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宅地建物取引業法

「宅地建物取引業法は、その業を営むものに、免許を与えることにより関係法規の遵守をうながし、宅地建物取引業の健全化を図り、結果的に消費者を保護することを目的としてます」(「【読者の声】都市計画法、建築基準法、宅地建物取引業法の精神とは」司法ジャーナル2005年08月29日号)。

「宅建業法は、重要な事項は入居者に事前説明するよう業者に義務づけており、違反した場合は営業停止や免許取り消しなど行政処分の対象となる」(「東京都がヒューザー専務らを聴取 宅建業法違反の疑い」朝日新聞2005年12月15日)。

宅建業法47条では業務に関する禁止事項を定めており、違反した宅建業者には刑事罰も科せられる。故意に事実を説明しなかった場合は免許取り消し等の行政処分となる他、一年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科される。

(業務に関する禁止事項)
第四十七条
 宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 重要な事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
二 不当に高額の報酬を要求する行為
三 手附について貸付けその他信用の供与をすることにより契約の締結を誘引する行為

第八十条
 第四十七条の規定に違反して同条第一号又は第二号に掲げる行為をした者は、一年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

国土交通省は2006年度から耐震診断やアスベスト(石綿)検査の実施有無や結果を重要事項の説明事項に加える。宅建業法施工規則を改正する。アスベスト健康被害や耐震強度偽装が発覚したことから、契約時の説明を徹底する必要があると判断した(「住宅の耐震・石綿検査結果売買時に説明義務化」朝日新聞2006年1月10日)。

裁判例

取引対象土地の近辺の眺望、建築計画を知っていながら、買主に告げない場合には注意義務違反の責任を問われる。これは調査義務ではなく、知っていたのに言わなかったという問題である。尚、住居に住めない(生活できない)と認められる事情や建物の歴史的経緯(以前の住人が家で自殺した等)がある場合は瑕疵担保責任が認められる。

「マンションの場合には、室内での自殺などのできごとがあったことは、住まいとしてのマンションの品質にかかわるものである」(村千鶴子、Q&Aケースでわかる市民のための消費者契約法、中央経済社、2001年、73頁)。

名古屋地裁昭和59年2月10日「宅建業者が、土地の売買の仲介をするにあたり、買主がゴルフ場用地とする目的で取得することを知りながら、同地に特別高圧送電のための鉄塔の建設の予定があることを買主に告知しないのは、仲介業務上の注意義務を怠ったものである」

松山地裁平成10年5月11日「土地の売主である宅建業者が南側隣接地に高架道路を建設する計画があることを知りながら買主にその事実を説明しなかったことは、重大な契約上の義務違反であるとして、土地及び建物の減価額と精神的損害につき、損害賠償請求が認容された」

東京地判平成11年2月25日判例時報1676号71頁「マンションの南側隣接地に建物を建築する計画は、マンション購入の意思決定に重要な意義を持つ事項であり、マンションを分譲販売する宅建業者は、売買契約に付随する義務として、右計画を購入者に告知すべき義務を負う」

二条城事件

青田売りのマンションで、眺望についての説明義務違反による契約解除が認められた事例である。新聞でも報道された(「青田売りマンション説明義務「実物見たのと同程度に」」朝日新聞2000年10月30日)。原告は京都でマンション(京都市中京区、七階建て)を購入した大学教員である。

原告は1994年10月にモデルルームを訪れ、マンションからの眺望に惹かれ、六階部分の一室(3LDK、約64平米)を契約した。価格は4560万円で、手付金460万円を支払った。

配布されたパンフレットには「二条城の見える住戸が六戸ある」と記載されており、当該居室はそれに含まれていた。また、原告は「隣に五階建ての建物があるが、六階の居室を購入すれば、視界を遮るものはなく二条城を見ることができるか」と確認していた。これに対し、販売担当者は「窓から二条城が見える」と回答した。

しかし、完成後の95年7月に開かれた内覧会で、窓の正面に、隣接する五階建てビルの冷却塔(クーリングタワー)があるため、二条城はほとんど見えず、騒音も大きいことに気付いた。その日のうちに契約解除を求めたが、不動産会社側は契約違反を主張し、手付金の返還を拒否した。

原告は二条城への眺望を得られるものとして契約したのだから、契約の目的が達せられないとして、契約違反に基づく売買契約の解除、それに伴う手付金の返還並びに、損害賠償を求めて京都地裁に提訴した。一審判決は眺望に関する説明の不正確さを認定したが、原告の請求は棄却した。原告はこれを不服として控訴した。

高裁判決(大阪高判平成11年9月17日判例タイムズ1051号286頁、判例タイムズ1068号96頁、井関正裕裁判長)は、完成前のマンションの売買においては「購入希望者は現物を見ることができないから、売主はその実物を見聞できたのと同程度にまで説明する義務がある」と説明義務の判断基準を示した。売主の説明がその後に完成したマンションの状況と一致せず、その条件であるならば買主は契約を締結しなかったと認められる場合には「買い主は売買契約を解除することができる」とする。

眺望権に対する主張についても、「マンションの売買において、眺望は重視される要素。契約においては目的の物が主観的な好みや必要に応じているかどうかは極めて重要」と認めた。売主には「窓等からの視界を遮るものがあるか、ないかについて調査、確認して正確な情報を提供する義務があった」とした。そして説明義務違反として、手付金等の変換及び精神的苦痛に対する慰謝料30万円の支払を命じた。被告は最高裁に上告受理申立てをしたが、却下された(2000年9月26日)。これにより原告勝訴が確定した。

