序論 ファシリテイティド・コミュニケーション(訳注:以下FC と省略)とは、ファシリテータが一定の身体的補助を用いることで、クライアント(患者)が文字盤の文字に触ってメッセージをつづるのを助ける方法である(Bilken, 1990)。多くの場合、ファシリテータはクライアントが文字盤の文字を人差し指で指したり、キーボードのキーに触ったりするときに、クライアントの手を支えている。ファシリテータには職業的な人や半ば職業的な人もいれば、親である場合もあり、クライアントは自閉症や様々な発達障害があって喋ることが出来ない。Biklenら(Biklen, 1990, 1992, 1993a; Biklen & Schubert, 1991; Crossley, 1992)によると、FCを用いることで、それまで重度の知的障害があると考えられてきた人々に予想外の識字力が生まれてきたことになる。Biklenの主張では、自閉症の人にはデュスプラクシア(統合運動障害)と呼ばれる、発話を阻害する神経学的障害に苦しんでいるのであり、FCを用いることで、自閉症クライアントはこの条件を克服し、知的に障害のないレベルで流暢にコミュニケーションを行うことが出来るようになるのである。FCは元来自閉症者のために発展してきたものだが、今日では(精神遅延など)他の発達障害のクライアントにも広く用いられている。 FCが紹介されて以降、多くの研究者たちはこの方法の妥当性に疑問を投げかける論文を公刊した(例えばCummins & Prior, 1992; Dillon, 1993; Green, 1993; Green & Shane, 1993, 1994; Jacobson & Mulick, 1992; Mulick, Jacobson, & Kobe, 1992; Prior & Cummins, 1992; Thompson, 1993)。これらの著者たちの主張では、BiklenたちFCの支持者は予想外の識字力が見られたという実験上の証拠を何ら提出しておらず、FCのセッションでタイプされたメッセージについてのもっとも蓋然的な説明は、ファシリテータがタイプをコントロールしているということになる。これらの批判が公刊されたのに続いて、多くの研究者たちが実験的研究を公刊したが、それはFCでファシリテータがタイプをコントロールしていることを証明するものだった(Green, 1994の展望論文を参照のこと)。 Wheeler, Jacobson, Paglieri and Schwartz (1993)の研究では、予想外の識字力を示したと報告されているクライアントたちは、絵を示され、FCを用いて絵の名前をタイプするように求められた。Wheelerたちは、T字型のスクリーン装置を用いて、クライアントが名前をタイプすることになる絵へのファシリテータのアクセスを調整した。この装置は、クライアントとファシリテータに別の絵を示すことを可能にするものである。Wheelerたちが証明したのは次の三点である。(a) クライアントとファシリテータのペアは、ファシリテータに同じ絵が示されたときにのみ絵の名前を正しくタイプした。(b)ファシリテータに同じ絵が示されていなかったときにペアが正しく絵の名前をタイプしたことは一度もなかった。(c)クライアントとファシリテータに別の絵が示されたときには、ペアはファシリテータに示された絵の名前をタイプした。これらの結果は、ファシリテータがタイプをコントロールし、クライアントには何ら予想外の識字力が見られないことを強く示唆するものである。 さまざまな方法論を用いた他の多くの研究も、同様の所見を示した。どの研究でも、FCのセッションでクライアントがタイプするべき情報へのファシリテータのアクセスを研究者たちはコントロールしていた (例えば、Hudson, Melita, & Arnold, 1993; Moore, Donovan, & Hudson, 1993; Moore, Donovan, Hudson, Dykstra, & Lawrence, 1993; Regal, Rooney, & Wandas, 1994; Simon, Toll, & Whitehair, in press; Vazquez, 1994)。三つのタイプの評価フォーマット(絵の名前をタイプする、問いに答える、行動を記述する)を通じて、研究結果が示しているのは、ファシリテータが正しい情報にアクセスしていないときにクライアントがその情報を作りだすのは稀であること、また、クライアントとファシリテータが異なった情報を持っているときにはファシリテータに提示された情報がセッションの中でタイプされたということである。 実験的調査が増加するのに応じてFCの妥当性には重大な疑いが投げかけられているが(たとえばGreen & Shane, 1994)、それにもかかわらずBiklenたちはこれらの実験による評価を批判した(例えばBiklen, 1993b, 1993c; Crossley, 1993; Duchan, 1993)。 Biklen (1993b) は次のように主張する。(a) 実験の手続きによってクライアントはFCのセッションに不安を感じたり抵抗したりするようになり、それで結果がそこなわれてしまう。(b) テストはクライアントとファシリテータの信頼関係を破壊し、それも結果をそこなう。(c)ファシリテータは実験的な研究に相応しい訓練を受けていない。(d) クライアントたちはテストを受けるに充分な程度のFCの実践を積んでいない。(e)これらの実験研究での自閉症クライアントたちには、適切な言葉を見いだす点に関する障害(失語症)があり、それゆえ、絵や行動に名前をつけることはFCを評価するための妥当な方法ではない。 Green (1994) は、Biklenたちの批判に根拠がなく、それ自体妥当性を持っていないと論じたが、実験的な調査の結果を拒絶するFC使用者はBiklenたちのこの批判を受けいれている。 本研究の目的は、Biklenが持ち出した多くの問題に答えつつ、FC時に生じるファシリテータの影響の可能性をさらに評価することである。