雫(Leaf '96)
人は争い無しにはいられない哀しい存在です。古来より人は己の信じるものの為に争いを繰り返してきました。それは己の内にある「信仰」こそが自分と他とを分かつただひとつの証であるからです。人が個としての存在を獲得するとき、そこにあるのは誰にも譲ることのできない「信仰」なのです。人はその「信仰」を守る為に、己が己である為に、誰かを傷つけずにはいられません。人。哀しい、存在。それは悲しい、宿命。
人が人である限り争いは避けられません。人は己のれぞんてーとるを懸けて「フィーナとリリアではどっちがヒロインか?」とか「カイエンとログナーではどっちが強いか?」とか「ミハイロヴィッチの左足とロベカルの左足カベに立ちたくないのはどっち?」とか真剣に戦ってきたのです。そして「ひょうきん族とドリフどっちが面白いか?」とか「フリッパーズで凄かったのは小沢か? 小山田か?」とか「今日の料理はどっち?」とか真剣に戦ってきたのです。あと「雫派? 痕派?」とか。
そんで僕は雫派です。コレ言いたいが為に費やした文字数約400字。
『雫』。エロノベルゲームの開祖にして最高峰。
システム周りに隙なし。システム呼び出しで画面切り替わるのとCG回想の使い辛ささえ我慢できれば、あとは何の不満もないでしょう。腐れシステムのノベルが氾濫する現在、前後の選択肢までスキップのありがたみはひとしおです。案外見落とされがちですが、読みやすいフォントが嬉しいですね。でも開祖がこれだけ完成されたシステムを築いてるのに、何で後発はみんな退化してますか? フーマの「不思議ソング」が聞こえてきそうです。
ノベルゲームの一番の楽しさって読む楽しさに他ならないわけですが、この点で『雫』に敵うノベルは今んとこないですね。新しいテキストを読む為のマウスクリックに面白い小説を読むときのページを捲る悦びに通じるモノがありました。『痕』みたいに平行するシナリオが相互補完的にひとつの世界観をなすというのが「ゲーム」として求められる姿なんでしょうが、僕の場合純粋に「読む」のが楽しかったのは「ゲーム」としては一段劣る『雫』の方でした。まあストーリー的に好きなタイプってだけでそう感じるだけなんですが。
逃げてばかりだった主人公が一夜の冒険のなか好きな女の子を守る為に、頑なに守ってきた自分の殻を破って行動を起こす(=精神的に成長を遂げる)っつーベッタベタなお話は…恥ずかしながら大好きです。ワリーかコンチクショウ(照れ隠し)。なんかこういうの好きって言うのアナル上等! とか言うより恥ずかしいです。
ベタベタの少年成長モノってストレートにやるにはどうしても気恥ずかしさが付きまといます。そこで作り手の皆さんはロボットに乗せたり、古代文明の謎を追わせたり、王国の再興を目指させたり、といろいろ設定に工夫を凝らすわけです。『雫』も例外ではありません。このゲームのキーワードは「毒電波」と「狂気」。
なんせ主人公半分アッチの世界に行きかけてますからね。妄想ジェノサイダー。そんでヒロインとラスボスは完全にアッチの世界の住人。毒電波チリチリ。一歩間違うとお笑いダンクシュートを決めかねないこの設定で、息の詰まる日常とそこから逸脱した狂気の世界をきっちり対比させて、ボーイミーツガールして、女の子の為に男になる少年の姿を描ききったライターの手腕はこれぞプロ。
シナリオは展開がどっしりと安定していて、良く出来たハリウッド映画を連想させます。無駄のない破綻のない活劇ぶりは、アッと驚くギミックこそないものの王道の風格が漂い、プレイヤーを全く退屈させません。
キャラも立ってます。作中世界でキャラがちゃんと生きているというか。1人1人のキャラがそこにいるって説得力がある感じ。悪役にも悪役になるだけの理由がちゃんと用意されてる辺りからして、スタッフがキャラというものをどれだけ大事にしているかが分かりますね。
で、しっかりエロいです。登場人物がアッチ側の住人とはいえ、プレイ自体はソッチ系じゃありません。残念。でもエロいです。エロを演出してくれるラスボスの月島兄のステキな壊れっぷりがナイス! 絵の方はこれ16色ですか? 時代を感じさせますね。でもヌく分には別に問題ないです。いつも思うんですけどこの原画サンの描く乳首ってやたらプリプリしてますよね。実はワリと好きです。
オーソドックスな少年成長モノとアッチ側の世界の味付けとがかっちりまとまった良作です。プレイしてて思わずのめりこんでしまうという点で、一気に読んでしまう中編小説や息つく暇のない90分映画に近いものがあります。一気にいく分引っかかるところがなくて、深く心に残ったりはしないんですけど。でも、ほんのり切なさしみるラストはイイ感じ。瑠璃子さん、電波届いたよ。
[ ふきふきだいすき:新城沙織 ]
さおりんかーいー。ツボを押さえた立ち絵パターンが秀逸。明るいお茶目(作中頻出死語)な女の子は素直に好きです。