デジタルヒューマンモデルを用いた工場の作業環境評価に関する研究
概要
本研究では,人間の疲労のメカニズムを検討し,人間のコンピュータモデル
に情報を記述することで疲労特性を備えた3次元デジタルヒューマンモデルの
構築を提案する.このデジタルヒューマンの疲労モデルを用いることで作業シ
ミュレーションを生成し,仮想生産システム環境の中に,その作業内容に応じ
た作業者の生理状態につながる疲労を解析することが可能となる.その提案を
もとに,作業者の健康と安全を考慮した工場と作業設計の提案につながる.
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研究の背景
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研究の目的
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研究の経過
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デジタルヒューマンプログラムの現状
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作業と疲労
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今後の予定
研究の背景
時代の流れとともに,生産システムは変遷しつつある.近年,人間中心化への
顕著な移行を示している.人間は製品の製造過程に深く関わり,作業内容の変
化に柔軟に対応できる人手による作業は,生産システムの設計において重視さ
れている[1].そこで,人間の特性に適合し,かつ効率のよい「人間中心型生
産システム」を構築するためには,まずその方法論が確立されなければならな
い.そして,その生産システムの設計,運用段階での事前評価を目的として,
具体化するためのツールやデータベースの開発が不可欠である.人間中心シス
テムを構築する上で根幹となる人間のモデル化,いわゆるデジタルヒューマン
モデリングが重要である.
現在,3次元デジタルヒューマンモデルを構築し,そのモデルを用いて人間の
シミュレーションを行う人間シミュレータが研究,開発されている.特に欧米
を中心にして,種々のデジタルヒューマンプログラムが市販されている.しか
し,これまでのヒューマンモデルの研究は,骨格モデルに始まり,次いで筋骨
格モデルへと発展しているが,作業の場における人間を扱うには,従来の成果
のみでは不十分である.したがって,多様な作業状況には,作業の安全性と作
業者の疲労などに関係する人間の生理面,心理面を考慮しうるモデルが必要と
なる.
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研究の目的
生産システムの自動化と種々の機械の開発によって,職場の作業が大きく変わっ
てきた.今,人間が仕事をすることに,労力が要る作業の代わりに,機械の操
作または工具の使いが多くなり,生理的と心理的な要因に関係する疲労を考慮
しなければならない.しかし,心理的要素は個人差が大きく,原因はきわめて
複雑であるために,すべての要素を取り込むことは大変に困難である.そこで,
本研究では,生理的疲労を中心に取り扱う.また,日本の少子化,高齢化社会
に対して,中高齢の作業者がますます増えていくため,疲労しやすい高齢者を
研究対象に含めて考えることとする.
具体的には,性差,年齢差の各階層の作業者に対応でき,生理特性を備えたデ
ジタルヒューマンモデルを提案する.これにより,図1に示すように人間,作
業,作業環境を総合的に評価を行う事が可能なヒューマンモデルを含めた仮想
生産システムのシミュレータを開発する.
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研究の経過
上記の研究目的に対して,これまで
1. デジタルヒューマンモデルの原理の理解
2. 商用のソフトウェアシステムの理解と評価
3. 人間の疲労特性についての学習
4. 製造業における作業者の健康管理の事例学習
を行ってきた.本報告では2と3について述べる.
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デジタルヒューマンモデルの現状
デジタルヒューマンプログラム: Jack
デジタルヒューマンモデルの現状を理解し,本研究への適用可能性に関して調
査を行った.特に,代表的な市販モデルであるJackについて詳しい調査等を行っ
たので,その内容を以下に説明する.
約14年前に,ペンシルバニア大学Badler教授のヒューマンモデリングシステム
研究室でJack(図2)が誕生した.本来の目的は,人間の姿勢および動作をコンピュー
タにバイオメカニクス的に忠実に再現することであり,NASA,米空軍等におい
て,人間の動作シミュレーションに用いられてきた.最近では,作業者を中心
とした作業現場設計に対して,デジタルヒューマンプログラムを適用し,事前
評価を行うメーカが増えている.また,作業による負担の評価と作業者の疲労
予防対策につながるケースも少なくない.
