第六章 Appassionata −アパッショナータ−

第二節

コンサートをこなす日々の合間に、コリンはパトリシアに連絡をした。どこでレッスンをするかかなり迷ったが、一人暮らしの年頃の女性の家に行くことはコリンの気がひけて、結局コリンのフラットですることになった。約束の日、パトリシアは時間通りにやって来た。コリンが玄関のドアを開けると、パトリシアが少し緊張した面持ちで立っていた。
「おはようございます、宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく…じゃあ、入って」
居間の扉を開ける前に、コリンはパトリシアに照れ笑いを浮かべながら言った。
「一応片付いているけど、何て言うか、あまりにも物がなくってびっくりするかも」
コリンは扉を開けた。そこには椅子が2つと小さな机、譜面台、CDやレコードや楽譜が沢山並べられた棚とステレオセットがあるだけだった。
「家にはあまりいないし、この部屋は練習にしか使わないから…ピアノでもあれば格好がつくんだけど。前は持っていたけど、今は実家にしかなくって」
パトリシアは微笑んだ。
「私もあまり物を持たないタイプなんです。でもさすがに楽譜が沢山ですね」
彼女は楽譜の棚の前に立ち、暫くそれを眺めていた。
「作曲家別にちゃんと並べてありますね。几帳面なんですね、先生」
お茶を用意していたコリンは、危うくそれをこぼしそうになった。
「いや、あの、『先生』はやめてくれるかな」
「じゃあ、何て?」
「コリンでいいよ」
「でもそれじゃあ…」
困ったような顔をしたパトリシアに向かって、コリンは軽く降参のポーズをした。
「あまり他の呼ばれ方は慣れていないんだ。だからそれで決まり」
「…コリン」
彼女はそっと呟いた。コリンはまた不思議な感覚にとらわれた…パトリシアと同じ、亜麻色の髪をした別の女性にそう呼ばれたような錯覚。コリンは頭を振ると、パトリシアに向かって言った。
「じゃあ、最初のレッスンを始めようか」

コリンとパトリシアは譜面台の前に立った。パトリシアは彼女が持ってきた譜面をそこに広げ、楽器を構えた。斜め後ろからそれを見ていたコリンには、その姿はパトリシアのものではなかった…誰よりもコリンが愛した女性、もう手の届かぬところに逝ってしまった亜麻色の髪のヴァイオリニスト。それなのに今はコリンの目の前にいる。手を伸ばせば、その髪に触れられるところに。コリンは知らず手を伸ばしかけた。その時パトリシアが振り向いた。
「もう弾いてみてもいいですか?」
淡いブルーの瞳を見て、コリンは我に返った。慌てて頷くと、パトリシアは譜面に向き弾き出した。コリンは軽く下唇を噛んだ。これではいけない、しっかりしなくては…彼女は別人なんだ。幸い、パトリシアのヴァイオリンはコリンの最愛の人とは違うものだった。まだ学生のパトリシアは、それなりに上手だったが未熟なところも多く、素晴らしいプロのヴァイオリニストだったあの女性とは比べられるものではなかった。パトリシアのヴァイオリンの音はコリンを現実に引き戻してくれた。コリンは時折一緒に弾きながら、彼女に出来る限りのアドバイスを与えていった。約束の1時間はあっという間に過ぎた。最後にコリンは彼女に聞いた。
「パトリシアは、将来オーケストラで弾くつもりかい?それともソロ?」
彼女は楽器を片付けながら答えた。
「前は教師になろうと思っていたんです。でもあなたの演奏を聴いて…あなたが優勝したコンクールです。あれを聴いて、演奏家になろうかなって思い直して。コリンは昔、オーケストラで弾いていましたよね?私もオーケストラで弾いてみたいんです」
オーケストラ…コリンはまた、かつて仲間たちと弾いていたあの楽しさを懐かしく思い出した。
「今も授業で管弦楽をとっているんです。とっても楽しくって」
「もしかして眼鏡をかけた小柄な教授?なんていう名前だったかなぁ…」
「そうです、スコット教授です」
「僕がその授業をとった時も彼だったよ。もう10年以上も前なのに、まだいるんだ」
「もうすぐ定年だって仰ってましたけど」
2人は顔を見合わせて笑った。コリンは少しパトリシアが羨ましかった。学生時代の楽しかった思い出は、今でもコリンの心の中で色褪せることはなかった。パトリシアは思い出したように、鞄から封筒を取り出した。
「今日の謝礼です。本当にどうもありがとうございました」
「ありがとう…なんだか思った通りは教えられなくって、申し訳ないな。あまり回数も取れないし」
「とんでもないです、一緒に弾いてくださってとっても勉強になりましたし、あなたのヴァイオリンをこんなに近くで聴けて嬉しかったです。お忙しいのは承知してましたから」
パトリシアは軽く頭を下げ、コリンに微笑んだ。
「それじゃあ、また次の機会に」
「気を付けて帰って」
コリンは玄関の扉を閉めると、息を吐き出した。初めてのレッスンということもあったが、それ以上に亜麻色の髪を見て気持ちが揺れることがコリンを消耗させた。コリンは寝室に行くと、ベッドの上に横になった。

