■2000/12/07 (木)マーマレードの空 それは今から丁度十年前のことだった。十年一昔と言うから、今は昔と言っても間違いではないだろう。当時は今のように通信カラオケが全盛の時代とは違い、カラオケと言えばレーザーディスクをいちいち入れる形式がほとんどであった。歌う場所もボックスなどは少なく、大抵はパブ、スナックの類であった。
そんな時代に貧乏学生が行ける店は限られている。しかし、たまたま私の友人の一人にパチプロの人がおり、彼が勝つ度にボトルをキープしている喫茶店兼スナックにカラオケがあったので、そこに友人たちと飲みに行くことが出来た。俗にたかっていたとも言う。
その日私は、まだ夕暮れ時からその店に向かっていた。夕日が沈んだばかりでマーマレードを零したような透明なオレンジの空の色を眺めながら、原チャリで坂道を上った先に店はある。「なあ?次は何の縛りで行く?」
1時間ほども独りで件のパチプロのボトルを勝手に空けて飲んでいたのだが、別の友人が店に入ってきたのを幸い、カラオケをしようと言うことになった。当時私たちの友人グループではカラオケにテーマを決めて、それに違反した歌を歌った奴には罰符として一気をやらせると言うゲエムに興じていたものであったのだが、その日は一通り「70年代アイドル縛り」を楽しんでアルコールも回ったので、次のテーマに移ろうと私は問い掛けた。
「うーん。ん?そう言えば今日あたりジョン・レノンの命日だったよな?」
「そうだっけ?今日は12月…7日。明日じゃねーのか?」
「歌っているうちに明日になるって」
「まあ、そうだな」
「あれっていつだったっけ?」
「うーん、丁度十年前かなあ」
「じゃ、早速ジョンの歌を探そう!ジョン十回忌追悼カラオケ大会だ!」たった2人で大会とは恐れ入るが、とまあ、こんな感じで選曲を始めた。選曲中にもロックを呷るペースは上がる。しかし何分当時はレーザーカラオケなので曲数が少ない。
「おい、ジョンのソロないぞ」
「ラヴもイマジンもウーマンもないのか?」
「うん。ない」
「じゃビートルズ時代の探そう」
「えーと、じゃあイエスタデイ」
「あれはポールだろ」
「じゃあレット・イット・ビー」
「あれもポールだろ」
「この2曲しか入ってないぞ」
「何かないのか?プリーズ・プリーズ・ミーもア・ハード・デイズ・ナイトもアイム・ア・ルーザーもヘルプ!もストロベリー・フィールズ・フォー・エヴァーもジュリアもアイ・ウォント・ユーもないのか?」
「ないなあ」
「ううん、じゃあレット・イット・ビーでいいや、あれ、一応共作扱いだしな」
「ようし、じゃあレット・イット・ビーだな、朱美ちゃん、これ入れて」れりっびーーれりびーーれりっびーーれりっびーー〜
うぃすぱーわーぞう゛ぃずだんれりっびーー〜いーー〜っ「おめえ、発音悪いなあ」
「じゃあつぎおまえね」
「ってイエスタデイしかねえじゃん?」
「とにかくしばりだからな」
「縛りったって、しょうがねーなあ。まあこれも一応レノン/マッカートニーってクレジットだけど。じゃあ朱美ちゃん、これね」いえすたでーー〜らぶわずさっちゃにーじーげーむつぷれーー〜い
なうあいにーだぷれーすつーはーいだうぇーー〜
おおあーいびーりーーぶいんにぇーすたーでーー〜い「ZZZZZZZZZZZzzzzzzzzzzz…むにゃむにゃ」
「次お前ね、って、おい寝るな!」
「んん?だって、もううたうきょくないじゃん」
「じゃアカペラで歌え」もはやすでにカラオケ大会ではなくなっている。
「じゃ、ろんぐあんどわいんでぃんぐろーど」
「それもポールだろ」
「じゃ、ふーるおんざひる」
「それもポールだろ」
「じゃ、ほわいるまいぎたーじぇんとりーうぃーぷす」
「それはジョージだろ」
「いいよ、もう」
「寝るなよ!一緒に来い!」
「おやすみ…」そうして友人は寝てしまった。もはや何を言っても返事がない。
レノンに腕押しであった。
