国際標準宇宙技術の新世代動向(エコノミカルスペースシステム)
  (エアワールド2007年4月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年4月号」をお買い求めください

 先月号までは、日本の宇宙体制が国際的に遅れている実情から、次世代宇宙戦略シリーズとして「JAXA組織体制の問題」、「国際基準を逸脱したロケット・衛星体制の問題」、「文部科学省宇宙開発委員会の機能不全問題」を述べ、平成不況期から失われた10年を取り戻すべく近々の解決案を考察してきた。

 そして今月号からは、新世代宇宙戦略として新たにスタートする事になった。この新世代宇宙戦略とは次世代宇宙戦略と違い、技術的仕様が確定してはいないが、おおまかな流れ・長期的視野に立った戦略で考えたものである。次世代と新世代の違いに注目し、ビジョン無き日本の宇宙戦略の背景を探りながら、世界第2位の宇宙予算を有する日本が国際標準を意識し、世界潮流に乗る方法論を模索してみたいと思う。第1回は国際標準宇宙技術の新世代動向(エコノミカルスペースシステム)と題して新世代のエコノミカル(経済的)宇宙システムや、最近のランチャー国際競争動向などについて考えてみたい。

◎新世代エコノミカル宇宙技術

 日本の国内技術を見てみれば、小型・高機能衛星に結びつく技術が多くあることが分かってきた。「宇宙は最新最新である」という言葉はすでに昔の話となっており、実態は信頼性と称して古い在庫技術を採用したものがJAXAロケットや衛星では主流となっている。これを日本の最先端技術とは言い難い。海外の衛星技術を見れば、携帯電話や生活家電技術という普及したNon-space(非宇宙)技術を採用する流れが主流となりつつある。なぜなら従来の宇宙技術は携帯端末・生活家電・自動車に採用されている部品技術と比較してもはや旧式となってしまい、世代交代が必要なのは明らかで、そのためには発想転換が必要との考えが海外で理解されているからだ。

 先月号でも述べたが、任天堂ゲーム「Wii」の3軸加速度センサーを、ある国の宇宙機関が衛星搭載用として宇宙環境試験にかけたところ合格してしまい、「キューブサットを含む小型衛星の高機能化へ貢献する」可能性が見られたため、早速自国の大学へ採用するよう支援を始めたそうだ。この3軸加速度センサーは「小型チップ化」されており、アメリカとヨーロッパのメーカーが製造している。日本としてはまずこのMEMS(マイクロマシン)技術に注目すべきだろう。

 この加速度センサーチップ技術をさらに上回る日本企業は存在する。それは愛知製鋼だろう。愛知製鋼は、携帯電話「ボーダフォン」と共同で携帯電話向けの地磁気+加速度センサー「モーションコントロールセンサー」を開発した。1チップの6軸センサーとしては世界最小だという。携帯電話ではボーダフォンの「904SH」に搭載している。このモーションコントロールセンサーを活用したアプリケーションとして、携帯を夜空にかざすことで、その方向に見える星座をリアルタイムに表示する「星座をさがそ」の体験ソフトが入っているそうだ。この6軸センサーを愛知製鋼は自動車・ロボットの姿勢制御などにも展開を進める計画だ。

 また日立金属も3軸センサーでは世界トップレベルの技術を有している。日立金属は,外形寸法が2.9mm×2.9mm×0.92mmのデジタル3軸加速度センサー「H30CD」を2006年8月に発表した。従来世界最小であった北陸電気工業の「HAAM-325B」のを抜き,3軸加速度センサーとしては世界最小を更新したという。また3軸加速度センサーチップならば、旭化成も開発している。これらセンサー技術については、Sensor Expo Japan会場で展示されている。次回は2007年4月4日〜6日に東京ビックサイトで開催されるため、衛星やロケット開発を考えている大学や企業はぜひとも足を運んで欲しいものだ。

 これら技術を先月号で述べたように経済産業省主体の宇宙航空機構(案)が先進的企業と大学を結びつけ支援し、衛星搭載させて宇宙実証し、成果を公表して世界へ売り歩かせる支援体制を作り、その結果として日本の宇宙技術力向上へ結び付けさせる施策が必要ではないか?上記企業は価格を意識しているため、プラスチック基板で製造している可能性が高いが、宇宙用の基板で作り直せば十分機能する可能性がある。これならばキューブサットとして十分に機能するのではないか?これら成果と反応を見ながらビジネスになれば高機能化を進めるという、携帯技術から宇宙のハイエンド技術を目指すやり方で進めれば、宇宙部品メーカー育成にはすばらしいのではないか?

 恐らく現状のJAXAでは、宇宙規格である“JAXA認定”を出そうと突っ走る可能性が高いが、JAXA認定を出しても世界は誰も見向きしない。宇宙の世界では“宇宙で実績を挙げる”ことこそが最も説得性を得られる。日本企業をグローバル経済のなかで生き残らせて日本がナショナルプレステージを維持するため、愛知製鋼や日立金属をはじめとする先進的企業を見つけ出して宇宙分野に採用・支援する戦略のほうが、JAXA認定を出すよりも国際競争力向上が見込まれる。ぜひとも内閣府宇宙戦略会議と経済産業省の間で進めて欲しいものだ。アイデア力・コンセプト力を出すため、JAXA産学官連携には12月に開催したシンポジウムをもう一度見つめ直し、自ら勉強する体制を整えたらどうだろうか?そしてこれら日本企業を陰で支援する意思をもつJAXA職員を経済産業省主体の宇宙組織へ集めて戦略的に宇宙産業育成する体制ができれば、新世代宇宙戦略としてすばらしいのではないだろうか?

