国際基準のJAPAN LVS計画(国際アライアンス時代を見越して)
  (エアワールド200
7年1月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年1月号」をお買い求めください

 本稿では、国際的な土俵へ上がるため、液体ロケット開発動向に注目し、聖域なき次世代化戦略を考えてみたい。

◎日本の液体ロケットエンジンの現状

 過去の誌面(2006年7月号、8月号、10月号、11月号)で述べたように、当初日本の液体ロケットは国産を目指していたが、相次ぐ開発遅延と固体ロケット開発を中止させたいという様々な思惑から日米宇宙技術交換協定を締結した。そしてアメリカから、DELTA-Mロケットの完成品を輸入して打上げる一方、独自開発として液体エンジン開発を継続させる2つの流れで開発を進めた。このアメリカの液体ロケット技術を学びながら独自開発技術を組み合わせ、N-1、N-2、H-1と段階的に国産設計と製造化を図りながら、液体水素/液体酸素エンジンであるLE-5とLE-7を開発している。そしてH-2ロケットでは実質的な国産化に成功した。2006年現在から見ればこの段階が「最も日本企業が参加した液体ロケット」と言えるだろう。エンジンを含むトランスポンダーや搭載機器は、一部では海外企業へライセンス料を支払ってはいたものの、国産と言える程のロケットになった。しかし、エンジンが国産設計であってもロケット自身を100%国産化したわけではなく、DELTAロケットの設計思想を取り入れながら、エンジンの燃焼に関わるソフトウェアは海外ロケットのソフトウェアを複数購入して改造使用している。つまりブラックボックスということだ。さらに、エンジンのバルブなどの主要部品は輸入品で構成されている。また、過去の紙面で述べたようにH-2ロケットやH-2Aの固体ロケットブースターは、旧日産(現IHIアエロスペース社)が製造しているが、基本技術や製造インフラはATKサイオコール社が実質管理しており、現在でもパテント料(特許)を支払って製造している。

 この独自設計のH-2ロケットは世界を驚かせるに値するものを作ったと言える。それは国産第1段エンジンであるLE-7だ。この設計は、当時の液体酸素/液体水素エンジンのレベルとしては世界ナンバーワンと言えるほどの高性能であり、当時のスペースシャトルのメインエンジン(SSME)、NASAの垂直離着陸機DC-XのRL-10A-5エンジン、ロシアのエネルギアロケットのRD-0120エンジン、アリアン5のVULCAIN-1エンジンを凌ぐ推力重量比を達成している。(推力重量比:エンジンのパワーに対してどれだけの構造重量で達成したかを示すパラメーター。大きい数値の方が高性能と言える)

 このLE-7の高性能さに刺激されてアリアン5ロケットのVULCAIN-1(VULCAIN-Mk1)エンジンは設計を変更、日本に追いつけとVALCAINE-2エンジンを開発してアリアン5へ搭載している経緯がある。恐らく、液体ロケット技術で評価をすれば、H-2時代が日本の全盛期だったと言えるだろう。だが、このH-2国産化によって日本の液体ロケットエンジンが予想以上に高性能だったことから、日本に輸出されている宇宙部品には制約がかけられ、バルブをはじめ周辺機器や輸入素材は旧式のパーツのみしか購入できなくなり、最新の部品が輸入できない状況にある。


液体酸素/液体水素エンジンの推力重量比(出典:Spaceworks)              LE-7(出典:JAXA)



 そうした中で低コストH-2を目指すべく、旧NASDAはH-2Aを開発した。そしてエンジンも最高性能を誇ったLE-7から、製造方法を簡素化してコストダウンした新しいLE-7Aとなっている。しかしエンジンの全体性能を示す“推力重量比”が悪化し、コストダウンは達成したが全体性能もダウンした。これに対し、アメリカのRS-68やフランスのVALCAINE-2開発は「性能向上&コストダウン」に成功している。つまりLE-7A開発によって、日本の優位性は失われたのだ。そして現在は、性能悪化したLE-7Aの弱点を克服せずに2台クラスター化し、打上能力を上げると称して技術水準は実質低下したH-2B計画を推進している状況だ。クラスター化の開発困難性や燃料タンク製造を国産化及び開発の効率化をJAXAは主張しているが、本質は「エンジン開発能力が低下したため、クラスター化して逃げた」というロケットエンジニアの意見が実態だろう。

 これは、JAXA宇宙基幹システム本部のエンジン開発能力が極端に低下したことを示している。液体酸素/液体水素エンジンは、燃料が自然界で豊富なため、将来的には競争力あるロケットになる可能性が高く、海洋プラントを用いたロケット燃料製造システムの開発は、アメリカではすでに空母「オリスカニー」をフロリダ沖に沈め、人工環礁化させた事前研究をしているそうだ。このように戦略的な活動をしている体制はすばらしく、目先や小手先のロケット開発を実施しているJAXA宇宙基幹システム本部と比較をすれば、予算規模は違えども知恵を絞った戦略は日本にもできるはずで、コンセプト能力の差は歴然だ。

 これ以上転落しないためにも今後は、民主体(三菱重工主体)の開発体制を取り入れながらアメリカやフランスが開発している液体水素/液体酸素エンジンのように「性能向上&コストダウン」を目指したエンジン開発方針が最低限、必要だろう。

◎H-2Aの輸送能力の比較

 日本のロケットは、国際市場へ進出するためにJAXA宇宙基幹システム本部の開発体制を抜本的に見直す必要があるが、日本ロケットの問題点として何があるだろうか?その1つは打上げ能力のレンジ幅である。下図を見てみよう。


ロケットの打上レンジ幅(出典:So-netブログ)           DELTA-Wロケット(Boeing)

