新世紀宇宙ランチャー競争(ユニバーサルランチャー時代へ)
     
   (エアワールド2008年8月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年8月号」をお買い求めください

 宇宙基本法が2008年5月21日に成立した。戦略が1980年代のままストップした日本の宇宙体制が変化・進化できるチャンスがやってきたのではないだろうか?だが前途多難であることは間違いない。それは、国際動向・標準から外れてしまった既存宇宙計画を継続する動きが存在する一方、JAXAも理念なき組織へとなり、官庁は国家としてではなく自身の省益を確保する動き、メーカーも研究開発の無限ループと巨額宇宙計画を目指して売上確保する動き、政治家も権益を確保しようとする動きがあるからだ。
 宇宙基本法の成立は地に落ちた日本宇宙体制を立て直す理念で実施すべきだと考えている。しかし、法案成立までには様々な思惑が入り乱れたために時間を費やし、気付いたらロケット産業は欧米露に限らず中国・インドにも商業打上で出し抜かれ、衛星も国際的な評価が低くなってしまった。この状況下にもJAXAは「(既存計画続行で)開発がしたい」という方針であり、今後は新たな体制下で“様々な思惑”のバランスを取りながら、国際的に通用する戦略立案が必要であり、宇宙開発戦略本部の能力が問われるのだろう。
 本稿では、60億円型のフル規格ランチャー時代から30億円型のユニバーサルランチャー時代へ向けた各国の動向を紹介、JAXAが計画するランチャー計画等の問題点を整理、国際レベルへ到達するための方向性を考えたい。

◎新世紀宇宙戦略の策定(固体・液体ランチャー)
 近年、国際的に主流となる中小型ロケットは、衛星の小型・高性能化に伴ってCOSMOS-3M、ドニエプル、ユーロコット、START-1というICBM派生型ロケットというLOW-COSTランチャーが商業市場の圧倒的優位を確保している。実際に、

・ TOPSATやSARLUPEなど小型高性能衛星は「COSMOS-3M」
・ 民間宇宙ホテル「ビゲロー」やドイツ高性能レーダー衛星TERRASAR-Xは「ドニエプル」
・ 商用周回衛星イリジウムや科学衛星GRACE(2機同時打上)及びSMOS(2008年)やハイパー光学衛星PROBA-2(2008年)は「ユーロコット」
・ イスラエルの高性能光学衛星EROSシリーズは「START-1」

が使われた。国際評価の高くて注目された衛星の多くはICBM派生型ランチャーで打上げられたのだ。
その一方、部品点数が少なく、コスト的優位な固体ロケットも欧州VEGA(開発中)、米国Minotaurシリーズ(一部実用化)、インドPSLV(一部液体)、日本M-V(中止)の実用化及び開発が進んでいる。Minotaurロケットは近年、アメリカの中小型ランチャーとして主力に躍り出ており、即応型衛星のTACSAT-2、TACSAT-3(予定)や赤外線感知衛星(ミサイル発射監視衛星実験機)NFIREなど7回の打上に成功し、日本M-Vのように月探査や静止衛星打上も想定したMinotaur-Vという派生型も開発中だ。インドPSLVも小型合成開口レーダー衛星であるイスラエルTECSARの商業打上に加え、先日も日本大学や東京工業大学製CUBESAT等の10基同時商業打上げにも成功し、インドは日本を追い越して商業打上を実施中だ。

 
NFIRE衛星バス(248kg)(GD C4 Systems)          ProteusバスのSMOS衛星(CNES)

 国際動向と筆者らの情報収集結果では、衛星の小型高性能化が国際的に進むのに加え、先月号で述べたように地球温暖化問題と国際ビジネス及び共生的観点で低軌道衛星の需要拡大が見込まれるため、これから10年から15年は固体ロケット全盛期がやってくると分析をしている。これら市場に、大型で高価過ぎるH-2Aロケットの参入は不可能であり、H-2Bは論外、GXロケットも1段目エンジン性能(RD-180モード1)はH-2Aのそれ(LE-7A)よりも高性能であることからむしろ「M-Vの後釜ではなく、H-2Aの後釜」というのが技術的論議で言えば正しいとも言えるため、これも中小型ランチャーにはなり得ない。日本の液体ロケットは60億円ランチャーというフル規格型ベースで設計されており、30億円型ユニバーサルランチャーと競争すれば勝ち目もない。ましてや60億円ランチャーになる前に、日本は無理な予算請求項目で経費を別請求したり、輸入部品・ソフトだらけによる特許料支払いによる赤字ランチャーでもあるため、将来性が厳しい。自民党の宇宙開発特別委員会でも、JAXAが作成した国際ランチャー価格比較表(真実の経費で作った比較表)があまりにも恥ずかしいため、H-2AとGXのそれは公表を控えたそうだ。

 よって30億円以下ランチャー時代に向けて、唯一純国産技術を有する固体ロケットをベースに対抗するのが技術的・コスト的・戦略利用的に最も近道であろう。しかし、その前に国際的な実用化動向を知り、そこから戦略を考える必要がある。JAXA宇宙基幹システム本部(現:「宇宙輸送ミッション本部」と改称)のような国際動向を無視した戦略では国益にはならないからだ。それでは、新世紀国際宇宙打ち上げ機の実用化競争を見てみよう。