「営業マンは、買い主が二条城への眺望を重視して、本件居室を購入する動機としていることを認識していたわけですから、「青田売り」販売する者として、バルコニーや窓からの視界を遮るものがあるかどうかを調査確認して、正確な情報を提供する義務があったといわざるを得ません」(平賀功一「営業マンの説明が不十分だった(?) 未完成マンション契約時の盲点」All About 2005年9月25日)。

住友不動産事件

分譲マンション(札幌市中央区南1東3)の高層階物件を購入した住民ら三人が、同じ会社の別のマンションで眺望権が侵害されたとし、住友不動産と住友不動産販売に計約2000万円の損害賠償を求めた事案である。原告は「新マンションの建築の情報を知らずに購入した。被告側は計画を隠していた」「購入したマンションを建築・分譲した業者が、眺望を侵害する別のマンションを建てたのは信義に反する」と主張した。

札幌地裁は住友不動産に計225万円の賠償を命じた(平成12年3月31日判決、川口泰司裁判官)。「新マンション建築により視界の一部がさえぎられた。高層階の購入動機は眺望に重きを置いている」「住友不動産は建築した者として、眺望を害しないよう配慮する義務がある。眺望権が損なわれたとする原告の怒りも容易に想像できる」と指摘する。

住民らは住友不動産販売からセールスポイントとして「眺望の良さ」を強調され、15階建てマンションの13、14階の物件を2001年11月までに購入契約を締結した。販売時には「ベランダから花火が見える」とも説明された。原告の一人、斉藤正也氏は、当初、四階を申し込んだが、営業担当者から「眺望がすばらしい」と勧誘され、435万円高い13階の部屋を購入した(「眺望PRしておいて…南側にマンション建設 住友不動産に賠償命令」読売新聞2004年4月1日)。入居当初、景色を遮るものはなく、山並みも見渡せた。

しかし、一年半後にはその眺望は一変した。2002年6月頃、住友不動産と住友不動産販売はマンションの約57メートル南に15階建てマンションを分譲販売する計画を表明し、2003年12月に完成した(「225万円の賠償命じる/眺望権の侵害認める」北海道日刊スポーツ2004年3月31日、「札幌のマンション、眺望権で賠償命令」日本経済新聞夕刊2004年3月31日)。

原告らは反対の会を作り、住友不動産に対して計画の変更などを申し入れたが全く受け入れられなかった。新マンション建築で、居間からの視界中に新マンションが入るようになってしまった。原告の一人、斉藤氏は「見晴らし良いということで入居したのに、同じ会社がそれを否定した。絶対許せない」と語る。

判決について、斉藤氏は「主張が認められた点は評価したいが、金額には不満が残る。被告は住民に対し、謝罪すべきだ」と語る(「眺望遮るマンション 「信義違反」と賠償命令」朝日新聞2004年4月1日)。原告代理人の高橋智弁護士は「マンションを買うときは現物が無く販売業者の信用があるから大金で予約する。企業のあり方が問われた」と語る(「眺望で売ったのに眺望破壊」しんぶん赤旗2004年4月1日)。

シックハウスでマンション売買契約解除

購入したマンションがシックハウスになっているため居住できないとして、購入者の夫婦が販売会社のベル・アンド・ウイング(東京都港区)を相手取り、購入代金など計約5631万円の支払いを求めた訴訟の判決が東京地裁(杉浦正樹裁判官)であった(2005年12月5日)。

裁判所は、シックハウスの原因となるホルムアルデヒドの濃度が竣工直後に厚生労働省の指針値を相当超えていた可能性があるとして、販売会社に購入代金など約4791万円の返還を命じた。原告側代理人の米川長平弁護士は、シックハウスを理由としてマンションの売買契約解除を認めた判決は初めてと話す(「シックハウスでマンション売買契約解除の初判決」建設総合サイトKEN-Platz 2005年12月8日)。

夫婦は2002年7月27日、東京都台東区の新築マンションを4350万円で購入する売買契約を、販売会社と結んだ。夫婦は2003年5月29日に引き渡しを受け、7月15日に家具を搬入した。、しかし頭痛などがして住むことができなかった。1カ月あまりで新居を退去した。妻には目がちかちかするなどの症状が出て、シックハウス症候群と診断された。

夫婦の依頼で台東保健所が7月25日、簡易測定器を使って室内空気環境を測定した。その結果、玄関側洋室でホルムアルデヒドの濃度が0.43ppmになるなど、厚労省指針値の0.08ppm(=100μg/m3)を超えていた。夫婦は8月22日に建物を空室にして、同月26日付で契約解除の意思表示を販売会社に通告した。

マンション販売時の新聞折り込みチラシとパンフレットには、「ホルムアルデヒドの放散量が少ない建材を使っている」と記載されていた(武本光政「<シックハウス>マンションの売買代金返還命令 東京地裁」毎日新聞2005年12月5日)。夫婦はこのチラシなどを検討の上、マンションを購入した。夫婦は、実際の建物ではホルムアルデヒドが放散しておりシックハウス対策が不十分と主張。健康を害し、居住に適さないから瑕疵があると訴えた。裁判所鑑定人は入居から1年後の室内濃度を実測し、「入居時は指針値より相当高かったと考えられる」とする報告書を提出した。

判決は「引き渡し時に、シックハウスの原因となるホルムアルデヒド濃度が厚生省(当時)指針値を相当程度超える水準にあった」と認定した(「シックハウスで賠償命令 契約解除認め4800万円」共同通信2005年12月5日)。「ホルムアルデヒド(シックハウスの原因物質)の濃度が、国の指針値を相当程度超えていたと見られ、建物の品質に欠陥がある」(「シックハウスで住めず、売り主に4700万賠償命令」読売新聞2005年12月5日)。

