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環境勘定用語集<詳細版>

 

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
UNCTAD/ISAR (会計と報告の国際基準に関する政府間専門作業部会) UNCTAD,
the Inter- governmental Working Group of Experts on International Standards of Accounting and Reporting
 国連貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development)内に置かれている部局の1つ。少なくとも1993年に開かれた第11回のセッションの時には、リオ会議の影響を受けて「持続可能性」がアジェンダの1つとして確立されていた。その後、Dan Rubensteinが研究を担当する。ルーベンシュタインは、カナダの仮想の林産企業「カークランド社」を措定し、持続可能な森林経営と持続可能なパルプ工場経営(廃液を減らすなど)を可能にするための会計システムを提案している。森林の伐採権をもち製材からパルプ工場までを直営する大企業という想定である(丸山(1998))。 →生態会計持続的発展
参考文献
丸山 佳久「持続可能な開発と森林会計−カークランド社の事例研究を中心として−」『中央大学大学院研究年報(経済学研究科篇)』27,pp169-181,1998年
リンク
http://www.unctad.org/en/special/issm204.htm#i4(UNCTADのHP内)
INSEE(フランス国立統計経済研究所) l'Institut National de la Statistique et des Etudes Economiques  1946年に創設されたフランス国立の中央統計機関。前身は国立統計局 Service National des Statistiques。フランスの社会経済に関する統計データの収集・加工・分析・出版を任務とする。
 国の統計官庁のシステムには、日本・英国・米国のように各省庁に統計部門が分散していて総括的統計局が存在しないかあるいはその役割が比較的小さい地方分査的な体制と、英国を除く多くの欧州諸国のように中央統計局の力が非常に強い中央集査的な体制とがある。やや古い文献になるが、マルシャル(1959)によれば、「折衷の国」フランスはこの両者の中間を採り、全面的な集中化を回避しつつ、各行政機関の作製した統計の質的改善を図るために中央機関たるINSEEに調整と集中化の任務を与えたという。日本にも各省庁の統計部局のほかに総務庁統計局があるから形の上では似ているけれども、少なくともSNAや経済統計に関してはINSEEが一手に引き受けている点、日本の総務庁統計局よりは守備範囲が広いといえよう(SNA統計は、日本では経済企画庁国民経済計算部所管)。環境勘定・環境統計に関する諸国の研究開発状況をみると、集査的統計局をもつ国々が優勢にみえる。INSEEはパリ南端に専用の高層ビルをいくつか有しており、筆者が以前道に迷ってパリ西部の留学生住宅に迷い込んだ際にインセー(アンセーとは読まない)と言ったらすぐに通じたからそれだけの知名度を持っているらしい。
 環境勘定についてINSEEの果たした役割は、1986年に『自然遺産勘定』と『環境サテライト勘定』というこの分野を語るのに欠かすことのできない2つのドキュメントを相次いで出版したことである。これらのドキュメントは、作成当時、各省庁所属の統計機関や専門家による省庁間委員会によって作業が進められたといい、たとえば農業関係ではSCEES、森林関係ではIFN、環境関係ではIFENといった公的統計機関が関与している。その後、環境サテライト勘定に関してはINSEEのBraibant(1995)が種々の分野のサテライト勘定に関するドキュメントの中で言及しているが、実質的にはIFENを中心に研究の継続が図られているようである。自然遺産勘定についてもINSEEが直接タッチすることはなく、IFENその他の各省庁機関や研究者を中心にフォローアップ研究が続けられているようである。
環境支出勘定
参考文献
MARSHALL,ANDRE、大橋隆憲監訳『経済学と統計技術 Economie Politique et Technique Statistique』ミネルヴァ書房,386pp,1959年
Braibant,Michel:The Satellite Accounts,Courrier des statistiques eng-1, pp33-40,1995
リンク

IARIW IARIW 国際所得国富学会
エコ・エフィシェンシー(エコ効率性) Up eco- efficiency  環境への悪影響を減少させるために、経済の中での物質の使用を削減しようとする社会的行動戦略であり、より少ない量の物質の生産によって、より高度な経済的恩恵をより公正に分配されるようにすべきだとする考え方。エコ効率性の一般的な目的は「より少ないものからより多くを得る」であり、これは「質的成長」概念として知られる。環境資源勘定との関係について小池(1997)は以下のように述べている。
「十分なエネルギーと資源を投入すれば、硫黄酸化物でも窒素酸化物でも、あるいはパルプ廃液でも処理することは困難ではない。しかしこれをエネルギー節約と同時に達成するのは、総じて理化学的な手段だけでは不可能であろう。そこにはたとえば輸送における自動車から鉄道船舶への転換のような、制度的な改変を伴うものとなろう。このためにも経済活動と環境との相互作用を、網羅的かつ一貫性をもって表章する体系が必要とされる。」
 推計例としては、日本・合州国・オランダ・ドイツ・フィンランドの5カ国について、自然資源の一次消費でGDPを除した指標等の国際比較を行ったホフレン(1999)がある。
 なお、ミクロレベル(企業経営など)でこの概念を使用する場合は、環境効率と訳されるようである。
 2003年3月に閣議決定された日本の「循環基本計画」において、物質フローの3つの指標の一つとして「資源生産性」が採用され、目標として天然資源投入量1トン当たりGDP約39万円が設定された。1990年度の2倍近く、また2000年度からは40%増になるという。 →エコロジカル・リュックサック効用表章

参考文献
Meadows,D.H.ほか、茅監訳『限界を超えて』ダイヤモンド社,376pp,1992年
小池 浩一郎「セクター商品表、マスバランス表推計の意義と問題点」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp27-44
Schmidt-Bleek,Friedrich、佐々木・楠田・畑訳『ファクター10 エコ効率革命を実現する』373pp,シュプリンガー・フェアラーク東京,1997年
DeSimone,L.D./Popoff,F./WBCSD、山本良一監訳『エコ・エフィシェンシーへの挑戦』340pp,日科技連,1998年
Hoffren,Jukka:Measuring the Eco-efficiency of the Finnish Economy, Statistics Finland Research Reports 229,80pp,1999
リンク
- Harald AGERLEY氏のページ

エコロジカル・リュックサック ecological rucksack  特定の物質について、その全ライフサイクルを通じて必要となる一次原料およびエネルギーの投入総量。ここでいう「一次原料」とは、たとえば、鉱物の採鉱段階で掘削される表土・岩石をも含み、「隠れたフロー」hidden flowsとも言う。
マテリアル・バランスライフサイクルアセスメント
参考文献:森口 祐一編著『マテリアルフローデータブック〜日本を取りまく世界の資源のフロー』国立環境研究所/地球環境センター,1999年3月
SERIEE SERIEE SERIEE(せりえ)
SEEA(環境・経済統合勘定体系)(えす・いー・いー・えー) System for integrated Environmen- tal and Economic Accounting  自然環境と経済活動の相互関係の把握、および持続可能な発展のためのマクロ環境・経済指標の開発を目標に、国際連合統計部が各国の専門家の協力の下に作成し1993年に公表した勘定体系。現在公表されているSEEAはinterim versionであるが、SNAの構成要素の一部である供給・使用表に非金融資産表(非金融資産のストック・フロー表)を組み込み、これに環境フローや環境ストックを導入することによって構築されており、SNAのサテライト体系として位置づけられている。
 もう1つの有力な勘定体系であるNAMEAと比較してSEEAがもつ特徴としては、たとえば次のような点を上げることが出来るであろう。
  1. 自然資源のストック勘定を含んでいる。
  2. 経済活動において実際に支払われた環境関連費用(実際環境費用)をSNA統計から抽出し明示する。
  3. 固定資本減耗の考え方を環境資産にも援用し、SNAで把握されない自然資源の使用や廃物の排出を経済活動のコストとして、物的単位だけでなく貨幣単位でも評価する(これを帰属環境費用という)。
  4. NDP(国内純生産)から帰属環境費用を控除することによってEDP(環境調整済国内純生産)を導出する。
一方、SEEAにはたとえば、
  1. 帰属環境費用の推計方法が恣意的で安定性に欠ける。
  2. EDPの意味が明確ではなく誤解を招きやすい。
のような問題点があると思われる。
 なお、国連統計部は1997年から2001年完成を目標に、各国の環境勘定の専門家からなるロンドン・グループと協同でSEEA改訂作業に着手しており、今後の動向が注目されるところである。 (有吉範敏) →SEEAJ地域版SEEA
参考文献
Bartelmus,P./Stahmer,C./van Tongeren,J.、浜田・長訳「環境・経済統合計算のフレームワーク Integrated Environmental and Economic Accounting: Framework for a SNA Satellite System」『季刊国民経済計算』92,1992年(原論文は、"Review of Income and Wealth"誌,1989年)
van Tongeren,J. et al:Integrated Environmental and Economic Accounting:A Case Study of Mexico,Environment Working Paper[World Bank],50,1991
United Nations Statistical Office:SNA Draft Handbook on Integrated Environmental and Economic Accounting: Provisional version,1992
United Nations:Integrated Environmental and Economic Accounting. Interim version,UN:ST/ESA/STAT/SER.F/61,1993
田丸 征克「環境・経済統合勘定(1)」『ESP』285, 1996年
田丸 征克「環境・経済統合勘定(2)」『ESP』287, 1996年
深見 正仁「わかりやすいグリーンGDP−環境・経済統合勘定の試算−」『資源環境対策』34(16),pp69-76,1998年
石渡 茂「環境・経済勘定体系(SEEA)−国民経済計算体系(SNA)のサテライト勘定としての環境会計」『社会科学ジャーナル』44,pp1-18,2000年
SEEAJ(日本版SEEA) SEEA of Japan  経済企画庁は、1991年から中長期的課題としてSEEAの研究開発を行っており、1995年には日本版SEEA(SEEAJ)の試算結果を公表した(日本総研, 1995)。さらに、この研究成果を踏まえて3カ年にわたる第二期の研究が行われ、その成果が1998年7月に公表された(日本総研, 1998。概要はこちらの経済企画庁のホームページにて公開されています)。この第二期研究では、第一期の試算を踏襲しつつ、推計精度の向上、対象とする環境項目の拡大、長期時系列推計の実施等が行われている。 (有吉範敏
追記
 第二期研究をうけて、経済企画庁は、1998年にSERIEE型の環境支出勘定、および廃棄物勘定の推計に着手している。(古井戸)
参考文献
(財)日本総合研究所(1995),『国民経済計算体系に環境・経済統合勘定を付加するための研究報告書(平成6年度経済企画庁委託調査)』.
鵜野 公郎「『グリーンGDP』試算と今後の課題−環境破壊による損失を反映させた経済指標の検討」『産業と環境』24(10),pp24-28,1995年
(財)日本総合研究所(1998),『国民経済計算体系に環境・経済統合勘定を付加するための研究報告書(平成9年度経済企画庁委託調査)』.
(財)日本総合研究所(1999),『環境・経済統合勘定の確立に関する研究報告書(平成10年度経済企画庁委託調査)』.
SNA(えす・えぬ・えー) System of National Accounts 国民勘定体系
LCA(える・しー・えー) Life Cycle Assessment / Analysis ライフサイクルアセスメント
欧州連合統計局 EUROSTAT  1953年に創設された欧州の公的統計機関。近年、環境統計・環境勘定に関する出版物も出しており、なかでもSERIEEはこの分野の最も重要な文献の1つである。
 1998年より、日本の経済企画庁も、SERIEE型の環境支出勘定の推計に着手している。 →質問票SEEAJ

参考文献:
EUROSTAT:SERIEE 1994 version. European System for the collection of economic data on the environment,EUROSTAT.statistical document,195pp,Sep 1994

リンク:

