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日本ERI、偽装隠蔽と弾劾

民間の指定確認検査機関最大手である日本ERI株式会社(日本イーアールアイ株式会社、東京都港区、鈴木崇英社長)は、耐震強度偽装を見逃した検査機関である。見逃したのみならず、偽装を隠蔽したと弾劾されている。問題発覚の一年半前に耐震偽装情報が寄せられていたにもかかわらず、問題を重視せずに適切な対応をとらなかった。耐震強度偽装事件はヒューザー、イーホームズ、姉歯のトライアングルから混沌の世界へ拡大した。

赤羽橋物件の公文書偽造疑惑

有限会社アトラス設計(東京都渋谷区)の渡辺朋幸代表は株式会社千葉設計(横浜市青葉区)の依頼で、姉歯建築士が作成した構造計算書を点検し、偽造を発見した(2004年1月)。問題の物件は東京都港区の学生マンションである。株式会社千葉設計が設計、平成設計の肩書きの姉歯秀次元建築士が構造設計を担当した。木村建設の工法を用いて建設される予定であった。

赤羽橋物件の物件名は明かされていない。千葉設計が設計し、木村建設や総研らに打ち合わせ場所を提供した北和建設が施工した物件にはスカラコート麻布十番(港区)がある。赤羽橋物件は日本ERIに建築確認申請され、2004年1月7日に建築確認が下りた。

日本ERIは偽装を設計ミスで処理

姉歯秀次建築士の偽装を発見した渡辺代表は日本ERIの構造審査担当者に指摘した(2004年4月)。「前任の姉歯事務所の設計は杜撰。これを他でもやっていたら大変なことになりますよ。調べてみたらいかがですか」。しかし同社は情報の真偽も確認しないまま見逃した。

千葉設計は以下のように説明する。「当時のERI担当には、直接その不正な内容を説明し、ほかにもこういった案件がないかを調査するよう働きかけた」(株式会社千葉設計代表取締役千葉孝「12月7日の衆院国土交通委「建築物耐震強度偽装問題」参考人質疑において、当社名が実名にて発言されたことについて」2005年12月8日)。日本ERIには不正であることを伝えている点がポイントである。

「ERIの当時担当には、本件の確認業務の甘さを指摘し、他の物件にこういった事態がないかを確認する旨勧告するが、その後返事はなかった」(株式会社千葉設計代表取締役千葉孝「偽装発見までの経緯書」2006年1月16日)。

この時点で日本ERIが精査していれば以降の欠陥マンションやホテルは生まれなかった。その後も姉歯建築士が構造計算を行った建物の建築確認を出し、結果的に被害を拡大させていた(「「姉歯」のずさん設計、昨春に発覚…調査せず放置」読売新聞2005年11月29日)。日本ERIの検査機関としての資質や能力は厳しく検証・追及されるべきである。

日本ERIは担当者が設計ミス(計算ミス)と判断したと釈明する。鈴木崇英社長は以下のように釈明・謝罪する。「(担当者は)設計ミスの問題と思っていた。重大性に気付かなかったのは残念だ」(「「設計ミスと認識」 外部指摘に日本ERI釈明」産経新聞2005年12月7日)。「担当者は計算ミスと思い、上司に報告しなかった。計画的、組織的犯罪と気付けば良かった」(「耐震偽装問題 アトラス社長、善後策「総研が中心」 姉歯、内河氏は欠席」フジサンケイ ビジネスアイ2005年12月8日)。

赤羽橋物件では水平力が1/4にしてあり、日本ERIの担当者は計算書に明らかに偽装がされていることを認識できた筈である。これを故意の偽装ではなく、設計ミスと判断するとは考え難い。渡辺代表は「姉歯元建築士の設計はおかしい」と伝えており、隠蔽されたと判断されても仕方あるまい。渡辺代表は「すぐにおかしいと感じた」とも語っている。

日本ERIの主張する計算ミスは言い訳にならない。幼稚な嘘である。構造計算書は、大臣認定のコンピュータープログラムで計算されたものである。どうすれば計算ミスが起きるのだろうか。入力ミスであったとしても、エラーメッセージが出てアウトプットできない筈である。

計画変更確認の疑問

2004年4月、渡辺代表が日本ERIに偽装を指摘する一方で、赤羽橋物件は計画変更確認申請された。2004年4月23日に計画変更確認申請済書が交付された。計画変更確認申請時の構造計算書と構造図面は渡辺代表が再計算した。渡辺代表は以下のように証言する。「日本ERIさんの確認で一度はおりているものを、私が構造計算をやり直して変更申請を提出しました」。計画変更申請したということは、渡辺代表には少なくとも当時は告発の意思はなかったことになる。

計画変更は、変更前の確認物件が適合していることが前提である(建築基準法第6条)。渡辺代表は建築基準法に規定する耐震性能がないために新たな図面を提出した。従って従前の建築確認は自主的に取り下げか、役所に取り消しさせるべきである。当初の確認内容から大きく計画を変更する場合でも、計画の変更の確認申請ではなく、新規の確認申請とするのが本来の趣旨である。まして違法であった建築確認を合法にするために計画変更を悪用することはできない。

原因がどうあれ、交付された建築確認が建築基準関係規定に不適合だったことは事実である。その不適合が判明した時点で、計画変更とは異なる手続が発生して然るべきである。例えるなら、店のカネを着服した。それが発覚した。着服した金を補填すればそれで済むのか。解雇されるだろうし、告発されても文句は言えない。