図2 Jack on Work
Note
Jack の構造体と機能
Jackの人間モデルのデータベースは89の実人体スキャンデータを記述している.
このモデルは69の部分,68の関節と135の自由度(DOFs)を持ち,各部分
は関節に連結され,Peabody の構造である.毎秒30フレームの速度で,動
きの連鎖動作は逆運動学(Inverse Kinematics)に従い,アニメーションを生成
することができる.一方、力学的負荷の評価は,関節の変位および加速度から,
関節に作用する力およびトルクを求める,いわゆる逆動力学(Inverse
Kinetics)に帰着される[2].
仕事分析
Jackには,作業による人間の体への影響を分析する機能を仕事分析ツールキッ
ト(Task Analysis Toolkit)に備えている.TAT は NIOSH (National
Institude for Occupational Safety and Health, アメリカ国家職業安全と健
康協会) に基づき,人間の作業制限と作業姿勢など9つの解析手法を含んでい
る.
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作業と疲労について
職場で発生する疲労は,作業者が仕事を繰り返すことによって,身体に疲労が
たまり,精神的,生理的に疲れている状態,いわゆる慢性疲労が注視される.
また,長時間作業による体のオーバーユースに対して,注意を払わなければな
らない.
疲れて睡魔に襲われるような疲労は,精神的疲労(mental fatique)の類に,ま
た筋肉の倦怠,痙攣などは筋肉的疲労(muscular fatique)の類に分けられる.
精神的疲労の要因は主に睡眠・休憩不足である.その影響は全身に及び,体が
だるく,集中力を低下させることである.物質代謝に必要なエネルギー量が不
足の時,この状態となる場合もある.一方,筋肉的疲労は体内のどこに長時間
負荷がかかる,あるいは不正姿勢で作業を繰り返すことによって発生する.こ
れで,動きが鈍くなったり,影響される筋肉が動けなくなったりした時,機能
的な低下が起こる[3].集中力の低下,機能の低下によって,作
業サイクルの遅延やタイミングのずれを引き起こし,事故を招きやすくとなる.
人間の骨の物性に関して,大きな力がかからなくても,中程度の力が持続的に
長時間かかる場合に骨折が起きる.これは疲労性骨折とよばれるもので,オー
バーユース(overuse)の一つであり,作業者の健康に大きなダメージを与える.
商用のデジタルヒューマンモデルの中にも,疲労/疲労回復解析,消費エネルギー
解析手法がある.しかし,これらは筋肉のトルクとストレスしか考慮されないの
で,疲労につながる様々な原因について,課題が多く残っている.
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今後の予定
本研究では,疲労特性の検討とデータベースの取り込みを中心に行う.今後,
疲れた人間の反応と挙動,作業環境の影響などについて,さらに調査を行って
いく.一方,国際基準に準拠するため,国際規格12100(草案)などを積極的に
取り組む.そして,データベースの設計と構築を行う.
具体的には,疲労特性に対する調査結果と経験に基づき,人間の疲労のメカニ
ズムをモデル化して,疲労に影響するパラメータを分析する.そして,得られ
た情報をデータベースに取り込んで,デジタルヒューマンモデル,仮想生産シ
ステムとモデルした作業を含めた作業者の疲労と作業の安全性を評価できるシ
ミュレーションシステムの開発を目的とする.このシミュレーションシステム
を用いて作業者の健康と安全を考慮した工場と作業設計方法の提案につながる.
疲労特性の検討とデータベースの構築をしてから,そのデータベースをJackに
取り込むことで,Jackの優れたヒューマンモデルを利用して,人間の諸特性を
ビジュアルに表現できる.そこで,Jackのデータベースと機能拡張を汎用のス
クリプト言語であるTcl/Tk(Tool Common Language)を使って学習し,段階的に
取り組んでいく.
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------参考文献------
[1] 白谷 真英 : 「工場の作業シミュレーションにおける人間のモデル化に関
する研究」,平成10年度修士論文
[2] Norman I. Badler, ``Simulatng Humans'', Oxford University Press, 1993
[3] 室 増男 : 「運動科学」,理工学社,1999,3月