アメリカの不法移民問題そして住民投票の課題
−カリフォルニア住民提案187を通して−
4年 奥田 麻里
序章:はじめに
第一章:アメリカの不法移民問題
第一節:不法移民の実態
第二節:カリフォルニアの現状
第二章:住民提案(イニシアティブ)とは
第三章:カリフォルニア州住民提案187の成立過程
第四章:Proposition187の波紋
第一節:反対派の主張
第二節:賛成派の主張
第三節:Proposition187が明らかにしたこと
終章:今後のイニシアティブそして不法移民問題の課題
序章
移民の国アメリカにおいて、現在問題の焦点となっているのは不法移民問題である。この問題は全国レベルそして州レベルで取り上げられている問題の一つであり、今後不法移民のアメリカへの流入を規制しない限り改善の余地はない。放置されてはならない問題である不法移民問題は、今後どのように改善されるべきなのであろうか。本論文では、カリフォルニア州で不法移民対策として打ち出されたProposition187に焦点をおいてみたいと思う。(カリフォルニアでは住民提案をPropositionと呼んでいる)カリフォルニア州民による住民提案が何故波紋を呼んだのか、カリフォルニアの現状を直視し、マジョリティーそしてマイノリティーの意見の違いは、どのようにして生じたのか、反対派・賛成派の主張をより明確にし、議論となった論点を考察してみたいと思う。この提案は不法移民問題だけではなく、マイノリティーそしてマジョリティーの意見の違いが表面化した住民提案(イニシアティブ)の問題も含まれており、Proposition187を考察するとともに、この二つの問題に着目していきたい。
日本ではあまり注目を浴びなかったProposition187であるが、アメリカではこの提案に対する論争はメディア・連邦政府・学会など様々な分野によって取り上げられた問題であった。この住民提案についての論文は多数存在するものの、これら多くの論文はProposition187の成立過程を述べているだけで、この提案がどのように人々に影響を及ぼしたのか、この提案によってマイノリティーそしてマジョリティーがどのような立場におかれたのか、ということについて着目している研究はいまだ本格的になされていない.不法移民問題・住民提案において生じる意見のギャップを証明したProposition187を考察せることによって、近年におけるアメリカの不法移民問題、マイノリティーそしてマジョリティーの意見の違い、政治上の立場の違いを理解することが出来るのではないか。
英語の最も代表的な先行研究はBoston College Journal “Equal protection and the undocumented immigrant:California`s Proposition187” と、David S.Broderによる”Democracy Derailed”である.英語の論文でも、Proposition187について書かれている本は存在しない。多くは学会で発表された論文であったり、個人的にインターネット上に載せてある論文だったりと様々である。Proposition187の成立過程が事実にそって記述されている論文は多く存在し、とても参考になっている.しかし、それらは多くの場合事実の列挙であって、この提案がどのようにして人々に影響を及ぼしたのか、成立後の影響についてはあまり記述されていない。
本論文ではProposition187においてみる、不法移民問題そして住民提案の存在理由を検討してみるのが目的である。”Democracy Derailed”では住民提案(イニシアティブ)がどのようにアメリカでは行われ、何故行われるのか、誰の手によって行われているのか、といった事について論じている。カリフォルニアのイニシアティブの例も書かれていたが、主にProposition226とProposition13について述べてあり、あまりProposition187についてはあまり触れられていなかった。しかし、イニシアティブが、どのようにしてアメリカ社会に適応されてきたのか、どのような根拠によって成り立ったのか、などイニシアティブの基本的な知識をこの論文を読むことによって得ることができた.これらの論文を参考として、比較しながら、自分なりの考えをまとめていきたいと思う。
Proposition187が住民提案によって可決された後、この提案の存在理由が問われるようになった.この提案については、不法移民問題だけではなく住民提案という制度そのものにも問題があると思われる.Proposition187によって表面化した不法移民問題・住民提案の制度の実態を明確にすることが、本論文のオリジナリティーである。
本論文は二つの観点からProposition187を考察する.不法移民問題そしてイニシアティブの存在理由と問題を同時に明らかにすることで、多民族国家アメリカが抱えている根本的な問題が明らかになってくるかもしれない.本論文は歴史的な論文ではなく、Proposition187に到るまでの様々な経緯を記述し、問題点を指摘した、アメリカ研究の論文としては新しい論文になるのではないか.この論文では、自分なりの意見・思想も書いてみたいと思っているが、その場合私的な論文になりやすいので、事実にそった自分なりの意見を取り入れるようにしていきたい。
第一章 アメリカの不法移民問題
第一節 不法移民の実態
移民の国アメリカであるアメリカの歴史をみると、その時期の社会、経済、政治、国際情勢等に影響され、移民の数や構成等に大きな変化があった.とりわけ、近年数量的に見れば、今世紀初頭以来の大量移民が流入しているとともに、構成面から見れば、1965年の移民法により、出身国別割当制度による人種差別的な制限措置が廃止されてから後、当初の予想に反して、アジア等ヨーロッパ以外の諸国から多くの移民がアメリカに入国してきている.またメキシコ等から不法移民の流入が増大し、1986年の移民修正管理法(IRCA)による雇用主処罰規定が盛り込まれるなど不法移民対策が実施されるが、これらの政策が成功したとわ言えず、1993年の不法移民は、約380年と推定され、そのおおよそ半数はカリフォル二アに集中している。[i]
そして合法的な移民の数は近年減少しつつあるのが現状である。移民帰化局の資料によると、1986年に改正された移民法の法的救済措置により合法化された不法移民が市民権受給資格を得た年である1991年は、182万7167人と史上最多であったが、その後毎年減少を続け、1992年97万3977人、1993年90万4292人、1994年80万4416人、1995年72万人となっている。その後、一時期増加するもののまた減少し、推定では2003年には、難民などを含まない合法移民のみで72万9000人と予測されている。
問題なのはこれらの移民は自給能力があまりないと、世間一般では言われていることである。ひとつの推定では、移民の5人に1人は公的援助を受けているとされる。そしてこのことによって政府予算が縮小し、未熟練労働市場の供給が過剰になっているのではないかという問題が、今アメリカでは大きな社会問題となっている。結果として、アメリカのマジョリティー内では違法に滞在する外国人には断固とした処置をとるべきだという社会的合意が固まりつつあるのだ。[ii]反移民派は、移民特に不法移民は、アメリカ人の雇用を奪い、社会保障にただ乗りし、その負担が一般アメリカ人納税者にかかっていると主張するのである。不法移民の低賃金労働によって利益を得るのは彼らを雇う産業だけでり、不法移民を排除することによって、節約した資源を健全なアメリカ市民のために使えると考えるのだ。