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
会計の役立ち use of accounting system 勘定の役立ち
隠れたフロー hidden flows エコロジカル・リュックサック
家計による非市場サービスの生産/家計の生産関数 nonmarket services produced in households
効用
参考文献:Eisner, Robert "The Total Incomes System of Accounts",Univ.of Chicago Press,416pp,1989
可視性 VISIBILITE (fr)
visibility (en)
 人間の思考様式一般の変遷を考察したフランスの哲学者M.フーコーは一例として、植物についての記述の歴史に目をつけた(内田,1990年)。ある植物の薬効・形態・匂い・手触り、さらにはその植物にまつわる伝承や神話など、ありとあらゆる事どもを雑録的に書き付けた「ルネサンス以前」の時代(現代でも、チベット本草学に影響をうけたドイツ人Fischer-Rizzi(1992)などからこうした叙述方法を想起することができる)から、視覚的に記述可能な属性(たとえば花弁の数や形)に記述を限定し秩序だて、表 tableau 形式で記述する博物誌や植物分類学を生んだ「古典主義」の時代を経て、視覚でとらえることのできない生理的な機能を含む分類・記述(近代植物学)へと進展してきたという。
 可視性へのこだわりは、古典主義の時代には、客観性の確保、すなわち花びらの数のように誰が観察しても同じように数えることのできる属性に絞り込むことを目的としていたのだろう。しかしながら、ミクロレベルの生理学・遺伝学、マクロレベルの生態学の発展にともない、人間の視覚を通して得られる情報のみに注目する古典主義的形態分類が、必ずしも客観的なものではありえず恣意性を免れないと考えられるようになったのかもしれない。
 勘定(とくに社会会計)の役立ちの1つとして「統計のミッシングリンクの発見」が挙げられるように、勘定は、その依拠する保存則(勘定恒等式)にもとづいて統計の整合性を確認する過程で、かならずしも「可視的」でない情報を拾い上げる作用をもつのではないか。中村(1984)は、環境問題のかなり重要な部分がわれわれの見えないところでヒタヒタと進行しており、こうした局面ではフリーライドの問題よりも環境意識・環境情報の問題がクリティカルであると指摘した。また小口(1996)の指摘をほんの少しだけ翻案して言えば、自然環境資本はあたかも水面下を含む氷山の全体のようなもので、経済社会はこのうち水面上に現れる氷山の一角のさらにその先端に卵を逆さにしたような格好で危ういバランスをとりながら存在している。近年、環境ホルモンのような文字通り水面下で生じている問題が続々と発見されていることを考え合わせると、環境勘定の作成という統計実務的営為の重要性はどれほど強調してもしすぎることはないだろう。→勘定の役立ち表章マッケルビーの箱フローとストック
参考文献
中村 達也「<不可視の世界>と経済学−山林・地下水・ダイオキシンから外部性を考える−」『世界』1984年3月号,pp188-198
内田 隆三『ミシェル・フーコー−主体の系譜学』講談社現代新書,207pp,1990年
Fischer-Rizzi,Susanne、手塚訳『樹−樹木の神話・医療用途・料理レシピ』あむすく,東京,205pp,1992年
小口 好昭「社会的共通資本の会計学」『会計』150(3),1996年
古井戸 宏通「環境資源勘定およびその利用」小池・藤崎編『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』所収,1997年
環境経済統合勘定体系 System for i ntegrated Environmen- tal and Economic Accounting SEEA(えす・いー・いー・えー)
環境効率 eco-efficiency エコ・エフィシェンシー
環境指標 environmen- tal indicator トレード・オフ
環境(保護)支出勘定 Environmen- tal (Protection) Expenditure Accounts
 自然環境の管理や開発を目的とするアクティビティはほとんどの場合支出を伴う。このような資金の流れの表章を目的として、メソレベル、ないしはマクロレベルで作成される勘定を指していう。アメリカの公害防除支出勘定、フランス型環境サテライト勘定EUROSTATSERIEE、さらにSEEAではVer2とVer4.1あたりがおそらくこれに当たる。このうちアメリカの公害防除支出勘定は、河野(1998)によれば、企業に対する質問票調査に基づくものであり、アメリカの国民勘定(国民所得・支出勘定:NIPA)の枠内で現実に支出されている環境費用のみをカウントするもので、はじめて公表されたのは1975年と、国際的にみても(おそらく最も)早い時期である。現在公表されている推計値は1972年以来の年次データである。
 いずれの勘定においても、資本的支出と経常的支出の区別がなされている。
 森林分野では「森林管理勘定」といったものが考えられ、おおむねフランスのフレームワークに従ってこれをメソレベルで試作した例としては目下、大石・土屋らによる「レクリエーションを目的とした森林管理のサテライト勘定」および古井戸による「水源林管理勘定」がある。フランス型環境サテライト勘定の標準体系は、ストックの表示を欠いているため、ストック情報が重要である森林管理のような分野については、森林ストックの勘定とリンクさせるか、あるいは管理勘定内部に独自のくふうが必要となる。
 またフランス自身が例示している自然公園管理のサテリット勘定の例では、公共支出と利用者からの料金収入の差し引きが経常余剰として示されるけれども、公共サービスの経営主体の黒字が大きい方が良いと一概にいえないのは言うまでもない。先の大石・土屋らは、自然利用型森林レクと施設型森林レクを比較し、当然ながら、後者の方がより莫大な支出を伴うことを勘定形式で示した。この例でも、支出が大きい方が、森林レクサイトとしての評価が高いとは限らない。
 一般に、環境保護支出が多い場合、1)環境対策をしっかりやっているのか、2)多くの対策が必要な環境破壊がある、3)対策コストが不必要にかさんでいる、などの解釈がありうる。このように、勘定によって表章される資金の流れと、それをどう解釈するかは別の問題となる。
 ボランティアによる環境保護活動など、一部またはすべての活動について支出を伴わないケースもある。環境NGO、NPOなどで職員に賃金が支払われている場合でも、団体の性格がボランタリーであるがゆえに競争的賃金が支払われていないという半ボランティア的なケースもありがちである。本項冒頭の定義により、環境支出勘定は貨幣タームでこれらを記録・推計する。現実に支払われている金額のみを記録するほか、家事労働について経企庁(1997)が行ったように帰属賃金を推計することも可能であろう。貨幣タームでの推計以前に、こうした活動を忠実に記録するためには、時間収支 time budget アプローチが有力であり、帰属賃金推計のバックデータとしてもきわめて重要になる。時間保存則にもとづく時間収支アプローチは、狭義の環境支出勘定の枠からは外れるが、フランス型サテライト勘定のフレームワークには収まりうると思われ、こうした補助的な物量データは支出額の解釈に役立ちうる。 →環境費用欧州連合統計局
参考文献
EUROSTAT:SERIEE 1994 version. European System for the collection of economic data on the environment,EUROSTAT.statistical document,195pp,Sep 1994
大石 康彦ほか「森林資源勘定の作成に関する研究(IV)−施設利用型・自然利用型森林レクリエーションのサテライト勘定の検討」『日本林学会論文集』106,1995年
INSEE、宮川泰子訳「環境サテライト勘定(抄訳)」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp311-347
土屋 俊幸ほか「レクリエーション管理に関する森林資源勘定の作成」『岩手大学農学部演習林報告』28,pp41-28,1997年
H.Furuido: Forest Management Account - a Feasibility Study on Watershed Management by Tokyo Metropolitan Government -, Paper prepared for the Progress in Environment and Resource Accounting Approach - A principle to theGlobal Environmental Issues - October 13-15, 1997, Matsue, Japan
経済企画庁経済研究所国民経済計算部『あなたの家事の値段はおいくらですか?−無償労働の貨幣評価についての報告』253pp,1997年
河野 正男『生態会計論』,森山書店,第4章,1998年
記事「環境保護、日本まずまず?」『朝日新聞』1999年6月16日付
環境統計 environment statistics  環境統計整備の必要性は今日多くの論者によって指摘されるところである。このうち経済学というツールによる環境分析という立場からの必要性は、熊崎(1983)の示した論拠に尽きるだろう。
「近代経済学の全部が全部抽象モデルの操作に専念していたわけではなく、統計的なデータをもとにした実証分析も盛んに行われていたけれど、その統計自身が伝統的な経済学のフレームワークを前提として作られているため、既存の統計をどのように分析しても、経済システムと環境システムとの軋轢が発見できないのである」
 アドホックな環境調査ではなく使える環境情報を求めるこうした論調は、その後のリオ宣言や日本の環境基本法に色濃く反映されることになる。
 国連統計局(現・国連統計部)は、欧州等主要国の中央統計局同様、環境統計のセクションをもっている。『環境統計のサーベイ−フレームワーク・アプローチ・統計出版物』(UN(1982))が出版されたのは、ノルウェーの『自然資源勘定』出版の翌年であり、フランスの『自然遺産勘定』『環境サテライト勘定』出版の4年前にあたる。『環境統計のディレクトリ』(UN(1983))では、世界各国の公的統計機関によって収集されている環境情報のリストが示された。その後、フレームワーク作りの作業が、環境勘定や環境指標に関する研究や各国の実践とあいまって進んでいる(森口(1993)、北川(1996))。
 こうした国際動向を踏まえて日本の公的中央統計機関による検討も行われたが、経済統計との異質性、「統計」としての性質への疑問などから、環境統計の整備は時期尚早とされた(行政管理庁(1983)、総務庁統計局(1989))。この結果、環境統計の整備はもっぱら環境基本法に基づく環境指標の検討作業(環境庁)や、各省庁の統計部門の通常業務の中での取り組み等に委ねられており、全省庁に対して環境統計整備のイニシアチブをとるだけの力をもつ機関はいまのところ存在しないようにみえる。
 日本で環境勘定を作成すると、(行列方式で表章した場合)空白のセルが多くなる。とりわけ立ち後れているのはストックの統計である。これはつまるところ、環境統計を効率的に整備するための指針を示している。数字の埋まりやすいところだけを呈示すれば空白セルはなくなって一見格好は良いけれども、「数字の埋まりやすいところ」を選んだ時点で、すでにそれは特定の分析目的には適しているが恣意的のそしりを免れないデータ集になっている。
 一般に、環境情報は多ければ多いほど意思決定に役立つとはいえ、収集・分析等に費用がかかるから、費用とのかねあいが問題となる。SOxデータについて、環境情報の費用便益分析を試みたケーススタディーとして、山本・内藤(1985)がある。 →環境統計学環境統計法(ドイツ)森林統計
参考文献
農林省統計情報部『林業統計史』農林統計協会,248pp,1970年
Cremeans, John E.:Conceptual and Statistical Issues in Developing Environmental Measures - Recent U.S. Experience, Rev.Income Wealth 23(2),1977
内藤 正明「環境指標の整理と体系化の試み」『環境情報科学』10(1),pp61-69,1981年
United Nations:Survey of Environment Statistics: Frameworks, Approaches and Statistical Publications,115pp,1982 (ST/ESA/STAT/Ser.M/73)
熊崎 実「環境保護の政治過程と経済分析−E.アシュビーの所論を中心に」『林業経済』405,1982
Polfeldt,Thomas:Statistics of the Natural Environment - aims and methods, Statistical J.UN ECE 1,1983
Rapport,D.J.:The Stress-response Environmental Statistical System and its Applicability to the Laurentian Lower Great Lakes, Statistical J.UN ECE 1,1983
United Nations:Directory of Environment Statistics,305pp,1983 (ST/ESA/STAT/Ser.M/75)
行政管理庁統計主幹(竹内 啓ほか)『環境統計の整備に向けて−環境統計整備研究会中間報告書』,行政管理庁,198pp,1983年6月
United Nations:A Framework for the Development of Environment Statistics,28pp,1984 (ST/ESA/STAT/Ser.M/78)
山本 達也/内藤 正明「環境情報に関する費用便益分析の試み」『環境情報科学』14(2),1985年
Anon.:Environment Statistics in the Work Programme of the Conference of European Statisticians,Statistical J.UN ECE 5,1988
United Nations:Concepts and Methods of Environment Statistics Human Settlements Statistics - A Technical Report,80pp,1988 (ST/ESA/STAT/Ser.F/51)
総務庁統計局統計基準部『環境統計の整備に関する調査研究報告書』,総務庁,83pp,1989年5月
Elvers,Eva:Quality Presentation in Environment Statistics - some Swedish Examples, Statistical J.UN ECE 6,1989
United Nations:Concepts and Methods of Environment Statistics: Statistics of the Natural Environment,A Technical Report,148pp,1991 (ST/ESA/STAT/SER.F/57)
小池 浩一郎「環境統計の現状−森林についての資源・環境勘定体系を中心に」『造園雑誌』55(4),pp336-339,1992年
Grzesiak,M.:Territorial Delimitation of Ecological Disturbances and Hazards in Environment Statistics,Statistical J.UN ECE 9,1992
United Nations Statistical Office、総務庁統計局国際統計課訳『環境統計の促進に関する政府間ワーキング・グループ 第2回及び第3回会合報告』39pp,1993年(ESA/STAT/AC.51&45)
吉田 央「環境統計の制度化」『一般教育部紀要[東農工大]』30,pp13-20,1993年
森口 祐一「意志決定のための環境情報に関する最近の国際的動向−環境指標・環境資源勘定を中心として」『環境研究』90,pp4-13,1993年
有吉・吉田・池田「環境統計の諸問題」『統計学』69/70,pp301-308,1996年
北川 豊「国連の環境統計3文献をめぐって」『統計学』69/70,pp309-313,1996年
木下・土居・森編『統計ガイドブック 第2版』大月書店,第9章「環境」,1998年
リンク
高知大学友野ゼミ製作の「環境統計リンク」
環境統計学 environ- metrics 「計量環境科学」とも訳されるようである。渋谷(1993)によると、環境統計学は応用統計学の一分野であって、1)産業による汚染の測定、2)生態学的調査、3)地球環境破壊、などを対象とし、工学・生物学・化学・医学・経済学などの多分野との協力によって、a)調査法、b)較正法、c)リモートセンシング、d)被害調査、e)予測、f)モデリング、などの方法論を用いて研究が行われる。 →環境統計
参考文献
渋谷 政昭「環境統計学の動向」『統計』44(12),pp22-25,1993年12月
環境統計法(ドイツ) Gesetz ueber Umwelt- statistiken
( Umwelt- statistik- gesetz - UStatG )
 環境関連のドイツ連邦法の一。1994年9月21日に制定され、その後、96年10月9日に第十条が、97年12月19日に多数の条文が、それぞれ改定されている。松村(1999)によると、「体系的、周期的に環境関連統計の収集を図る」この法律によって、「廃棄物処理、水供給および廃水処理、大気汚染、オゾン層破壊ガスおよび温室効果ガス、水域に有害性を持つ物質に関連する事故、その運送事故、製造業における環境保全投資等に関する一定の者」は、「環境負荷および環境保全措置に関連する情報の提供」を義務づけらていれる。ドイツでは、環境保全の分野において、「計画的アプローチ」が導入されつつあり、「そのためには適正な統計情報が不可欠であるとの認識に基づいて運用されている」という。→環境統計
参考文献
松村 弓彦「ドイツ環境法の動向」『ジュリスト増刊 新世紀の展望2 環境問題の行方』1999年5月,pp344

リンク

環境費用 environmen- tal costs  環境にかかわって実際に支払われている費用と、本来支払われるべきとみなされる費用(帰属環境費用)とがある。霞ヶ浦が汚染され夏場にアオコが発生するとつくば市民は塩素臭い水を飲むことになるが、この例では、仮に霞ヶ浦浄化のために費用が支払われれば、つくば市民は(塩素臭くない)安全でおいしい水を飲むことができる。おいしい水を飲むことが市民の権利である(ないしは清浄な湖を後世に遺すことがわれわれの義務である)と仮定すると、霞ヶ浦の浄化費用は(それが実際に払われていない段階でも)「帰属環境費用」として計算できる。霞ヶ浦の浄化方法には、汚染の発生源の対策と、汚れてしまった湖の浄化対策の2つがある。通常、予防的発生源対策の方が事後的措置よりも安くつく、というのが環境問題一般についていえる。
 ヘンな喩えをすれば、信号がなくて交通事故の多い交差点があったとして、信号機をつけるのが予防的対策、近くに救急病院を作るのが事後的措置であり、皮肉なことに、雇用・生産活動などの(近視眼的な、かつ冷たい)「経済効果」の観点からは病院建設の方が「望ましい(=GDPが大きくなる)」かもしれない。このように、環境費用にかぎらず、費用の大小と「何が望ましいか」という判断は、まったく別の問題である。支出そのものの良し悪しにかかわらず、実際に支払われている費用をなるべく忠実に記録しようというのが環境勘定(とくに環境支出勘定)の最も基礎的なスタンスである。
 産業連関表の利用による環境分析のフレームワークを示したのはレオンチェフであるが、これを応用して「現実の環境対策支出が(すでに)どの程度生産物の価格を押し上げているのか」「現実の環境対策を物量レベルである割合向上させた場合、どの程度生産物の価格を(追加的に)押し上げることになるか」といった分析を産業間の波及効果も含めて行うことが可能である。日本についてこの分析を行ったものに阿部・佐藤(1991)がある。SEEAにおいても、1992年の"provisional version"では C.Stahmer の書いたといわれる環境投入産出表の章があったが、その後この章は削除されている。
SEEA
参考文献
Leontief, W.:Environmental Repercussions and the Economic Structure, An Input output Approach, Rev.Econ.Stat.52(3), Aug.1970,pp262-271(環境経済学に関する多くの "Selected Readings",たとえば Dorfman,R./Dorfman,N.S.ed.:Economics of the Environment :Selected Readings,W.W.Norton&CO.,1972 に所収)
阿部 秀明・佐藤 博樹「環境汚染防除活動に伴う国民経済の社会的費用」『北見大論集』24,pp103-124,1991年
United Nations Statistical Office:SNA Draft Handbook on Integrated Environmental and Economic Accounting: Provisional version,314+A33pp,Mar.1992
環境負債 environmen- tal liabilities (?) 参考文献
北畠 佳房「動的リスク管理へ向けての環境・経済勘定体系試案」,文部省「人間環境系」研究報告集G023N15-01『人為起源物質の制御にはたすリスク評価と管理手法の役割』所収,pp210-222,1991年
矢部 光保「環境勘定に関する会計学的アプローチの試み」『農総研季報』16,pp49-61,1992年
勘定、記録の対象、依拠する法則、および単位の関係 Types of accounts - by entree, conservation law, and measuring unit  フランスの自然遺産勘定においては、環境や自然資源に関して、さまざまな定量化可能な測定対象についての勘定化が意図されており、膨大な種類の勘定が互いにリンクするシステムとなっている。個々の勘定のなかで単位は統一され、なんらかの保存則が働かなければそこにはコントロール・トータルもバランス項目も存在せず、ゆえに統計の誤差脱漏やミッシング・リンクのチェックが不可能であり、またそもそも勘定でありえない。測定の単位はひとつひとつの勘定の内部では統一されていなければならないけれども、すべての勘定が共通の単位をもつ必要はない。そこから、土地利用の状態と変化の勘定、自然遺産管理の勘定、自然遺産を構成する要素の状態と変化の勘定、といった勘定の類型が生じる。この発想を森林資源に関連する統計システムの構築に応用すると、たとえば下の表のようにまとめることができよう。ここでは、実際に森林の管理に投入された資金(および林産物の販売額等)以外は、あえて貨幣タームに換算していないということを強調したい。