  この図はネット上のブログで紹介されているが、DELTA・ATLASロケットとH-2Aの打上レンジ幅の比較だ。DELTAU型とDELTA-W型を比較すると、旧式から新型へ移行する際に打上げ可能レンジ幅が広くなっている。つまり現在の最新型ATLAS5やDELTA-Wは、幅広い重量クラスの衛星を打上げられるような設計方針で作られている。DELTA-WではRS-68エンジンを使用した第一段目をベースに、「SRBをプラス」したり2段目のエンジンは共通でも「タンク容量」や「直径」を変化させたりして可能な限り改造を避けた設計手法で“打上可能レンジ幅”の広いロケットを実現した。何処かの国のように、ロケット名は酷似していても、エンジンが“単発版”と“クラスター版”を提案し「(共通性の乏しい)ファミリゼーション化を装う高コスト思考型ロケット」ではないDELTA-WやATLAS-Vの設計思想は学ぶべき点が多い。ロシアのソユーズでも基本設計は変化させずにエンジンを載せかえ、フレガート・Ikarのようなアッパーステージ(最終段)を用意してコストのかからない万能型ロケットを実現している。

 一方、日本のH-2Aは、太陽同期軌道や静止トランスファー打上可能レンジ幅で評価をすれば、競争力が弱い。しかも打上げ回数が少ない事を理由に、国際基準を逸脱した高コスト体質を正当化しようとする発言さえある。聞くところによれば、H-2ロケットが順調だった時代にロケットシステム社が海外から合計10回の打上契約を予約発注したと言われているが、購入キャンセルになったのは相次ぐ打上失敗、90年代の“宇宙バブル崩壊”に加えて“打上可能レンジ幅が狭かった”のが原因だとも考えられる。また、H-2ロケットの技術力が高かったため、DELTA-Wやアリアン5ロケットの技術水準を底上げする目的で、(買うつもりはないが)わざと日本へ発注してDELTAやアリアンへハッパをかけるのがもう一つの目的だったそうだ。それぐらい、日本の旧型H-2ロケットが出来た当時は「いいもの」だったことが伺える。


DELTA-Wのタンク容量の変化(出典:Boeing)                       ATLAS-Vの2段目計画(出典:LM)

  だが、最近アリアン5の小型化方針が発表された情報を見れば、日本のH-2Aが90年後半から2000年前半にかけて、怠けずに徹底的にコストダウンをかけて信頼性を獲得していれば、国際市場で十分通じるロケットになれたかもしれないと個人的には考えている。近年のロケット開発はJAXAや中国のような“打ち上げ能力の上昇追求型”ではなく、“コストバランス追求型”へシフトしているからだ。

 しかしJAXAは官需依存体制のもと、事業化には成り難い技術開発方針を発表し続け「技術開発の手段」としてH-2Aシリーズを扱い、さらに信頼性向上という反対できない言葉を巧みに使い、価格・戦略という国際動向を無視したH-2B計画を推進している。また噂ではM-Vロケットを潰してH-2Aライトというアメリカでは企画倒れになったロケット計画を検討中だ。これはDELTA-WSmall計画概要資料をアメリカのメーカーから購入したものだが、中身は国際的に通じない計画であると断言できる。このJAXA宇宙基幹システム本部が推進するロケット開発体制では、5000億円以上かけた優位性のあるロケットエンジン技術等が水泡に帰す可能性があるため、解体を含めて組織見直しが至急必要だろう。

◎H-2シリーズの実情

 以上、液体ロケット技術とH-2シリーズは、国際動向から見ればレベル低下が進んでいる上にコンセプト能力不足であると言える。今後は、世の中で使えるロケットにすべく、国際仕様へ戦略転換する必要があるだろう。この国際仕様とは、コマーシャル(商業)化である。現状のH-2Aは民間移管され、三菱重工が販売元になっているが、顧客として見込まれる国内の衛星運用会社からもソッポを向かれている。現状、通信放送衛星を所有・運用しているJSAT株式会社、宇宙通信株式会社、放送衛星システム(B-SAT)、モバイル放送株式会社という衛星放送、移動体通信・放送など商用サービスを展開している彼らはH-2Aを「官需依存型ロケットで価格も高く信頼性もない」と見ているのが実態で、よほどのことでもない限りH-2Aを購入することはないと言われている。つまり、現状のH-2Aは打上げ続けて信頼性を獲得しても、国際市場価格の倍以上し、将来戦略レベルも低下しているため、長期的視野で見れば、商業化は困難で朽ち果ててしまうのは時間の問題だろう。しかも、現状のH-2Aは旧式パーツをアメリカから輸入しているため、製造ラインが中止されれば、打上げられなくなる。噂では、日本向けへ輸出されるH-2Aの一部のパーツはあと10基ぶんもないそうだ。恐らく製造ラインが閉鎖されているのだろう。国内にはH-2Aのフライト可能な供試体があるため、これを組み合わせれば、あと10基程度のH-2Aは打ち上げられるだろうが、H-2Bロケットも旧式パーツを組み入れているため、H-2B計画を進めれば、H-2Aの打上げ回数はさらに減少することになる。これは液体ロケットが危機的状況にあることを意味している。このままでは液体ロケット技術が失われるため、輸入元のアメリカとの間で締結している日米宇宙協定を改訂し、部品の輸入体制の緩和を要請し、H-2Aを次世代化させる必要がある。詳細は後述するが、日米宇宙協定改訂は、双方の国益にメリットがなければ協定を改訂する環境が整わない。つまり今後のH-2A後継機は日米双方にメリットある戦略にするか、国産独力でいくのか決断しなければならないのだ。

 
   高価格「H-2A」               失敗作LVS「J-1」             開発遅延&予算超過の「GX」 
(画像出典:3つともGunter’s Space Page)

◎GXロケットの実情

 また、日本ではGXロケットが開発されている。これは、J-1ロケットの失敗から立ち上がった計画であり、液体ロケット価格の低減を目標として開発されている官民共同開発のロケットだ。JAXAでは、M-Vロケットの後継機として一時期定義づけたが、実態は打上げ能力が非常に高く、H-2AロケットのLE-7エンジンと同等クラスのRD-180エンジンを第一段目に搭載しているため、H-2Aと同等クラスと言える。しかし打ち上げ能力がH-2Aよりも低いのは、2段目エンジンの能力を下げているからだ。よってGXロケットの2段目エンジンを強化すれば、H-2Aと同等の打上げ能力は出てしまう事も事実だ。しかし、日本として育てた旧NASDAのH-2ロケットチームと三菱重工からすれば、第1段エンジンが価格的・信頼性的に良く、性能的に拮抗するGXロケットが出てきてもらっては困るのも実情なため、現在では、GXロケットの2段目エンジンの性能を下げたLNG系推進システムを採用し、住み分けをしている。このLNG系推進システムは、低公害・安価・取扱容易とされる液化天然ガス (LNG) を燃料としており、酸化剤は液体酸素を使用している。