全国的に、移民の数を減少することを望む人々が増えてきている。1965年では、たった33%の国民が移民減少を望んでいた。当時多くの人々は、移民に対して問題意識を持たなかったため、アメリカの移民政策の改善を求める人はあまり存在しなかった。しかし1993年では、65%の国民が移民の減少を求めていることが明らかになった。[iii] 移民に対する意見は、現在移民は肯定的な力となる(44%)もしくは消極的な力となる(49%)といった二つの主張に分かれている。[iv]そしてこれらの主張は、解答者の所得によっても異なってくる。未熟練労働者の中でも、収入20,000ドル以下の人はわずか3分の1の人が移民は肯定的な力と考えている一方で、年収75,000ドル以上の労働者は移民に対して肯定的なイメージを持っている。これらの主張によって、低所得層ほど移民に対して否定的なのことが明らかになる。
しかし、世論の移民に対する意見は分かれている。そして不法移民に対する意見も分かれている。一部の世論が移民の減少を求めている一方で、一部の世論は新しい移民の文化・言語を奨励している。ある世論調査によれば、72%の人が移民は独自の文化を守るべきだと考え、81%の人は移民の言語を維持するべきだと考えた。そして一部の世論は不法移民に対する緊急時における医療サービスを提供するべきだと考えているものの、一方では過半数の人々は不法移民の子供が教育を受けることを否定している。[v]これらの意見の相違は、アメリカの大衆におけるリベラルそして人道主義的価値観の衝突、そして世論の社会の現状が悪化することへの不安を反映しているのである。
1996年の移民帰化局(INS)の発表によると、アメリカ国内には約500万人の不法移民が存在し、毎年30万人増加していくものと推定された。不法移民の半数は、学生、訪問者、一時労働者、観光者として合法的にアメリカへ渡り、ビザの期限を過ぎた後も不法に滞在している人達である。移民に関する議論の多くは、不法移民問題に関してのものに集中しているのが現実である。アメリカの国境は「規制不可能」であると信じる人が増えてきており、この種の認識が、政策立案者、国民、州民、学者、メディアに対して、アメリカは不法移民をいかに規制するかを再び考えさせる大きな要因となっている。
不法移民対策の目標は、すでにアメリカに滞在している不法移民がアメリカで生活することを困難にすることによって、彼らをアメリカから退去させるとともに、アメリカに今後不法入国しようとする人々を差し止めるために行われているのである。
しかし一方で、すでにアメリカの産業構造に組み込まれている移民労働なしでは、アメリカ経済は成り立たないといわれていることも忘れてはならない。大部分の移民は、職があり所得もある。居住期間の長い移民ほど所得も増加している。そして所得の大部分を、アメリカ製やサービスの消費に当てており、移民および不法移民による経済効果は重要なのである。
不法移民についての問題は、様々な角度から考察される必要性がある。しかしマイナスな部分が強調され過ぎてしまい、人々がこの問題に対してとても感情的になっているが現状である。この不法移民問題を通して、人々の社会への不安感や疎外感が伝わってくる。
第2節 カリフォルニアの現状
カリフォルニアは不法移民が最も多く居住する州であり、約200万人と想定される。(不法移民が居住する上位5州は5位イリノイ州29万人、4位フロリダ州35万人、3位ニューヨーク州54万人、2位テキサス州70万人、1位カリフォルニア州200万である)カリフォルニア州において不法移民にたいする議論はつねに絶えることはない。[vi]
カリフォルニアでは、戦後の繁栄のもと、アメリカン・ドリームを実現する州、黄金の国カリフォルニアとして、全米や世界から見つめられていた。高速道路の整備、水道システムの構築、教育水準、良質な行政などで、全米のトップレベルにあった。
1970年代に入り、経済成長の停滞、インフレの促進、ラテン系・アジア系移民流入の増大などを背景とする、重税負担感が納税者の間に強まった。これらの納税者大反乱の嵐は、カリフォルニアの経済が立ち直りはじめた1990年代前半まで吹き荒れた。
カリフォルニアの州内総生産は、1990年において7,450億ドルで、アメリカ第一位の地位を占めるようになった。その他、アメリカ経済に占めるカリフォルニア経済の比重は、1993年データで、国民所得12.7%、雇用人口11.6%、輸入20%、輸出17%となった。
カリフォルニアの経済は90年夏頃から、景気後退にみまわれ大恐慌以来といわれる不況のなかにあったが、アメリカ経済全体の景気回復に遅れて、やっと回復に向かった。しかし、景気が回復に向かっているというものの、州経済の活性化に向けての施策の展開が不可欠となっているとともに、所得格差の増大、将来への不安感により州民の経済実感は否定的な見方が多くなってしまった。このような経済情勢は、州民が不法移民問題等に関心を集める大きな要因となってしまった。
そして、カリフォルニアでは財政問題が浮上してくるようになる。州外からの人口流入によって教育や福祉支出が増加を続けたことから州財政は財源不足に悩まされるようになったのだ。91年―92年度の財政予算は560億ドルであったのに対して、約143億ドルもの財政赤字が見込まれたのである。大幅減税・歳出削減などにより対処しようと試みたものの、改善はされなかった。財政難は州民に不安感を与え、その不安感を州民は不法移民に向けるようになっていった.不法移民への批判はイニシアティブという制度によって向けられた。州民は単に不法移民を批判するだけではなく、自らが活動を起こし法的に不法移民に対して制裁を与えようとしたのである。
第2章 住民提案(イニシアティブ)とは
カリフォルニアのしくみのなかで、選挙制度のうちの住民投票をみてみることにする。住民投票制度は大きく分けて、@州民が所定数の署名を集めて州民投票を提案する「住民提案」(イニシアティブ)、A憲法の規定により憲法修正や州債の発行等について州民の承認を求める州民投票(広義のレファレンダム)、B州民が所定数の署名を集めて州議会が可決した法律の効力発生を留保させ、その是非を問うために行う州民投票(狭義のレファレンダム)、C州民が所定数の署名を集めて現職公職にある者の罷免を行うために州民投票(リコール)がある。この内、最も州政府に影響力を及ぼしているのは、イニシアティブである。イニシアティブは、法律や憲法の改廃に対して、住民が直接に条文を作成しその可否を住民投票で問うものであり、州憲法の改正も行われる。知事選挙における投票総数の8%を州憲法の改正のときには必要とされ、州法の改正においては同じく5%の有権者の署名を集めることで、連邦議会や知事選挙などの選挙に合わせて、州民提案に上程されるのだ。[vii]
次に、何故イニシアティブが活発に行われるようになったのか述べてみたいと思う。
近年、政府と有権者との代表的な民主主義に基づいてできている信頼関係は、最悪にも悪化しているという懸念がある。世論調査によると、ワシントンは正確な判断を下していると信じている国民は小人数にすぎないことを、示している。冷戦後、このような反ワシントン感情は政治権力の移行を揺るがしたのである。アメリカ国民の生活そしてコミュニティーの性格・価値などへの判断は現在ワシントンではあまり下されることはなくなった。それらに対する責任は、州政府や都市に委ねられているのが、現状である。メディケアそして社会保障以外では、連邦政府による出費は地方政府による出費よりも少ない。[viii]