売り主の瑕疵担保責任に基づき、購入費用4350万円のほか、キッチンなどの追加費用約176万円、諸費用約73万円、ローン諸費用約92万円、支払い済みの管理費と修繕積立金約16万円、移転費用約8万円、ローン利息約74万円を含め、計約4791万円の損害賠償を認めた。

本判決ではホルムアルデヒド濃度の実測値からシックハウス対応をうたった売買契約自体の瑕疵を認めた点が特徴である。原告側の健康被害そのものは大きな問題としていない。たとえ現在のシックハウス規制に従って建築したとしても、実測値が指針値を上回れば、被害者に対する賠償責任を負わなければならない。「法律を守っているから」という抗弁は最早通用しない(「住宅事件簿」日経ホームビルダー2006年4月号)。

眺望阻害を理由とする新築マンションの無条件解約

新築マンションの南側に超高層のオフィスビルが建築されることを理由に、事業主と販売会社が契約の無条件解約に応じることを決めた。裁判などを介さず自主的にマンション事業者が無条件で解約に応じた例は少ない。時代の流れが業者の利益偏重から消費者重視に映りつつあることを示している。

解約の対象となったマンションは「プラネ・ルネ スプリングスタワー大阪」(大阪市中央区)。高さ約120m、35階建てのマンションで、2006年2月から住民が入居する予定であった。事業主は新星和不動産(大阪市)と総合地所(東京都港区)で、販売会社は住友不動産販売(東京都新宿区)である。

パンフレットでは「ときめきと感動が高まる、天空のアドレス」と、眺望の魅力をアピールしていた。2004年2月に販売を始め、2005年3月までに分譲価格1800万〜9900万円台の全269戸を契約、完売した。

2005年10月になってスプリングスタワー大阪の真南約30mに高さ91m、地上20階建ての高層ビル計画が持ち上がった。複写機メーカーの京セラミタ(大阪市)が、敷地内の駐車場に技術研究所の建設を決めた。京セラミタは星和不動産を通じて住民に連絡した。着工は2006年4月で、完成予定は2008年2月である。ビル北面に窓を設けず入居者のプライバシーに配慮するものの、マンション35階のうち28階部分までが、わずか約30mの距離にあるビルの壁で眺望を遮られることになる。大阪平野を見下ろす絶好の眺望を楽しめる筈が一転してビルの壁に遮られることになる。

京セラミタによると、2003年春にマンション計画を知った段階で、事業者側に「将来新社屋を建てるかもしれないし、建てないかもしれないが、購入希望者に伝えてほしい」と申し入れた(「眺望「台無し」 新築の超高層住宅、真南にビル計画」朝日新聞2006年1月20日)。しかし事業者は重要事項説明書に「南側が将来的に開発行為・建物建築の可能性があります」と記載するだけで、京セラミタの依頼内容を購入者に伝えなかった。

購入者の一部が、新星和不動産らに無条件の解約や分譲価格の値引きを求めていた。契約者は「契約直前の重要事項にあいまいな表現でビル建設の可能性を記しただけで、説明不足だ」「想定していた住環境が変わったのだから、値引きなど契約条件の変更に応じるべきだ」と主張する。大阪府守口市内の契約者の無職男性は「契約時にビルが建つのを知っていたら買わなかった」と憤る。

事業者側の説明会(2006年1月17日)には約170人が集まり、手付金などの返還を条件にした解約や購入費の値引きを求めた。「販売は適正に行われた」と譲歩の構えを見せない事業者側に「誠意を見せろ」と怒号が飛ぶ中、とりあえず代金の支払期限を当初の2月2日から約二週間延ばし、今後も話し合いを続けることになった。

2006年1月22日、三社は購入者に対して1月末までに解約すれば、購入費用を返金すると申し出た。事業者側の説明会で、事業者側は契約者に「ご回答」と題した文書を配布した。「私どもがご返事できるギリギリのご回答」として、1月末までに解約する契約者に対し、全額返金の方針を伝えた。返金額には購入者の要望に基づく設計変更に要した費用や手付金、契約に伴う印紙代も含む。

無条件解約を提案した理由について、新星和不動産のマンション事業部は、「早期に解決するために、法令を踏み越えて判断した」とする(「眺望阻害を理由に新築マンションの無条件解約に応じる」建設総合サイトKEN-Platz 2006年1月26日)。「早期解決の観点から最大の誠意を示した」(「新築マンション南にビル計画 無条件解約を業者が容認」朝日新聞2006年1月23日)。

「プラネ・ルネ スプリングスタワー大阪」の事業者は、隣地所有者である京セラミタの依頼内容(将来新社屋を建てるかもしれないし、建てないかもしれないが、購入希望者に伝えてほしい)を購入検討者に説明しなかった。購入者が騙されたと激怒するのは当然である。事業者が無条件解約に応じたのも消費者重視の流れからは自然である。世の中の動きに鈍感な企業は早かれ遅かれ廃れることになる。

ローレルコート難波住民、近鉄不動産を義務違反で提訴

「生駒山を望む」と、眺望の良さをPRして大阪・JR難波駅前の超高層マンション「ローレルコート難波」(28階建て)を分譲した近鉄不動産が、4年後の2005年秋、約80メートル東に11階分高い別のマンション「ローレルタワー難波」(39階建て)を建てた。

「眺望の変化については事前に承諾をいただいている」と同社側は主張するが、視界を遮られて生駒山を楽しめなくなったとして、住民5人が近く、慰謝料など各750万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こす。都心部で超高層の集合住宅建築が相次ぐなか、「兄弟マンション」を巡る眺望論争が注目を集めそうだ。

