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ブラジルの自然と環境問題
A NATULEZA BRASILEIRA





    (1)ブラジルの自然環境

     面積854.7 万km 2 と、南アメリカ大陸の約半分を占めるブラジルの国土には高度1,200m 以上の高地は0.5 %に過ぎず、大部分が高度200m 〜1,200m の低い高原(58.5 %)あるいは高度200m 以下の平野(41.0 %)である。一方、北緯5 度から南緯33 度にわたって広がるブラジルは、南部の一部を除く国土の大部分が熱帯気候下にあり、とくにアマゾン川流域を中心とした年中多雨な熱帯雨林気候とブラジル高原に広がる雨季・乾季が明瞭に分かれたサバナ気候の地域が広い。ほかの大陸では砂漠が広い面積を占めていることが多いが、ブラジルには砂漠になるような極端な乾燥気候地域は存在しない。ブラジルで最も乾燥した地域である北東部地方(ノルデステ)内陸でも、年平均降水量は400mm 〜800mm あり、カーチンガと呼ばれる密な有刺灌木林(トゲ林)に覆われている。 このように、ブラジルには、極端な寒冷または乾燥のために植生が疎らになるような地域は無く、その広大な国土は全域にわたって豊かな植物被覆に恵まれている。

     このようなブラジルの自然のなかでも、特筆すべきものはアマゾンの自然である。すなわち世界最大のアマゾン川とその流域に広がる熱帯林である。 アマゾン川は世界でも群を抜いて大きな流域面積(約700 万km 2 )と流量をもっている。アマゾン川の流量は、年平均で毎秒約17 万立方メートルと推定され、これは世界第2 位のミシシッピ川(毎秒15,360 立方メートル)の10 倍以上である。これは世界の河川 が海へ流し出す淡水の総量の15 〜20 %に当たると言われている。しかし、アマゾン川が重要なのはその巨大さだけによるのではない。アマゾン川本支流およびその沿岸の氾濫原に無数に分布する湖沼・水路などの広大な水域が形成されており、そこを主な生息場所として多くの水生生物が生息している。このような水生生物の多様性こそ、世界的に見たアマゾンの重要さの最たるものである。アマゾンは世界で淡水魚類が最も多様な地域であり、これまでに学術的に記載されたものだけでも約1,700 種にのぼるが、おそらく2,500 から3,000 種はいると推定されている。このほか、カイマンワニ、オオヨコクビガメな どの水生爬虫類、250 種から300 種と推定されるカエルなどの両生類、エビやカニのような甲殻類、ヒラマキ貝など12 種が知られている軟体動物、イルカ、海牛(マナティー)などの哺乳類、そして無数の水生昆虫というようにアマゾンの水生動物相は多彩であ る。水生植物でも有名なオオオニバス(ヴィトリアレジア)をはじめとしてアマゾン固有のものが多数ある。大都市の成長による魚類需要の増大や輸出指向の漁業の発達によって、このような水生生物が乱獲され、アマゾンの水域生態系が危機に瀕していること は、森林破壊ほど注目されていないようである。水域生態系を脅かしているのは、乱獲ばかりではない。後で述べるようなバルゼア林の破壊に伴う水生生物の生息場所の喪失、マデイラ川、タパジョス川などの支流において活発な砂金採取(ガリンパージェン) に伴う河水の水銀汚染、ダム建設に伴う魚類の回遊経路の断絶など、アマゾンの水域生態系を脅かす要因は多い。
     セルバと呼ばれるアマゾニアの森林は現存する世界最大の熱帯林である。ブラジル国内だけで約400万km 2 、隣接諸国まで含めると約600 万km 2 に達する。この森林生態系における生物種の多様性は世界でも類を見ないものである。とくに、木本種、鳥類、昆 虫類の多様性は顕著である。胸高直径10cm 以上という比較的大きな樹木だけをとってみても、アマゾンで最も普遍的な熱帯雨林(テラフィルメ林)の1ha(100m ×100m )の区画内には、600 個体、80 ないし100 種の樹木が存在することが知られている。すべ ての植物個体を取り上げれば、わずか10m 四方にも数10 種の植物を見付けることができる。もっとも植物種のこのような多様性はアマゾン森林に限ったことではなく、世界のどこの熱帯林でも見られることである。重要なのはむしろこれらの植物種の多くがアマゾニアにしかない、あるいはアマゾニアの中でもその地域にしかない固有種であるということである。アマゾニアは地質学的過去には今より乾燥した気候条件下に置かれたことがたびたびあり、そのような時には森林は縮小していくつもの島状のまとまり(レフュージア)に分かれて存続してきた。このような各レフュージア内で他のレフュージアとは没交 渉のもとに種の分化を繰り返して来たこと(異所的種分化)が固有種の多い主な要因と考えられている。後で述べるように、ブラジル北東部の半乾燥地帯からブラジル高原中央部のサバナ(セラード)に続く非森林地帯でアマゾニアと隔てられた大西洋岸森林が生 物固有種の宝庫である言われるのも、このような原因からである。アマゾニア全体では少なくとも950種の鳥類が生息しており、これは世界鳥類全体の1/10 にあたる。しかもその半分近くは他の地域には見られない固有種である。昆虫に至ってはどれくらいの種が存在するかの見当すらついていない。アマゾニアには数百万種の未知の昆虫がいるという研究者もいるが、そのうち研究によって新たに記載される新種は1 年にたかだか数百種にとどまっている。このように無数の固有種を含む種の多様性こそ、アマゾニア森林が人類共通の財産として後世に残されねばならないという主張の最大の論拠である。

