12 光

ほらもうすぐこの冷蔵庫の壁がへこんで僕の体に食い込んで、
それで僕はこの中で人知れず潰れて肉の塊になるんだ。
そう思うと無性に淋しくなって涙があふれてきた。
と、遠くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「待ちなさーい!!」
ヒールが地面を蹴る音が近づいてくる。荒い息づかい。
「何ですか?」と男の声。
「ちょっとこの中見せて!」
「ち、ちょっと!」 なにやらゴトゴトと音がしたあと、ガキン!と鎖を切るような音が聞こえた。
そして目の前が真っ白になった。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、
目を凝らすと涙のせいで歪んで見える女の顔が目の前にあった。
後ろには呆気にとられている男が二人。
「大丈夫?やっぱりあいつらの仕業ね」
手足の粘着テープを剥がしながら女は言った。
『あいつら・・・?』
「そんなことはどうでもいいわ、早く行きましょう」
ようやく手足の自由が戻って僕は口に貼られた粘着テープを剥がしながら言った。
「行くって、どこへ?」
「決まってるじゃない、警察よ!」
警察だって?そんな事すればこの女も捕まってしまう。そう思った瞬間
『こいつらが居るから一応話を合わせて!』
と、女が心に話しかけてきた。
「はい・・・」と力無く答え、呆気にとられている男達に
警察に行くからと言い残し僕たちはその場を去った。
彼女の事務所にたどり着いて僕は彼女に聞いた。
「あいつらって、誰なんですか?」
「羅教よ」
・・・ラキョウ?


13 羅教

どこかで聞いたことがあるような名前だった。
でもどうしても思い出せない。
「簡単に云えば裏社会の組織のうちの1つよ。あたしはそこの元メンバー」
「元・・・?」
「そうよ、あなたにあげた薬とか、その他にもいっぱい持ち逃げしたの」
女は口元を歪めて笑った。
「でも何でそんな事する必要が?」
「理由なんてないわ。敢えて言うならあいつらのやり方が気にくわなかったから」
「やり方?」
「悪どいやり方よ。あたしはそれが我慢できなかったから、あそこを抜けたの」
「で、抜けるついでにいろいろ持ち逃げしたんですか」
「まあね。内部告発しない代わり貰ってく、って事だったんだけどあいつら許してくれなくてね」
「でもよっぽど大切なものを持ち逃げしたんじゃないですか?じゃないとここまで・・・」
「ふーん、鋭いわね。でもここでは云えないわ。あいつらもここは知ってるんだし」
「そうですか」
「ま、今日のことでわかったと思うけど、あなたも気をつけた方がいいわ」
そして僕は家路についた。
家について僕はずっと考えていた。
羅教。どこかで聞いたことがあるはずだ。
思いだそうとすればするほどイメージに靄がかかっていく。
もういい、今日はもう寝よう。


14 1人

昨夜は結局羅教の事を思い出せなかった。
冷蔵庫にあったハムを食パンにはさんで食べながらストーブに火を入れた。
考えても考えても思い出せない。もどかしい気持ちのまま事務所へと向かった。
不思議なことに、今日は誰にも尾けられていないようだった。
事務所前に来てふと足元を見ると足元に赤いインクのようなものが点々とこぼれていた。