                          
6軸センサー
(愛知製鋼)     デジタル3軸加速度センサー(日立金属)

◎望遠鏡技術に関する新世代化

 また、炭化ケイ素(SiC)をベースにした光学望遠鏡システムは今後必須となるだろう。日本では、宇宙科学研究本部が赤外線天文衛星ASTRO-F(あかり)や太陽観測衛星SOLAR-B(ひので)にて、炭化ケイ素材料を利用した軽量の望遠鏡開発に成功している。SiC材料は高硬度で耐熱性、耐久性に優れている上に軽量なのだ。もっと噛み砕いて言えば、非常に軽くて硬くて温度変形しない材料なのだ。当初は高温用として使用されていたが、赤外線望遠鏡という低温で使用しなければならない望遠鏡にも使用され初め、X線望遠鏡でも採用する動きがある。また、光学カメラを搭載したイギリスのTOPSATもSiCを利用した軽量な望遠鏡を開発している現状をみれば、宇宙における望遠鏡はSiCをベースとしたものがここ10年主流になるかもしれない。

 TOPSATは通常口径28cmならば4300g程度かかる光学レンズを、SiC材料を導入した結果、17分の1であるたったの250gで実現し、さらに高機能CCDを組合せエレクトロニクスを含む2.5m高解像度カメラシステムを重量32kgで実現している。対するASTRO-F(あかり)は、口径71cmのSiC主鏡を11kgで製造し、SiC副鏡と組み合わせ、検出器を含めた望遠鏡の総重量が約38kgとなっている。この事実から分析してもASRTO-F望遠鏡は国際基準に通用した技術と言えるだろう。ASTRO-F(あかり)は開発遅延で打上げが延期したが、それを十分払拭できる技術レベルを得たと言え、宇宙科学研究本部の研究意欲には感心させられる。もし彼らが地球観測カメラシステムを製造したら、国際的に認められる軽量望遠鏡ができるのではないだろうか?ALOS搭載カメラよりも軽量で高機能なものができるに違いない。




NASAのSiC望遠鏡SCATS (出典:Poco Graphite)

 
赤外線天文衛星「あかり」とSiC望遠鏡 (出典:ISAS、雑誌NEWTON)

 ここまでは、次世代宇宙技術とも言えるだろう。しかしこれら光学望遠鏡システムがハード的に製造できる技術があっても、観測情報を処理する技術の高度化は進めなければならない。ここで新世代技術を見据えた段階的開発が必要になる。

 例え観測しても得た画像を処理するCCDやCMOSというセンサー技術や、観測する光の波長を細かく分割したハイパースペクトラルセンサー技術が将来重要になる。そしてハイパースペクトラルセンサーが搭載されれば、膨大な処理情報量が発生するため、既存の衛星搭載コンピューターでは処理が出来ない。このため、データ転送容量の多い光通信を使い、衛星内部で観測データを処理する“光バス技術”を搭載した衛星が開発する動きがある。例えばNASAが打ち上げた地球観測試験衛星EO-1がそうだが、まだまだ試験段階で本格的な衛星はこれからのようだ。一方、SPACENEWSによれば、フランスでも将来の技術を見越し、静止衛星と航空機との間でレーザー光による光通信実験をするそうだ。MYRIADE小型衛星らと組み合わせれば革新的衛星通信技術が確立されるだろう。日本では光通信衛星OICETSが周回軌道から静止衛星(ESAのArtemis)でデータ伝送実験に成功、地上でも晴れた日限定(雲があると遮られて出来ない)で成功している。これは情報通信研究機構(NICT)の成果によるものだが、日本もOICETS技術に加えさらに先を行くビジョンを描けないことが非常に残念だ。

 また衛星内部における情報処理能力向上や光通信技術は今後必須になるだろう。よってセンサーの性能を引き出すための「量子コンピューター」技術が必要になると考えている。宇宙業界にはないが、日本の産業界には量子コンピューター技術を開発する組織が存在する。新世代技術としてそれら組織と共同で開発すれば、EROSやTOPSATなどの高機能地球観測衛星を上回るコンセプトが見えてくるだろう。これも、内閣府宇宙戦略会議や経済産業省らによる“競争力のある技術開発”を目指してJAXAを機能分割した戦略的な宇宙航空開発機構(案)でやって欲しいものだ。文部科学省主導体制ではETS-8やALOSのように「競争力のつかない、単なる技術開発」だけで終わる可能性が高く、製造・打上げした頃には、国際標準についていけないモノが宇宙空間に浮かぶだけという可能性が高いからだ。

◎小型衛星対応の新世代ランチャーの必要性

 これら先進的企業を見つけ出して企業や大学が衛星を製造しても、現状のロケットはH-2Aしかない。H-2Aロケットは過去に述べたように国際標準を逸脱した高コストロケットだ。先進的企業を育成しても、1発100億円以上かかる(射場関連経費を含めれば200億円近い経費がかかる)ロケットを打上げては、コストがかかり過ぎる。エコノミカルではなくゴージャス・ブルジョアなランチャーなのだ。ヨーロッパでもアリアン5は大型・高コストなため、ソユーズやKOSMOSが使われている。小型衛星対応の新世代ランチャーを目的・費用・効果を考えればH-2Aは魅力的ロケットではない。海外のエコノミカルランチャーを見れば、即応型宇宙政策で開発されているSPACE-X社のFALCONロケットやAirlaunch LLC社のQuickReachロケットのような打上げ手段は必要だ。低軌道200kmへ450kgの衛星を価格$5〜7million(6〜8.5億円)で打上げられれば、小型衛星対応の新世代ランチャーとして十分魅力的だ。現状では、日本にはH-2Aしかないが、H-2A、1発の価格でサイズは違えども10発以上も打上げられる即応型宇宙政策ロケットが世に放たれようとしている中、日本がこれらと同等クラスのものが出来れば、目的・費用・効果に優れた宇宙活動が展開できるだろう。

 しかし小型衛星対応の新世代ランチャーの見通しは芳しくない。JAXAは次期固体計画は、500kgの打ち上げ能力でM-V価格の半値と公表しているが、500kgの打上げ能力で30億円(M-Vは60億円)というのならば、国際標準で見れば話にならない。この計画が容認される事態となれば、文部科学省の宇宙主導体制とJAXA宇宙基幹システム本部解体はますます必要になるだろう。恐らく現状のJAXAでは目的・費用・効果に優れたエコノミカルランチャー開発は非常に困難と思われるため、やはり内閣府宇宙戦略会議で過去の“(固体と液体ロケットをタテ割行政した)文部科学省による国際基準を無視した負の遺産”を排除した形でロケット体制が必要になるのではないか?