我々が用いた評価フォーマットには、絵に名前をつけたり行動を記述したりすることが含まれている。我々が行動記述のフォーマットを選択したのは、それがFCのもっとも自然な評価だからである。FCセッションでクライアントはしばしば過去の行動や経験を記述している。我々はWheelerたちの1993年の実験をそのまま反復するために、また動作フォーマットと比較するためにも、絵のフォーマットを選択した。動作フォーマットの方がより複雑な反応を含んでいる。我々はBiklenが持ち出した懸念には次のように応えた。第一に、我々は地域の福祉サービスの指摘に従い、最もうまくFC法を用いているという報告が上がっているクライアント+ファシリテータのペアを用いた。彼らは全員、FCによって会話コミュニケーションを行っているという報告がなされていた。第二に、まずベースライン(基準)条件としてFCを用いたコミュニケーションを成功させ、単語が思い出せないという可能性をあらかじめ排除した。第三に、動作フォーマットのもとでは、クライアントは対象を名指すのではなく、動作を記述すればよかった。従って、単語を思い出すことは評価フォーマットでは問題ではなかった。第四に、全ての実験セッションで不安反応(anxiety behaviors)と逃避反応(escape behaviors)の測定を行った。どのクライアントであれ不安や逃避の反応を示した場合には実験の試行は終了し、そのセッションから得られたデータは用いなかった。第五に、全てのセッションはクライアントが日々暮らす場所・時間に行われ、クライアントとの関係が確立しているファシリテータと一緒になされた。第六に、ファシリテータが何らかの理由で不安を感じた場合、ファシリテータは何時であれ実験の試行を終了させることが出来た。本研究の方法を発展させてBiklenが持ち出した懸念に応えることで、以下の結果はFCを弁護する人々にもより受けいれられるものになっているだろうと希望する。 --------------------------------------------------------------------------------- 実験方法 参加者 精神発達遅滞のある個人に対して入所生活型および通所型支援サービスを提供しているノースダコタ州東部の施設から、被験者として7組のクライアントとファシリテータが参加した。この研究は、8組のクライアント-ファシリテータによって開始されたが、そのうち1組に関してはFCセッションが実施されている居住環境では、正確な実験操作を行うことができないため除外した。クライアントは、中程度または重度の精神発達遅滞と診断された成人である。ただし、クライアントの一部は過去一年以内に、FCに参加した結果、「特定不能の発達障害」であると診断が変更されている。二次的な診断には、脳性麻痺、癲癇、自閉症、注意欠陥/多動性障害、または広汎性発達障害など含まれている。表1にクライアントの詳細を示す。[この表が正しく表示されない場合は、表1のテキスト版を参照] --------------------------------------------------------------------------------- 表1 クライアントの詳細 被験者 年齢 性別 精神発達遅滞のレベル 以前に使用された表出言語 FCのタイプ Molly 41 女性 中程度 話し手への接触、合図 文 Bob 52 男性 高度 合図、絵、単語 文 Kirk 23 男性 既定なし(自閉症) 合図、発声 文 Kelli 29 男性 高度 合図、絵、音 文 Brad 23 男性 高度 単語 文 Darren 20 男性 高度 合図、単語 動詞と名詞からなる短文 Candy 21 女性 高度 絵、合図、単語 文 --------------------------------------------------------------------------------- この実験には、FCセッション中に自由に会話をかわしていることが報告されているクライアントとファシリテータのペアが、施設の職員によって推薦された。行われているコミュニケーションには幅があり、Darrenは単純な動詞と名詞からなる短文(例「ピザ、食べる - "ate pizza")であったが、他の6名は完全な文(例「この週末はピザを食べました」 - "I had pizza this weekend")であった。クライアントはFCを開始してから6〜8箇月である。すべてのクライアントは、手首または手をファシリテータによって物理的に支えられている。各クライアントは、親しいファシリテータ1人とペアを組んですべての試行に参加した。2人のファシリテータは、それぞれ2人のクライアントとペアを組んだため、ファシリテータの総数は5人である(ファシリテータの詳細については表2を参照)。[表2のテキスト版] 最初に本論文の第一著者が被験者候補のペアに聞き取りを行い、クライアント、保護者、およびファシリテータから人口学的情報とインフォームド コンセントを得た。 --------------------------------------------------------------------------------- 表2 ファシリテータの詳細 被験者 年齢 性別 教育水準 FCトレーニングのタイプ 経験 クライアントとの経験 Morgan 30 女性 学士(理学) ワークショップ/ビデオ 2 1 Roberta 31 女性 学士(社会福祉) ワークショップ/直接トレーニング 5.5 4.5, 4.5 Rachel 31 女性 修士(文学) ワークショップ/直接トレーニング 2 1.5, 1.5 Louise 34 女性 準学士(文学) 組織内トレーニング 5 3 Carol 24 女性 学士(理学) ワークショップ 3.5 1.5 経験: 発育障害現場での経験年数。 クライアントとの経験:クライアント(複数の場合もある)とFCを行ってきた経験年数。 --------------------------------------------------------------------------------- 実験材料と場面設定 実験セッションは、ペアを組んでいるクライアントとファシリテータが通常使用している環境(デイプログラムまたはグループホーム)において、通常セッションが行われている時間帯に実施された。これは、実験によって不安などの否定的な反応が引き起こされる可能性を減少させるためである。個別の聞き取りには、クライアントによる自己報告とスタッフの投入を行ったが、実験に使用する刺激(素材)は、先行するFCトレーニングからクライアントにとって身近な動作と絵画を選択した。クライアントそれぞれについて、12〜24種類の動作と24種類の絵画カードを選択した。 動作フォーマットでは、ファシリテータに対して実験エリアから退出するように求め、ファシリテータが動作を見ることができないようにした。絵画識別フォーマットでは、T字型スクリーン(高さ75cm)を使用し、クライアントとファシリテータに別々に絵画カードを見せるようにした。クライアントとファシリテータは、スクリーンの前面に着席しているため、自分の側に提示されたカードを見ることはできるが、パートナーの側に提示されたカードは見ることができない(Wheeler et al., 1993)。実験が居住環境で行われる場合は、クライアントとファシリテータに対して別々に絵画を見せるためにマニラフォルダを使用した。マニラフォルダの一方の面に絵画を置き、クライアントに見せた。このフォルダは90度に開くため、ファシリテータは絵画を見ることができない。別の絵画をファシリテータに見せるときは、マニラフォルダによってクライアントの視界が遮られる。居住環境では、T字型スクリーンは使用しなかった。これは運搬や設置が容易でないためである。セッションでは、クライアント個人に合わせてファシリテータが用意したアルファベットボードを使用した。すべてのセッションを記録するために、ビデオカメラを使用した。 実験計画 この実験では、次の3種類の実験条件を反復する、被験者内反転計画(within-subject reversal design)を採用した:既知、未知、偽情報。3つの条件の順序はランダムに決定したが、各ペアのベースライン成績を見るために、最初の条件のみは常に既知の条件とした。それぞれの条件について、4回の実験試行が行われた。 手続き 実験セッションは、クライアントの日常生活の一部となるように毎週1度の日程で行われた。クライアントとファシリテータのペアは、通常どおりの配置(ほとんどの場合、互いに隣同士に座る)とした。実験セッション前には実験助手がクライアント-ファシリテータのペアと一緒に時間を過ごし、参加者が実験助手や実験用具に慣れることができるようにした(通常は、1セッション)。各実験試行は、クライアントに対して提示された質問によって構成された。実験試行は、通常のFCセッションに組み込まれた。 基本的な実験手順には、各実験で使用される動作または絵画に対するファシリテータの接触を制御することが含まれた。絵画または動作を識別または説明するとき、クライアントはファシリテータの補助を受けてアルファベットボードでメッセージをタイプした。実験条件には、次の3つが使用された。(a) 既知(ファシリテータは、動作または絵画に関する知識がある)、(b) 未知(ファシリテータは、動作または絵画に関する知識がない)、および( c) 偽情報(ファシリテータには、動作または絵画に関する偽の情報が与えられる)。各試行で、動作および絵画のどちらかがランダムに提示された。回答がタイプされる前にクライアントが絵画または動作について合図、身振りなどを行うか、その名前を音声で表した場合は、その試行を終了し、その試行でタイプされたメッセージは結果に含めなかった。ただし、合図、身振り、または音声による表現をファシリテータが観察できなかった場合は例外とした。 <動作フォーマット>別室で、約5分間の間、クライアントは実験助手とともにいつも通りの動作を行った。動作の例としては、コーヒーを飲む、雑誌を眺める、クラッカーを食べる、トランプで遊ぶ、パズルを組み立てる、などがある。動作を行っている間、動作の内容が確実にクライアントに明らかになるように、実験助手は最低5回クライアントに動作を説明した。動作終了に続いて、直ちにクライアントに聞こえない場所で、研究者はファシリテータに対して次のいずれかを行う。動作が何であったかを告げる(既知)、動作について何も情報を与えない(未知)、行っていない動作について告げる(偽情報)。次にセッションを開始し、ファシリテータは実験試行を通常の日常に組み込む。実験は、実験助手とともに行った動作をクライアントに尋ねることによって構成された。セッションには時間制限は設けなかった。各セッションでの試行数は、各ペアがどれぐらい早く試行を完了するかによって異なっていた(2〜12試行)。 <絵画フォーマット>実験中は、T字型スクリーンの両側にクライアントとファシリテータに見せる絵画カードを別々に置くか、またはマニラフォルダを使用してクライアントとファシリテータにそれぞれ個別に絵画を見せた。このセッションでは、クライアントが見た絵画が何であったかをタイプするように、ファシリテータがクライアントに求めた。セッションには時間の制限は設けない。既知条件では、クライアントとファシリテータに提示された絵画は同一である。未知条件では、絵画はクライアントのみに提示された。偽情報条件では、クライアントとファシリテータにはそれぞれ別個の絵画を提示した。各セッションでは、2-4枚の絵画による試行が実施された。 標的行動、記録、および信頼性 最も重要な標的行動は、実験中に行われるコミュニケーションの表現である(絵画の名前または動作の説明)。試行中に、ファシリテータはクライアントが質問に対する回答を完了したことを判断し、実験助手に言葉で報告した。実験助手は、報告された回答を記録した。参加者は永久的なタイプ結果を得られる電子装置を使用していないため、ファシリテータの報告を従属変数として使用した。