表 森林資源勘定の類型とひろがり

名称 単位 測定の対象 依拠する「法則」 必要なデータソース
森林勘定 3 立木 物質保存則 森林資源調査
林地勘定 ha 林地 国土保存則 林地開発統計等
林産物勘定 トン(m3 木質系生産物 物質保存則 産業連関表(物量表)等
森林管理勘定 森林管理資金 貨幣保存則 林家経済調査等
林業労働勘定 林業労働力 人口保存則 労働力調査
林内滞在勘定 時間 林内滞在時間 時間保存則 time budgetに関する統計
出所:古井戸宏通「環境資源勘定およびその利用」小池・藤崎編『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』所収,p56,1997年を一部改変
勘定の役立ち use of accounting system  さしあたり、1+f=S2(期首ストック+期間フロー=期末ストック)という恒等式が会計の本質であると考えてその起源を遡ると、考古学的知見からも語源的知見からも古代メソポタミア(チグリス・ユーフラテス流域)あたりに往き着くらしい。古代文明において権力をもつ専門家による生産物の物量単位での分配記帳システムとしてトークン会計が利用されていたとする説は、貨幣経済はおろか、文字や数字よりも(!)先に会計があったということを示唆している。トークン会計においては、計測されるべき対象(小麦などの生産物)、計測の単位(個数、重量など)、取引主体(共同体とその成員)の存在と所有権(Sen流にいえば財への支配権)の移動が存在し、これらがトークンという記号を媒介して記録される。暗黙の裡に、物質保存則(生産物保存則というべきか)も仮定されていよう。これらが「会計」システムの成り立つ最小要件であるといえるかもしれない。一方、語源的には、天秤balanceという言葉と、数えるcountという言葉が鍵になっており、このうちbalance(上記恒等式内のに相当)という言葉はセム語源、すなわち古代メソポタミア人が作った言葉のようである。
 商品経済の発達・貨幣の流通・信用・資本の存在、といったことが、ルカ・パチョーリの『スンマ』(1494)において複式簿記システムを明文化させる背景となったという通説において、とくに商業における在庫のみならず商人資本の登場、経時的取引の増加が、ストックの情報としての価値やより複雑な記帳システムの需要を増したであろうなどとあれこれ素人考えが浮かぶが、こうした議論の詳細は専門家の手に委ねたい(たとえば河野(1998)序章)。いずれにせよ、原理としての「勘定」を考え、勘定というシステムを環境問題への対策に適用しようというスタンスに立てば、勘定=貨幣勘定ということをア・プリオリに言う根拠はないといえそうである。
 貨幣による計測・貨幣単位での表章にこだわるか否かにかかわらず、勘定が一種の情報システムであるということはたしかであろう。その際、「統計の整合性をつねに確認しながらデータを蓄積していく枠組み」(古井戸,1995)としての役立ちと、「政策形成のための情報ベースを提供するための集計的指数の構築」(SEEA暫定ハンドブック391段)としての役立ちが考えられる。古井戸は前者を強調してとくに森林分野においては物量勘定が重要であると考えたが、作間(1997)は、多くの環境問題が所得分配にかかわることを指摘した上で、SEEA(Ver4.2)の指摘する後者の立場を擁護し、政策形成のためには帰属環境費用の計算が必要であるとしている。
 さまざまな利用目的への貢献(user-oriented)が、勘定設計にあたってのキーワードであることは間違いない。93SNAにおいては、II章13段に、「利用者の必要性から勘定フレームワークに対して課せられるいくつかの要件」として次の3つを挙げている。
  1. わかりやすく扱いやすい経済の見取り図を与える。
  2. 経済生活をバランスよく忠実に表章
  3. すべての意味ある経済活動・相互関係および経済活動の成果を開陳。
 ここで「経済」を「自然環境と経済」におきかえれば、そのまま、環境勘定フレームワークに対して課せられる要件となるだろう。しかし、その「置き換え」作業にあたって、いまの3つの要件のどれを重視するかで、作間と古井戸の微妙な立場の違いが生じるように思われる。また、冒頭に述べた情報システムとしての会計の機能が、ユーザによる利用可能性とどのように結びつくかを精査することは今後の大きな理論的課題であろう。
 なお会計の「役立ち」という表現は、合崎(1966)に倣っている。
keywords:データのミッシングリンクの発見と整合的格納、特定の分析目的に偏することのないバランスのとれた表章 →トークン会計フローとストック
参考文献
Yanovsky,M.:Anatomy of Social Accounting Systems,Capman and Hall,1965
合崎 堅二『社会科学としての会計学』中央大学出版部,1966年,63-64ページ
岸 悦三『会計前史−パチョーリ簿記論の解明−[増補版]』同文舘,1991年
夷谷 廣政「会計の起源(1)−セム語根の証す文明と会計の真実」『専修商学論集』1994年、同「会計の起源(2)−セム語根の証す文明と会計の真実」『専修商学論集』1995年
古井戸 宏通「森林資源とその利用を把握する枠組み−森林資源勘定の研究動向」『林業技術』1995年
作間 逸雄「わが国における環境・経済統合勘定の開発とその課題」『経済学論集[専修大]』31(3),pp233-305,1997年
河野 正男『生態会計論』,森山書店,411pp,1998年
小口 好昭「マクロ会計理論の公理的展開−オークルスト理論の研究」『黒澤会計研究』森山書店,1999年,所収,pp319-345
GAMEE(ぎゃみー) GAMEE (Global Accounting Matrix for Environment and Economy)  国連が提案しているSEEAは、SNAの構成要素の一部である投入産出表と非金融資産表をベースに作成されている。そのため、経済活動と環境悪化との直接的な関係および環境悪化による環境ストックの減耗・劣化についてはカバーできるが、所得分配および金融的フローと環境悪化との間接的関係については記録の対象外におかれている。一方、オランダ中央統計局のNAMEAは、SNAをSAM形式で表示することによって所得分配や金融的フローも取り扱える仕組みになっているが、その対象がフローのみに限られているため、環境を論じる際に重要なストック面を表示することが出来ない。さらに両体系は、基本的に自国1国を対象とした勘定体系となっており、そのため環境と経済に関する国際連関面を詳細に取り扱うことの出来ない構造となっている。
 これに対して、有吉は、SNAのストック・フロー完全体系をSAM形式で表示し、これにSEEAの考え方に沿った環境項目を導入することによって、SEEAとNAMEAがもつ上記問題点をすべて克服する包括的環境・経済統合勘定体系の提案を行った。この体系は当初、CSEEA(Complete SEEA:SEEA完全体系)と名付けられたが、その後若干の精緻化がはかられたこと、およびこの体系が理論的には地球全体を網羅的かつ整合的に記録できる構造になっていることから、現在ではGAMEEという名称で呼ばれるようになっている。GAMEEは、SNAのSAM表示、貨幣的勘定体系(MAFEE)および物的勘定体系(PAFEE)の3つを含んでおり、しかもこれら3つの勘定体系が1つの共通のフレームワーク上に重層的に表示される仕組みになっている。この点はGAMEEの最大の特徴の1つといってよい。CSEEAおよび初期のGAMEEについては有吉のHPを参照。なお、最新版のGAMEEについては、有吉のHP中の邦文によるGAMEEの概説を参照のこと。 (有吉範敏
参考文献
有吉範敏「包括的環境・経済勘定行列(GAMEE)について」『地域学研究』30(1),pp141-154,2000年
グリーンGDP green GDP,
environ- mentally- adjusted GDP,
EDP
 狭義には、国民勘定の代表的集計量の1つであるGDP(国内総生産)に、環境に関する情報を算入し修正した貨幣タームの指標。広義には、しばしばSEEAの俗称としてマスコミなどで使用されている。
 筆者はこの分野の研究を始めた頃、「環境勘定=グリーンGNP」だと信じていた。GDPに代表される国民勘定の集計量から自然資源や環境の損失を控除しこれを修正・公表することが持続的発展のために必要であると考える人は、今日なお多い。経済学専門家(国民経済計算の専門家を除く)の間でも、ミクロレベルの費用便益分析やごく単純な成長論の延長線上で「分配」「波及効果」「合成の誤謬」などにこだわらずマクロの環境情報をとらえようとする人は同様の発想に傾きやすい。Repetto(1989)の推計は、この典型例であるといえる(減耗資産の項を参照のこと)。
 World Resource Institute(1991)は、こうした考え方を最大限に擁護し、集計されない個々の物量データを重視する自然資源勘定、あるいはSNAの中枢体系には手をつけずにSNAの周辺に環境関連情報をリンクさせる形で配そうとするサテライト勘定的発想では意思決定にとって不十分であり環境破壊を座視するに等しいと厳しい語調で非難した。その上で、環境費用をGNPから控除すべきかGDPから控除すべきかNNPから控除すべきかNDPから控除すべきか、などと細かい議論を行っている。その後、1995年5月にブリュッセルにおいてWWFと欧州議会の共催で「Taking Nature into Account」と題する国際会議が開かれた。このときのWWFの立場はSheng(1995)に鮮明に現れている。Shengは、GDPをスピードメータ、経済運営を車の運転に喩えて、「環境費用の分だけ車の性能を割り引いて考える必要があり、そのためにはGDPそのものを是非修正しなければならない、むしろ環境修正済みのGDPで既存のGDP統計を置き換えるべきである」といった議論を展開した。WWFとしての戦略的発言ということを考慮せずに字義通り解釈すれば、一見見事なこの比喩の中で、ドライバーがスピードメータの他、燃料計や走行距離計などの複数の指標を必要とし、これらを1つの指標に統合することは意思決定にとってむしろ有害であるという事実が忘れられている。
 集計度のきわめて高い指標にのみ注目するこのような発想は、国民勘定的発想というよりは、社会指標の発想に近い。国民勘定の発想は、もう随分前から、「国民所得から国民経済計算へ」、つまり相互に関連づけられた非集計量の集合体を、会計の形式を借りていかに構築するかという考え方にその重点を移している(倉林(1977))。これに対し、社会指標の分野では、かつて日本の国民福祉指標(NNW)推計の中に環境要因が含められたことがあるし、米国ではMEWやISEWといった指標が開発されている。こうした動きについて、国民勘定の立場から議論しているものに倉林(1989)、桂(1992)、環境問題とのかかわりに限定してわかりやすく紹介したものに森田(1991)がある。
 国民勘定の専門家の多いロンドン・グループでもかつてHuetingら(1994)が集計的アプローチを披露し、その後、種々の考え方が複数の「版」として盛り込まれた国連のSEEAの一部にも「環境調整済みGDP」といった形で生き残り、さらにこれを踏襲した日本の経済企画庁の推計の中でもその多くの成果の一部として「(狭義の)グリーンGDP」が公表されたけれども、ロンドン・グループでは今日ほとんど影が薄くなっているようである。それは、かつてWorld Resource Institute(1991)が批判した、「国民勘定専門家が統計や概念の整合性にこだわっている」からというよりはむしろ、岡(1992)や有吉(1997)の指摘するように、環境と経済を統合した一元的な集計量そのものの意味が曖昧で有用性に乏しいからであろう。開発経済の専門家である藤崎(1997)はこれらの論点に加えて、「途上国においてはそもそもGDPを参照した政策形成がなされていないのでGDPを(しゃにむに)修正する意味はない」旨指摘している。環境保全のために必要なのは、GDPという単一の集計量を修正することではなく、SNA全体のgreeningであり、SEEAの真意もここにある。近年では、たんに一般に通りが良いというだけの理由で「グリーンGDP」という言葉がしばしば用いられるにすぎない。
 Huetingと同じオランダで、NAMEAのような非集計的アプローチも別個に開発されている。上記のWWFの会議に、NAMEAを開発したKeuningの部下が何人か来ていたので話を聞いたが、彼らは当然のことながら集計量的アプローチには否定的で、会議そのものを政治的セレモニーと評価していた。オランダは環境指標の先進国でもある。担当者のAdriaanse氏が1995年に来日した際、環境指標をどこまで集計すべきかを訊いた。氏は「集計度の最も高い指標で政治家や市民の関心を惹き、議論が高まってきたところで集計度の低い指標やバックデータを提供した」とオランダの経験を語った。ただし、Adriaanse氏の仕事は、高度に集計された環境指標の提供までにとどまり、これを経済の指標と統合することは行っていない。一般に、高度な集計量の推計は、警告的指標としての役割が期待されるとはいえ、その意味が明確であり少なくとも増加や減少といったトレンドから一貫性のある意味が読みとれるものでなければ誤解を招き数字の一人歩きを招くおそれがある。
 なお、国民勘定の国際標準である国連のSNAにはGNP(国民総生産)という概念は存在せず、GDP(国内総生産)が存在するのみである。GNI(国民総所得)であればSNAと整合的に存在しうる。SNAの国際標準が定めた生産概念と所得概念の峻別を無視し、海外からの所得を国内生産に混ぜ込んだ"GNP"という概念を作ったのは米国のNIPA(国民所得・生産物勘定)であったという(倉林,1990)。日本では90年代後半から経済企画庁の記者発表などでもGNPに代えてGDPが用いられるようになっている。
国民勘定行列国民勘定体系勘定の役立ち評価
参考文献
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倉林 義正『SNAの成立と発展』岩波書店,270pp,1989年
倉林 義正「SNAとアメリカの国民所得・生産物勘定」『経済研究[一橋大]』41(2),pp108-119,1990年
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森田 恒幸「マクロ経済指標への環境配慮の試みとその展望」『エントロピー学会誌』23,pp1-4,1991年
児玉 哲明「森を消したらマイナス計算 GNP見直しに着手した国連」『朝日ジャーナル』1677, 1991年1月18日,pp14-16
浜田 浩児「環境調整後国内純生産(EDP)についての一考察」『季刊国民経済計算』95,pp17-22,1992年
岡 敏弘「グリーンGNPは何のために必要か」『経済セミナー』499,pp30-34,1992年
桂 昭政「トービン・ノードハウスのMEWと経済福祉−MEWの批判的検討」『経済経営論集[桃山学院]』33(4),1992年
森口 祐一「意志決定のための環境情報に関する最近の国際的動向−環境指標・環境資源勘定を中心として」『環境研究』90,pp4-13,1993年
Adriaanse,Albert: Environmental Policy Performance Indicators. A Study on the Development of Indicators for Environmental Policy in the Netherlands,175pp,Sdu Uitgeverij Koninginnegracht,May 1993
Hueting,Roefie/Bosch,P.(1994):Sustainable National Income in the Netherlands, in Statistics Canada(eds):National Accounts and the Environment. Papers and Proceedings from a Conference London, March 16-18,1994pp233-44
鵜野 公郎「『グリーンGDP』試算と今後の課題−環境破壊による損失を反映させた経済指標の検討」『産業と環境』24(10),pp24-28,1995年
Sheng,Fulai(1995):Real Value for Nature:An Overview of Global Efforts to Achieve True Measures of Economic Progress,158pp,WWF International
van Dieren, Wouter ed.:Taking Nature into Account. A Report to the Club of Rome,Springer-Verlag,NY, 332pp
有吉 範敏「グリーンGDPと持続可能な発展」清正・丸山・中村編(1997)『現代の地域と政策』九州大学出版会,所収,pp.105-122.
藤崎 成昭「環境資源勘定とその途上国への適用」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp3-25
深見 正仁「わかりやすいグリーンGDP−環境・経済統合勘定の試算−」『資源環境対策』34(16),pp69-76,1998年
計量環境科学 environ- metrics 環境統計学
減耗資産 wasting assets  Repetto,et al(1989)は、インドネシアをケーススタディとして、石油その他の枯渇性資源の減耗、森林のような再生可能資源の量的減少や土壌浸食などを純地代法その他の方法で貨幣評価し、これをNDPから差し引くという推計を行った。同書のタイトル"wasting assets"は、中央経済社の『会計学大辞典 第4版』では「減耗資産」(ないし「枯渇資産」)と訳され、鉱山会計などで用いられる専門語との説明がある。その後、環境勘定の研究分野でこの言葉はあまり聞かれなくなり、国際機関やロンドン・グループでは「資源の損耗(減耗)」"resource depletion"といった表現が使われている。少なくともこの表現を用いた場合は、あくまでも自然資源の量的な消耗のみを指し、環境の劣化 environmental degradation とは区別される。「減耗」という日本語は、SNAにおいて固定資本減耗 "fixed capital consumption" のようにも用いられ、紛らわしいが、微妙に異なる分野にわたっているためか訳し分けについての専門家のコンセンサスはまだ得られていない。
 なお、Repetto以降、インドネシアをはじめとする東南アジア諸国における推計例は種々存在しており、これらを入念かつ包括的にサーベイしたものに小島(1997)がある。→ユーザ・コスト資産
参考文献
Repetto/Magrath/Wells/Beer/Rossini:Wasting Assets: Natural Resources in the National Income Accounts,World Resource Institute,1989[邦訳:原嶋 耐治訳「資産の浪費−国民経済計算における自然資源 抄訳(自然資源勘定の必要性)」『環境研究』78,pp53-58,1990年]
森田・岡本・中村編『会計学大辞典 第四版』中央経済社,1996年,pp336
小島 道一「東南アジアにおける環境資源勘定」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp123-150
効用 utility  ミクロ経済学において消費者の効用は、消費される財のセット(財ベクトル)の関数とされる。1財のみについてみれば、free disposalの仮定により、効用関数は財の消費量の単調増加関数である。ミクロの環境経済学では、廃棄物処理コストを考慮するのでfree disposalの仮定は批判的検討の対象となる。さらにマクロの環境勘定においては、財の所有権・利用権・支配権とそれらの分配、財から消費者が効用を生み出す過程、ストックとしての自然の富からえられるアメニティフローの扱い、等々が、勘定の枠組みおよび計測の双方においてきわめて重要な論点となる。これらの議論を紹介すると論点があまりに多岐にわたるので、その代わりにアメリカの林学者A.レオポルドの言葉を熊崎(1979)より孫引きしておく。
「ゴルフに関心がなくとも人間であると言えるけれど、鳥獣の観察、狩猟、撮影などを好まぬ者は正常とはいえない」。
日本のゴルフ場のほとんどが里山林の伐採転用によって造成されたことは周知であろう。
 関連する概念としては、エコ効率性、家計の生産関数、ケイパビリティー、無償労働の評価、サービスの計測、時間収支などがあげられる。(→持続的発展
参考文献
熊崎 実「森林レクリエーションと利用者負担」『森林・コンサベーション』8,pp29-41,1979年
山本 伸幸「『富』のストック概念の検討−森林利用の包括的把握の可能性」『日本林学会論文集』104,pp113-116,1993年
作間 逸雄「わが国における環境・経済統合勘定の開発とその課題」『経済学論集[専修大]』31(3),pp233-305,1997年
アルド・レオポルド、新島義昭訳『野生のうたが聞こえる』講談社学術文庫,1997年(原著1966年)
Leopold, Aldo:A Sand County Almanac, with Essays on Conservation from Round River,New York:Ballantine,1966,296pp. 上の引用箇所は227ページで原文は、"A man not care for golf and still be human, but the man who does not like to see, hunt, photograph, or otherwise outwit birds or animals is hardly normal."となっている。
作間 逸雄「”ケイパビリティー”で考えてみよう−保守主義・リベラリズム・ケイパビリティー−」『専修大学社会科学研究所月報』425,pp1-32,1998年

