モジュール・ユニットランチャーの台頭(国際標準ランチャー獲得競争)
   (エアワールド2009年2月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2009年2月号」をお買い求めください

 本稿では、価格破壊ロケットICBM派生型ランチャーの商業市場登場から約10年経ち、コストが下がってしまったロケットを作るべく、各国が本気でLOWCOSTランチャーを目指して開発している動向を紹介、FALCON-1の意義とその波及戦略を見ながら日本が進むべきランチャー戦略を模索したい。


◎アメリカ国内ランチャー競争の激化

 過去にわたり、様々なランチャーの技術や傾向を紹介してきたが、固体であれ液体であれ、ロケット開発において重要なことは、「どれだけ利用者を囲い込めるか?」であろう。この囲い込みを実現するには、如何にして「固体モータ」や「液体エンジン」や「液体燃料タンク」を最適に組み合わせて「打上レンジ幅をコストミニマムで構築」できるか?がこれからのランチャーには問われる課題なのだろう。

 下図を見てみよう。これは、アメリカ国内で開発されているロケットの種類と打上能力を示した表である。小型衛星の需要を見込んだマイクロ・ミニランチャー、ミニ・スモールランチャーの一覧をまず見てみよう。


中小型ランチャー(データ出典:NASA)

 この中小型ロケットは実用段階及び開発中のものがあるが、実用段階で運用されているのは、オービタルサイエンス社Pegasus、Minotaur-1、Taurus-XLの独壇場であるところにSPACEX社のFALCON-1が新規参入する情勢だ。そして開発段階のランチャーとしては空中発射ロケットのQuickreachがあり、Minotaur-IV、Vも開発中である。そしてAthenaも民間企業のPLANETSPACE社がロッキードマーチン社と共同で商業化する情報も飛び込んできており、Athena-1とAthena-IIが今後どうなるかはまだ不明であるが、モジュール構成が良いとは言えず、別の方法論が検討されていると思われる。

 そして、意外もアメリカ国内のランチャーはMinotaur-1とTAURUS-XLの間に宇宙能力ギャップがあることに気付く。恐らく今後は400-900kg付近(高度600kmの太陽同期軌道への投入能力)のランチャーが新規参入してくるだろう。

 ではなぜ、このようなギャップが生まれたのか?それは、地上打上の小型ランチャーの1段目が、固体モータであるSR-19モータとCastor-120モータをベースにしている背景がある。アメリカでは、小型衛星の需要拡大が見込まれたことから、ICBMミニットマンとピースキーパーのモータをベースにロケットを構築している。Minotaur-1はミニットマン(SR-19)ベースに、Athena-1,II、Minotaur-IV,V、TAURUS-XLはピースキーパー(Castor-120)モータをベースに製造されている。このため、SR-19ベースのランチャーとCastor-120ベースのランチャーでは、モータの直径と重量が異なるため、アッパーステージのバリエーションを揃えるか、1段目モータを新規開発するか、液体エンジンのランチャーを構築しなければこのギャップを埋めることが出来ない。

 恐らく、アメリカではこのギャップを埋めるため、新たなランチャーの検討が進められている可能性がある。何せ、静止衛星の需要よりも低軌道の環境気象観測衛星や周回通信衛星の需要が見込まれるためだ。では何が出てくるだろうか?それは、ミニ・スモールランチャーにアッパーステージを強化したものか、FALCON-1ロケットエンジンをクラスター化したものが出てくるかもしれない。筆者は新規ランチャーならばFALCON-2か3が出てくるかもしれないと考えている。下図を見て欲しい。 


Spaceworks社のARES上段はFALCON-2なのか?

 これは過去紹介したSpaceworks社のARESというHLV(Hybrid Launch Vehicle)であるが、この上段使い捨てのステージは、FALCON-1のエンジンを流用しており、エンジンを2基クラスター化している。つまりこれはFALCON-2であるとも言え、FALCONの設計はエンジン・モジュール構成次第でFALCON-1よりも1つ上、2つ上のクラスのロケットが製造可能なコンセプトで作られている背景が読み取れる。もちろん、開発コストを減価償却できる程度の需要があればの話であるが、、、。

 そして、中大型ランチャーの体制にも新たな兆候が見られる。下図を見てみよう。


中大型ランチャー(データ出典:NASA)

