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注意
この訳文は「奇跡の詩人」検証文献翻訳班の最終チェックを受けておらず、現状ベースの試験公開版です。最終チェック完了後に正式版として再掲されます。


ファシリテーテッド・コミュニケーション序論

見出し

ファシリテーテッド・コミュニケーションとは?
このエッセイの目的
FC の歴史
FC 論争

ファシリテーテッド・コミュニケーション( FC & FCT )とは?

FC はコミュニケーションの手法です。この手法により、障害者(脳性小児麻痺、頭部損傷、ダウン症等、知的な障害あるいは自閉症による)とコミュニケーションが可能になると信じる者も少なくありません(1)。通常、オーストラリアではファシリテーテッド・コミュニケーション訓練( FCT )、北アメリカではファシリテーテッド・コミュニケーション (FC) として知られています。

FCは何十年もの間、細々と実践されていました。最初にそれが組織的なムーブメントになったのはオーストラリアで、脳性小児麻痺の子供とのコミュニケーションの補助手段としてでした(2)。M.D.Smith と R.G. Belcher は 、次のように定義しています。

"表情豊かなコミュニケーションを容易にするための方法・・・伝達者の手、手首、肘、あるいは肩、を支持し、文字盤、タイプライター、ワープロ、ポータブルコンピュータで文字を選ぶのを補助するために戻す力を与える事による"(3)

T. Attwoodはそれよりも幾分広い定義を提案しています:

"FC は、コミュニケーションのために物、絵、文字などを指し示す事ができるように運動筋肉/神経の技能を改善するための方法である"(4)

多くの精神衛生/心理学分野の新しいムーブメントがそうであるよう、 FC は激しい論争の的になっています。

FC を研究したたいていの人は、両極端の立場に別れます。

中立的な立場を取る者はほとんどいません。
Andy Grayson と Cathy Grant は次のようにコメントしています:

"極端な立場をとる者が距離を置いた中立的な見解を聞き入れる事は難しい。けれども、いつの世もこの手の問題で最も助けになる、建設的な答えをもたらすのは、何年もの間慎重に計画された組織的な研究の手段に基づく中立的立場である。"(5)

FC は、現在でも所によっては広く奨励されています。
FCの使用に積極的に反対している所もあれば、禁止している所もあります。

宗教を扱うWeb サイトにFCのエッセイを載せる意味は?(訳注:原文は Religious tolerance というサイトに掲載)

我々は、現在の FC論議には主に倫理上の要素があると感じています。 そして倫理学はしばしば個人の宗教と精神性の1部分であると考えられています。

目に見えない害は非常に大きいのです。FC の有効性の問題がいちはやく決着する事が大事です。

FC の歴史

一般に、Rosemary Crossleyという人が最初に FC 訓練 (FCT) をムーブメントとして発展させたとされています。 1970年代初期、彼女はオーストラリアのメルボルン(ビクトリア州)にあるセント・ニコラス病院(St. Nicholas Hospital)で教師として勤めていました。 彼女は重度の脳性小児麻痺に苦しむ12人の子供たちと有意義なコミュニケーションを促進する(facilitate)のが可能であったと信じています(6,7)。それ以来、FCはカナダ 、ヨーロッパのいくつかの国とアメリカ で広まりました。 そして FC は自閉症その他のコミュニケーション障害の人々の間に広まりました。

1986: Crossley 女史はメルボルンに「教育と言語を通じての威厳(DEAL)コミュニケーションセンターを設立するための資金を政府から受けました。 DEALは、ビクトリア州全土でFCTの使用を提唱しました。 FCTは州内でまたたく間に広まりました。
1988: オーストラリアの"学際ワーキンググループ"と呼ばれた、心理学者、言語専門家、教育者、行政家などで急遽編成されたグループが、「重度のコミュニケーション欠陥 (Severe Communication Impairment) 」誌上で、ファシリテータがコミュニケーションに影響を与えていたという懸念を表明する重大な論文を発表しました(8,9) 。
1989: "学際ワーキンググループ"の報告はビクトリア州に知的障害レビューパネル (Intellectual Disability Review Panel) ( IDRP )を創設するきっかけになりました。 IDRPの任務は FCTの詳細で客観的な再調査をなるべく多く行うことでした。 DEAL と IDRP では研究姿勢が根本的に異なる為、両者は対立し、個々の評価はほんの少ししかできませんでした。 「DEAL は、自然主義的な観測を主とする定性的な手法を好んだ(10)。」 そのため、 IDRP は研究規模を縮小せざるを得なくなり、たった6人の被験者を得たに過ぎませんでした。
2つの方法が実行されました:

委員会の報告には次のような指摘がありました:

残念ながら、報告はそう決定的なものではありません。 クライアントについての詳細は記録されてなかったからです。特に、ファシリケーションがない場合のコミュニケーション能力が記録されていませんでした。

1989: ニューヨークのシラキュースにあるシラキュース大学 (Syracuse University)の社会学者で特殊教育の教授でもあるDouglas Biklen が、 DEAL の FC を観察しました。 彼は「完全な包括ムーブメント(total inclusion movement)」におけるリーダーでした。そこでは、障害を持つ生徒を全員普通教室に配置する事を奨励していました。 Biklen は FC 法が自閉症の青年男女にも同じく有用でかもしれないと感じました。 彼はアメリカの言語病理学者と特殊教育者にFCを紹介しました。 彼らは、それまで一度もコミュニケートすることがなかった自閉症の人に劇的な効果があったと報告しました。
1992-1993: FC に肯定的な記事が、かなりの販売部数を誇る雑誌、障害者向けのメディア、そしてテレビに登場しました。
1992: Biklen はシラキュース大学 に FC 研究所 (Facilitated Communication Institute) ( FCI )を設立しました。
1992: 最初の訴訟がニューヨーク州で起こされました。この中にはFC から虐待が生じるという告発も含まれていました(8)。
1993: Szempruch とJacobson はオーストラリアで3人をテストしました。 結果は肯定的でした。 その結果は広く FC 支持者によって引用されました。 残念ながら、この研究は被験者の「ファシリエートされない場合の文学的/コミュニケーション能力」について何も記述が無いため、あまり価値がありません(12)。その年出版された他の論文は一般に否定的な結果を示しました。
1993: 10月19日、アメリカの番組制作会社PBSは、番組Frontline/Worldで「静寂の囚人」と題したエピソードで FC を批判しました。これはムーブメントに手痛いダメージを与えました。
1993: Douglas Biklen はニュースレター「 FC ダイジェスト」 (Facilitated Communication Digest) を創刊しました。
1993-1994: 系統立った研究が相互レビュー形式の雑誌で出版されました。すべて首尾一貫して否定的な結果でした。 それらはファシリテータがコミュニケーションの主導権を握っている傾向がある事を示していました。 定性的な研究も続けられましたが、そちらは肯定的な結果を示しました。
1994: それまでに、少なくとも50箇所で、 FC によって作り出されたメッセージを基に成人による性的虐待の告発がなされていました。 多数の「容疑者」が起訴されました。 少なくとも1人は有罪を宜告されました。同じ様な事例はオーストラリアとヨーロッパでも報告されました。 ニューヨーク州北部に住む家族が、Douglas Biklen とシラキュース大学を含む10(人)の被告に対して民事訴訟を起こしました。 自分たちが性的虐待の罪で告発されたのは誣告(ぶこく)であると主張しました。
1996: 1993年に放送された番組Frontline/Worldの「沈黙の囚人」が12月17日に再放送されました。
1996: ある筋によると、 FCI は「他所で行われた30の研究は否定的な結論を出したが、我々は FC の実在と有効性を立証する3つの研究を行なった」と発表したとの事です(13)。

FC論争

FC の歴史を通じて、どちらかと言うとファシリケートされている人よりファシリテータの方がコミュニケーションしているのではないかという嫌疑がしばしばありました。 FC の現実的な検証を複雑にする要因はいくつかあります。