リンク

国際所得国富学会 The International Association for Research in Income and Wealth (IARIW)  1998年に設立50周年を迎え、同年8月に第25回総会を英国ケンブリッジにて開催した(この時の学会のポスターの写真はこちら)。この分野を代表する権威ある学会であることは言うまでもない。1998年までに、25回の総会のほか12回の「地域会議・特別会議」が開催されている。環境勘定の分野については、1990年の第21回総会において、93年SNAをにらんだ種々のサテライト勘定の開発の一環として環境勘定がとりあげられた(光藤(1990))ほか、翌1991年にオーストリアのバーデンで特別会議が開かれている(Franz and Stahmer(1993))。日本でも、1996年にやはり環境勘定に関する特別会議が東京において、経済企画庁と国連大学の主催で開催されている(このときの参加者・報告一覧などはここの鵜野先生のページを参照のこと)。ロンドン・グループと違ってクローズドな会合ではないが、メンバーはかなり重なっているようである。なお、IARIWのホームページには環境勘定に関してはあまり多くの情報がみられない。
最新情報
 Review of Income and Wealth誌98年12月号によると、2000年夏にポーランドで開かれるIARIW第26回総会で、環境勘定に関するセッション(8月28日午後)が設けられた。座長はOECDのA.Harrison女史。
参考文献
Review of Income and Wealth誌各号
光藤 昇「国際所得国富学会(IARIW)21回総会に参加して−環境勘定などサテライト勘定の開発の進展」『統計学』1990年(?)。なお、光藤先生のホームページには、IARIW23回大会(1994)および24回大会(1996)の様子も紹介されています。
Franz,Alfred and Stahmer,Carsten(eds):Approaches to Environmental Accounting. Proceedings of the IARIW Conference on Environmental Accounting,Baden,Austria 27-29,May 1991, Physica-Verlag,BRD(Springer-Verlag,NY), 542pp, 1993
NAM(国民勘定行列) National Accounting Matrix  国民経済計算ないしSNA(国民勘定体系)表章形式としては主にT型勘定形式が用いられるが、これ以外にも図式形式、方程式形式、および行列形式といった表示方式がある。これらのうち、行列形式はT型勘定形式の単なる代替物以上の意味を持って用いられることがあり、その場合とくにNAM(国民勘定行列)という名称で呼ばれる。
 NAMでは、表側と表頭が同じ分類になっており、各行・列について、同じ名称を付された行と列の1つの組がSNAの1つの勘定を表すように作られており、行に貸方(収入)項目、列に借方(支出)項目が記帳される。
 NAMはSNAの勘定群を行列表示したものであるので所得勘定を含んでいるが、NAMにおいて所得勘定部分をとりわけ詳細に展開したものは、とくにSAM(社会会計行列)と呼ばれる。このように、SAMはNAMの特殊型であるが、実際にはSAMという用語がよく普及しており、しばしばNAMを含む概念としてSAMという用語が用いられる傾向にある。
 68SNA(United Nations, 1968)では、88行88列のNAMが例示され、これを用いて68SNAの全容が解説されている。また93SNA(Commission of the EC et al., 1993)では、第20章にSAMの章が設けられている。
 なお、有吉(1996)は、T型勘定形式に対するNAM(ないしSAM)の特性として下記の5つを挙げている。1)記録の合理性(行列内の1つのcellへの記帳によって複式記入が完了)、2)完全接合性(行列表示は勘定体系の完結性を保証する)、3)記録の緊密性(経済循環の鳥瞰図を与える)、4)構造の伸縮性(目的に応じて伸縮自在)、5)分析適応性(モデル分析への適応性)。 (有吉範敏
参考文献
有吉範敏「SNA中枢体系におけるフロー勘定の表示と勘定行列の特性」『熊本大学教養部紀要』31,1996年
SNA(国民勘定体系) System of National Accounts  国際連合および関連機関による国民経済計算の国際基準。
 各国がそれぞれ自国の国民経済計算を作成するにあたっては、例えば生産、所得、消費等々の様々な経済概念が互いに矛盾なく適切に定義されているかとか、それらの概念が各国間で共通のものになっているか、といったことに十分な留意が払われなければならない。こうした事情に鑑み、国際連合を中心とする関係諸国際機関は、各国が自国の国民経済計算を作成するにあたって準拠すべき国際基準を提示し、これによって、各国における国民経済計算統計の整備と普及を積極的に推進してきた。
 国民経済計算の最初の国際基準は、第2次大戦後まもない1953年に公表された(これを通称「旧SNA」または「53SNA」という)。この国際基準は国民所得中心の勘定体系であったが、その後、経済循環全体を網羅的・体系的に表章する方向で大幅な改善が図られ、1968年に新しい国際基準(United Nations, 1968;通称「新SNA」または「68SNA」)が公刊されるに至った。これに伴い、各国の経済統計は68SNA方式へと移行していったが、わが国もその例外ではなく、公刊後約10年の調査・研究を経たあと、1978年にそれまでの『国民所得統計年報』にかわって、68SNAに依拠した『国民経済計算年報』が経済企画庁から刊行され、今日に至っている。
 68SNAは、公刊以来約四半世紀にわたって各国国民経済計算の国際基準としての役割を担ってきた。しかし、その一方で、すでに1980年代初め頃からその見直し・改訂作業が着々とサの見直し・改訂作業が着々とめられていた。この改訂作業は1993年にようやく完了し、同年、68SNAの改訂版がEC委員会、IMF、OECD、国連および世界銀行の5つの機関の共同出版という形で刊行された(Commission of the EC et al., 1993)。わが国を含む各国の統計局は現在、自国の国民経済計算統計の68SNA方式から93SNA方式への移行作業を遂行中である。
 SNAは1国経済レベルの各種のフロー勘定(供給・使用表、国民所得勘定、資金循環表、海外勘定)とストック勘定(バランス・シート)から構成され、これらの勘定から成る互いに関連しあった1つのシステマティックな勘定群(勘定体系)として表示される。→国民経済計算NAM有吉範敏
参考文献
United Nations, A System of National Accounts, ST/STAT/SER.F/2/Rev.3;Sales No.E.69.XVII.3
Commission of the EC, IMF, OECD, UN and World Bank, System of National Accounts 1993, ST/ESA/STAT/SER.F/2/Rev.4;Sales No.E.94.XVII.4
国民経済計算 national economic accounting  社会において年々歳々行われる様々な経済活動及びそれらの相互関係は、これを1つのまとまりとして秩序立てて眺めるとき、経済循環(circular flow of economic system)と呼ばれる。経済循環を適切に描写しこれを一定の方式で表示することが、あらゆる経済分析の基礎として必要不可欠であることは言うまでもない。実際、こうした経済循環把握の試みは古くから行われており、なかでもケネー(F.Quesnay)の「経済表」(1758年)やマルクス(K.Marx)の「再生産表式」(1867年)は、その好例としてしばしば紹介されるところである。
 これに対して、現代における経済循環把握の試みは比較的新しく、ケインズ(J.M.Keynes)を先駆者として第2次大戦後に急速に発展・形成されてきた。この把握方式は当時の戦後経済との密接な関連の下に、ストーン(R.Stone)をはじめとする欧米先進国の研究者達によって開発されたもので、国民経済計算という名称で呼ばれている。
 国民経済計算は、対外取引を含む1国の経済循環を整合的かつ網羅的に記録する方法、ないしそれに基づいて実際に経済循環を記録したもの、として定義される。ここで整合的という用語は、すべての経済活動が会計的恒等関係を満たす形で記録されるという意味で用いられている。また網羅的とは、1国経済の活動成果を余すところなく完全に記録し尽くされることを意味している。→SNANAM有吉範敏
国連貿易開発会議−会計と報告の国際基準に関する政府間専門作業部会 UNCTAD/ ISAR UNCTAD/ISAR(あんくたっど…)

