彼
珍しくアヴドゥルよりも先に眼が覚めた。朝が来たのはわかったが、しばらく眼の前にあるアヴドゥルの背中を見つめていた。
身体を起こす気にならないのだ。何となく、見つめていた。
広い背だと、改めて思う。
―――そういや、手もでかかったなあ―――
呼吸の度に軽く動くその背を見つめたまま、ぼんやりと考える。そういえば、と気づく。自分はあまりアヴドゥルのことを考えたことはなかったと。いつも何となく頭にあった。特別考えるということをしなくても、だ。だから、こんなふうに意識して見るのは初めてかもしれない。
そろりと、アヴドゥルを起こさないようにして身を起こす。注意深く、音をたてないようにしてアヴドゥルの顔をそっと見た。完全に眠っているようだ。規則正しい寝息が、それを物語っている。
「……」
アヴドゥルのこと。 広い背。がっしりとした身体。大きな手。褐色の肌。
それから。 翡翠みたいな色の大きな双眸。長い睫毛。しっかりとした眉。厚い唇。
それからそれから。 案外高い体温。自分と違う肌の感触。きれいな歯並び。微かに甘い薫り。
それからそれからそれから。
自分を呼ぶ時の、声。
『ジャン』
アヴドゥルのことを考え、それらを繰り返し思い出し、反芻して、ポルナレフはその顔を紅くした。彼のことを考えたらきりがなかった。意外にもひどくたくさんのことを知っているのだ、ということに気がついた。