コンサートツアーの為のピアニスト選びは佳境に入っていた。コリンは全てのピアニストたちと会い、一緒に演奏をした。それぞれに良い点と悪い点とがあり、これといった決め手に欠けていた。非常に合わせやすいピアニストとは演奏しやすかったが、なんとなく面白みのない演奏になりがちな気もした。そしてミミのようなピアニストとは合わせ難かったが、お互い競うようなスリリングな演奏が出来ることも確かだった。コリンは自分の考えを全てケイトに伝えた。彼には決めることが出来ず、コリンはケイトに人選を任せることにした。マネージメントのプロとして、この世界で長く働き経験もあるケイトのことを、コリンは全面的に信用していた。かなり日も長くなった初夏のある日、コリンはケイトに呼ばれ、彼女の事務所の部屋に来た。
「ピアニストについて、社長とも話し合って決めたわ」
ケイトは書類を見つめた。
「私たちの今回の基本方針は、まずソリストとしてのあなたを広く世界に紹介することよ。既に国内はもとより海外での評価もあるけど、特に海外では今までオーケストラとの共演がメインだったし、ソロコンサートでまた評価も変わるはずよ。だからあまり危険な賭けはしたくないし、出来るだけあなたの評価が更に高くなるようにするのが第一なの」
コリンは静かにケイトが話すのを聞いていた。コリンは当事者であったが、弾くこと以外には全くと言っていいほどこだわりがなかった。コリンの仕事は楽器を通して音楽の素晴らしさを伝えることであり、そのコリンをどこでどう演奏させ収入を得るかはケイトや事務所の仕事だと思っていた。
「でも安全策を取る事が一番だとは思わないわ。世界中には沢山のヴァイオリニストがいる。あなたはこれからその中でソリストとしての地位を確立しなくてはいけない。それにいくらプロとしてのキャリアが何年かあったとしても、あなたはまだ音楽家としては駆け出し同然なのよ。これからまだいくらでも伸びるし、そうしなくてはならない。今のままのあなたの演奏でもそれなりに通用するし、評価はされると思うわ。でも前進はしない。あなたを益々素晴らしいヴァイオリニストに育てることも私たちの仕事なの。今回、海外公演でのピアニストはあなたと一緒に弾いて決めることは出来ないから、あまり冒険はしないけど、国内ツアーのためのピアニストはあなたの幅を広げる可能性を重視したわ」
ケイトは一息ついた。
「国内ツアーの第1候補はミミにしました。あなたに異存がなければこれで通します」
一瞬、コリンの脳裏にミミの艶やかな姿が浮かんだ。彼女には近づいてはいけない…コリンの意識が警鐘を鳴らした。しかしピアニストとしての彼女は、ケイトの言うように、コリンの可能性を広げてくれるだろう。コリンは暫く考えた。そしてケイトに向かって言った。
「異存はないので、それで進めてください」