訴状によると、住民は2001年6−10月、近鉄不動産が分譲したローレルコート難波の21-26階に入居。パンフレットには「生駒山を間近に望む眺望」「早起きしたくなる朝の眺めが自慢です」と記載されていた。「大阪シティエアターミナルビル」を挟む東側の土地は開発前だったが、系列の販売会社側から「低層商業施設が建つ。眺望は遮られない」と言われたという。

ところが、近鉄不動産側は2003年6月、ローレルコート難波管理組合にローレルタワー難波建設計画を発表。一部住民が抗議したが、「パンフレットには良い情報しか載せないもの。適法な建築物なので問題ない」と開き直った。ローレルコート難波の重要事項説明書では、購入者の承諾事項として「中高層建築物が建設され、眺望や日照条件などが変化する場合がある」とされていた。

ローレルタワー難波は2005年10月に完成。原告側は「眺望が重要な購入動機だったのに、生駒山から昇る朝日が見えなくなった」と訴える。「近鉄不動産は、売り主として眺望やプライバシーに配慮する義務があるのにローレルタワー難波を建築販売し、その義務に反した」と主張する(「山望むマンション前、同じ業者が超高層…法廷争いに」読売新聞2006年4月13日)。

ローレルコート難波住民は近鉄不動産から、眺望という価値のある住戸、付加価値分高額で部屋を購入した。しかし近鉄不動産は前に販売したのと同じ眺望という商品を、前の客を犠牲にして、僅か数年後に別の客に販売した。ローレルコート難波住民が怒るのは当然である。不動産業者が眺望に値を付け一旦高額の利益を得ながら、更に別の客から利益を得るのは利益の二重取りである。

取引主任者

事務所毎に業務に従事する者5名に1名以上の成年者である専任の取引主任者を設置しなくてはならない。契約を締結する案内所等では少なくとも1名以上の成年者である専任の取引主任者を設置しなくてはならない。不動産取引においては、沢山の法律的問題が関わってくる。そこで消費者の利益を守るために法律を知った人間を不動産屋に置くことにした。業務に従事する者とは営業職だけでなく、一般管理部門や補助的な事務に従事する者も含まれるが、非常勤の者や監査役は含まれない。専任の取引主任者は成年者でなければならない。婚姻をした未成年者は成年者とみなされる。専任とは常勤していることが必要。よって、パート等で雇われている者は専任にはなれない。

宅建業者又は宅建業者役員が取引主任者である場合、その者が主として業務に従事する事務所等おいて専任の取引主任者とみなされる。取締役や支店長も専任の取引主任者とみなされる。監査役は専任の取引主任者にみなされない。専任の取引主任者の数が不足したら、2週間以内に新しい主任者を補充する。2週間経っても依然不足の状態では、督処分として業務停止処分(情状が特に重いときには免許取消処分)、罰則として30万円以下の罰金。

変更の登録

宅地建物取引主任者の登録をすれば、資格登録簿に登載される。以下が宅地建物取引主任者資格登録簿の内容。1, 氏名・生年月日・本籍・住所。2, 試験合格年月日・合格証書番号。3, 2年以上の実務経験を有する者である場合。4, 勤務先の宅建業者の商号・名称・免許証番号。5, 指示処分または事務禁止処分を受けたときはその内容・年月日。

記主任者資格登録簿内容の1〜4の登録事項に変更が生じた場合は、遅滞なく変更の登録をしなければならない。氏名・住所が変わったときは変更の登録申請と併せて、取引主任者証の書換え交付申請をしなければならない。業者名簿の変更は30日以内に変更の届出、主任者資格登録簿の変更は遅滞なく変更の登録を行う。

宅地建物取引主任者が以下の事由に該当する場合は、届出人は30日以内(死亡の時は相続人が事実を知ってから30日以内)に知事に届出をしなければならない。
宅地建物取引主任者が死亡した場合は、相続人が届出義務者。
宅地建物取引主任者が成年者と同一の能力を有しない未成年者となった場合、破産、不正の手段により免許を受けたこと等により免許を取り消された場合、禁固以上の刑に処せられた場合、宅建業法違反又は暴力行為等により罰金刑に処せられた場合、免許の処分に係る聴聞の期日及び場所が公示された後、相当の理由なく、廃業届を行った場合は本人が届出義務者。
宅地建物取引主任者が成年被後見人となった場合は、 成年後見人が届出義務者。
宅地建物取引主任者が被保佐人となった場合は、保佐人が届出義務者。

主任者登録の欠格事由

主任者の欠格事由と業者免許の欠格事由はほとんど同じだが、注意すべき点は未成年者の扱い。取引主任者の登録基準では未成年者であること自体が欠格事由となる。例外的に婚姻した未成年者、法定代理人から営業許可を受けた未成年者は登録可能とされている。成年とみなされているからである。

宅地建物取引主任者の職務

重要事項説明及び重要事項説明書に記名・押印と契約書(37条書面)に記名・押印である。宅建業者は、契約をする前の段階で、「物件を買おう」または「借りよう」としている者に契約をするか否かの判断材料を提供するために物件の情報を提供する必要がある。それが重要事項説明である。消費者は不動産の知識に関しては無知に等しい。そこで、消費者に取引不動産についてしっかりと説明する義務が課されている。

説明義務者(説明しなければならない者)は取引主任者だが、専任、一般は問わない。従ってパート、アルバイトでも可能。パート・アルバイトは、専任の取引主任者になることはできないが、主任者として重要事項説明はできる。売主や貸主には説明の必要はなく、買主や借主あるいは交換の場合の両当 事者に説明しなければならない。重要事項説明は、契約が締結される前に行う。契約を締結するか否かの判断材料を提供する趣旨だから当然に契約締結の前に説明する必要がある。