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
サテライト勘定 LES COMPTES SATELLITES (fr)
Satellite Accounts (en)
 国民勘定体系(SNA)は、経済全体の見取り図を与えるという目的に適した構造をもっているけれども、特定の部門や特定の活動分野に焦点をあて、関連した情報・データを多角的かつ詳細に示すということはできない。そこで、社会的な関心の対象となる分野、公的機関の活動分野における問題について、広く情報を提供し意思決定を助けるために、SNAの中枢体系そのものには変更を加えずに、SNAとリンクする形でSNAの周辺に置かれる勘定群の総称。広義には、倉林・松田「研究・開発の社会会計」、FAO『食糧と農業の経済勘定』、INSEE『自然遺産勘定』国連のSEEA、種々の社会会計行列アプローチなどを含むと考えられるが、フランス統計経済研究所(INSEE)は早くから統一的なフォーマットを開発し、これが93年SNAの第21章「サテライト勘定とサテライト分析」(Vanoliが書いたと言われる)に反映された。フランス自身がこれまで対象としてきた分野は、別表の通りであり、医療・保健、調査・研究、住宅、教育、社会的保護、環境、情報、などさまざまな分野が対象となりうるが、よくみると公共サービスがその中心となっていることがわかる。フランス流の狭義のサテライト勘定「標準体系」の測定の対象となるのは、当該分野の資金循環フローが中心であり、これによって資金調達・生産・受益者への成果分配という3種類の活動が表章される。
 フランス流のサテライト勘定においても物量データは利用される。たとえば公立自然公園においてパンフレットの価格や入場料が判っているとき、パンフレットの販売量や利用者の数を調べることで自然公園の支出と収入の総額を知ることができる。また、公共サービスの支出総額が先にわかっているときも、利用者の数を調べることで一人当たりの支出額(受益額)を分析することができる。しかし、自然遺産勘定や自然資源勘定の場合と異なり、ここでは、物量データはあくまで資金フローの補足的データであるにすぎない。また、フランス流のサテライト勘定はバランスシートを欠いている。こういった意味で、フランス流のサテライト勘定は、フォーマットを統一した試みとして評価したいが、SNAの中枢勘定の周辺に位置する「サテライト」勘定という言葉のもつイメージからすると、やや限定的にすぎる感が否めない。フランスの最新の研究成果が盛り込まれたと考えられる93SNAの21章では「物量データはサテライト勘定の二次的部分と考えられてはならない」(21.113段)とうたわれているものの、具体的に物量データをどう盛り込むかに関しては明確なフォーマットを示していない。この点、倉林・松田(1981)の試みの方がより「勘定」の仕組みを使って多くの情報を与えてくれる。→環境支出勘定
参考文献
FAO/ECE(1956)、栗原源太訳『農業の国際比較のための農業部門勘定−その定義と方法』、のびゆく技術59、1967年、40p
倉林 義正・松田 芳郎「研究・開発の社会会計」『経済研究[一橋大]』32(2),1981年
INSEE(1986)、宮川泰子訳「環境サテライト勘定(抄訳)」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp311-347
河野 正男「サテライト勘定と社会責任会計」『横浜経営研究』13(24),pp13-24,1990年
山下 正毅「サテライト勘定の概念について」『季刊国民経済計算』87,1990年
金丸 哲「新SNA改訂について−サテライト勘定を中心に」『経済学論集[鹿大]』32,pp1-16,1990年
作間 逸雄「改訂SNAのフレクシビリティー−サテライト勘定を中心に」『季刊国民経済計算』100,pp7-29,1994年
古井戸 宏通・加藤 隆・山本 伸幸「森林資源勘定の作成に関する研究(2)−サテライト勘定のフレームワーク」『日本林学会論文集』105,1994年
経済企画庁経済研究所編『SNAサテライト勘定に関する特別研究会報告』1995年3月,491pp
山下 正毅「サテライト勘定」,武野・金丸編(1997)『国民経済計算とその拡張』,勁草書房,第10章
SAM(さむ) Social Accounting Matrix 社会会計行列
産業連関表 Input-Output Table 参考文献
Leontief, W.:"Environmental Repercussions and the Economic Structure. An Input output Approach", Rev.Econ.Stat.52(3), pp262-271, 1970
浅岡 顕彦「北海道における環境汚染防止活動の地域連関分析」『北見大論集』19,pp23-75,1988年
竹林 芳久/岡 建雄/紺矢 哲夫「産業連関表による建築物の評価 その2 事務所建築の建設による環境への影響」『日本建築学会計画系論文報告集』431,pp31-8,1992年
吉田 泰治「産業連関表によるエネルギー投入の推計」『農業総合研究』47(3),pp65-,1993年
植田/長谷部/鷲田/寺西/宮崎/家田「環境・エネルギー・成長の経済構造分析−産業連関分析とニューラルネットワーク」『経済分析[経企庁経済研]』134,pp1-116,1994年
趙 晋平「エネルギー消費・供給の産業連関構造−日中の実態に対するアプローチ」『統計学』66,pp21-31,1994年
近藤 美則/森口 祐一編著『産業連関表による二酸化炭素排出原単位』,地球環境研究センター,125pp,1997年
長谷部 勇一「神奈川県経済の特徴と環境負荷(1)−産業連関表による要因分析」『エコノミア』48(4),pp1-17,1998年
環境費用PIOT
産業連関表 (物的,ドイツ) PIOT PIOT(ぴおっと)
資産 assets  武野(1997)の解説によると、SNAにおける定義は、「ストックのうち、経済活動の元本として金額的に評価しうるものの総称」。たとえば「石油の推定埋蔵量の全体がストックであるのにたいして、そのうちすでに採掘権が設定されている既発見石油埋蔵量の評価額だけが資産となる」。 →マッケルビーの箱減耗資産
参考文献:
武野 秀樹「国民経済計算の基礎」,武野・金丸編著(1997)『国民経済計算とその拡張』,勁草書房所収
SEEA(しーあ) System for integrated Environmen- tal and Economic Accounting SEEA(えす・いー・いー・えー)
資源の生産性 resource productivity エコ効率性
事象理論 events approach 参考文献
Sorter,G.H.:An 'Events' Approach to Basic Accounting Theory, Accounting Rev. XLIV-1,1969
高田橋 範充「会計測定論の深化−「利益」の測定論的・言語論的特質を中心に」『会計』142(6),1992年
自然遺産勘定 LES COMPTES DU PATRIMOINE NATUREL (fr)
Natural Patrimony Accounts (en)
 INSEE(フランス統計経済研究所)が1986年に出版したドキュメントの名前であると同時にその示した環境勘定における1つの有力かつ最も包括的なフレームワークの名称。INSEEのホームページには98年10月現在、その後の動きが全くみあたらない。86年のドキュメントの作成に当たっては早くから省庁間委員会(C.I.C.P.N.)が組織された(この省庁間委員会の議論を紹介したものに小池(1986)がある)。環境研究所(IFEN)その他多くの公的研究機関や大学の研究者がかかわっており、その中間レポートはJ.-L.Weber(1983)(当時も今もIFEN)の英文論文で読むことができる。これらを簡単に紹介したのが古井戸ほか(1993)である。
 その後の実践例はフランス自身を含めて意外と少ないけれども、UN-ECEの土地利用被覆勘定フレームワークやスペインでの水勘定の試作などに多大な影響を与えているようである。
 なお、『自然遺産勘定』の章構成は以下の通り:
  • 序章
  • 第1章 自然遺産
  • 第2章 自然遺産勘定のシステム
  • 第3章 野生の(?sauvages)ファウナとフローラの勘定
  • 第4章 森林の勘定
  • 第5章 陸水の勘定
  • 第6章 自然遺産の評価の実践
  • 第7章 自然遺産への経済的アプローチのための要素
  • 分類一覧表
INSEE
参考文献
Weber, J.L.:The French Natural Patrimony Accounts, Statistical J.UN ECE 1,1983
小池 浩一郎「森林・林業の評価手法」『林政総研レポート』30,62pp,1986年3月
INSEE:Les comptes du patrimoine naturel. Commission interministerielle des comptes du patrimoine naturel,1986,551pp.
古井戸 宏通・加藤 隆・岡 裕泰・山本 伸幸「森林資源勘定の作成に関する研究(T)−勘定体系の設計」『日本林学会大会論文集』104,pp117-20,1993年
自然資源勘定 Natural Resource Accounting
NATUR- RESSURS- REGNSKAP
(no)
環境統計
参考文献
Alfsen,K.H./Bye,Torstein/Lorentsen,L.:Natural Resource Accounting and Analysis - The Norwegian Experience 1978-1986. Social and Economic Study,Oslo:Central Bureau of Statistics of Norway,1987,71pp
細野 宏「自然資源勘定−ノルウェー等における取組みについて−」『環境研究』73,pp23-31,1989年
細野 宏「自然資源勘定に関する最近の動向について」『環境研究』83,1991年
古井戸 宏通「自然資源勘定の研究動向−わが国の森林資源勘定作成へ向けて」『水資源・環境研究』6,pp19-24,1993年
自然資源使用計画 Natural Resource Budgeting
参考文献
Alfsen,K.H./Bye,Torstein/Lorentsen,L.:Natural Resource Accounting and Analysis - The Norwegian Experience 1978-1986. Social and Economic Study,Oslo:Central Bureau of Statistics of Norway,1987,chapter 5
持続的発展 Up sustainable development  たしか初出はブルントラント委員会報告(環境と開発に関する世界委員会,1987)であり、そこでは「現代の世代のニーズを満たしながら、なおかつ将来の世代が自らのニーズを満たす能力を損なわないような発展」と定義される。
 sustainableを「持続的」と訳すか「持続可能な」と訳すか「維持可能な」と訳すか、またdevelopmentを「発展」と訳すか「開発」と訳すかで、6通りの訳語があって当初混乱があったようにみえるが、少なくとも「持続可能な開発」という言葉は形容矛盾ないしオクシモロン(撞着語法=たとえば「公然の秘密」といったレトリック)ではないかというのが今日通説化しており、残る5つの中で、持続的発展(ないし持続可能な発展)という訳語がどうやらスタンダードになったようである。
『ピアス・レポート』(Pearce, Markandya and Barbier(1989))が「お母さんのアップルパイ」(さしずめ日本人にとっては、おばあちゃんの沢庵といったところか)と形容したように、持続的発展という言葉には誰にもケチをつけられない響きがあり、畢竟誰もがそうあってほしいと願う発展の形態である。
 しかし、経済と環境の間に横たわるトレードオフという名の暗くて深い川をこぎ渡るためには画期的な技術開発が必要であるとすれば、資源節約的な技術進歩などを含めた意味でdevelopmentを「開発」と訳すのもあながち間違いとはいえないのかもしれない。なまじ「開発」という日本語が国土の乱開発のようなイメージを想起させるのがいけないのだが、そういう意味の開発 [exploitation(en/fr), Ausbeutung(de)](内田(1966)やいいだもも(1982)によれば、この言葉は、人間をも目的語にとることのできる「収奪」という意味をもつ)なのであって、「開発」という訳語にさほど罪はないのかもしれない。
 ただし、「開発」という他動詞ではなく「発展」という自動詞にこだわる考え方の根拠には、環境を(そして人間さえも!)経済社会にとって必要なモノとして対象化し操作しようとする近代の発想そのものへの懐疑や、こうした「近代」の超克こそ必要との根源的議論も存在することを忘れてはならない。
 そもそも持続的発展を可能にするような技術の開発は原理的に不可能だと考える人も多い。その有力な根拠はエントロピー論である。資源節約的な技術進歩はエネルギー集約になるかもしれない。とりあえずエネルギーの投入を増加させないで資源利用の効率性(エコ・エフィシェンシー)を向上させることや再生可能資源によって枯渇性資源を可能な限り代替することが当面の、せめてもの、そしてどうしてもやらねばならない延命策であろう。
 森田ら(1992)の入念なサーベイによれば、「持続可能な発展」には論者によって山ほど定義があり、多くのファクターを考慮しなければならない。南北問題に代表される分配の問題もその1つである。誰のための持続性か、何のための持続性かを常に問うべきであろう。
 経済と環境の両立を定量的に考えようとした場合、GDPのような集計量で経済の指標を代表させることはかなり危険であるし、そもそもGDPは社会の厚生を測る指標ではない。また環境については、「環境基本法」に基づき指標体系の作成に向けて精力的な作業が行われている段階である。経済企画庁による帰属環境費用の推計は、解釈になお慎重な注意を要するものの、現時点で、環境に関する代表的なマクロ集計量に関する数少ないアプローチであるといえるかもしれない。ピアスとターナー(1990)が描いた、横軸に環境ストック、縦軸に生活水準をとった二次元の図は、非常にインストラクティブであって思考実験の宝庫であるけれども、実証のレベルで二次元に落として考えることのできる問題は限定されよう。
 いずれにせよ、最も基本的なサステナビリティというものは、生き残りを賭けた持続可能性 survival sustainabity であろう。50年間現状を安定的に維持し、あとは奈落の底という「持続可能性」を承認する人はいないだろう。  survival sustainability を保障する方法なり対策なりプロセスを明確に提示した論者はいないと考える。たとえばEl-Serafy流のユーザ・コストを積み立てておくような「持続的所得」の(姑息な)維持対策をとったとしても、化石燃料はいつかは枯渇する。そのとき積み立て基金を取り崩しても買える石油はどこにもない。しかしひとつの手がかりになりそうなのが、A.Senの「ケイパビリティ」概念の援用である(作間(1998))。作間によれば、「強い持続性」すなわちたとえば石油の埋蔵量を1バレルたりとも減らさずに将来世代に引き渡すことが、「(将来世代が)自らのニーズを満たす能力」を維持するために必要であるとはかぎらない。その理由として作間は、エコ効率性が上昇しうることに加えて、生活パターンなどの変化により、石油消費量が減ってもケイパビリティーは維持しうることを挙げている。(→効用風土
ノート:「development」の邦訳について(末廣(1998)より引用)
>development という英語には、「発展」と「開発」という2つの訳が日本では与えられている。「発展」はいわば自生的、内在的に自らもっている能力を実現していくという意味合いがあるが、「開発」の方は、外から力やエネルギーを加えて、人的能力や経済諸資源を有効利用するという意味の方が強い。
>後者の意味でdevelopmentを使うことは、19世紀のヨーロッパにも、もちろん存在した。都市開発計画や子供の能力開発といった使用法がそれである。ただし、「開発」という言葉は、当時もそしてその後も、キーワードとして使用されたわけではなかった。
ノート2:森(2003)
>これからの山村対策の基本的スタンスとして「振興」と呼ぶよりは「自立」という表現のほうが適しているように思われる。
>「振興」(promotion)という用語には、主体は外部(国)にあって…山村はこれに受動的に、客体的に行動するというニュアンス
>「開発」(development)…もほぼ同様の語意が含まれているように思われる。
>「発展」(development)となると、やや主体的なイメージが強まる
>「活性化」(activation)は本来、理化学の分野の述語で、ある種の刺激…を与えて機能を増大させることを意味する
>「自立」(independence)は…内発的、主体的な取り組みを意味する。
参考文献
いいだもも『エコロジーとマルクス主義』緑風出版,1982年
内田義彦『資本論の世界』岩波新書,1966年
環境と開発に関する世界委員会、環境庁訳(大来佐武郎監修)『地球の未来を守るために Our Common Future』福武書店,1987年
Pearce,D.W.,A Markandya and E.B. Barbier: Blueprint for a Green Economy, Earthscan Publication, London.,1989(邦訳、D.W.ピアス、A.マーカンジャ、E.B.バービア、和田憲昌訳『新しい環境経済学 - 持続可能な発展の理論 -』ダイヤモンド社、1994年)
Pearce,D.W. and Turner, R.K.: Economics of Natural Resources and the Environment, Johns Hopkins Univ.Press, 378pp,1990
森田 恒幸/川島 康子/イサム,イノハラ「地球環境経済政策の目標体系−『持続可能な発展』とその指標」『環境研究』88,1992年
作間 逸雄「わが国における環境・経済統合勘定の開発とその課題」『経済学論集[専修大]』31(3),pp233-305,1997年
吉田 文和「A.センの潜在能力アプローチと環境問題」『経済学研究[北大]』47(2),1997年
末廣 昭「アジアの『開発主義』−その成立と揺らぎ」『UP』307,1998年
作間 逸雄「”ケイパビリティー”で考えてみよう−保守主義・リベラリズム・ケイパビリティー−」『専修大学社会科学研究所月報』425,pp1-32,1998年
森 巌夫「分権下における山村自立の政策課題」『農村と都市をむすぶ』2003年6・7月号, p82-83
リンク
 持続的発展に関するウェブサイトは山ほどあると思われますが、 ブリュッセル自由大学の「環境に関する社会経済研究センター」によるリンク集だけおさえておけば、後はなんとでもなるでしょう。
 ケイパビリティー概念を提唱しているセンについてじつに詳細な情報を与えてくれる日本語ページとしては、筑波大学大学院 一木氏のページがあります。
質問票 questionnaire  センサス方式にせよサンプリング方式にせよ、多くの経済統計が、事業所・家計・農家など経済主体への質問票の集計によって最終的に作成されるのは周知であろう。種々の環境統計のなかで、少なくとも環境支出に関する統計調査は、経済統計同様、事業体や公共部門への質問票調査を行うのが有力である。欧州連合統計局(EUROSTAT)は、SERIEEの公刊と並行して、欧州各国の政府統計機関の協力を得て環境関連支出の分野での質問票の設計やサンプリングの方法等についてのパイロット調査を行い、その結果を当初内部資料として作成した(EUROSTAT,1994)。その後このドキュメントは EUROSTATにより公刊されている。
 質問票そのものはきわめて地味で統計実務的な存在であるが、その設計は、環境支出の種類によるサンプリングの最適な方法、ミクロの環境報告(環境会計)とマクロの環境統計(環境勘定)との接点の模索、など興味深いトピックと密接にかかわっている。 →環境支出勘定環境費用欧州連合統計局
参考文献
(下記2文献は、EUROSTATのSales Publications Listに掲載されています)
EUROSTAT (Blaazejczak,J/Edler,D./Charlot,H.P.): Environmental Protection Expenditure: Data Collection Methods in the Public Sector and Industry, 73pp, Sep.1994
EUROSTAT (Jantzen,Jochem): Environmental Protection Expenditure: Data Collection Methods in Industry. Industry Report, 146pp, Sep.1994
SAM(社会会計行列) Social Accounting Matrix  SAMは、93SNAで「供給・使用表と制度部門勘定との関係を詳細に示すSNA勘定群の行列表示」と定義されていることからもわかるように、所得分配面を詳細に展開したNAM(SNAの行列表示)である。
 SAM研究の契機は1970年代初頭に遡る。当時、ILOの世界雇用計画(World Employment Programme:WEP)は、社会内部の種々の集団の生活水準や雇用状態が明確にされない限り経済成長は政策目標として意味をなさないという考え方を持っていた。そしてこの観点から、コロンビア、スリランカ、イラン等の発展途上国において所得分配や雇用機会に関する情報システムとして、SAMの開発が進められた。
 このようにSAMは単なるNAM(国民勘定行列)ではなく、詳細な所得分配勘定をもったNAMであるが、しばしばSAMはNAMをも含む概念として用いられている。
 SAMについては近年、SAM乗数モデルやSAMベーストCGEモデルの開発が進められており、単にデータを収納するためのフレームワークとしての役割以外に、モデル分析のためのフレームワークとしての役割も期待されるようになっている。 (有吉範敏
参考文献
Pyatt,Graham/Round,J.I.:Social Accounting Matrices for Development Planning, Review of Income and Wealth 23(4),1977
Pyatt,Graham/Round,J.I.,eds.: Social Accounting Matrices:A Basis for Planning, World Bank,1985
作間 逸雄「改訂SNAのフレクシビリティー−サテライト勘定を中心に−」『季刊国民経済計算』100, pp7-29, 1994年
金丸 哲(1997)「社会会計行列;武野秀樹・金丸哲『国民経済計算とその拡張』第9章所収
使用者費用 user cost ユーザ・コスト
真の所得 true income ユーザ・コスト
森林統計 New forest statistics (en)、Forststatistik (de)  林政学の草創期において当時のドイツ林学を紹介した川瀬(1903)は、国の林政において立法や管理の基礎を確定するために試験研究に加えて統計が重要であるとし、調査すべき事項としては、1)森林生産、2)林産物消費、3)林産物運搬、4)森林教育、をあげている。このうち森林教育については、重要だが実際には国有林の管理者に関する統計情報程度にとどまっている国が多いとしている。生産を「林産物」とせず「森林」と呼ぶところが通常の経済統計との差異であり、林地や森林全体に関する自然科学的な調査データを含みうる。
 農林省所管の公施設法人IFNによる恒常的な森林調査体制を整えているフランスで、最初の近代的森林資源調査が行われたのは、1910年代のことで、その結果は『フランス森林の統計およびアトラス』(1912)にまとめられた。その後、1958年の法令によりこうした森林調査を恒常的に行う機関の設置が定められている(森林法典第521条)。フランスの場合、通常の経済統計に類似した川下の林産物統計はSCEESなどの別組織により事業所への質問票によって実施されている。
 日本の森林・林業統計については、下記参考文献を参照のこと。
環境統計
参考文献
甲斐原一朗(1953)「林業−いわゆる山林地主の実態」『日本農業の統計的分析』(近藤康男編)
熊崎 実(1967)「林業発展の量的側面」『林試研報』201, 174p
安藤 嘉友「林業統計発達史(1)」『林業経済』229、1967年
安藤 嘉友「林業統計発達史(2)」『林業経済』230、1967年
餅田 治之・柳幸 広登(1987)「主要林業統計目録」『林業経済研究所四十年のあゆみ』所収
志賀 和人(2000)「林業統計と林業構造分析」『森林・林業・山村問題研究入門』所収
ストック stocks  かつて大隈重信は「凡そ国家の力なるものは、一夜の間に生ずるものに非ず。道徳、学術、富、皆、祖先の辛苦経営に成れるものなり。」とのくだりに始まる「序」を日本初の国富調査(五十嵐,1906)に寄せている。国富(一国のストック)はGDPに代表される一国の経済フローの源泉であるという以上に、国力そのものであると考えていたのかもしれない。
 自然環境や森林を考える上においてもストックが重要であることは論をまたないであろう。山間部に荒廃地の多かったといわれる明治時代に中村弥六・土倉庄三郎は『林政意見』(1899年5月)において、森林政策に対する今なお新鮮な提言をいくつか行っている。いわく、1)殖林(植林)の推進、2)国有林の一部を分割公有私有化、3)「深山幽谷に死蔵せる天富を利用」、4)山林・土木行政を合併して山川省を設置。こうした手段によって、a)国庫に一大富源を得る、b)地方財政に基本財産を生じることによる財政基盤の確立、c)山村貧民に生業を創出、d)木材の供給と輸出の推進、e)洪水旱魃防止による農民の利益の増進、といったスキームが実現するとした。提言の是非はともかく、「深山幽谷に死蔵せる天富」、国庫の「一大富源」といった表現にここでは注目したい。
 環境資源ストックは、経済活動への投入フローと直接結びついていないことがある。枯渇性資源、たとえば鉱物資源を考えると、地中深く眠っているものや、アクセス可能だがたまたま見つかっていないものもある(→マッケルビーの箱)。一方、今日の奥地原生林のように、木材資源のフローとしてはおそらく今後とも使用不能であっても、その存在自体が人間にとって価値をもち、あるいは野生生物の生息の場として、あるいは生態系そのものとして、貴重な存在である場合もある。また、水のように、他の環境資源の存在にとって不可欠な媒体としての環境資源もある。このように、環境資源のストックは、かりにそれが経済活動への投入という意味での使用 use を伴わない場合であっても、潜在的な利用可能性、存在価値 existence value、媒体や場としての機能をもつことが多い。森林・水・土壌といった環境資源のストックは、それが食いつぶされないよう監視するという動機だけでなく、そのプレゼンスの大いさというただ一点によっても、つねにその質や量を把握しておく必要があろう。これとは別に、大気や海洋などへの経済活動による廃物の累積量もストックとして把握されるべきである。
 ストック調査には少なからぬコストがかかるが、商店では定期的に店卸(棚卸) inventory を実施することで、意思決定に役立てている。経済統計において(インヴェントリーに基づく)国富調査の再実施が望まれているように、森林、水、土壌などの自然環境については資源調査 natural resource inventory の早期実施が望まれる。→フローとストック資産マッケルビーの箱可視性
参考文献
五十嵐 栄吉『日本帝國之富力』保険銀行新報社,362pp,1906年
土倉 祥子『評伝 土倉庄三郎』朝日テレビニュース社,pp90-103,1966年
リンク
フランス森林資源調査局 INVENTAIRE FORESTIER NATIONAL(IFN):INVENTAIREは、英語のinventoryに相当する仏語。『自然遺産勘定』(1986)第4章「森林勘定」はIFNの局長が責任執筆者となり、1県の立木の詳細な財産目録などを呈示した。この内容については、古井戸 宏通「環境資源勘定およびその利用」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』所収に詳しい。(→自然遺産勘定
生態会計 ecological accounting?  国際的にもほとんど研究の連携が図られていないマクロの環境勘定とミクロの環境会計という2つの分野の双方を視野に入れ、両者の詳述・比較対照を試みているおそらく唯一のアプローチ。合崎(1983)により提唱され、河野(1998)によってその全体像が示された。なお、ミュラー=ヴェンク(1994)のいうエコロジカル・アカウンティングはミクロの環境会計に重点を置いており、河野とはニュアンスが異なるようである。
参考文献
合崎 堅二「生態会計の構図」『会計』124(5),1983年
Mueller-Wenk,Ruedi、宮崎 修行訳『エコロジカル・アカウンティング Die oekologische Buchhaltung』中央経済社,192pp,1994年
河野 正男『生態会計論』,森山書店,411pp,1998年
河野(1998)への書評は、上田俊昭 「<書評>河野正男著『生態会計論』」『産業経理』59(1),pp90-,1999年、八木裕之「<資料・書評>河野正男著『生態会計論』」『会計』155(5),pp155-,1999年、小口好昭 「書評/『生態会計論』河野正男著」『JICPAジャーナル』1999年5月などがある。
SERIEE(せりえ; 環境にかかわる経済データの収集に関する欧州体系) Europen System for the Collection of Economic Data on the Environment (en) EUROSTATにより開発され1994年に公刊された。1)環境保護支出勘定、2)資源使用・資源管理勘定、3)エコ産業記録システム、4)特徴的活動の投入産出分析、の4つのモジュールからなる。なお、SERIEEの名称は、 SYSTEME EUROPEEN de RASSEMBLEMENT de l'INFORMATION ECONOMIQUE sur l'ENVIRONNEMENT という仏語の頭文字からとられている。 →環境支出勘定
参考文献
EUROSTAT:SERIEE 1994 version. European System for the collection of economic data on the environment,EUROSTAT.statistical document,195pp,Sep 1994

