許せない奴

「テニスラケットを騙し取られ」

ある日の事、ペナンに赴任して間もない宮本氏(仮称)と夕食を食っている時、悩み事を打ち明けられた。宮本氏の通うスポーツクラブにSammy(仮称)というインド人従業員がいる。彼はコーチではなくただの小間使いだが、運動神経がよく暇な時は宮本氏にテニスの手ほどきをしてくれる「いい奴」であった。ある日宮本氏が休憩している時に、笑顔で近づいて来た。宮本氏のヨネックスのラケットを見て「使ってないなら友達が買いたがっている。」と言うのだ。宮本氏は彼を信用してラケットを預けた。ところが・・・・

1週間後 「値段の交渉中なので来週まで待ってくれ。RM150以上で売れそうだ。」
2週間後 「バイヤーは忙しくて来れないので来週払うと言ってた。」
3週間後 「彼はバイクで通勤してるので今日は雨で来れない、来週もってくるよ。」
   さすがに宮本氏も不審に思い売る事を断念、ラケットの返却を求めたが・・・
4週間後 「家まで取りに行ったが居なかった。来週オフィスに会いに行くよ。」
5週間後 「夕方オフィスに行ったが居なかった。来週は昼間に行ってみるよ。」
6週間後 「バイヤーに会ったがヨネックスを3本持っていて見分けが付かなかった。」

直接取りに行くからと電話番号を聞くと「場所は知ってるが電話番号は知らない。」と言う。地図を書く様に頼むが「複雑なので地図では説明できない。」と言う。宮本氏はようやく騙された事を確信した。彼を信用していただけに失望と憤りは大きかった。事情を聞いた私は「まあまあ、あまり細かなことに目くじら立てず気長に待ちなさいよ。」と言ったものの彼の怒りは収まらない。やむなく週末に宮本氏に付き合う事にした。

「このいたち野郎 なめんなよ!」

翌週スポーツクラブを訪ねた我々、バイヤーのオフィスに案内するようSammyに頼んだ。彼は「今は忙しいので友達がバイクで案内するよ。」と言ってインディアンの老人にタミール語で話し掛けた。その老人は「OK、俺に付いて来い。」と言いバイクにまたがたった。そしてマカリスターロードから路地に入ったところで突然スピードを上げた。私はクラクションを鳴らしスローダウンを促したが、老人は路地を走り去ってしまった。なんと我々はまかれてしまった・・・・。私は頭にきた。

スポーツクラブに戻りSammy に言った。「お前のボスに会わせろ」 彼は「今ボスは出掛けている。」と言うが、もはやこのいたち野郎を信用出来ない。私はマネージメントオフィスの場所を聞く為、プロショップに向かって歩き出した。するとSammy が駆け寄って来て「ミスター、金は明日持って来る。」と慌てている。彼を無視してプロショップに入って驚いた。宮本氏のラケットは既に中古品として陳列されている。なるほどこういう事か・・・・・。Sammy は既に宮本氏のラケットを売り払っていた訳だ。そして我々には口からでまかせを言い、そのうち面倒臭くなって諦めると思っていたのだろう。

もはやラケットを取り返すだけでは飽き足らない。その日雇用主は不在だったので、翌朝マネージメントオフィスに電話しアポイントメントを取った。そして夕刻スポーツクラブに出向いた。エントランスでSammy が待っていてマネージメントオフィスへ案内してくれたが、私は一切彼を無視した。雇用主のMr.Tan(仮称)に会い「あなたの従業員はお客を騙している・・・・・。」と事情を話した。彼はプロショップへ行きラケット持ってきて陳謝し、Sammy をカスタマーリレーションから外すと言った。

「これにて一件落着した訳だが」

今回は我々にとって後味の悪い出来事であった。ローカルはフレンドリーなだけに数回会っただけで100%信用してしまう事がある。ただし当然ながら良い人ばかりではない。ましてや金銭の貸し借りや物品の売買など、利害が絡むと不愉快な思いをする事が多い。貧富の差や価値観の違いを思い知らされる事になる。そして問題を解決する為には気の遠くなるような手間が掛かる。ローカルと良好な関係を維持するには、ある程度の距離をおいて付き合う事も大切である。宮本氏の場合ラケットが戻らなかったとしてもさしたる被害ではないが、中には自動車を騙し取られた人もいるようだ。

20011130日)

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