 左側のスモールクラスは先の表と同じだが、真中から右側にかけてのミディアムクラスでは、現役ではDELTA-II が運用され、開発段階ではNASA-COTSで一躍有名となったTAURUS-IIとFALCON-9があり、検討段階のものとしてNASA-ARES-1モータを流用したATHENA-IIIがある。このATHENA-IIIには民間のPlanetspace社が先頭に立ち、ロッキードマーチン、ノースロップグラマン、ボーイング、ATKらが参加して検討をはじめているとの情報が入ってきている。

 これら動向から言える事は、FALCON-9はEELVランチャーであるDELTA-IV、ATLAS-V標準型と肉薄する性能を有していると分析でき、固体ロケットも欧州VEGAよりも大型コンセプトが検討されている。また最近、DELTA-II引退が話し合われている背景にはTAURUS-IIとFALCON-5の信頼性が確保されれば、DELTA-IIは相当コストを下げない限りミディアムクラスのランチャーとして生き残りが困難という判断があるのだろう。実績を如何に挙げても、コストが合わなければ引退というのが基本姿勢のようだ。

◎どこのクラスへも参入できるFALCONランチャー

 ここまでの説明で、SPACEX社のFALCONロケット戦略を読者の皆さんも気付いたのではないか?そう、FALCON-1とFALCON-1Eは低コストのマイクロ・ミニランチャー市場へ参入したが、1段目エンジンを2本、3本、5本(FALCON-5)、9本(FALCON-9)とクラスター化する戦略次第で、あらゆるランチャー市場へ参入できる超万能型コンセプト戦略で実施されている。無論、「市場参入する価値と人員配分ができれば」という経営判断が必要だが、様々なLVSクラスへ参入できる万能型エンジンを作ることで、ロシア型の“エンジン量産によるコストダウン”を実現し、「長きに渡り貨物輸送・人員輸送・衛星打上において世界市場に君臨し続ける“SOYUZ“」と「1段目モジュール化が出来ない”COSMOS-3M“の弱点を狙って国際市場」で勝ちたいというコンセプトなのだろう。よってFALCON-1が3回連続打上失敗しても諦めずに民間企業のランチャーをアメリカ空軍が支援し続けた背景にも納得がいく。コスト度外視で技術継承・維持・継続開発・ダンピング商業販売をする、どこかの国の産地偽装液体ロケット体制とは雲泥の差である。

 この戦略を支えるエンジンはMerlrinエンジンだ。このエンジン開発は、DELTA、ATLAS、TITANロケットエンジンという米国技術をベースとするのではなく、海外のある液体エンジンを徹底的に調べ上げ、なぜ低コストで開発出来ているのか?使用材料は?設計思想は?と知見を学び、それをフィードバックさせてMerlinエンジンとKestrel上段エンジンを設計・製造したそうだ。レアメタルを可能な限り使わない、低コスト液体エンジンを開発したのである。さらにMerlinエンジンは、進化を遂げている。FALCON-1の1回目打上失敗後にエンジン設計を変更させたところ推力が7%以上向上した。さらに燃焼パターンを少し変化させたところ初期型と比較して能力が25%以上向上したそうだ。たった数年でエンジン性能を飛躍的に向上させて市場投入している民間企業の開発能力に比べ、コストをかけた上にクラスター化して性能を誤魔化す、どこかの宇宙機関ロケットとは戦略的・能力的・期間的に雲泥の差である。重ねて言うがSPACEX社は民間企業が主導し、開発費を自己資金で投入しながら宇宙機関の予算を引き込む、常に危機意識を持った崖っぷちの勝負企業であることを忘れてはならない。これら民間企業が国際宇宙市場へ進出してくる中、日本もJAXA主導のロケット開発体制を中止し、まともなランチャー開発をさせ、基礎技術育成からもやり直す、ロケット産業化政策が必要だろう。


Merlinエンジン性能とその進化(AIAA)   FALCON各バージョンの目標価格(SPACEX)

◎ATHENA-IIIも参入で「固体 vs 液体FALCON」の戦いが勃発か

 この戦略的なFALCONロケットの目的・戦略を理解した大手宇宙メーカーらは、追い上げをかけてくるFALCONロケットに対抗せざるを得ない状況へ追い込まれている。今後は大手宇宙企業も高コストランチャーから本気で低コストランチャー開発せねば、市場淘汰される危険性を理解しているからだ。だが、どうすれば良いのか?既存大型LVS用の液体エンジンをベースとして、既存ランチャーをサイズダウンするのか?そんな「大型LVSを小型化」してもコストがさがらないのは日本のGXロケットが証明している。大型でLE-7より高性能のRD-180エンジンを利用しているのに、上段エンジン(LNG)の性能を低くしたことで打上能力落としてH-2Aと競合しないコンセプトにした結果、中型ランチャーとして、もはや国際市場では通用しない状況となっている。大型を小型化してもダメだというのは、JAXAが証明しているのだ。