    (2 )熱帯林消失と保全の現況

     ブラジルには2 つの森林地帯がある。アマゾン川流域に広がるアマゾニア森林(Floresta Amaz冢ica )とブラジル東海岸沿いに連なる大西洋岸森林(Mata Atl ntica )である。しかし、おのおのの森林は性質を異にするいくつもの部分から構成されており、それぞれの部分における森林消失の程度および生態系のダメージの受け方には差違がある。

    1 )アマゾニア森林

     世界最大の熱帯林といわれるアマゾニア森林は、アマゾン川を中軸にして広がる熱帯雨林とその南北に位置し、サバナ(セラード)への漸移帯を成す熱帯季節林とからなる。熱帯雨林は、常緑広葉の高木を主とする密林で、1ha 当たり数百種という植物の多様性を最大の特徴としている。同時に、昆虫類・魚類などを中心に多様な動物相を保持しており、遺伝子資源の宝庫といわれている。このような熱帯雨林地域にも地形・土壌条件を反映して、異なるタイプの森林が併存している。アマゾン平野の90 %以上を占める比高数10m の台地(テラフィルメ)には、典型的な熱帯雨林であるテラフィルメ林が成立しているが、アマゾン川本流や主な支流沿いの氾濫原(バルゼア)には、これとは樹種も生態も異なるバルゼア林が発達する。また、ネグロ川に代表される「黒い水」の河川流域に多い白砂(水成ポドゾル)の台地には、アマゾニアカーチンガとよばれる乾性の植生からなる貧栄養生態系が形成されている(Moran,1995 )。白砂は栄養塩類をほとんど含まず、保水性のきわめて乏しい土壌である。熱帯雨林地域よりやや顕著な乾季がある多雨気候地域には熱帯季節林がみられる。熱帯季節林には気候条件、特に乾季の程度に応じて常緑季節林、半落葉季節林、落葉季節林(雨緑林)と漸移するが、いずれも熱帯雨林より樹種数が減少し、樹高が低いものとなる。
     このように、一口にアマゾニア森林といってもそこには多様なタイプが認められる。人為的な森林消失という観点からみた場合、これらの森林のうち最も大きなダメージを受けているのはバルゼア林である。河川沿いに分布しアクセスが容易であるうえ、毎年河川の増水時に冠水するため肥沃な土壌に恵まれ、耕地や牧場に適した土地にあったからである。先コロンブス時代にも人手が加えられてきたであろうが、とくに西欧人が到来し牛が 導入されて以後、バルゼア林の消失は顕著に進行したといわれる。また、1930 年代、日本人移住者によって導入されたジュートの栽培は、アマゾニアの経済を活性化した意義は評価されているが、同時にバルゼア林の消失に一役買ったことも事実である。近年では水牛の導入によってバルゼアの荒廃は加速度的に進行中である。現在、マナウスより下流、シングー川合流点までのアマゾン中流部のバルゼア林はほとんど完全に消滅してしまっ ており、マナウスより上流でもバルゼア林消失は顕著である(グルーディング他、2001 )。しかし、近年世界的注目を浴びてきたアマゾニア森林の消失はテラフィルメの熱帯雨林あるいは熱帯季節林に関してのものである。とくにアマゾニア南部の季節林地帯における牧場化、そのための森林焼却は1980 年代末に一つのピークをつくったアマゾニア森林破壊の中心的要因である。図3はこの時期における森林焼却地の分布であるが、この図から明らかなように、少なくともこの時期までは、おもな森林焼却地は典型的熱帯雨林地域 ではなく熱帯季節林地域であった。世に知られたロンドニア州のクヤバ・ポルトヴェーリョ道路 図4 ブラジルにおける森林の大規模消却地の分布1983 年9 月2 日NOAA‐ 9 号撮影の人工衛星写真より。
    (BR‐ 364 )沿線の入植計画に伴う森林消失も同種の森林地域で生じたものである。これ以降、1988 年憲法と1989 年のブラジル環境再生天然資源院(IBAMA )設立など、ブラジル政府の環境問題に対する取り組み強化によって、森林消失のテンポは若干低下したようである。ブラジル宇宙研究所(INPE )の衛星写真画像解析などの結果からは、ア マゾニア森林の消失累計面積は、1978 年が約15 万km 2 、1988 年が約38 万km 2 、1997 年が約53 万km 2と推定されており、森林消失速度は1988 年以前の年率23,000km 2 に比べ、1988 年以降は平均して年率17,000km 2 程度になっている(表1 )。ただし、1988 年以降の、年ごとの消失面積は1991 年の11,000km 2から1995 年の29,000km 2 まで大きく変動しており、安定的に減少しているわけではない。このような変動が衛星写真判読の誤差など技術的なものなのか、山火事など偶発的なものなのか、あるいは実際の経済活動の変動によるものなのかは明らかでない。なお、1997 年時点における森林消失総面積 53 万km 2 は、約400 万km 2 の原生林の13 %に当たる。近年、アマゾニアにおける森林消失の要因に変化が生じつつある。従来、アマゾニアにおける森林破壊の要因は大規模牧場の造成あるいは農耕地の造成が主であって、森林自体の経済価値は従であった。ブラジルにおける伝統的木材生産地は南部の温帯林地帯である。たとえば、1975 年におけるブラジル北部地方7 州(アマゾニア)の木材生産量は1,032 万立方メートルであり、南部地方3 州の6,892 万立方メートルの約7 分の1 にすぎなかったが、1995 年には5,983 立方メートルとなり、南部地方の7,583 立方メートルに迫る勢いで増加中である。このような牧場化から木材資源自体へという開発要因の変化は、アマゾニア森林の保全を考える上で看過できない現象と考えられる。