◎COSMOS-3MはOHB社とアッパーステージ開発でセミバス化、COSMOS-IV計画も
 ロシアのCOSMOS-3Mは、ロシア軍の偵察衛星打上ロケットとして開発され、汎用金属材利用と量産による低コスト化を達成したロケットであり、低軌道(300km)へ1300kg、太陽同期軌道SSO(500km)へ900kgの打上能力を持つ。過去の海外紛争監視時には、2ヶ月間で25回も打上げられた実績もあり、複数衛星を搭載する能力(混載機能)や、フェアリングもカスタマイズ(SARLUPE搭載時)できる。
 本ロケットは現在でも量産されており、近年は最終段(アッパーステージ)の付加価値機能(RUBIN-X)を搭載する一方で、アッパーステージ自身も「Breeze-K」へ変更するKOSMOS-IV計画がある。Breeze-Kはすでにユーロコット(ROCKOT)で採用、製造ラインもそのまま使えるため開発費が殆ど必要ない。このBreeze-Kを搭載すれば打上能力が200kg増加するそうだ。
 またRUBIN-Xは、ドイツのOHB System社が開発したアッパーステージ搭載の通信装置であり、データ通信衛星「オーブコム」を基地局代わりに“アッパーステージの状況確認・制御”・“搭載衛星や機器の実験・制御データの送受信”を行うシステムだ。
 RUBIN-Xのメリットは“衛星保有の際に必要な通信周波数申請”の手間が省けることと、“データ通信がオーブコム地上局とインターネット回線(IP通信)を通じて出来ること”であり、地上通信局を建設する必要がないことだ。この利点で低コストの宇宙実験が出来るためESA宇宙実験プログラムに指定されている。
 この「オーブコム」はアメリカのOrbital社が出資して高度800kmに30機配備した周回型の商用データ通信衛星群であり、鉄道車両や輸送トラック及び建機材の車両管理(盗難防止)等で利用されている。


          RUBIN-X通信の概要(OHB)              PSLVへパラサイト(寄生)搭載(ISRO)

 RUBIN-Xの成功からOHB System社は、このRUBIN-X通信装置を応用したナノ衛星(Bremsat.nano-AIS)を目指し試験機を開発、米国MITベンチャー企業が開発したA123リチウム電池を搭載、船舶のトラッキング装置(AIS:Automatic Identification System)を搭載してPSLV、FALCON-1、ユーロコットのPAF(ペイロード搭載装置)へ安価にパラサイト搭載できる体制を構築、すでにPSLVでは2008年5月に東工大、日大のCUBESATと一緒に試験機(Rubin 8-AIS)打上げられ、実績を挙げた。官需でナノ衛星の商用利用ビジネスへ繋がるコンセプトをドイツは着実に実施しているのだ。
以上、ロシアがランチャー、ドイツがコンセプトと搭載通信装置(RUBIN-X)、アメリカが通信衛星提供という構図であり、COSMOS-3Mランチャーというユニバーサルランチャーの新しい発想だろう。

◎ドニエプルはドイツ・ウクライナ連合に米国参加の動き
 ICBM派生型ランチャーの「ドニエプル」も過去に高性能レーダー衛星TERRASAR-X、日本の光通信衛星OICETS(ひかり)や科学衛星INDEX(れいめい)及び商用宇宙ホテル実験モジュールなど、単独・混載による商業打上をした。
 ドニエプルはロシア&ウクライナのロケットであり、射場はカザフスタンとロシア国内にある。そして液体ロケットエンジン(RD-264)は出力が高く中型衛星打上にも利用できる側面がある。その一方、打上時の振動・衝撃が非常に厳しいと言われており、本ロケットで打上げられる衛星ならば、どのロケットにも搭載できる傾向がある。
これら背景もあり、上記の1t近いドイツレーダー衛星(TERRASAR-X)やRapideye衛星群に加え、フランスの衛星筐体MYRIADE、イギリスのSSTLやボーイング社のCUBESATと各国が利用している。販売元はISCコスモトラスや独STI社であり、STIは当ロケットの販売・エンジニアリング・営業をしている。後述するが、このSTIをアメリカのATKが買収も視野に提携する動きがあるそうだ。
 またドニエプルロケットはSS-18ミサイルを転用したものであるため、人が搭乗できる信頼性を有していない。しかし、有人宇宙船を“無人”で打上げることは可能なため、国際宇宙ステーション(ISS)脱出カプセル輸送やISS小型貨物船として利用できるため、ISCコスモトラスとATK社が組み、STI社らも参加してNASA-COTSへ申し込んだ経緯がある。選抜には漏れたが、米国の会計検査院(GAO)が「ISS貨物輸送船の不足」を指摘しているため、将来の米独露企業連合によるISS商業輸送として参入する可能性がある。少なくともJAXA開発のHTVとH-2Bという世界ナンバーワンのハイコスト宇宙システムよりも安価である一方、輸送能力が低くとも複数回打上げればカバーできる説得性もある。
 また、ドニエプルは将来の月探査機の打上需要も目指して、上段のアッパーステージも開発もしている。しかも新規に開発するのではなく、サイクロン・ロケットの制御システムやゼニットロケットのタンクをモジュール採用してアッパーステージST-3を作り上げているのだ。その他にもアメリカATK社の固体モータ(Star-48A、Star-27)を上段へ搭載する案も存在し、低軌道打上市場以外の開拓も着実に進めている。
 これらドニエプルロケットの可能性を見込んで、ATKがドニエプルやサイクロンの液体エンジン技術を導入し、燃料をナフサ系に変更して、ATK独自液体ランチャーを米国内で開発しようとする動向もある。このためドニエプルをマーケティングしているSTI社と組み、欧州やアフリカ市場開拓をめざしているそうだ。