『・・・血?』

嫌な予感を抱きながら辿っていくと、それは玄関から階段、そして事務所のドアの前まで続いていた。
ドアのノブに手をかけると軋みながらゆっくりとドアが開いて中の様子が目に飛び込んできた。
其れを見て僕は心臓が飛び出そうに驚いた。
壁に身長180pはある強そうな男が縛り付けられていた。
真っ黒なコートの脇腹が裂けていて、そこから血が滲んでいた。
肌は土色で、白目を剥いていることから気絶しているようだった。
「あなたを襲った奴よ。つまり、羅教のメンバーの1人」
驚いて後ろを振り返るといつの間にかソファーに女が座っていた。
「こいつの名前は黄魔。名前もだけど強そうな外見の割にはヘボかったわね」
「え?」
「黄色い魔で黄魔。一番下っ端よ、未だに。ふふふ」
「ヘボかった・・・、って、あなたがこの人を?」
「そうよ、他に誰が?」 僕が呆気にとられているとそうそう、と彼女は言った。
「まだあたしの名前言ってなかったわね。本名はヤバいから秘密だけど羅教にいた頃は白蘭って呼ばれてたわ」
「パイラン?」
「白い蘭と書いて白蘭ね。蘭は嫌いなんだけどね」
と、白蘭は苦笑した。
「さてと、こいつには喋って貰わなきゃいけない事があるんだったわ」
と、白蘭はソファーから立ち上がってこちらへ歩いてきた。
そして黄魔の顔を平手で殴った。
「起きな!」
うう・・・、と黄魔は呻き、目を覚ました。
「先刻も聞いたけど、何であんな事したのかちゃんと納得のいく様に説明して貰おうかしら」
「頭の悪ぃ女だなぁぁ。青眠さんの命令だからだよぉぉ」
「ふうん、じゃあ何で青眠がこの子を殺せって言ったのかしら?」
「青眠さんがこいつを気にくわなかったからなんじゃねえかぁぁ?ヒヒヒ」
「チンミンって誰ですか?」
「羅教のトップよ」
「なぁ、もういいだろぉぉ?知ってることは全部喋ったさぁぁぁ」
「バカが。其れで全部じゃねぇだろ!」
白蘭は今度は拳で黄魔を殴った。
口の中を切ったのか、黄魔の口から血が流れ出した。
「ヒヒヒ、さすがだな。でもコレばっかりは喋るわけにはいかねぇなぁ。馬鹿女が!」
黄魔はそういうと自分の舌を噛み切った。
ゴリッと言う音がして噛み切られた舌はボトッと床に落ちた。
そうして口からボタボタと流れる血であっと言うまに床は血塗れになった。
「ひゃひャヒゃひゃヒャひゃひゃぁぁァあぁアぁaaaぁァアあ!」
黄魔は狂ったように笑っていた。
「チッ!」
白蘭は舌打ちをしてポケットに入っていたナイフを黄魔の首に突き立てて殺した。
目の前が真っ赤に染まっていく様子を僕はただ呆然と見守ることしかできなかった。
僕はとんでもないことに巻き込まれてしまったようだ。


15 状況

「まさか舌を噛み切るとはね。こいつも度胸が据わったもんだわ」
「で、でも殺すなんて・・・」
「しゃべれなくなったら生かしておく価値なんてないわ。曲がりなりにもエンパスが効かないんだから」
「だ、だって、殺人は犯罪じゃないですか、警察に追われることn・・・」
白蘭は呆れたように僕の言葉を遮った。
「私が羅教にいた頃はこんな事日常茶飯事だったわ。
 それに殺人をのぞいても十分罪になる事を沢山やった。
 今更ヒト1人殺す事なんて躊躇うことでも何でもないわ。
 それにこいつだって似たような事やってたし。裁判にかかればまず死刑ね。
 手間が省けていいと思わない?アハハ」
「で、でも、生かしておけば人質にだってなるんじゃ?」
「そうね、もっと上の人間だったら殺さなかったわ。
 でも残念ながらこいつは一番下っ端だから、人質にもならないわ」
「・・・・・・・・・」
想像を超えた世界が僕の周りを覆ってしまった事を実感して僕は言葉を失った。
「ま、正常なあなたには理解し難い考え方かもね。あたし達は狂ってる連中だから」
そういって白蘭はクスクスと笑った。
死体の処理はどうするのだろう?という疑問が浮かんだが、
白蘭の笑顔が妙に不気味で訊く事が出来なかった。
そして白蘭の笑顔を見ながら、僕は確信した。
もう、逃げられない。


