を使うてくれるんですわ」「ほお」「せやけどね、問題になる前からケッタイな会社やなあと思うてた」「どんなんがでっか?」関西弁は人と人の垣根を低くする。まことに取材しやすい言葉である。「検査に行くいうてこの車で何軒か回るんやけどどの現場でも5分か10分待たせといてすぐに戻ってきよる。下手したら目の前で笑いながら話してておしまい。あれのどこが検査なんやろと不思議やったんや」」。

勝谷誠彦の××な日々。

マンションブームの終焉

構造計算書偽造問題は山火事のような勢いで広がっている。今後は連鎖的にデベロッペーに波及していくことが予想される。中堅・中小のデベロッパーに限らない。大手だからといって信用には値しない。今、問題になっている会社だけではなく、今後、続々と発覚していくだろう。実際、新たな役者(総合経営研究所・内河健所長、四ケ所猛チーフコンサルタント、平成設計、アトラス設計・渡辺朋幸代表)が登場している。

耐震強度偽装事件に関して、建設・不動産(マンション関係)業界のリーダーから明確な見解・批判が行われないことも変である。耐震偽装事件を「姉歯問題」として、姉歯秀次元建築士の陰に隠れようとしているかのようである。業界自体何かやましい点があるのではと勘ぐりたくなる。

表向きは皆、他人事のような顔をして報道の嵐が去るのをひたすら待っている。業界では、ひたすら時間が過ぎるのを待っているとの噂も耳にする。身に覚えがある者は「次はオレか?」と怯えているかもしれない。裏では連日、トップを交えて社内会議で悪人探しに必死だろう。一握りの悪徳業者のケースとして「嘆かわしい」「特殊だ」「例外だ」で済まそうと必死だろう。

不動産業界には似たような話が転がっている。建築業界の人による「手抜き工事は至極当然に行われている」との意見はネット上ではよく見受けられる。設計上は問題なくても、施工時点で問題が起こる可能性もある。表面化していないだけで、偽造している業者は他にも存在するだろう。

本当に業界全体の総点検のようなことが実施されたら大変なことになる。大手なら大丈夫、中小は危ないとの見解は短絡的過ぎる。大手デベロッパーでも東急不動産のように雑な商品作りをしているところはある。業者は販売どころではなくなる。第二、第三の姉歯建築士が出てくるかもしれない。「耐震偽造計算をしている設計事務所が一社摘発されると、同じことをしている事務所は最低三十社はある」(「ノミの法則」中国新聞2005年12月9日)。

「姉歯事件は建築業界の倫理観の欠如と確認検査体制の機能不全を浮き彫りにしたが、実はそうした状況は以前から一部で問題視されていた」(谷川博「「放漫建築」許す行政」日経ビジネス2006年1月30日号120頁)。

「甘い汁に群がったのは、いま名前が挙がっている人物だけなのか。元請けの設計者は自殺し、耐震強度を偽装した建築士やマンションの売り主らも「身の危険を感じる」と話したともいう。あまりにも不可解なことが多すぎ、闇の深さを感じさせる」(「耐震偽装の闇」山陰中央新報2005年12月19日)。

消費者マインドの落ち込み

構造計算書偽造事件により、消費者のマンション購入マインドの冷え込みは確実である。消費者はマンション購入を躊躇している。購入見送りやキャンセル続出は必至である。安全基準が示されなければマンションは買えない。長いローンを組んで買う住まいの安全性と資産価値に不安が残る限り、消費者の間にマンションの買い控え現象が広がるのは当然である。

耐震強度偽装事件に抗議し、「向こう三年間マンション購入を控えよう」という消費者の動きもある。金融機関も建築資金や住宅ローンの貸し出しに慎重にならざるを得ない。建築確認番号にERIやehoとあるだけで融資しないということにもなりかねない。