 では、過去の液体エンジンを引っ張り出して再生すべきか?答えはノーだ。レアメタルを使い込んでいる上に、当時のコストが足を引っ張るのは明白だ。答えとして大手宇宙メーカーは固体ロケットに注目し始めた。それがATNENAシリーズである。

 ATHENAは過去の誌面で紹介したようにLockheed Martin社がATKサイオコール社と開発したモジュール型固体ロケットで、過去には高解像度衛星「イコノス」を打上げた実績がある。しかし、Castor-120モータのモジュール構成が最適ではないという理由やMinotaurランチャーの登場、及びATLAS-Vの開発も重なって重要視されてなかった。しかし、民間企業のPlanetspaceがパテント(特許)や販売権を買い取り、ATHENA-IとATHENA-IIの商業販売を始めるそうだ。たとえモジュール構成がMinotaurより悪くても、価格重視思考で行く判断をしており、「技術的評価は顧客が決めるものであって、我々はコスト重視のランチャーを目指す」とのことだ。さらに、NASA−ARES-1の固体モータにATHENA-I,II利用のCastor-120モータをプラスしたATHENA-IIIも計画、これにはBoeing社も加わっており、来るNASA-COTSの3回目入札に備えているとのことだ。このATHNEA-IIIでは、ISS貨物輸送機の開発が主体となるため、貨物輸送機はPlanetspace、ATK、Lockheed Martin、Boeingが共同開発する体制とのことで、NASA-COTSで先を行くSPACEX社(FALCON-9)やOrbital Sciences社(TAURUS-II)へ巻き返しを狙う体制のようだ。


           Castor-120モータ流用のATHENA(Planetspace)   HTVと同じ大型ハッチ搭載のISS貨物輸送機

◎ATHENA-III登場で戦略見直しのOrbital Sciences社

この性能重視よりも価格重視コンセプトであるATHENAの登場で、モジュール型固体ロケットを目指すOrbital Sciences社も戦略変更に必要性に迫られた。Orbital社はTAURUS-XL、Minotaur-I、IV、V、TAURUS-IIと数多くのモジュールランチャーを保有している。そしてMinotaurコンセプトの開発ができた理由は、ATHENA-I、IIよりも最適モジュール構成で打上レンジ幅も広くでき、衛星打上ロケット以外にも使える多用途利用の固体LVSコンセプトだったからだ。しかし、Orbital社が使っている最大サイズモータCastor-120よりも大型モータ(ARES-1固体モータ)が登場したため、

ミニ・スモールクラスでは

・ 「Minotaur-I+弾道飛行実験機Minotaur-II」vs「ATHENA-I」

スモールクラスでは

・ 「TAURUS-XL+Minotaur-IV、V+弾道飛行実験機Minotaur-III」vs「ATHENA-II」

ミディアムクラスでは

・ 「TAURUS-II」vs 「ATHENA-III」(ISS貨物輸送競争も?)


という構図となってしまったのである。「モジュール最適にまとめ過ぎたMinotaur-IV、V」の弱点と液体TAURUS-II性能レンジへにも固体が進出してしまい、量産Castor-120モータコンセプトで攻めてくるPLANETSPACE社によって、Orbital Sciences社は戦略を練り直す必要に迫られているようだ。「固体ランチャー vs 液体FALCONランチャー」競争の陰で、固体ベースランチャー同士でも競争が拡大している。よって日本のIHI Aerospace社も両陣営どちらかの技術検討チームに入って、国際連合固体ランチャーへ参入してはどうか?M-V上段モータを使い、海外モータと組み合わせて、共同開発へと進んで国際市場を目指す戦略は面白いかもしれない。そして、その量産モータを国内へフィードバックさせれば、モジュール型の戦略的次期固体ロケットバリエーションができるだろう。国産技術が維持されれば、何も全てのバリエーションを国産化する必要もない。先日の“国際的地位を落とす(ICBMと疑われる)ような次期固体コンセプト」ではない、真の産業化固体ロケット戦略が今後生き残る上で最適な道かもしれない。