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
地域勘定 Up regional accounts  厳密な定義を筆者は知らないが、国民勘定の地域版としてみた場合、理論的には、国レベルの勘定の作成方法をそのまま地域データに当てはめて良いかどうかという比例的アナロジーへの批判があるほか、地域と全体(全国)、地域同士の交易の扱いといった問題がある点は、地域版SAM地域版SEEAにも共通しよう。地域分析への勘定的アプローチとしては、「社会会計的分析方法」による紙野・吉沢(1966)などの先駆的研究があり、内容的にみて、倉林・松田(1981)的意味でのサテライト勘定の地域版であると言えそうである。
参考文献
紙野伸二・吉沢四郎「岐阜県不破郡今須村」(林野庁指導部研究普及課編『林業改良普及事業の経済的研究』所収),1966年
Walters,R.:A Framework for Regional Accounts: An Australian Perspective,Review of Income and Wealth 33(4),pp401-416,1987
Capron,H./Thys-Clement,F.:Regional Accounts in Action:Concerning Methodological Problems from a Belgian Perspective, Review of Income and Wealth 38(1),pp81-92,1992
Franz,A.:Some Thoughts on System of Regional Accounts,Stat.J.UN ECE 10,pp17-45,1993
鈴木 多加史「新しい地域経済計算の構築に向けて」『日本地域学会年報』 ,
本田 豊/中澤 純治「市町村地域産業連関表の作成と応用」『立命館経済学』49(4),pp409-434
地域版SAM regional SAM(?)  各種地域統計の整備されている空間的単位が地方自治体であるということにより、地方自治体レベルの推計作業が最も容易になるわけだが、環境問題の方から発想すれば、たとえば流域や湖沼のような空間的単位を考えることに意味が出てくるかもしれない。小倉・山本(1996)は「地域とは何か」という問題から説き起こして具体的な推計作業を示しているものの、現実には茨城県八郷町という1つの自治体レベルでの推計を行っている。ただし市町村レベルの推計そのものがそれほど容易ではなく、それ自体が自治体の意思決定にとって有用であることは疑いない。 →SAM地域勘定
参考文献
小倉 波子・山本 伸幸「農山村の経済循環構造−SAM(社会会計行列)による接近−」『産業連関』7(1),pp47-63,1996年
山本 伸幸・小倉 波子「農山村SAMの展開−環境セクター・公共セクターへの拡張の可能性−」『地域学研究』28(1),pp231-241,1998年
地域版SEEA regional SEEA  一般に、環境問題の少なからぬ部分は地域の問題であるから、環境勘定の地域版の作成は、地域レベルの意思決定に有益な情報をもたらすと考えられる。経済企画庁による日本全国版のSEEA(Ver4.2)推計におおむね即した形で、2000年1月現在、富山県(青木・桂木・増田(1997))のほか、北海道、東京都などで推計作業が行われている模様である。地域版に固有の推計上の問題としては、移出入の推定方法、公害(または環境アメニティ)の発地と受け手の空間的ズレや運輸にともなう排気ガスの扱い、などがあげられよう。 →SEEA地域勘定
参考文献
鈴木 多加史「地域における環境勘定」『地域学研究』26(1),1996年
青木 卓志・桂木 健次・増田 信彦「地域における環境・経済統合勘定−富山県の場合」『研究年報[富山大日本海経済研究所]』22,pp1-57,1997年3月
リンク
- 富山県における推計の概要
- 上記推計に関する桂木先生のコメント
調査票 questionnaire 質問票
トークン会計 Up token account(?) 【参考にならない解説】文字の前に会計があった、という衝撃的理論を提示したドゥニーズ・シュマント=ベッセラ(フランス風に発音した場合)はフランス生まれの考古学者である。筆者がフランス・ナンシーの学寮で生活していた時、共用の洗濯機は「トークン」と呼ばれる専用の硬貨風メタルを入れないと動かなかった。トークンの総枚数は決まっている。トークンの配分ルールは不明だったが、これを配分する係の学生が決まっていて、1回に貰える枚数も決まっており、無くなるとその人のところにまた追加を貰いに行く。学生は洗濯機から随時トークンを回収して自室にストックし、こうした要請に応える。追加を「ダメ」と断わられたことは殆ど無かったが、むしろ係の学生が不在のことが多くて困った。係は「小さな権力」(フーコー)を持っていたのかもしれない。シュマント=ベッセラが出土品に「トークン」と命名したとき、これに類した体験が基になっていた可能性は否定できない。これだけでは「トークン会計」についての説明には全くならないので、下記の諸文献を参照のこと。
参考文献
小口 好昭「トークン会計の現代的意義−シュマント-ベッセラ理論の波紋」『会計』148-2,1995年
小口 好昭「数と文字の祖形としてのトークン会計−ドゥニス・シュマント-ベッセラ理論の研究」『経済学論纂[中央大]』36-1/2,1995年
D.シュマント=ベッセラ著、小口好昭・中田一郎訳『文字はこうして生まれた』岩波書店,201pp.,2008年
土地利用・被覆勘定 Land Use and Land Cover Accounts
 国土保存則に基づき、土地の利用と被覆の変化を面積(haなど)単位で表示するもの。
 本来「土地勘定」はもっと包括的な概念であり、フランスの自然遺産勘定フレームワークの中ではかなり重要な位置を占めている。途上国の農業開発への応用例としてドラヴィ(1989)の示した「土地の遺産勘定」フレームワークは、非常に包括的であり、欧州やIIASAなどで取り組みの進められている土地利用・被覆勘定は、ドラヴィのこのフレームワークの一部を構成すると考えられる。国際機関による取り組みは、いかなる国でも利用できるリモートセンシングデータに依拠した土地被覆分野に絞られがちである。リモートセンシングデータは、1970年代初頭以前のデータを欠いており、過去に遡及して土地利用変化を分析するには限度がある。この点、地図に記された土地利用区分の記号を経年的に入力することによって長期的な土地利用変化を追跡したものに、日本の「氷見山プロジェクト」(1992)がある。
 所有構造の変化については、土地台帳などの所有単位のデータをデータソースとして土地利用変化と併せて追跡することが可能であり、この分野については農業経済学(松岡(1995))、林業経済学(岡田(1988))や会計学(河野(1985))など、社会科学における事例研究がみられる。
 一般に、土地勘定が勘定としてクローズするためには、期首の土地区分が期末の土地区分のそれぞれにどう振り分けられたかという数字と、期末の土地区分が、期首に遡るとどの区分に行き着くかという数字の両方が必要である。このことはマトリクスで表示すると容易に理解できる(詳しくは山本(1997)を参照のこと)。
 土地に帰属するデータを入力・編集・解析する過程においては、GIS(地理情報システム)やLIS(土地情報システム)がツールとして有用である。GISを用いて、土地利用が地域間の利害にもたらす影響を分析したものに、オーストラリアのYoung(1990、矢部による邦訳1993)の研究がある。ノルウェーの自然資源勘定フランスの自然遺産勘定においても早くからGISの利用が示唆されていたものの、マクロレベルでの利用はまだ限定的であり、研究段階にとどまっているようである。
 広義の土地勘定においては、人間の経済活動の境界(所有界,地籍界)と生態的ないし土地利用の態様による境界とのマッチングが大きなカギとなろう。
参考文献
河野 正男「土地需給と地域社会会計」『会計』127(1),pp129-50,1985年
岡田 秀二「窮迫する山村の対応(その二)−巨大開発構想の地域林業への影響と地元の対応」『農林統計調査』1988年1月
Dravie,A.:Attempting a patrimony account for land in Ivory Coast:information system and agricultural development, Statistical J.UN ECE 6, pp27-50, 1989
Young,M.D.、矢部 光保訳・解題「自然資源勘定」Natural Resource Accounting. in Commons,M./Dover S.(1990),『農総研季報』9,pp47-62,1993年
氷見山 幸夫(編集代表)『日本の近代化と土地利用変化』文部省科研重点領域研究,58pp,1992年
松岡 淳「耕地分散に関する経営経済的研究」『愛媛大学農学部紀要』39(2),pp207-307,1995年
山本 伸幸「自然資源勘定における林地の扱い」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp99-122
古井戸 宏通「ゾーニングをめぐる諸問題−林地利用に対する公的関与−」『林業経済』633,pp15-29,2001年
リンク
 土地勘定は陸地のみならず海面にも拡張しうる。日本海の重油流出事故をきっかけに、「重油災害GIS」の構築による環境勘定への情報提供がこちらの北陸地域情報ネットワーク「oilML」にて議論された。なお、文中「柏木先生」とあるのは「桂木(健次)先生」のことであろう。
トレード・オフ trade-off  持続的発展を目指すと言っても、環境と経済はある意味で必ず「あちらをたてればこちらが立たず」というトレードオフの関係にある。目の前で起こっている環境破壊に対して「なんとかしなければいけない」というのがこの分野の研究の出発点であると同時に、見えにくいところでヒタヒタと進行している環境の悪化をどうやって目に見えるように、かつ経済活動とのつながりがわかるように表章するかが、環境勘定の最大の課題の1つであると言ってよい。
 さらに、勘定アプローチのメリットとして、種々の環境問題相互間の関係をも(因果関係としてではなく構造的に)表章することができることがあげられる。環境の情報をユーザに見えやすくするという意味では環境指標アプローチも有力だが、鵜野公郎の言葉を借りれば、指標は「wish list」になりやすい(経企庁編(1995))。つまり指標間のトレードオフ、資源や予算の制約が軽視され、「どの指標も満点に近づけるべき」といった理解がなされがちである。→可視性
参考文献:
経済企画庁経済研究所編『SNAサテライト勘定に関する特別研究会報告』1995年3月

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
ナイロビ・グループ The Nairobi Group(?)  国連のSEEAを各国において実施に移す際の実務的な簡易マニュアルを作製し、1999年1月8日締め切りで広く意見を求めているという。詳しくはこちらのホームページを参照のこと。
NAMEA(環境勘定を含む国民勘定行列) National Accounting Matrix including Environmen- tal Accounts  オランダ統計局のS.J.Keuningを中心とする研究グループによって提案された環境・経済統合勘定体系で、その基本構造は、貨幣・物的両表示の経済勘定(SAM:正確にはNAMだが、今の場合どちらでもよい)の外側に物的表示の環境勘定(自然資源の投入量、汚染物質の排出量およびそれらの環境テーマ別負荷指標)を付加したものとなっている。勘定構造の詳細については標準型が示されているde Haan and Keuning (1996)を参照されたい。
 我が国では経済企画庁が国連のSEEAに沿った調査研究を行っていることもあって、SEEAに比較してNAMEAに関する情報は決して多くない。しかしながら、NAMEAは、それが持つ当面の環境政策への直結性および指標表示の簡潔性のため、欧州諸国を中心にかなり浸透しており、国際的にはSEEAよりポピュラーな勘定体系となっている。
 SEEAに対するNAMEAの長所は、たとえば以下のように整理することが出来るであろう。

1.推計に時間とコストを要するストック勘定を省略する代わりに、フローの変化量の記述を持ってこれに代替する。そのため、比較的低いコストで迅速に推計を行うことができる。
2.地球温暖化やオゾン層の破壊、酸性化等々といった現在話題になっている環境テーマに焦点を絞り、これらのテーマに関係する汚染物質の排出量と資源投入量を経済勘定の外側に物的単位で表示する。直接的で分かり易い。
3.各環境テーマごとに、各排出物の環境負荷指標を計算し勘定体系上に記述するようになっており、政策的利用への配慮がなされている。

 一方、勘定構造の観点からみたNAMEAの留意点としては、次のような点を上げることが出来るであろう。 ただし、これらの点は、上記したNAMEAの長所を脅かすものではない。

1.汚染物質の排出量と資源の投入量が経済勘定の外側に物的単位で表示されており、SEEAのように貨幣単位で経済勘定と環境勘定の両方を統一的に表示する体系にはなっていない。ちなみに資源の投入は、経済フローであり、本来ならば経済勘定内に記帳されるべきものである。
2.SAM形式、すなわちすべての行と列の組について行和=列和となるように記述されているのは貨幣表示の経済勘定だけで、物的表示の項目については、必ずしもすべての行と列で行和=列和が満たされている(質量保存則を満たすように物質循環が表示されている)わけではない。
3.NAMEAの標準型を提示しているde Haan and Keuning (1996)にはストック勘定が組み込まれていないが、たとえば、経済勘定の外側に付加されている物的表示の環境勘定に、水や地下資源などのストックを記帳することは可能であるし、実際、海外ではそのような試みもある。しかしながら、水や地下資源は土地とともに非育成経済資産であり、したがってこれらの項目は本来、育成経済資産としての森林等とともに、経済勘定内で、物量・貨幣の両面から、様々な経済フローとの関連の中で記録されるべきものであろう。(つづく) (有吉範敏

参考文献
de Haan, Mark and Steven J. Keuning (1996), "Taking the Environment into Account: The NAMEA Approach," The Review of Income and Wealth, Series 42, No.2, pp.131-148. なお、NAMEAについては、 Structural Change and Economic Dynamics, Volume 10, Issue 1, 1999 が特集を組んでおり、"A Japanese NAMEA"(by Toshihiro Ike)を含む各国の取り組み例を紹介している。

リンク:
上記 "A Japanese NAMEA"の著者である池 俊廣氏のホームページ
オーストリア統計局が作成した1994年版NAMEA(大気汚染に関するもの)(独語)