 このロケットエンジン技術はもともとロシアにあり、そのパテント(特許)技術をアメリカのエアロジェット社が購入、さらにそのパテントを日本が購入し、GXロケットの2段目エンジンとして活用・開発している経緯がある。つまり技術の基本はロシアということになる。だが噂によれば、日本へ輸出されたLNGエンジンのパテント(特許技術)は、ものになり難い技術が渡されたという話もあり、開発期間に時間を要するそうだ。真相は不明だが、実際GXロケットは2003年に初打上げ予定だったが、2006年11月現在でも完成の情報はない。最近では、技術的問題が解決されておらず、コストオーバーラン(予算超過)体質に陥っており、当初96億円とされた開発費は、最近では347億円と報道されており、3倍以上かかっている。聞くところによれば、最終的には600億円もかかるとも言われている。国際的な観点で、「目的・費用・効果のバランス」で評価すれば、当初の計画は失敗だろう。しかし商業事業を目的とするGXロケットは、商業打上げをしなければ意味がない。JAXA宇宙基幹システム本部のような雇用対策&技術開発ロケットではないのだ。このため、2段目エンジンの計画を大幅に変更する案も検討されているそうだ。つまりLNGエンジンは研究継続しつつ、別のエンジンで打上げる方策も探っているのだ。ただ、このままでは、建前上の商業ロケットになる可能性が高く、数回打上げて建前上の事業化をさせて「終わり」と成りかねない。そうなれば、「官民協力の大失敗事例」となるため、そうならないよう、戦略的な活動が求められる。

◎JAXAロケット戦略の問題

 JAXAでは、宇宙基幹システム本部が今後、大・中・小の打上げシステムを揃えるとしているが、

・ 大:H-2Aロケット

・ 中:GXロケット

・ 小:次期固体ロケット「Solid-X」


という構成になる。しかし次期固体ロケット計画は先月号で示した「Low-costランチャー開発動向」からすれば、戦略不足で国際的に通用しないことが明らかとなった。そしてGXロケットは2段目LNGエンジンの開発遅延に加えてコストオーバーラン状況、H-2Aロケットは順調に成功しているものの、コスト高で国際市場では通じず、部品枯渇も見込まれている。さらに国際基準と比較して異常とも言える価格高のH-2Bまで計画中という状況だ。つまり、JAXA宇宙基幹システム本部の大・中・小ロケット計画は、すべて国際基準を満たしていないのだ。この言い訳として「信頼性を確保していない」とか「米露ほどの実績がない」とJAXAは主張しているが、日本よりも低い宇宙予算で商業化に成功しているフランスのアリアン5の戦略は無視している状況だ。もし国際的土俵に上がるならば、現状のロケット戦略方針を抜本的に見直す必要がある。では、今後のH-2AとGXロケットについて考えてみたい。

◎コマーシャルLVSシステムの実現(H-2C)

「研究開発・官需対応型から国際基準型へ」

 まず、H-2Bは日本にとって大型過ぎであるのに加えて極少市場だ。商業化できれば理想だが、現状では国際的に通用しない。さらに今後は国家宇宙予算が減少する可能性が高く、「これからの時代に日本一国として維持し保有するロケットだ」とは言えず、計画変更の必要がある。しかもH-2B計画は日本の技術レベルがさらに低下するため、エンジニアの浪費となる可能性がある。このままでは「日本独自の打上げ手段が必要」と言ってコスト高で輸入品構成のH-2Aを維持する体制となり、官需依存体質を脱却できず、ぬるま湯に浸って国民の税金を浪費しつづける状況となってしまう。また、現状のH-2Aは国外ロケットと比較して“極度なチューニング”を要するため、搭載衛星専用のロケットを毎回製造しているのが実態で、ある衛星用に製造されたロケットは他では使えないとのことだ。「これほど毎回改造している工芸品的な液体ロケットは他にない」と言われるぐらい、毎回改造を施している。これではいつまでたっても国際市場へ出られないため、研究開発・官需対応型LVS方針は撤廃すべきだろう。


極少市場の「H-2B」(出典:JAXA)

「タンク容量制限の解除とエンジンの更新」

 さらに問題なのは、日本の液体ロケットは、日米宇宙協定の関係から第2段目エンジンのタンク容量に制限がかけられているそうだ。これが事実ならば、アッパーステージ対応時代にH-2Bの2段目は殆ど手を加えていない理由が通る。世界がロケットの“第2段目”や“アッパーステージ”に力を注いで「顧客(宇宙機や貨物)のための改造」を加えている時代に、日本は第一段目を改造している。一方、中国では長征にBreeze-KMを購入する交渉を進めているそうだ。もしH-2シリーズ開発チームが国際的に通用するロケットを開発するならば、日米宇宙協定の改訂によって燃料タンク容量の制限を撤廃し、H-2Aの第2段エンジンを次世代化させ、タンク容量を増加させて打上げ能力向上と、複数衛星搭載時代に対応したマルチバス(アッパーステージ)を最低限開発すべきだろう。
 
 具体的にLE-5エンジンは、燃焼器の長時間燃焼に不安があると言われ、タンク容量増加による長時間燃焼に耐えられないとの噂だ。この問題を克服するため、三菱重工とボーイング社ロケットダイン(現在はP&Wロケットダイン社)で共同開発したMB-XXエンジンが開発中だが、これを第2段目に採用してはどうか?MB-XXはアメリカでの燃焼試験に失敗したが、安定燃焼すれば非常に高い性能を発揮するためアッパーステージ対応時代のエンジンとして有望だ。しかもJAXAのロケットエンジン開発チームが関与しておらず、メーカー主体の効率的な開発が行われており、国際基準にも国際アライアンスにも対応可能な三菱重工唯一のロケットエンジンだ。民間でロケットエンジンが開発されているのならば、JAXAはNASAのように民間主体の開発方針はできるはずで、宇宙基幹システム本部が開発に深く関与する必要はない。