建築確認(2004年1月7日)から三ヶ月経過しているが、杭や基礎、地中梁の施工は終わっていなかったか、問題である。そもそも施工状況を確認しないで担当者は計画変更確認ができるのか。計画変更には疑問は多い(荻原幸雄「耐震強度偽装問題時系列」建築よろず相談2005年12月23日)。

イーホームズは、赤羽橋ワンルームマンションの計画変更について、「千葉設計(計画変更=公文書偽造)」と明言する(イーホームズ「構造計算書偽造物件一覧」2005年12月26日)。

「この物件は、法規に従うなら不適合物件として確認を取り下げ若しくは取り消しにした上で新たに確認を出すべきところを、不適合とせずに計画変更を行ってしまった。これは、日本ERIが行なった建築基準法における不法行為なのです」(イーホームズ株式会社「弊社が認識する偽装事件の発覚の経緯」2005年12月31日)。

イーホームズ社長、日本ERIが隠蔽と証言

日本ERIへの偽装指摘経緯を最初に明らかにしたのはイーホームズの藤田東吾社長である。衆院国土交通委員会に参考人として招致された藤田社長は「『一年前、姉歯氏が関与した物件で偽造が見つかったが隠蔽された。気をつけろ』と外部の構造設計関係者から情報があった」と証言し、これが偽造発覚の端緒となった内部監査の契機であったと明らかにした(2005年11月29日)。

隠蔽情報の物件の建築確認をしたのは「日本ERIと聞いている」と述べた(「参考人招致 イーホームズ社長証言「姉歯偽造で隠蔽」」産経新聞2005年11月30日)。当初は責任転嫁を図ろうとする魂胆が明白と受け止められた。イーホームズは翌日になると同社Webサイト上で「真偽について事実確認をしていない」との文書を公表した(2005年11月30日)。真偽不明な情報で他の検査業者を平然と非難することには無責任極まりないとの見解も出た。

藤田社長証言に対し、日本ERIの鈴木崇英社長らは記者会見で「藤田社長の発言は事実と違い、法的対応を検討する」と反論した(「耐震偽造 「公表前にヒューザー圧力」とイー社長 衆院委」毎日新聞2005年11月30日)。翌日出された「事実確認をしていない」とのコメントにも鈴木社長は「不誠実な対応で、個人的には非常に不愉快に感じている。刑事告訴を検討している」と話す(青野昌行「“ERIが隠ぺい”、「情報の真偽確かめていない」イーホームズ社長」建設総合サイトKEN-Platz 2005年11月30日)。

日本ERIが偽装を見抜けなかったことは事実である。偽装の指摘に対して、建築確認を取り消さなかったことも事実である。最低限のチェックを怠っていたのは隠しようのない事実である。「実際、藤田イーホームズ社長の発言を裏付けるかのように日本ERIが検査を行った案件でも偽造の疑いのある物件がでてきており、姉歯建築設計事務所の構造設計偽造問題の闇はついに民間の建築確認最大手企業にも波及してきた格好だ」(「日本ERIがストップ安売り気配、政府は「隠蔽疑惑」問題を調査の方針」テクノバーン2005年11月30日)。

姉歯元建築士の偽装をイーホームズに通告したのはアトラス設計の渡辺朋幸代表である。しかし藤田発言があるまで日本ERIの偽造物件処理が一切公表されていなかった。新たな事実は藤田社長経由でしか出ていない。その間に日本ERIの株価が高騰していたことも事実である。株価高騰によって莫大な利益を上げた者がいることも事実である。藤田社長が参考人質疑で日本ERIの隠蔽を証言する直前までが、日本ERIの株価が最も高騰していた時期であった。

イーホームズ、日本ERIを批判

イーホームズは、厳しい論調で日本ERIを弾劾する。「日本ERI社は、平成16年1月に確認済み証を発行した「港区赤羽橋ワンルームマンション」で構造計算図書の偽装を指摘されながら、これを公表せずかつ取り消しも行わず、計画変更確認という公文書偽造に該当する手法によって隠蔽しました」(イーホームズWebサイト「日本ERI社は積極的かつ誠実に偽装物件を開示されたし」2005年12月23日)。

「計画変更等は、一担当者レベルで出来るものではありません。意匠、構造、設備等の複数の審査担当者が関与して、最終的に確認検査員が決裁を公印をもって行ないます。日本ERI社は、事件の解明の為に誠実にこの内容を開示すべきです。また、監督をしていた国土交通省にも、この事実を明らかにして頂く旨のお願いを申し上げております」(イーホームズ株式会社「弊社が認識する偽装事件の発覚の経緯」2005年12月31日)。

イーホームズは偽装事件の原因の一つに「偽装を認識したにも関わらず、公表せず隠蔽してしまい、被害を拡大させてしまった審査機関(日本ERI)」を挙げる(イーホームズ株式会社「国土交通省、耐震偽装事件の緊急調査委員会に提出する資料」2006年1月15日4頁)。

日本ERI、偽装見逃し

耐震強度偽装事件で、日本ERIは、姉歯秀次元建築士による偽装を新たに4件確認し、同社の見逃しは計15件になったと発表した(2005年12月22日)。このうち3件は千葉県船橋市の賃貸マンションである。

偽装問題発覚後、船橋市が再検査を指示したが、同社は当初「改ざんなし」と発表した。しかし、再々計算で漸く偽装が判明したという。船橋市の3件について、同社は姉歯元建築士が使ったのとは別のソフトで再計算し、11月1日に「改ざんはない」としていた。しかし、姉歯元建築士が使ったのと同じソフトを入手し再々計算したところ、偽装が見つかったと説明する(「日本ERI、姉歯元建築士の偽装を新たに4件確認」日本経済新聞2005年12月22日)。

