今、なぜ部落問題か

 新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。
 さて、みなさんは、「部落問題」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
 「部落って何? 聞いたことがない。」という方もおられると思います。あるいは、「部落問題なんて昔の問題だ。今となってはもう関係ない。」「自分たち若い世代は部落に対して差別意識なんか持っていない。」「同和対策事業の成果で、今や部落の街並みはきれいじゃないか。今どこに差別があるというのだ。」という方もおられるかもしれません。
 しかし、果たして現状は、それ程までに楽観視できるものなのでしょうか。
 確かに、昔に比べれば、部落の環境は格段に良くなっています。また、部落差別も確実に減っています。しかし、学力や就労の面を見てみると、未だ部落と部落外の格差は依然として残っています。また、特に結婚などに際して、部落の人を忌避する傾向が今もなお見られます。さらに、近年の情報化の進展に伴い、インターネット上での相次ぐ差別書き込みなどの問題も起こっています。
 このような現状の中で、どのようにして生きていくべきなのでしょうか。

真の「部落解放」とは

 そのことを考える前に、まず「部落解放」とは何かを考えてみましょう。「部落解放」といえば、「部落差別がなくなった状態」と考える方が多いかもしれません。では、「部落差別がなくなった状態」とは、どのような状態なのでしょうか。「部落」が「一般社会」完全に融け込んで、ついには部落がなくなった状態なのでしょうか。それとも、「部落」は「部落」のままで存在し、その「部落」に対する差別がなくなった状態なのでしょうか。言い換えれば、前者は「同化」であり、後者は「共生」であると言えるでしょう。そのどちらの考え方がよいのかは、人によって意見が分かれるところであろうと思いますが、「同化」について一つだけ述べさせていただくと、なぜ「部落」の側が「一般社会」に融け込まなければならないのでしょうか。「部落」はなくならなければならないもの、存在してはならないものなのでしょうか。そうなれば、「部落民」としてのアイデンティティを持っている人はどのように生きていけばよいのでしょうか。
 「部落解放」の姿については、実に多くの考え方があり、そう簡単に答えの出せる問題ではありません。このような中で、しばしば様々な言説が錯綜することがあります。例えば、「部落差別は封建時代の残りかすであり、放っておけば自然になくなる」という言説、あるいは「部落問題は階級の問題であり、部落差別をなくすにはこの社会から階級の差をなくさなければならない」という言説、また現状認識にしても、「部落差別はもうなくなった」という人もいれば、反対に「部落差別は増えてきている」という人もいます。このような言説は、時として政治的な目的で発せられることがあります。そういったものが部落解放に真につながらないことは言うまでもありません。
 大切なのは、この言説の海の中で、まず現状をしっかりと見る、それから自分の考えをしっかりと持つことです。この時に欠かせないのは、批判的精神です。むやみに人の考えに流されてはいけませんし、かといって自分の考えに固執しすぎてもいけません。ここで言う批判的精神とは、他人のことを批判的に見ると同時に、自分のこともまた批判的に見ることです。他の人の考え方を知っていく中で、自分の考えを深めていくこと、そしてその中で、みなさん一人ひとりが自分の思い描く「部落解放」のイメージを持つことが大切なのです。

自分にできること

 さて、そのようにして「部落解放」の姿を思い浮かべても、それだけで終わってしまったら何にもなりません。次に考えることは、「そのためにはどうすればいいか」です。
 とは言っても、一体自分に何ができるのか、想像もつかない人もおられるかもしれません。自分一人がいくら頑張ったって、部落差別なんかどうしようもない、と諦めてしまいそうになるかもしれません。では少しだけ、考えるための指針を述べてみましょう。
 人には、様々な立場があります。学生の立場、会社員の立場、教員の立場、公務員の立場、NPO職員の立場、あるいは、女性の立場、男性の立場、在日コリアンの立場、障害者の立場、部落の人の立場、部落外の人の立場、などです。そのそれぞれの立場で、自分にできることとは何かを考えてみることです。例えば、教員の立場ならば、教育の中で部落問題を教えていく、あるいは会社員の立場ならば、企業の中で部落問題に取り組み、就労の問題を解決していく、といったように。
 一人ができることは、ごく限られたことにしか過ぎないかもしれません。しかし、その「ごく限られたこと」を一人一人が精一杯やることが、「部落解放」への大きな一歩となるのです。
 自分にできることは何か、自分は部落問題に対してどのように生きていけばいいのか、私たちと一緒に考えてみませんか?


戻る
Hosted by www.Geocities.ws

1