MB-XXと燃焼試験(出典:MHI)

 また、MB-XXが困難ならば、アメリカで量産され、日本でも過去ライセンス生産した経緯のあるRL-10シリーズのどれかを搭載して近代化させる方法も考えられる。そして第1段エンジンであるLE-7Aは、上記で述べたように「性能向上&コストダウン」を今後目指せばよい。これならば技術的・価格的に国際レベルとなれるH-2C(Commercial:商用)が出来る可能性がある。さらに先月号で紹介した「Cyclone-2K」のように、素材の適所適材化、工作法の見直しを実施し、徹底したコスト削減と量産製造体制を確立すれば国際的に通用するロケットになれる可能性が高い。さらにアッパーステージは、「コスモス」のようにバリエーション豊かなものがあれば理想だ。例えば、開発する価値を失ってしまったHTVを有効活用し、カーゴポッドからアッパーステージ用にタンクを流用し、直径を縮小して全長を延長したアッパーステージを開発するのはどうだろうか?エンジンはLE-5のクラスター型かRL-10シリーズで検討し、H-2Aの2段目を更新してアッパーステージ仕様にする。こうすれば、H-2Cとしての“大型ではない中規模のアッパーステージ(Japanese upper stage)”が可能かもしれない。

 また、液体ロケットには第2段タンク容量に制限がかかっているが、日米宇宙協定を改訂せずとも1つだけ抜け穴がある。それは、燃料タンク自身を部品として輸入すればよいのだ。外国製のタンクのみを輸入して国産設計エンジンを装着すれば、協定違反とはならないそうだ。タンク容量と容積の解釈を同一として見ないことがキーワードであるが、これ以上は当事者には分かるはずなので、控えたいと思う。国内で製造するものに制限がかかっているなら、外国から完成品を輸入すればいいという考えだ。

   
HTV技術の有効活用(出典:JAXA)               RL-10(出典:P&W)

「射場システムの更新(日米宇宙協定の改訂)」

 ただ日米宇宙協定の改訂は必要だろう。それは、種子島射場システムだ。旧型H-2国産化以降の日米協定更新時に、日本は最新のロケット技術輸入に制限が加えられた。このため、完全国産で射場システムを更新できればよいが、輸入文化で育った旧NASDA文化では、射場システムを独自設計することは実質的に困難だ(ちなみにM-Vの内之浦射場は独力国産で建設されている)。このため種子島射場は、20年前の高コストシステムを改造・使用し続けており、システム寿命を過えている。射場システムは15年に1回更新する必要があるが、DELTA-WやATLAS-Vの射場システムのような次世代化をせずに高コスト射場を改造・運用し続けている。例えば、ロケットのSRB-Aが増設される都度、発射台を変更しているのが現状だ。ロケットはシリーズが同じであれば、SRB数が増加しようが発射台は汎用性を有しているのが通常だが、H-2Aの発射台は旧型H-2システムに改造に改造を重ねて使用し続けているため、ロケット仕様変更のたびに改造している。寿命切れの装置を延命して使い続けているのと同じだ。恐らく、同じロケット発射台にコストをかけ続けているのは、世界中見ても日本がワーストだろう。一説にはH-2A射場システム維持だけで、アメリカのスペースシャトル並みのコストをかけているという話もある。VEGAやSOYUZがお手本にした内之浦射場システムと比較すれば、コスト見積もりが甘いのではないか?


高コスト種子島射場(出典:planetarium.cz)          世界が手本の内之浦射場(出典:JAXA-ISAS)

 よって、種子島にあるH-2A射場を近代化改修させることは必須であり、海外の最新大型液体ロケット射場の建設価格は約80億円以下と言われているため、このコストの範囲で種子島射場を更新する必要がある。場合によっては、H-2シリーズはボーイング社のDELTAロケットと同根技術から派生しているため、日米宇宙協定改訂によってDELTA射場システムを輸入してはどうだろうか?これは国内に技術を保有しつつ、将来的にボーイング陣営のラインナップに並ぶロケットを開発し、幅広い打上げレンジを確保した国際アライアンス時代に対応するための方策だ。ボーイング社としては、H-2Cという形で関与すれば、日本市場へ進出し続けられるメリットがある。今後、液体ロケットのコストダウンが求められているため、高い加工技術力を有する日本の中小企業を纏められる三菱重工と組んでおいて損はないはずだ。しかも、今後アジアロケット市場は小型ロケットの需要が伸びた後に大型の需要がやってくることが予測できる。この際、日本のアジアにおける国際貢献・提携によって打上げ市場が増加した場合にその利権を取ることも可能だ。そして日本側はアジアへ宇宙活動を展開し、“日本びいき”の環境を作る努力が要求されるが、これら戦略的活動を行う事を確約すれば、日米宇宙協定の改訂の道が開くかもしれない。日本の液体ロケットを発展させるために、今こそ団結すべきではないだろうか?


画像出典:JAXA

◎コマーシャルLVSシステムの実現(GX→Atlas-J)

「エンジンシステムの次世代化」

 次にGXだ。GXロケットは能力的にM-Vロケットの後継機と定義されているが、それは方便であり正確ではない。技術的に評価をすれば、ATLAS-VBの1段目を輸入しているため、2段目の性能を下げたLNGエンジンを採用しなければ、H-2Aと同等かそれ以上のクラスになれることは可能だ。また、LNGエンジンは4年以上も開発遅延しているため、モノになるかどうかは不明だ。よって、GXの開発元であるIHIが過去ライセンス生産したRL-10エンジンのシリーズを生産して2段目に搭載するか、高い推力重量比を持ち、ロケットプレーン社の民間ロケットで宇宙ステーションへ貨物を打上げるK-1ロケット採用のNK-33エンジン派生型(NK-33セカンド・ステージ・バージョン)を採用してはどうか?