これは日本ERIによる偽装と言えば言い過ぎになるだろうか。再検査を指示されて、自らの検査ミスを発見するならともかく、「問題なし」と報告するのは「検査機関としての能力が無い」か、「偽装に気づきながら検査ミスの発覚を恐れて虚偽の報告をした」かの何れかしか考えられない。

日本ERIは相当無能か、あるいは悪くとれば偽装を知っていながら、とぼけたものと考えられる。日本ERIは上場企業である(2004年11月1日、日本証券業協会に株式を店頭登録。12月1日、ジャスダック証券取引所に株式を上場)。下がり続ける株価に歯止めをかけるために「問題なし」と報告した可能性も考えられる。何れにせよ検査機関としての存在意義はない。

日本ERI、偽装報告が二転三転

日本ERIは北九州市のホテルについて「耐震基準を満たしていない」と市に報告しながら、同じ日に「建物自体は基準を満たしている」と発表した。北九州市は、ビジネスホテル「アルクイン黒崎」(同市八幡西区、11階建て、155室)について、日本ERIの報告に基づき、「耐震基準が一部で70-80%しかない」と発表し、ホテルに営業自粛を要請した(2005年11月26日)。同30日午後に日本ERIから市に届いたファクスにも「データ改ざんの疑いがあり、耐震基準を満たしていないことが判明した」と記されていた。

ところが、日本ERIは同じ日の午後、東京で「黒崎のホテルは耐震基準を満たしていた」と発表した(「耐震強度、「どの調査信じれば?」 結果の食い違い多発」朝日新聞2005年12月19日)。市は「結論が正反対。全く理解できない」と日本ERIに説明を求めたが、担当者が不在だったり、対応する人によって説明がまちまちだったりして、実情がつかめなかった。建築確認申請の書類上では「基準を満たしていない」が、実際に完成した建物の構造では「基準を満たしていた」ことがわかるまで二時間以上かかった。

この結論に対しては、日本ERIが過失を隠そうとしているのではないかと疑う向きがあった。日本ERIが詳細な報告をしなかったことも疑惑に拍車をかけた。ホテル所有者の菅原不動産の社長は「(日本ERIへの)信頼は著しく、なくなった。何を信じていいのか」と語る(「福岡県/耐震強度偽造で北九州市調査へ ERIに不信感」西日本新聞2005年11月27日)。

その後、菅原不動産が依頼した第三者の再計算によれば、建物は1階部分が耐震基準の8割から9割、2階部分でも一部が耐震基準を満たしていないという。菅原不動産は日本ERIに対して損害賠償を請求する予定とする。

鈴木崇英社長は家宅捜索に他人事

耐震強度偽装事件で、警視庁と千葉、神奈川両県警の合同捜査本部は、建築基準法違反容疑で一斉に家宅捜索した(2005年1月20日)。規模の点ではオウム真理教の地下鉄サリン事件以来の大型一斉強制家宅捜査である。

しかし問題が発覚してから家宅捜索まで、これほど時間がかかるのか疑問に思う。これでは証拠隠滅してくれといわんばかりのように感じられる。悪いことをした人間が黙って警察が踏み込むのを待っている筈がない。とっくの昔に都合の悪い証拠は処分してしまっているだろう。トラックを何台も用意したところで、役に立つ証拠は残っていないものと思われる。

捜索先は姉歯元建築士の自宅、耐震偽装マンションを施工した木村建設、志多組、建築主のヒューザー、シノケン、民間検査機関のイーホームズ、日本ERI等の本社事務所である(「耐震偽装で一斉捜索・警視庁など」日本経済新聞2005年12月20日)。告発物件には直接関与していないが、木村建設に低コストの建築工法を指導したとされる経営コンサルタント会社「総合経営研究所」も捜索対象とする(「100カ所で20日一斉捜索」埼玉新聞2005年12月20日)。各社役員の自宅も含め、東京、千葉、埼玉、福岡、熊本、宮崎の1都5県の117カ所以上に上る見通しである(「耐震偽装で一斉捜索 姉歯事務所など100カ所以上」産経新聞2005年12月20日)。

イーホームズ本社には午前8時半すぎに捜索が開始された。これに先立ち出社した藤田東吾社長は「捜査には全面的に協力する。この問題は国民の命に直接かかわっている」と厳しい表情で回答した。藤田社長はWebサイトでは以下のメッセージを発表した。「耐震偽装という、確信的に殺人を意識した行為を、もしも、関連する一部の政治家や官僚が封印するようなことをするなら、全国民が力を合わせてこの者達の犯罪を暴き白日の下に曝さなければなりません」(「全国民の皆様へ イーホームズ藤田東吾」2005年12月20日)。

検査機関「日本ERI」の鈴木崇英社長は世田谷区の自宅を出発し「うちにも(捜索が)入るの?」と他人事のように報道陣に質問した。「検査機関は制度の盲点を突かれだまされた立場。捜査には協力する」と淡々と話した(「姉歯氏、捜査車両で自宅に もみくちゃ、住宅街騒然」産経新聞2005年12月20日)。

警視庁と千葉、神奈川県警の合同捜査本部は建築基準法違反容疑で告発された姉歯秀次元建築士に加え、木村建設とヒューザーについても刑事責任を問う方針を固めた。捜査本部は詐欺罪を適用も検討する(「刑事責任追及へ」朝日新聞2005年12月31日)。