16 記憶

ベッドに寝転がって考えた。僕はなぜエンパスに目覚めたんだろう。
風邪をひく事さえ原因がある。だったら此の事にも何らかの原因があるはずだ。
まず考えたのはウィルスだ。エンパスを引き起こすウィルスが人間に感染するのだ。
・・・ダメだ。無理がある。そんなウィルスが存在すればもっとエンパスの人間は多いはずだ。
感染じゃないとしたら、・・・遺伝?
しかし両親は僕が1歳の頃に事故で死んでいるから分からない。
少なくとも祖父母にそう言った様子は見られなかったし、両親に関してそんな話題を聞いた覚えもない。
・・・・・・?両親、祖父母・・・、・・・・・・羅教・・・・・・思い出した!!!
あれは両親の7回忌の頃だった。
夜中に僕は目が覚めてトイレに行こうとしていた。
仏間の前に差し掛かったとき、襖の向こうから祖父母の声が聞こえてきた。
「あの子が死んでもう7年になるんですね」
「早いもんだな」
「あの女さえいなければ・・・」
「止せ。もう終わった事だ」
「羅教が全ての原因なのよ!」
「止さないか!子供が起きたらどうするんだ」
僕は何か聞いてはいけない物を聞いたような気がして慌てて自室へ戻った。
布団に入ると間もなく襖が開いた。おそらく僕が寝ている事を確認しに来たんだろう。
羅教が全ての原因、この言葉が謎を解く鍵の様な気がした。
両親の死に羅教が関係していたんだろうか?
・・・・・・殺された?


17 鍵

今日はいつもより早く事務所に向かった。鍵を開けると血の匂いがムッと流れ出てきた。
リノリウムの床や壁にはまだ微かにどす黒い血の跡が残っていた。
白蘭は黄魔の死体を処分するから今日は遅くなると言っていた。
丁度いい。僕は彼女のデスクを調べ始めた。
引き出しにはいろいろなノートやファイルが入っていたが、どれも手懸かりにはなりそうになかった。
引き出しは全部で4つあったが、何処にもそれらしい物はなかった。
ふと目を上げるとパソコンが目に映った。
ここに何らかのデータが入っているかもしれない。そう思った僕は早速パソコンを起動した。
手当たり次第にフォルダを開けていったがこれといった物がない。
と、そのとき、一つのフォルダに目がいった。
"HYKR"・・・意味不明なアルファベットの並びが何故か気になった。
何かの暗号だろうか。たとえば逆から書いてみると・・・"RKYH"
同じ事か。いや、何か近づいた気がする。
それにしても何故子音ばかりなんだ?・・・!そうか!
やっぱり僕の勘は間違っていなかった。母音を故意に抜いてあるんだ。
"RaKYoH"。つまり羅教のことだったんだ!
早速そのフォルダを開く。そこには1つのファイルがあった。
ファイルをクリックする。ダイアログが開いた。"Password?"の文字が浮かんでいる。
パスワードなんて予想してなかった。取り敢えず打ち込んでみる。
"PAILAN"・・・ダメか。"RAKYOH"・・・コレもダメだ。"EMPATHY"・・・違う。
一通り考えつく言葉を打ち込んでみたがどれも違った。
"KAIEDA"・・・ふと気づくと自分の名字を打ち込んでいた。馬鹿馬鹿しい。
消そうとしたら指がエンターに当たった。そして・・・
ファイルが開かれた。
何故だ?