半数の州(カリフォリニア、ニューヨークからナウムまでの多くの自治体を含む)では、政策は政府によって下されるのではなく、一般国民のイニシアティブによって下されるようになった。1998年において、アメリカの有権者はイニシアティブを通して、法を可決したり、憲法を修正したりと、より多くの目的を果たすようになったのである。彼らは、積極的優遇処置を廃止し、最低賃金を上げ、掲示板を廃止し、ドラッグへのアクセスを厳しくし、政治献金を制限し、様々な狩りの様式を廃止したり、中絶を禁止するなどいろいろな政策を打ち出していったのである。[ix]
イニシアティブによる制度は憲法上のChecks and Balanceの制度からの急進的な変化ではなく、それらは弁護士やキャンペーン・コンサルタントにとっても大きなビジネス・チャンスとなっているのである。彼らは(多くの場合州の住民でない場合が多い)イニシアティブは、選挙の立候補者を援助した後、ロビー活動をして目的を達成するというやり方よりも、有効的な方法だということを学んだのである。
この政策は前世紀、ポピュリストと革新主義者が国民投票、民衆の予備選挙、上院議委員の直接選挙、遍歴のある公務員の解任、などを目標とするためにイニシアティブを用いたことが根元となっている。[x]
イニシアティブの根本にある理念は、州民・国民による直接参加・直接立法である。アメリカの直接立法制度は、州では1898年サウスダコタで最初にこの制度が確立された。当時、地方議会政治の腐敗を改革する革新主義運動と同時に直接参加運動は、またたくまに西部にひろがっていった。今日、新たに直接立法制度を導入する州もあるが、制度の多くは19世紀末から20世紀の始めのほぼ20年間に制定されたといってよい。直接立法制度が開始されたこの20年間に各州で鉄道、通信、会社等への課税、大統領予備選挙や連邦議員選挙の改良、公務員の8時間労働制や労働者への災害補償、婦人参政権の導入等、多くの革新的な政策が打ち出された。[xi]
直接立法制度の起源を考える際、@19世紀末から20世紀初頭にかけての革新主義運動発祥説、Aそれより1ー2世紀前のニューイングランドのタウンミーティング(住民総会)にさかのぼる説、Bスイスからの輸入説に分かれる。しかし、どの説も直接立法制度と革新主義運動についてふれており、この運動をぬきにして直接立法制度は語れないだろう。[xii]
それは何故ならば、先ほどにも述べたように、アメリカ各州でもっとも直接立法制度が導入された時期は、1898年から1918年までのほぼ20年間なのであるからだ。アメリカ地方政治における直接立法制度を考える際、この20年間、つまり19世紀後半から20世紀初頭にかけて全米に反映した革新主義運動の影響を考えることが重要となってくるのだ。
その背景には、南北戦争後のアメリカ資本主義下における都市労働者階級の台頭、スラムの発生、そして一方では農村における失業など、この時期は農村と都市を問わず各地に深刻な社会問題が発生した。革新主義運動の人々の眼は、農業経営者に対する救済と、地方政治において鉄道会社と癒着している州政府の政治改革へと向けられたのである。
革新主義者の努力は「アメリカ固有の制度の再発見にほかならない」といわれているように、改革策として特に彼らが検討したのはニューイングランドの直接民主主義制度としてのタウンミーティング(住民総会)であった。ニューイングランドのタウンミーティングは、直接民主主義のもとに住民自身が統治するという制度であり、300年の伝統を持っている。
また、同様にスイスのカントン(州に相当する)政治を革新主義者が取り入れたことも、制度確立に影響している。中世の終わり頃から、スイスではレファレンダム(直接表決)が実施されていた。17、18世紀にはその制度は禁止されたものの、1848年スイスが連邦制となった後、多くのカントンでレファレンダムが提案された。1870年以降、スイスではよりこの原理を受け入れるようになり、重要事項は国民投票にかけることを決定したのである。[xiii]
このように、ニューイングランドのタウンミーティングの伝統、そしてスイスのカントンなどの政治様式を革新主義の時代に取り入れ、直接立法制度は全米に普及していったのである。以上のこうした直接立法の歴史をふりかえると、@社会正義を求める広範な革新主義運動を背景に、A地方議会政治の汚職や権力の乱用など州議会の腐敗に対する住民の失望と怒り、B革新主義者の教育普及活動、C間接民主主義に対する直接民主主義による議会改革の提案、D参加民主主義による政治文化の復興と活発化への住民の要求が制度確立したといえる。[xiv]
イニシアティブという政治制度は、革新主義による直接立法そして直接参加の理念を根底においている。そしてこれらの政治制度は、アメリカの歴史とともに民衆によって実施されてきた。アメリカの政治史においてイニシアティブの概念は、欠くことのできない概念であるといっても過言ではないはずである。しかし、現在アメリカではその政治制度が腐敗の危機にあるのではないかという懸念が多発している。そして人々は、イニシアティブの存在理由について疑問を抱くようになったのである。革新主義者が求めていた、民衆による直接参加・直接立法を実現可能にしたイニシアティブは、当初求めていた政治文化とは異なった政治制度へと変化しつつあるのだ。
現在、イニシアティブに関する論文はアメリカにおいて多く存在する。それは、民衆が日常茶飯事に行われているイニシアティブについて、再び考え直す時期を求めているからではないか。アメリカでの直接参加・直接立法の伝統を振り返り、今度イニシアティブはどのように活用されるべきなのか、住民にとってイニシアティブとはどのような政治制度なのか、などの疑問をより明確にしていくことが必要となってくる。イニシアティブについての今後の課題については、論文の後半で述べてみたいと思う。
第3章 カリフォルニア住民提案187の成立過程
イニシアティブといえばカリフォルニアを思い浮かべる人は多い。カリフォルニアのイニシアティブで有名なのはProposition13やProposition187などである。Proposition13は、1978年州固定資産税が年間1.2倍にまで跳ね上がる事態に対抗して、120万人の署名を州民が集めて、70億ドルの減税を盛り込んだ州憲法の改正を求めたイニシアティブである。結果は70%の賛成を得て成立し、知事は「民意に従う」として減税に踏みきった。住民パワーが減税を獲得した初のケースとして注目され、「納税者の反乱」と通称されている。[xv]
カリフォル二アの州民は、彼らの州の政治制度そして政府のあり方を3つのイニシアティブによって認可したこともある。1つ目は立法府の委員の任期制限を成立させ(州の下院で6年間、上院で8年間、そして退職)、2つ目は州そして地方の選挙候補者達への政治献金を制限し、3つ目は州政府への立候補者の指名制度を変えたのである。分割した予備選挙を民主党、共和党そして他の党で行うよりも、カリフォルニアでは様々な党の立候補者を一つの予備選挙に集結させ、市民に候補者を役所そして党に限らず選択だきるようにしたのだ。このようにカリフォルニア州民は積極的にイニシアティブを取り入れているのである。
次にProposition187の例をあげてみたいと思う。カリフォルニア州知事であったピート・ウィルソン(共和党)は32年間の議員生活を送った、サン・ディエゴの市長、カリフォルニア州議会議員、上院議員などの経歴を持つベテランであり、様々な選挙戦を経験してきた。その中で携わった政策の一つがProposition187であった。1994年の再選に向けてウィルソンは彼の全力をProposition187に費やした。提案はほぼ60%の支持を受け、可決したものの、違憲の疑いのため地方裁に委ねられることになったのである。最終的には違憲判決がくだされたものの、このイニシアティブは彼の再選を優位にした提案であった。そしてこの住民提案は、不法移民に対する市民の価値観の違いが問題になり、州レベルだけでなく、全米にまでも反響を及ぼした提案であった。ウィルソンによって打ち出された提案であったものの、市民の関心は過熱化し、様々な論争が起こったのである。
