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城下町を見下ろす丘の小さな城、それはリルガミンでも最高の宿である。

その中でもロイヤルスウィートの名高き部屋に彼女、レイナ アッシュは
独りで寝泊まりをしている。
多くの者がそこらの馬小屋で臭いと虫に悩まされているというのに、
彼女はその豪華な部屋に魔法防御まで施していた。
いつもの豪華な食事を終え、某かの呪文書を読んでいる。
どうやら失われた古代の魔法を記した古文書のようだ。
月が天空を照らし星々が消えていく。
結界に誰かが触れた。

「この部屋じゃないよ、お嬢さん」

不意に現れた客はハーフエルフのようだった。
他の客が呼んだ娼婦かと、レイナはその女を追い返そうとした。

「ヴァーンガルツの遣いですわ、先生」

苦笑いと共に切り返したのはリィンだ。
彼女はヴァーンガルツの遣いとしてレイナの元にやってきたのだ。

「リィン ルルよ。初めまして、レイナ アッシュ」

あの氷の魔女の目の前に今、自分は立っている。
かつてワードナに師事を仰いだといわれる最強の魔導士の一人、
もしも戦いとなれば恐らく、自分などは一瞬で灰にされるかもしれぬ相手。。
リィンは静かに右手を差し出した。

「こんな可愛らしいお嬢さんが、ねえ・・
 あんなむさ苦しい男共と潜ってるなんて」

「あの人たち、地下では紳士なのよ」

「貴女は・・地下では淑女なの?」

レイナの左手が緩やかに口元へ動く。
リィンは少し緊張したが、詠唱の気配は全くない。
そっと接吻(クチヅケ)をされた薬指がリィンの唇に迫った。

「あの・・っ」

リィンが咄嗟に引いた右手をしっかりと握り返し、レイナが笑った。

「商談に入りましょうか。何がお望み?」

リィンは少し頬を紅らめながら今回の探索を説明した。
伝説の武器、ムラマサを求め最下層に潜る。
戦い慣れた冒険者達でさえ、死を覚悟しなくては挑めぬ危険な旅だ。

「報酬はムラマサ以外の、」

「いい」

レイナが遮った。

「実は・・私も手に入れたいものがあってね。
 丁度良い相手を探していたんだ。報酬はそれだけでも構わない。
 あんな男共に興味は無いが、最下層に潜るなら話は別だ。
 ヴァーニィとワットなら還ってこられるだろうからな」

「では・・」

「よろしく、リィン ルル」

レイナは商談成立とばかりに右手を差し出した。
柔らかい指が優しく包み込んでくる。
リィンは溜息をつき、安堵の様子で革袋を一つ差し出した。
潜る準備の為の、言わば手付け金だ。

「そんな金など必要ない」

「では食事代にでも」

「ならば・・」

レイナは席を起ち、何か唱えながらリィンの隣に座った。

『高速詠唱・・まさか、』

「だめだよ、ビショップのお嬢さん。呪文は唱えられない」

レイナの腕がリィンの腰に回った。
そのままソファに押し倒されたリィンは唇を奪われた。

「・・」

「かなりのレベルだな、封じさせてもらった」

レイナは妖しく微笑むとリィンの頬をそっと撫でた。
リィンの心臓は高鳴った。

「これが契約料だ」

レイナは立ち上がると、笑いながら扉を開けた。

「今夜はお帰り、リィン。。邪魔者がいる」

高鳴る鼓動を抑えるように胸に手をやったリィンは、レイナの
指差す先を視た。

「邪魔者・・」

窓の外、銀色に輝く月が二人をみつめていた。


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