      ドニエプルのアッパーステージST-3        ドニエプルのISS有人脱出カプセル輸送案(ISC Kosmotras)

 ATKの現状はスペースシャトルプログラムの終了とARES-1の先行き不透明感及び、ライバルOrbital Science社が固体ロケットMinoaturシリーズに加えてTAURUS-IIではロシアのNK-33エンジン(AJ-26)を導入しているため、ATKもランチャー会社として生き残るため、ドイツ・ウクライナ連合へ参加しようとしているのだろう。恐らく、ATKがH-2A、SRB-Aの製造ライセンス供与しているIHI エアロスペース社に、今後引退が見込まれるモータ売却市場として引き合いが来ているのかもしれない。
 以上、ドニエプルは従来の商業打上に加えて、アッパーステージ強化による低軌道衛星以外の市場開拓(ISS貨物、月探査機など)目指し、将来を鑑みた国際連合をしているのだ。

◎ユーロコットは国際連合の強化
 ロシアICBMのSS-19にアッパーステージBreeze-KMを加えたロケットであるROCKOTは、ロシアのクルニチェフ(49%)とドイツのEADS(51%)が出資してEUROCKOT社をドイツに設立、商業打上事業を行っている。過去には日本のCUBESATを含む9基の混載打上、商用周回衛星IRIDIUMを2基、DLR-NASA科学衛星GRACEを2基、日本USEFのSERVIS等を打上げた。また、ROCKOTのアッパーステージBREEZE-KMは宇宙ゴミ増加防止のため、使用後は自己廃棄(逆噴射して再突入し、燃え尽きる)する機能を有している。
 ユーロコットはドイツのEADS Astriumが出資していることもあり、同社が開発する衛星を打上げたり、三菱電機のSERVIS衛星を商社通じて引込んで打上げたりと、「ロケット&衛星のセット体制」を実現している。恐らく、OHB System社がCOSMOS-3Mと組み、ドイツのEADS社がROCKOTなのだろう。
 また、ランチャー製造元のロシア・クルニチェフも戦略が多面的だ。ドイツEADSと組む一方、ISSではBoeing社と、プロトンロケットの商業打上事業ではロッキードマーチン社が率いるILS社と組み、インドのISROとはGSLVランチャーで協力、衛星でもKAZSAT開発にはThales Alenia Spaceと開発している。またクルニチェフは新型のAngaraロケットも開発しており、韓国とも協力関係を構築している。このように、国際競争の中でユーロコットは着実に打上事業を実施しつつ、プレーヤーのEADSとクルニチェフは有人宇宙活動も含めて戦略的なパートナーシップを構築している。


Khrunichevの独米印韓協力(Khrunichev) Breeze-KMに搭載されたGRACE衛星(DLR)

◎START-1はIAIと共にロシア・イスラエル連合
 固体ロケットSTART-1はICBMのSS-25をベースとしたロケットであり、イスラエルの高分解能衛星EROSシリーズや、アメリカの地球観測衛星Earlybird-1、スウェーデン科学衛星Odinの打上を行った。今後は2009年に新型EROS-Cの打上が計画されている。イスラエルではSHAVITランチャーを有しているが、周辺国家の関係から地中海方面へロケットを打上げている(西向き打上)ため、打上効率が悪い。
 このため、F-15戦闘機やB-747旅客機を利用した空中発射ロケット計画を公表、インド洋から打上を将来的に計画しているが、イスラエルの外交的観点から近年はロシアとランチャー・フランスとは衛星データ解析で宇宙協力を実施中だ。
 このうち、START-1はさらなる商業打上目指してイスラエル高性能衛星とセットで海外へ販売する動向が見られる。START-1はロシア国内から打上げているが、イタリアのサンマルコ射場(ケニア)と組んで射場を赤道付近へ移動する傾向がある。イタリアはロシアへ留学生を多く派遣しており、イタリア・イスラエル・ロシアの連合の形成が始まっているのかもしれない。


START-1ランチャー(aol.com)