Proposition187は“Save Our State”という名前で呼ばれ、カリフォルニア州知事選においてピート・ウィルソン知事(共和党)によって支持された、94年11月州民投票(59%対41%)によって可決した提案である。ピート・ウィルソンはこの州知事選において再選をねらっていた.内容は不法移民への教育、福祉、医療サービスの提供を拒絶するものであった。選挙直前にウィルソン陣営は、テレビでProposition187の賛成広告を流すキャンペーンを展開したのに対し、反対派は反対広告を流すキャンペーンを行った。反対派と賛成派の主張が対立し、選挙キャンペーンが大々的に行われたのである。このイニシアティブでは全体の投票の内、81%が白人であり、Proposition187に”Yes”と答えた白人は63%、黒人は47%、ヒスパニックは23%、そしてアジア人は47%であった.しかし、その後この提案は過半数の支持を得て可決した提案であったものの、反対派による違憲訴訟が起こるようになったのである。[xvi]
Proposition187が承認された直後に、サンフランシスコにある州上級裁判所やロス・アンジェルスにある連邦地方裁判所にその差し止めを求める訴えが提起され、州裁判所や連邦裁判所からProposition187の条項の施行の一時停止がいいわたされた。その後、連邦地方裁判所から、暫定的禁止命令が下され、1995年3月には州上級裁判所かたも暫定的禁止命令が下されている。そして同年11月には連邦地方裁判所のマリアナ・フェイザー判事によってProposition187の主な条項について違憲判決が下された。[xvii]
不法移民はカリフォルニア市民にとって肯定的な影響を及ぼしてないと思われている。
しかし、不思議なことにこれらの解答者の多くは、不法移民はカリフォルニア労働者の職を奪ってはいないと考えている。また、これらの解答内容は民族、学歴、そして所得などによって異なってくる。黒人そして高等教育を終了した世帯主の多くは、不法移民によって職を奪われたと考える人は多い。そしてヒスパニックの世帯主の多くはまったく反対の意見を持っている。アジア系の州民もヒスパニックと同じ考えを持っている。そして白人の世帯主は問題点によって意見が異なっている。ここで明らかになることは、マイノリティーとしてアメリカ社会で位置づけられることが多い黒人は、雇用の面では不法移民に対して否定的なイメージを持っていることである。
Proposition187が59%の票を得て可決した理由は、マジョリティー(主に白人だが、黒人、中国人などの人種もこの提案においては含まれる)による不法移民への反感がおもな理由でもあるが、その時期の時代背景もおおいに関わってくることを念頭におく必要がある。共和党員ピート・ウィルソン知事が知事選で再選をねらっていた1994年は、実は共和党にとっても劇的な年であったのだ。1994年11月に第104議会を決定する中間選挙が行われ、この選挙は政界再編成をもたらした「決定的選挙」と分類されてきたいくつかの大統領選挙と並びうるほどの衝撃をアメリカ政治に与えることとなったのである。[xviii]
94年11月の中間選挙の結果、下院では共和党が一挙に54議席増やして過半数を13上回る230議席を獲得した。上院でも、同党が8議席を増やし、非改選議員と合わせて53対47と民主党を逆転した。これはアメリカのほとんどの政治評論家も予想できなかった巨大な変化であった。下院で共和党が多数党になったのは54年以来40年振りであり、上院では86年以来8年振りであった。[xix]
94年選挙の激震は、その後の政局にまで及んだ。ほとんどの共和党下院議員候補は94年中間選挙に先だって、「アメリカとの契約」といわれる公約集に賛成し署名していた。政策的・組織的な規律が弱いアメリカの政党が、とくに地元の争点を中心にした個人選挙の色彩が強い中間選挙に臨んで、このような公約集を作成するのは非常に異例であった。ましてそのような手続きを得た上で、少数党から多数党に上昇することはきわめてまれである。必ずしも有権者がこのような公約集を熟知して投票したわけではないが、「アメリカとの契約」をとりまとめたギングリッチ下院議員(ジョージア州、共和党)の統率力は評価せざるをえない。95年に第104議会が始まると、ギングリッジは下院議長に選出され、「アメリカとの契約」をてこにして強力な指導力を発揮してクリントン政権と正面から対決することになる。[xx]
対立が先鋭化したのは、約70名の新人議員を中心に党内保守派の力が一挙に増し、またギングリッジを中心に党の結束力もきわめて強かったからである。クリントン大統領は下院では共和党議員をほとんど切り崩すことができなかった。この時期、アメリカでは例外的に共和党の規律はきわめて強かったのである。[xxi]
このように、1994年はアメリカにおいて劇的な年であった。そしてなによりも重要になってくるのが、その時期の世論の風潮であろう。クリントン大統領のスキャンダルそして政策決定力のなさにたいする、国民の不満がこのような風潮を生んだのである。そしてアメリカ国内での保守化が進んでいることもここで指摘される。不法移民問題・財政難など国民が身近に不安だと感じる問題がその時期多く存在していたのである。これらの風潮の中、共和党が下院議会で多数党になったことで、ニューディール以来の福祉政策の見直しが検討されるようになった。そしてこのような保守的な風潮に便乗したかたちで、ピート・ウィルソン知事はProposition187をスローガンとして掲げ再選をねらったのである。
第4章 Proposition187の波紋
Proposition187は、全部で10セクションあり、カリフォルニア及び地方機関が、アメリカに不法滞在する者に対して、教育、医療、福祉サービスを行うことを禁止し、誰かが公的なサービスを求めたときにはその者の法的地位を調査し、当局へ通報するという、州管理の「調査制度(Screening System)」を成立させようとするものである。
Proposition187の主要な条項は、大きく6つに分けられている。
1) セクション7及び8(公教育機関の排除)
不法移民に対して、公立小・中・高校および公立高等教育機関(大学等)への就学を禁止する.全ての公教育機関に対して、児童生徒およびその両親、学生の法的地位を確認することを義務づける。
2) セクション6(公的医療サービスからの排除)
公的医療機関に対して、医療サービスを求める者の法的地位を確認することを義務づけ、不法移民である場合には、緊急時の医療サービス以外の公的医療サービスを提供することを禁止する。
3) セクション5(公的社会福祉サービスからの排除)
公的社会福祉機関に対して社会的福祉サービスを求める者の法的地位を確認することを義務づけ、不法移民である者には、公的社会福祉サービスを提供することを禁止する。
4) セクション4
法律執行機関に対して、逮捕した被疑者の法的資格を確認することを義務づける。
5) セクション2及び3
不正な法的資格に関する証明書の作成・販売・使用等した場合、重罪に処せされ、罰金が科せられる。
6) セクション4、5、6、7及び8
公的機関は、不法移民者を州司法長官及び連邦移民帰化局(INS)に対して通報することを義務づける。[xxii]
