最終話   我が家・一刻館


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「叫ばなくてもいいじゃん、みんなで入っちゃおうよ」
朱美さんは言った。
「管理人さん、入るわよお」
朱美さんは管理人室の扉を開いた・・・。
管理人室内はもぬけの空で誰一人としておらず、庭に通ずる窓が開いたままで、カーテンが風にたなびいていた。
「管理人さん・・・・は?」
朱美さんが問うた。
「わかんないよ・・・・」
一之瀬さんは茫然として言った。
「ほんの少し前までここに居たのに・・・」
四谷さんはたんすの傍へ行き、何かを注視して首を傾げていた。
「何を見てんのよ?」
朱美さんが寄って来た。
「これです」
四谷さんは手に持っていた紙切れを朱美さんに手渡した。
「どれどれ・・・・」
朱美さんは詳しく読んだ。
「こりゃあまじいよ!一之瀬さん!」
 
「それがこれ」
一之瀬さんは文字の書かれた紙切れを五代君に手渡した。
五代くんはその紙に目を通した。
その紙切れには見慣れた響子さんの筆跡で次の様に書かれていた。
 
『ごめんなさい、私を許して下さい』
 
「五代くん、一体全体、管理人さんに何が起きたんだい?」
一之瀬さんは詰問した。
五代くんは事のいきさつをを説明したが、住人達は全員、心配で胸がいっぱいになった。
「だけど彼女は何で一刻館から消えたのよ?ここは彼女の家なのにさあ!まさか春香ちゃんさえも、放ったらかしてまで
なんて有り得ないでしょう?」
朱美さんが問うた。
「それが実はさ・・・」
賢太郎は発言しようとして、言いよどんだ。
「何だい?」
「実は管理人さんが病気で倒れる前に、それらしい意味深な話しを言ってたんだ・・・」
「「それらしいってどんな事を言ったんだ?」
五代くんは緊張した強張った口調で尋ねた。
「僕、あの時もまだはっきり目が覚めてなかったんで、ぼんやりとしか聞き取れなかったんだけど、管理人さんは春香ちゃんに
もう一刻館に留まることは出来ないみたいなことを言ってたんだよ・・・」
「言ったのはそれだけか?」
「うん」
「それじゃあ管理人さんは考えてからしばらくして、そんな事を実行したんだな?」
二階堂くんはそう発言した。
「俺もそう思うよ」
五代くんは答えた。
「彼女が心配で一時も安心出来ないねえ・・・」
一之瀬さんは憂鬱そうに言った。
全員が黙して語らず。
「・・・」
朱美さんは立ち上がった。
「あたしらが真っ先にぐだぐだ考えてちゃ駄目じゃん、ひょっとしたら彼女はまだちょっとしか一刻館から離れていないかも
知れないじゃない」
「問題は彼女がどこへ行ったのかですよね?」
二階堂くんは問うた。
「結局のところ、俺達は出来るだけ早く彼女を探し出す必要があるな」
五代くんはそう言った。
「俺、まずは響子の実家に電話して確認してみるよ・・・」
「本当に心配掛けてくれるよ、彼女の風邪はまだ完全に治っていないのに・・・」
一之瀬さんはぼやいた。
「もしもし・・・お義父さんですか?」
五代くんは受話器を手にしていた。
「はいはい、裕作です。ちょっとお聞きしたいんですが、響子はそちらにおりませんか?・・・そうですか・・・いないんですか
・・・まずは冷静に僕の話しを聞いて下さい、響子の奴が書き置きをして家出したんです・・・ええ、僕らは丁度彼女を捜している
ところです。・・・はい・・・失礼します」
「どうだった?」
「いませんでした」
五代くんは頭を揺らし振って、元気無く言った。
「彼女の両親は今からこっちに向かって来るそうです」
「あたしゃ三鷹さんを捜して手伝ってもらうさ!車っていう足が有るし・・・」
一之瀬さんは言った。
「おばさん、お願いします。おばさんと朱美さんはここで待っていて欲しいんです、僕らは彼女を捜しに行きますから」
「ああいいよ」
朱美さんは了承した。
「それじゃあ行こうか!」
五代くんはそう言うと、待たせていた二階堂くんと外へ出て行った。
 
 
 

