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「ここまでか、」

ヴァーンガルツは今回の旅を断念した。
やはり若い魔術士には過酷な旅である。
三日目の、恐らく夜明け頃だろうか、
昇降機を降り、貯蔵庫跡を探索していた彼等に魔族が急襲をかけた。
ヴァーンガルツの疾風の如き剣はそれでも間に合わず、
パゥユナが傷つきリィンも疲れ果てた今、パーティーの全滅だけは
避けなくてはならないのだ。
剣士だけでは探索を続けるのは不可能である。
魔物の首を斬り続けても、生残る事はできないのだ。

「・・まだ、戦えます。」

パゥユナは動こうとしたが、周りにはまだ怪物共が徘徊している。
結界は強固だが、それでも怪物共の咆哮が、時折微かに振動となって
体に伝わってくる程だ。

「無理するな。また次があるさ。」

剣を手入れするヴァーンガルツに、
パゥユナは疲れた様子であったが、それでも口元を引き締め
背筋を伸ばし、怪訝そうに尋ねてきた。

「一度の冒険でどれほどの間潜っておられるのですか?」

「・・そうだな、長い時で二週、
 短い時でも・・五日は潜るか?」

ド ウル ワトーはこれまでの戦利品を数えていたが、
少し考え、少し笑って答えた。

「半時だ。
 最初におまえと潜った時は、豚を三匹斬っただけだぞ。」

懐かしい話しをするものだと、ヴァーンガルツには珍しく
恥ずかしそうに俯いた。
彼らは元王立近衛隊であり、ワードナ討伐隊の初期隊員であった。
伝説の名剣カシナートを振るうヴァーンガルツと、破戒僧として名を
馳せたド ウル ワトーは無二の親友であり、戦友である。

「あのときの儲けは一晩飲んで終わりだった。」

「あのとき、だけじゃなくて、いつもでしょう?」

リィンは呆れた様子で戦利品を鑑定している。
高価で無いものはその場に捨て、運びやすい剣は、まとめてボルタックに
売り払うのだ。
ふたりは革袋に金貨や宝石や、なにか得体の知れない小物を
無造作に詰め込み始めていた。
既に帰り支度を初めている。
この地下迷宮の探索は、一度潜ればかなりの稼ぎにはなるが
やはり命と引き換えの危険な賭けである。
引き際が肝心であると、彼等は充分心得ているのだ。
生きて還る、それが何よりの報酬だ。
カント寺院には骸になって持ち込まれる者が後を断たない。
灰のまま地下に眠る者、石の壁に埋め込まれる者、
ここは一歩足を踏み出せば死と隣り合わせの闇・・

「この杖一本で三月は食えるな。」

「売らないでよ。
 それは私が使うんだから」

リィンはヴァーンガルツからその古びた杖を奪い取ると、大切そうに
布で包んだ。なにか魔力を秘めた品物だろう。

「生きて戻ればまた戦える。
 気にするな、初陣としちゃあ立派だぞ。」

歴戦の剣士は若い魔術士を労った。
才能も知識も技術も、全ては経験と勘と強運が育てていく。
この若者もこれから先、様々な困難を越えて立派な魔導士に育つ事だろう。
宝よりもなお価値のある報酬、それが経験。。

「そうね。私も初めは昇降機にさえ届かなかったわ・・」

リィンは治癒の呪文を唱えつつ少年の頬をなでた。

「また私達とここに来ましょう。
 ・・生きて帰る事ができればの話だけれど。。」


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