日本ERI株主総会で鈴木崇英社長が謝罪

日本ERIの株主総会で鈴木崇英社長(64)が耐震強度偽装の見落としを謝罪した。日本ERIは元一級建築士・姉歯秀次被告の多くの偽装を見落とした民間確認検査機関である。総会は非公開で2006年6月29日午前10時から、東京都港区の本社近くのビルで開かれた。

同社によると、約20人の株主が出席。鈴木社長は冒頭、「偽装を見落としたことをおわび申し上げます。再発防止に努めます」と述べた。質疑応答では株主から、損害賠償を請求された民事訴訟の見通しや再発防止策の具体的な内容について説明を求める声が上がった(「「偽装見落としおわびする」=耐震強度、社長が謝罪−日本ERI総会」時事通信2006年6月29日)。

日本ERI、無資格者による確認検査で業務停止処分

日本ERI社は無資格者による確認検査という明確な不法行為を行っていた。これは2002年9月24日に国土交通省が行った、日本ERI社への立ち入り検査により判明する。国土交通省は日本ERIに2002年10月1日から一ヶ月間の業務停止命令を出した(国土交通省「建築基準法に基づく指定確認検査機関及び住宅品質確保法に基づく指定住宅性能評価機関に対する業務停止命令等について(日本イーアールアイ株式会社)」2002年10月4日)。

国土交通省は立ち入り検査により、日本ERI社が無資格者で検査等を実施していた382物件を精査した。その際に耐震強度偽装が判明した4物件(グランドステージ川口原町、グランドステージ下総中山、グランドステージ豊田、ホテル三交イン桑名駅前)の偽装を発見していたら、その後の被害拡大を防止できた筈である。

日本ERIの建築確認、建築基準法違反で取消し

日本ERIが認めた建築確認は法令違反として何度も取り消されている。日本ERI福岡支店はダイア建設九州支店に三回同じ物件で建築確認を許可しているが、全て建築基準法違反で、福岡市から取消し処分を受けている。住民から建築審査会へ審査請求されたものである。問題の物件「ダイアパレス」は福岡市西区今宿東にある。設計はサンユニオン設計である。

ダイア建設今宿事件

日本ERIの建築確認を仙台市が取り消し

日本ERIが2004年12月に下ろした建築確認を仙台市は2005年1月に取り消した。同市青葉区建築宅地課によると、建物は個人住宅を兼ねた鉄筋コンクリート造3階建ての共同住宅。 宮城県の建築基準条例8条では、共同住宅を建設する場合、敷地が道路に4m以上接することを求めていた。

偽装を見逃した検査補助員が建築判定資格に合格

姉歯秀次元建築士の偽装を見抜けなかった日本ERIとイーホームズの検査補助員二人は2005年度の国土交通省検定「建築基準適合判定資格者」に合格した。建築確認の権限を持つ特定行政庁の建築主事と同等の資格で、「みなし公務員」とされる。国交省は「合否判定に問題はない」とする。しかし、実務での致命的なミスが反映されない検定のあり方は、建築確認制度の信頼性を一層揺るがしそうだ。

合格したのは、偽造発覚の端緒にもなった東京都港区赤羽橋学生マンションのデータ偽造を見逃した日本ERIの検査補助員と、「グランドステージ北千住」の審査を担当したイーホームズの検査補助員である。民間の検査機関では、最終的な建築確認は有資格者が行うが、構造計算書など事実上の審査はほとんど補助員に委ねられているという。

国交省によると、受験資格の「2年の実務経験」は、申込時に自己申告で職歴を記載するだけで、同省は勤務先の検査機関に実務中のミスの報告などは求めていない。検定もペーパーテストのみで面接はなく、同省建築指導課は「偽造見逃しを理由に合格を取り消すことはない」とする。

日本ERIは「8月時点では偽造見逃しを把握しておらず、受験が不適当だったとは一概には言えない」とする。イーホームズは「個々の物件を誰が担当したか、資料を警察に押収されているので分からない」とする(種市房子「<耐震偽造>ERIなど検査補助員2人 建築判定資格に合格」2006年1月12日)。

確認検査機関の罪

構造計算書偽装事件は建築確認の誤りがなければ、被害がでなかったケースである。法的にチェックする機能を与えられている筈の機関がチェックを怠り、消費者が被害を受けた。問題の本質は違法な建築のはずの建物が基準に合致していると判を押されたことにある。偽造以前に検査機関が検査機関が機能していなかったことが問題である。国民の安全を守り、安心して取引のできる市場を構築する役割をもつ確認検査機関が役割を果たしていなかった。

ありえない建築行為を検査機関が認めたため、本来無効な売買行為が行なわれた。検査機関の杜撰な審査により、建築確認が通ってしまった。本来なされる筈のない建築確認を根拠として消費者はマンション購入を決意した。金融機関も不法な建築確認を根拠に購入者たる住民に住宅ローンを融資、つまり信用を供与してしまった。結果、耐震性の高いマンションを購入したはずの住民が家を出ざるを得ない状況に至っている。

もし違法建築と判明していれば、金のやり取りは建築主(ヒューザー等)と建設会社や設計士の間、つまり業者同士だけで終わっていた。建築確認が通ったということが、金融機関にファイナンスを可能にさせ、住民が購入することを可能にさせた。つまり被害を一般人にまで広げてしまった。

マンション住民は権利回復・被害救済のために、もう少し冷静に権利関係の流れを見つめ直す必要がある。問題は確認検査機関と国交省にある。姉歯やヒューザーを高みから見物している場合ではない。