◎移動式追跡管制と簡易型発射台の必要性

 では、小型衛星対応の新世代ランチャーを考える上で、射場システムにも視野を向けて考えてみたい。今後の射場はシンプルであればあるほどすばらしい。過去の誌面で述べたように打上げ手段のコストダウンを狙うならば、ロケットのほかに射場システム費を下げる必要がある。以下の写真を見てもらいたい。


NASA移動式追跡管制 (NASA Wallops Research Range)

 これはNASAの移動式追跡管制システムだ。今後のロケットは、地上設備に膨大なコストをかけていては、トータル打上げコストが下がらないため、地上設備コストをできるだけかけない方法論を模索する必要がある。よって追跡管制についても様々なロケット打上げに対応できる“移動式追跡管制装置”が妥当ではないか?写真からも見られるように、NASAはトラックで牽引可能な追跡管制装置を保有している。確かにロケット打上げ数時間前からシステムを利用すればいいため、特定地域を延々と占拠(固定資産を確保)し、年間を通じて雨風に晒す必要はない。特に日本のような狭い土地で追跡管制装置を維持するのは効率的ではない。衛星データ受信用の大型アンテナは別だが、ロケットの追跡管制システムの今後はNASA移動式管制システムのようなものが必要になるだろう。必要な時だけ利用し、しない時は倉庫に集積保管しておくだけで相当のコストダウンになる。ロケットを同時期に複数打上げることは殆どないことを考えれば、移動式追跡管制装置は理に適った考えだろう。

 次に簡易型発射台の建造を考えてみたい。これは、NASAワロップスにあるオービタルサイエンス社製のミノトウルロケット発射台だ。この発射台は非常に興味深い。内之浦射場にある整備塔よりもシンプルな構造が見られる。様々な写真を分析すると、どうやら発射台が移動するのではなく整備塔自身が円を描きながら移動する方式のようだ。しかも整備塔自身は鉄骨構造でシンプルに作られており、必要に応じて風雨防止壁面を取り付ける方式のようだ。この射場はアメリカのバージニア州の大西洋海岸線にあり、日本と同様に雨が降る地域である。時々ハリケーンも通過する。にもかかわらず、スタンド型簡易発射台を維持している実態を見れば、雨が降っても大丈夫なロケット組み立てオペレーションをしていると見られ、日本でも十分参考にできるコンセプトだ。そしてSPACE-X社のFALCON-1ロケットのように、移動式トレーラー架台がそのまま発射台になるモバイル式発射台とあわせてみれば、このような簡易型発射台は、今後主流になるのではないか?


ミノトウルロケットの発射台と整備塔 (NASA Wallops Research Range)

 また格安・簡易打上げシステムは、過去の誌面で紹介したようにSOYUZのクールー射場、ベガ射場、ROCKOT発射台でも採用されており、射場システムの簡易化は至上命題と言える。M-Vの内之浦射場はあれだけの種類のロケットを1つの発射台でまかなってきた実情を見れば、すばらしいと断言できる。しかし短期間で組み立てて打上げるというエコノミカル化を狙うのであれば、そろそろ次世代化・新世代化させても良いのではないか?M-Vの発射台は種子島射場システムと比較すれば桁違いに低コストだ。すでに現状の射場システムは十分に原価償却も終えているだろう。にもかかわらず高コスト・輸入品構成・維持費高のH-2Aは問題視されず、M-VをフェーズアウトさせたJAXA論理は説明不足で理解し難いが、同時にますますH-2A射場システムの悪さが際立つように思えてくる。恐らくあと5年もすれば、種子島射場システムが世界的に反面教師とされるようになるだろう。よってH-2A射場は民営化及び日米宇宙協定改訂を含めて抜本的見直しが急務であることもここに加えておきたい。

◎スモール・ランチ・ビークル(SLV)の国際競争

 90年代のICBM派生型ロケットの登場により、キューブサットを含む小型衛星開発国・開発組織が続々登場、低価格であることを背景にKOSMOS、ロコット、ドニエプル、ソユーズの打上げ予約が殺到している状況だ。また、M-Vと同等クラスの打ち上げ能力を持つロシアのCyclone-2K(別名:Tsyklon)は、何とブラジルへ売却されブラジルの宇宙センターから打上げられるそうだ。この初フライトに対し、搭載スペース販売を含めて日本へキューブサット搭載の打診が来ているそうだ。ロシア宇宙技術の国際市場進出が始まったと見るべきだろう。ロシアは近年、石油・天然ガス資源を背景に急激な経済成長を遂げており、大国としてのプライドを取り戻すべく、ランチャーや衛星戦略を抜本的に見直しており、その戦略の一環でロケット技術の売却を進めているようだ。ブラジルの他には欧州のクールー射場へSOYUZを進出させたことは記憶に新しいが、このSOYUZをベトナムやオーストラリアへも売却しようと交渉をしているとの報道もある。