 RL-10シリーズを採用する理由は、ロッキードマーチン社が保有するATLAS-VロケットのアッパーステージであるCENTAUR(セントウル)へ採用されている事に加え、IHIが過去ライセンス生産した実績があるからだ。またセントウルは、淘汰された超大型ロケット、タイタン-4Bのシステムを移植している。しかしそのままの移植は無理だった。タイタン-4Bのセントウル-G型は直径(約4.3m)に対し、ATLAS-V搭載のセントウル-V1型は直径(約3m)と異なるのだ。このため、タンク容量を維持するために細長くし、ATLAS-Vへ搭載されている。


セントウル開発の歴史(出典:aol.de)


RD-180エンジンの装着(出典:AIAA)          ATLAS-Vロケットの空輸(出典:LM)


Atlas-III/V搭載”セントウル”(出典:LM)

 また、GXが輸入する予定のATLAS-VBの1段目と、最新のATLAS-Vロケット第一段目のエンジンはRD-180と同じで最新だ。しかしロケット直径が約3m(ATLAS-VB)と約3.8m(ATLAS-V)と異なるため、2段目を共通化しても打ち上げレンジは現行のATLAS-Vと競合しない。逆を言えば、新型GXはRL-10シリーズを使用してセントウルを2段目として製造すれば、実質はATLAS-V-smallになれるというわけだ。

 つまりロッキードマーチン社とIHIが共同でATLAS-Vの小型版を作るという戦略も考えられないか?折角、ロッキードマーチン社のロケット1段目を輸入するならば、IHIとは無縁ではないRL-10シリーズを採用すれば、“GXロケット”が“ATLAS-V-small(もしくはATLAS-J)”となり、国際アライアンス対応型ロケットとなり、国際市場へ出られるという発想だ。ロッキードマーチン社からすれば、自己資本を投入することなくアトラス-Vの小型版が入手でき、幅広い打上げレンジを持つラインナップを揃える事が出来る。これは十分検討に値する話だろう。

 次にNK-33案だ。このNK-33はロシア製エンジンであり、アメリカのエアロジェット社がAJ-26-58という名称で販売している。過去の誌面(2006年10月号)“ロケットエンジンの推力重量比一覧表(出典:Space Works)”で示したように、NK-33の性能は抜群だ。特徴としては、ロケットの1段目にも2段目にも使用できるマルチ型エンジンであることだ。1段目用はロケットプレーン・キスラー社のK-1ロケットに採用が決定しており、2段目用はエンジン推力を落として信頼性を確保したバージョン(セカンド・ステージ・バージョン)がある。この2段目用エンジンのNK-33を使おうという発想だ。選択の理由は、「高い推力重量比」&「RD-180と同じ燃料系(ケロシン/液酸)」&「第4世代のセカンドステージに対応可能」だからだ。このNK-33エンジンは、そもそもロシアのN-1ロケットエンジンの派生型であり、過去の月探査で使用されたエンジン技術が用いられている。


  セントウル技術の派生(出典:LM)                        NK-33(出典:エアロジェット)

 このNK-33は第4世代のセントウルへ対応できる潜在性を持ち合わせている。Titan-4Bのセントウルを第一世代として見れば、Atlas-IIIやAtlas-Vで現在搭載されているのが第2世代、そして近代化されたセントウルが第3世代にあたる。これらセントウルの技術は、アッパーステージ以外にも、宇宙空間航行用・月着陸用・宇宙空間燃料貯蔵タンク用・地球帰還用エンジンとして派生できると発表されている。これらエンジンはRL-10シリーズだと考えられるが、将来的にはより高出力のNK-33が密かに期待されている。その先陣としてK-1ロケット用に採用した経緯がある。これらエンジンを次世代ではなく、新世代(セントウル第4世代)としてNK-33を採用し、ロッキードマーチン社とIHI共同でやってみる方法もある。これは、GXへすぐ搭載するという次元ではなく、H-2Cなどへも搭載できるための先行投資的な開発という位置付けだ。

「射場システム」

 さらに、GX射場をATLAS-V併用射場として建設すれば、GXロケット(=ATLAS-J=ATLAS-Vシリーズ)のILS(International Launch services)社やULA(United Launch Alliance)入りが可能となり、国際市場における競争力が上がる。ロッキードマーチン社側も自社ラインナップが増える上に、日本市場とアジア打上市場へ進出可能となる。種子島は大型航空機が着陸できず、直接空輸が不可能で年間自由に打上げできないが、滑走路を延長するか、種子島射場を断念してロッキードー&IHI陣営で赤道付近へ進出し、ATLAS-Vと新型GX(ATLAS-J)共通の射場を建設すれば、国際市場へ十分出られる。これは、IHIとロッキードマーチン社という当事者間で討議すればいい結果が出るかもしれない。少なくとも、このまま現行GX計画を継続し、種子島にアトラスロケットの旧式射場を建設するよりは、ロッキードマーチン社にとってメリットがあり、IHIが国際基準的なロケットを開発できる環境は整うはずだ。

「フェアリングシステム」

 しかし、H-2AのノーズフェアリングシステムをGXへ搭載する方針は諦めなければならないだろう。ILS社やULA社の国際アライアンスへ参加するならば、最低限ATLASロケットのインターフェースを共通化する必要がある。H-2Aの現状フェアリングシステム(=JAXA規格)では、構造的問題と国際基準として見れば対応できないのだ。よって国際仕様へ切り換える必要がある。これならば、欧米メーカーの衛星も大幅な改造無しで搭載可能となり、将来的な視点で見れば、国内衛星メーカーからも賛同が得られるのではないか?JAXA基準が国際的に通用していない現状ならば、致し方ないだろう。


DELTA-IIIとDELTA-IVフェアリング

  Atlas-III及びAtlas-Vのフェアリング
(出典:NASA)