    2 )大西洋岸森林

     ブラジル北東部地方から南部地方に至る大西洋海岸に沿って続く森林地帯が大西洋岸森林Mata Atlantica である。北東部地方の森林帯は海岸から内陸へ数10km 〜100km 前後の狭い地帯であるが、南東部地方および南部地方では幅数100km にわたって広がる。北東部地方から南東部地方へかけての森林はおおむね熱帯季節林を主とする熱帯林である一方、南部地方の森林はパラナマツ(アラウカリア)林に代表される温帯林である。
     北東部地方ついで南東部地方の海岸地帯で展開された植民地時代の開発の歴史から照らして明らかなように、大西洋沿岸森林の人為的改変には著しいものがあり、現在、原生林はわずか7 %しか残っていない。北東部地方の狭長な森林帯は、16世紀以降のサトウキビ栽培地の造成、製糖業用燃料材の採取などのために伐採され、原生林はほとんど残存しないといわれる。近年でも、プロアルコール計画(p.118 BOX 12 参照)に伴いパライバ州 のようにサトウキビ栽培地面積が5 倍近くに増加した州もあるが、この際増加したサトウキビ栽培地の多くは森林(二次林)の伐採によって造成されたものである。
     南東部地方の森林消失は、18 世紀におけるミナス・ジェライス州のゴールドラッシュとそこへの物資供給地としてのサンパウロ州など周辺地域における農牧業の発達に端を発するが、とくに18 世紀末に始まるコーヒー前線の前進によって著しく進行した。コーヒー前線の進行に伴う森林破壊は、パライバ川河谷から北へ、ミナス・ジェライス州 南部、エスピリト・サント州へと広がる一方、西方へ、サンパウロ州を西進し、同州西端までの森林地帯を蹂躙し、パラナ州北西部にまで達した。
     このようなコーヒー前線の前進をもたらしたコーヒーブームが実質的に終わったのは1930 年頃といわれるが、その直後の1935 年、森林消滅がもっとも著しいサンパウロ州に残された森林は州面積の26 %程度まで減少していたと推定されている。この後も多角化した農牧業用地造成あるいは薪炭材採取などのために森林の伐採は継続し、1990 年〜 1992 年におけるサンパウロ州環境局の調査では、同州に分布する原生林は184 万ha (面積の7.4 %)で、海岸山脈・マンチケイラ山脈など急傾斜でアクセス困難な地域にほぼ限られるという状況になっている。この時点でも同州の森林消失は続き、SOS Mata Atlantica 財団とブラジル宇宙研究所(INPE )の調査では、1985 年から1990 年のサンパウロ州における森林消失面積は61,720ha と計算されるという。
     アマゾニア森林の消失に比べると大西洋岸森林の消失に対する注目度は高くなかった。しかし、近年ブラジル国内外において、このまれにみるひどさの森林破壊と残されたわずかな森林が持つ生態学的価値に対して注目が集まってきた。1986 年設立のNGO 、SOS Mata Atl 穎 tica 財団の精力的な活動、政府機関による、国立公園(Parques Nacionais )、生物保護区(Reservas Biologicas )、生態区(Estacoes Ecologicas )などの自然保全地域の設定によって、2000 年現在では森林消失のはやさは、当時の10 分の1 程度まで低下した模様である(O Globo,4 deAbril,2001 )。