ノウマンクレイチャー nomenclature 分類一覧表

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
PAFEE(ぱふぃー) PAFEE (Physical Accounting Framework for Environment and Economy)  GAMEEを構成する物的勘定体系。物質/エネルギー保存則に依拠して、自然環境から経済への物質の投入、経済過程におけるそれらの変換・利用・蓄積、および自然環境へのそれらの回帰、といった物質循環を網羅的・整合的に示す。ただし、物質の自然環境内部での変換過程は記録の対象外。自国、海外諸国、およびグローバル・コモンズのそれぞれのマテリアル・バランスの他に地球全体のマテリアル・バランスも整合的に記録する仕組みになっている。また、併せて、自然資源および負荷物質の期首ストック、期中フローおよび期末ストックについても整合的に記録する。PAFEEはSNAおよびMAFEEと同じ勘定フレームワーク上に表示されるので、物質循環の個々の局面がどのような経済活動に伴って生じたものであるかを容易に確認することができるとともに、MAFEEの貨幣データ作成にあたってはPAFEEの物的データを利用することが可能となる。PAFEEもまた海外諸国やグローバル・コモンズへの環境負荷を整合的に記録できるフレームワークになっているが、そうしたデータの収集は今後の課題である。 (有吉範敏
PIOT(ぴおっと;ドイツ物的産業連関表) PIOT (Physische Input -Output -Tabellen)  SEEAの策定にもかかわったドイツ連邦統計局のC.Stahmerらが開発した物的産業連関表。連邦統計局が1989年以来持続的発展を指向して開発している環境経済計算の5つの領域のうちの1つである「物的およびエネルギーフロー計算」分野の成果。主として、「物的投入表」「物的産出表」「物的連関表」の3表からなる。あらゆる物質をトン単位で記録し、経済だけでなく、経済と自然との相互関係や新陳代謝過程をも可能な限り表章することにより、質量保存則に依拠した投入と産出のバランスが図られる。 →勘定の役立ち
参考文献
良永 康平「ドイツ物的産業連関表の構想と分析−経済活動と自然環境」『経済論集[関西大学]』48(3), pp273-302, 1998年
Stahmer,Carsten/Kuhn,Michael/Braun,Norbert、良永訳「1990年物的産業連関表」,『統計研究参考資料[法政大日本統計研究所]』57, 81pp, 1998年5月
Stahmer,Carsten、良永訳『環境の経済計算−ドイツにおける新展開 Umweltwirtschaftliche Gesamtrechnungen』ミネルヴァ書房, 264pp, 2000年
リンク
ドイツ統計局サイト中のPIOTの解説(独文) 同(英文)
風土 Up (MILIEU)  貨幣勘定に対して物的勘定という場合、フィジカル(物理的)なのかマテリアル(物質的)なのかで意味が違うという話を以前さる研究会で聞き、なるほどと思ったものの、どう違うのか頭の整理ができないでいるうちに、作間(1999)の提起した「風土の持続」という概念に出会った。
「従来、環境・経済統合会計が会計の対象としてきた自然・人工資産の無名のストック以外に、風土に含まれている、さまざまな<もの>や<こと>がある。それらのあるものに対しては、それを保存・保持することに関して社会的合意が成立するかもしれない。そうした<もの>や<こと>の維持を会計的説明の対象としてゆくべきであろう。」(太字引用者)
 このぐらい基礎的な概念に立ち返って考えるのは意義深い。氏はここから森林について「『森林』も、『林業』という『産業』として見るのではなく、維持の必要な<もの>のひとつとして見るべきかもしれない」としている。例としては多少矮小化しているかもしれないが、三保の松原や松島のマツを、内陸部のマツと同様に、「マツ○○m3」として記述するだけで十分か否かを考えてみる価値はあるだろう。海岸景勝林の多くは、幕藩期に篤志家等によって造成された歴史を有し(たとえば小口(1956))、現在では治山事業、マツクイムシ防除対策事業、ボランティア団体の活動等によって保全されている。ストックの「名前」には、人々がかかわってきた歴史や空間のひろがりが含まれているといえよう。フランスでは19世紀にナポレオンIII世が、大西洋岸ガスコーニュのランド地方 Landes において植林事業に着手し、その後200万haの大造林事業となり、その後常に森林火災とのたたかいが進められていることは種々の文献(たとえば栗田(1997)、沼田(1997a)、沼田(1997b)、沼田(1997c))の紹介するところだが、自然遺産勘定プロジェクトにかかわって、フランス環境省(1987)は『ガスコーニュ、ランド地方の松の勘定(第1部:物的勘定)』を作成している。おそらく第2部以降に歴史や文化的・生態的な側面の勘定化が構想されていたのではないかと推察されるが筆者は確認していない。
 持続、維持、保持、保存 preservation、保全 conservation、保護 protection、保続 Nachhaltigkeit、といった諸概念の明確化という古くて新しい課題も、その対象概念の明確化と併行してなされるべきなのであろう。 →持続的発展
参考文献
作間 逸雄「ベルクの『風土』をめぐって」『専修大学社会科学研究所月報』438,1999年12月
小口 義勝『海岸砂防先覺者伝』林野共済会, 81pp, 1956年
栗田 啓子「フランス・ランド地方の土地改良事業と土木エンジニア−第二帝政期における国土開発との関連において−」『経済と社会[東女大]』25, pp1-18, 1997年
沼田 善夫(1997a)「ランド地域での火災との戦い」『現代林業』130, pp44-45
沼田 善夫(1997b)「ランド地域での火災とのたたかい」『現代林業』131, pp44-45
沼田 善夫(1997c)「ランド地域での火災とのたたかい(3)」『現代林業』132, pp44-45
Ministere de l'Environnement (1987): Les comptes de la foret des Landes de Gascogne - Premiere partie: Comptes physiques (Comptes annuels 1962-1984 et projections), 24pp.
評価 evaluation 「勘定」accountingという言葉からは「ゼニ勘定」といった日本語を連想しやすい(すくなくとも筆者はそうだった)。「環境をお金に換算する」という素朴な発想は、米国を中心に、新古典派経済学の応用である狭義の「環境経済学」を産みだし、旅行費用法、CVM、ヘドニック評価法などの手法が開発されている。このうち国民経済計算(国民勘定)における取引価額と比較できるようなマクロレベルの「評価」が可能なのはおそらくヘドニック法のみであり、これもデータの制約により推計は難しい。SEEA(Ver4.2)では帰属環境費用の推計を推奨しており、日本の経済企画庁も、維持費用法による帰属環境費用の推計を行っている。
 フランス統計経済研究所(INSEE)は、1986年に公刊した『自然遺産勘定』の第6章をこうした評価手法の検討にあて(E.ARCHAMBAULT執筆)、検討の結果一元的な評価を断念したようである。自然遺産勘定によれば、どんなに集計度を上げても、評価は、1)生態的評価、2)社会文化的評価、3)経済的評価、の3つ以上に集約することはできない。倉林義正によれば、国民勘定や自然遺産勘定の発想は、一元的な評価ではなく、「つながりにおいて評価する」ことである。そうであれば、評価が貨幣タームで行われる必然性はなく物量データを含む複数の単位系の勘定(accounts)が相互に関連しあうようなシステムを考えることができよう。 →社会会計行列NAMEAGAMEE国民勘定行列国民勘定体系INSEEグリーンGDP
表章 representation (en)
(仏語も同様だがpreのeにアクサン・テギューが付く。右の解説においても同様)
 一般に、フランス語の動詞 presenter は、相手の知らないことを示したり、知らない人を紹介したり、見たことのない物などを見せたりすることを意味し、その名詞形 presentation は「呈示」などと訳されるようである。これに「再」という意味をもつ接頭語の"re-"がつくrepresentationの原意は、『プチ・ロベール』によると、図表その他のさまざまな表現形式を用いて、見えにくい現実を「眼前に置く」ことであるとされる。presentationとrepresentationの違いはこれだけではわかりにくい。おそらく、一見みえているが実はみえにくいものを、なんらかのくふうをすることで「眼前に置く」のがrepresentationであり、それ以前に、新しく推計された生の統計数値を公表するような開陳作業によってとりあえず全然みえなかったものをみえるようにすることがpresentationなのであろう。いいかえれば、単に新しい数字を公表することはrepresentationではないし、既知のデータでも、その意味を見えやすくすることはrepresentatonなのかもしれない。
 倉林義正によれば、SNAは「会計の形式を借りた経済社会の統計的表章」である。実際、93SNAにおいては、II章13段に、「利用者の必要性から勘定フレームワークに対して課せられる要件」の1つとして「経済生活をバランスよく忠実に表章」することを挙げている。ここでは、恣意的に選ばれたいくつかの指標的統計データを開陳・呈示することではなく、経済生活の特定の分野に偏ることのない忠実な(faithful)表章がフレームワークに対して要請されていると解釈できる。表章における「バランスのよさ」「忠実さ」は、公的統計の要件の1つとされる正直性(integrity)と関連がありそうである。
 representationを勘定において「表章」と翻訳したのが誰か、判らない。同じ言葉が、哲学において「表象」「再・現前」、政治学においては「代表」などと訳される。とくに政治学における代表の問題は、議会が国民の意思を代表しているかどうか、といった文脈で論じられ、これは、勘定が、対象となる環境や経済をバランスよく代表しているか、といった議論を構築するヒントとなるかもしれない。哲学的には、presentされたモノは、それだけでは「実在」ではなく、representationの働きを経てはじめて認識されうる、といった議論をするようであるが、このあたりを正確に論じる能力は筆者にはなく、今の一文すら誤っているかもしれない。ただ、環境勘定が環境を表章しうるかどうかといった問題において、測定される種々の「実在」を前提せずに議論を説きおこし、representationを哲学用語と同様な厳密さで扱うことの実用的メリットがあるとすれば、それは、分類(nomenclature)の議論の文脈においてであろうと筆者は目下考えている。→勘定の役立ち
謝辞:本項目の執筆においては、ecostatメーリングリスト(経済統計学会会員有志による)における1997年2月〜3月頃の非常に活発な議論、とくに山田満の示した膨大な知見がその契機となっている。マルクス派フランス人経済学者による国民経済計算と生産統計との関係に関する議論、ドイツ語における Vorstellung と Darstellung の違いとアルチュセールによるそのフランス語訳などといった、かなり突っ込んだ議論が展開されたが、そのほとんどが筆者にとっては未消化であり本稿が浅薄な記述となっていることを率直に記し、これを補うために山田によって挙げられた文献を以下に掲げておく。
参考文献
Delaunay,J.-C.:Essai marxiste sur la comptabilite nationale, Editions sociales, Paris,1975
Ian Hacking:Representation and Intervening, Cambridge Univ.Pr.,1983
Piriou,Jean-Paul:La comptabilite national, nouvelle edition,coll., Editions La Decouverte, Paris, 1991
アルチュセール他『資本論を読む 上・中・下』ちくま学芸文庫
アルチュセール『マルクスのために』平凡社ライブラリー
物質・エネルギーバランス Material /Energy Balance
参考文献
Kneese, A./Ayres,R./d'Arge,R.:Economics and the Environment: A Materials Balance Approach.,120pp,RFF/Johns Hopkins Pr.,1970
槌屋 治紀「地球環境とグローバル資源テーブル」環境研究78,pp83-91,1990年
山本 伸幸「森林資源勘定−アメリカ合州国における試行−」,永田信(研究代表者)『日韓の森林関連産業に環境問題が与えた影響の比較分析』平成8〜10年度科学研究費(国際学術研究)研究成果報告書,1999年3月,pp183-196
森口 祐一編著『マテリアルフローデータブック〜日本を取りまく世界の資源のフロー』国立環境研究所/地球環境センター,1999年3月
リンク
環境資源データフロー図表示システム(RDF):国立環境研究所の開発した、資源・エネルギーバランス表形式で書かれた物的勘定表を流れ図の形で表現するためのUNIX専用ソフトウェア(無料)。1994年秋にパリで開かれたOECDの環境勘定に関するセミナーで国立環境研の森口祐一氏がこのソフトを用いた発表を行い、好評であった。
物質・エネルギー保存則 Conservation Law of Material /Energy (?) 物質・エネルギーバランス
フランス国立統計経済研究所 INSEE INSEE
フローとストック flows and stocks (en)
FLUX et STOCKS (fr)
 白川・井野(1994)に、水道の蛇口と浴槽を描いた判りやすい説明図がある。蛇口から1分間に一定量浴槽に流れ込む水の量は文字通りフロー量であり、浴槽にたまった水の量をある一時点において測定したのがストック量である。最近流行の地球温暖化がらみの炭酸ガス推計の分野ではフローと言わず、仏語風の英語語彙であるフラックス(ただし仏語の発音は「フリュ」)を用いることが多いようである。
 経済統計におけるフローは期間概念であり、ある一定期間(通常1年)の変動量としてとらえられる。つまり、T期の期首ストックをST、T+1期の期首ストックをST+1とすると、T期における期間フローFTは、FT=ST+1−ST(ストックの差分)として定義される。これに対して、自然科学分野におけるフローは、通常、ある一瞬の微少な変化量としてとらえられる。つまりFT=dST/dT(ストックの時間微分)として定義されることになる。
 会計は、ストック量と(ストックの差分としての)フロー量を峻別し、かつこの2つをつねに整合的に関連づけながらデータを蓄積していく情報システムである(→勘定の役立ち)。複式簿記を拡張した「三式簿記」を考案した井尻は、企業会計におけるフローである損益をさらに微分することで、企業の損益の瞬間的な増減率(「利速」)に関する情報がえられるとしている。
 内藤(1981)は、環境指標をさまざまな観点から体系的に分類する中で、分類軸の1つとして時系列による分類を提示した。そこでは、井尻よりも多くの種類の時間微分・時間積分量を5通り(F''、F'、F、S、∫SdT)示している。自然環境の表章のためにこれらすべての情報が必要であるとすれば、理論上、いわば「五式簿記」に依拠する環境勘定が必要だといえるかもしれない。現実的にはFとSを示すことだけでも十分な意義があるし、それだけでも結構大変な作業である。
 自然環境のストックに関する情報は、経済情報のそれにもまして重要であり、もはや社会経済のありようを把握し考えるために不可欠になっている(→渋川(1977)、可視性)。また、上記浴槽の例でいえば、さまざまな分析目的のために、水質や浴槽内の温度分布、位置エネルギー分布といった詳細な質的・空間的情報が要求される。このような詳細な情報は、環境勘定においては水なら水の分類という問題にかかわる。
 ストックに関する情報は、その重要性にもかかわらず、環境統計はもちろんのこと、経済統計に関しても充実しているとはいえないようである(黒田(1989)、経済企画庁経済研究所編(1995)倉林論文)。近年のストック統計の多くは、ST=ST-n+(FT-n+…+FT-1)として計算されているという。ストック量とフロー量を別々に計測することによってはじめて統計上の誤差やミッシングリンクを発見することができるのであって、過去(n年前)に測定したストック量にその後のフロー量を積み上げて現時点のストック量を計算するのであれば、見た目には100%整合性のある数字が得られるけれども、信頼できるかどうか判らない。この数字を信頼すると言うことは、ある時点で財布の中身を調べておき、その後、家計簿を完璧につけておけばいま財布にいくら入っているか見なくても判る、と言うこととさして変わらない。→ストック
参考文献
五十嵐 栄吉『日本帝國之富力』保険銀行新報社,362pp,1906年
安井 正巳「水経済論覚え書き−概念について−」『水利科学』16(5),1972年,pp100-123
渋川 則雄「フロー型経済からストック型経済への転換−生態学的接近法にもとづいて−」,中岡 哲朗編(1977)『自然と人間のための経済学』朝日選書所収,pp64-93
内藤 正明「環境指標の整理と体系化の試み」『環境情報科学』10(1),pp61-69,1981年
置塩 信雄「経済分析における微分方程式と定差方程式の援用について」『神戸大学経済学研究』29,pp1-24,1982年
井尻 雄士『三式簿記の研究−複式簿記の論理的拡張をめざして−』中央経済社,180pp,1984年(三式簿記の誕生に関する井尻先生の談話はこちらのページにあります)
大藪 俊哉「複式簿記から三式簿記へ : 井尻雄二著『三式簿記の研究』を中心にして」『横浜経営研究』5(3),pp297-302,1984年
経済企画庁総合計画局編『日本の社会資本−フローからストックへ』ぎょうせい,398pp,1986年
黒田 昌裕『一般均衡の数量分析』岩波書店,305pp,1989年(日本の国富調査の歴史については59ページ)
白川 一郎・井野 靖久『SNA統計 見方・使い方』東洋経済新報社,194pp,1994年
経済企画庁経済研究所編『SNAサテライト勘定に関する特別研究会報告』1995年3月
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Asia Flux Webpage(国立環境研究所 地球環境研究センター)
分類一覧表 nomenclature  環境にかかわる商品分類や産業分類の作製は、環境勘定作製の基礎作業としてきわめて重要である。勘定は、一言でいえば定量的なバランスであって、質的情報は分類によって初めて補完される(*)からである。方法としては、既存の商品/産業分類などの拡張を行うか、あるいは全く新しい視点での分類を行った上で既存の商品/産業分類などとの対照表をつくることになろう。一般に、分類は、排他的・網羅的であることが必要条件で、排他性を担保するためにユニークな通し番号(分類コード)が付けられる。また、分類の十分条件としては種々の分析目的・ユーザの要請への対応、データ収集のコストが考慮されると同時に、長期的分析に耐えるためにはある程度rigidなものでなければならない。いかなる分類も、恣意性を免れるものではない。「人間の認知パタンから独立した客観的な性質をことごとく選んで、それらを等価とみなす限り、そもそも分類という営為は成立しない」(池田(1992))のである。よって、環境にかかわる商品分類や産業分類の作製は、環境内の物質循環や媒体としての環境を経済とのかかわりにおいてどのように解釈し位置づけ何を抽象し何を捨象するか、という根本的な思想や世界観を問われる作業となる。そうでなければ、環境ホルモンのような新しい問題に次から次へと対処していくうちに分類の体系が混乱してしまいかねない。欧州の環境統計や環境勘定に関するドキュメント、とりわけフランスの『自然遺産勘定』からは、欧州においてこうした作業がごく日常的に行われていることが伺われる。→表章可視性INSEEマッケルビーの箱
註(*)
研究のかなり早い段階で、岡裕泰氏(森林総研)に、この点についてご教示いただいた。
参考文献
内田 隆三『ミシェル・フーコー−主体の系譜学』講談社現代新書,207pp,1990年
池田 清彦『分類という思想』新潮選書,228pp,1992年
緑川 信之『本を分類する』勁草書房,224pp,1998年
リンク
日本の「標準統計分類」の概要(総務庁統計局)
ヘドニック評価法 hedonic method(?) 「キャピタリゼーション仮説」というのがあって、ひらたく言うと、「空間の価値を代表する『地価』『地場賃金』などの市場価格には、住みやすさや働きやすさといった意味で、その地域に固有の環境の価値がすでに織り込まれている」という仮説である。もし、他の事情がまったく同じにして自然環境(たとえば景観)条件のみの異なる2地域があれば、その地価の差が環境に対する人々の評価を表していると考えることができよう。現実にはこういううまい事例はなかなか見つからないので、たくさんの地域の多元的なデータを重回帰分析にかけてやることになる。回帰分析をやった人の話では、駅への近さなどの環境以外の要因が大きすぎることと、環境という意味で独立した地域を分けてデータを集めることが難しいことなど、回帰分析の前提となる諸問題がなかなかクリアしにくいらしい。また、統計的に有意な地価関数の推計に成功した場合でも、変数の解釈には慎重を要する場合もあるだろう。そもそも経済活動のデータは空間そのものにおいてではなく、自治体のような制度的単位で記録・集計されていることが多い。すべての経済活動について、取引や操業の行われた時点でその位置が測定され(数万円のGPS装置があれば技術的には可能)、マイクロデータセットに反映されるような統計システムが仮に存在すれば、こうした理論の応用範囲は飛躍的に広がるかもしれない。
参考文献
肥田野 登・中村・荒津ほか「資産価値に基づいた都市近郊鉄道の整備効果の計測」『土木学会論文集』365-4-4,pp135-144,1986年
橋本 介三「サービスの生産量と質の計測方法」,野田 攷編(1989)『サービス経済の基礎分析』御茶の水書房,所収,pp43-72(第三章)
小林 郁雄「環境便益の評価に関するサーベイ」『農総研季報』19,pp21-41,1993年
システム評価・環境評価研究会「道路交通騒音が住宅価格に与える影響に関する統計的検討」『不動産研究』43(3),pp61-72, 2001年