◎「H-2C」と「Atlas-J」はタンデムシステム補強体制

 以上、H-2A近代化案(H-2C)とGX仕様変更案(ATLAS-J)を説明した。これらロケットを開発すれば、打ち上げ能力は拮抗するが、逆を言えばタンデムシステム補強が可能となる。つまり片方の打上げ手段が停滞しても、片方が打上げ可能なため、MTSAT-1Rのような状況は回避できる。MTSAT-1Rは完成して種子島射場へ納入されていたにも関わらず、H-2A打上げ失敗のあおりで1年以上も打上げられなかったのだ。このため、気象というアジア・オセアニアにおける日本のナショナルプレステージが危機的状況へ陥ったのfだ。今後、上記のような補完関係構築が可能だ。また、これら同じロケットを2つも持つことは税金の無駄遣いと言われるかもしれない。しかし、現行のJAXA宇宙基幹システム本部の示す大・中・小ロケット戦略よりは、国際的に通用する戦略であり、長期な視野で見れば日米宇宙協定改訂を含めて国益に適っている。そして競合者がいないことで高コスト体質が許されていたJAXAロケット体制に「あるべき技術開発をしなければ淘汰される」という危機意識を双方に与え、独り立ちできる体制を作らせる効果もある。また、H-2ロケットシリーズ開発には総額5000億円以上が費やされ、GXロケットも1段目は輸入品である一方、2段目エンジン開発費は100億円以下であったはずが最終的には600億円かかると見込まれている。「大型なのに中型」と言うような方便的開発はもう許されず、これだけ血税を費やした以上、日本としてやらなければならない。そして、三菱重工や石川島播磨重工業も国際基準へ対応できるLVSを作らねばならないだろう。また、いずれ政治的ではなく技術的に片方が淘汰されたとしても、両者とも国際アライアンスへ対応できる体制なので、根絶やしになる可能性は低くなる。例えば、新型GX(Atlas-J)が完成後に需要が減って中止となっても、2段目のセントウルというアッパーステージの一部をOEM輸出する環境ができる。

  
国際アライアンス時代へ対応(出典:Boeing , LM)

 つまり、双方のロケットはコマーシャル・ベンチマークとして商業化を目指せという事だ。このままH-2AやH-2B・GXを継続しても、国際的に通じないロケットである上に、宇宙予算の増額は期待できず、予算不足でいずれ朽ち果てて、メーカには何も残らない体制となってしまう。現状のロケット開発体制を継続するよりは、JAXAの関与を軽減し、海外企業とは競合しない形でアライアンス路線へ走るほうへメーカーを導き、生き残れる体制を構築する方が良いはずだ。また今後は現場のエンジニアが高いモチベーションをもって開発できる体制を作らねば、イイモノが出来る環境にはならないだろう。この環境を作るために、JAXAロケット開発体制は抜本的に見直すべき時に来ている。

◎コスト意識改革の必要性

 本来のJAXAロケット戦略は、国民の税金で開発されている実情を見れば、官需以外に対応できるように、ロケットメーカーを世界水準へ引き上げさせて“親離れ(事業化)”させることが要求される。しかし、現行のJAXA宇宙基幹システム本部は、「信頼性がないと国際市場へ出られない」、「ミッション需要がない」、「商業受注の実績がないから技術開発が必要だ」という主張をもとに、国際市場へ対応不可能なH-2B開発計画を容認し、技術開発の無限ループを行っている。これは、海外ではすでに見抜かれ、失笑されている一方でJAXA(旧NASDA)ロケットエンジニアの雇用対策プロジェクトと言われている。もしかしたら、技術的効果や三菱重工のロケットが事業化することはどうでもよく、JAXA職員として雇用を維持できればそれでいいと考えているのではないだろうか?実はその兆候が随所に出ているようだ。

 JAXAではH-2Aを民間移管し、三菱重工が販売元となっているが、打上げを実施しているのはJAXAだ。これは国際宇宙法、安全管理の観点から打上責任は国にあるという理由から、日本では「JAXA(だけ)が打上げを行える」体制となっている。これは真の民営化なのだろうか?実は、H-2Aのコストが下がらない理由に、JAXA職員の関与がある。

 過去の誌面で、JAXA筑波(旧NASDA)の給与は、特別手当てが非常に多く、アメリカNASA平均給与所得の2倍という破格の高給であるとの話が、ある国の宇宙機関が政府の予算申請委員会で発表したそうだ。JAXAはNASDA、NAL、ISASの3機関が統合した際に、他の組織と比較したところ、同等クラスで給与所得の差が最大40%もあったという噂もある。その高給な旧NASDA職員が、最も給与水準の低い宇宙科学研究所のM-Vロケット打上げへ介入したため、ONE-JAXAという統一化のもと、M-Vの打上げコストが上昇したという事実がある。しかも、JAXA職員に加えて、最適化された内之浦射場システムに、安全管理と称して高コスト体質で有名な旧NASDAの関連企業が介入、さらにM-V打上げコストが上昇している。しかも最近では、高コストと揶揄されている筑波宇宙センターの試験施設の保守・管理を行う業者が、これまた効率化・統一化と称して宇宙科学研究本部の施設保守・管理へ介入し、コスト上昇を招いている。効率化・統一化と称してコスト上昇を招く体制は、国民の税金を有効に使うという観点で見れば、正しい戦略とは言い難い。このような高給・高コスト体質を他の給与水準が低い関連組織(3機関統合しても給与体系は別)へ押し付けることが、「国民の税金を有効に使う体制」をしていると言えるのだろうか?今後はコスト意識改革が必要だろう。

◎アリアンスペース社は?

 コスト意識改革が進んでいるフランスのアリアンスペース社を見てみよう。彼らは打上げ需要を取るため、営業活動を展開し、ロケット製造会社へ発注し、打上げ作業を業者へ依頼している。しかもアリアンスペース社は、フランス宇宙機関CNESが出資して設立した打上げサービス会社だ。つまりJAXAが出資してJAXA職員やメーカー職員を打上サービス会社へと派遣させ、営業・受注している形態だ。つまり民営化させている。このため、ビジネスとして成立たなければ職を失うため、必死に営業活動する一方でフランス大統領がアリアン5の営業役を買って出る状況だ。つまり、フランスは国策として宇宙開発を掲げる一方、外交ツールとして宇宙を“利用”しているのだ。この官民連携の絶妙なバランスはすばらしい。最近ではイタリア/VEGAとロシア/SOYUZを自陣営へ取り込み、大型衛星だけでなく小型衛星・有人旅行・貨物物資打上市場へ進出すべく、効果的なアライアンス路線へ走っている。これは、コスト度外視を抑える方策と、ロケットを国際競争へ晒して自国のロケット技術水準を向上させる方策だ。また、ロシア宇宙庁や中国も自国ロケット商業化を発表し、様々な形態で営業活動を展開している。このためロシアのProtonは、40億円以下を目標に現状のProtonのコストダウンを進めているそうだ。この国際水準を目指すべく、アメリカではDELTA-WやATLAS-Vを販売するULA社(United Launch Alliance)へ対し、Protonをベンチマークとしたロケットを目指すよう、さらなるコストダウンを要求している。