シーズン最後の演奏を終えたコリンは、休む間もなくソロコンサートの準備に入った。レパートリーにある曲は更に練習を重ね、新たに弾く曲は自分のものになるようにしなければならなかった。本当はエーデルバッハの元へ行き教えを請いたかったが、コンサートの準備とパトリシアのレッスンをこなすだけで精一杯だった。パトリシアは若いせいか、驚くべき早さでコリンの教えることを身につけていった。もちろん大学での授業のせいもあるだろうが、1ヶ月に2回ほどのレッスンの度に実力をつけていった。不思議なことに、パトリシアのヴァイオリンはコリンに似るのではなく、コリンの最愛の女性のものに似ていった。それはコリンの気のせいかもしれなかったが、彼の心を揺さぶるには充分だった。パトリシアに会う度に、コリンは彼の愛するヴァイオリニストの幻影を、ますます強くパトリシアの中に見るようになっていった。シーズンオフになって最初のレッスンで、パトリシアはいつものソロ用の楽譜ではなく、オーケストラのパート譜を持って来た。
「もうすぐ管弦楽の授業の演奏会なんです。実は1曲、コンサートミストレスを務めることになって。どう弾いたらいいのか、いろいろ考えてみたんですけど、実際コンサートマスターだったコリンに教わるのが一番いいと思ったんです」
「そうだな…それは実際オーケストラの中で弾かないと難しいけど…スコアを持ってる?」
パトリシアは頷くと、鞄からスコアを取り出した。コリンはその小さなスコアに折り目をつけ譜面台に置いた。
「これで弾くのは辛いけど、僕がセカンドヴァイオリンを弾いてみるから、あわせて弾いてみよう。実のところ、僕は一度もセカンドヴァイオリンを弾いたことがないから、全く弾けないかもしれないけどね」
コリンが冗談めかして言うと、パトリシアは笑った。
「まさか、そんな」
「いや、本当。セカンドヴァイオリンってかなり特殊技能だと思わないかい?」
「思います。じゃあ今日がコリンのセカンドヴァイオリンデビューですね」
2人は顔を見合わせて笑った。

コリンはパトリシアの左横に立ち、一緒に弾き始めた。暫く弾いているうちに、コリンの記憶が蘇った…この曲は、僕が最初にプロとしてオーケストラの演奏会で弾いたものだ。右隣にはコンサートミストレスのあの女性がいた。視界の右隅に入る亜麻色の髪にコリンの気持ちが揺れた。その髪に触れることすら躊躇するほど絶対的な存在だったあの人…今ならその髪に触れ、華奢な体を抱きしめ、薔薇色の頬とその唇に口づけすることが出来る。愛していると告げることが出来る…。コリンの脳裏に菫色がかったグレーの瞳が浮かんだ。温かい、そして威厳のある瞳。
「しっかりしなさい、コリン」
そう言われた気がして、コリンははっとした。そうだ、隣にいるのは彼女じゃない。コリンは楽譜から視線を外し、パトリシアを見た。技術的にはよく弾けていたが、まだコンサートミストレスとして弾いたことがない彼女の弾き方は、もちろんコリンの敬愛する人のものとは違うものだった。コリンはヴァイオリンを弾く手を止めた。
「パトリシア、よく練習しているね。でも自分が弾ければいいっていうわけじゃないんだ」
コリンはスコアを手にし、パトリシアに近づいた。
「コンサートマスターは自分で弾くより、どちらかと言うと、仲間に弾かせるのが仕事かもしれないな。指揮者の一番近くにいるだろう?だから彼がやろうとしていることを誰よりも感じることが出来るはずなんだ。そしてそれをヴァイオリンと自分を通してオーケストラの全員に伝えなければいけないんだよ」
コリンは自分が学生時代に初めてオーケストラで弾いた時のことや、プロとなったばかりの時のことを思い出していた。今彼の目の前にいるパトリシアは、まさにあの頃の自分と同じだ。
「だから自分が弾くことばかりに一生懸命になってはいけない。それからファーストヴァイオリンは大抵旋律を弾いているけど、だからと言っていつも合わせてもらうだけというわけじゃないんだ。一方的に合わせてもらうのはアンサンブルじゃない。伴奏を弾く時ももちろんだけど、旋律を弾いていてももっと周りの音を聴くようにしなくてはね」
コリンは心の中で苦笑した。まるで昔の自分に対して注意しているみたいじゃないか。当時は亜麻色の髪の女性が僕にいろいろ言ったけど、今は僕が亜麻色の髪のヴァイオリニストに注意しているなんて…コリンは何だか可笑しくなった。コリンはその長い指でスコアを指した。
「例えばここは、セカンドヴァイオリンがオクターブ下で同じことを弾いているね。こういうところは、セカンドヴァイオリンの音の上にふわっと乗って弾くのが一番綺麗なんだよ」
パトリシアは真剣な面持ちで頷いた。コリンの言うことを一言も聞き漏らすまいと必死になっているパトリシアの顔を見ていると、コリンには彼女がとても愛らしく思えてきた。