    3 )森林保護への取り組み

     ブラジルの森林資源保護に対する大きな動きの一つは、1991 年12 月合意されたPPG7 (Pilot Programto Conserve the Brazilian Rain Forest )である。これは、アマゾン森林と大西洋岸森林について、それらの保全策と持続可能な地域開発方式を追求する ことを目的としたプログラムである。PPG7 はブラジルにおける広大な森林地帯の保全や開発を直接実施するものではない。その方策を探り、その成果に基づいて、ブラジル政府、州政府、地方公共団体などが環境施策を実施することを期待するものである。参加機関(ドナー)は、ブラジル、G7 諸国、EU 委員会およびオランダで、世界銀行がコー ディネーター役を引き受け、1992 年に活動を開始した。2 億5,000 万ドルの資金のうち、5,000 万ドルは世界銀行に設置された熱帯雨林トラスト基金(Rain Forest Trust Fund )が拠出し、残りは参加国が分担することになっている。しかし、このプログ ラムの参加者は上記のドナーに限られるものではなく、NGO などの市民団体の参加の上で進められている。とくに、多くのNGO などの連合体であるアマゾン作業グループ(Grupo de Trabalho Amaz冢ico-GTA 、現在430 団体で構成)および大西洋岸森林ネットワーク(Rede Mata Atl穎tica :RMA )などが果たしている役割は大きい。このように、NGO との密接な対話・連携のもとに環境問題を解決する土壌が醸成されたこと自体、本プログラムの大きな成果の一つと評価されている。
    このプログラムによって、アマゾニアにおける2 つの研究機関が強化・近代化された。ベレーンのエミリオ・ゲルジ博物館とマナウスの国立アマゾン研究所(INPA )である。同時にブラジル研究者・研究機関による23 件の研究プロジェクトに対する助成が行われたほか、日伯研究機関(JICA‐ ABC 、林総研−INPA )によるマナウス地域の荒廃地の回復 に関する共同研究(ジャカランダプロジェクト、第1 期1995 年〜1998 年、第2 期1998 年〜2003 年)が立ち上がっている。また、パラゴム・ブラジルナッツなどの天然植物資源の採集活動と森林の保全の両立を探る「採集民保護区」(Reservas extrativistas )の試行4 件、アグロフォレストリー・有用植物種の集積栽培・荒廃地の回復や植林・伐木用森林の持続可能的経営・薬用植物園の造成などの実験に対する助成120 件、先住民インディオに対する居住地の保証の強化など多彩な内容をもっている。PPG7 の目的は短期的に達成しうるものでないことは明らかである。このため、各ドナーは追加的資金の拠出を表明しており、プログラムの資金総額は、現在、約3 億4,700 万ドルに達している。資 金的貢献ではドイツを筆頭に、EU 、イギリス、アメリカがこれに次いでいる。