第1節 反対派の主張
主なProposition187の反対派としてあげられるのが、ACLU(American Civil Liberties Union)やMALDEF(Mexican American Legal Defense and Education Fund)などの団体である。反対派の主な意見は、Proposition187は合衆国憲法修正14条の平等保護条項を侵害しているとともに、カリフォルニア州憲法平等保護条項(ArticleT、Section7)にも反しているという主張であった。Proposition187はテキサス州で違憲とされた州法と同様な内容を持つもので(1970年代の後半、不法移民に対する学校を否定する法律で、この法律に対し訴訟が起こり、1982年連邦最高裁判所は、(Plyler vs Doe)テキサス州法はアメリカ合衆国憲法に違反していると判決を下し、この法律を無効とした)、Proposition187も違憲であるはずである、といった主張が述べられた。もしこの提案が成立され、このような条項が実行されようものなら、およそ25万人の子供たちが教育を受けられなくなるというのである。
この教育の否定について多くの批判が反対派から寄せられた。市民権擁護者にとっての主要な武器は、合衆国憲法修正14条(法の平等な保護)であり、この条項により、個々のグループ、個人はそれぞれ個別に扱われることが認められており、政府は正当な理由がない限り差別してはならないとProposition187の反対派は主張した。政府が歴史的に政治的無力であった民族グループ(マイノリティー)に対して差別を行う場合、「厳格な」審査が必要なのである。[xxiii]
学校教育を否定すれば、社会全体が被害を被るといえる。もし、教育を受けて教養があり、選挙に積極的に参加する選挙民が民主主義社会にとって必要不可欠であるならば、教育の否定は民主主義にも影響を与えることになる。さらにいえば、個人の教育を否定することは、社会に害を与えることに最終的にはなってしまう。経済システムに参加できない人々は、相当数、犯罪活動を行う数が高い。アメリカで重犯罪を犯したため投獄されている人の約60%の人は、中等教育を終了していない人である。国の積極的差別撤廃措置(アファーマティブアクション)によって得ることができるようになった学校教育を否定されれば、貧困に加えて疎外感や怒りに悩まされ、反社会的行為を犯す危険が増大することが懸念されるのである。人々が貧困に陥ることとなれば、個人の健康、ひいては社会全体の公衆衛生を損ねる危険性が高まることが懸念される。そしてこれらは、貧困からくる障害のためではなく、健康に関する問題を発見し処理するという点について、学校はまず最初の施設として機能するべき場所なのであると反対派は訴えた。[xxiv]政治的にせよ法的にせよ、教育の否定は、国が提供する公的サービスを否定するという意味だけにはとどまらない問題となってくるのである。教育の否定は、個人そして社会に破滅的な大打撃を最終的には与えるため、あってはならないと懸念されたのである。
事実、不法移民の子供たちは、学校から排除されることを強制されるのではないかと恐れ、親も子供が移民帰化局に通報される危険があるので学校に子供は通わせないという親が多く存在した。また、不法移民の家族は、不法移民だけではなく、アメリカ市民権を持った子供もおり、この子供たちにも悪影響を及ぼすという問題を抱えている。この損害は、回復できないものである。そして、不法移民の子供が公立学校に通学できなくなったとしたら、不法移民の家庭は私立学校に通わせるだけの余裕はなく、教育を受けることは不可能になる。何故なら、家庭内でも親がきちんとした教育を受けていないため、十分な教育ができないからである。これらの問題は、字が読めない子供を増やすだけではなく、子供たちを非行に追いやるなど、社会的損害は大きいのだ。
この他、Proposition187が、連邦法であるThe Family Educational Rights and Privacy Act(連邦から助成を受けている教育機関は生徒や親の同意がなければ個人の情報を開示することを禁止する法律)を侵害することも主張している。
これらの主張をより明確にするために、反対派は様々な対策を行った。主に政治キャンペーンを展開することによって、人々のProposition187への関心を引き反対論をカリフォルニア有権者に訴えかけたのである。Proposition187のイニシアティブで成功をもたらした賛成派に対して、反対派もコンサルティング会社などを用いて、Proposition187に真っ向から対抗したのである。
Proposition187に反対する選挙キャンペーンの決定的な議論のなかには、様々な問題が含まれていた。何故ならこのキャンペーンは間違った前提において始められたからである。もし、反対運動がより主流派の意見を考慮することができたのならば、投票において反対派は過半数を得ることができたかもしれない。反対派のキャンペーンは、白人有権者の不安を解消するようなレトリックを使うことなどによって、もっと彼らに対してアピールしていれば、票を増やせたはずなのである。1994年11月の不法移民対策 (Proposition187)は、カリフォルニアの有権者が抱いている、生活における不安や心配を的確に指摘していたため、この政策に太刀打ちできる選挙戦略は存在しないであろうと思われていたのだ。
20世紀の内に、カリフォルニアでは有色人種がマジョリティーになると思われている。理由として挙げられるのが、他の州・国からカリフォルニアに移ってくる非移住者の数の増大、有色人種のコミュニティーでの出生率の高さなどが要因となっている。しかし、登録された有権者の数はいまだ76%が白人である。Proposition187は、白人有権者の不安を公において主張できる最適なチャンスであったのである。
5月のLos Angels Timesの世論調査では64%の白人がProposition187を支持していたことが明らかになった。そして11月8日の投票結果では63%の白人が”Yes”と答えている。反対派(宗教、労働、地域団体を含む)から費やされた200万ドルほどの活動資金は、最終的に白人有権者に影響を及ぼすことはなかったのである。
当初、この提案に反対する人はあまり存在しなかった。ヒスパニックはこの提案に反対していたものの、当時は52%の支持しか得ていなかった。アジア人そして黒人のなかでは、Proposition187に賛成する人も多かったのだ。しかし11月8日、反対派は77%のヒスパニック票を獲得することができ、53%のアジア人・黒人も反対を表明した。有色人種の投票率は、白人の有権者に比べて(白人の投票率は全体の81%であった)あまり高いものではなかったが、有色人種の地区において画期的な変化があったことは事実である。[xxv]
政治コンサルタント業界は、ここ15年で急速な成果を遂げている。政治戦略の手法は高度な技術を持つようになり、大きな成功をもたらしたのだ。彼らにとって、経済的にも裕福で、自身の偏見をより強めた、白人の高齢者などの”有望”な有権者を認識し、彼らを投票へと導くことが大きな目標となっている。[xxvi]
