脅迫状が届く

タイプーサムの熱気が覚めやらぬ125日、我が家にPOS EkspresEMSの一種)にて不信な郵便物が届いた。住所とポストコードが記入されていてるが、肝心の宛名が無い。差出人はMister Sumoで住所はKampung Pandan Kuala Lumpurとなっている。しかし消印はバターワースになっており、いかにも胡散臭い手紙である。POS Ekspresで送るからには急ぎの用件であろう。私はしばし躊躇した後開封した。中にはA4判の紙が折りたたまれて入っており、なにやら殴り書きされている。「Behave Yourself. This is not Japan(おとなしくしてろ、ここは日本じゃないぞ!)」 これは脅迫状である。

翌日私はその手紙を会社に持参し、HRマネージャーのMr.Mahatir(仮称)に相談した。POS Ekspresは郵便局窓口で購入でき、そのまま投函するのみなので差出人を追跡することは出来ない。彼は私の住所を知っている人間としていくつかの可能性を示した。社員、業者、そして私の個人的交友関係。そしてもし再び同じ手紙が届くようなら警察に届け出る事にした。皆さんは「身から出たさび」と思われるかもしれないが、私は人様から恨まれる筋合いは無い。ある人物を除いては・・・・。

誤解を恐れずに言えば、会社のローカルスタッフは何らかの形で少なからず私服を肥やしている。私の勤める工場は鉄スクラップが出るので業者に買い取らせているが、この取引は汚職の温床である。業者は担当者に袖の下を渡し重量をごまかすのが常である。我が社の担当者は生産管理クラークのMr.Abdullah(仮称)で、操業開始以降彼により業者が幾度となく変更された。その度にスクラップ売上高は減り、彼の携帯電話やメガネが新しくなる。ただしここはマレーシア、細かなことに目くじらを立てていては身が持たない。多少の事は大目に見ていたが、社内から不満の声があがりはじめた。どうやら彼は袖の下を独り占めしていた様だ。

スクラップ売上高は「材料消費量×歩留まり×市況価格」で簡単に算出できる。私の試算では毎月RM2,000以上のロスが発生している。そこで私はHRマネージャーMr.Mahatirと作戦を練った。ある日Mr.Abdullahに昇進名目で配置転換を言い渡し、同時にスクラップ業者も変更した。昇進とは名ばかりでほとんど昇給はせず、外部との接触が一切無い部署に隔離した。事実上の肩叩きである。住宅ローンと自動車ローンを抱える彼としては副収入の道が途絶え、心中穏やかではない筈である。彼は急激に勤務態度が悪くなり、退職は時間の問題となった。そして数日後あの脅迫状が届いた。

この様な労使関係トラブルで彼らの取る報復は主に内部告発である。日本人の査証無し就労やPCソフト不正コピー、そして廃棄物不法投棄や労働法違反行為などがあればお役所に通報されるのである。また工場閉鎖や人員整理で退職金交渉がスムーズでないと「脅迫状」が山ほど届く事もある。幸いマレーシアではフィリピンの様な誘拐事件に発展する事は稀である。ただしこの種の犯罪被害も海外リスクのひとつなので、用心に越したことは無い。

その後Mr.Abdullahは無断欠勤が多くなり、やがて懲戒免職処分となった。



(200228)

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