コリンはパトリシアに他のオーケストラのメンバーが見やすい弾き方のコツや、フィンガリングのアドバイスなどを教えると、この日のレッスンを終わりにした。コリンはベッドに横になり、今度のツアーで弾く曲のCDを聴いていたが、それを止めるとぼんやりと天井を見つめた。愛しい人の面影を宿すパトリシア。あの髪に触れたいと思うのは、パトリシアが彼女に似ているからだろうか。この腕に抱きしめたいと思うのは、パトリシアにあの女性を重ねているからだろうか。菫色がかったグレーの瞳と淡いブルーの瞳が、コリンの頭の中で廻っていた。誰よりも強く愛していたのに、それを告げることもなくコリンの手の届かないところに逝ってしまったあの女性。確かにコリンはパトリシアの中に彼女を見ていた。彼女といるかのような錯覚をよく感じた。でもパトリシアは彼女の形代なのだろうか。それだけなのだろうか…コリンを真剣に見つめる淡いブルーの瞳を思い出すと、コリンは軽く笑った。パトリシアは美人だし、一生懸命で健気で、人から好かれるタイプの女性だった。ヴァイオリニストとしてもこれからどんどん成長するだろう。それにコリンから懸命に学ぼうとする姿勢は、コリンに好意を持たせた。もしかしたら気がつかない内に、彼女自身に惹かれているのかもしれない…コリンはそう思った。コリンは瞼を閉じ、深く息を吐いた。パトリシアと弾いた曲がコリンの頭の中で鳴り始めた。初めてプロとしての舞台を踏んだ思い出の曲。愛する人と、大好きな仲間たちと一緒に弾いた楽しい思い出…オーケストラで弾きたいという気持ちは、コリンの心の底で静かに、だが消えることなく燃え続けていた。コリンは起き上がると、強く頭を振った。今はもっとソロに集中しなくては…大事な仕事が控えているんだ。彼はCDを再生すると、枕元にあった楽譜を読み始めた。

