第三次宇宙システム革命(その2)(プライベートサテライト・マイクロサテライト時代の幕開け)
        (エアワールド2008年4月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年4月号」をお買い求めください

 周回型衛星ニーズの拡大で地球環境問題からGIS(地理情報)による店舗出店、マスメディア衛星登場、密輸・密入国・海賊監視によって衛星トレンドが大きく変化している実情を紹介、とくにマスメディア衛星の商談が活発化してきたことを述べ、先月号ではベンチマーク衛星の登場によって技術競争がコストを意識して始まっている動向を述べた。この想像つかない需要によって、コスト勝負できる宇宙システム技術の確立・育成に各国が注目して欧州はインスタントSAT、アメリカは即応型SATとして次世代開発競争の波が押し寄せている。また、CubeSATのように既存技術では達成できないコンセプトの登場で、第三次宇宙革命(Cubeショック)が発生、「大きければ良い時代」から「コスト・パフォーマンス・小型」を目指す時代へシフトした。

 文部科学省宇宙開発委員会計画部会は「宇宙開発に関する長期的な計画」を発表した。しかし内容は今まで通り変わらない、都合の悪い情報と国際情勢を無視した計画内容であった。今後は別の次元で宇宙戦略を立案する必要があるが、本稿では先月号に引き続き、ランチャー動向を中心に、宇宙システム革命の動向に迫りたい。




◎打上げ手段も「フル規格」から「ユニバーサル」の時代へ

 先月号の最終章で紹介したように、今後のランチャーは現行価格高のフル規格ランチャー(60億円)ではなく30億円以下という“ユニバーサルランチャー”をベースに“ユニバーサルランチャー価格でフル規格”を目差すロケットが主流になるだろう。すでにコンセプトアウトとなっているGXと次期固体は、再考が必要と同時に、「H-2A、DELTA-IV、Ariane-Vのランチアライアンス」は時代遅れの“宇宙アンサンレジュームの組合せ”となる可能性が高い。打ち上げ補完協定と言っても、H-2Aは事実上相手にされていないのは明らかで、日本の衛星打上げ需要獲りを狙ったアライアンスとも見られる。ユニバーサルランチャー時代に備えて、違う次元で日本のロケットメーカーであるMHIとIA(旧日産)がそれぞれ「国際潮流から外れない国際提携」が必要ではないか?では、どういう戦略でランチャーを育ててれば良いか?それを考えてみる前に、すこし歴史を整理しておこう。

◎準国産ロケットH-2シリーズの根本的問題

 過去の誌面で筆者らは、H-2、H-2A、H-2B等の国産といわれる液体ロケットの問題点を指摘してきた。まず、現状は素材ベースで80%が輸入品であること。ソフトウェアが輸入品であること。そしてコストも異常であることを述べた。しかし、可能な限り深堀りは避けてきたが、やはりこの問題点を指摘しなければ、根本的に液体ロケットの問題が解決しないことが判明したため、1つづつ指摘・掘り下げて分析したい。

◎ハードは国産設計、ソフトは既存輸入し海外委託したH-1

 日本では比較的ハードへ視野が行き、ソフトを軽視する傾向がある。H-2シリーズでは国産設計のLE-5エンジンやLE-7エンジンが注目を浴びている。無論、エンジンはロケット性能を決定付ける重要な技術的要素であり、開発コストも重点的に配分される。しかし、ハードばかり目が行き、ソフトが自己開発されていなかったのがH-2シリーズ最大の問題でもある。

 それはH-1まで遡る。N-1、N-2では、DELTAロケット開発元のMD(マクドネルダグラス)の元でMHI(三菱重工)やMSS(三菱スペースソフトウェア、当時の三菱TRW)がハードとソフトのインテグレーション(組立て)技術を学んでいた。そして、H-1ロケット2段目エンジンから国産化(LE-5)されることになり、MDが全体システムを取り纏めるのではなく、MHI主導へと段階的に国産化のステップが始まったのである。しかし、2段目エンジンにハード独自設計のLE-5を採用したことで、H-1の1段目であるDELTA技術との間に相性問題が次第に出始める。このLE-5は国産化した際に、ソフトはアメリカのDELTAロケットラインのソフトウェアを継承するのではなく、独自開発するのでもなく、マーチン・マリエッタ社開発のTITANロケットのシステムを採用、輸入した。しかし、MHI、MSSがシステムを上書きしてNASDAがインテグレーションする体制を構築したがモノにならず、結局はTITANソフトを開発したGDコンベア社の下請会社へシステムの取り纏めを丸ごと委託したのである。つまり、H-1の2段目はLE-5と思いがちだが、それはハードであってソフト・システムは1段目がDELTA(MD)、2段目がTITAN(マーチン・マリエッタ下請けのGDコンベア)だった。