◎VEGAは欧州が本格的な利用を計画(バックアップにEUROCKOT)
 日本のM-V技術を学んで戦略的に育ちつつあるイタリア・フランス連合のVEGAロケットは、イギリス資本も導入しつつ、Arinae-V、SOYUZとラインナップを揃え、共にフランス領のクールー射場で打上予定だ。VEGAは日本M-Vランチャーより一回り大型のランチャーだ。初打上は2009年中頃を予定しており、着実に製造中だ。また、初打上時は実験的要素が多いため、キューブサットサイズのソーラーセイル、光反射ボールに加えて、11機のCUBESATが搭載予定だ。その結果次第によって、ADM-Aeolus(ライダー搭載地球観測衛星)、CryoSat 2(レーダー高度測量)、LISA Pathfinder(L1軌道の技術試験衛星)、Swarm(3機、地球科学観測衛星)、IXV(再突入試験機)、EarthCARE(日欧共同の地球観測衛星)、Sentinel-2,-3(海洋観測衛星)及びPROBA-3(衛星群ミッション)搭載が計画されている。VEGAは年間2〜3機が打上予定でバックアップ・ランチャーとしてEUROCKOTが一部で指定されている。
 上記衛星の殆どはEADSが製造予定だが、SentinelはThales Alenia Spaceが製造予定だ。またミッションも地球観測衛星・探査機・工学実験に加えて、軌道も低軌道・極軌道・ラグランジュ軌道を計画されている。つまり、低軌道だけでなく、M-Vと同じようにあらゆる軌道へミッションへ対応できるロケットなのだ。またVEGAは最終段のみ液体ステージを採用しており、欧州は比較的安価な固体ロケットをベースにコンパクト万能ロケットを利用して宇宙活動を展開する計画だ。
 衛星の製造動向から見ると欧州大手企業が利用者として名乗りを挙げている。ESAランチャーとして定義されているため当然とも言えるが、ロシア頼りだった小型ランチャー(欧州はAriane-Vしかない)を独自保有することで、欧州では国際協力の自由度向上を獲得した。さらにフランスCNESはVEGA小型化バーション「Mini-VEGA」と大型「LYLA」を計画中であり、P300という大型モータも開発、VEGAのラインナップをそろえて、固体ロケット技術を可能なだけ伸ばすという戦略でバリエーションを揃える戦略を2007年末に発表している。


  
P80固体モータ(ESA)                    大型モータ開発案(CNES)

◎Minotaur-IVとV、TAURUS-XLはOCO筐体とSA200Cの組み合わせ
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RAPTOR-2(Kirtland AFB)             オービタル社のランチャー(Orbital)

◎FALCON-1は即応型打上の練習を実施予定
 即応型打上によるランチコスト・ダウンや希少部品点数を減らして低価格液体ロケットを目指しているSPACE-X社のFALCON-1は、2度の打上失敗をしつつも、ロケットとしての問題点を解決しながら2008年には2回の打上実験を計画している。この打上計画では、即応打上の実験を目的として、搭載衛星の指定がないそうだ。つまり即応打上オペレーションが開始される直前まで搭載衛星の命令がなく、より実践的な即応打上実験を計画している。「何の衛星を載せるか分からない」ということで、衛星搭載におけるロケット飛翔時における迅速な振動・音響解析や搭載技術等の習得を視野に、FALCON-1は着実な技術蓄積を行っている。
 しかし、前途多難な情報もある。FALOCN-1は提携先の小型衛星メーカーSSTLとの間にASTROSAR-LITE等の打上計画があるが、まだ将来が見えないことから提携解消しようとする動きもある。これはEADS AstriumをSSTLが買収したことも背景にあり、純粋に技術的問題のみで発生しているものでもない。だが、当初の目標価格の$5millionが$6.7millionとなってしまったこと(それでも液体ロケットにして競争力あるコストだと思うが、、、)や、開発が遅延していることから利用者側に躊躇いがあるのも事実であろう。
 このFALCON-1を開発するきっかけとなったDARPAのFALCON計画は、もともと低コスト・短期打上を開発ターゲットとして4社が検討していた。そして実際に開発されているのはFALOCN-1と空中発射ロケットAirlaunch LLC社のQuickreachであり、ロッキードマーチン社のハイブリッドロケットは小型での技術を確立したが大型化にはまだ時間がかかるという判断があるようでAthena-3へ計画変更、Microcosm社のFALCONロケットも要素技術研究(複合材タンク)の開発へ注力しているそうだ。
 しかし、FALCON-1(FALOCN計画)の目標が上記条件に加えて、FALCON-1はRedefine Technologies社の進めるNANO、Micro衛星等の混載装置が搭載可能で、ダミーウェイト(デッドウェイト)を減らし、効率的な搭載システムを採用している万能搭載型ランチャーであるので、「ロケット打上成功・失敗」という安易な見方ではなく、目的としている技術とその波及効果を分析する視点が日本には必要だろう。

 


衛星側も複数ランチャーを選択できる時代へ(Fast Access Spacecraft Testbed)  混載インターフェース(Redefine)


AstroSAR-Lite開発動向(EADS)

◎インドPSLVは後継機検討の動き
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10基の混載・商業打上に成功したPSLV(ISRO)