    (3 )水資源開発の現況と問題点

    1 )大規模ダム建設と環境問題

    ブラジル政府は2001 年6 月1 日より、南東部地方、中西部地方、および北東部地方の大部分に対して大規模な節電プランの適用を開始した。各家庭・企業などごとに、前年同時期における電力消費量の平均20 %の節電を要求している。節電目標を超過した分についてはペナルティー的に高い電力料金を徴収し、場合によっては電力供給をカットするという厳しいものである。南部地方の大雨とは対照的に、上記の3 地方における異常な少雨 のため、主力発電所貯水池の貯水量が危機的レベル(3 地方の主要水力電源ダムの湛水量は4 月32.3%、5 月現在27.9 %という)まで減少しているというのが政府の説明である。これに対しては、年率5 %で増加してきた電力消費量に見合う電力投資を政府が行なってこなかったことが今回の電力危機の主要因であるという批判もでている。また、今 回のような貯水池湛水量低下の原因は、単に少雨といういうより、むしろ流域における灌漑水利用の増加や森林消失にともなう保水性の減少といった構造的なものであるという指摘もなされている。
     客観的に見てブラジルは水資源の豊かな国で、電力の95 %を水力発電に依存するという世界でも稀な状況にある。主要河川水系には数珠繋ぎのように大規模ダムが建設されてきた。しかし、ELETROBR躊 の1995 年のデータによれば、ブラジル全土の推定包蔵水力は259,029MW であるのに対し、現在利用されているのはまだその22.4 %にあたる58,000MW にすぎないという。しかし、現在ブラジルの電源開発政策は転換点にきており、天然ガスなどによる火力発電の比重を高める方向に向いているようである。条件のよい水力発電所建設サイトが少なくなっていることや、森林の水没など大規模ダムの建設に伴い生ず る各種の環境問題を配慮してのことと考えられる。たとえば、近年マナウス近郊に建設されたバルビーナ(Balbina )ダムの場合、250MW の発電能力に対し水没森林面積は2,360km 2 で、1MW あたりの水没面積は9.4km 2 というひどさである。ちなみに、初期に建設された南東部地方パラナ川水系におけるダムの場合この数値はおおむね1km 2 以下である大規模ダム建設に伴う環境問題としては、上述の森林水没という直接的問題の他に、河川における回遊魚の経路切断、流出土砂減少に伴う下流河口域の海岸侵食などの問題が危惧されているが、ブラジルにおいてこれらに関する調査・研究は多くない。