話は少しズレたが、アメリカではATHENA-IIIシリーズの登場で「固体LVS乱戦 vs液体FALCON」の戦いが勃発しはじめている。このコスト・性能レンジの戦いはどう決着するのか興味深いところであるが、少なくとも言える事は、低コストランチャー競争を本気で始めているアメリカ宇宙産業という構図であり、今後の宇宙戦略本部の政策立案では参考にすべきであり、学ぶべきことも多い。そして大手企業も含めて固体ロケットの可能性に注目している情勢下、日本ではJAXA宇宙輸送ミッション本部(旧宇宙基幹システム本部)が固体ロケットを放棄したことは「非常に愚かな行為である」とも分析できる。H-2Aのレベルが低いことで、GXモジュール利用の可能性に加えて、固体ロケット発展も妨害されている状況なのだ。


Orbital社の固体モジュールランチャーとTaurus-II(Orbital)

◎ミディアムクラスでは、DELTA-II引退は決定的か?

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液体ベンチマークも次世代台頭で淘汰(Boeing)

◎南アフリカがモジュールロケットを計画(インドも支援)

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チーター1ロケット(MARCOM)                         チーターロケットファミリー(MARCOM)


射場コンセプト案(MARCOM)                   南アフリカの地理的優位性(MARCOM)

◎レンジ幅の低いロケットや性能不足エンジンは生き残れない(H-2シリーズの限界)

 では「なぜモジュール型ロケットを目指しているのか?」を考えてみよう。米国に加えて南アフリカも上記のようにモジュール型ランランチャーを計画もしくは開発、ロシアも、Angaraモジュール型ランチャー(本誌2008年11月号参照)やNK-33エンジン、アッパーステージBreeze-KMの各種モジュール利用が計画されており、欧州でもAriane-Vが1段目をモジュール化して上段バリエーション揃える戦略で、モジュール型ランチャーを実施、VEGAも固体モジュールの組合せにと液体上段ステージ強化よる「モジュール&バリエーション」をしている。

各国がモジュール型ランチャーへ注目している背景には、ロケットは「国威発揚としての位置付け」ではなく、「国際商品として顧客を引き付ける魅力がなければ、ただの自己満足ロケットに過ぎない」という考えのもと、「魅力あるランチャーを作るにはどうすれば良いか?」という“基本的な問い”がベースとなっている。この“問い”には

・ 利用者(顧客)はコスト・利便性・信頼性を要求しており、逆に中身の技術なんてものはどうでもいい。まともに宇宙へ打上げられればそれで良いと考えている(顧客至上主義)

・ よって“コスト”と“性能”が国際市場で受け入れられる水準にすること(販売コスト至上主義)

・ 「開発費の減価償却」と「顧客獲得」のためにロケットに出来るだけ沢山の仕事をさせたい。でも手を広げすぎてもダメ。このため、コストミニマムで広い打上可能レンジ幅をもたせる設計思想が必要(コスト・性能バランスの追求)

・ 他国ランチャーを徹底的に分析して利点・弱点を見つけ出し、自身のランチャーの戦略を常に見直し続けること。(例え競合相手でも学ぶべきことは学ぶ)

が基本となっている。この基本思想から本誌2008年11月号で紹介したように、モジュール型ランチャーが世界中で考え出され、エンジンレベルでは

・ 性能が良いエンジン・固体モータが複数ランチャーへ採用される(NK-33、Castor-120、RL-10など)

・ 単一国だけでなく、多国間でシェアもされる(エンジンと固体モータの国際市場化)


動向が明らかとなり、ロケットシステムレベルでは、

・ 単一ロケットのバリエーションを揃える場合は、コストのかかる1段目を出来るだけ設計変更せずにジュール化、必要に応じて1段目をクラスター化したり、比較的コストの安い上段ステージのバリエーションを用意して“コスト最適・広範囲の性能レンジ”を目指す

戦略を実施している。「技術開発万歳主義」ではなく、「性能だけに目が行く」のでもなく、真面目に利用者のための国際商品ロケット作りを宇宙開発国は進めているのである。それが、SPACEX社のFALCONロケットの“究極の液体モジュールロケット”なのだろう。その動向から見れば、旧式コンセプトのH-2A、H-2B、H-X、GXの設計思想をいまさら実施しても、国際レベル到達どころか、国費浪費で効果的ではない研究開発であるのは良く分かる。


H-2B・GX(デルタ・アトラス派生コンセプトでは時代遅れ)(MHI・JAXA)

◎名ばかりのH-2A商業受注(商業受注ではなく宇宙援助支援)/UPDATA

  2009年1月12日、H-2Aが韓国の高解像度地球観測衛星「コンプサット3」を商業受注したという報道が国内で流れた。海外では「日本が韓国スパイ衛星打上を国外から受注」という主旨で報道されている。