◎アメリカはさらに2社が控え組(後衛)として存在(E’primeとATK)
 衛星の小型高性能化による30億円以下ランチャー(ユニバーサルランチャー)需要の拡大で、アメリカではFALCON-1やMinotaurシリーズ及びTAURUSの利用計画が進み、空中発射ロケットのQhickreachやRAPTORシリーズがあり、打上能力を分析すると、それぞれ補完するような打上能力を有しているが、アメリカ内部ではさらなる小型ランチャーが控え組として存在している。それはE’PrimeとATKのランチャーだ。
 E’Prime社はバージニア州のNASAワロップス射場からの商業打上げに備えて工場建設計画を報道発表した。ロケットはピースキーパーICBMのモータを流用してモジュール構成でランチャーを構築、低軌道へ9種類、431kg〜26916kgレンジでランチャーを揃えるという計画だ。最近は、小型ランチャーEagletを製造予定とのことで、2010年頃の初打上を目指して、大型化バージョンよりもまずは手堅くEagletを製造するそうだ。
 次にATKだ。ATKはH-2Aの補助ブースターSRB-Aの製造権利をIHI Aerospace社へ供与しており、JAXAはATKへ中間業者を通じて使用料を支払って使用している。ISASの純国産固体モータ技術があるにもかかわらず、わざわざ使用料を支払って製造しており、IHI AerospaceはATKの「下請業者」なのだ。そのATKはアメリカ国内でもスペースシャトルの補助ブースターや、それをベースとしたシャトル後継機ARES-1の1段目、MinotaurやPegasus及びTAURUS-XLへモータ供給している。しかし一方で、DELTA-IVやATLAS-Vは1段目エンジンの能力向上で補助ブースター無しでもリフトオフできるため、搭載ミッションの重量によっては必ずしも固体ロケット(補助ブースター)を必要としなくなった。このため、ATKの固体モータ需要は減少が予測されていることから同社は「固体モータ供給屋」から「ランチャー屋」へなろうと活動しているそうだ。そのため、自ら保有する固体モータを組み合わせて

・ 超音速実験観測ロケット(ALV-1)の衛星ランチャー化
・ ロッキードマーチン社の新計画「Athena-3」計画参加
・ 潜水艦の発射口に収納できる衛星ランチャー「Taurus-Short」
・ ARES-1ベースのISS貨物輸送用ランチャー「Olympus」(審査で落選)

という計画を立案している。また、日本へも固体モータの販売すべく営業しているそうだ。その一方、ドニエプルロケットのエンジンを輸入して燃料をナフサ系へ変更したランチャーを計画、ドニエプルロケットのマーケティングを行うSpace Tech International(STI)と共にATKへマーケティング調査を共同で実施しているとのことだ。恐らく、Orbital Science社が建造を進めるTAURUS-IIの対抗馬として考えているのだろう。
 以上、E’primeのEagletランチャー、ATKは5種類もランチャーコンセプト案を計画、小型ランチャーを中心に、チャンスを伺っている。 

◎ユニバーサルランチャーの国際トレンドは?

・ 既存のものを磨き上げてユニバーサル型ランチャーを作る流れ:「COSMOS-3MとCOSMOS-IV、ユーロコット、START-1」
・ モジュールからユニバーサル型ランチャーを作る流れ:「ドニエプル、VEGAシリーズ、Minotaurシリーズ、TAURUS-XL」

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◎ユニバーサルランチャーは「ピース・トランスファー型」から新世紀型へシフト
 この各国ランチャーの開発は、90年代後半から登場したICBM派生型ランチャーの登場が起爆剤となっている。今後のユニバーサルランチャーは2000年〜2010年にかけては
●2000年〜2010年のユニバーサルランチャー(ピース・トランスファー型)
 ・ ドニエプル(SS-18)
 ・ コスモス-3M(SS-9)
 ・ ユーロコット(SS-19)
 ・ START-1(SS-26)
 ・ Minoatur(ミニットマン)
 ・ TAURUS-XL(Castor-120)
 ・ M-V(学術ロケット、2007年打切り)

が主体となって、数々の小型高性能衛星を打上げているが、価格・能力レンジから評価をすると2010年以降は

●2010年〜2020年のユニバーサルランチャー
 ・ 仏・伊のVAGA(加えてLYLA)
 ・ 米のMinotaur-W・X
 ・ 露・独のCOSMOS-IV
 ・ 露・独・米のドニエプルU
 ・ (日・?連合の新型次期固体?)

が主流になると考えている。FALCON-1は“FALCON-5・FALCON-9計画(ISS貨物輸送)”があるように、大出力ランチャーへとシフトしており、FALCON-1の扱いがどうなるかは不透明である。Quickreachも初打上が2010年ごろのため、液体エンジン開発の動向次第で市場参入してくるだろう。
 これらランチャーは「ユニバーサルを基本仕様」としていながら、様々な“改良”で低軌道以外にも探査・測位衛星・静止軌道へも小型宇宙機を投入できる仕様を目標に「フル規格型ランチャー」を目指している。
しかし日本は「ICBMランチャーは安価過ぎるので、在庫が無くなればいずれ消滅する」と安易な分析をして「見ないフリ」で逃げたが、上記で示したように“ロシアは欧州と”、“アメリカは単独もしくはドイツを通してロシアと”、“ヨーロッパは日本のM-V技術を取り入れつつロシアやアメリカとも”組む流れで活動、「GXロケットのように、大型ランチャーを中小型用に利用する方法では、コスト・性能のバランスは満足できない」という理解でユニバーサルランチャーを“開発&開拓”していたのである。また、コストと性能レンジという評価で見れば
・ VEGA シリーズ(伊・仏)vs Minotaur(米)という構図
も見られる。欧州と米国が新世紀のユニバーサルランチャーをめぐって争っているのだ。その競争の場にM-Vが商業参入していれば、単独では生き残れないのは必然なため、今頃は「日本を我々の陣営へ引き込んでおくべきだ」という論理が生まれ、新たな国際同盟が誕生していたかもしれない。何せ、ISASが純国産で作った固体ロケットは、「低軌道に限らず、火星探査や惑星探査へも打上げ」ている。そのノウハウはユニバーサルランチャーを目指すメーカーにとっては“実績のある組織と組む”観点で自陣営へ引き込んでおきたい要素でもある。ましてや“全段固体ロケット”で探査機を打上げた国は2008年現在、日本しかない。アメリカの月探査機「Lunar Prospector」打上は固体ベースだったが、上段が液体のAthena-IIで打上げられている。