Ariane-5、SOYUZ、VEGAを揃えたアリアンスペース社(Arianespace)

  少なくともフランスが日本の国家宇宙予算と同等クラスでこれを実現している状況を見れば、「信頼性向上が必要」だの「打上げ数が少ない」と言い続けるJAXAロケット戦略体制を見れば、日本として恥ずかしいと言わざるを得ない。“JAXA宇宙基幹システム本部の戦略”と“コスト意識”及び“メーカーとの連携”が悪いとしか言えず、抜本的な見直しが早急に必要なのは明らかだ。よって今後は

・ 製造・販売・打ち上げの分離(分社化)

・ ロケット開発・商品企画の民間移管(NASA・CNES)

・ 打上げアライアンス競争

・ コスト管理(請負管理)

を意識した体制が必要だろう。

M-V中止におけるJAXA主張の矛盾

 以上、日本の液体ロケットを国際的土俵へ上げる方策は必要だが、独力国産の固体ロケット動向をみれば、JAXA宇宙基幹システム本部の解体は必要だろう。JAXAは2006年9月にM-Vロケットを運用中止すると発表した。理由は「価格高」だそうだ。しかし遅延の挙句に開発費が当初の6倍と見込まれるGXロケットを開発容認し、開発費135億円を原価償却して将来性が見込まれるM-Vを、「価格高」を理由に中止発表している。このJAXA矛盾は一体何だろうか?一部の宇宙関係の掲示板では、「ISASは、政治献金など行っていない。しかし、GXの中心企業である石川島播磨(IHI)は多額の政治献金を行い、政治家の支持も取り付けている。そして、M-Vロケット3基分の開発予算が投じられた官民合同の第三セクターで開発されているGXロケットは、もし失敗を認めれば責任問題に発展する公共事業なのである。だから、実績もあり、発展性もあるM-Vロケットがそのままの姿で存続していると、邪魔なのである。」ということが書かれていた。国益より献金でロケット開発が容認されているならば、JAXA宇宙基幹システム本部は国益を考えて宇宙活動をしていない組織ではないか?しかも、GX開発がもし失敗し、H-2Aが「打上げ失敗」か「輸入部品が製造終了」か「日米宇宙協定が破棄」されれば、日本は打上げ手段を失い、M-Vしかない。しかしM-VはJAXAが運用中止を発表している。また、次期固体ロケット計画も、SRB-Aを活用すると発表しているが、先月号で示したように国際的に通用しない計画である上に、SRB-Aはライセンスもので制約がかかっており、製造ラインはATKサイオコール社の製造設備がIHIアエロスペース社内に駐在している形態のため、特許料金を支払う上に拘束条件も加わる。事実、ATKサイオコール社の関連ホームページには、事業所の案内に「Japanese facility(日本工場)」として示されている。つまり、IHIアエロスペース社内に製造施設はあるが、日本独自(国産)の製造ラインではない。M-V打上げ成功の記者会見で「SRB-Aは、NASDA/ISAS共同で技術交流をして開発した。Mロケットとは無関係と言えばそうだが、技術は繋がっている。」という発言があったそうだが、それは“正確”ではないのだ。独力国産技術をわざわざ放棄した「“拘束条件付き”次期固体ロケット計画」と言える。

  しかも新たな噂が発覚した。M-Vは80億円というJAXA発表が真実ではないという話だ。ある、JAXA職員が国会議員からM-Vの価格を聞かれ、60億円〜65億円のはずなのに、間違えて80億円と答えたそうだ。この整合性をつけるため、M-Vを80億にすべく、無理やり経費事項を作り上げて、80億円とさせたそうだ。一時期、JAXAはM-V打上げ費を60億円と発表していたのに、ある日突然80億とすりかわったのはこれが原因だそうだ。事実、記者が問い詰めたところ、今まで聞いたことのない経費を述べていたそうだ。恐らく、JAXA筑波の高コスト関連企業を無理やり介入させ、コスト高で中止させる計画を裏で作り上げていたと推測される。これが事実ならば、現状のJAXAは非常に問題がある。しかも最近では「H-2AとM-Vの打上げ価格があまり変わらない」という“真実とは言い難い議論”へ挿げ替えて主張する動きさえある。


M-Vは80億円ではなかった(出典:JAXA-ISAS)

  つまり、固体も液体ロケットも日本は“真の意味”で完全に独自の打上げ手段を失うのである。世界が固体ロケットを見直す動きに対し、H-2ロケットに加えてM-Vでも優位性を失わせるJAXA宇宙基幹システム本部の戦略は問題があり、日本の打上げ手段停滞という最悪の事態を想定していないのではないか?そうなると「旧NASDAによるISAS潰し」という次元以上の組織的問題ではないか?そしてJAXAではなく、日本の技術安全保障の観点として見れば、国益に適っているのだろうか?という疑問が残る。

◎日本ロケット技術の基本はM5固体ロケット

 日本が他国から部品供給なしに自前で製造できるロケットは宇宙科学研究所の固体ロケットだけだ。H-2Aは素材レベルで80%程度が輸入品であり、国産と言われたH-2ロケットもエンジンの燃焼ソフトウェアは海外液体ロケットのものをパッケージとして購入し、中身を書き換えて使用している。日本の液体ロケットは、JAXAがロケットの自律性を主張するものの、エンジン燃焼系ソフトウェアを国産化しない限り、供給国の干渉を受けつづける体制は実質変わらないため、自立性や自律性のあるロケットではない。つまり日本の液体ロケットは、いまだに純国産、100%国産化はされていない。ソフト供給国の如何次第で“国産といわれた旧型H-2ロケット”でさえ打上げられなくなるのだ。