検査機関のザル

現行の確認業務全般がザルである。自治体を含め、多くの検査機関で偽装を見抜けなかったことが発覚している。どこもいい加減な審査しかしていなかったことが判明した。マニュアルさえ遵守されていない。検査も何もしてなかったのが実情だろう。確認検査機関も自治体も検査機関としての体をなしていない。

「『性善説』に立っているから」と言う自治体もあったが、確認業務自体を否定する言葉である(天野彰「「姉歯」手抜きマンションはモラルなき瓦礫」諸君!2006年2月号242頁)。常に正しい申請書が提出されるなら検査機関は必要ない。

姉歯元建築士やヒューザーを断罪するだけでは、制度は温存されてしまう。総研らをいくら追及しても、検査機関がザルのままなら、また第二第三の総研が出てくるだけである。個人のモラルや倫理観に対する評価だけでは、是正されない問題である。

従来の検査機関の審査レベルでは、ついうっかり間違った設計で提出ても承認されてしまう。その結果、「これならちょっとぐらい不正をしてもばれないのではないだろうか」と味をしめて不正に手を染める建築士がかなりいる可能性がある。

日本中に耐震偽装や単純ミスの見落としも含めて危険な建物が溢れている。善意、悪意問わず、結果として耐震基準に満たしていないにも関わらず、判を押され、完成している建物が姉歯物件以外にも多数存在する。偽装の意図はなくても、誤った入力の計算書が確認された事例は山ほどある。

民間検査機関は何と楽な商売だろう。見抜けない検査をして料金を取ってきたのが民間検査機関である。判を押すだけで、料金を請求し、金儲けしてきた。提出された書類をチェックすることもなく、印鑑だけ押して横流し。それで売り上げになる。最低限のこととして、返金は当然である。

「マンション耐震強度偽装事件で建築士が構造計算書にちょっとした細工をしたら、それが検査機関の目をすり抜けてしまった」(矢野直明「IT日本人には「パンドラの箱」」読売新聞夕刊2006年2月7日)。

検査機関の無責任な弁明

偽造をチェックできないならば審査機関の存在意義はない。杜撰な検査機関が存続する限り、業界は弛緩する。偽装が見抜けないならば、今までの検査は信用できないことを意味する。無意味な太鼓判なら最初から無駄で、消費者にとっても紛らわしいだけである。

検査機関は揃って偽造は見抜けないと言い訳する。簡単なチェックもせずに、偽造を見抜けなかったと主張する検査機関が存在すること自体がおかしい。誰が見ても偽装を解るものを「見抜くのは困難」と言い続けていることは「弊社は無能です」と主張するに等しい。検査員は書類が揃っているか、印鑑が押されているか等のチェックしかできない素人集団である。

通常に審査していて、耐震強度を見逃してしまったならば、何が足りなかったのか、今後どのようなことが必要か、少しは反省する筈である。しかし検査機関は反省どころか、過失はないと強弁する。他の機関が機能していないとか、偽装が巧妙だったとか、言い訳に終始する。

「検査機関の社長らは、偽装を見抜けなかったことについては「過失があったとは考えていない」と答弁。国民の疑問や不信に、正面から答えようとする姿勢は見られなかった」(「耐震強度偽装/証人喚問で実態に迫れ」東奥日報2005年12月10日)。

「「建築確認」の重みが、どれほど認識されていたのか。「検査機関」の役割とは何なのか。無責任な弁明を聞けば聞くほど、そんな疑問がわいてくる」(「耐震偽造質疑/これでは構図が見えない」神戸新聞2005年12月8日)。

ヒューザーらは検査機関を批判

ヒューザー(東京都千代田区)の小嶋進社長は「責任は一も二もなくチェックできなかった検査機関にある」と批判する(「責任押し付け合い 建築士や販売会社など 耐震偽造」産経新聞2005年11月24日)。共同通信の取材には、国や指定確認検査機関の態勢不備が被害の拡大につながったと批判した(「検査態勢不備で被害拡大 ヒューザー社長が国批判」共同通信2006年1月15日)。

小嶋社長は検事総長宛てにイーホームズの藤田東吾社長の刑事訴追を求める「上申書」(2005年12月16日)を送付した。上申書ではイーホームズの検査や藤田社長の言動が建築基準法違反や名誉毀損に該当すると主張する。建築基準法違反は構造計算書の偽造を見抜かなかったこととする。名誉毀損については嘘に基づき公の場でヒューザーを罵ったこととする(「イーホームズ刑事訴追を」朝日新聞2005年12月31日)。

木村建設(熊本県八代市)の木村盛好社長は「専門家である姉歯建築士の計算結果と確認審査機関の審査結果をそのまま信じてしまったことが原因」とする(「木村建設社長圧力「全くない」」産経新聞2005年11月25日)。

民間検査機関の杜撰な審査

耐震強度偽装問題で国土交通省は、民間の指定確認検査機関123社を立ち入り検査した結果を発表した(2005年12月28日)。検査機関123社のうち、国指定は50社で、都道府県指定が73社である。発表により、杜撰な審査実態が明るみに出た。

構造計算書で耐震強度が基準を下回っていたにもかかわらず建築確認を出す等、姉歯秀次元建築士の関与のない物件について、7社で計8件の重大な問題があった。国指定機関では5機関で6件の重要な問題が見つかった(「「見逃し」など6件」朝日新聞2005年12月29日)。規定に反して書類の一部を省略していたケースも26件確認された(「重大審査ミス8件 民間検査機関、規定違反26件に 国交省」産経新聞2005年12月29日)。