Athena-IIで月探査実績、現在はATHENA-IIIを計画中(AIAA)

◎ユニバーサルランチャーは製品ではなく、国際商品を作る時代へとシフトしている証拠
 今後のランチャーは、衛星の小型高性能化時代へ備えて、30億円以下のユニバーサルランチャーを開発し、低軌道・極軌道に限らず“上段構造の変更”で高軌道や静止軌道及び惑星探査軌道へも打上げられるランチャーが勝利する時代だ。それがVEGAやMinotaurシリーズ等が目指している戦略でもある。また衛星を収納するフェアリングもグリット構造型で軽量化や形状変更でCOSMOS-3MやMinotaurのようにカスタマイズできる体制が、利用者側へとってメリットが大きいだろう。それに気付いたMinotaur-1は、フェアリング変更できる体制を構築したり固体ロケットの打上環境の負荷を低減するSoftrideを搭載したりと、コスト・性能・利用のバランスを追求している。
 これら技術動向の背景には、ICBM派生型ロケットの登場で商業打上市場発生と宇宙利用者急増により、ロケット側に危機意識が芽生えた。それは国の保護の元、官需依存で甘えていた体質が「国際市場において価格的・性能的に競争力のないランチャーは淘汰する」という暗黙の意思表示が宇宙先進国内であったようで、ロケットメーカー側は「国の保護はいずれなくなる。官需依存体質を脱却し国際的に優位に立たなければならない」「“製品”ではなく“商品”を作らないとダメだ」という意識改革が生まれた。それが90年代後半から2000年初頭にかけて、ランチャー国際同盟の嵐が吹き荒れ、ユニバーサルランチャー登場の下地となっているのだ。
 これら背景から、ランチャーを国際商品化するためのビジネス企業が生まれた。1990年初頭では考えられなかったことである。

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フェアリング軽量化とラインアップ(Orbital)         固体ロケットの振動抑制装置(Orbital)


COSMOS-3Mのフェアリングのカスタマイズ(aol.de)

◎小型衛星の需要の拡大とそれに備えて衛星メーカーも戦略が変化
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イリジウムNEXT計画(Iridium)   

地球観測衛星計画(2008 Industry Symposium)

◎ユニバーサルランチャー市場へGX、H-2Aロケットの参入は無理
 以上から見れば、30億円以下のユニバーサルランチャー市場を目指す時代にH-2A・GX・H-2Bはまず参入は不可能と言える。背景にはJAXAは「技術開発」を謳い続けているため、「(官需が多くとも)海外では製品ではなく商品を作る時代」へシフトしていた事実を見ず、国際戦略の分析が弱い上に、コストのかかるランチャーを作り続けている。
 H-2Aが業務移管で商業打上事業をしているが、過去の誌面で述べたように、国際商品として魅力が乏しく、前途は厳しいのが現状で輸入部品、輸入ソフトで開発コストも異常なランチャーシステムは、アトラス・デルタ・アリアン・プロトン・長征にも勝てず、今後は、国際商品になれないランチャーは抜本的見直しが必要になる。
 海外がなぜユニバーサルランチャーへ力を入れているのか?それは、1ミッションコストの低減を目標にしているからだ。地球温暖化問題を目的としてセンサー数の増加や宇宙探査活動など、宇宙活動のミッション要求は増加の一途をたどっている。その「これがやりたい、あれがやりたい」というニーズを全て満たすには、大型ランチャー・大型衛星でやっていては予算が足りない。このため、技術革新とともに育った“比較的安価な固体ロケット技術”にもう一度注目し、“小型高性能技術”を磨いて他国よりも優れたミッションコストで宇宙活動を行うべきだという考えが芽生えている。大型至上主義の変更なのだ。
 そして固体ロケットのベンチマークがM-Vであったことは言うまでもない。だから、M-VをJAXAが中止した時に「なぜ?」という質問とともに海外はすぐに「M-Vより物凄い戦略をもった固体ロケット計画を考えているのだろ?」と聞いて来たのだ。しかし後継プロジェクトとして出てきたのは、次期固体である。ロケットモータの性能バランスが悪いことは誰が見ても明らかで、ため息が出てきたと同時に「日本のレベルも低下した」という評価に繋がった。
 今後は、日本もコスト最適な宇宙活動をすべきだろう。そのためにはユニバーサルランチャーを開発利用すべきだ。しかし開発費を調べてみると、JAXA人件費を除くと