 またSPACENEWS報道では、韓国が2008年打上げ予定のKSLVに対するロシア側提供技術が開発中のアンガラロケットであるとの報道がある。アンガラはプロトンの後釜と言われているので、報道が正しければ韓国は素地のいいロケット技術を輸入することになるのかもしれない。一方で、ロシアは将来競合国となる中国へ対し、宇宙技術の供与を今後中止するという公式報道が流れている。

 ロシア宇宙強国復活の動きに対し、ICBM派生型ロケットよりもコンセプト向上を意識し、小型衛星打上げ市場に対応したスモール・ランチ・ビークル(SLV)の国際競争がロシア・ヨーロッパ・アメリカの間で始まっている。では、その中で新世代型LVSとして注目すべきロケットを紹介したい。

・ESL/ESLM(European small launcher/Medium)

 ヨーロッパでは、大型のアリアン5の他に小型衛星ロケットとしてVEGA、中型もしくは集積打上げ衛星用としてSOYUZという3本立ての体制をしている。だがそれ以降の将来計画は発表されていない。しかし、最近の情報によれば、VEGAの第一段モータであるP80モータが燃焼試験に成功したことで、ヨーロッパ独自の小型衛星打上げロケットおよび、将来の中型・大型ロケットの戦略としてEuropean small launcherの検討も進められているそうだ。

 これは、ヨーロッパにはアリアン5という大型ロケットがあるものの、小回りが効くロケットがないという実情、フランス以外にも自国でロケットを持ちたいというイタリアの思惑、ESAへ多額の予算拠出しても自国企業へのフィードバックが少ないイタリアの不満、ロシアから導入したソユーズが欧露間で関係が悪化した際に政治的材料に使われないようにしたい思惑がある実情から、ESAが承認してVEGAロケットの開発が進められている。

 だが当初の思惑よりコスト高のため、魅力的ではないと一部否定的な意見は存在する。それでもイギリス投資会社がFiat-Avioグループを買収したり、アリアンロケットとインターフェースを共通化したり、小型衛星を複数搭載して打上げたりする仕様を発表したり、ソユーズとのインターフェースを共通化したりと戦略的に動いている実情を見れば、他に思惑があると見ていいかもしれない。これら前提に立ってもう一度資料を分析すると、VEGAはラインナップ化が検討されている。しかもアリアンスペースの戦略レポートにも位置付けられていることが判明した。それはVEGAのP80第一段ロケットモータ数を変化させることにより、打ち上げ能力を向上させたEuropean small launcher(ESL)計画があるのだ。これは、VEGAのP80第一段モータを2段目モータにも採用する方法で、ラインナップを揃えながら打上げ能力幅を広げようとするコンセプトだ。



VEGA/ESL/ESLMラインナップ (出典:hometown.aol.de、一部筆者翻訳) 


    P80モータと初燃焼試験とVEGA新型アッパーエンジン(出典:ESA)

 さらにESLを強化したESLM(Mはミディアム)という計画まである。この目的はVEGA・ESLとアリアン5との間の打ち上げ能力を補完するビジョンで考えられている。しかもコンセプトを良く見て欲しい。VEGA/ESL/ESLMは“最終段が必ず液体ロケット“なのだ。固体は軌道投入制度やアッパーステージのように複数回燃焼が出来ない弱点をしっかり理解し、コスト勝負できるコンセプトで考えられている。もっと簡単に言えば「コスト勝負ロケットならば、固体で大まかに上げて、最後は液体で調整がベスト」という考え方が浸透しているようだ。さらにVEGAでは、最終段ではウクライナ製エンジンRD869(2450N)を使用しているが、何と液体酸素/HC(炭化水素)を燃料とするエンジンをイタリア宇宙機関ASIが独自開発すると2006年に発表した。つまり将来の最終段液体エンジンを輸入モノから国産モノにする戦略である。

 VEGAの基本はM-Vロケットと聞く。元は日本の固体ロケットがこのような戦略的なビジョンで発展していくさまを見ると、やはり日本固体技術ロケット技術の優秀さと、M-V中止の不明瞭な説明、次期固体計画の戦略不足、JAXA宇宙基幹システム本部能力の低さを考えさせられる。

 VEGAのコストは高いといわれ、コストダウンが今後課題になると思われるが、欧州でも低融点推薬の研究が始まっていることと、液体ロケットと比較して故障個所が少なく部品点数も少なくできる優位点がある固体ロケットは市場競争上優位であることから、ESL/ESLM計画は継続的に行われるものと推察される。

・EURO-X

 このESL/ESLMのイタリア・フランスの動きに対し、ドイツもEURO-Xと言われる3段式スモール・ランチ・ビークル(SLV)の動きが出てきている。

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 ドイツは、ヨーロッパの中で宇宙費用を多く捻出している国の1つであり、大手衛星メーカーに対抗すべく、国内衛星産業育成のためOHB System社を国策的に創設、近年ではSAR-LUPEという合成開口レーダー衛星を5機、別々の軌道へ打上げて衛星郡を構築する計画を掲げ、ロシアのKOSMOSロケットにて打上げに成功している。衛星重量は770kg、ALOS重量(4000kg)と比較してかなり軽量である。しかも数が多いため、時間分解能(撮像頻度)が高くなるメリットがあり、「地球観測衛星は数が勝負」という論理をドイツは実践している。大型・技術が旧式・小回りが効かない・時間分解能が悪い・コスト高のALOS(だいち)を見ると、日本の宇宙が危機的状況にあることを再認識させられる。どうやらALOSの光学センサーが輸入品である上に、国産の合成開口レーダー技術は時代遅れになりつつあるのかもしれない。


EURO-Xの3段目はBreeze(出典:EADS-ST 2005)

 実情から見れば、ドイツの衛星開発・ランチャー活動は「日本より宇宙予算は少なくても、戦略的で高い技術を追求する」思想を持っている国だと認識させられる。現在独自のランチャーを持たないドイツは、ロシアのKOSMOS・アッパーステージ開発へ参加したり、ICBM派生型ROCKOTに参加してアッパーステージを開発し、次のステップとしてEURO-Xを計画、エコノミカルのスモール・ランチ・ビークル(SLV)を持とうとする戦略は、注目すべきことではないだろうか?