18 遺伝子

そのファイルにはエンパスの事についての記述が事細かに書き記してあった。
世界中のエンパスの症例、研究の内容、分類などがあった。
しかし、世界中に見られる症例と僕のは微妙に異なっていた。
分類を調べるうちに驚くべき記述を見つけた。
それは羅教がエンパスを人為的に作り出す研究をしているという物だった。
難しい専門用語が沢山並んでいる為詳しいことは分からなかったが、
エンパスを持つ人間の遺伝子を調べて
その遺伝子をどうにかした物を卵子に組み込んで受精させるという感じの研究だった。
その方法で羅教は4人子供を生ませている。名前は、桃海、緑竜、朱山、黒空。
そのうち桃海と黒空は2人は2歳になるまでに死んでしまったらしい。
そうして残りの2人は育ちはしたものの、常時幻聴と激しい頭痛に悩まされていたらしい。
なんとか頭痛を抑える薬を作り、エンパスをコントロール方法も見つけだし
研究も終盤に差し掛かる頃、研究員の1人が実験体と逃げ出したらしい。
そこで資料は終わっていた。
パソコンの電源を切ってふと目を上げるといつの間にか白蘭がソファーに座っていた。
「おもしろかった?」
白蘭は向こうを向いたまま言った。僕は何も言えなかった。
「よくパスワードが分かったわね」
「・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、その研究員、どうなったか知ってる?」
「・・・・・・・・・」
「事故で、死んだの。実験体もろとも」
「・・・事故・・・?」
「2人には子供が居たわ。10歳の女の子と、1歳半の男の子」
「一歳半・・・?」
「その事故の後、男の子は祖父母に預けられた。女の子は行方不明になった」
「行方不明?」
「エンパスの遺伝の研究のために羅教にさらわれたのよ。
 そうしていろいろと実験をされた。」
「・・・・・・ま・・・・・・」
「その子は弟の事が気がかりだった。自分のようにモルモット扱いにされるんじゃないかと
 だから羅教のメンバーとして動きながら弟を捜した。
 そして弟の居場所を突き止めた彼女は羅教を抜けて弟を匿った。
 危険だからと言う理由で真実を隠したまま、ね」
「ま・・・・・・さ・・・か・・・・・・」
「もう隠し立てする必要もないわね。あたしは海江田美帆。あなたの姉よ」
そんな・・・・・・・・・。


19 疑惑

エンパスに目覚めてから僅か1ヶ月と少しで目まぐるしく環境が変わった。
命を失いかけた事さえあった。
そうして人が目の前で死ぬ様子を見た次の日、
自分の出生の秘密を知り、生き別れた姉と出会った。
・・・・・・・・・・・・何処までが本当なんだ?
白蘭はさらに話を続けた。
「何故あなたが・・・・・・あたしもだけど、何故羅教に命を狙われたと思う?
 簡単な事よ。あたし達がエンパスだから。
 羅教の中にはエンパスが効く連中もいるわ。そいつらから情報を盗まれかねないから、
 あたし達は命を狙われてるってわけ。
 実際あたしはあいつらを皆殺しにするつもり。自分の身を守る為よ」
「じゃあ、大切な物を持ち逃げしたっていうのは・・・?」
「ウソよ。羅教を抜けた本当の理由はあなたを見つけたから。
 あなたさえ見つかれば羅教なんているだけムダだわ。
 あ、それから藪医者ってのもウソね。薬を渡す理由が必要だったから。
 もちろん治療費の600万も要らないわ」
白蘭の言う事は一応筋は通っているし、僕が冷蔵庫に閉じ込められた時も助けてくれた。
しかし、自分が遺伝子操作で生まれた人間の子供だなんて俄には信じ難い。
本当に信じてもいいんだろうか。


20 本音

「正直言って、あなたの言っている事は筋が通っていると思います。
 でも、すぐには信じ切れません」
僕は正直に思ったことを告白した。
白蘭は優しい笑みを浮かべた。僕は初めて見る彼女の表情にドキッとした。
「でしょうね。あたしもあなたの立場だったら同じ気持ちになると思うわ」
そうして急に真面目な表情になってこう言った。
「でもね、是は命に関わる事よ。
 あたしはあなたを守るためにウソをついた。
 真実を知ると危険にもっと近づく事になるから。
 でもあなたがあのファイルを見てしまった以上真実に辿り着くのは時間の問題だと思った。
 だからあたしは本当の事を話した。その上で、あたしはあなたを守ろうと思った。
 これが、今まで隠してきたあたしの本音よ。今まで騙しててごめんなさい。
 でも、お願い、信じて頂戴」
白蘭・・・いや姉さんは僕に包み隠さず全てを話してくれた。
いつも閉ざしていた心を開いてくれた。
僕は信じるより何よりその心が嬉しかった。
信じてもいい、と素直に思った。
「分かりました。あなたを信じます。
 だから・・・・・・」
「だから?」
「姉さんって呼んでいいですか?」
「もちろんよ」
姉さんはそう言って笑顔になった。しかしすぐ真面目な顔になって
「これから羅教とあたし達の戦いが始まるわ。
 呉々も無茶はしないでね」
と言った。
僕たちの戦いはこれから始まる。