ファシリテータは、不正確にスペルされた言葉を自由に解釈することができるが、これは電子装置を使用せずに実施されたセッションでは標準的技法であるため、ファシリテータの報告を従属変数として使用したものである。 各セッションにおいて、逃避、回避および不安などの行動は記録された。逃避または回避行動の定義としては、アルファベットボードから顔を背ける、ボードまたはファシリテータを押しやる、立ち上がるかセッションから立ち去る、ファシリテータに対する攻撃的な行動をとる、「いや」という意思またはその他の拒否の意思を言うか身振りで示す、叫ぶかまたはその他の混乱を示す動作などがある。不安行動の定義としては、顔をしかめる、浅いまたは速い呼吸、泣く、無意味な言葉の繰り返し、または無意味な動作の繰り返しなどがある。各被験者について、起こりうる逃避行動または回避行動、および不安行動は、個別にリストにした。実験助手は、各セッション中の逃避または回避および不安行動の回数を記録した。 セッションは観察者間の一致を評価するためにビデオテープに録画した。2人の観察者が、それぞれ実験の25%のテープからコミュニケーションの表現と、逃避または回避および不安行動を記録した。2人の観察者が同一の反応を記録した場合は、コミュニケーションの表現における一致を記録した。観察者が異なる反応を記録した場合、または一方の観察者が記録した反応をもう片方の観察者が記録しなかった場合は、不一致として記録した。観察者間ので意見が一致した割合(パーセント)は、不一致と一致の合計で一致を割った結果に100%を掛けて算出した。逃避または回避、および不安行動に関する観察者間の一致の割合(パーセント)は、識別された行動それぞれについて、少ない方の回数を多いほうの回数で割り、100%を掛けて算出した。観察者間の一致は、すべての対象行動について100%であった。 実験終了後、まだファシリテータに結果を知らせる前に、ファシリテータに対して質問表を渡し、FCセッション中にファシリテータ自身がどの程度コミュニケーションに影響を与えていると考えているかについて評価させた。この質問と回答をリストにしたものを表3に示す。 [表3のテキスト版]。 --------------------------------------------------------------------------------- 表3 ファシリテータによって記入された実験後の質問項目 1. クライアントと同じ絵画を見せられたときに、クライアントはどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 82.1% (範囲、 50-100%) 2. クライアントが見た絵画を、あなたが見ることができなかったときには、クライアントはどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 67.9% (範囲、 25-100%) 3. クライアントとは別の絵画をあなたが見せられたときには、クライアントはどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 60.7% (範囲、 25-100%) 4. 絵画について、クライアントは全体でどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 71.4% (範囲、 25-100%) 5. クライアントが行った動作について、あなたに情報が与えられたときには、クライアントはどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 78.6% (範囲、 50-100%) 6. クライアントの動作について、あなたに情報が与えられなかったときには、クライアントはどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 64.3% (範囲、 25-100%) 7. クライアントが行った動作について、別の動作を行ったということがあなたに告げられたときには、クライアントはどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 57.1% (範囲、 25-100%) 8. 動作について、クライアントは全体でどの程度の結果を出したと思いますか。 0% 25% 50% 75% 100% M = 57.1% (範囲、 25-100%) 9. クライアントの回答に対して、あなたはどの程度影響を与えていたと思いますか。 トータル クライアント イコール トータル ファシリテータ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 M = 3.4 (範囲、 1-6) --------------------------------------------------------------------------------- 結果 絵画フォーマットでの3つの条件(既知、未知、偽情報)の正しい回答のパーセンテージと、クライアント-ファシリテータのペアごとに実施した実験条件の順序を図1に示す。[図1のテキスト版]。[正しい回答のパーセンテージは、すべてのクライアントで既知の条件のときに高く、未知および偽情報の条件のときにゼロまたはほとんどゼロであった。別の面から言うと、すべてのファシリテータは、偽情報の条件のときに正解率が高かった(ペアがタイプした言葉は、ファシリテータが見た絵画に関してであった)。7組の被験者について、既知の条件のときに正しい回答が出された平均の割合は75%で、未知条件のときは0%、偽情報の条件のときは1.8%であった。偽情報の条件の試行のうち66% において、クライアントはファシリテータが見た絵画についてタイプした。未知または偽情報の条件では、何らかの正しい回答を出したのは7組のうち1組のみであった。Cindyは、偽情報の条件で1度正しい回答を出した。45回の試行の中で、7組のうち6組は絵画の名前をしぐさまたは音声によって表現した。 --------------------------------------------------------------------------------- 被験者 条件 Molly ファシリテータ 既知 未知 偽情報 偽情報 既知 未知 75 0 0 100* 0 100 100 0 Bob ファシリテータ 既知 未知 偽情報 偽情報 75 0 0 75 0 25 Kirk ファシリテータ 既知 未知 偽情報 既知 偽情報 未知 100 0 0 75 75 0 75 0 Kelli ファシリテータ 既知 偽情報 未知 偽情報 既知 未知 50 0 75 0 0 75 100 0 Brad ファシリテータ 既知 未知 偽情報 未知 偽情報 既知 75 0 0 100 0 0 100 100 Darren ファシリテータ 既知 偽情報 未知 偽情報 既知 未知 100 0 50 0 0 50 50 0 Cindy ファシリテータ 既知 偽情報 未知 未知 既知 偽情報 75 0 25 0 0 0 25 0 図1。すべての条件における、各被験者ごとの絵画フォーマット試行の正しい回答の割合。アスタリスクは、クライアントが見た絵画とは異なる絵画をファシリテータに見せたときに、ファシリテータが見た絵画の名前がタイプされた試行の割合を示す。 --------------------------------------------------------------------------------- 動作フォーマットにおける結果は、7組のペアすべてについて絵画フォーマットでの結果と同様であった(図2)。[図2のテキスト版]。既知の条件では、ほとんどの回答が正しかった。未知および偽情報の条件では、すべての回答は不正解であった。偽情報の条件では、ファシリテータに告げた動作についてタイプされる頻度が高かった。7組の被験者について、既知の条件のときに正しい回答が出された平均の割合は75%で、未知条件および偽情報の条件のときは0%であった。偽情報の条件での試行の80%で、クライアントはファシリテータにとって正しい動作をタイプした。13回の試行の中で、7組のうち5組は動作の名前をしぐさまたは音声によって表現した。 --------------------------------------------------------------------------------- 被験者 条件 Molly ファシリテータ 既知 未知 偽情報 未知 偽情報 既知 100 0 0 100* 0 0 100 100 Bob ファシリテータ 既知 未知 偽情報 偽情報 100 0 0 75 0 100 Kirk ファシリテータ 既知 偽情報 未知 未知 偽情報 既知 100 0 100 0 0 0 75 75 Kelli ファシリテータ 既知 未知 偽情報 既知 未知 偽情報 75 0 25 50 0 0 75 Brad ファシリテータ 既知 未知 偽情報 既知 未知 偽情報 75 0 0 100 100 0 0 100 Darren ファシリテータ 既知 未知 偽情報 未知 偽情報 既知 100 0 0 75 0 0 75 100 Cindy ファシリテータ 既知 未知 偽情報 偽情報 既知 未知 100 0 0 75 0 50 50 0 図2。すべての条件における、各被験者ごとの動作フォーマット試行の正しい回答の割合。アステリスクは、クライアントが経験した動作とは異なる動作がファシリテータに告げられた試行で、ファシリテータに告げた動作がタイプされた試行の割合を示す。 --------------------------------------------------------------------------------- 各被験者のエラーパターンを分析し、不正解の回答に完全な言葉、無反応、または解釈不可能なタイプ結果が含まれているかどうかを判断した。その結果、両方の形式において被験者の不正解の回答の90%は完全な言葉で、10%が部分的または完全に解釈不可能であることがわかった。 両方の条件による実験試行の18%で、7組のうち6組の被験者は絵画または動作を特定するために別のコミュニケーション方法を使用した。このコミュニケーション方法には、合図、音声、身振り、および指差しがあった。たとえば、あるクライアントは電話の絵を見せられたときに室内の電話を指差した。別のクライアントは、帽子の絵を見せられたときに自分の頭のてっぺんを軽く叩いた。その他のクライアントは、見せられたばかりの絵画、または経験したばかりの動作について合図するか、または絵の名前を言った。別のコミュニケーション方法による試行では、ファシリテータが別のコミュニケーションの反応を観察していたため、36%が繰り返された。 クライアントのうち、Bradのみが実験セッションの1回において不安動作を示した。セッションの直前に、抑制がなくなって大声で独り言を言い、セッション中は大声で叫んだ。 すべてのクライアントは、セッションを楽しんでいるように見受けられた。これは、実験助手に微笑や握手、抱擁などで挨拶していることを根拠とする。クライアントのうち逃避行動を示したのは2人のみである。Mollyは、動作フォーマット条件の試行で、回答するまでに約10分間を要した後、アルファベットボードを押しやったことが一度あった。Kirkは、絵画フォーマット条件において、自分の手を引き離すことで逃避行動を示すことが2回あった。これら2回の状況では、彼は別のことに気を取られており、炭酸飲料が欲しいと言い続けた。 質問表の結果は表3に示した。この結果からわかることは、絵画フォーマットおよび動作フォーマットの試行においてファシリテータが正しい答えを知っている場合のほうが、クライアントが良い結果を出すとファシリテータが評価しているということである。しかし、ファシリテータは偽情報および未知の条件の試行においても、少なからずクライアントが正しい答えを出すと評価している(平均 57%-71%)。最後にファシリテータは、セッション中ではクライアントによってコミュニケーションの大部分が制御されていると報告した。 