取引主任者が書面化し、取引主任者の記名押印の後、その書面を交付して説明する。説明の際には、相手方の要求がなくとも取引主任者証を提示する義務がある。重要事項説明での取引主任者証の提示義務に違反した場合は、監督処分として指示処分、罰則として10万円以下の過料となる。重要事項説明は場所については特に定めがないので、業者の事務所以外でも説明することができる。媒介にあたって複数の業者がいるときは、そのすべての業者の主任者が記名、押印しなければならず、また全ての業者の取引主任者によって説明させる義務があめ。

説明が義務づけられている重要事項

全ての契約において必要な事項は以下の通りである。
1、飲用水・電気・ガスの供給施設や排水施設の整備状況。
2、登記簿上の権利関係登記された権利(所有権、地上権、抵当権、賃借権等)の種類、内容、ならびに登記名義人または登記簿の表題部に記載された所有者について説明しなければならない。
3、法令上の制限。都市計画法、建築基準法、国土利用計画法等による規制について説明しなければならない。契約が売買・交換契約であるか、貸借契約であるか、目的物が宅地か建物かによって説明事項が異なる。
4、代金・交換差金および借賃以外の授受される金銭の額・目的。「…以外の授受される金銭」とは、申し込み証拠金・手付金・権利金・敷金・保証金等のこと。
5、契約の解除に関する事項。どのような時に契約解除できるのか、その手続き・解除した場合の効果等について説明する。もし定めがなければ「なし」と記載しなければならない。
6、損害賠償の予定、違約金の関する事項。
7、手付金等の保全措置の概要。
8、支払い金・預り金の保全措置。通常は支払金・預り金の保全措置は説明事項に入っているが、以下の4事項は説明対象外となっている。(イ)受領する額が50万円未満のもの。(ロ)手付金等の保全措置により保全されているもの。(ハ)売主または交換の当事者である宅建業者が登記以後に受領するもの。(ニ)報酬。
9、代金に関する金銭の貸借のあっせんの内容およびあっせん不成立の場合の措置。
10、割賦販売。現金販売価格、割賦販売価格、引渡しまでに支払う金銭の額・割賦金額・支払い時期と方法について説明する。

建物貸借の場合に除かれる事項には私道に関する負担がある。土地の利用に重大な影響を及ぼすためである。私道負担の有無は現在だけでなく将来的な可能性についても、面積や位置等について説明しなければならない。未完成物件の特別の事項として未完成物件の工事完了時の形状・構造等(必要あれば図面添付)がある。建物は工事完了時における建物の主要構造部や内装・外装の構造と仕上げ、設備の設置状況と構造について説明しなければならない。宅地は工事完了時における宅地に接する道路の構造と幅について説明しなければならない。

区分所有建物である場合の特別事項

区分所有建物とはマンションをイメージすればいい。マンションは通常の一軒家と違い、特殊な法律関係が生まれる。
1,一棟の建物の敷地に関する権利の種類・内容(e.g.所有権、地上権)。これは貸借の時は不要。
2,共用部分に関する規約の定めがあればその内容(貸借のときは不要)規約の案も説明に含まれる。
3,専有部分の用途その他利用の制限に関する規約の定めがあるときはその内容(貸借のときも説明要)。規約の案も説明に含まれる。事業用として使用することを禁止、ペット不可等である。
4,建物や敷地の一部を特定の者にのみ使用させる規約があれば説明が必要。また、規約案もあれば必要。
5,建物の計画的な維持・修繕の為の費用(計画修繕積立金)の積み立てを行う旨の規約の定めがある時はその内容と既に積み立てられている額について説明する。貸借の時は不要。規約の案も説明に含まれる。
6,所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額(貸借の時は不要)、滞納額についても説明が必要。新所有者に滞納分が引き継がれる。
7,一棟の建物・敷地の管理が委託されている場合は、委託を受けている者の氏名及び住所について説明しなければならない。貸借の時も説明が必要である。

貸借契約の場合における特別事項

売買と賃借では当然説明すべき事項が相違する。以下で賃借契約の特別な事項を確認する。
1,契約期間および更新に関する事項。
2,宅地または建物の用途その他、利用の制限に関する事項。
3,敷金その他の金銭で契約の終了時において精算することとされた場合、その金銭の精算に関する事項。
4,宅地または建物(区分所有建物である場合を除く)の管理が委託されている時はその委託を受けている者の氏名・住所。管理を委託されているのが法人の場合、商号又は名称等。
5,契約の終了時に置ける宅地の上の建物取壊しに関する事項を定めようとする時は、その内容(宅地貸借の場合のみ)。

信義則

権利の行使および義務の履行は信義に従い誠実にこれをなすことを要す(民法第1条第2項)。 「金融商品の販売契約など、契約の内容が複雑な取引では、契約締結の前に、その契約について知識・情報を有する側から相手方に対して正確で十分な情報を提供したり、説明ないし助言をする信義則上の義務が生ずる」(後藤巻則「付随義務」法学セミナー558号45頁、2001年)。

「物件の評価を大きく低下させる原因事実があれば、取引上の信義として言及すべきである。これを隠して評価を偽って取引をしたのであれば、騙しによる過大な代金の騙取と言えるから、詐欺罪に問えることもあり得る」(石原豊昭『「詐欺」悪の手口と撃退マニュアル』自由国民社、2004年、180頁)。