・ GXロケットには2400億円
・ H-2Aロケットには3600億円
・ H-2Bロケットには5000億円
・ 次期固体ロケットには200億円〜300億円

が経費としてかかるか、見込まれている。固体ロケットと比較して液体ロケットは桁違いにコストがかかる。それだけかけて、フランスのように国際商品へとなれるのなら検討の余地があるが、JAXA宇宙輸送ミッション本部(旧称:宇宙基幹システム本部)のような戦略性のないランチャーへ宇宙予算をかけ続けるのはもう許されないだろう。また、液体ロケットは技術レベルが高いため「正確ではない情報」で周囲を騙すのではなく、「輸入ライセンスモノで育ったH-2シリーズ」という現実を踏まえながら、今後の液体ロケット育成計画は慎重に戦略を練るべきであり、間違っても「特定企業向けやJAXA雇用対策ロケットとして」とか「(国際情勢と価格を無視して)HTVを打上げるためにH-2B」という数千億円の費用負担を安易に決断すべきではない。宇宙開発戦略本部の手腕に期待したいところである。

◎日本がユニバーサルランチャーへ短期的に参入するには新型M-Vロケットしかない
 国際情勢の分析と日本の宇宙利用政策を鑑みれば、従来よりも低コストで利用幅も広く、小回りの効くユニバーサルランチャーを利用することは、日本が効率的な宇宙活動を行う上で良い上に、これからの気象・環境観測時代(地球温暖化問題への対応)へ向けてランチャーを用意し、先月号で示したように地球温暖化問題へ対応できる衛星を打上げて諸問題解決へ利用し、また長期的に気象衛星センサーを段階的に国産化するために試験衛星を打上げたり、商業市場へ参入させたりすれば、日本は大型・高価なH-2Aを利用するよりは様々な宇宙ミッションを実現できるだろう。いや、逆説的に言えばユニバーサルランチャーを作れない国は、ロケット開発国として失格とも言える
 これらユニバーサルランチャーを用意し、日本の国際的地位を回復させて、アメリカやロシアのように一国で何でもできる宇宙大国は困難なため、予算が少なくても輝きを放つイギリス、小型高性能技術で先を行こうとするイスラエル、他国間協力で存在感を増して底力のあるフランス、レーダー技術やビジネス戦略及び小型衛星技術も有するドイツのように、“予算ではなく実績のある存在感”があり、良いベンチマークへとなれる宇宙強国を日本は目指すべきだろう。

 そのための近道は、M-Vを復活させてユニバーサルランチャー化させるのが良いと考えている。もともと、国際的に高評価のM-Vは技術的に見れば、学術ランチャーとして育ってきため打上効率が高く、固体ロケットのためコスト競争力が高く、液体ロケットと違って国内技術も十分あるため、“日本の国際宇宙商品”として商業ランチャー化できる素地を有している。また、過去の旧日産ロケットチーム計画では、地上・海上・空中打上も考慮にアビオニクスを共通化、モジュール・ユニット型ランチャーの先駆けを過去立案していた。その一端として出てきたのがM-Vライトでありユニバーサルランチャーのスキームは出来上がっていたのだ。よって、徹底した戦略を練れば再浮上は可能であり、不条理なJAXA(旧NASDA、旧科技庁)の枠組外で実施すればよい良いだろう。

 
研究開発ランチャーの脱却(ISAS)      研究開発から実用化へのデスバレー現象(NOAA)

◎日本版ユニバーサルランチャー実現の問題点
 その反面、弱点や問題点もある。技術的に見れば固体ロケットは液体ロケットよりも打上振動環境が激しい。これは、アメリカMinotaurやPegasusのように振動抑制装置があるため軽減が可能だ。もしくは空中発射ロケット化すれば、USEFレポートが示しているように音響や振動環境を軽減できる。
 次の問題は、国際仕様化されておらずユーザーマニュアルがない。M-Vは固体ロケットして低軌道に限らず惑星探査まで出来た実績豊富なロケットである。これは商業ランチャーとして顧客への説得力を十分有しているが、学術ランチャーとして育ったことと、打上げ毎にカスタマイズしており、利用マニュアルが作られていない。また搭載インターフェースも混載装置を含めて海外提携ランチャーと統一化する方法も考えられ、今後の取組次第で解決できるだろう。
 そして量産体制という概念がない。工芸品製造という主旨で日本にはマスプロダクションのライン最適化が出来ておらず、多品種少量生産という趣が強い。これは、今後検討の必要がある。

 次に販売戦略だ。基本は「商社の権益化で自由度が奪われない」ランチャーのビジネス化会社設立が必要だろう。国産可能なのにわざわざ特許料を払って製造しているのを止められないのは、商社の権益が存在するのも理由にある。国益に適った形で権益を得るのは構わないことだが、時代が変われば体制も変わる柔軟な姿勢が必要だ。
 さらに販売戦略には、宇宙外交が密接に関与してくるだろう。出来れば外交戦略を含めてアジア諸国との宇宙協力の枠組みや、科学ミッションにおけるランチャーの提供が考えられる。以前、“はやぶさ2”のロケット利用に「VEGAを使いませんか?」とイタリアから誘いが来ているそうだ。様々な実績あるISASを引込んで、イタリアVEGAとしての国際的地位を確立しようとする戦略なのだろう。JAXAがM-Vを捨てたことへの感慨深さがあるが、今後の新型M-Vの利用を鑑みた日伊宇宙協力という宇宙外交戦略として見れば良く、ISAS主導で宇宙探査が出来るのならば、ナショナルプレステージが上がるため、すばらしいことだと考えている。
 だが、悪い面での外交的配慮も必要だ。日本は宇宙ランチャーとして固体ロケットを育ててきた。誇るべきことだろう。しかし過去、インドネシアやユーゴスラビアへ輸出したことで、それを“悪用・拡散”されては困ると危惧した国々から猛烈な外交的抗議があった。固体ロケットは宇宙ランチャーである反面、悪意的利用も可能な技術である。よって一歩間違えれば「再び不幸な道を歩むことになる」ということを肝に銘じ、安易に安全保障として利用戦略を立てるのではなく、同一技術水準をもつ国際的枠組みの中でユニバーサルランチャーを立案しなければならない。その枠組の中で地勢的意味をもって利用を進めれば良い。ここが意味するところの“重要性”は非常に重い。