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
マッケルビーの箱 McKelvey's box  環境勘定(とくに自然資源勘定)においてはストックの分類が重要である。その際、70年代初頭にマッケルビーの提示した鉱物資源の分類(McKelvey(1972))が有用であり、この分野でしばしば引用される。引用者によって改良されたいくつかのヴァリエーションはあるが、基本的にマッケルビーの箱によって、自然資源は「既発見・(経済的に)利用可能」「既発見・利用不能」「未発見・利用可能」「未発見・利用不能」の4つのカテゴリーに分類される。
 SNAの一部をなす国民貸借対照表では基本的に「既発見・利用可能」資源のみが扱われると考えられるが、会計期間中に新たに発見された自然資源の評価額は再評価勘定(?68SNAでは「調整勘定」)を通じてカウントされる。
 環境勘定の諸類型との関係をみると、SNAとの関係が最も緊密である環境支出勘定は、「既発見・利用可能」資源に対する支出を中心に表章し、その他のカテゴリーに属する自然資源とのつながりは希薄であると考えられる。物的な環境勘定の多く(たとえば自然資源勘定)は、物質保存則に依拠しているので、理論的には「資産の境界」を拡張することによって初めて勘定としてクローズしうる。しかし、現実にはインベントリーが十分行われていないがために推計困難な場合がある。
 なお、ミュラー=ヴェンク流のミクロの環境会計においても、「個々の環境侵害種類についてのエコロジカルな希少性の尺度」である「AeK」の算定において、生産に投入される枯渇性自然資源の資源総量として何をとるべきか、マッケルビーの箱をひいて論じている(Mueller-Wenk,Ruedi、宮崎訳(1994))。 →可視性フローとストック資産
参考文献
McKelvey, V.E.:Mineral Resource Estimates and Public Policy, Amer.Scientist 60,pp32-40,1972
Mueller-Wenk,Ruedi、宮崎 修行訳『エコロジカル・アカウンティング Die oekologische Buchhaltung』中央経済社,3.5節,1994年
Alfsen,Knut H.、藤崎・山本訳「なぜ自然資源勘定なのか」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp290(図10-1)
古井戸 宏通「環境資源勘定およびその利用」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp79-80(図3-5、図3-6)
リンク
米国鉱物局・米国地質調査所による鉱物資源の分類システム(1976)
MAFEE (まふぃー) MAFEE (Monetary Accounting Framework for Environment and Economy)  GAMEEを構成する貨幣的勘定体系。SAM形式で表示されたSNAのストック・フロー完全体系を基礎に、SEEAの考え方に沿って環境面の拡張を行うことによって構築される勘定体系。具体的には、環境関連重視の産業分類および財貨・サービス分類の導入や資産境界の拡張による非生産自然資産分類の導入などにより、環境支出、経済活動による環境への負荷、および悪化した環境による経済活動への影響などを記録できる体系となっている。このうち、環境支出は実際費用として記録されるが、自然環境からの資源の利用と自然環境への廃物の排出からなる環境への負荷の部分は、帰属環境費用として維持費用法等によって評価される。一方、悪化した環境からの影響は、資産の市場評価の低下や仮想的市場評価法によって帰属計算される。ただし、MAFEEのようなマクロ勘定体系への仮想的市場評価法の利用は必ずしも適切ではなく、これに代わる評価手法の開発が期待される。MAFEEは海外諸国やグローバル・コモンズへの環境負荷ないしそれらからの環境影響を整合的に記録できるフレームワークになっているが、そうしたデータの収集は今後の課題である。(有吉範敏)→環境費用環境支出勘定
水資源勘定・水管理勘定 Water (Resource / Management) Accounts  フランス(INSEE)の『自然遺産勘定』(1986)の第5章が「陸水勘定」Le Compte des Eaux Continentales にあてられている(OECD(1986)の英文レポートに、フランス担当者による論文がある)。また、同じINSEEの『環境サテライト勘定』(1986)の第2部第1章が「陸水管理のサテライト勘定」にあてられている。土地勘定や森林勘定とならび、環境勘定を考える上では避けて通れない重要な分野であることは間違いない。
 水資源のphysicalなありようそのものに着目したのが『自然遺産勘定』第5章である。人間にとっての水の存在およびその利用が、量・質・位置などにおいて多様である分、理論的にも、測定の単位・質的変化の扱い・会計期間の設定など、きわめて多くの問題を含んでおり、フランス自身、全国的な計数の推計はあまり行っていないという。
 また、水資源の管理に着目したのが『環境サテライト勘定』第2部第1章である。水資源の持続的管理、水利資産の記録や評価に関しては日本でも農業経済学・会計学・環境経済学分野等での広範な研究蓄積があり、近年再び脚光を浴びている(文献参照)。
 フランスも事情は同様らしいが、水管理勘定の推計に必要なデータの整備は今後の課題であると考えられる。
参考文献
神谷 慶治編「水利施設の価値変動に関する会計学的研究」東大農学部農業経済学研究室,111pp,1958年3月
北畠 佳房(Kitabatake,Y.):Welfare Cost of Eutrophication-Caused Production Losses: A Case of Aquaculture in Lake Kasumigaura, J.Env.Econ.Manage.9, pp199-212, 1982
原田 富士雄「水の社会会計−職能論的アプローチ試論」『会計』124(5),1983年
河野 正男「水資源問題と地域社会会計」『会計』124(5),1983年
OECD: Information and natural resources. Mimeographed., 95pp, OECD,Paris, 1986
原田 富士雄「社会資本と政府ストック会計」『会計』130(4),1986年
河野 正男「水資源と会計」『会計』131(1),pp42-61,1987年
小口 好昭「メソ会計としての水の会計学」『会計』139(5),1991年
山本 清「社会資本の管理と会計情報」『商学討究』42(4),1992年
西頭 徳三「湖沼の「水資源会計」的意義」『農林業の課題と方向』所収,pp32-50,1995年
小口 好昭「社会的共通資本の会計学」『会計』150(3),1996年
小口 好昭「流域の総合管理と水道事業民営化の帰趨−水資源会計の主体論を中心に」『水利科学』231,1996年
盛岡 通「」(淀川流域における推計)
FURUIDO, Hiromichi : "Forest Management Account - a Feasibility Study on Watershed Management by Tokyo Metropolitan Government -", paper prepared for The Progress in Environment and Resource Accounting Approach - A principle to the Global Environmental Issues - October 13-15,1997, Matsue, Japan, pp59-62
西頭 徳三・松岡 淳「資源・環境問題と『生活者』による経済学」『現代社会と資源・環境政策』所収,pp306-329,1997年
市川 新『多摩川:そのエコバランス−都市と河川環境の均衡をめざして−』ソフトサイエンス社,284pp,1997年
西頭 徳三「湖沼の水質保全と規制強化」『わが国農林業と規制緩和』所収,(児島湖の「耐用年数」と資産価値を推計),pp89-102,1998年
山田茂樹、古井戸宏通:「『今治市・玉川村及び朝倉村共有山組合』における水源林の管理形態」、森林総合研究所四国支所年報、39号、45-46頁、1998年9月

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
ユーザ・コスト user cost  枯渇性資源の存在は、持続可能性を根本から脅かしているようにみえる。この疑問への1つの回答としてエル・セラフィ女史が提案した概念。小さな産油国が毎年一定量の石油を採掘・販売していくようなケースに最もあてはまる。
 簡略化のため、石油価格および割引率を不変と仮定する。一定量の石油をn年採掘して枯渇するケースを基本ケースとすると、基本ケースでは、当期価値 current value ベースの所得a(円/年)をn年間得てそれでおしまいである。しかるに、a円/年の一部(xa円/年;0<x<1)を永年得る無限所得流列を考えると、割引率は通常正であるからその割引現在価値 (discounted) present value は収束し、それが基本ケースにおけるn年間の所得流列の割引現在価値と等しくなるようなxが必ず存在する。
ElSerafy  これは図を描いてみればわりと簡単にわかる。すなわち、右の上側の図において、青く染まった部分と赤く染まった部分を等しくするようなxが存在する。紫色の共通部分を除いて考えれば、真青の所得(xaより上の部分)を我慢して運用することにより真赤の所得(nより右の部分)が得られる計算になる。
 このように、基本ケースにおいて、(1−x)a円/年(current value)をn年間銀行に預金しておけば、石油が枯渇する前もその後もxa円/年の current value ベースの所得を永年的に得ることができる。エル・セラフィは、銀行に預金すべき current value(1−x)a円/年を「ユーザ・コスト」と呼ぶと同時に、永年得られる current value xa円/年のことを「真の所得 true income」と呼んだ。「真の所得」が永年得られることを強調するために、縦軸を current value ベースに描き直した図を右の下側に掲げる。
ElSerafy2  この議論を世界全体に拡張してしまうと(エル・セラフィ自身はこの区別をあまり意識していないようである)、銀行に預金した際の利子率が石油の枯渇した社会で枯渇前と同じ水準でありうるかというパラドクスが生じる。I.フィッシャーのいうように利子の源泉の少なくとも一部は「迂回生産の利益」であるとすれば、石油のない条件下で、石油のある技術と同様の水準で迂回生産の利益が存在するかどうか疑わしい。また枯渇の直前になっても石油価格が不変であるとはとうてい思えない。さらに、そもそも将来を「割り引く」という発想そのものを、「持続性」の問題提起からすればまっさきに疑うべきかもしれない。すなわち、割引率をゼロとして考えれば、current value ベースで描いた下側の図は present value ベースでもこの形となり、この場合、xをどんな値にとろうとも、青い部分が有限なのに対し、赤い部分は無限大に発散するので、青い部分と赤い部分の面積を一致させるようなxが存在しないことは明らかである。→持続的発展
註:本稿は98年11月27日に有吉範敏氏よりいただいたコメントを基に修正しております。なお、全ての文責は古井戸にあります。
参考文献
El Serafy,Salah:The Proper Calculation of Income from Depletable Natural Resources, in Ahmad,Yusuf J./El Serafy,S./Lutz,E.(eds):"Environmental Accounting for Sustainable Development",World Bank,1989,pp10-18
有吉 範敏「国連SEEAの解明とSEEA完全体系の開発」−北畠 能房『セカンド・ベスト下での環境・経済統合勘定体系の開発に関する基礎的研究平成7年度科学研究費補助金(総合研究A)研究成果報告書』、平成8年、第2章(pp.63-119)に所収
藤崎 成昭「環境資源勘定とその途上国への適用」小池・藤崎編(1997)『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,所収,pp3-25
ユーロスタット EUROSTAT 欧州連合統計局

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用語 terminology 欧語等 意味・解説
ライフサイクルアナリシス (アセスメント) life cycle analysis /assessment (LCA)  ある生産物について、その全ライフサイクルを通じての環境影響を評価する方法。一般に、「ライフサイクル」は、当該生産物の製造から最終的な廃棄に至る過程を意味する。LCAの核心は、ライフサイクルのすべての産業過程を調査(inventory)することであり、この調査をとくにライフサイクルインベントリー(LCI)と呼ぶようである。
マテリアル・バランスエコロジカル・リュックサック
参考文献:
鈴木 利治「産業連関表を用いた乗用車のライフサイクルアセスメント」『経済研究年報[東洋大]』25,pp7-30,2000年
宮崎 修行「ライフサイクル・アセスメント(LCA)への経済性考慮の導入−会計的環境評価システムの試み」『社会科学ジャーナル』44,pp21-38,2000年
リンク:
"Product Ecology Consultants(オランダ)"によるLCAの解説ページ(この会社は、LCA計算ソフトウェアなども販売しているようです)
「LCAの諸問題」MIT論文
Tom Gloria氏のLCAリンクサイト
ライフサイクルインベントリー life cycle inventory (LCI) ライフサイクルアナリシス
ロンドン・グループ The London Group (マクロレベルの)環境勘定の開発のためにつくられた先進国および主要な国際機関から招待された代表者からなるゆるやかな組織。メンバーは、基本的にそれぞれの利益のために自発的に参加するものであるが、すべての参加国は、contribute paperの提出と討議への参加を期待される。この分野の専門家や欧州統計局の有力メンバーを擁し、国際機関での作業と緊密な連携をもち、あるいは相互に影響を与えているようである。第1回の会合が1994年3月にロンドンで開かれたことからこの名があり、以後、第2回がワシントン(1995年)、第3回がストックホルム(1996年5月)、第4回がオタワ(1997年)、第5回がフランスのフォントヴロー(1998年)にて開かれている。こちらのホームページでは、各会合の概要やドキュメントなどが入手できる。目下作業中の最新のドキュメントこそ非公開とされているものの、重要な基本的情報が公開されている。
 このグループの存在意義は、富士総研の報告書(1998)(とくに第1章・第2章)にも概括されているように、国によって関心領域・基礎統計の充実度・推計方法などに濃淡がある現状において、互いのアプローチを公開し、新たな問題点をさぐりながらSNAやSEEAの改訂作業をにらんでいることにあるといえよう。 →国際所得国富学会
参考文献
Statistics Canada(eds): National Accounts and the Environment. Papers and Proceedings from a Conference London, March 16-18,1994, 507pp, Statistics Canada, 1994
Statistics Sweden: Third Meeting of the London Group on Natural Resource and Environmental Accounting. Proceedings Volume, Stockholm, Sweden May 28-31, 1996. ISBN 91-618-0861-X

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用語 terminology 欧語等 意味・解説

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別表1 行政的基準により分類されたフランスのサテライト勘定

. 作成開始年 毎年推計 勘定委員会の設置 担当機関
サテライト勘定        
研究 1970 実施 DGRT - 研究宇宙省
医療・保健 1970 実施 あり SESI - 保健省
社会的保護 1979 実施 あり SESI - 社会福祉省
教育 1980 実施 DEP - 文部省
輸送:道路 1982 実施 あり OEST - 運輸観光省
輸送:大パリ圏 1987 実施 STP - RATP
情報工学 1985
環境 1986 IFEN(国立環境研究所)−環境省[出版はINSEE]
ツーリズム 1988 実施 あり DIT - 運輸観光省
住宅サービス 1992 あり DAEIとDC - 住宅省
オーディオヴィジュアル 1992 SJTI - 首相
サテライト分析        
輸送 1955 実施 あり OEST - 運輸観光省
農業 1964 実施 あり INSEEとSCEES - 農業省
卸売・小売取引 1963 実施 あり INSEE
サービス 1987 実施 あり INSEE

出所:Michel BRAIBANT(1994) "Satellite Accounts", INSEE Direction de la Coordination Statistique et des Relations Internationales, SERIE "Documents de travail" noD9402を訳出
別表1の註:環境に関するフランスのサテライト勘定(INSEE,1986)の抄訳は、小池・藤崎編著『森林資源勘定−北欧の経験・アジアの試み』アジア経済出版会,1997年5月,pp311-347(宮川泰子訳)にあり、全体のフレームワーク(第1部第2章)、自然保護地域の勘定(第2部第3章)、および「環境サテライト勘定の総合評価と発展の展望」(第3部)が紹介されている。

あとがきと謝辞

 まったくの試作段階から激励をいただき、かつ多数の項目をご執筆いただいた 有吉 範敏 先生(熊本大学) に心より感謝します。また、作間 逸雄 先生(専修大学)、深見 正仁氏(経済企画庁)、池 俊廣氏には貴重なコメントやご助言をいただきました。記して謝意を表します。

(C)Copyright:the author(s) of each item and Hiromichi FURUIDO

Since 22/2/98

お気づきの点、ご投稿などは古井戸 宏通 [email protected]までメールにてお願いします。


 
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