「一方的な依存関係が強い場合には、業者が誠実に業務を遂行した旨のより詳細な説明義務が付加される」「顧客のプロ・アマ度合いを踏まえて対処することが実務上必要である」(三木まり「投資顧問業者の注意義務について(2)」財団法人日本証券経済研究所大阪研究所・証研レポート1608号、2002年、13頁)。

裁判例

「和牛界においては、子牛登記や本原登録等の各種登記・登録において、当該牛の父母、祖父母等を明らかにするなど、血統が極めて重要視されていることに照らすと、親子関係が否定される可能性が相当程度あると思われる糸光の精液については、その真偽が明らかになるまで販売を停止するのが相当といえるが、諸般の事情から引き続き精液を販売する途を選択する場合は、販売者には、精液の購入者に対してはもちろんのこと、精液を使用して産出された子牛を買い受けようとする第三者に対しても、第七糸桜と糸光との親子関係が否定される可能性がある旨を適当な方法で告知するなどして、精液あるいは糸光の産子等の購入者に不測の損害を蒙らせないようにすべき信義則上の義務がある」(宇都宮地判H12年11月15日判時1741-118)。

「不動産投資は、本来、不動産市況の変化等による危険を伴うものであり、不動産投資で利益を上げようとする投資家は、それに伴う危険も自らの責任で負担すべきであるが(自己責任の原則)、他方で、本件投資商品が、パートナーシップへの投資という一般投資家にとっては馴染みの薄いものであること、投資対象の物件が米国の不動産であること、為替リスクがあることなどに鑑みれば、被告は、顧客が本件投資商品の適合性を有していると認められる場合であっても、その勧誘に際し、顧客の学歴、職業、投資経験等を考慮した上、@本件投資商品の仕組み、A本件物件の現況、B本件投資商品の各種の危険性について説明する義務を負っていた」(大阪地判H11年3月24日判時1737-59オリックス事件)。

消費者契約法

消費者契約法(2000年成立、2001年4月施行)は消費者と事業者の契約で消費者の利益を守るための法律である。消費者契約法による訴訟、判決が相次いでいる(青山三千子・上原章「消費者契約法」イミダス2006、集英社、661頁)。国民生活センターで収集した消費者契約法に関連した訴訟のうち判決があったものは、平成17年8月31日現在で71件となっている(独立行政法人国民生活センター「消費者契約法に関連する消費生活相談件数と裁判の概況〜法施行後4年〜」2005年10月6日)。

契約取消し

【大分簡裁平成16年2月19日判決】自宅の床下に拡散送風機等を設置する契約をしたが、消費者契約法第4条1項1号、第4条4項、第4条3項1号により取消を主張した。また、クレジット会社に対して、取消により支払停止の抗弁により、債務不存在の確認を求めた。判決は消費者からの退去要求があったことを認め、消費者契約法第4条3項1号による取消を認めた。また、クレジット会社に対しては、債務がないことを認めた。

【大阪高裁平成16年4月22日消費者法ニュースNo.60】消費者が購入した宝石の代金を立替払いしたクレジット会社が、代金を請求した。判決は消費者は一般的な小売価格が12万円程度である宝石を41万4000円程度である旨告げられ誤認をして購入したのであり、消費者契約法第4条1項1号により取消を認めた。それにより、クレジット会社に対する抗弁を認めた。

【大阪簡裁平成16年10月7日】リース会社が、電話機のリース契約に基づき、代金の支払いを請求した事案。消費者は、光ファイバーを引くには電話機を交換する必要があると虚偽の説明を受けて本件リース契約を締結したことから、消費者契約法第4条1項1号による取消を主張し、これを認めた。

【東京簡裁平成16年11月15日】消費者は、仕事をすれば月2万円は確実に稼げると勧誘され、また、販売業者は業務委託先の業者の報酬支払遅延を知りながら、告知せず、Aシステムを購入したため、消費者契約法第4条1項2号、第4条2項により取消し、購入代金の返還を求めた。判決は、月2万円は確実に稼げるとの発言を受けたという消費者の供述には、信憑性があり、断定的判断の提供をした場合に当たるとして、消費者契約法第4条1項2号による取消を認めた。

【東京簡裁平成16年11月29日】学習教材の立替払い契約に基づき、クレジット会社が消費者に対し、立替金残金の支払いを請求した事案。消費者は日本語を話したり理解ができない中国人である。販売担当者が契約内容をよく理解しえていないという実態を十分承知しながら、金額等重要事項の正確な説明をことさらし得なかったものであり、信義則に反する特段の事情があった。さらに、金額や役務内容について誤認させる言動があったことから、消費者契約法第4条1項、第5条により立替払契約の取消を認めた。以上の事由により、割賦販売法第30条の4により、抗弁が認められ、クレジット会社の請求を棄却した。

【名古屋地裁平成17日1月26日消費者法ニュースNo.63】商品先物取引業者が消費者に対し、帳尻差損金の支払を求めたところ、消費者は事業者の従業員が断定的な判断を提供して取引の勧誘をしたとして、消費者契約法第4条1項2号、1項1号、2項による取消を主張した。判決は東京灯油20枚の売り増しについて、断定的判断の提供があったとして、取消を認めた。

【東京地裁平成17年1月31日】MBAの資格取得のために、アメリカのビジネススクールの留学試験への合格を目的として、事業者が開講する授業を受講したが、留学に必要な全てが確実になるとか、個別指導をする旨の募集要項等において標榜されていた事項が実際には全く違っていたので、消費者契約法第4条1項等により取消を主張した。判決は、契約した一部のコースについては、留学に必要な全てが確実になるような内容のものではなく、個別指導方式とは程遠い内容のものであり、その部分の契約については取消を認めた。残りのコースは、特定商取引法の継続的役務提供にあたり、中途解約による返金が認められた。