ファシリテータおよびその他の施設のスタッフに調査結果が説明されたとき、彼らの反応はさまざまであった。実験に関する報告を受けたファシリテータは意見を表明しなかったが、表情は不信、驚き、または怒りを示唆するものであった。ファシリテータの反応がなかった理由として、報告会に施設の上層部の管理者が同席していたことが考えられる。あるグループホームのスタッフは、FCに関する彼らの意見に結果が一致していたとして安堵の意を表した。他のスタッフは、この結果が彼らのクライアントには当てはまらないとし、施設はFCの使用を停止するのではないかという懸念を表した。施設管理者は、この調査結果を受けて、FCが使用される頻度が低下したと報告した。 --------------------------------------------------------------------------------- 考察 この調査から、主な結論が3つ導出された。まず最初に、先行研究(例: Green, 1994)と同様に、どのようなコミュニケーションもFCを通してクライアントから得られなかった。クライアントがメッセージを綴っているのであれば、3つすべての条件において高い確率で正しい回答が得られるはずである。クライアントが絵画を認識していない、動作を覚えていない、または言葉を思い出すことが困難であるという仮説によって、この結果を説明することはできない。何人かのクライアントは、手話、身振り、または発語によって見た絵画や経験した動作をコミュニケートできた。事実、クライアントは多くの状況で、絵画および動作について正しい名前を言うか、または合図した(全試行の18%)。 2番目の結論は、ファシリテータがタイピングを制御しているということである。この結果も、先行研究(Green、1994)に一致している。ファシリテータによる制御が行われていることの最大の証拠は、偽情報の条件におけるファシリテータに知らせた絵画や動作との一致率が66%および80%であることである。FCを通じてタイプされた絵画または動作は、ファシリテータに見せられた絵画または動作と一致し、クライアントに見せられた絵画または動作と一致しなかった。しかし、すべてのファシリテータはクライアントがメッセージを綴っていることを信じていた。 ファシリテータによる制御について考察するときに興味深いことは、未知の条件では拒否率が23%であったことに対して、既知または偽情報の条件では拒否率が3%と7%であったことである。また、ファシリテータが絵画または動作について知らない未知の条件においては、ほとんどのペアで他の2つの条件のときよりも回答までの時間(潜時)が長かった。高い拒否率と長い潜時は、クライアント側の要因の結果ではないと思われる。なぜなら、クライアントはこれら3つの条件が区別不能であったからである。 3つ目の結論は、精神遅滞者にとってFCが有効なコミュニケーションでないのは、不安および回避行動のせいではないことである。320回の試行のうち、逃避または回避行動によって終了したのは3回だけ(1%)である。不安行動が示されたのは、1人のクライアントによる1回のみ(0.3%)である。これに加えて、既知条件における高い正解率(ベースライン)を考慮すると、(クライアントには条件が区別不能であったので)、不安または抵抗を他の条件における低い回答率の原因とすることもできない。 4つ目の結論は、動作と絵画に対する回答というシナリオにおいて、結果に違いがないことである。これは、クライアントが一般的な物体が描かれた絵画や身近な動作の説明の名前を綴る能力がないということを示唆する。しかし、7人のうち6人のクライアントは、手話、身振り、または発語によって絵画および動作のいくつかを識別した。 実験試行を実施するにあたり、いくつかの問題が発生した。動作フォーマットでは、実験制御を確立および維持することがより困難であった。これは、動作が行われている間、ファシリテータを遠ざけておく必要があったからである。また、セッション中に実験助手が動作の名前を5回言う必要があったため、使用する部屋を遮音するか、またはファシリテータを聴取距離外に置く必要があったからである。一組のクライアント-ファシリテータのペアは、動作が行われている間、クライアントからファシリテータを聴取可能な場所(目視可能な場所)に隔離することができなかったために、研究対象から除外した。 2つ目の問題は、前述したようにクライアントが絵画または動作を識別するために、別のコミュニケーション手段を用いたことである。実験助手は、クライアントが動作、手話、または発語を行うかどうかを注意深く観察し、クライアントのコミュニケーションがファシリテータに影響を与えた可能性のある場合は試行をやり直した。 最後に考察すべきは、偽情報の条件時に一度だけ正しい回答が得られたことをどのように説明するかである。実験試行における出来事が正しい回答の原因となった可能性がある。それ以前の試行で、ファシリテータ側の絵画をクライアントが掴み取ったために、実験助手がその試行を除外し、次の試行を実施するという事件があった。ランダムに絵画の順序を決めて提示していたために、クライアントが次に見る絵画が、偶然ファシリテータが前回の試行で見た絵画と同一であった可能性がある。したがって、このケースでは、クライアントによってコミュニケーションが行われているのか、またはファシリテータの影響を受けているかは判別できない。同様に、ファシリテータによって偶然に正解がタイプされたということもあり得る。 これらの結果とこれに先行する調査は、有力な意味を持つ。実験で得られたデータは、FCはコミュニケーションを拡大する場合の有効な手段ではないということを強く示唆しており、したがって使用すべきではない。データはこの点について明確であるが、FCは普及し続けており広く導入されている。FCを使用し続ける者にとって、今回の研究および先行研究の結果は次のような点を留意すべきである。 まず、FCを通じて行われたコミュニケーションは、音声または手話による別の手段によって実証する(Sundberg、1993)か、または実証研究において使用される実証手順を導入し、現在のFC使用者についてメッセージの出所を判別する必要がある。