ウッドワードそしてマックド―ウェル率いるコンサルティング会社の指導により、Proposition187にたいする主要な政治キャンペーン“Taxpayers United Against Prop187”(納税者はProposition187に反対するために結束する)は画期的な選挙戦略を試みた。(これらのコンサルティング会社は、カリフォリニアのヒスパニック議員達の協力を得たうえで、州の民主党によって招かれた)彼らいわく、このProposition187のイニシアティブによって再認識されたことは、90%の有権者は不法移民について”重大な問題”と捉えていることであった。このような今回のイニシアティブ投票にとって”有望”な有権者の中にある風潮を変えるために、コンサルティング会社は不法移民問題の根本的な問題に焦点を置いた。連邦政府による、国境周辺での不法移民の取り締まりが欠如していることによって不法移民問題が悪化していることを示唆したのである。他にも、学校を追放された子供たちによる犯罪が高まること、治療を受けられなくなった不法移民による結核などの重い病気の感染の恐れ、そしてProposition187の内容を現に実行するためには多額の資金が費やされることなどの問題を訴え、Proposition187を批判した。
結果としてProposition187の反対派は北部の8地区(アラメダ、マリン、サンフランシスコ、サンマテオ、サンタクララ、サンタクルーズ、ソノマ、そしてヨロ地区)で勝利を得た。そして接戦であったのがコントラ・コスタとフンボルド地区であった。その中でも、大成功を遂げたのがサンフランシスコであった。その地区では”No on 187”という選挙キャンペーンが行われ、71%の票を獲得した。[xxvii]
第2節 賛成派の主張
主な賛成派はFAIR(Federation for American Immigration Reform)やピート・ウィルソン陣営である。
賛成派の人々の意見はというと、彼らの税金は不法移民のために無駄に使われていて、通常の納税者が得るべき利益や公的サービスが不法移民によって失われている、といった主張であった.財政難が続くカリフォルニアにおいて、不法移民がもっとも多く居住する州として、その問題の要因となるのは不法移民であると考える州民が多いのである。
賛成派の代表として、ウィルソン知事側が、1995年2月8日、州上級裁判所に対して展開した主張をみてみると、大要は次のとおりであった。
@ 不法移民は初等及び中等教育を受けるうえで法の平等を受ける権利を持つということは、連邦最高裁では扱われたが、カリフォルニア州憲法下では、初判事件であり、ありカリフォルニア州憲法の半例が示すとおり、合法滞在者と不法移民は同一状況にある者ではなく、カリフォルニア州憲法の平等保護条項の下でのProposition187の合法性を決定する際の妥当な基準は、厳格な審査基準ではなく、合理性を基準とするテストである。
A 不法移民を学校教育から排除するというProposition187は、教育に利用可能な希少資源の減少を防ぎ、不法移民から学校教育のための財政の健全性を確保するというカリフォルニアの正当な利益に合理的に関連する。
B これまで、連邦レベルで不法移民が違憲の疑いの強い分類であると判決されたことはないし、また、カリフォルニア州裁判所は、不法移民には教育を受ける権利を基本的権利と認める判決を下していない。厳格な審査がカリフォルニア州憲法下で適用されるならば、州は財政の健全性の確保(不法移民に対して負担する17億ドルの財政負担の軽減)、法遵守の精神の保持、不法移民の削減(反対派は不法移民がアメリカにやってくる理由は教育ではなく職のためであるとするが、教育は関係ないとするのは非現実的である)の点からみて、Proposition187を制定することは強い公共の利益を重んずることになる。
C 連邦最高裁(Plyer vs Doe)は、不法移民が学校教育システムに与える影響に関してテキサスが示した証拠に関心を持ち、不法移民がテキサスの経済に重荷になるとはいえないとした。しかしながら、カリフォルニアでは全不法移民の42%が居住しており不法移民の影響を強く受ける他の州と比べても、より大きな影響を受け、初等及び中等教育に費やされる額は、17億ドルにも及ぶ。こうした差異のため、Plyer vs Doe事件は今回のカリフォルニアのProposition187には当てはまらなず、合理性を基準とするテストが妥当である。[xxviii]
第3節 Proposition187が明らかにしたこと
Proposition187の投票結果は移民に対する世論の反応を明らかにする窓口となった。投票結果は、世論の移民に対する意見はメディアそして人種差別主義者・反移民派を批判する政治家達が思い描いているものよりも、複雑であることを証明したのである。このイニシアティブによって、少数のエスニック集団は移民の減少を望んでいることが明らかになった一方で、移民を強く支持する人も存在することが明らかになった。移民の現状に対する賛成派も反対派もProposition187によって集結したのである。Proposition187を対立点として、不法そして合法な移民全体に対する人々の意見が、より明確になり真っ向から対決するようになったのだ。
その反面で、Proposition187は保守派による、州政府における国境警備の支配、そして大量の移民がカリフォルニアに流入していることを連邦政府に認識させるための策略であったのではないかという見方も存在する。そしてProposition187は”有色人種を差別し、彼らの文化を抑圧し、彼らを階級そして人種によって分別するため”の策略だったのではないかと検討されている。[xxix]
Proposition187はカリフォルニア以外の州でも話題となった。そしてこれらの話題は、アメリカの国境を超えて波紋を呼んだ。メキシコそしてエルサルバトルの両政府は、Proposition187は人権の略奪であると批判した。[xxx]しかし、メキシコそしてエルサルバトルの両国は、模範的な人権を確保している国としては認められていないのが現状である。これらの国々のProposition187に対する反応は、単に人権保護を訴えたわけではなかった。彼らは、職も公的なサービスも提供できない国に、大量の人々が突然に再び戻ってくることを不安に思っているのである。メキシコ政府はたびたび、何千人ものアメリカに流出した移民が、アメリカから戻ってきた来た場合に起こりうるメキシコ側の貧困に悩む地方に与える破壊的な影響について懸念を表明している。[xxxi]
このように不法移民や移民の問題は、現在一国では解決されない問題となっている。事実、Proposition187は州レベルで始まった政策だったものの、
全米そして国境を超えて論議されるようになった。移民の国アメリカは、現在居住している移民の母国との関係も、重視して今後考えていかなければならないことがこのイニシアティブによってより明らかになった。
終章: 今後のイニシアティブそして不法移民問題の課題
本論文では、第1章においてはアメリカに居住している不法移民の現状、そしてカリフォルニアの現状を述べ、第二章ではイニシアティブという投票制度について述べ、そして第三章ではProposition187の成立過程を歴史的観点からも考察した。第4章では、Proposition187の内容を明確にし、どのような結果が生じたのか、そして反対派そして賛成派の主張を述べた。Proposition187は、不法移民問題そしてイニシアティブの存在理由を問う提案であったことが本論文で明確になったのではないかと私は思う。終章においては、前半で述べたイニシアティブの今後の課題について述べ、その後に不法移民問題の今後の課題に触れてみたいと思う。
イニシアティブは住民の直接参加を可能にし、直接立法も可能にする優れた政治制度である。何故ならば、住民は必要とされる所願署名を集め、投票キャンペーンに資金を費やし、自分達の提案を公共の政策として実現するのことを可能にするからである。もし有権者の投票において採択されなかった場合においても、住民にそれを訴え資金を集め、議会での反応を得ることができるのだ。そしてイニシアティブは、基本的な政治上または憲法上の問題点を解決する有益な方法なのである。