「私は一体、何をしているのかしら・・・」
響子さんは思った。
「全く後先を顧みずに飛び出して来てしまったわ」
響子さんは手の中のアルバムを見た。
「私はもう既に帰ることの出来る家が無くなってしまった・・・・」
響子さんは公園のブランコに腰掛けていた。
「私は見るべきなの・・・?惣一郎さん・・・」
響子さんは手にしたアルバムをめくり始めた。
「私、怖い・・・これらの写真を見た後・・・・あなたが永遠に私から離れて去って行くのが・・・怖い・・・・」
響子さんは俯き頭を低くして泣いた。
 
 
 

「どうでした?何か消息は掴めましたか?」
五代くんは扉を開けて中に進み、強張った表情で尋ねた。
「四谷さんと二階堂くんはもう戻って来てる、今の所、車の賢太郎と三鷹さんだけがまだだよ」
一之瀬さんは答えた。
「そうですか・・・」
五代くんは失望して言った。
「五代・・・五代だな?」
響子さんの父親、千草氏が全速力で管理人室から飛び出して来た。
「五代!貴様は一体何をしたんだ!貴様は響子を絶対幸せにすると、わしに答えたんじゃないのか?」
「すみません、お義父さん・・・・」
「おとうさんと呼ぶな!わしには響子と言う娘が一人居るだけだ!」
「あなた!」
千草氏の奥さん、律子さんが慌てて彼を制止した。
「そんな事言うのは止めなさい!裕作さんも聞かなくていいわよ、誰もこんな事件が起きて欲しいなんて思ってないんだから」
「しかし万が一、響子の身に何かあったら・・・」
五代くんは彼が涙を擦る光景を見て、心がとてつもなく痛んだ。
 
「三鷹さんが戻って来たよ!」
朱美さんが叫んだ。
「ついさっき市内を一回り捜しました」
三鷹さんと賢太郎は車から降りた。
「しかし彼女を発見出来ませんでした、上手い事に下校の途中だった賢太郎君に遭遇したんで、同乗したんですが・・・」
「すみません、三鷹さん、お手数をお掛けしました」
五代くんは言った。
不意に、三鷹さんは五代くんを拳で殴った。
全員がこの突然に起こった光景に何が起きたのか分からないという感じで驚き茫然とした。
「五代、このいい加減な野郎・・・」
三鷹さんは倒れた五代くんを上に引っ張り上げた。
「君は彼女を絶対に幸福にすると僕に大見得を切ったんじゃあないのか?一体状況が何故こんな状態にまで悪化したんだ?
僕がとっくに君の目を覚まさせてやったんじゃないのか?」
「すみません・・・・」
五代くんは目を閉じた。
「馬鹿野郎!謝れば問題が解決するのか?」
三鷹さんはもう一度、五代くんを握り締めた拳で殴った。
「もうお止めになって!」
聞き覚えの有る声を耳にして、三鷹さんの身体がピタッと停止した。
「明日菜・・・・?お前、何でここに居るんだ?俺はお前に家に居るように言い付けてなかったか?」
「・・・・」
明日菜さんは頭を下げ何も語らなかったが、その目には涙が光っていた。
「私は貴方の事が心配で・・・・」
「どうして?」
三鷹さんは顔を強張らせて無理矢理、笑顔を作った。
「貴方のさっきの表情・・・貴方がテニスの試合で負けた時の表情と全く同じ・・・」
三鷹さんはがっくりとうなだれて、沈黙した。
五代くんは唇から滲み出た血を擦り拭い、立ち上がった。
「僕は今からもう一度捜しに行きます」
五代くんはしっかりとした口調で言った。
「警察に通報したほうがいいんじゃない?」
朱美さんは言った。
「僕らでもう一度、捜しましょう?」
五代くんは皆に問い掛けた。
「2時間後に再びここに集合して、もしも彼女を再度捜し切れなかったら、その時は警察へ通報する事にしましょう!」
「それで決定だな!」
三鷹さんは言った。
「僕と明日菜は車で捜しに行きます」
「はい、行きましょう!」
「五代くん」
三鷹さんは五代くんを呼び止めた。
「すまなかった」
「いいえ、あなたの気持ちは理解していますから」
五代くんは笑った。
三鷹さんも笑って、それから明日菜さんと車に乗り、砂埃を上げて行った。
「僕らも手分けして捜しましょう!」
五代くんは言った。
 
