
001.introduce(preface)
私の顔は非道く醜いらしいです。
私は物心ついてから(多分それ以前から)鏡を見たことがありません。
赤ん坊の頃に一度だけ鏡に映った自分を見て泣き出したほどだったそうです。
両親は私に優しいです。
でも私は両親に厭な思いをさせないために部屋から殆ど出ません。
だから私にはこの小さな部屋にある天窓から見る世界が全てです。
テレビやインターネットから得る情報はどこか嘘臭く、
その画面からは生命の存在が確認できないのです。
空しか見えないこの部屋の窓からはこんなに生命の気配が降り注いでいるというのに。
悲しいです。
002.entrance
私は最近よく考え事をします。
それはテレビと現実の境目についてです。
テレビで見る景色や人物は実際に存在している物なのに、存在していると分かってはいるのに
それにリアルを感じられないのは何故なんだろうといった具合に。
そうして私の興味は次第にこの部屋の外、そしてこの家の外へとむけられていきました。
私は今迄両親に厭な思いをさせないために、なるべく部屋から出ないようにしていました。
だから両親の顔が分からなくならないように、部屋のテレビにはビデオカメラが接続してあって
両親にはそれに向かって話しかけてもらっています。
でも、テレビの画面に映る両親の顔もやはりどこか嘘臭く感じてしまいます。
そこである日私は思い切って両親に言ってみました。
部屋から出てもいい?と。
両親は喜んでくれました。しかしその表情はどこか不安が混じっていました。
何年も見ていない子供の顔、しかも非道く醜い顔を見る事になるのですから無理もありません。
でも私はもう両親に厭な思いをさせることを躊躇しません。
私は今日新しい人生の入り口に立ちます。
003.attitude
私を見た両親の顔はこわばっていました。
私に対する態度も昨日までと違い、腫れ物に触るようです。
当然予測していたことですが、実際に目の当たりにするとやはり心が痛みます。
しかし、このくらいで傷ついているようではいつまで経っても夢は叶うことはありません。
私の夢、それはこの家の外に出る事です。
私を知らない人たちはきっと両親より非道い態度で私に接してくるはずです。
それに負けないために、私は頑張らなければいけません。
004.regret
まだ部屋から出て2日目なのに、もう挫けそうです。
私に対する両親の態度が辛いです。
私の顔を少ししか見てくれません。見てもすぐに視線を逸らしてしまいます。
お父さん お母さん 私は そんなに 醜い ですか?
005.frightening
部屋から出たくない。怖い。
目が覚めてもベッドから出る気が起きません。
テレビの電源を入れる気にもなりません。
母親がドア越しに声をかけてきます。
「どうしたの?きぶんがわるいの?
おかあさんたち、しごとにいくから。
ごはんはてーぶるのうえにあるからちゃんとたべるのよ」
テレビのスピーカーから聞こえているわけじゃないのに、
何故か現実の声として聞こえませんでした。
両親が家にいなくなってからようやく部屋から出ました。
テーブルの上にあったオムライスは3分の1ほど食べて残りは捨てました。
夕方、両親が帰ってくる前にお風呂を済ませて自分の部屋に戻りました。
ビデオの配線を抜いておきました。
006.lack
今日はちょっと部屋から出てみようかと思ったけど、昨日のことが気まずくてなかなか部屋から出られません。
それでも何とか勇気を出して食堂に行ってみました。
父親はすでに仕事に出掛けていて、母親が朝食の後片づけをしていました。
母親は私を見るとお化けを見るような表情をしました(実際私の顔は恐ろしいようですが)。
「お、おきてたの?きょうはぐあいいいみたいね。
きのうははなしかけてもぜんぜんこたえてくれないからしんぱいしたのよ。」
目の前で聞く母親の声から現実味が無くなってしまいました。
どうして・・・。
007.liar
この家に私の居場所はもうありません。
両親とは一応話をしますが上辺だけの会話しかしません。
両親が私に目を合わせてくれないことが気が狂いそうなほど辛いです。
私の顔が醜いなら、隠してしまえばいいのでしょうか。
私は両親に顔を隠すマスクが欲しいと言いました。
両親はこう言いました。
「おまえはわたしたちのじまんのこだ
どこにだしてもはずかしくないとおもっている。
だからますくなんてひつようないよ。」
目線を逸らしながら言わないで下さい。ゥソッ+
008.receipt
両親が仕事に行った後部屋を出ようとしてドアを開けるとカランという音がしました。
ドアの裏側を見るとノブにマスクがぶら下がっていました。
仮面にはメモが張り付けてありました。
"お前が傷つかないようにと思ってとった態度が
逆効果だったことに昨日やっと気づきました。
気づくのが遅すぎです。
これからは辛いことは我慢しないでどんどん言って下さい。"
もう手遅れなのに。
あまりに嘘臭い文章に思わず笑ってしまいました。
大笑いしたせいで口の端が切れて血が出ました。
それでも笑いました。
こんな家族、もう要りません。
マスクさえ有れば・・・。
009.line
マスクを手に入れたことですぐにでも家を出たい気持ちになりましたが
だからといってすぐに家を出てしまうほど私は莫迦じゃありません。
家を出たら身寄りが無くなってしまう。
まずは暫く生活できる程のお金を作らなければいけません。
どうしたらいい?
私は顔が醜いので風俗店ですら雇ってもらえないでしょう。
そこでネットに注目しました。
ネットに接続してネットビジネスのページを検索してみます。
しかし、どれもこれも今ひとつです。
諦めかけたその時、その文字は目に入りました。
"オークション"。これだ。
私は自分の使用済みの下着をオークションに出しました。
ネットから拾ってきた可愛い女の子の顔写真にモザイクをかけて、
"コレ、私です☆"と、白痴みたいな文章とともに。
あとは莫迦な男達が金額を吊り上げてくれるのを待つだけです。
010.farewell
性欲の塊がどんどんと醜い私の汚れた下着に高値を付けていきます。
今まで持っていた下着を全部オークションに出したので総額は結構行きました。
これだけ有れば何とかなります。
でも1円でも無駄には出来ない。利用できることは利用しないと。
私は両親が留守の時に家中を引っかき回して探しました。
そして、見つけました。10・・・20・・・結構あります。
家の中は強盗に荒らされたようになってしまいましたが。
どうでもいい。こんな家。私は今日、新しい世界へと旅立ちます。
さようなら。
011.air
初めて歩く外の世界はどこか不思議な感覚でした。
天窓から降り注いでいた生命の気配が殆ど感じられません。
ただ、植物や動物からはちゃんと生命の気配を感じられました。
なのになぜか人間からはその気配というものが感じられないのです。
私はマスクの小さな穴からいろんな人をじっと眺めました。
殆どの人は私を見て驚いたり、変な顔をします。
中には露骨にじろじろ見てくる人も居ます。
其れもそうだと思います。マスクをして町中を歩いている人なんて居ないから。
でもマスクを外せばもっとじろじろ見られる事になるに決まっています。
是ばかりはどうしようもないです。
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