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「光だ・・」

獣の唸り声が止んだ。
血塗れの剣を地面に突き立て、ヴァーンガルツは呟いた。

ようやく地下一階に辿り着いたのだ。
闇の回廊の注意書き、手形と返り血で汚れる見なれた扉・・
堆く積まれた骨を踏み締め、地上に出るための縄梯子に手をかける。
微かに草の香りがした。
パゥユナは少し微笑んだ。

「汚れを払え」

祭司達が寄ってたかって四人に詠唱する。
不思議な粉や胡散臭い液体を振り掛けると、ようやく彼らは解放された。

「さあ、まずはボルタックだ」

ド ウル ワトーが荷物をまとめて担ぎ上げた。
戦利品をガラガラと大きな音をたてながら運ぶ様は
この街では日常の光景だ。
リィンとパゥユナは革袋を持ち、ヴァーンガルツは剣や盾を、
店主は落ち着いた様子で品定めをする。
あの不思議な杖と幾つかの指輪はリィンとパゥユナに。

「飲むぞ」

ボルタックを出てギルガメシュの酒場に向かう途中、
ド ウル ワトーは青年に革袋をひとつ、渡した。

「そら、おまえの取り分だ、パゥユナ」

「パゥユナ、無駄遣いはするなよ」

「酒と女は覚えない方がいいぜ」

「もっともだ!」

ふたりは下品に笑いながら大股で歩いていく。
馴染みの二人にさっそく酒場の女達が声をかける。
リィンが青年の肩を叩いた。

「しばらくは出稼ぎに来なくて済みそう?」

パゥユナは苦笑した。

「ありがとうございます。こんなに報酬をいただいた上に
 素晴らしい指輪までいただきました」

パゥユナは左手の指にはめられた指輪をみつめ、
嬉しそうに語った。

「それに・・随分鍛えられた気がします。
 たった三日でしたが、まるで半月、いえ、それ以上な」


パゥユナの引き締まった表情を視て、リィンは頷いた。

「命と引き換えの報酬よ、少ないものだわ。
 ・・それに・・あの人たちと一緒に戦ったのよ?
 格段に腕をあげてるわよ、あなた」

リィンは少し戦闘魔法に関する助言を与え、そして彼に言った。

「お疲れ様、良い宿をとって休みなさいな」

「あの、今夜は皆さんと」

「忘れたの?
 酒と女は覚えない方がいいのよ」

まだゆっくりと礼も言っていない。
疲れ果ててはいるが、今夜はあの無頼漢達につきあうつもりだった。
それに、このエルフのビショップには、彼にとって経験のない
不思議な感情を抱き始めていた。
もっと彼女と話したい。もっと一緒に・・

「また一緒に潜りましょう。
 私はいつだってこの町にいるわ。・・上か、下にね」

空と地面を指差しながらリィンは微笑んだ。
パゥユナは少し頬を赤らめてリィンに尋ねた。

「私は・・その、なんというか、合格でしょうか」

「なにが?」

「皆さんの仲間として、私は力になれたのでしょうか」

リィンは少し驚いた様子だったが、長い耳をぴくりと動かすと
おかしそうに笑った。

「あなた、本当にいい子ね」

笑われた事と子供呼ばわりされた事で、少し不機嫌な表情をみせた
パゥユナに、リィンはそっと耳打ちした。

「認められていなかったら、あなた今頃馬小屋で寝てるわよ。
 『小僧にはそこがお似合いだ!』ってね。
 名前で呼んだし、報酬も等分にした。
 あなたはもう仲間よ、パゥユナ」

パゥユナは笑った。
リィンは首飾りからひとつ石を抜き取ると、それを小さな革袋に入れ
彼に渡した。

「あなたにカドルトの加護がありますように」

駆け足で酒場に向かう彼女の背中を見送り、少年はゆっくりと歩き出した。
一歩、一歩力強く大地を踏みしめながら。


第二章『魔女の微笑』につづく

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