SX-EW法の現状と展望

          主任研究員 麻植 邦敏
           作成時期 : 平成11年11月

 


要 旨

 

1.SX-EW法の歴史

SX-EW法(Solvent Extraction-Electrowinning)の技術は1960年代初期にアメリカGeneral Mills社が浸出液から電解採取用強電初液を作る一連のLIX試薬を開発したことに始まり、1968年にアリゾナ州Ranchers Exploration社が銅年産5,000tプラントを建設して工業化した。

その後、1970年半ば抽出剤の改良で、高品質の高純度銅の生産が可能となり1980年代にアメリカで急速に発展し、その後チリで急速にSX-EW鉱山が開発され、現在アメリカを追い越し、SX-EW法による銅の一番の生産国になっている。

SX-EW法が発展する以前、浮遊選鉱法で経済的に処理できない、露天掘りで発生する大量の低品位硫化銅鉱の廃石や酸化鉱への大規模リーチングは、鉄セメンテーション法(置換法)により沈殿銅として回収されていた。

SX-EW法での最近の重要な進歩は、硫化鉱のリーチングを加速するため、バクテリアを使用するようになったことである。この結果、2次硫化鉱銅鉱石(Cu2S,CuS等)に対しては、ヒープリーチング等でのSX-EW法が適用され始めている。しかし、1次硫化銅鉱石(CuFeS2)は浸出速度が極端に遅いため、現段階でSX-EW法は適用されていない。

 

2.SX-EW法の特徴

 SX-EW法の長所を列記すると次のとおりとなる。

・酸化鉱と低品位硫化鉱の処理が可能である。
・極低品位の廃石または尾鉱を処理することができる。
・エネルギー消費量が少なくてすむ。
・水使用量が少ない。
・主要消費財(硫酸、有機溶剤)の再利用が可能。
・地下水汚染は考えられるが、大気汚染がなく比較的環境に優しい。
・従来の選鉱・製錬法より開発期間が短く、起業費、操業費が低いこと。
・高品質の電気銅が得られる。

 逆に欠点としては次のような面がある。

・現地に電解工場等の施設の建設と多量の電力が必要。
・副産物の貴金属の回収に追加費用を要する。

 

3.SX-EW法による銅生産量の推移

 SX-EW法による銅の生産量は、1995年に百万トンを突破し、1998年には198万トンと二百万トンに迫ろうとし、その生産割合も1995年に10%を越え、1998年には16%と増大している。これは、SX-EW法が、鉱山のコストが低いことに加え、低品位鉱や複雑鉱も処理できることやSX-EW銅の品質改善がなされ、SX-EW法を前提に新規鉱山の開発がチリ国等で行われたことによるものである。

 

4.SX-EWによる銅生産量の今後の見通し

 SX-EW法で対象となる鉱石は、現段階では酸化鉱と2次硫化鉱(Cu2S,CuS)である。大型ポーフィリーカッパー鉱床を開発すれば、その地表部の大量の剥土と一緒に酸化鉱が大量に発生し、それが一時的に堆積場に蓄えられSX-EW法の対象となる。ここ数年は、チリ国を筆頭に大型鉱山が開発されてきたが、コスト優位の多くの鉱山は開発されたので、今後このペースでは大型鉱山の開発は行われないだろう。

1999年から2002年までのSX-EW銅生産設備量見込みは、1999年から2002年にかけてそれぞれ2,599千トン、2,788千トン、2,878千トン、2,898千トンとなっている。SX-EW銅の生産量は、今後資源量の8090%をしめると予想される1次硫化鉱(CuFeS2)の処理が可能になるような大幅な技術革新が行われなければ、3,000千トン程度に収れんするように見える。

 さらに、SX-EW法の大きな問題は、現段階では金、モリブデン、コバルト等副産物を多量に含むものには適さない。したがって、金を多量に含む東南アジアの鉱山等では、適用が難しい。また、鉱石中に珪酸塩鉱物(角閃石や輝石等)の種類によって、特に石灰石を含む場合には硫酸消費量が上昇し、コストに大きく影響を与える。また、SX-EW法は、現地で電解用に多量の電力が必要であり、浸出液に使う多量の硫酸も必要となる。また、地下水汚染の恐れや電解工場でのミストガス発生等の環境問題によるコストを考えれば、実施できる地域も限定されるであろう。これらの理由で、今後生産されるSX-EW銅は300万トンを大幅に越えないものと予想される。

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