コリンはミミとツアーの為の練習を始めていた。主に事務所の練習所でしていたが、それでは時間が足りないため、コリンは彼女の家を訪れた。練習部屋の真ん中にはグランドピアノが置かれているだけで、他には何もなかった。コリンは可笑しくなって笑った。
「やっぱり、こういう部屋だと思ったんだ。僕のところもそうだけど」
「私にはピアノとベッドがあれば充分よ」
ミミはそう言うと、ピアノの蓋を開けた。長い髪を後ろで一本に結わくと、しなやかな長い指で指慣らしに軽く曲を弾き始めた。鍵盤をその指が駆けるのをコリンはじっと見つめていた。ミミのピアノは自由奔放で情熱的な雰囲気だったが、時折はっとするほど繊細な部分があった。黒いピアノ、黒い髪、褐色の肌…細く長い足を黒のパンツで包み、その上に綿の白いシャツをざっくりと着たミミの姿に、コリンは暫く見惚れていた。弾き終わったミミがゆっくりとコリンのほうを向いた。力強い、大きな漆黒の瞳に、妖しいほどの魅力を湛え、ミミは微笑んだ。
「それじゃ、始める?」
コリンははっとし、ヴァイオリンケースの蓋を開け、準備をした。ミミの叩いたピアノに合わせ調弦し、コリンはすっとヴァイオリンを構えた。コリンのヴァイオリンとミミのピアノは、相変わらず全く違う雰囲気を持ったものだった。コリンは弾くのをやめ、ミミに言った。
「この間は、この部分をもっとゆっくり弾いたはずだけど」
「この間はこの間よ。いつも同じに弾いていちゃ、つまらないじゃない」
ミミは笑った。コリンにはミミの言うこともわかったが、それでもこうまで合わないと、面白い演奏をする以前に全く曲にならない気がした。コリンは軽く息を吐き出した。
「それじゃあ、もう一度練習番号Dからやろう」

その日の練習も、これといって仕上がることもなく終わったようにコリンには感じられた。個々には曲を自分のものにすることが出来てきているが、お互いに弾きたい音楽が全く違っていた。コリンは、このままコンサートまで仕上がらないのではないかという不安と、いつも勝手に弾いているかのようなミミに対して軽く怒りを覚えていた。彼女は伴奏ピアニストとして活動しているのに、どうしてああいう弾き方をするんだろう…それでもコリンは何も言わず、楽器を片付け、ミミのフラットを去ろうとしていた。
「あなた、怒っているんでしょう?」
玄関の扉を開けようとしたコリンに、後ろからミミがそう言った。コリンは驚いて、振り返った。
「…何でそう聞くんだい?怒ってなんかいないよ」
「嘘よ。表には出してないけど、私にはわかるわ。あなたは私に対して怒っている…とても静かに。蒼白い炎のような怒りよ」
ミミはコリンに近づいた。
「紅蓮の炎のように激しくはない…でも知ってる?蒼白い星は紅い星より温度が高いのよ」
彼女の細い指先がコリンの頬に触れた。コリンは彼を真っ直ぐに見つめるミミの瞳に吸い込まれるような気がした。
「…君は燃え盛る炎だね。自分だけじゃなくて周りをも焼き焦がす」
「それもいいじゃない。2人して燃え尽きるのも」
ミミの唇がコリンのそれに重ねられた。彼女の指がコリンの頬から耳、そして首筋へとなぞるように動いた。コリンは瞼を閉じ、ミミの体を引き寄せた。コリンは自分が今何をしているのか、誰と口づけを交わしているのか、それすらわからないほどの激情に自分が動かされているのを感じていた。普段、こんなに自分を失うことはなかった。彼は常に自分を抑えてきた。しかし今、コリンは感情の箍が外れたかのように、激しく相手の唇を求めていた。彼の脳裏に菫色がかったグレーの瞳が浮かんだ。その時、肩に掛けていたヴァイオリンケースがずり落ちそうになり、コリンは我に返った。コリンはミミの手を自分からそっと外すと、彼女から視線を逸らして呟いた。
「もう帰るよ」
コリンは玄関の扉を開け、階段を駆け下りて行った。建物の外に出た時、ピアノの音が聞こえた。ベートーヴェンのソナタ『熱情』…コリンはまだ熱い感覚の残る唇に指を当てた。彼はミミの甘い香りにまだ包まれているのを感じていた。コリンは強く頭を振ると、ピアノの音から逃れるように急ぎ足で歩いて行った。


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