合成開口レーダー衛星SAR-Lupe(出典:OHB System, cnews.ru)

 一方、ヨーロッパのESL/ESLMやEURO-Xの動きに対し、アメリカでも複数のSmall Launcher計画が進行中だ。それはBoeing社のDELTA-Lite計画、及びE’Prime社のS-II(別称Eagle-III)だ。


・DELTAライト計画

 ボーイング社のデルタロケットは、ベストセラーのDELTA-II、新型へ行くステップとしてのDELTA-III、RS-68第一段エンジンと共通化されたパーツによる打上げレンジ幅の広さ及び即応打上機能まで備えた新型DELTA-IVという戦略的な歴史を遂げてきた。

 だが、過去に計画されて消えていった計画も存在する。それはDELTA-WSmallやDelta-Liteである。うち、DELTA-WSmallがなぜ選択されなかったか公式に発表されていないが、DELTA-Wの小型版としてのコンセプト主張性は通るが、DELTA-W標準型をスケールダウンする方法論ではロケットとしてのコストが合わないという判断があったのかもしれないと考えている。

 次にDELTA-Liteだが、これは最近ホットな話題となっている。このDELTA-Liteとは何か?結論から言えばVEGAやEURO-Xとコンセプトがほぼ同じものである。DELTA-Liteは固体で構成、最終段液体という最近注目されつつあるエコノミカルランチャーなのだ。そのコンセプトはこうだ。


Delta-Liteコンセプト(出典:IEPC–97–144)

 これは過去NASAが公表したもので、NASA科学ミッションの打上げ手段として挙げられていたものであり、DELT-Liteの他にTaurusやPegasus XLも比較対象にして示されていた。DELTA-Liteは、当時DELTAを製造していたマクドネルダグラス社(MD)が公表したもので、当時のDELTA-Uよりも低コスト版を目指し、MDとオービタルサイエンスの両社共同で考案されていた。しかし1997年にボーイング社がMDを買収、DELTAロケットの管轄がボーイング社へ移行されたため、MD-オービタル・サイエンス社間の計画が複雑な環境となり頓挫した。しかしエコノミカルランチャー市場としてみれば、今後新興宇宙企業が追い上げしてくることを見れば、この案は大手ロケットメーカーにとって魅力的なLVSであることが最近分かり、DELTA-Lite計画が再度浮上しているそうだ。しかもかつて共同提案したオービタル・サイエンス社とで行われている。両社は現在、F-15E(F-15GSE)型を用いた空中発射ロケットを共同開発している実情を見れば、Delta-Liteコンセプトが再復活できる人的環境は整っている。しかも、最新情報ではエコノミカルランチャーとしてのDelta-LiteはSRBを取り付けない方式で検討されているそうだ。つまりVEGAと同じものが出てきたということだ。過去の資料によれば、SRBなしのDelta-Liteは極軌道400kmへ1450kg、低軌道400km(28.5°傾斜角)へは1800kgの打ち上げ能力がある。しかも最終段は液体ロケットでDELTA-2と同じAJ-10が採用されている。Delta-smallが最終段固体である事を見れば、DELTA-Wとの共通性はないもののDELTA-Liteの方がコスト上と利用側の観点でコンセプト高とも考えられる。

 また今後は大型ロケットにおけるSRB(固体補助ブースター)は、使用自体が減るトレンドになりそうだ。そそそも補助ブースターは第一段の液体エンジンだけでは、加速できないロケットために“スタートダッシュ”をかける意味で採用されていたものだ。したがってSRBは、燃焼時間は短いものの推力は液体と比較して桁違い出る。しかし、DELTA-WやAtlas-Vを見れば分かるが、「メインエンジン出力が増加し、補助ブースターなしでも発射台から打上げられるようになった」、「固体ブースターを使うよりもロケット上段のタンク容量を増量すれば打ち上げ能力は上がる」、もしくは「さらに大型のものならば、DELTA-Heavyのような思想でクラスター化すればそれでいい」という考えがあるようだ。これら観点から、DELTA-WやATLAS-Vは出来るだけ部品数を増やさない手法で、打上げ能力レンジ幅を増やす発想を持っているのではないか?したがって、固体補助ブースターの需要は減少するものと思われる。また、それに気付いた固体ロケットメーカーは、低コスト化を目指して固体ロケットの素地を引き出しながら、最終段は液体として「(補助ブースター屋としてではなく)固体ロケット屋」として生き残りをしているのではないか?過去の誌面で固体ブースター屋のATKサイオコールが2種類のLOW-Cost衛星ランチャーを開発し始めたフライトインターナショナル誌報道がそれを物語っているのではないか?