今後の生活を考えれば不動産の購入どころではない。生活に不安を感じている人々は少なくない。所得税の定率減税の縮小・廃止や配偶者特別控除の廃止が決まった。給与所得控除の半減、定扶養控除の廃止、酒税やタバコ税の増税も俎上に上り、消費税の引き上げも囁かれている。官僚は国民への増税には頭が働くが、節税には努力する気配は皆無である。企業業績が上向きになっても、労働者に果実が配分されないと感じている人は多い。原油高がガソリンその他の素材・エネルギー価格などにも影響し、物価上昇の懸念が出てきている。

「マンションは耐震強度偽装問題で、消費者マインドの落ち込みが予想される。1―2カ月の短期間で終息するか長期にわたるかは不透明」(「06産業天気図/雷雨−マンション、耐震偽造問題の影響未知数」日刊工業新聞2006年1月4日)。

「大幅な減税、解決を見ない年金問題、あるいは、耐震強度偽装問題などが、消費者を不安にし、消費を抑制する危険が高い。微妙な消費マインドは、あっという間に、殻に閉じこもる」(「経済気象台」朝日新聞夕刊2006年1月6日)。

三人に一人が住み替え計画を凍結

株式会社ネクストが「マンション耐震強度偽装問題」に関する緊急アンケートを実施したところ(2005年12月2-3日)、三人に一人が住み替え計画を凍結、もしくは控えると回答した(「3人に1人が住み替え凍結、「耐震偽造」影響で ネクスト調べ」住宅新報2005年12月6日)。当然と言えば当然である。

耐震強度偽装問題に関心を持つ人は90.3%に達し、現在の住まいの耐震強度に不安を感じている人は44.3%であった(「マンション住民の4割、耐震性に「不安」 ネット調査」朝日新聞2005年12月13日)。

来年のマンション販売戸数、耐震偽装問題で36%減に

未来予測研究所(東京都港区、米田匠滋所長)は「耐震強度偽装問題によるマンション販売減と経済的損失の予測」と題するリポートをまとめた(2005年12月12日)。それによると2006年の全国のマンション販売戸数は偽装問題の影響で2005年より36%減の10万2400戸にとどまり、販売額にすると1兆9476億円の損失という。

マンション購入予定者が契約を見合わせる動きが広がる可能性があり、2006年のマンション販売は竣工時で平均で80%程度に低下、20%の在庫が発生する可能性がある(「耐震強度偽装問題、06年名目成長率を0.57%程度押し下げも」ロイター2005年12月13日)。2007年以降も建築基準法の厳格な適用などで販売価格が上昇、マンションブームは戻らない可能性が高いと予想する。

建築基準法が改正されても、購入者が安心できる条件に整備されるまでには最低でも半年間はかかると指摘する。対策として、万一問題が発生した場合の資金的な確約を挙げる(「来年のマンション販売戸数、耐震偽装問題で36%減に−未来予測研」日刊工業新聞2005年12月13日)。

不動産経済研究所のアンケート調査によると、全国の大手や中堅の不動産会社のうち約六割が耐震強度偽装問題によりマンション市場に悪影響が出ると予測する(「6割が市場に悪影響予想 主要不動産会社への調査」共同通信2005年12月13日)。

2005年11月の首都圏のマンション発売戸数は、前年同月比2.3%減の7939戸となり、四カ月ぶりに前年割れとなった(不動産経済研究所発表、2005年12月13日)。国土交通省が姉歯秀次元建築士による耐震強度偽装問題を公表したのは11月17日である。

同研究所は以下の指摘をする。「公表後あまり時間が経過しておらず、基本的に(大きい影響は)なかった。ただ長期的に影響はあるかもしれない」(「11月マンション発売減少」共同通2005年12月13日)。「耐震強度偽装事件の余波が広がることで、販売や価格に影響が及ぶ可能性もある」(「ニューススポット」月刊ウェンディ200号、2006年、3頁)。