  しかし“ユニバーサルランチャー市場(Rockot)”に“フル規格ランチャー(H-2A)”がダンピング(不当廉売)参入したというのが真相で、海外からは多少なりとも批判の声が上がっている。2008年10月末の報道後、韓国国内から「信頼性がなく実績もない、しかも工芸品ロケットを買ってどうする。」という批判が叫ばれ、再度見直しが行われたそうだが、日韓首脳会談直後の発表であることから察すると、「強引に政治決着」したと考えられる。

 打上価格を韓国報道筋では「三菱重工が120〜130億ウォン(約10〜11億円)の打ち上げ価格を提示」とし、国内新聞報道では非公開もしくは30億円、数十億円という数字が飛び交っている。競合であるROCKOT価格よりは低くないとつじつまが合わないことから約28億円以下であるのは間違いなく、日本国内メディアの「(価格を明示しない)歯切れの悪い報道」からすれば、韓国筋の報道が受注額の真相と見られる。

 今回の商業受注は、採算の取れない不当廉売(ダンピング)であったが、JAXA衛星をもともと打上げるミッション(ALOS同様に世代遅延センサー&残骸部品利用のGCOM-W)のため費用はJAXA負担、つまりH-2Aを事実上タダ同然で販売できる環境だったのだ。

  韓国衛星が偵察衛星であることを国内マスコミに隠蔽して報道させ、「商業受注」の名前だけが先走っているのを見ると、「商業打上数が中国・インドにも劣る高コストH-2Aの苦しさ」が逆に垣間見える。今回の受注は「韓国への宇宙援助(交際)支援/スパイ衛星打上支援」と見るのが妥当ろう。

  恐らく「受注先や契約価格は重視しておらず」、国内報道発信の意図は「H-2Aが(見かけ上の)商業化に成功した」という1点のみと考えている。これでH-2BやH-XX開発の国家予算を政治的に承認してもらおうとするのが真の意図と思われ、「正確ではない情報で踊らされるマスコミ」「国際競争力のないロケット開発体制の継続」が懸念される。今回は第一報のため、追加情報は後日公開したいと思うと同時に、読者の皆さんも正確に情報を見抜く視点が必要だ。


◎性能レンジ幅に加えて搭載標準化も(いずれ決定版も)

 話は戻るが、この国際競争で生き残るロケットを作るため、利用者側の配慮も必要だろう。過去の誌面(2007年9月号等)にて紹介したが、衛星搭載システムの標準化も進んでいる。その背景には、宇宙の敷居を下げて利用促進を図りたい政治的思惑がある。しかし、ロケットメーカー側は「作業の手間が増える」ことから、嫌がるのは当然ともいえる。だが、政府サイドから「もし混載装置を搭載して余剰活用すれば、税制優遇する」という産業促進政策により、大手ロケットメーカー側に「実施するメリット」が生まれ、DELTA-IVやATLAS-Vを販売するULA社では、様々な余剰活用搭載システムを実施すると公表した。下図を見て欲しい。過去の誌面でESPAやPPODという“サブ衛星”、“パラサイト衛星”搭載の動向を紹介したが、他にもM-Vのようにマウント部に搭載する案や1段目のSRB-A取付け部位の変わりに弾道飛行実験用の装置を搭載する戦略を発表した。

  この資料を見れば分かるように、メイン衛星に加えて“サブ衛星(Micro、Mini、Smallクラス)”と“パラサイト衛星(ナノ・ピコ・マイクロクラス)”の様々な搭載サービスを計画している。

 また、大手ロケットメーカーへの産業振興策の他に、先月号で紹介したように小型衛星育成を進めるアメリカでは、冒頭で紹介した中小型ロケットの搭載標準化策を進めている。計画ではDELTAやATLASというEELVに加えて、Minotaur-I、FALCON-1、TAURUS-XL、Minotaur-IVや小型ロケットSuper StrypiにCUBESATを一度に3機まで収納できるPPOD、マイクロ衛星やPPOD混載アダプターのSPASが登場している。他にもISSやスペースシャトルへ搭載するMISSEもある。これら動向から言える事は、ナノ衛星は搭載標準化が進んでいることと、米国のマイクロ・ミニ・スモールランチャーでもPPODが「標準装備」されているということだ。各々ロケットの振動・衝撃環境は異なるが、最悪の振動・衝撃ベースで作れば良く、逆に衛星の作り具合によっては搭載ロケットを変更することも出来る。標準化により利用者の幅を広げているのだ。