しかし、イニシアティブにたいする反論が存在するのも事実である。何故ならイニシアティブに関する[*1]多くの問題点が浮上してきたからだ。請願必要署名数、イニシアティブ産業の増大、投票の複雑性と関連し白人中産階級に有利であるがマイノリティーには不利となる点、有権者用パンフレット、キャンペーン資金、などの問題が存在する。以下はDavidB.Magleby(マグリビィは現在アメリカの直接立法制度に関連する著名な研究者である)によるイニシアティブの問題点の指摘である。
州憲法修正の場合、イニシアティブ請願で必要とされる請願署名数は、前回知事選挙の8%になる。しかしカリフォルニアなどの人口の多い州で、指定された請願署名を集めることはとても困難である。そのため、カリフォルニアなどのいくつかの州では、近年、有料の請願署名活動が普及している。それは組織力や資金力のない多くの住民にとっては、法案を投票にかけることを妨げるものとなっている。提案を投票にかけるには必要署名数が必要となってくる。そしてそれらの必要署名数を獲得するために、今度住民は専門家、イニシアティブ産業に投票キャンペーンを委託するようになるのだ。
当初、請願署名活動はボランティアの手によって行われてきた。しかし、これらの活動は膨大な時間とエネルギーを必要とするため、徐々に請願署名活動はイニシアティブ産業によって手がけられるようになったである。イニシアティブ産業は、専門的な請願管理会社ともいうべきもので、提案内容のデザインから、請願署名の回収活動、資金集めなど、イニシアティブの関するあらゆる作業を受け持っている。請願署名活動は、法案内容に賛同する住民の間でのボランティア的な教育・宣伝活動として署名を展開する場合と、企業に雇われた署名勧誘員が1名でも多く署名を集めようとする時とでは、活動にたいする姿勢が明らかに違ってくる。直接立法制の利点といわれていた住民への教育活動が、イニシアティブ産業の登場により、営利の場となってしまったのだ。イニシアティブ産業の参入、そして多額の資金が費やされることによって、イニシアティブは従来の目的を喪失してしまう可能性がある。[xxxii]
次にイニシアティブの投票者の偏りの問題である。イニシアティブは、法律を作るというその特性からして、難解な法律上の用語が使用されている。そのため、通常の選挙よりもさらにイニシアティブに投票する多くの人は、比較的教育歴の高い人や収入のある白人層である。
直接立法制度は、白人など多数者に有利で、少数者の権利を危険にさらす傾向にある。何故なら、それは裁判所が直接立法制度からマイノリティーグループを保護できない限り、そのような傾向があるのである。宗教、民族、人種、その他のグループに対して、司法の保護の伝統があまりないような民主主義のもとにおいては、直接立法制度の悪用はマイノリティー差別への危険性を用いているのだ。[xxxiii]
以上が現在のイニシアティブが抱えている問題点である。これらの問題にたいしては、事前に明瞭で包括的な法案となるように、公共機関によって法案内容を義務的に再調査する、投票にかけるために必要とされる請願署名数を変更する、勧誘員による有料署名活動を禁止する、法案内容や有権者パンフレットなどを読みやすくする、1個人や1企業によるイニシアティブ運動への献金や寄付活動を制限する、イニシアティブ産業を規制する、などの解決案も提示されている。しかしこれらは、ほとんどが政策案であって、実現された案はいまだ少ないのが現状である。これらのイニシアティブの問題を積極的に改善していこうという運動は、住民の間でも起こっている。
経済的にも裕福であり、高学歴であるマジョリティーの人々は、自身の有権者という特権を武器に、イニシアティブという制度を使ってマイノリティーの立場をより弱いものにしようとしていることは事実である。Proposition187の場合でも、同じことが起きた。マジョリティーは、将来への不安を不法移民というマイノリティーに押し付け、彼らを制裁することで自己の安定を得ようとしたのだ。
次に不法移民問題について述べてみたいと思う。Proposition187を通して、不法移民問題における、マイノリティーの意見とマジョリティーの意見の対立が明らかにされた。今後、不法移民が増える一方であるカリフォルニアにおいて、マジョリティーの不法移民にたいする不満は消えることはない。市民権を持つマジョリティーによって、今後もこのようなイニシアティブは行われるでろう。それに対して市民権を持たない不法移民を含むマイノリティーは、つねに身の危険を感じることになる。現に、Proposition187が成立した時期(違憲判決が下されるまで)、不法移民は国外追放されることを恐れ日々おびえて暮らしていた。ある不法移民の家族は、子供が事故に遭ったにもかかわらず、不法移民であることを報告されるのを恐れ、子供を病院につれていかなかった。子供は適切な医療サービスを受けることができず、数日後亡くなった。
不法移民が今後増え続けることは、事実であり改善されていかなくてはならない問題であると私は思う。国境をより厳しく警備し、不法移民の増加を防がないといけないのではないか。住民の不安を解消することは、国に課せられた問題であり、不法移民問題は改善されるべきなのであると考える。
しかし、国境警備隊に対して権限を与え過ぎるのも問題であることが明らかになった。Proposition187がアメリカにおいて話題とされていた時期に、実は国境警備隊の過度な権力の行使について問題視しているレポートが発表されたのである。
このレポートにはカリフォルニア南部に配備されている法律遵守要請機関(国境警備、アメリカ税関所、港警備、サンディエゴ保安官、カリフォルニア高速警備、カリフォルニア国防軍)による不法移民の人権、そして合法移民の人権および市民権の侵害にたいする訴えが書かれていた。国境警備を含むINS(Immigration and Naturalization Service移民帰化局)はこれらの訴えのもっとも対象とされる機関である。侵害は不法的な個人そして個人の所有物の捜索、言語および肉体的虐待、食料・水・医療の剥奪、拷問、過度な武力行使、脅迫、殴打、そして殺害によって行われているのである。[xxxiv]
このレポートはサンディエゴ支局アメリカ友好委員(AFSC :American Friends Service Committee)、そしてバハ カリフォルニアにあるアウトノマ大学の学生の双方によってティファナ、テカテなどの場所で調査され、メキシコへ追放された人々の訴えを収集したものである。AFSCは1995年から1997年の各年においてインタビューを行い、総合して204の虐待の事例を見出したのである。[xxxv]
これらの法律遵守要請委員による虐待はアメリカ南東において珍しいものではなくなってきている。アメリカで逮捕され、その後メキシコに強制帰還された204人の内、43%の人が過度の武力行使を経験するかそれらの現場を目撃した経験を持ち、12%の人が肉体的・性的虐待を受け、23%の人が言語的虐待を受けたことがあり、11%の人が人種的な侮辱を受け、46%の人が食料・水の剥奪を経験しているのである。[xxxvi]
1995年10月に不法移民を試みた少年(ファン・カルロス)は国境警備に捕まった後、殴られ蹴られ、しまいには手錠をかけられたままバイクに乗せられた。頭や体全体を床に打ちつけ、全身麻痺になってしまったのだ。しかし彼は、病院でも適切な治療は受けられず、全身の左側がいまだ麻痺しているという。[xxxvii]