車窓の外の灯火が車の走行により、生けとし生きるものの様に変わり、三鷹さんと明日菜さんの顔の上を断続的に動いていた。
車内で三鷹さんと明日菜さんはお互いに一言も喋らなかった。
「私は知っていました・・・彼女の影が既に貴方の心の中の一角として占められているのを、それは何が何でも不変であることも
・・・貴方は認めないでしょうけれど・・・」
明日菜さんは沈黙を打ち破って言った。
「けれども貴方に・・・その愛情を・・・すべて私に・・・」
明日菜さんが、はにかみながら俯くと目の涙が零れ落ちた。
二人を映し照らす灯火が段々と緩やかになっていき、最後には活動を停止した。
三鷹さんは手を明日菜さんの背中に回した。
「すまない・・・君に心配を掛けて・・・」
三鷹さんは笑顔を見せると、キラッとした光が彼の歯を明るく輝かせた。
明日菜さんの頭部は更に低く垂れた・・・
「すまない・・・・」
三鷹さんは明日菜さんを懐に抱擁して、愛おしそうに語った。
明日菜さんは目の涙を拭い、頭を上げて、恥ずかしそうに微笑んだ。
二人の唇はゆっくりと重なり合い、どんな強い光線でも貫き通す事は出来なかった。
 
 
 

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「お姉ちゃん・・・」
響子さんは顔を上げた。
小さな女のこが一人、彼女の足元に立っており、好奇の目で見詰めた。
「お姉ちゃん・・どうして泣いているの?」
「いいえ・・・」
響子さんは慌てて目の涙を拭った。
「はいこれ」
少女はハンカチを手渡した。
「パパが泣いた顔は綺麗じゃないって言ってたの・・・」
「ありがとう・・・」
少女は響子さんの隣りのブランコに腰掛けた。
「お嬢ちゃん、貴方のお名前は何て言うの?」
気持ちが落ち着くのを待って、響子さんは尋ねた。
「春香。春夏秋冬の春に、匂いの香りの香」
春香ちゃんは朗らかに答えた。
「春香ちゃん・・・そうなの・・・とっても良いお名前ね」
「うん。ママが考えて付けてくれたの、わたしこの名前、大好きなんだ」
「春香ちゃん、もうこんなに夜遅いのに、どうしてお家に帰らないの?」
「わたしここでパパが迎えに来るのを待ってるの」
「こんなに遅くに・・・?もう九時になるでしょう?」
「うん。いつも毎日わたし、放課後ここでパパを待ってるの」
「貴方のママは?」
「ママはわたしが小さいときに死んじゃったんだ」
「そうなの・・・」
響子さんは言った。
「ごめんなさいね、春香ちゃん」
春香ちゃんはブランコを揺らし始めた。
「貴方はママの事が気に掛かるの?」
「うん」
春香ちゃんはブランコを停めると、ペロッと舌を出した。
「だけどもうママの事は忘れちゃった」
「それじゃあ・・・きっと悲しいわよね・・・」
「そんなことないよ!ママはずっとね、わたしと離れ離れになってないんだ、いつも夢の中でママと会えるんだもの。
それにその時にママがまだ居た日の事を思い出すから、わたしちっとも悲しくないよ」
春香ちゃんは満面に笑みを浮かべた。
「それにまだパパが居るもん・・・」
「例えママの事を思い出さなくても・・・?」
「うん」
春香ちゃんは頷いた。
「春香はね、昔ママと一緒の時を思い出すだけでとっても嬉しいんだ!」
「そうなの・・・」
響子さんは遠くの所を眺めて言った。
「それなら春香ちゃんはきっと寂しくなんかないわね」
「そうよ!毎日放課後にここで広治くんと遊んでるの、広治くんはわたしと一緒で、二人でパパが迎えに来るのを待っているの、
だけど広治くんのパパはいつもわたしのパパよりも来るのが早いの」
春香ちゃんは両足で地面を蹴ってブランコを動かした。
「それじゃあ広治くんが帰った後はきっととても退屈ね、そうでしょ?」
「えへへ・・・そんなことないよ、まだシロが一緒だもん」
「シロ?」
「そうなんだ!これだよ!」
春香ちゃんはランドセルの中からぬいぐるみを一つ取り出した。
「ママがわたしにプレゼントしてくれたんだ、わたし、この子がとってもお気に入りなの」
「まあ可愛いわね!春香ちゃんにはこんなにいいお友達が居るのね」
「えへへ!」
春香ちゃんは憂鬱そうに公園の出口を見詰めた。
「本当に遅いなあ・・・パパ・・・・」
「ひょっとしたら貴方のパパは今日ちょっと用事が出来たんじゃあ?」
春香ちゃんは首を振った。
「ううん・・・パパはどんな事が有っても・・・春香を・・・遅くならないで迎えに来て・・・」
春香ちゃんの目に見る見るうちに大粒の涙が溜まった。
「春香ちゃん・・・大丈夫よ、心配しないで・・・・」
響子さんは春香ちゃんを抱きしめに歩いた。
「パパがすぐに貴方を迎えに来るわよ、お姉さんがずっと一緒についていてあげる・・・」
春香ちゃんは響子さんの胸の中で大声で泣き出した。
「うう・・あの日・・・あの日・・・春香も学校でママの・・・お迎えを待っていたの、だけど・・・だけど、とうとうママの・・・
ううう・・・・」
響子さんの目にも熱いものが込み上げてきた。
「大丈夫よ、貴方は強い子でしょう!春香ちゃん・・・・」
 