   N-1        N-2        H-1 (出典:NASDA)

ロケット技術導入企業一覧

(出典:DoD International Cooperation and Competition in Civilian Space Activities)

◎文化の異なるロケットを各段に採用したことでバランスが不安定になったH-2

 このハードLE-5とソフト(TITAN)の組み合わせは、H-2ロケット(LE-5A)でもH-2Aロケット(LE-5B)でも引き継がれた。このアンバランスな組み合わせは、後に燃焼振動問題を引き起こし、ペイロード(衛星)へ悪影響を及ぼすほどの問題へと発展する。

 またソフト輸入文化は、H-2ロケット1段目のLE-7でも同様だった。国産設計のH-2ロケットで採用されたLE-7エンジンもハード設計は確かに国産だったが、ソフトが国産化できず、NASDAとMSSがGDコンベア下請会社へ丸投げ委託している。つまりロケット1段目もDELTA文化を継承しながらGDコンベアのTITANシステムを取入れ、継ぎ接ぎだらけのアンバランスな「純国産ロケット」となったのである。

 また、タイタンソフト側にも問題があった。当時、タイタンは打ち上げ失敗が相次ぎ、ソフトにバグが存在していたことが後に判明している。それをH-2は採用したことが、H-2信頼性低下の遠因にもなっている。よってH-2が評価できる点は、NASDAの液酸・液水エンジンとスペースシャトルメインエンジンの基礎研究能力があり、LE-7をハード的に独自設計できたことだろう。

 ロケットはハードとソフトのバランスが良くなければシステムとして安定せず、良いランチャーにはなれない。知見がなく、ソフト輸入で作業丸投げ実施したH-2ロケットは、ロケットの原理原則なく開発したため、アンバランスな見かけ上の「純国産」となったのである。その後、システムとして安定しなかったH-2は、6回目(5号機)と7回目(8号機)の打上げに連続して失敗する。技術的な問題箇所は各々異なるが、システム不安定なロケットであることは事実だろう。

◎H-2Aでは妥協の妥協がはじまった

このシステム不安定の問題からH-2Aからは、周囲の目をコストダウン・LE-7の簡易化設計へ向けさせたが、エンジン開発はもっと高い目標をめざしてH-2Aの1段目エンジン開発を実施していた。それは

・ LE-7Aの推力向上

・ 再使用ロケット時代へ備えて、長時間燃焼化


が掲げられた。しかしハード設計などで開発に失敗、LE-7からLE-7Aへ移動した段階でエンジンの根本的性能を示す推力重量比が低下、推力も殆ど上がらず(20kN上昇)、長寿命化も失敗した。この間にアリアン5のVULCAINE-2エンジンは225kN推力向上を成し遂げ、フランスが液酸液水エンジン性能で日本を上回っている。

 このため、LE-7Aは「溶接箇所を減らし、簡易化した」として、高い目標は事実上放棄、妥協した。しかし、H-2A液体エンジンの推力向上が達成できなければ、打上能力目標が下回ってしまう。不足推力を補うため、NASDAは固体ロケットモーターのSRB-A推力を向上させた。これは、液体エンジン開発失敗の負債をSRB-Aへ押し付けた形とも見られ、推力向上による設計変更をさせられたSRB-Aはその後、問題を抱えていることを認識しながらも使い続け、改良版が完成したにもかかわらず、元の在庫品で6号機を打ち上げてトラブルが発生、失敗する。

 また、H-2AのソフトはH-2アンバランスの教訓を生かさねばならない環境に迫られる。TITAN系のソフトを開発していたGDコンベア社も、ロッキードマーチン社と合併したためゴタゴタがあり、JAXA(NASDA)とMSSによる丸投げ委託体制も困難となり、すでに引退したTITANロケットのシステムソフトを丸ごと買い取る一方、MSSは丸投げ先をDELTAロケットのシステムを扱うボーイング系会社へ変更した。丸ごとTITANソフトを購入できた背景には、ATLAS-Vロケット開発に伴い、TITANを買収したロッキード社がTITAN-4Bアッパーステージ“セントール”は採用するが、他は古い技術なので採用せず、廃棄する方針を決定していたとのことで、捨て物をNASDAとMSSが買い取ったのである。