 対する日本は固体ブースターに依存するコンセプトが目立つ。H-2Aはブースターを増やして打上げ能力増強を図り、コンセプトがナンセンスなH-2BもSRB-Aは4本だ。逆説的に見れば、日本はやはりロケットコンセプト能力が遅れていると考えられ、やはり日本の液体エンジン開発レベルが低下していると言えるのではないだろうか?国際競争に晒されているLE-7Cなどのメインエンジン動向を見ると、マルチノズルとクラスター化は別物であるという考えがJAXAやメーカーでは認識されていないかもしれない。海外からはLE-7Cのことを「技術コンゼプトが世界基準から逆行していると言わざるを得ない」との指摘が上がっている。 

・Eagle-III

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EPACの設計案(EPAC)

  
 ORION-38固体ステージ(hometown.aol.de)   RS-34液体ステージ(FAS)

◎ロシアもスモール・ランチ・ビークル(SLV)競争に参戦

 ユーロコットやドニエプルで成功を収めたロシア側も、経済復活の影響から在庫技術放出体制から既存ロケット改良の開発をはじめている。本稿ではスモール・ランチ・ビークル(SLV)に当てはまるものについて紹介する。過去の誌面(エアワールド2006年12月号)にてLow-Costランチャーと題して、KOSMOS(KOSMOS)やSTARTの低コスト化に向けた努力が行われている動向を紹介したが、ここへきて「KOSMOS-X」と「START-X」の計画が進められているとの情報が入ってきた。

・KOSMOS-X
 COSMOSは、イギリスやドイツが衛星打上げ用として使用しており、かつてソ連時代にKGBが偵察衛星打上げ用として使用していたロケットである。KOSMOSはYangel R-14(SS-5)という短射程の弾道ミサイル(IRBM)をベースに設計された経緯を持ち、現在ではKOSMOS-3M型が活躍している。KOSMOS-3Mの打ち上げ能力は、低軌道(300km)へ1.3t、太陽同期軌道SSO(500km)へ900kgある。

  
KOSMOS-3M(hometown.aol.de) 

 このKOSMOS-3Mの廉価バージョンの開発と利用者側観点に立って、「複数衛星搭載用マルチアダプター」、「簡易型アッパーステージ(Rubin-X)」、「本格的アッパーステージ(Breeze-K)」の3つがラインナップとして検討している動向を説明したが、さらなる動きも出てきた。それはKOSMOS-Xだ。

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・START-X
 次にSTART-1ロケット発展型であるSTART-Xだ。START-1ロケットは全段固体ロケットであり、ICBMであるSS-25用に開発されたYushnoye製の固体ロケットモータを組合せて4段式(START-1)と5段式(START)が開発された。このうち4段式のSTART-1は直径1.8m、全長22.7mであり、1993年〜2001年までに5回が打上げられ、高解像度地球観測衛星「EROS A1」、「EROS-B」、「Early Bird」、スウェーデンの科学衛星「Odin」などが打上げられ、5回全てが成功している。しかし、5段式のSTARTは1995年の初打上げの失敗以後、行われていない。START-1の販売価格は現在$9mil(約10.8億円)である。

 その後の発展策としてSTART-Xが検討されているそうだ。そのSTART-Xの選択肢として2つが検討されている。それは

・ 4段式固体であるSTART-1を直径大とする案

・ 4段式固体であるSTART-1の3段目までが固体、4段目を液体とする案



START-1と第一段モータ(hometown.aol.de)

が検討されている。直径はどの程度増すのか?液体ステージは何が採用されるのか?についての情報はまだない。しかし小型衛星打上げロケットとして打上げレンジ幅の増強、軌道投入精度の向上を狙った戦略と言える。START-1の最大直径は1.8m(第一段目モータ)であり、M-Vロケットの2.5mと比較して小型だ。

 さらに戦略的ビジョンもある。実のところ、イタリアと組んでいるそうだ。なぜイタリアなのか?VEGAがあるからだ。M-V技術をベースとしたVEGA固体技術をロシアへ取り入れ、遅れた技術を取り戻す戦略なのだろう。しかもイタリアの他に南アフリカと組み、南アフリカかアフリカ大陸の赤道付近に射場を建設するそうだ。射場は海上射場であるサンマルコ射場を流用したものを建設するそうだ。このビジネスプランになんとイタリアの超有名アパレルメーカーが百億円単位で出資するとの情報がある。START-Xは水面下で事業化の検討がかなり進んでいることになる。


START-X事業計画案(ASI)

・日本はM-V-Xが存在

 日本でも、スモール・ランチ・ビークル(SLV)競争においてM-Vを応用した検討が行われていた。それはM-V-Xとして「全段液体バージョン」と、「下段は固体で最終段のみ液体バージョン」という話だ。ある国の宇宙技術者からの話では、旧NASDAやISASの「液体・固体分離政策」という間違ったタテ割り行政の弊害を排除し、拘束条件を排除した上でM-Vメーカーの旧日産(現IHIエアロスペース)が検討していたそうだ。確かに旧日産は、1980年代後半に空中発射ロケットを海外で論文発表していた事実があり、目立たずに黙々とコンセプト研究をしていた努力が伺える。しかし旧NASDAがMロケットを実質叩く目的でH-2ロケットのSRBを利用した失敗作「J-1」を開発した。固体ロケットエンジニアから見れば、これが如何にレベルが低い戦略かは過去の紙面で説明した通りだ。このJ-1開発に対して反感を持った一部エンジニアがM-V全段液体バージョンを検討していたそうだ。しかし失敗作J-1の後にJ-1改、J-2、GXとなったため、失望した一部のエンジニアは日本に見切りをつけ、海外のロケットメーカーへ転職して行ったそうだ。これが事実なら、間違った宇宙政策が日本のロケットエンジニア損失のトリガーになった例として私たちは反省しなければならない。

 だが、歴史はまた繰り返されようとしている。次期固体計画が実質的にJ-1の再来であるからだ。しかも驚くことに次期固体ロケットは2段式だそうだ。固体ロケットの基本が分かる人ならば、如何にこれが効率悪いロケットになるのかは理解しているだろう。しかも2段式固体ロケットは効率が悪い上に、衛星の振動・音響環境も搭載位置が1段目に近くなるため、劣悪になることはやる前から見えている。「固体ロケットは振動・音響環境が悪い」と批判してM-Vを中止させたJAXA宇宙基幹システム本部の次期固体計画の方が「より”劣悪”な打ち上げ環境のロケットを提案」しているのだ。これは、ロケットの基本がわからない人間が提案したとしか思えない。海外からは「2段式固体構成は空中発射ロケットならまだあり得るが、地上打ち上げ・SRB-A流用で2段式なんて如何に打上効率の悪いロケットになるかは、ロケットエンジニアなら誰でも分かるレベルだ」と言われた。おそらく空中発射ロケット開発ではないだろう。JAXA宇宙基幹システム本部のレベル低下が明らかになっている。しかもこれを容認した宇宙開発委員会も同様だ。