 
 

「ぜえぜえ・・・はあはあ・・・・」
五代君の足は既に疲労困憊で走る事は出来なかった。
「響子・・・君は一体どこへ行ったんだ・・・?」
突然、秘湯の考えが五代くんの脳裏を掠めた。
「響子・・・・まさか君が行ったのはあそこじゃあるまいな・・・・」
 
 
 

「お姉ちゃんの胸の中って、とっても温かい・・・・」
泣き止んだ後、春香ちゃんは響子さんの懐に身を預けて言った。
「ママみたい・・・・」
「そうなの・・・」
響子さんは優しく春香ちゃんの頭髪を撫でた。
「もしも春香ちゃんがよかったらの話しだけど、毎日でもいいからお姉さんの家まで遊びに来ない?パパを待ってる間に・・・
お姉さんの家はね、あそこの坂道の上にあるの・・・」
「本当?」
「ええ。お姉さんの子供、女の子なんだけどね、もうすぐ一歳になるの。その子も春香って言うのよ」
「本当なの?わたし、その子と遊んでいいの?」
「勿論よ」
響子さんは微笑んだ。
人影が一つ公園の入り口に揺らめいた。
「パパだ!」
春香ちゃんは嬉しそうに立ち上がり、その人影に向かって駆けて行った。
「パパ!」
「ごめん・・・ごめん・・・春香・・・・」
その人物はギュッと春香ちゃんを胸の中に抱きしめた。
響子さんはその麗しい場面を目にして涙を拭った。
「すみません、あなたにご面倒をお掛けしたようで・・・」
春香ちゃんの父親は響子に礼を述べた。
「お気になさらず・・・」
響子さんはそう返答した。
「春香ちゃん、これがお姉さんの家の住所と電話番号よ、次は遊びに来てね!」
春香ちゃんはそのメモを手にした。
「ほら、春香、帰るぞ」
「お姉ちゃん、バイバイ」
春香ちゃんは響子さんに手を振った。
「バイバイ、春香ちゃん・・・・」
響子さんは二人が去って行き、彼らの影が自分の視界から消えるまで見送った。
「惣一郎さん・・・・あなたが私に訴えたかったのはこの事なの・・・?」
響子さんは顔を上げて夜空を見上げ、それから目を閉じた。
 
「もう出来ましたよ、惣一郎さん」
「出来たのかい?ごめん、響子。僕は君の何の手伝いも出来なくて・・・」
音無惣一郎は申し訳なさそうに言った。
「気になさらないでね。あなたの好物なら、すぐに作りますからね」
響子さんは笑顔で言った。
「本当に良い香りだ・・・・・」
惣一郎氏は鍋に沸き立つ味噌汁の匂いを嗅いだ。
響子さんは味噌汁をお椀に盛って、惣一郎氏に渡した。
「本当に美味しいよ!もしも永遠に響子の作った味噌汁が飲めるのなら最高だなあ!」
惣一郎氏は響子さんに笑顔を向けた・・・・・。
 