このような侮辱的経験をしているのは不法な移民を試みた人々だけではない。アメリカ市民権を持ち、れっきとしたアメリカ市民であってもヒスパニックの顔であったり、英語を話せないためにこのような虐待を受け、市民権を剥奪される場合も多く見られるのである。
では何故このような侵害が実行され続けるのか。それは1994年クリントン政権によって打ち出された「Operation Gatekeeper」という連邦レベルのプロジェクトが大きな鍵を握っているのである。このプロジェクトは不法移民の増加を防ぐために打ち出され、このプロジェクトによって不法移民の入国がもっとも多いと言われているサンディエゴ区域に軍・警官の数が増し、監視態勢が強化されたのである。1,665人であった国境警備も462人追加され、議会は5年後までに1,000人その上に増やすことを公表した。しかし現実は国境警備の数が増加されればされるほど人権侵害が増すのでる。
INSの行動に不信感を抱く国民も多い。しかし実際にどのような虐待が行われているかを認識している国民は少ないのが現実である。国境警備隊に権力を与え過ぎてしまうと、今度は過度の武力行使が行われてしまい、人権侵害が起こりうることを念頭に置く必要があるのだ。
Proposition187は、不法移民についてだけの問題であるわけではない.イニシアティブが住民によって行われ、過半数によって可決されたものの、違憲訴訟によってこのProposition187の実行は停止された.このイニシアティブが何故行われたのか、これらの疑問をより明確にすることはとても大切な事である。Proposition187の反対派そして賛成派は、互いの意見を主張し、そして真っ向から対決した。州民がこのイニシアティブによって集結し、自己を主張し、互いの考えを共有したことはとても建設的なことだったと私は思う。しかし、もう一つの問題として着目しなければならない点は、マジョリティーの意見が、マイノリティーの意見を抑圧してしまっている点である。直接民主主義がもととなり行われたイニシアティブは、最終的にはマジョリティーの意見を保護している政治制度になっているのではないか。Proposition187はあまりに強行的であった提案だったと思う。不法で入国してきた移民であっても、生きる権利は誰にでもあるのではないか。
そして今後は政治制度の問題も改善されるべきである。移民は今後の社会保障を負担していく存在であることを忘れてはならない。合法および不法移民が1年間に納めた税額は730億ドルであり、彼らが教育、公共サービスなどに要した財政支出はおよそ430億ドルと言われている。結果として、差し引き300億ドルも納税しているという結果になる。しかし、不法移民を含んだ外国人全体に対する財政負担は州や地方公共団体に重くのしかかっているのである。ここで、税金の再分配の問題が浮上してくるのだ。このような、政治制度の問題は、州レベルだけでは改善されない。連邦政府や国からの、積極的な改善策が今アメリカでは求められているのだ。そして平等さを用いるためのイニシアティブの改善、そして不法移民問題、現在滞在している不法移民を強行的に国外へと追放する方法ではなくより有効的な改善が、今後多民族社会のアメリカに課せられた課題である。
(注)
[i]「プロポジション187」Clair Summary Number009(自治体国際化教会)
[ii]http://www.clair.nipponnet.ne.jp/HTML_J/FORUM/GYOSEI/082/INDEX.HTM
[iii] Gallup Poll Organization、1993
[iv] Wall Street Journal, June 27 1997 p81
[v] Field Institute、1993
[vi] http://www.user.aimcom.co.jp/tanaken/usanews/usarep19.htm
[vii] 「プロポジション187」ClairSummaryNumber009(自治体国際化協会、1996)p.4
[viii] David S.Broder p.2
[ix] David S. Broder p.3
[x] David S. Broder p.5
[xi] 生田希保美・越野誠一著 「アメリカの直接参加・住民投票」p.11
[xii] 生田、p.11
[xiii] 生田、p.12
[xiv] 生田、p.17
[xv] 生田、p.13
[xvi] Clair Report、p.7
[xvii] Clair Report、p.10、p.11
[xviii] 阿部斉、久保文明「国際情勢ベーシックシリーズG 北アメリカ」(自由国民社、1999年)p.364
[xix] 阿部、久保、p.364
[xx] 阿部・久保、p.365
[xxi] 阿部・久保、p.365
[xxii] Clair Report、p.8
[xxiii] Clair Report,p.14
[xxiv] Clair Report, p.15
[xxv] http://www.zmag.org/articles/mar95adams.htm(Proposition187 Lessons)
[xxvi] 同上
[xxvii] Zmag
[xxviii] Clair Report、p.18
[xxix] Cervantes, Khokla, and Murray, 1995;Garcia 1995
[xxx] Los Angeles Times,10 November 1994、p.A28
[xxxi] 同上
[xxxii] 生田、前掲書、p.65
[xxxiii] 生田、p.69
[xxxiv] Michael Huspek, Robert Martinez “Violation of Human and Civil Rights on the U.S-Mexico Border,1995-1997” Social Justice Vol.25 p.110
[xxxv] Michael,p.110
[xxxvi] Michael, p.112
[xxxvii] Michael, p.113
一次資料
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−MALDEF http://www.maldes.org
−全米州知事協会 http://www.nga.org/subtocgov.html
−LA Times http://www.latimes.com
−New York Times
−http://www/gallup.com
−Democratic National Committee http://www.democrats.org
−California Republican Party http://cagop.org
−California Voter Foundation http://calvoterorg
−Mexican American Legal Defense and Educational Fund
http://www.maldes.org
二次資料
−David S.Broder “Democracy Derailed” 2000
−Clair Report (財団法人 自治体国際化協会)「第143米国社会と移民政策の現状」
−生田希保美・越野誠一「アメリカの直接参加・住民投票」(自治体研究社)
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