Biklen (1993b) によって示唆されているように、2人目のファシリテータが実証に参加すると、そのファシリテータは直前に行われたコミュニケーションの内容を確実に入手できなくなる(Borthwick、Morton、Biklen、および Crossley、1992)。 現在FCを使用している者に対する2つ目の注意点は、インフォームドコンセントに関してである。FCに関する研究支援が不足していることを考慮すると、FCは実験手順として扱うことが賢明である。したがって、クライアントおよび法的保護者には、FCに伴う影響に特有の危険性があることを知らせる必要がある。FCを使用することを許可しているすべての施設においても、その使用方法について具体的な手続きを定めておく必要がある。 現在FCを使用している者に対する3つ目の注意点は、他のコミュニケーション手段とともにFCを頻繁に使用している場合は、FCのみが有効であるとみなされていることに関係している。研究結果を考慮すると、FCを通して行うコミュニケーションを優先することによって、既存のコミュニケーション手段を無視することがあってはならない。 4つ目の注意点は、FCの使用者が得てきた利点についてである。障害をもつ人がFCの使用を開始することで、より正常な知能を持っていると信じる理由を介護者や家族に与え、中には生まれて初めて尊厳と尊敬を持って扱われたということがある。この実験的研究の結果を踏まえて、個々の治療チームはFCの使用を停止することを選択すべきであり、他のコミュニケーション補強手段を放棄してはならない。これに加えて施設は、FCの使用を停止した後も、スタッフメンバーが障害者を尊厳と尊敬を持って扱い続けることを保証する必要がある。 --------------------------------------------------------------------------------- 引用文献 Biklen, D. (1990). Communication unbound: Autism and praxis.Harvard Educational Review, 60, 291-315. Biklen, D. (1992, January). Typing to talk: Facilitated communication.American Journal of Speech and Language Pathology, pp. 15-17. Biklen, D. (1993a).Communication unbound: How facilitated communication is challenging traditional views of autism and ability-disability. New York: Teachers College Press. Biklen, D. (1993b). Notes on validation studies of facilitated communication.Facilitated Communication in Maine, 2, 2-4. Biklen, D. (1993c). Questions and answers about facilitated communication.Facilitated Communication Digest, 2, 10-14. Biklen, D., & Schubert, A. (1991). New words: The communication of students with autism.Remedial and Special Education, 12, 46-57. Borthwick, C., Morton, M., Biklen, D., & Crossley, R. (1992). Severe communication impairment, facilitated communication, and disclosures of abuse. In M. Shevin & L. Toutges (Eds.), Facilitated communication: Advanced topics(pp.81-89). Fargo, ND: Friendship Incorporated. Crossley, R. (1992). Getting the words out: Case studies in facilitated communication training.Topics in Language Disorders, 12, 46-59. Crossley, R. (1993). Facilitated communication: Some further thoughts.Communicating Together, 11, 14- 16. Cummins, R. A., & Prior, M. P. (1992). Autism and assisted communication: A response to Biklen.Harvard Educational Review, 62, 228-241 Dillon, K. M. (1993). Facilitated communication, autism, ouija. Skeptical Inquirer. 