痛い背中
そのポルナレフの手だが、止まっていた。スポンジを手に持ち、あとはボディソー
プをつければいい。だが、そうできないでいた。視線が止まり、行動も止まっていた。
ある一点を見つめて。 次の瞬間、手にしたスポンジを落としていた。
「…ポルナレフ?」
問い。
それは背中に彼がまた、抱きついてきたから。どちらかといえば、身を寄せてきたと、いうような表現が正しいだろう。先程は服越しであったが、今度は直に触れ合っている。肌と肌が触れ合い、体温がよく伝わる。今なら、ひどい心音でなくとも、その鼓動が聞こえてしまう程に、近い。
ポルナレフの頬が背にぴったりと寄せられている。這わされる手。そっと優しくアヴドゥルの背を撫でる。
今日、どうしてポルナレフが妙に背にこだわっているのか、ここで初めてアヴドゥルは気がついた
傷痕、だ。
彼が優しく撫でているのは、インドで負った傷の痕。
「ひでえ傷…」
ぽつりとした呟き。下手をしたらシャワーの音に掻き消されて、聞き取れないような声。
やっと理解したアヴドゥルは双眸を細めた。彼は気にしていたのだ。この傷を。インドで受けた傷。彼を庇って受けた傷。今も肩を上げると多少引きつる傷。どうなっているのか、自分では一度しか見たことがない。その時はそんなにひどいとは、思わなかった。
むしろ、傷がひどければひどいほどに、この傷が一層名誉の負傷に思えて。
ポルナレフは褐色の肌に浮かぶ傷痕を見つめていた。切り裂かれた場所の肉は盛り上がり、皮膚が浅黒く変色している。額の傷痕もひどかったが、こちらも相当なものだ。見ていて痛々しい傷痕。自分のせいでできた傷痕。
そうだ、自分のせいで。