正常性バイアス

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正常性バイアスとは

正常性バイアスとは異常事態が起きているのに軽く考えて落ち着こうとする心理。

正常性バイアスが働いている人の心理

ほとんどの人は、火山の噴火・津波・ハリケーンなどの自然災害が発生しても、最初のうちは状況を甘く見ていて、危機が迫っているのに何も行動しません。

ラジオやテレビ、近所の人から危険だという情報を得ていても「自分は安全だ」「これまで大きな災害が起きなかったので今回も大したことないだろう」と楽観的に解釈します。

また、正常性バイアスが働いている人は、異常事態を理解しやすい日常的なものに当てはめようとします。

例えば、銃声が聞こえても子供が花火で遊んでいるに違いないとか、銀行にマスクをして入っていった人を見かけても仮装パーティーに行く途中に立ち寄ったに違いないなどと思い込みます。

正常性バイアスが働く原因

危険な状況にありながら行動に移せないのは何が原因なのか?

行動するためには情報を必要とするから

人は行動するためには情報を必要とします。

ある状況に対処する方法を知らなければ、その状況に対処し始めることができないので、対処し始めないのです。

行動するためには、より多くのデータを取得する必要性があります。

人は通常、何か行動を起こす前に、何が起こっているのか、何をすべきなのかについて、たとえ明らかな危機であっても、4つほど情報収集をします。

非常事態が発生して誰かに避難するように言われても、すぐには行動には移さずに「何が起こったの?」と他の人に聞きます。

脳のデータ処理を遅らせないため

脳が新しいデータを処理する方法に原因があります。

研究によると、脳は落ち着いているときでも、新しい情報を処理するのに8~10秒かかるそうです。

ストレスが加わるとさらにその処理が遅くなるため、脳は状況がよく分からない場合は、正常な状態にすぐに戻ると誤信し行動を起こさないのです。

これが正常性バイアスの働きであり、気がついたときには手遅れになっていることが往々にしてあります。

普通ではないと思われたくないから

社会生活を送っている人は、他人から異常だと思われることに敏感です。

警戒心が強い、過剰反応、愚か者だと思われたい人はいません。

「過剰に反応することはクールではない」という羞恥心や自分が誤解している可能性、勝手な行動を取って失敗する可能性を考えることで、正常性バイアスが働きます。

正常性バイアスのメリット、デメリット

正常性バイアスは心の安定機能のようなもので、実際には危険でない出来事に対して過剰に反応するのを防ぐことができます。

日常生活において不安や心配を減らす役割があります。 

災害時には約70%の人が正常性バイアスの影響を受けると言われています。

映画では群衆が叫び、パニックになる様子が描かれていますが、約70%の人は危機的状況でもいつも通りに振る舞っています。

これは正常性バイアスのメリットと考えることができます。

研究者は、正常性バイアスが働いている人々はおとなしく、混乱することなく指示を待つことができることを発見しました。

正常性バイアスが働いている人は、パニックになる10~15%の人たちを静め、落ち着かせる傾向さえあります。

しかし、裏を返せば、適切に行動する10〜15%の人々の進歩を遅らせる傾向があるということです。

緊急事態なのに逃げ遅れるなど危険に巻き込まれる原因にもなります。

正常性バイアスに関する事例

ヴェスヴィオ山が噴火

西暦79年、ヴェスヴィオ山が噴火し、ローマ帝国の都市ポンペイとその住民1万6千人が埋没しました。

史上最悪の自然災害の1つとされていますが、ポンペイの住民は避難せずに何時間も見ていました。

早く避難しなかったのは正常性バイアスが働いていたからです。

ハリケーン・サンディ

ハリケーン・サンディは、かなり前から予測されており、避難勧告も出されていました。

しかし、ニュージャージー州の人々は「ただのハリケーンだろう」と思って、いつもと同じように生活が続くことを期待して避難しませんでした。

正常性バイアスにとらわれたことで、大きな代償を払わなければなりませんでした。

ホロコースト

ユダヤ人に危険が差し迫っている兆候はいくつもありました。

ユダヤ人は識別すための黄色い星をつけさせられ、Jスタンプのついた身分証明書を常に所持しなければなりませんでした。

ユダヤ人に対する差別的な法律ができたあとも、ドイツに住み続けていました。

「長い間、生活が良かったのだからきっと良い方向に向かうに違いない。」

ユダヤ人たちは、アドルフ・ヒトラーとナチスを過小評価し、そのまま居座り続けました。

国外に移住する余裕のあったユダヤ人は、国内に留まり死んでいきました。

関連心理学用語

確証バイアス

確証バイアスとは、自分に都合の良い情報を求め、自分に都合よく情報を解釈する傾向のこと。