    2 )ブラジル北東部(ノルデステ)内陸における旱魃対策と水資源および砂漠化

     セルトンと呼ばれるブラジル北東部地方の内陸域はブラジルで最も乾燥したところである。年降水量400mm 〜800mm 、6 ヵ月以上に及ぶ降雨皆無の乾季をもった熱帯半乾燥気候下に、カーチンガと呼ばれる有刺灌木林が広がっている。雨季にも降雨が極端に少ない旱魃の常襲地域として知られており、ブラジルにおける水資源問題というとここが第一に取り上げられるのが常である。ブラジル政府は2 0 世紀のはじめから旱魃対策調査所(IOCS )、旱魃対策事業局(DNOCS,1945 〜)などの機関を設立し、おもに多数の公共アスーデ(貯水池)の建設によって旱魃に備え、人口流出の抑制、貧困問題の解決、食糧供給力増大などを図った。しかし、現在でもこれらいずれの問題も解決されてはいない。2001 年においてもセルトンは深刻な「緑の旱魃」(seca verde 、雨季初期の少量の雨でカーチンガは緑に芽吹いたがその後降雨が無く旱魃状態になる)に見舞われており、すでにパライーバ州を中心に31 ムニシピオが旱魃による緊急災害地として認定され、給水車と食糧の支給を受けている。なお、連邦政府に旱魃被災地としての認定を申請したムニシピオは636 にのぼっている。セルトンはまた、砂漠化の危険のある地域として知られている。半乾燥地における砂漠化のプロセスとしては、気候の乾燥化という自然的要因もあり得るが、耕地造成・過放牧など人為的要因によることが多い。一般に、植生の疎化に伴う土壌 侵食(水食・風食)および灌漑に伴う土壌の塩類化などいずれも土壌の物理的・化学的劣化が人為的砂漠化の主な要因と考えられている。セルトンの場合、少なくとも現在までのところ顕著な砂漠化は発生していないが、これら要因による砂漠化が発生する可能性を内在している。近年、カーチンガを伐採し、大規模な飼料用のパルマ(トゲナシウチワサボテン)栽培地を造成する傾向が強まっている。これによって、本来薄く粘土質な土壌が侵食され、露岩地化・砂漠化に至る可能性はある。しかし、さらに注意を要するのは灌漑農業に伴う土壌塩類化の進行である。セルトンの農地灌漑には、旱魃対策用に造成された大規模公共アスーデの水を利用して周辺農地を灌漑するものと、サンフランシスコ川沿岸で展開されている企業的大規模農地における機械的灌漑の2 つのタイプが認められる。前者の場合、深さの割に表面積の大きいアスーデにおける激しい蒸発によって湖水の塩分濃 度が高まることは、灌漑農地の土壌塩類化が起こりやすい条件と言える。現に、セルトンのいくつかの灌漑農地において、フェジョン豆やトウモロコシ畑が塩分に強いココヤシの畑に転換されるケースが目撃されるのは、塩類化の進行を暗示するものかもしれない。一方、サンフランシスコ川沿岸の企業的灌漑農業はさらに一層の注意が必要であろう。開発の歴史が浅いため、現在のところ、ここでも土壌塩類化の問題は報告されていない。 しかし、降水量が多く湿潤熱帯に属するセラード地域で見られるようなセンターピボット方式の大規模灌漑が、気候条件・土壌条件が全く異なる熱帯半乾燥地域で通用するかどうか大いに疑問である。とくに土壌の塩類化についての注意深い追跡調査が必要である。同時に、サンフランシスコ川の場合には、今回の渇水問題に際して一部で指摘されているように、農業的水利用の増大が電力用水資源に与える影響について検討する必要がある。

