植物毒と薬



目次

トリカブト / ジギタリス / 梅、杏 / ケシ / ハシリドコロ


薬は昔から「毒を以って毒を制す」と言われています。このサイトでしつこいまでに申し上げております通り、「薬」と「毒」は紙一重です。
ここでは、量を調節したり、若しくは加工によって弱毒化したりすることによって実際に猛毒植物を人の病気の治療に応用している例をいくつか挙げておきます。
まず、お読みいただく前に注意点を…。
1. 絶対に素人判断で植物から薬を作らないで下さい。
2. このサイトに掲載されている情報を悪用しないで下さい。

以下に掲載する情報は、皆さんに植物を誤用した際の危険性を知っていただき、植物と安全に付き合っていただくことを目的としたものであることをお忘れなく。


トリカブト

あまりに有名な猛毒植物。トリカブトを使った保険金目的の殺人事件はまだ記憶に新しいですね。

分布
北半球に広く分布。その種類は世界で300種ほどといわれます。

毒成分
アコニチン(成人致死量2〜5mg)、植物全体、特に根に高濃度で含まれる。

中毒症状
アコニチンは、心臓に作用して不整脈を起こし、また延髄に作用して呼吸麻痺を起こします。
中毒症状は次のような経過を辿ります:初期にはのぼせ、顔面紅潮、心悸亢進、舌や口の痺れが起こり、やがて下痢、嘔吐などを催すようになり、末期には瞳孔拡大、体温低下、血圧低下、不整脈、呼吸麻痺を起こし、死に至る。

トリカブトから作られる薬
トリカブトを加熱等の処理をして得られるものをは「附子(ぶし)」と呼ばれ、漢方薬に配合されています。トリカブト中のアコニチンは、加熱処理によって分解されて弱毒化します。
附子の効能は、鎮痛、強心、利尿、新陳代謝機能の衰弱の改善、体温・血圧低下の改善など。

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ジギタリス


分布
ヨーロッパ原産で、世界に広く分布。

毒成分
ジギトキシン(半数致死量(50%の成人が死ぬ量)12mg/kg)、ギトキシンなど。葉に多く含まれる。

中毒症状
初期症状は嘔吐、下痢など。その後、視覚異常、不整脈を起こし、心臓停止に至る。

ジギタリスから作られる薬
心筋に直接作用して収縮力を高め、心拍数を下げるので「強心薬」と呼ばれ、各種心疾患、頻脈、心不全に用いられます。
体内に蓄積しやすいので、長期にわたって使用するのは危険です。
昔はヨーロッパで潰瘍治療薬、頭痛薬として内服、また傷薬として外用していたらしいです。

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梅、杏

昔から「青い梅は食べるな」と言いますが、その毒の正体はいかに…。
分布
中国東南部から日本にかけて分布。

毒成分
アミグダリン由来のシアン化水素(致死量0.06g)。アミグダリンは未熟果実の種子中に含まれる。

中毒症状
アミグダリンの状態では人体に無害ですが、これをエムルシンという酵素(これも青梅中に含まれる)と一緒に食べると、消化器内で分解されて有毒なシアン化水素を生じます。しかし、成人一人当たりの致死量は、青梅300個(そんなに食べられませんよね?)という話も聞いたことがあります。
中毒症状は、頭痛、瞳孔拡大、呼吸困難、痙攣など。

梅、杏から作られる薬
青い梅を生で食べると危険なのに、梅酒には青い梅を使いますよね?これは、青梅をアルコールに漬けることにより、アミグダリンが分解してベンズアルデヒドとなり、毒が弱まるからです。
杏の種子を加工して作られる杏仁水には、鎮咳作用、消化管運動促進作用、また抗腫瘍活性もあるとの報告がなされています。

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ケシ

言わずと知れた「アヘン」の原料植物。しかし、悪いことばかりに使われているわけではありません。
分布
原産はヨーロッパ南東部らしいのですが、世界中に分布。栽培もされています。

毒成分
モルヒネ、コデイン、ノスカピン、パパベリンなど。未熟の種子から得られる。
なお、限定された品種(Papaver Somniferumなど)にしか含まれず、これらの品種は法律によって栽培が規制されています。

中毒症状
幻覚、嘔吐、呼吸麻痺、アヘン中毒による禁断症状。

ケシから作られる薬
アヘンは中枢神経を麻痺させるので、末期癌患者の痛みを抑えるのに使われます。但し、習慣性、中毒性も強いので、最後の手段としてしか使われません。
リン酸ジヒドロコデインは、低濃度なら麻薬に指定されないので、咳止め薬としてよく使用されています。
因みに、アンパンに乗っている芥子粒(ケシツブ、ポピーシード)には有害成分は含まれていないので、安心してお召し上がりください。

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ハシリドコロ

誤って食べると気が狂ったように走り回ることからこの名前が付けられたという説があります。
分布
本州、四国、九州

毒成分
アトロピン、スコポラミン

中毒症状
専門的にいうと「ムスカリン受容体でアセチルコリンと拮抗する」となりますが、すなわち、生命活動を維持している自律神経の活動を阻害してしまうということです。これにより、瞳孔散大、幻覚、譫妄、さらには昏睡、呼吸麻痺を起こして死に至ることもあります。

ハシリドコロから作られる薬
根から得られる「ロートエキス」は、鎮痛、鎮痙薬として用いられます。また、モルヒネと併用すると、モルヒネの鎮痛作用は増強させるのに対し、呼吸抑制作用は抑えられるので、手術の際によくモルヒネと一緒に使われます。

ところで、同じアトロピン、スコポラミンを含む植物として、「べラドンナ」というのがあります。これは、昔西洋の女性が、このエキスを点眼することにより、瞳孔が開いて美人に見えることからこの名がついたのだとか。オソロシヤ…。

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