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自閉症児における聴覚統合訓練とファシリテイテッド・コミュニケーション

米国小児科学会

障害児委員会

この声明は自閉症に対する2つの新しい治療法−聴覚統合訓練とファシリテイテッド・コミュニケーション−の根拠を展望したものである。どちらの治療法もコミュニケーション技能の改善を求めるものである。現時点の知見では、これらの治療法が有効とする支持者たちの主張は裏付けられていない。これらの療法を用いることは、研究用手順の範囲内を除いては、現時点では正当な理由があるとされない。

(聴覚統合訓練へのコメントがここに段落4つ分あるが、検証中にて現在は省略:サイト管理者)

ファシリテイテッド・コミュニケーション(以下FC)は、発話のない人がタイプライター、コンピュータのキーボード、またはその他のコミュニケーション器具を使って言葉を綴っていくことを助ける手法である。対象者が伝えたい文章を作り上げるために次々と文字を選んでいくことが容易になるよう、FCでは対象者の手を補助する。訓練されたファシリテーターによって手を補助することは、重度知的障害者や自閉症を含めた幅広い人々に言語表現能力を与えることができると主張されている。Jacobsonらによれば、当初、FCは身体に障害のある人々を介助するために利用されていたが、1989年にはBiklenによってアメリカにもたらされた。Biklenによると、この方法は、しばしば予期せぬ識字能力を生み出し、「無言の人の中に閉じこめられていた」通常あるいはそれ以上の知性やコミュニケーション能力を表面化するという。FCは拡大する論争の渦中にある。つまり、いくつかの科学的研究の示唆するところによると、ファシリテーターが無意識のうちにコミュニケーションに影響を及ぼしており、それはひょっとするとファシリテーター自身が実際に言葉を選ぶという程度にまで至るということである。しかし支持者達は、FCの使用を促した一連の非実験的報告をあげて、FCの有用性を検証するために厳密な科学的手法を用いることは非倫理的であると示唆している。

Jacobsonらによって展望されたように、FCは多くの統制された研究の対象とされているが、それらの研究は一貫して否定的な結果になっており、この手法には確かな再現性も妥当性もないことが示されている。研究に用いられた手法には、単一または二重盲検法、繰り返し測定と自己制御、あるいはファシリテーターが予備的知識を持たないメッセージを伝えるなどの手法が含まれている。

例えばSmithらは10人の自閉症児を対象として、ファシリテーターの影響と補助の程度がFCの結果に与える効果について調査した。各対象者は6回のセッションを受けた。2回は補助を用いず、2回は部分的補助を行い、あとの2回は完全な補助の下に行った。その結果、ファシリテーターが正しい応答を知らないセッションで対象者が正しく応答できたケースは一例もなかった。さらに、対象者によってタイプされた数多くの反応は、ファシリテーターのみに示され、対象者には示されなかった刺激にに対するものでった。同様の結果がRegalらやEberlinらによって得られている。

最近発表されたCardinalらによる研究は、経験豊かなFC使用者が不慣れなファシリテーターに対してひとつの単語を伝える能力を確認しようと試みた。彼らは、この能力は実験課題を長期的に練習して初めて産まれるものであり、また長期的な練習の後であっても、応答には多くの齟齬があることを見いだした。さらなる研究、とりわけ対象者のコミュニケーションからファシリテーターの影響をはっきりと分離する方法の開発が必要であると彼らは示唆している。

こうした証拠にも関わらず、自閉症やその他の障害を持つ小児や成人にFCの利用を推奨し、支援するだけでなく、FCの技術移転を促進するガイドラインまで発行している州がいくつかある。この代替療法にはさまざまな全国メディアの注目が集まっており、多くの両親たちが、子供のためにこの選択肢を探ることに関心を持っている。なぜなら、子供の「隠された才能」を解放するという魅力は、FCを始める強力な動機付けになるからである。

FC使用におけるやっかいな点の一つは、FCによって対象者から得られた情報に基づき第三者に対する虐待(特に性的虐待)の告発が行われることである。そうした告発の妥当性に反論できない家族には悪い評判が立ち、極めて好ましくない結果がもたらされてきた。教師や小児科医は、児童虐待が疑われる場合にそれを報告する法的責任を持つため、その報告の信頼性が非常に疑わしいと思われる場合でもこの責任を果たす義務が生じる。Margolinは 50件以上のそのような告発が法的手続きに入ったものの、大部分は裁判となる以前に終了したと述べている。FCが実践者にもたらすこの倫理的ジレンマについては、Jacobsonらが展望している。

勧         告

聴覚統合療法(AIT)とFCは、自閉症やその他の疾患に対する、議論の多い治療の選択肢である。2つの研究はAITが自閉症児の一部には有用かもしれないとしているが、その使用を支持するにたるだけの統制された研究はまだない。FCに関しては、これが無効であることを示す、科学的に十分なデータが存在する。その上、前述のように、いわれなき虐待の告発がFCを用いることで起こるといった、有害な可能性が存在する。こうした治療を求めるために、多くの家族が相当な費用を必要とし、行動的・教育的介入により生産的に使えたであろう時間と資源を無駄にすることになる。議論が多い、あるいは証明されていない治療法を家族が考えているときには、小児科医は情報の入手法とその評価について、家族に指導と援助を提供すべきである。小児科医は、子供の健康と安全、そしてその家族の財政的、心情的資源が最善の状態で確保されるようにしなければならない。小児科医にとって、AITとFCについての入手しうる限りの最新データを得ておくことが重要である。さらなる情報が出るまで、これらの治療法の使用は、研究用手順の範囲内を除いては、現時点では正当であるとされない。慢性疾患や障害のある子供のために代替医療を選ぶ家族とどのように対話するかといった知識も文献で入手可能である。

COMMITTEE ON CHILDREN WITH DISABILITIES, 1998 TO 1999
Philip R. Ziring, MD, Chairperson
Dana Brazdziunas, MD
W. Carl Cooley, MD
Theodore A. Kastner, MD
Marian E. Kummer, MD
Lilliam Gonz疝ez de Pijem, MD
Richard D. Quint, MD, MPH
Elizabeth S. Ruppert, MD
Adrian D. Sandler, MD
 
LIAISON REPRESENTATIVES
William C. Anderson
    Social Security Administration
Polly Arango
    Family Voices
Paul Burgan, MD, PhD
    Social Security Administration
Connie Garner, RN, MSN, EdD
    United States Department of Education
Merle McPherson, MD
    Maternal and Child Health Bureau
Marshalyn Yeargin-Allsopp, MD
    Centers for Disease Control and Prevention
 
SECTION LIAISONS
Chris P. Johnson, MEd, MD
    Section on Children With Disabilities
Lani S. M. Wheeler, MD
    Section on School Health
 
CONSULTANT
Renee C. Wachtel, MD

REFERENCES

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The recommendations in this statement do not indicate an exclusive course of treatment or serve as a standard of medical care. Variations, taking into account individual circumstances, may be appropriate.

Copyright ゥ 1998 by the American Academy of Pediatrics.

No part of this statement may be reproduced in any form or by any means without prior written permission from the American Academy of Pediatrics except for one copy for personal use.

a Although there are several AIT methods, this statement addresses that which Berard introduced, for it is the only one that has been studied scientifically.


原文:Auditory Integration Training and Facilitated Communication for Autism (RE9752) (American Academy of Pediatrics)
翻訳:chami
初出サイト:Facilitated Communication と Doman Method 海外文献翻訳資料集
掲載者:「奇跡の詩人」検証文献翻訳班@2ちゃんねる
更新履歴:2002年6月6日 初出

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