借家法と不法占拠者
 

話は終戦直後にさかのぼる。占領下の日本軍は物資調達のため、大量の軍票を発行した。バナナが印刷されていることから「バナナノーツ」と呼ばれていた。終戦後この軍票が紙くずになったことは言うまでも無い。都市部に住む多くのマレーシア人は、大量の軍票を抱えて無一文になった。マレーシア政府は彼らを救済するため、即刻借家法(RCA/Rent Contlor Act.)を制定し、市民は格安の家賃で地主から賃貸を受けることになった。Pre War Shop Houseとかいう長屋がこれに相当する。家賃は長期にわたり据え置かれ、最近までRM3050とか言われていた。大家にとっては迷惑な話である。

経済発展を遂げた現代のマレーシア、とりわけ都市部に住む華人は豊かになった。格安の借家に住んでいた市民も、今では新たに家を買い求めた。中には第三者に数十倍の家賃で転貸し利益を上げる者も居る。そして1年ほど前、マレーシア政府は遂にRCAを撤廃した。平穏に見えるジョージタウンだが、この問題が各方面で波乱を巻き起こしている。地主は即刻家賃を数十倍に値上げした。賃貸人は値上げを受入れるか、転居する事を迫られた。しかし多くの市民は居住権を主張し、保証金をせしめるまで居座り続ける。もちろん中には年金生活者の老人の様に、生活が破綻する不幸な状況も発生する。

法律上、彼等はSquatter(不法占拠者)となった訳である。大家は裁判所命令を元に立退きを求める。しかしポリスは血も涙もない強制執行は躊躇しているようだ。さて困った大家はどうするか? リーズナブルな保証金で話がつけば住人は転居する。ところが欲の皮の突っ張った住人や、けちな大家だと話はこじれる。やがて大家は地上げ屋を雇う。最近ペナンで火事が多いのはこうした理由からである。

一方、フェリー乗り場周辺には、多くの水上生活者が住み着いているいる。彼らは18世紀のペナン開拓時代から、何世代にも渡るSquatterである。当時はジャングルを切り開くより、水上に住居を作るほうが容易であった様だ。今では電気、水道が敷設され、ちょっとした観光地にすらなっている。そして数年前よりコスタルロードプロジェクトが動き始め、バヤンレパスバイパスが市街地まで延長される。州政府の立退き要求に、彼らが素直に応じるとは思えない。高額な保証金を要求するだろう。州政府はどのように地上げ(?)するのだろう。不審火が起こらず、穏便に解決することを祈るのみである。

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