◎次期固体ロケットは抜本的見直し(固体技術発展を停滞させた勢力)
 以上、外交を考慮しながらコスト的・時間的・利用的にM-Vをベースにユニバーサルランチャーを開発利用することは、非常に費用対効果が高いと考えられる。しかし後任の次期固体は、打上期間短縮化や自律飛行システムはすばらしいが、それをかき消すように“1段目の性能”が悪い。この1段目のせいで打上性能は非常に悪くなっている。このまま続けても将来性はない。

 国際動向からみれば、VEGAやMinotaur-IVなど、固体ロケット全盛期がやってきている中、2007年にM-V中止を決断したJAXAは大きなミスを犯しているのは明らかだ。なぜ、純国産ロケット技術発展が停滞したのか?その原因はJAXA宇宙輸送ミッション本部(旧称:宇宙基幹システム本部)にあると筆者は指摘してきたが、さらに原因を考察してみた。突き詰めていくと、コスト高H-2ロケットの説明をつけるために、部品共通化という論理の下に旧NASDAロケットが海外ライセンスもので作ったTR-1とJ-1ロケットを開発、固体技術を軽視した安易なランチャー計画を実施、別組織であるISAS固体ロケットを潰そうと画策したようだ。

 しかしISASも負けずにM-3S-IIやM-Vなど打上効率の高い固体ロケットを純国産で繰り出して、ISASロケット潰しが不発に終わっている。しかし、固体技術で勝てない旧NASDAは別の手段に出たようだ。三機関統合のJAXAとなる頃、固体ロケットの戦略的立案をISASが発表できないよう、「(液体ロケットが国際的主流だから)固体ロケットの開発中止」を宇宙開発委員会で宣言させてメーカー製造設備の廃棄を促した。次にロケット開発権限を旧NASDAチーム(現、宇宙輸送ミッション本部)へ移譲、予算・開発権限が一本化されたことでISAS固体ロケット技術研究への予算を削減、最後に「M-Vは高価だ」という主張をマスコミへ流布して、M-Vロケット中止へと追い込んだと考えている。しかし、純国産固体技術の命脈を絶たれてはならないとする勢力が反発したため、(過去の駄作、冷却期間としてJ-1コンセプトを真似た)次期固体ロケット計画として容認、周囲の批判を織り込んで段階的に中止させる体制をJAXAは作り上げたと考えている。

 しかし、そこへ当時のJAXAが予想していなかった宇宙基本法が成立。「JAXA組織そのものを見直す」という方針が示された。国際動向から見て筆者らは、JAXAという組織が本当に国益に即しているのか?という根本的疑問が投げかけられている時だと考えている。固体ロケットにおける扱いの不条理さが示しているように、海外におけるJAXAの評価は非常に低い。今後は抜本的なJAXA構造改革が必要だろう。
 以上、上記の勢力間抗争による問題で、固体ロケット技術は停滞した。

◎まとめ
 宇宙先進国では30億円以下で低軌道向けランチャーを構築、国際ベンチマークとされる小型高機能衛星を打上げている。さらには高軌道・惑星探査までできるユニバーサルランチャーをも一部で目指している。これらランチャーは既存のものを磨き上げたり、モジュール構成で作り上げたりしている。2010年以降の10数年間は、これらユニバーサルランチャーが国際的に多く利用される一方、固体ロケット全盛期がやってくるだろう。その典型例が欧州VEGA(LYRA)と米国Minotaurシリーズだ。よって日本も経済的な宇宙活動を展開するため、M-Vをベースとした新型ユニバーサルランチャーを保有する必要がある一方、「混載・国際仕様」のランチャーを目指し、米独英仏のような「ランチャービジネス化会社の設立」も視野にした、国際的に恥ずかしくないセットランチャーを目指すべきだろう。

 今後は、地球温暖化問題やアジア地域における防災活動等、富を有する国家が宇宙システムを提供することで“共生社会としての地球”で発生する問題をグローバルな視点で解決する姿勢が必要だと考えている。サイクロンや地震等の災害、及び食料価格高騰などで最も被害を被るのは弱き立場の人々だ。その問題を解決するために、富を有する国家が宇宙を含む地球貢献ツールを出すのは、社会的義務であると考えている。よって安易な国家安全保障としての早期警戒衛星や偵察衛星という自国利益優先という視点ではなく、“皆が欲しているもの”を世に送り出す姿勢(気象・環境観測衛星や防災衛星など)が必要であり、その成果をもって国際的地位向上を目指すべきではないだろうか?平和国家、日本として高い理念を掲げた宇宙戦略が今、求められている。


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