21 戦線

あれから5日が過ぎた。僕らと羅教の間には大きな動きはなかった。
僕はまだ完璧にエンパスを防ぐ事が出来なかったからこの状況は丁度良かった。
姉さんも向こうから攻めて来ない限りは此方からも攻めずに僕のトレーニングに付き合うと言ってくれた。
もちろん完全にお互いに関わってないわけではなかった。
僕らは相変わらず羅教に尾行されていたし、僕らも戦う準備を進めていた。
そうして3週間が経過した頃、姉さんが言った。
「あなたも完璧にエンパスを防ぐ事が出来るようになった。
 そろそろ攻め時だと思うんだけど、いいわね?」
「それは構わないけど、取り敢えずどうしたらいいの?」
「あたしが羅教から抜ける時、持ち逃げした物の中に拳銃が1丁だけあったわ。
 あなたはそれを使ったらいいわ。実弾も結構あるし」
「姉さんはどうするの?」
「一応エアガンがあるわ。威嚇程度には使えるでしょう。
 改造してあるから実際に弾丸が当たるとかなり痛いものだし、
 接近戦のためのナイフだってあるからね。
 それに、あたしはナイフの方が使い慣れてるから」
「そう・・・」
「幸い羅教はそんなに大きな組織じゃないわ。
 青眠以外には5人だけよ。そのうちエンパスが効かないのが2人。
 此の2人に関しては考えが読めるから簡単に倒せる筈よ。
 後の3人が問題ね。エンパスは効かないし、かなりの強者よ。
 あたしも羅教を抜ける時に苦戦したわ」
「え、それじゃあ・・・」
「大丈夫よ。あたしがついてるわ」
その言葉は不思議と僕を安心させてくれた。
そして翌日、僕らは羅教のアジトへと向かった。
僕らの過去を、僕らだけの物にするために。


22 投賽

僕たちは生まれるべき人間じゃなかったのかもしれない。
裏社会の人間によって作り出された人工の命、其処から僕達は生まれた。
両親を恨むつもりはない。姉さんによれば、両親は非常に優しい人だったらしい。
せめて放って置いて欲しかった。平和に暮らしたかった。
エンパスなんて要らないから、退屈でいいから、もう一度普通の生活がしたい。
でもやつらは其れを許してくれないだろう。
だから僕達は戦いを挑む。
暫く歩いていると暗い倉庫街に着いた。
「さっきから尾けられてるわね」
姉さんが前を向いたまま囁いた。こういう時エンパスは不便だ。相手がエンパスだと肉声よりばれやすい。
「どうするの?」
「取り敢えずもう少し様子を見るわ。でもアジトに着くまでに始末したいわね」
そう言うと姉さんはポケットに手を突っ込んだ。僕もポケットの銃を触ってみる。
冬の空気で冷やされた冷たい鉄の感触が緊張を増幅させる。
当然の事ながら僕は生まれてこのかた人を殺したことはない。銃だって持ったことがない。
こんな事で果たして大丈夫なのだろうか、と心配になってくる。
だがそういうことも言ってられない。自分の身は自分で守らなければならない。
真相を知った以上、何時までも姉さんを頼っているわけにも行かない。
だが是を使うのは後回しだ。弾丸は数に限りがある。
反対側のポケットにはスタンガンが入っている。初めは是を使うんだろうか。
色々考えながら路地を曲がった瞬間、姉さんが僕の腕を引っ張った。
次の瞬間、みぞおちに激痛が走った。
何が起こったのか分からないまま僕はその場に倒れ込んでしまった。
「ごめんね・・・」
姉さんは僕のコートから拳銃と予備のマガジンを取り出すと1人で歩いていってしまった。
だんだんとぼやけていく視界から姉さんが消えていくのを僕は何も出来ずに見守る事しか出来なかった。


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