DELTAとATLASによる余剰能力の有効活用(ULA)


2段式搭載や1段目にも(ULA)                DELTA余剰打上能力リスト(NASA)

また、衛星開発側の環境変化もある。衛星開発が大手宇宙メーカーだけではなく、中小企業や大学が参入してプレーヤーが増加し始めた1990年以降から

・ 衛星の作り方と技術トレンドが変わった(大型至上主義の崩壊)

・ 衛星利用の幅が広がり、民事開放も進んだ。

・ ゼロから衛星開発をする組織だけではなく、ミッション委託(センサーだけ作ったのでデータ取得して欲しい)する組織も登場


したことで利用者とニーズが拡大、“財力もあり技術者の多い既存の大手メーカー”と違い、“衛星搭載システム簡素化”しなければ、宇宙利用の拡大が進まないという判断があるのだろう。このため、ロケット搭載システムを無秩序に進めるのではなく、自由度を持たせた上である程度標準化し、利用環境を提供する産業振興策戦略を進めているのだろう。その結果、ナノ衛星搭載標準であるPPODはその1つの答えなのかもしれない。事実、欧州でも欧州版PPODをオランダの企業ISISが開発、すでにインドのPSLVへ搭載、成功させている。

だからと言ってPPODは万能ではないもの事実である。事実上PPODはパラサイト搭載する目的であって、超小型衛星打上ロケットのナノランチャーへは重量が大きすぎて非効率であるのも事実だ。ランチャー目的へ応じて、各々の搭載装置の標準化が今後進められてくるのだろう。以上、ランチャーではモジュール化による打上レンジ幅の確保やコストダウンに加えて、搭載標準化を進めている。一方、日本では搭載標準化という概念はまだない。H-2AはGOSAT(いぶき)打上に際し、大学衛星等の余剰打上能力を活用して小型衛星の搭載を進めているが、その設計や作業を海外企業へマル投げ(Aeroastro社)している。JAXA自身で国際トレンドを分析していないため、構想・戦略・実行力が不足しているのだ。


ロケットの余剰打上装置は必須(NASA)      衛星搭載・放出装置も標準化(NASA)

◎ヨーロッパでもロシア引込みとVEGA実用化でユーティリティー拡大

 これらアメリカの動向に加えて、ヨーロッパでも大型ロケットAriane-Vのバリエーションに加え、ロシアのSOYUZロケットを引き込んで衛星・ISS貨物輸送・有人(将来)ミッションへ対応、VEGAも順調に開発が行われている。現在のところ、中小型ランチャーであるVEGA動向は実用化後に将来戦略が最終発表されるため、動向を見守る必要があるが、現状で言える事は、欧州は大型ロケット(ARIANE-V)以外にも、SOYUZとVEGAのバリエーションをそろえて商業化を実現している上にユーティリティーある打上手段を手に入れている。

 大型万歳主義だけではなく、ARIANE-V優遇主義でもなく、必要に応じて必要なロケットを衛星側が使うという、「何でも大型H-2Aを使う日本」とは違う、コストとユーティリティーを追求する体制を目指している。この効果で、トータル・ミッションコストの低減に繋がっている。

 また、欧州内では将来輸送コンセプトの研究が始まっている。それは過去の誌面で紹介した「未来の宇宙ロケット準備プログラム(FLPP)」計画として2025年以降のロケットをどうするのか?と、コンセプト研究が行われているが、その一部が次第に国際会議で公表されてきている。その資料を分析すると、中長期的な視点を持ちながら、2025年ごろには何のランチャーが技術的に成立して市場投入できるのか?を追求していることが伺える。今後の使い捨てロケットの超大型版は液体が主流なのは明らかだが、中小型に加えて比較的大型ロケットは固体が注目されている。また、Ariane-Vのタンクや上段ステージの新型VINCIエンジンをモジュール採用して他の固体モータ組み合わせたりと、あらゆるシナリオを検討中である。JAXAのように“特定ロケットを優遇”するのではなく、公正な技術的議論を重ねているのだ。


欧州も様々なランチャーを用意してユーティリティー拡大(CNES)


新型の大型液体コンセプト案の一例(NGL PRIME S.P.A)


固体+ARIANE-V上段(ECA)でモジュールLVS化例も
(NGL PRIME S.P.A)



モジュール・ユニットランチャー技術は日本が先駆(ISAS)