  1. 話ができない人は、多くは知能が低いと見なされます。 たいていの知能テストは話し言葉、あるいは文字による言葉に基づいているので、話せない、あるいは書けない人は自動的に重度の知能障害に分類される可能性があります。 そのため、多くの懐疑論者はコミュニケーションのすべてがファシリテータによるものと推定しています。 実際、クライアントは標準、あるいはそれ以上の知能の持ち主で、単にコミュニケーションができないだけなのかもしれません。
  2. 親や介助者は、自閉症の人とコミュニケートしようとする時、非常なフラストレーションと絶望を経験します。 従来の治療法や技術は、効果は非常にゆっくり現われるか、あるいは全く役に立ちません。 FC は、自閉症を打開する単純な方法であるように感じられます。 無批判に FC を受け入れる圧力にはほとんど抵抗できません。
  3. ファシリテータは、FCがをうまくいかせようとする激しいプレッシャーの下で手探りしているのかもしれません。 もし彼らが結果を出せなかったら、自尊心に傷が付き、同僚に対して面目を失うと感じかもしれません。 究極的には、彼らは雇用の損失を恐れるかもしれません。 これらの要因は結果を出したいという激しい願望を産み出します。 ファシリテータの中にはクライアントの手を誘導しようという気を起こす者もいるかもしれません − 多分自分でも気がつかないうちに。
  4. 多くの懐疑論者は、「自動筆記、 こっくりさん、チャネリング」12で証明されたように、ファシリテータがコミュニケーションのすべてに対して責任があると考え、即座に FC を退けます。
  5. 多くのマスメディアのドキュメンタリーはFC技術を無批判に受け入れて来ました。 さもなければ FC の数ある複雑な問題に注目せず、ただ酷評するのみでした。
  6. あいにく、ある人がある現象を測定しようとすると、その現象自身が変化してしまうという一般的な規則があります。 これは原子核のレベルから、身近な物理現象まで成り立つようです。コミュニケーション技術を検証するような場合には特にそうです。 否定的な結果になった研究の大部分(多分すべて)は、失敗を招いたいくつかの要素には注目していません。
  7. 性的虐待の告発が FC セッション中に生じて、アメリカやカナダの家族を大きな混乱に陥れました。

    場合によっては、告発が実証されないまま刑事訴訟が起こされました。 結果は「訴えられた人たちの金銭的負担...一家離散、スチグマ(聖痕現象)、失業と孤立」12等々でした。

    誤った記憶に基いて、起きもしなかった虐待で告発や告訴がありましたが、多くの人はFC自体も同じ様な物だと考えています。

引用文献

  1. J.W. Jacobson, et al., "A History of Facilitated Communication: Science, Pseudoscience, and Antiscience," American Psychologist, (1995), Vol. 50, No. 9, Pages 750-765. The paper is available at: http://www.apa.org/journals/jacobson.html
  2. Chris Borthwick, "FACILITATED COMMUNICATION TRAINING: AN ANNOTATED BIBLIOGRAPHY," from the DEAL Communications Centre, Inc. at: http://home.vicnet.net.au/~dealccinc/Fccont.htm
  3. M.D.Smith & R.G. Belcher, Journal of Autism and Developmental Disorders 23 (1993).
  4. T. Attwood, T., "Movement disorders and autism: a rationale for the use of facilitated communication." Communication, 26, Pages 27 to 29 (1992).
  5. Andy Grayson and Cathy Grant, "A Micro-Analysis of Video-Taped 'Facilitated Communication Interactions: Are there behavioural indicators of authorship?", Nottingham Trent University. Available at: http://www.ntu.ac.uk/soc/psych/grayson/fcpap-01.htm
  6. John Wobus "Autism Resources," Facilitated Communication Institute, at: http://web.syr.edu/~jmwobus/autism/
  7. Gina Green, "Facilitated Communication: Mental Miracle or Sleight of Hand?" Skeptic Vol. 2, Nbr. 3, 1994, Pages 68 to 76.
  8. D. Bicklen, "Communications Unbound," Teacher's College Press, New York, NY (1993)
  9. "D.E.A.L. Communication Centre operation: A statement of concern," Interdisciplinary Working Party on Issues in Severe Communications Impairment, Melbourne, Australia. (1988)
  10. J.W. Jacobson, et al., "A History of Facilitated Communication: Science, Pseudoscience, and Antiscience," American Psychologist, (1995), Vol. 50, No. 9, Pages 750-765. The paper is available at: http://www.apa.org/journals/jacobson.html
  11. "Investigation into the reliability and validity of the assisted communication technique," Intellectual Disability Review Panel, Department of Community Services, State of Victoria, Melbourne, Australia (1989)
  12. J.W. Jacobson, et al., "A History of Facilitated Communication: Science, Pseudoscience, and Antiscience," American Psychologist, (1995), Vol. 50, No. 9, Pages 750-765. The paper is available at: http://www.apa.org/journals/jacobson.html
  13. R.T. Carroll, "Facilitated Communication (FC)," at:  http://dcn.davis.ca.us/~btcarrol/skeptic/facilcom.html

原文: Facilitated Communication Introduction ( Ontario Consultants on Religious Tolerance)
翻訳:Mag.
初出サイト:Facilitated Communication と Doman Method 海外文献翻訳資料集
掲載者:「奇跡の詩人」検証文献翻訳班@2ちゃんねる
更新履歴:2002年7月7日 試験公開にて初出

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