条項の無効

【東京高裁平成16年5月26日判例タイムズ1153号】信用保証会社が、消費者が銀行からの借入金につき控訴人との間で締結した信用保証委託契約に基づき、銀行にその借入金及び利息を代位弁済した旨主張し、消費者に対して保証委託契約に基づき、求償金元金及び年18.25%の割合による約定損害金の支払いを求めた事案。消費者は、個人の資金融通のために保証委託契約を締結したものであることを主張し、これを認めて消費者契約法第9条2号により遅延損害金のうち年14.6%を超える部分については無効とした。

【東京簡裁平成16年7月5日】賃貸アパートの入居に際し、賃貸人に対し内部の修繕を求めたが、補修されなかったため契約を解除し、支払った預入金の返還を求めた。本件契約において、賃借人の都合により解約するときには、解約日の3か月前に書面により賃借人に解約届を提出しなければならず、これに従った解約をしない場合には、賃借人は、賃貸人に対し、賃料と共益費の合計の6か月分を補償する旨の合意がなされており、賃借人はこれに沿った解約をしていないので、返還義務はないと賃貸人は主張した。しかし、判決は当該条項は消費者契約法第10条により無効とし、手付金以外の代金の返還を命じた。

【千葉地裁平成16年7月28日】住宅設計施工業者が、消費者が建物工事請負契約を締結した後に、自己都合により本件契約を解除した旨主張し、契約条項に基づき違約金と、損害金の支払いを求めた。平均的損害の金額は、事業者が主張立証責任を負うとし、違約金の具体的算定根拠を明らかにしないため、事業者の平均的損害は、既に支出した費用相当の10万円を超えないものとして扱うほかなく、それを超える違約金条項は消費者契約法第9条1号により無効とした。

【東大阪簡裁平成17年1月27日消費者法ニュースNo.63】消費者が、資格講座教室との間で子ども英会話講師養成認定資格講座の受講契約を締結した後、解除したが、教室側が入学金等を返還しないので、消費者契約法第10条により返還を求めた。判決は「一度ご入金頂いた費用は、ご自身のご都合による返金はできません」という条項を消費者契約法第10条に反し無効とした。

敷金返還請求

【佐世保簡裁平成16年11月19日】賃貸契約終了後、敷引特約による未返還分の敷金の返還を求めた事案。契約締結時に十分な説明がないまま、敷金4か月分のうち一律に3.5か月分の敷引を行う旨の本件敷引特約は、消費者契約法第10条に反するとし、請求を認めた。

【大阪高裁平成16年12月17日消費者法ニュースNo.63(原審、京都地裁平成16年3月16日)】賃貸物件の解約時にクロスの汚れなどの自然損耗分の原状回復費用を賃借人に負担させる特約を理由に、敷金が返還されなかったため、消費者契約法第10条により返還を求めた。通常の使用による損耗(自然損耗)の修繕などにかかった費用を借り主の負担と定めた入居時の特約について、自然損耗による原状回復費用を賃借人に負担させることは、契約締結にあたっての情報力及び交渉力に劣る賃借人の利益を一方的に害すると判断し、消費者契約法第10条により無効とした。家主に全額返還するよう命じた。

【大阪高裁平成17年1月28日(原審、京都地裁平成16年6月11日)】通常の使用方法に伴う自然損耗を含め賃借人負担で原状回復する特約を理由に敷金を返還しないのは、消費者契約法第10条に反し無効とし、敷金の返還を求めた。判決は、本件特約は、民法の任意規定による賃借人の目的物返還義務を加重し、信義則に反する程度に消費者の利益を一方的に害するものと認め、消費者契約法第10条により無効とした。

【堺簡裁平成17年2月17日】賃貸借契約が終了し、明渡しが済んだ後、敷金の返還を求めた事案。敷引条項は、賃借人の損害の有無にかかわらず、敷金の約83%を控除して返還するのは、賃借人にとって不当に不利であり、また、賃借人が、敷引条項を削除して、若しくは、同条項の有無を選択して賃貸借契約を締結することは、事実上極めて困難であるから、賃借人が敷引条項を承知の上納得して契約したとは認められず、消費者契約法第10条により無効とした。

【大阪地裁平成17年4月20日】11か月居住した建物を退去した際、敷引特約と補修費用のため敷金が返金されなかったため、敷引特約は消費者契約法第10条により無効であることを主張し、返還を求めた。入居者の入居期間の長短にもかかわらず一律に保証金50万円から40万円を差し引くことは、本件敷引特約の趣旨が、通常損耗部分の修繕費に充てるためのものであるとしても、金額が大きく敷引特約の趣旨を逸脱しており、消費者契約法第10条に反するとした。しかし、京阪神地方における敷引の慣行は、敷金の額が相当で、賃料額が敷引を考慮して適正額に抑えられている限り、長年の慣行であることから必ずしも不当とは言えず、本件敷引特約条項の全部を無効とするのは、当事者の合理的意思に反するものと考えられるとし、敷引分40万円のうち30万円は無効であるとした。

学納金返還請求

【京都地裁平成15年7月16日】京都女子大(京都市)などの元受験生ら五人が同大学を運営する京都女子学園など二つの学校法人に計約二百九十五万円の返還を求めた訴訟。大学入学を辞退したのに前納した入学金や授業料などを返さないのは、消費者契約法に違反すると主張した。判決は受けていない授業料などに加えて四月一日より前に入学辞退を明らかにした二人分の入学金返還を認め、二法人に計約二百二十万円の支払いを命じた。入学手続きに消費者契約法を適用。「前納金は返還しない」との入学要項の特約を無効とする初の判断を示した(「大学に前納金返還命令 「入学要項特約無効」 消費者契約法を適用 京都地裁判決」西日本新聞2003年7月17日)。