不動産株下落

業界全体への不信感の高まりは、株価にも大きく影響した。不動産関連銘柄は大きく値を下げている。実力以上に上昇していた不動産株に冷や水を浴びせる結果となった。「姉歯建築設計事務所が構造計算書を偽造していた問題が連日のようにTVの報道番組で大きく報道されると同時にこの偽造問題は氷山の一角のような論調もでてきていることが市場での不動産株への見送りムードを誘っている」(「不動産関連株が安い、構造計算書偽造問題が後を引く」テクノバーン2005年11月24日)。

中堅の賃貸マンション開発会社「リビングコーポレーション」(本社・東京)は12月14日に予定していた東証マザーズへの上場を一時延期すると発表した(2005年12月5日)。投資家の判断を誤らせる懸念があるとして、上場に合わせて予定した新株発行と株式売り出しも当面中止する。国土交通省による調査経過など外部環境を考慮して、改めて上場を目指す(「リビングコーポなど2社、耐震偽装の影響で上場延期」日本経済新聞2005年12月5日)。

耐震強度偽装事件で家宅捜索を受けたシノケンと日本ERIの株価は2005年12月20日午前の東京株式市場でそろって下落した。午前の終値は、日本ERIが前日比4000円安の42万3000円、シノケンは1万6000円安の28万4000円。市場関係者は「家宅捜索で、事件が経営に及ぼす悪影響があらためて認識された」(大手証券)とする(「シノケン、ERI株下落 耐震強度偽装事件で」共同通信2005年12月20日)。

不動産投信、売買手控え

耐震強度偽装事件は不動産投資信託REIT(資金を集めて不動産を購入、賃料や売却益を投資家に分配する金融商品)市場にも影響を与えた。東急系では東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメント株式会社、東急リアル・エステート投資法人がある。

不動産投信市場の先行きに対する不透明感は強まっており、投資家による売買の手控えを懸念する声も上がっている(「不動産投信市場に影響波及=「売買手控え」懸念も−耐震強度偽装問題で」時事通信2005年12月10日)。住居系REITには5%程度下がったところもある(「不動産投信市場にも影響 先行き不透明で売買手控え」フジサンケイ ビジネスアイ2005年12月11日)。

日経ビジネス2006年01月02日号は「ファンドが姉歯に怯える理由−巧妙な偽装が不動産の市場心理冷やす」との記事を掲載した。「不動産ファンドが危ない」と警告する。「(事件が)波及するのはこれから」(不動産ファンドの幹部)という声も漏れる(篠原匡「ファンドが姉歯に怯える理由−巧妙な偽装が不動産の市場心理冷やす」日経ビジネス2006年01月2日号)。

不動産投資信託(REIT)の上場を目指すエルシーピー投資法人は、12月21日に予定していた東京証券取引所への上場を延期すると発表した(2005年12月5日)。構造計算書の偽造問題を受けて運用資産を再確認する。今後の上場時期は未定である(「エルシーピー投資法人 J―REIT上場延期」週刊住宅新聞2005年12月6日)。株式にあたる投資口の新規発行や売り出しも中止する(「強度偽装の余波、株式・不動産投信の上場延期相次ぐ」読売新聞2005年12月5日)。

もともと不動産ファンドは過大評価気味であった。「ファンド数の増加は、オフィスビル、マンションなど組み入れ物件の過当競争につながって利回りの低下をもたらし、目標資産額も減少するなど、ファンドの小粒化をもたらしている」(田村賢司「年金運用が市場動かす」日経ビジネス2005年8月22日号117頁)。しかも金利が上がれば不動産ファンドは値下がりし、地価も値下がりに転じる。

「不動産、マンション業界では、昨年末には耐震偽装に絡む“姉歯問題”が起こり、いまだに尾を引いている。量的緩和解除とのダブルパンチは、乱立気味のファンドの淘汰を促していく」(「不動産ファンド「痛い目」に」日経ビジネス2006年3月20日号12頁)。


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