耐震強度が基準を満たしているかを確認しなかった。兵庫県の未着工のマンション1件では、一部の階で耐震強度が基準を下回っていたにもかかわらず、建築確認をしていた(「耐震強度下回るのに確認 国交省の立ち入り検査結果」共同通信12月28日)。

構造計算書と設計図が合っていないことを見過ごした。国指定機関のジェイ・イー・サポート(広島市中区)は2005年11月、広島市安佐南区に建設予定のマンションの建築確認申請で、構造計算書と構造図の断面図で鉄筋本数の記載に一部食い違いがあったのに見過ごし、審査を通過させた(「中国地方2件 耐震偽装建築確認」中国新聞2005年12月9日)。

必要な書類の添付を省略していた違反が、「オーネックス」(大阪府茨木市)で8件見つかるなど計15機関であり、帳簿など書類上の不備も17機関で見つかった(「5検査機関で重大ミス、不備あっても建築確認」読売新聞2005年12月28日)。エラーメッセージが記載される頁が欠落していることを見落としたケースもある。

検査機関34社が、構造計算書とそれを基に作成された構造設計図を照合していなかったり、本来認められない審査の省略をしていたりした事例があったことを認めた(「7社の建築確認に問題=大半が偽装可能性認識せず」共同通信2005年12月29日)。

国交省は「かなり甘い審査といわれても仕方がない」と指摘する(「『重大な問題点』8件 」東京新聞2005年12月29日)。問題機関の行政処分を検討する他、制度面を含めた改善策の検討を進める。検査のできない検査機関は即刻認可を取り消すべきである。処分が重くなければ過ちは繰り返される。

民間検査機関の問題点

規制緩和の流れの中で認められた民間検査機関に対しては問題が指摘されている。システム自体に問題が多過ぎる。建築基準法改正(1998年)により、1999年から自治体の建築主事に加えて、民間の指定確認検査機関も確認業務が可能になった。民間開放は最初から国交省や自治体役人の天下り先確保が目的の制度であった。腐敗を招くという批判があったが、国や地方の建設技官の再就職先づくりのために国交省が法改正をゴリ押しした。

民間検査機関ではどうしても検査が甘くなる。顧客をつかむためにスピードアップと甘い法解釈をする傾向にある。建築主の過剰な要求に応えるために民間検査機関はとても都合がいい。「建築主や代理人である設計事務所の立場が強過ぎると、民間機関が厳密な審査を行うのは難しくなる」(「確認検査機関/偽造見抜く目持ってこそ」神戸新聞2005年11月25日)。

民間機関にとって申請者は料金を払ってくれる顧客に相当し、強く検査できないのが実情である。検査を民間会社にやらせれば、厳しいチェックをするところには依頼が来ないから、儲けるためには甘くせざるを得ない。確認検査機関は乱立している。割引券の配布や雑誌広告の出稿によって積極的に営業をかけなければならない立場である。確認申請を出す時に「ダメなら他行くからいいよ」と言えば黒も白になるくらいと言われる。検査が緩い機関ほど儲かる仕組みである。民間検査機関は確認件数をこなすことしか考えていないとも言われる。

民間検査機関には、建設会社や住宅メーカーが出資した会社が多い。日本ERIの主要株主にはミサワホーム株式会社、大和ハウス工業株式会社、パナホーム株式会社、三井ホーム株式会社、積水化学工業株式会社がいる。多くの民間検査機関は建設会社の資本が入っている。建設会社や住宅メーカーからの出向者も少なくない。

要するに自社の物件を身内の検査機関が確認することになる。設計する側と審査する側が仲間であれば、公平な検査を期待することに無理がある。「業者に頼まれて民間検査機関が手抜き検査をする話も聞いている」(中村幸安、建築Gメンが暴く!!欠陥住宅59の手口、日本文芸社、2004年、107頁)。

ある検査機関の建築士は「実際に行われているかどうかは別として、建築主側が簡単な審査を望めば、建築主と検査員のなれ合いで手抜き審査になってしまうこともあり得る」と話す(「見逃し次々 民間審査の中立性に疑問の声 耐震強度偽装」朝日新聞2005年12月8日)。

国交省幹部は「厳格な審査を行う機関は敬遠さえ、早く通すところが繁盛するようになってしまった。制度的矛盾があった」と認める(「民間検査甘い実態」読売新聞2005年11月24日)。周辺住民が日照権等を巡り反対する建物でも、行政機関が間に入る前に、建築確認を済ませてしまう例も報告されている。

愛知県建設部の山北康雄理事は建築確認業務が民間に移行して、特定行政庁が手がける件数が大幅に減っていると指摘する。「特定行政庁の確認審査体制が弱体化せざるを得ない。どう維持するかが問題だ」と話す(「「審査側の責任範囲を明確にして」、愛知県が確認制度の問題点を指摘」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月27日)。

NPO法人「建築Gメンの会」の大川照夫理事長は以下の指摘をする。「民間の検査機関は審査のスピードが売り。一日に何件も処理していればどうしてもチェックが甘くなる」(「姉歯ハレンチ建築士偽造本当の「黒幕」」週刊朝日2005年12月9日29頁)。

「偽装事件は、制度的な手当てをしないまま、安易に民間開放した結果でもある」(「実効性ある仕組みとなるのか」読売新聞2006年2月23日)。

民間検査機関離れ

構造計算書偽造事件を受け、ジョイント・コーポレーションは、マンションの建築確認の申請先を全て、民間の指定確認検査機関から行政機関に切り替えることを明らかにした(2005年11月22日)。同事件では民間検査機関が偽造を見破れなかった点が問題視されており、マンション購入者の不安をぬぐい去りたいとする(「建築確認の申請先を行政機関に切り替え、ジョイント・コーポ」建設総合サイトKEN-Platz 2005年11月22日)。