◎公正な技術的議論の場が必要

 さて、過去数年にわたって筆者らはロケット国際動向を紹介、日本に不足している技術戦略を探し出すため、海外宇宙技術者からの協力を得て読者の皆さんに紹介してきた。結論から言えば、日本はロケット開発の中枢部であるJAXA宇宙輸送ミッション本部(旧NASDAロケット開発チーム)が公正・中立な議論をせずに、自ら作った(システム輸入品の)H-2シリーズを守るために、自身の弱点を隠して優遇し、他者の弱点を一方的に指摘して騒いで葬り去るというやり方を繰り返してきたことは、多くの読者の方々は理解しているだろう。M-V中止の際、「いくら何でもやり過ぎだ」という声があがっていたほどである。

 H-2Aはエンジン制御ソフト自身が未だ国産化できておらず液体ロケットの基礎技術そのものが日本にないことが露呈している。だからといって、他者であるGXロケットや次期固体ロケットも戦略不足や問題を抱えているのも明らかだ。だが現在は、双方それを隠して「自らの利点」と「相手の弱点」をマスコミや宇宙記者を使って騒いでいる状況で、腰を据えて「公正な議論」が未だ出来ていないようだ。今後、日本がロケットを放棄せずにやるならば、真面目に公正・中立な議論をした下で国内ランチャー戦略を立てるべきではないか?特定組織や特定企業を優遇するのではなく、都合の悪い情報を無視するのではなく、技術と国際標準で中立的に議論する必要があるのではないか?

 それが出来るのはJAXA、ではなく宇宙開発戦略本部や将来設立される宇宙局だと考えている。よって、この誌面で答えを出すのではなく、議論を中立に進めるために、各々利点・弱点を抱えているH-2シリーズ、H-X、GX、次期固体にも固執せず、根本に立ち返って公正な議論をするためのキーワードを挙げてみたい。


@ 固体モータと液体エンジンの性能確認

・ 過去開発した固体モータの特性・開発期間・人員・開発コスト・製造コストは?

・ 過去開発した液体エンジンの特性・開発期間・人員・開発コスト・製造コストは?

・ 国産化度は?(材料調達・設計・加工・製造・ソフトウェア)

・ 将来モータ・エンジン開発計画は?将来性は?(国際比較で意義あるか?)

・ 輸入の場合、購入料・特許料・年間使用料(一括or年間)及び自在保障は?




A 各段モジュールの特性

・ 国内にある固体各段・液体ステージにおけるモジュールの種類・性能は?

・ モジュールを国際標準ベースで比較するとどうか?

・ 各段モジュール特性は?(他段との結合性・拡張性・量産性・保管性など)

・ 各モジュールは宇宙先進国間でシェア可能か?

・ 輸入する場合、その利点や問題点は?



B ランチャーシステム

・ 日本は国際市場進出できるロケットを作るのか?作らないのか?

・ 今後の打上ニーズは?(衛星・貨物・有人の需要は?)

・ どのサイズを日本は保有すべきか?

・ 国際市場進出するならばその戦略は?国際提携・ラインナップ化は?

・ 近年のランチャー開発は民間主導なのか?宇宙機関主導なのか?

・ JAXAのランチャー開発戦略は十分なのか?

・ 日本にはユーティリティーに優れたランチャーがあるのか?

・ 現役ランチャーH-2シリーズに将来性(技術的・商業市場・コスト・減価償却等)があるのか?

・ 現在提案されている計画の打上性能レンジは?上段派生は?国際動向比較では?

・ 発注・製造・輸送・射場納入・組立・打上までの納期日数・コストは国際比較でどうか?

・ 開発する、しないにせよ、コストミニマムの拡張性・派生・将来性がどの程度あるのか?

・ 国産のみで行くのか、国際提携でいくのか?その利点と問題は?

・ 利用者が要求する「コスト・利便性・信頼性」をどの程度満たしているか?



C 衛星搭載システム

・ 打上能力別フェアリング寸法は?(国際比較ベース)

・ 打上時の振動・衝撃環境は?問題があればその対策は?

・ 利用者(顧客)のために、搭載装置の標準化は?

・ 打上能力の余剰活用は?標準化は?

・ 搭載作業の日数・コストは?



D 射場システム

・ 種子島宇宙センターの各ロケットの射場構築コスト及び減価償却状況は?

・ 内之浦宇宙空間観測所の各ロケットの射場構築コスト及び減価償却状況は?

(組織上は統一化されているが、個別評価が必要)

・ 過去射場の減価償却をせずに新規射場建設が可能か?

・ 射場の構築コストと年間維持コストは?