 しかも次期固体計画はM-V打ち上げ能力より低くなり、日本はスモール・ランチ・ビークル(SLV)競争へ参入できない状況となっている。GXがM-Vの後釜というJAXA主張をもし採用するならば、GXはスモール・ランチ・ビークル(SLV)がライバルということになる。上記のESL/ESLM 、EURO-X、DELTA-Lite、Eagle-III、KOSMOS-X、START-Xコンセプトが、M-Vと同等性能だからだ。この市場に「M-Vの後釜とJAXAが主張するGX」が参入した場合、果たして競争に勝つことができるのか? JAXAが主張する大・中・小ロケット戦略の“中”を担うGXは、(技術上は明らかに違うが)100歩譲ってM-V性能の後釜とすれば、もうすでに価格的・性能的にコンセプト負けしているのではないか?GXがM-Vの後釜という位置付けとして、GXロケット計画を承認した宇宙開発委員会は、「国際動向を読み間違えているのか、国際動向を把握していないのか、ロケットエンジニアリングを理解していないフリをしている」と言わざるを得ない。なぜ、このようなランチャー計画が文部科学省宇宙開発委員会で承認されているのか?それを考えてみると、答えが見えてきた。

◎戦略を描けないJAXA、国際トレンドを把握していない宇宙開発委員会

 日本の宇宙体制が国際標準について行けない背景には、「利用する事を主として考えず、技術開発偏重主義で宇宙計画を立てている」ことだと考えている。その典型例がETS-8やALOSだろう。“技術のココがスゴイ”という議論しか出来ず、「世の中が必要としているものは何か?」、「世界はなぜETS-8やALOSを高く評価してくれないのか?」という実績を分析・反省しないで“技術開発を褒め称えるだけ”でイメージ向上を推し通しているのがJAXAである。今まではそれが許されていたのだろう。しかし時代は変化し、“技術のココがスゴイ”という説明だけでは隠しきれない“海外との差”が見え始めている。

 ETS-8は海外から共同研究が来ているが、その件数はたった数件程度、国内でも「研究テーマが少ない」と言われ、数百億円かけたミッションの割には“利用無き衛星”という状況に陥っているそうだ。ALOSも他国よりミッションコストが高い割には小回りが効かず、使い勝手が悪い衛星とも言える。超高速インターネット衛星WINDSも国がインターネット普及を謡っていた頃に乗じて旧NASDAが立ち上げた計画であり、利用する事を主として考えずに作られており、戦略変更の必要があるのは明らかだ。

 ロケット分野でもそうだ、アメリカ・ヨーロッパ・ロシアではこぞってアッパーステージ開発競争が始まっている時代に、日本はアッパーステージを開発せずに、第一段目を改造してH-2A共通化につながらないH-2B計画を進めている。これはナンセンスだろう。しかし国際動向を把握していれば、宇宙開発委員会がチェック&バランス機能として是正勧告ができるはずだ。だが宇宙開発委員会ではほぼ問題なく承認されている。これはなぜか?宇宙開発委員会がJAXA資料しか読まず、世界動向を把握していないからだ。では、海外ではどのような宇宙戦略を掲げているのか?


現行世代、次世代、新世代と段階的ビジョンを示している米露(出典:NASA、RSA ENERGIA)

 これはNASAとロシアのエネルギア社が発表したロードマップだ。NASAについては少し古いため、あくまで参考としてみて欲しいのだが、NASAは宇宙輸送手段を「スペースシャトル」・「オービタル・スペース・プレーン」・「次世代打上げ機」と位置付け、段階的に打上げ手段の世代交代を狙うロードマップを発表している。現在の技術がスペースシャトルだとすると、基礎研究や近々に達成できる技術を用いる打上げ技術が「オービタル・スペース・プレーン」であり、再使用エンジンや空気吸入式エンジンやフライバックブースター技術など次世代・新世代技術開発の進捗に応じて柔軟に「次世代打上げ機」を構築するビジョンを目指している。

 一方、ロシアでは2006年末時点で、ロードマップを発表している。現在はSOYUZ-FGロケットを用いたプログレス輸送船を使っているが、近々の計画ではSOYUZ-FGより大型のPROTONロケットにてPAROM輸送船(別名シベリア)で物資輸送能力を上げ、将来はSOYUZ-FGのエンジンを一新したSOYUZ-2やSOYUZ-3、もしくはPROTONの後継であるANGARAで有翼宇宙船「CLIPPER(別名SOYUZ-K)」を打上げる計画を立てている。その先は発表されていないが、クルニチェフ社やエネルギア社などが進めるフライバックブースターなどが登場してロケット一部再使用化を計画しているのだろう。

 これらロシア・アメリカのように段階的に技術を積上げて打上げ手段の世代交替を図っていくロードマップが日本にはない。日本はメーカー側が“自社主体の宇宙計画”をJAXAへ提出、JAXAもメーカーからの提案を通すべく、国際標準を意識せず、正当化する資料を作る事に専念、宇宙開発委員会に承認させるべく都合のいい資料を作りつづけている。打上げ手段について言えば、H-2Aを打上げながら、「ファミリゼーション化していないH-2B」、「M-Vを説明不足で強引に中止させた上に発表した魑魅魍魎な2段式の次期固体計画」、「商業ロケットを目指したはずが技術開発偏重主義へとシフトダウンしたGXロケット」という打上げ手段をやりながら、アッパーステージ開発・フライバックブースターに繋がる空中発射ロケット、再使用エンジン開発をろくにせずに、片方で突然SST(超音速機)による宇宙往還機研究という滅茶苦茶ともいえるロードマップ無き研究開発を進めているのだ。