 この事実から見れば、日本が唯一国産・自律ロケットとして評価できるのは、固体ロケットだけだ。この事実を読者のみなさんには理解しておいて欲しい。必ずしもコストをかけたロケットが国産・自律ロケットではないのだ。

 また、固体ロケットは欧州やアメリカでは急激に見直しがはじまっている。超大型ロケットは別だが、小型・中型の打上げ市場で優位を築くならば固体&液体ロケットの組合せが最も優位という考えが生まれている。先月号の「世界のLow-Cost ランチャー動向」に加えて、欧州ではP80型というVEGAのロケットモータと第1段目に、液体ステージをプラスした小型衛星打上げロケット計画が発表された。アメリカでもSCOUTロケットに加えてATKサイオコールが観測ロケットベースに衛星打上ロケットへと改造したLow-costランチャー開発がSPACENEWSで報道されている。これはなぜか?聞くと、「どう頑張っても液体ロケットの部品点数の削減が進まない。ならば、打上げにおける初期のブースト段階は固体に任せ、軌道投入精度の観点から最終段を液体とすることが最も経済的」と考えているそうだ。それは部品点数が物語っている。液体ロケットのDELTA-III部品点数は300万点、DELTA-IVはモジュール化を進めて150万点まで削減が進んでいる。しかしサイズは違えども固体ロケットはもともと20万点と圧倒的に少ない。さらに最近は10万点を目指す動きがある。よって「固体の性能をどこまで引き出せるかが勝敗の分かれ目」と考えており、固体ロケットモータ技術の見直しが行われている。

 しかし固体燃料は環境上の負荷が高いのも事実のため、一方で塩酸が出ないように低毒性を目指し、扱いが容易な低融点推薬を目指す開発が行われている。固体は燃焼が途中でシャットダウンできないのは事実だが、「目的・費用・効果」のバランスで追求すれば、この論理は正しい戦略と言える。

 つまり「固体は枯れた技術」と主張するJAXA宇宙基幹システム本部とは全く逆路線を欧州とアメリカは考えている事になる。このまま進めば、M-Vという日本の優位技術は失われることになるだろう。


Fiat-AIVO社のP80ロケットモータの製造(出典:ESA)

◎JAXA(旧NASDA)の歴史的役割は終えたか?

 “官需依存”や“効果的ではない技術開発”体制を脱却し、ロケットの事業化を目指すアメリカ、欧州、ロシア、中国に対し、世界第2位の宇宙予算をもつ日本のロケット戦略は明らかに時代遅れだ。これは、JAXAの技術開発・研究開発機関の体制に問題があるといえるだろう。JAXAの実質母体である旧NASDAは、日本として通信・放送・気象衛星を開発し、自前のロケットで打上げることを目的に創設された。しかし時代は変化し、これら当初の目標は膨大な予算を投じて一定レベルまで達成したと言えるため、歴史的役割を終えたのではないか?だが旧NASDAは3機関統合によってJAXAとなり、3機関の垣根の制限を取り払われたことをきっかけに、旧ISASの宇宙科学領域へ進出、NASA追随とも言える宇宙探査計画に飛びつき、月・火星探査や有人宇宙活動がしたいと主張しはじめ、高コスト体質をばら撒いている。一方、アメリカではNASAの解体が進んでいるようだ。2006年10月に発表した最新のアメリカ宇宙政策には、NASAの宇宙探査計画が殆ど書かれていない。これは宇宙の主導権が利用者側へ移行し、NASAという“旧NASDAと同じ技術開発主体の体制”は抜本的見直しが行われていると考えられる。

 本来、国民の税金を有効に使う発想に立てば、低コストによる効率化・統一化が必要なはずだ。しかしJAXAは「目的・費用・効果のバランス」の良い宇宙科学研究本部を手本にすべきだが、M-V運用中止させて高コスト開発体制を進めている。宇宙組織として本来あるべき姿を描かずに、高コスト体質を蔓延させている現状を総合的に評価をすれば、JAXAは“歴史的役割を終えて機能解体し、国際的土俵へ上がる体制にすべき時期”に来ていると考えられないか?少なくとも今後は、海外動向にならってJAXAではなくメーカーへ直接宇宙予算を導入して効率的なロケット開発を実施すべきだろう。開発進捗の審査は必要だが、中間マージンが高価なJAXA宇宙基幹システム本部では能力・戦略不足である上に効率的ではない。文部科学省宇宙開発委員会も独自調査能力を有しておらず、審査・監査組織として機能していない。このため、公平中立で第三者的な監査・審査機能を構築し、別の次元でやり直す体制が必要だろう。

◎まとめ

 JAXA宇宙基幹システム本部の大・中・小ロケット計画は、見かけ上すばらしいように思えるが、技術的・戦略的・コスト的に国際レベルでは通用しないことが明らかとなった。事実GX・H-2B計画は「コマーシャル(商業)対応の審査」がなされずに行われている。この状況下でJAXA(旧NASDA)ロケットではない学術ロケットのM-Vだけを潰すのは明らかに“おかしい”と言える。

 上記で述べたように液体ロケットはどうやってもパーツ&ソフト輸入体制から逃げられないだろう。また、固体ロケットは他国の干渉を受けずに唯一打上げられるロケットという認識を持つべきだ。このため、「効果的ではない方便」や「H-2B計画」は中止し、H-2Cと新型GX(ATLAS-J)を実行して国際市場・アライアンスへ対応したロケット体制にすべきだ。そうしなければ、高コスト・戦略不足体質が継続するため、アンカーテナンシー(日本政府の買取保証)制度を導入する体制が整わないと言えるだろう。

 また、JAXA宇宙基幹システム本部は解体し、フランスCNESのように一部民営化させ、一定のコスト範囲でロケットを打上げられる「コスト管理(請負管理)体制」を構築する必要があるだろう。今後、日本のロケットを国際的土俵に上げなければ、各国の旧式パーツ売却市場となり、技術がなくなる挙句に税金も浪費される体制となってしまう。これを防止するため、日本の宇宙体制をしかるべき方向へ修正すべく、宇宙基本法案が国会へ提出され議論がはじまろうとしている。この法案が、戦略不足のJAXAロケット体制から脱出し、国際的に通用する体制になって欲しいと切に願う。


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