住宅性能評価の無意味

住宅品質確保促進法では設計住宅性能評価、建設住宅性能評価制度を定めているが、耐震強度偽装事件には有効であったとは言い難い。民間確認検査機関のビューローベリタスジャパン株式会社(野口敏・代表取締役社長)が、構造計算書が偽造された横浜市のマンションで、住宅性能評価書を交付していたと発表した(国土交通省発表、2005年12月7日)。

住宅性能評価を受けた建物で偽造が見つかったのは2000年の制度創設以来初めてである。住宅性能表示制度の信頼性にも疑問符が付いた(「住宅性能評価でも偽造見逃す、ビューローベリタス」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月8日)。国交省は、全国108の性能評価機関に再点検を指示した(「「性能評価」でも偽装見逃す 民間検査機関」朝日新聞2005年12月7日)。

民間検査機関は住宅性能評価機関を兼ねることが多い。指定確認検査機関のイーホームズは、性能評価業務を行う指定性能評価機関も兼ねている。例えばイーホームズが建築確認した東急不動産のマンション「アルス東陽町」では、設計住宅性能評価もイーホームズが実施した。

ある民間検査機関の理事は以下の指摘をする。「同一機関どころか、場合によっては同一人物が建築確認と性能表示の両方を請け負う場合が往々にしてある。そうなると、検査機能が落ちる可能性はないとは言えない」(小路夏子「住宅性能表示も空回り」日経ビジネス2006年2月6日号132頁)。

同じ機関が建築確認も性能評価も実施することになるわけで、二重チェックとしての効果が乏しい。従って、住宅性能評価は検査機関ではなく第三者機関にさせるべきである。その上で、今後は設計住宅性能評価書と建設住宅性能評価書を建物の引渡し時に必ずマンションの購入者・賃貸オーナーに提出することを義務付けるべきである。評価結果を発注者だけでなく広く公開する必要がある。

構造計算書の偽造を見抜けなかった指定確認検査機関への信頼が低下しつつあるが、その影響は性能評価業務にも波及している。イーホームズに住宅性能評価を発注しているデベロッパーや住宅会社のなかには、同社による住宅性能評価書では顧客の信用が得られないと、別の評価機関に再審査を依頼する会社が出始めている(荒川尚美「イーホームズによる性能評価住宅に再審査ニーズ」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月1日)。

国土交通省の誤った対応

国土交通省は、イーホームズから偽造の報告があった当初、担当者が事の重大性を認識せず、緊急対応がなされなかった。企業のコンプライアンスを役人が論じても説得力は皆無である。

イーホームズの藤田東吾社長は2005年10月26日に国交省の担当係長にメールで偽造があった事実を報告した。「事態が重要なので、特定行政庁に通知する前に報告にうかがいたい」と記載した。しかし担当係長は「本件は申請者と貴社との問題」として取り合わなかった。翌27日に藤田社長から再度、メールと電話で連絡があり、次の日に面談を設定した。

この事実は構造計算書偽造問題に対する行政の対応を検証する緊急調査委員会(座長:巽和夫京大名誉教授)の初会合(2005年12月16日)で判明した。国土交通省の山本繁太郎住宅局長から、行政対応の経緯について説明がなされた。委員からの質疑で、山本局長は「重大性を認識したのは、11月7日に日本建築センターからの報告で、偽装内容が大幅なものだと確認した時だ」と回答した。

イーホームズの最初の連絡から12日後である。その翌日から、国交省は緊急対策に着手した(「重大性認識は第一報から12日後、緊急調査委で国交省」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月19日)。11月11日にユニオンシステム技術者がプログラム改ざんの可能性を指摘するが、暫く伏せられる。北側国交相に問題が報告されたのは11月15日である(「イーホームズ、偽装指摘取り合わず…国も大臣報告遅れ」読売新聞2005年12月5日)。

国土交通省、匿名情報の内容を伏せる

国土交通省には耐震強度偽装事件を発表する一ヶ月前にイーホームズの審査の問題点を指摘する匿名情報が寄せられていた。しかい国土交通省は当初、告発情報の内容を正確に発表しなかった。

国土交通省に情報が寄せられたのは2005年11月7日である(国土交通省・佐藤信秋事務次官)。関係者と名乗る者から電話があった。内容はイーホームズの帳簿の不備と、天空率審査に関する指摘であった(「「公表遅れ」指摘に反論=匿名電話は偽装と無関係−国交省」時事通信2006年1月23日)。しかし国土交通省は当初、帳簿の不備のみを公表し、天空率については伏せられた。天空率は採光や通風性を示す数値で、建築確認時に図面でチェックする。

民主党の長妻昭衆院議員は「タレコミの電話があったのに公表が遅れた」と国土交通省の対応を非難する。「帳簿を備えていないのと図面をチェックしていないのでは、明らかに問題の性質が違う。チェックの方がよほど重要です。この時、国交省がイーホームズのチェック体制に疑問を持って徹底的に調べていれば、もっと早く耐震偽造問題が明らかになり、多くの被害者が偽造物件を買わされるのを防げたかもしれない」(日下部聡「国交省が伏せた「匿名情報」の中身」サンデー毎日2006年2月5日号31頁)。