 「何のためするのか?何に繋がる開発なのか?」というのは後付けで、「一部の研究者・技術者らが惚れ込んで、日本としての戦略を考えずに勝手に開発」する事態が横行している。研究レベルであれば否定しない。むしろ研究ならドンドンやるべきだ。だが開発レベルにまで“勝手”が蔓延すれば、何やっているのかわからない状況となる。このため、米国やロシアは研究者への自由度は与えつつも、「我が国の全体的な方向性はこうだ!!」とロードマップを示した上でそれに沿う技術へ開発予算を与えている。この差が「日本が世界から遅れている原因」と言えるだろう。

◎ONE-JAXAの実態は旧NASDAシステムの再来のため国益にならず

 2004年にNASDA、ISAS、NALの三機関統合後のJAXAは、実質的にNASDA体制の強化になった。旧NASDAは他の機関よりも人員数が圧倒的に多いため、数の論理でISASとNALの良き文化を吸収するどころか骨抜きにした。そしてONE-JAXAという都合の良い言葉を使い、高コスト体質を蔓延させている。しかも宇宙基本法案でJAXA組織見直しが謡われているが、JAXAイノベーションを追及すべき時代にも関わらず、旧NASDAの再生を目指しているようだ。これは日本が宇宙先進国から脱落することを意味する。例えば、国民の命に関わる災害監視衛星もドイツのようなSAR-LUPEやRAPIDEYEのように、光学と合成開口レーダー衛星群を10機体制で構築するのではなく、時間分解能が悪く(撮像間隔が長い)小回りも効かない大型衛星4機体制の構築を平然と発表している。小型高機能衛星の開発能力をメーカーが有していないのも1つの原因であるが、「地球観測衛星は数が勝負」という論理を実践できないJAXAの現実がここにある。これは産業育成にも繋がらず、衛星メーカーの競争力向上にもつながらない。よって文部科学省主導のJAXA宇宙体制は機能解体・分割が急務だ。「折角統合したのに意味がない」という主張も聞こえそうだが、機能しないなら維持する必要があるのだろうか?よって、内閣府主導で行われる宇宙戦略会議でJAXA組織そのものを見直し、

・ 公共宇宙利用機構(総務省)

・ 宇宙航空開発機構(経済産業省)

・ 宇宙戦略政策機構(内閣府)


旧NASDA主導体制を機能分割し、「目的・費用・効果」に優れた宇宙機関の再構築を進める必要がある。そして内閣府宇宙戦略本部はJAXAで開発された技術を「一部研究者・技術者の勝手」で開発されているものを精査し、今ある技術を別の技術と組み合わせたり、必要であれば新規に開発したりして、「技術を取り上げ、組み合わせて、アレンジする」コンセプトを描き、将来につながるロードマップを描く必要があるだろう。今まで築いた日本の技術を殺さずに発展させる方法論を徹底的に模索し、いい意味で整理統合する方向性を模索すべきだろう。

◎まとめ

 次世代宇宙技術は非宇宙技術がカギを握っているのかもしれない。材料やMEMSという新世代技術が宇宙ではなく、家電・ゲーム機・携帯端末技術をベースに生まれてきており、海外宇宙メーカーはすでに日本企業へアクセス、自国の宇宙技術に取り込むべく活動を開始しているそうだ。携帯電話で使用されている3軸加速度計や6軸加速度計は注目すべきであり、衛星やロケットの低コスト化に繋がる可能性に気付くべきだ。

 地球観測衛星は光学技術の次世代化・小型高機能化につながるSIC技術、新世代技術のハイパースペクトラルセンサー、大情報量を処理する光通信や量子コンピューター技術がキーとなるだろう。

 また、これら先進的技術を取り入れた小型衛星を打上げる一方でスモール・ランチ・ビークル(SLV)の国際競争が始まっている。これからの主流は小型衛星時代だという認識がアメリカやヨーロッパでは認識されている。このため、ヨーロッパではVEGAに加えてESL/ESLM、EURO-Xが、アメリカではDELTA-Lite、Eagle-IIIが、ロシアではSTART-X、KOSMOS-Xを開発・検討している情報が入ってきた。これらロケットは固体+最終段液体構成であり、「固体で大雑把に打上げて最後は液体で調整」というシステム構成が最も経済的という考えがあるようだ。その次元で考えれば、JAXA発表の次期固体計画はコンセプト負けしているのは明らかで、GXロケットもSLV市場では勝てない可能性がある。

 これら戦略的ではない宇宙体制が行われる原因は、アメリカやロシアのように「我が国の全体的な方向性はこうだ!!」とロードマップを描いていないことだ。今後は段階的に技術を積上げて打上げ手段の世代交替を図っていくべく、内閣府に設立されるであろう宇宙戦略会議にてロードマップを描いてもらいたいものだ。そしてOne-JAXAではなく、ISASや国立天文台による宇宙探査機構(J-JPL)構築や、気象衛星や災害監視衛星という公共宇宙システムを担当する組織の構築、商業宇宙活動につながる産業を支援する宇宙航空開発組織の構築が必要なため、文部科学省主体ではなく、内閣府、総務省、経済産業省が主導する宇宙体制にすべきだろう。

このような体制の元で新規参入企業を入れてアメリカのARESやフランスのTSTOのようなすばらしいコンセプトを発表してもらいたいものだ。次回は、さらに深く宇宙の現状を探ってみたい。


フランスTSTO(CNES)                                 ARES(Spaceworks)


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