・ 356日打上自由化は可能か?必要な施策は?ダメならばどうするか?

・ 国内外射場の地理的な優位性と問題点は?(投入軌道ごとに評価)

・ 海外射場建設・利用における利点・問題点は?

など


  以上、議論の場となるキーワードを挙げた。他にも項目があるが、公正な議論を進めるためには、上記のような評価すべき項目をならべて議論し、ダメならば「どこが悪いのか」を明示して“やり直し”させるのが正しい政策だろう。そうしなければ、「過去はよかったが、今ではダメなコンセプト」をダラダラ続けるJAXAロケット開発体制が継続されることを意味する。税金をかけて開発してどういう成果をもたらせるのか?もたらしたのか?などを事前・事後評価する体制を作り、開発途中でも明らかに予算的・技術的・戦略的にダメならば中止や戦略変更させたりできる体制が必要なのだ。



◎内閣府戦略開発戦略本部の情報収集・分析能力アップが課題

これら公正な議論の場を作るには、戦略本部における情報収集能力と分析力が不可欠な要素となる。文部科学省宇宙開発委員会の問題点は、委員長含めて委員には調査権がない。自身で調べて分析して判断するための調査費用がないのである。これが宇宙開発委員会へ提出してくる(都合の良い)JAXA資料の弱点を見抜いて是正する“諮問機関としての機能”が発揮できない結果となった。

 よって宇宙開発戦略本部では、委員や構成メンバーには公正な議論をしてもらうため、国際動向や国内動向を独自に調べられるために調査権と調査費用が必要だろう。情報収集を“接待で行く”のではなく、“独自の判断で活動できる体制”が理想かもしれない。政策判断できる“確かな目”をもった体制を作り、常に判断を誤らないよう“学び続ける”組織が日本の宇宙を決めるトップ機関として必要なのだ。このような能力があれば、H-2シリーズ、H-X、GX、次期固体ロケット計画には根本的な問題点があることは必然と出てくるはずであり、日本のランチャー戦略を立て直す、最低限の土壌が出来上がるだろう。


モジュール・ユニットランチャーが台頭(aol.de)


国際固体ランチャー競争(ESA,planetspace,orbital)


米国DELTA-II後継の液体エコノミカルランチャー競争&民間開発競争(Boeing、Orbital、SPACEX)

◎まとめ

 民間ベンチャー企業が開発したSPACEX社のFALCONロケットは、究極のモジュール型ランチャーを目指しており、世界市場で優位性のあるSOYUZやCOSMOS-3Mへ対抗できるコンセプトであることが判明した。また固体ロケットもMinotaurロケットの対抗馬であるATAHENAシリーズが出現、大手参入・大型化もベンチャー企業をベースに検討され、「固体LVS乱戦 vs液体FALCON」がスモールクラスで勃発、ミディアムクラスも「固体LVS vs液体FALCON、TAURUS-II」という構図の中、DELTA-IIがなぜ引退説が出ているのか?の技術的背景も判明した。またヨーロッパでは、ARIANE-V至上主義ではなく、ロシアを引き込んでユーティリティーあるランチャー体制を構築し、未来ランチャーの議論を本格化させている。

 そしてロケット利用者側の利便性追及も進められている。衛星側が容易にロケットへ搭載できるような「搭載標準化」が進められており、特にCUBESATはPPODがナノランチャー以外、全てのランチャーに標準装備される動向がアメリカで見られる。

 H-2Aの最近はダンピング(不当廉売)で市場参入し、韓国スパイ衛星の打上げ契約を受注したが、周辺状況を精査すれば「商業打上」とは言えず、「韓国への宇宙援助(交際)支援/スパイ衛星打上支援」と見るのが妥当だろう。関連含めて1兆円以上かけて開発した(産地偽装型)国産液体ロケットの初受注がこの結果となった事実を手放しで喜んで良いものなのだろうか?

 国内では相変わらず特定ロケットのみを優遇する体制で続けられている。それが全てにおいて日本の優位性をもたらすのであれば問題ないが、上記で述べた「評価項目」で比較すれば、それは正しい戦略ではないというのは、おのずと答えが見えてくるはずだ。今後は、ロケットをやるならば公正に議論する場が必要であり、国際競争力あるロケットを作るためには、宇宙保護産業化するのではなく、まともな情報収集・分析能力をもった評価体制と戦略構築体制が必要だろう。


J-1(次期固体)・GX・H-2A (雇用対策ロケットでは世界潮流から脱落)
  (MHI,JAXA)


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