17, 281-287. Duchan, J. F. (1993). Issues raised by facilitated communication for theorizing and research on autism. Journal of Speech and Hearing Research, 36, 1108- 1119. Green, G. (1993). Response to "What is the balance of proof for or against facilitated communication?"AAMR News & Notes, 6 (3), 5. Green, G. (1994). The quality of the evidence. In H. C. Shane (Ed.), Facilitated communication: The clinical and social phenomenon(pp. 157-225). San Diego: Singular Press. Green, G., & Shane, H. C. (1993). Facilitated communication: The claims vs. the evidence.Harvard Mental Health Letter, 10, 4-5. Green, G., & Shane, H. C. (1994). Science, reason, and facilitated communication.Journal of the Association for Persons with Severe Handicaps, 19, 151-172. Hudson, A., Melita, B., & Arnold, N. (1993). Assessing the validity of facilitated communication: A case study.Journal of Autism and Developmental Disorders, 1, 165-173. Jacobson, J. W., & Mulick, J. A. (1992). Speak for yourself, or ... I can't quite put my finger on it!Psychology in Mental Retardation and Developmental Disabilities, 17, 3-7. Moore, S., Donovan, B., & Hudson, A. (1993). Facilitator-suggested conversational evaluation of facilitated communication.Journal of Autism and Developmental Disorders, 23, 541-551. Moore, S., Donovan, B., Hudson, A., Dykstra, J., & Lawrence, J. (1993). Evaluation of facilitated communication: Eight case studies.Journal of Autism and Developmental Disorders, 23, 531-539. Mulick, J. A., Jacobson, J. W., & Kobe, R. H. (1992). Anguished silence and helping hands: Miracles in autism with facilitated communication.Skeptical Inquirer, 17, 270-280. Prior, M., & Cummins, R. (1992). Questions about facilitated communication and autism.Journal of Autism and Developmental Disorders, 22, 331-337. Regal, R. A., Rooney, J. R., & Wandas, T. (1994). Facilitated communication: An experimental evaluation.Journal of Autism and Developmental Disorders, 24, 345-355. Simon, E. W., Toll, D. M., & Whitehair, P. M. (in press). A naturalistic approach to the validation of facilitated communication.Journal of Autism and Developmental Disorders. Sundberg, M. L. (1993). Selecting a response form for nonverbal persons: Facilitated communication, pointing systems, or sign language?The Analysis of Verbal Behavior, 11, 99-116. Thompson, T. (1993). A reign of error: Facilitated communication.Kennedy Center News, 22, 3-5. Vazquez, C. (1994). A multi-task controlled evaluation of facilitated communication.Journal of Autism and Developmental Disorders, 24, 369- 379. Wheeler, D. L., Jacobson, J. W., Paglieri, R. A., & Schwartz, A. A. (1993). An experimental assessment of facilitated communication.Mental Retardation, 31, 49-60 Received August 8, 1994 Initial editorial decision September 20, 1994 Revisions received October 31, 1994; November 14, 1994 Accepted January 2, 1995 Action Editor, Rob Horner