    (4 )自然環境分野における開発課題

    1 )アマゾニアにおけるバルゼア植生の現況把握と保全・再生

     バルゼア(氾濫原)はアマゾン平野の数%に過ぎないが、そこに成立している森林や草原は生態的に特別の意味をもっている。毎年の高水期には、平均4 ないし7 ヵ月も水浸しになるバルゼア林(浸水林)や浮草がつくる草原は、アマゾンの多様な魚類の産卵場所や稚魚の成育場所になる。また、タンバキやピラムターバナマズなど、浸水したバルゼア林に入り込み木々から落ちる実をおもな餌にしている果食魚類にとっては採餌場所でもある。魚類の他にもバルゼアの浸水森林や浮島草原が無ければ生活が維持できない水生生物が多い。このようにバルゼアの森林は、テラフィルメ林とは異なり、水域生態系と密接な関係をもっている点で重要である。すなわち、バルゼア林の保全は水域生態系の保全にも通ずるのである。アマゾニアにおいて水域生態系の保全が重要であることは論を待たない。先に述べたとおり、アマゾニアの水生生物相は世界に類のない多様性を有しており、その保全は生態的に重要であるからである。しかし、それと同時に、魚類をはじめとしたアマゾニアの水生生物は漁業資源としてアマゾニア住民の生活や地域経済の安定的発展に不可欠なものであり、その保全は経済的意味を併せもっているといえる。このように生態的にも経済的にも重要なバルゼア植生の破壊は前述の通り著しく進行しており、その保 全に関して早急の対策が必要である。保護林として指定すべき残存林の分布調査とその保全策の検討、既に荒廃地化したバルゼア林の再生などは、PPG7 の1 プロジェクトあるいはその他の形で立ち上げるに値する開発課題である。

     なお、パンタナール湿原(p.118 BOX 11 参照)は、アマゾニアのバルゼアとは開発の経過、植生の特徴など違いがあるが、高水期に浸水する氾濫原である点で本質的な類似点がある。現今の開発の状況の把握および水域生態系の保全に重点を置いた基礎研究が必要な時期に来ている。

    2 )海岸侵食インベントリー作成とその要因に関する基礎調査

     海岸、とくに砂浜(プラヤ、praia )は重要な資源である。とくに有力な産業をもたない北東部地方(ノルデステ)の沿岸諸地域のなかには、観光産業に活路を求めているところが多く、その中心はプラヤである。しかし、現在、水質汚濁、海岸侵食などによって観光価値が損なわれかねない海岸が少なくない。海岸侵食(砂浜の決壊)は現在のブラジルではまだ大きな関心が払われているようには見受けられない。しかし、河川における大小規模のダムの建設にともなう流送土砂の減少その他の原因から生ずる海岸侵食の現状と要因をとらえ、その対策の指針とすることが必要な時期であると考えられる。また、精細な空中写真の撮影などによって現在の海岸線を記録し、広く資料公開することは、すでに現実の問題となりつつある気候温暖化−海面上昇という問題に対処する有効な資料となろう。

    3 )環境視点から見たプロアルコールの再評価

     おもにサトウキビなどからエタノールを製造し、自動車の代替燃料を供給するというプロアルコール計画(PROALCOOL )(p.118 BOX 12 参照)は、1973 年のオイルショックを契機に1975 年末にブラジル政府が採用し、実用化が成功した意欲的プロジェクトである。しかし、1980 年代後半以降燃料としてのエタノール消費量の伸びがほとんど頭打ちであることからもわかるとおり、このプロジェクトは現在曲がり角に来ている。サトウキビ栽培地の拡大に伴う森林の消失、アルコール製造過程で生じる大量の廃液による河川の汚濁、アルコール自動車の排気中のホルムアルデヒドによる大気汚染などの環境問題もこのプロジェクトがふるわない原因の一つである。もちろん、アルコール製造原価の高さに対する原油価格の相対的低下やブラジル国内における原油および天然ガス生産の増 加などの経済的要因もある。しかし、二酸化炭素増加に伴う大気の温暖化などより高次の環境問題を考えたとき、このプロジェクトが目指すバイオマスエネルギーの利用は先進的なものであり、その再評価、建て直しの方策を探る価値はある。当初このプロジェクトに含まれていたマニオクのアルコール化の推進、アルコール製造技術のハイテク化や各環境問題の技術的解決などに関する開発課題が考えられよう。


    引用: 国際協力事業団 ブラジル国別援助研究会 「自然環境」 松本英次(筑波大学地球科学系教授)より



    <アマゾン調査よもやま話>




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