国土交通省、匿名情報でイーホームズに立ち入り

国土交通省は問題発覚直前の10月24日、イーホームズに立ち入り検査を実施した。検査は「イーホームズの帳簿管理は杜撰」とする匿名の情報提供に基づき、実施したと同省は説明する。担当者が情報提供に基づき、確認審査業務を記した帳簿を重点的に調べたところ、帳簿の目録を文書で一覧化していない問題が見つかった。

イーホームズは「コンピューターには保存してある」と説明したが、同省は文書で整備するよう行政指導した。立ち入りは一日で終わり、個別の案件まで調べることはなく、計算書の偽造は見抜けなかったという(「耐震偽造:発覚直前イー社に指導 匿名情報で国交省」毎日新聞2005年11月28日)。この立ち入り検査は不自然である。何故、国交省が立ち入り検査をしたのか。匿名の情報とは何だったのか。匿名情報が信頼に足るものと判断したのは何故か。

国交省検査の数日前にアトラス設計の渡辺朋幸代表がイーホームズを訪問している。ここで渡辺代表はグランドステージ北千住の偽装を指摘し、計画変更を提案したと藤田東吾社長は説明している。もし渡辺代表の提案通り、グランドステージ北千住を計画変更していたら、イーホームズは偽装隠蔽に加担したとされて抹殺されていた可能性がある。

たった一日で検査が終わっているのも不思議である。計画変更(公文書偽造)されていると思って調べたところ、偽造されておらず、驚いたのだろうか。イーホームズにグランドステージ北千住を計画変更確認させ、摘発することで、先制パンチとし、姉歯元建築士とイーホムズに全責任を負わせるような陰謀が存在した可能性を否定できない。

図書省略制度によるミスリード

11月17日に国土交通省が耐震強度偽装問題を公表し、「審査機関の過失の可能性」が言及される。国土交通省は図書省略制度を持ち出し、全ての責任をイーホームズに押し付けようとした疑いがある。報道も、「審査手順が守られていない」で盛り上がっていた。しかし、今回の問題は図書省略制度とまったく関係がない。国土交通省はメディアや、国民の目線を違った方向に誘導しようとしていた。

図書省略制度とは建築基準法施行規則第1条の3第1項に定められた構造計算書の作成において、大臣認定を受けたプログラムで構造計算を行った場合は、確認申請時の図書省略が認められる制度を指す。計算に利用したプログラムに関する図書(プログラムの処理手順を記述したもの)を確認申請時に添付しなくて良いという扱いである。

日本建築センターによる性能評価に基づき、国土交通大臣が構造計算プログラムを認定する。認定プログラムを使用し、そのプログラムに発行された大臣認定書のコピーを確認申請時に添付すれば、計算過程の出力を省略して提出することが省令で認められている。

現状では図書省略制度は、ほとんど活用されていない。確認検査機関では、計算過程をすべて含めた構造計算書の提出を求めることが多く、図書省略制度を利用している件数は全体の一割にも満たないという(「図書省略制度を巡って混乱、矛盾するイーホームズの説明」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月28日)。姉歯建築設計事務所による偽造計算書も、図書省略制度を利用していなかった。

図書省略制度は、「どの書類を提出したらいいか」という話である。問題の構造計算書は、書類は全て揃っており、図書省略制度とは全く関係ない。今回の事件と関係のない図書省略制度を持ち出して、話をややこしくする狙いが透けて見える。

国土交通省の責任

耐震強度偽装事件では民間検査機関を監督する立場にあった国の責任は重大である。国は建築確認制度の本質的欠陥を見過ごしてきた。行政の時代遅れの思考が耐震偽造を生んだとも言える。「特定行政庁や、民間でも自主的に調査を行っている」との呑気な答弁は許されるものではない。

「民間の検査機関に建築の審査業務を委託する規制緩和策にすべてが起因するとは言わないが、それを監督する「官」のあり方は厳しく問われる」(「【耐震偽装】誰が違法と知っていた」高知新聞2005年12月21日)。

「規制緩和で「官から民へ」の流れがあるが、チェック機能は十分であったとはいえない」(「居住者の安全対策迅速に」沖縄タイムス2005年12月1日)。

「耐震強度偽装問題では、地方自治体や民間の指定確認検査機関が偽造を見逃し、最終的にこれらを指導・監督する国交省もチェック機能をほとんど果たせなかった」(「[耐震偽装罰則強化]国の責任も明示せよ」沖縄タイムス2006年3月16日)。

国土交通省は、ほぼ毎年、民間検査機関イーホームズに定期的に立ち入り検査をしていた。しかし、国土交通省が同社の審査体制の不備を指摘することはなかった。偽造発覚後の立ち入り検査で初めて審査手続きの違反を指摘した(「ニューススポット」月刊ウェンディ199号、2005年、3頁)。

イーホームズ、大臣認定プログラムの不備を指摘

イーホームズの藤田東吾社長は偽装問題の原因について「(構造計算用の)国土交通相認定のプログラムの不備に原因があった。簡単に改ざんできるものを認定したのが悪い」と主張した(「自民チーム、イーホームズ社長らからヒアリング実施」朝日新聞2006年1月6日)。

「今般の耐震偽装事件の制度上の過失は、そもそも大臣認定の構造計算プログラムが結果として編集改ざんされるシステム(建築基準法では、「性能評価における業務方法書」。)において性能評価及び大臣認定されたことに過失が存在すると考えます。もし、構造計算プログラムが編集改ざん出来ないシステムで評価認定されていれば偽装事件は生じなかったのです」(イーホームズ株式会社「国土交通省、耐震偽装事件の緊急調査委員会に提出する資料」2006年1月15日5頁)。


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