響子さんは涙ぐみながら、綺麗な夜空を眺めた。
「惣一郎さん・・・・私はついに、あなたの記憶を思い出しました・・・・」
 
 

五代くんは惣一郎氏のお墓の前に辿り付いた。
「惣一郎さん・・・すみません・・・」
五代くんは語り掛けた。
「三鷹さんが殴ったのは正しい、俺が状況をますます悪化させたんです・・・・」
「裕作・・・・・」
「響子?」
五代くんは声のした方向を振り向いた。
「君はとうとう来たんだ・・・」
響子さんは惣一郎氏のお墓の前に正座して、両手を合わせた。
「惣一郎さん、私はあなたの意思をもう理解しました・・・私は千草響子でもなく、音無響子でもない・・・今の私は
五代響子です・・・・」
響子さんは五代くんを見詰めた。
「ただし、それはれっきとした事実ですけれど、それは二人の響子が既に死んだ事を意味しません、反対に・・・彼女達は二人とも
私の心の中で生き続ける・・・私はもう二度とそんな響子の一人として執着しない、無論、私はそんな響子の一人です、彼女達の
記憶は全て同様に尊い・・・」
響子さんは手の中のアルバムをめくった。
「・・・喜びも有れば、悲しみも有りますけれど、全ては私の記憶の一部分です、私はもう二度とあなたを忘れたりしません
・・・あなたは真実、私の心の中で既に生き続けている・・・・」
「惣一郎さん・・・『初めて会った時から、あなたは既に響子さんの心の中にいて、俺はそんな響子さんを好きになった。
だから、あなたもひっくるめて響子さんを貰います・・・』、無論あの時も、今も、或いは将来も・・・俺の考えは変わらない、
永遠に変わらない・・・」
五代くんは言った。
響子さんは立ち上がって、五代くんと手を繋いだ。
「惣一郎さん、俺は一人の情けない男ですけれど、頑張って響子を幸せにします・・・だからあなたは安心して響子を俺に下さい」
五代くんと響子さんはお互いに見詰め合い、笑った。
「あら?これは・・・・」
響子さんはそれら、絶えず漂う物を目にした。
「桜の花びらが・・・」
二人が上を向いて四方に花が満開となった桜の木を眺めた。
「本当に綺麗ね」
「ああ」
五代くんは響子さんに寄り添った。
「さあ、帰ろう、俺達の家に」
「はい」
二人はゆっくりと霊園を後にした。
響子さんは、ほんの僅かだけ振り向いた。
 
「さようなら、それから・・・・ありがとう、惣一郎さん」
 
 
 

全員がイライラと一刻館の前で待機していた。
「もう2時間が過ぎたけど、何で五代くんはまだ帰って来ないのよ?」
朱美さんが問うた。
「あたしも知りたいよ・・・」
一之瀬さんは春香ちゃんを抱っこしながら、憂鬱そうに返答した。
「まさか五代さんまでも失踪したわけじゃないでしょう?」
二階堂くんも問うた。
「警察へ通報するべきでは?」
四谷さんが提案した。
「もうちょっと待とうよ!」
一之瀬さんは言い放った。
「これは・・・桜の花びら?」
明日菜さんが呟いた。
「本当だ・・・・」
全員がその情景に陶酔した。
「ばうばう!」
惣一郎が前方に向かって絶えず吠え続け、それからその方向に向かって駆け出していった。
「どうしたの・・・ああ?みんなほら!あれは・・・五代くんじゃん!」
朱美さんは興奮して坂道の下のさして遠くない所を指差した。
「管理人さんも一緒だよ!」
「よくやった、五代くん」
三鷹さんがそう言った。
 
「あれ?みんなだ・・・・」
五代くんは呟いた。
「本当・・・あれは・・・惣一郎さん?」
響子さんも呟いた。
「?!」
「心配しないで、私が言ったのは・・・」
「ばうばう!」
惣一郎が響子さんの胸の中に突っ込んだ。
「惣一郎さん。私を迎えに来てくれるの?」
「響子――」
響子さんの父親が涙ぐみながら彼女に向かって叫んだ。
「お父さんも来てたの?!」
五代くんと響子さんは手を繋いで一刻館の前に到着した。
 
「俺達・・・帰ってきました・・・ただいま・・・・」
 


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エピローグ 永遠の一刻館
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