【大阪地裁平成15年11月7日】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号により学納金の返還を求めた事案である。判決は授業料を返還しないとの特約は消費者契約法第9条1号に違反するとして返還を命じた。

【大阪地裁平成16年2月23日】【大阪地裁平成16年3月25日】【大阪高裁平成16年8月25日(原審、京都地裁平成15年7月16日)】【東京地裁平成16年9月8日】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号、第10条により学納金の返還を求めた。判決は授業料を返還しないとの特約は消費者契約法第9条1号に違反するとして返還を命じた。

【東京地裁平成16年12月20日】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号、第10条により学納金の返還を求めた事案。消費者契約法施行以前の契約については、返還義務を否定した。施行以降の契約については、入学金以外の学納金については、消費者契約法第9条1号により返金を認めた。

【東京高裁平成17年2月24日(原審、東京地裁平成16年3月22日)】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号、第10条により学納金の返還を求めた事案。授業料を返還しないとの特約は消費者契約法第9条1号により無効として返還を命じた。しかし、入学金については入学し得る地位の対価として返還義務を否定した。

【東京高裁平成17年2月24日 (原審、東京地裁平成15年10月23日)】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号、第10条により学納金の返還を求めた。消費者契約法施行以前の契約については、学納金の返還義務はないとした。施行後の契約については、学生の地位を取得した4月1日以降の入学辞退者については、学納金の返還義務はないとしたが、学生の地位取得前の辞退は、入学金以外の費用の不返還条項は消費者契約法第9条1号により無効とした。

【東京高裁平成17年3月10日 (原審、東京地裁平成16年3月30日)】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号、第10条により学納金の返還を求めた。消費者契約法の施行以前の契約については、返還義務を否定した。施行以後の契約については入学金は入学資格を得た対価などとして返還義務を否定した。4月1日より前に辞退を申出たものについては、消費者契約法第9条1号により入学金以外の納入金の返還を命じた。また、4月1日以降に辞退を申出たものについては、返還義務を否定した。

【京都地裁平成17年3月25日】看護学校に合格し、入学金と運営協力金を支払ったのちに解除したため、消費者契約法第9条1号、第10条により返還を求めた。入学者に対して所定の教育的サービスを提供するために要する費用の一部は入学者に負担させるのが相当であるとして、入学金及び運営協力金という名称を付して入学者に納付を求めていることになっているとみるよりほかはなく、教育サービスを受けない者にこれを負担させるには、特段の事情が必要とした。また、解除により生じる空席で納入されるはずの費用を入手できないことは否定できないが、それは、本件学校に対する入学希望者の動向によって生じることであるから、本件特約によって入学者に負担させることは、前記特段の事情にあたらないとし、消費者契約法第10条により返還を認めた。

【東京高裁平成17年3月30日(原審、東京地裁平成16年4月30日)】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号、第10条により学納金の返還を求めた。消費者契約法の施行以前の契約については、返還義務を否定した。施行以後の契約については入学金は入学し得る地位の対価として返還義務を否定した。4月1日より前に辞退を申出たものについては、消費者契約法第9条1号により入学金以外の納入金の返還を命じた。

【横浜地裁平成17年4月28日】大学の入学試験に合格し、学納金を納付した後に入学を辞退し、民法または消費者契約法第9条1号、第10条により学納金の返還を求めた。消費者契約法施行以前の契約については、学納金の返還義務はないとした。施行後の契約については、学生の地位を取得した4月2日の入学辞退者については、入学金の返還義務はないが、授業料等に対する反対給付の履行前であり、それ以外の損害はないとして消費者契約法第9条1号により返還を認めた。学生の地位取得前の辞退は、損害額は入学事務手続費用相当額であるとし、それ以外は消費者契約法第9条1号により無効とした。また、入学事務手続費用は民訴法第248条により10万円とした。推薦入試の場合には、高度の信頼関係が前提になっており、入学金の返還義務は否定したものの、それ以外については、損害はないとして、消費者契約法第9条1号により無効とした。

消費生活条例

「消費者に対し、販売の意図を隠し、商品若しくはサービスの品質、安全性、内容、取引 条件、取引の仕組み等に関する重要な情報であって、事業者が保有し、若しくは保有し得 るものを提供せず、若しくは誤信を招く情報を提供し、又は将来における不確実な事項に ついて断定的判断を提供して、契約の締結を勧誘し、又は契約を締結させること」(東京 都消費生活条例第25条第1号)。

「重要な情報」は「消費者が商品、サービスを購入する際に、そのことを知っていれば異 なる判断や対応をしたと思われるような情報を指す」(東京都生活文化局「逐条解説東京 都消費生活条例」2002年、35頁)。

東京都消費生活条例施行規則第6条第1号は「不適正な取引行為」として以下をあげる。「商品又はサ−ビスに関し、その品質、安全性、内容、取引条件、取引の仕組みその他の取引に関する重要な情報であって、事業者が保有し、又は保有し得るものを提供しないで、契約の締結を勧誘し、又は契約を締結させること」。

さいたま市消費生活条例第14条「事業者は、消費者との間で行う商品又はサービスの取引に関し、次の各号のいずれかに該当する行為で規則で定めるものを行ってはならない。
(1)消費者に対し、販売の意図を隠し、商品若しくはサービスの内容、取引条件、取引の仕組み等に関し重要な情報を提供せず、若しくは誤認を招く情報を提供し、又は将来における不確実な事項につき断定的判断を提供して、契約の締結を勧誘し、又は契約を締結させる行為」


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