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神経障害をもつ子供へのドーマン−デラカト治療法

以下の団体による共同声明(1968年3月15日時点)
米国脳性麻痺学会
米国神経学会
米国小児科学会
米国理学療法・リハビリテーション学会
米国リハビリテーション療法協会
米国整形外科学会
カナダ学習障害をもつ子供のための協会
カナダ精神遅滞児協会
カナダ障害者のためのリハビリテーション協会
全米精神遅滞児協会

人間能力開発研究所とその関連組織は、脳障害やその他障害の治療に自分たちの方法が有効であると、過去十年の間ますます声高に主張してきた(文献1,2)。それに対し、いくつかの団体が警告声明を出してきた(文献3-8)。最近入手可能になった情報により、論争の現状を検討した上で、若干の勧告を行うことが重要であろう。
われわれが懸念する理由は、以下のごとくである。
1. 勧誘方法(文献9,10)が、この治療法を拒否するようでは親としての適性と動機付けに欠けると、両親に思い込ませるようにみえること
2. 処方される方法があまりに過酷かつ硬直的(文献9-11)で、家族内のほかのメンバーの欲求が無視されかねないこと(文献12)
3. 治療が厳格に処方された通りに実行されないと、子供の潜在力が損なわれるとか、100パーセントに満たない努力はまったく役に立たないとか主張されること(文献9,10)
4. 歩くとか、音楽を聴くといった、その年齢の子供には適当で可能な活動を、しばしば制限すること(文献13,14)。そうした制限は、それを支持するような長期的結果のデータや知見がこれまで公表されたことがないにもかかわらず行われている。
5. なんら有効性が知られていない「成長プロファイル」(文献16)に従って、早急で決めつけた診断(文献15)がなされること。「成長プロファイル」が依って立つデータはこれまで公表されたこともなく、われわれの知る限り、一般に認められた手法によってそれを検証しようとする試みがなされた形跡もない。
6. 多くの事例(文献1,2)において、この治療法は、疾病という枠を超えて、健常児を優秀にするとか(文献2,9,17,18)、世界の緊張を緩和するとか(文献2)、「進化プロセスを加速する」かもしれないとか(文献2,19)、根拠のない主張がなされていること。
7. なんの根拠もなく、ドーマンとデラカトは、多くの一般的な子育て法を子供の潜在力を制限するものと非難し、その結果として、そうでなくても苦しみ混乱している両親の悩みをさらに増幅してきたこと(文献12,20)。

以上の主張をめぐる論争は最近詳細に検討されている(文献12)。

ドーマン−デラカト理論
ドーマンとデラカトの理論には汎用性があると主張されている(文献2,18)が、脳半球支配や発達と系統発生との関係についての、疑問のある単純化され過ぎた概念に大きく依拠している(文献21)。さらに、精神遅滞、学習障害や行動異常の大半のケースは脳損傷や「神経組織の未発達」に原因があり(文献15)、これらすべての問題は脳損傷の単一の次元上にあって、人間能力開発研究所の提唱する治療が唯一の有効な答えだ(文献2,9)、と主張している。
現在入手可能な情報は、こうした主張を支持していない。特に、脳半球の一様支配や左右局在の欠損は、これらの症状の病因や治療において、重要な要素ではないであろう(文献21-27)。
文化的、人類学的違いもまたこの理論で「説明」される。例えば、原始生活をおくるいくつかの種族が文字言語を持っていないことは、這ったり腹這ったりすることに制限があるせいだとされる(文献28)。これはあまりに狭量で、疑問のある見解である。
この理論を注意深く検討した論文(文献21)は次のような結論を下している。「関連科学文献からの理論的、実験的、理論的証拠により検証すると、この教義は支持されないか、もしくは、圧倒的に矛盾している。この神経組織理論は科学的仮説としての利点がない。」

主張されている治療結果の現状
人間能力開発研究所やその支持者によって公表されている結果はあいまいなものである(文献15,29,30)。読む能力が改善したという多くの報告がこの理論を支持するものと喧伝されている(文献19,31,32)が、統計分析によれば明白な効果があるとはいえない(文献21,33)。
診断ミスや不当に悲観的な見通しがなされてきた幼い障害児が複数いたことは、繰り返し指摘されてきた。これらの小児の成熟過程は、個々人で大きく異なっており、それゆえ、症状改善はある特定の治療のおかげだったと根拠もなく主張される結果になったのかもしれない(文献12,34,35)。人間能力開発研究所によって劇的結果だと公表されたいくつかのケースは、外傷に起因する脳損傷をもった小児であり、そうした小児はなんら特殊な治療をしなくても大きく改善することが少なくない。
読みの能力についてのドーマン−デラカト理論の主張に対しては統制された研究がいくつか行われているが、そうした研究は、この理論がまったく効果的でないことを示している(文献36,39)。
以前に発表された警告声明は、適切に統制された研究の必要性を強調している。人間能力開発研究所の主張を研究する際の理論的、実務的問題には多くの困難がある(文献40)。十分に計画されたある包括的研究(この研究は連邦政府と民間機関の両方からサポートされていた)は、計画の最終段階になって、人間能力開発研究所が研究計画についての当初の合意を撤回してきた(文献41)。この計画の頓挫により、主張している結果についての立証責任は人間能力開発研究所の側にある。
ドーマン−デラカト法を用いたときに観察されるどんな改善も、成長と発達、個々のスキルの徹底訓練、もしくは、徹底的な刺激の非特定的効果だけで説明可能であり、これに矛盾するデータは現在のところ存在しない。

要約
人間能力開発研究所は、(a) 治療について根拠のない主張を過剰に行うこと、 (b) 証明されてもいない技法を失敗なく実行するよう両親に課している負担の過剰さにおいて、発達上の問題を治療している他のグループと大きく異なっているようである。
両親や専門職への助言は、この方法のすべての側面についての統制された研究の結論が出るまで棚上げしておくことはできない。医師や療法士はこの論争の論点と入手可能な証拠を知っておくべきである。われわれはそれを行い、ロビンスとグラスの以下の結論(文献21)に同意する。
「神経的体制化なるものは、その理論にも実践にも価値があることを実証する経験的証拠はない・・・・・この理論が真剣に受け止められるためには、・・・・その提唱者は、理論の教条が理にかなっていることを示し、その有効性を検証するために科学的標準と矛盾しない一連の実験的調査を提供する義務がある。」
これまでのところ、われわれの知る限り、この義務を果たそうとする試みはなされていない。

引用文献
(省略:原典を参照下さい)


上記の共同声明は
Developmental Medicine and Child Neurology誌、1968年、第10巻、243-246ページ
を翻訳したものですが、
『リハビリテーションを考える―障害者の全人間的復権―』
上田敏・著 青木書店 1983年 定価2500円
の記述によれば
Archives of Physical Medicine and Rehabilitation誌、1968年、第49巻、183-176ページ
にも同じ声明が発表されていると思われます。なお、上田氏は20年以上前からドーマン法の問題点を指摘しています。

翻訳:ほんけんこう
初出サイト:Facilitated Communication と Doman Method 海外文献翻訳資料集
掲載者:「奇跡の詩人」検証文献翻訳班@2ちゃんねる
更新履歴:2004年6月30日 初出
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