 結果、H-2Aは、TITAN廃棄ソフトを採用しながらもDELTAロケット文化が再度注入されることになり、コストダウンのために採用したアリアン部品も加わって継ぎ接ぎ体質がさらに悪化したが、ボーイング系の高いシステムエンジニアリング能力で、H-2Aの1段目は何とか安定した。しかし、2段目のLE-5Bは、TITANが引退した理由と同じ燃焼振動の問題を抱えており、2段目全体の振動が悪化、「振り子方式」というあまりにも原始的な方式で振動制御をかけ、エンジンLE-5Bとソフト(TITAN)の組み合わせが悪いという、根本的問題を無視して問題解決に当たっている。H-2Aという現在のロケットでもソフト、インテグレーション(組立て)のキー技術を海外依存しているのが現状だ。


引退したTITAN-4B(USAF)

◎ソフトの問題でMB-XXは頓挫

 このように、ハード設計は国産化したが、ソフトが国産化できずに旧式輸入ソフトを入手しながらシステム設計を丸投げ委託したエンジンは、エンジンとしての問題を露呈することになる。それは、三菱重工と旧ボーイング社ロケットダイン部門(現P&Wロケットダイン)が開発するMB-XXである。本エンジンはLE-5設計技術とLE-7A設計技術の成果から、「日本もなかなかやるじゃないか」ということで、MHIとボーイングが「お互いの液体酸素エンジン、液体水素エンジン技術」を組み合わせて、新世代エンジンを作ろうということでMB-XXエンジン開発が1999年からスタートした。ハード設計において、MHIはなかなかの設計能力を挙げていたと関係者は述べている。しかし、相変わらずソフトの問題も加わって米国内燃焼試験で爆発事故を起こし、頓挫している。原因はソフトの問題を挙げ「エンジンは燃焼試験を重ねてソフトも育てるが、残念ながらソフト能力が低く、自己学習能力があって血の通った味付けがない」と述べ、現在は頓挫している。この問題がどうなるか推移を見守る必要があるが、ソフトという泣き所が今でもついて回っている状況だ。


現在は頓挫しているMB-XX(MHI)

◎H-2Bはエンジン燃焼試験でトラブル発生

 ロケットシステムの原理原則を無視し、知見がなく、ソフト輸入品でやっているロケットはさらなる混迷を続けている。それはLE-7エンジンをクラスター化したLE-7Bを使ったH-2Bロケットだ。これは、H-2Aの2段目をそのままに、LE-7Aを2つ並べたLE-7Bを開発し、直径を4mから5.2mへと増強したものである。エンジンを2つ並べれば、推力が増加するから打ち上げ能力が上がるというのがJAXA(NASDA)の思いついたコンセプトのようだ。しかし、エンジンから吹き出る熱量が事実上倍となり、アブレーション(除熱)をするため、耐熱シールドを展開する必要に迫られた。このままでは、発射台もロケット本体も熱でトロケ落ちるからである。発射台は水蒸気爆発覚悟の上で水を大量にばら撒くことで解決に当たった。しかしロケット胴体のエンジン付け根部の熱処理に問題を抱えており、海外企業へ丸投げ委託して解決を目指しているが、試験を行うとトロケ落ちる事態に陥っており、LE-7Bの開発は大きな問題を抱えている。

 この問題からH-2Bの表現はやめ、周囲への説明はH-2A能力向上型と説明を変えているそうだ。またソフトも相変わらず旧式言語で国際的主流でない、米国の旧式ロケットTITAN-2のソフトを輸入、JAXA/MSSは元GDコンベアの下請け会社へ再度丸投げしている。TITAN-2は2ノズルエンジンであるため、これを輸入した。つまり、LE-7Bのソフトは70年代の骨董品ということになる。

     
除熱のため大量放水を行なうH-2A(JAXA)  LE-7B系ソフトは70年代のTITAN-II(NASA)

 また、H-2Bコンセプトの失敗に備えて、1段目能力が低く、コスト勝負にならずに中止になったDELTA-IIIコンセプトを購入、引退が決定したDELTA-IIのシステム輸入も話し合われ、「知見は基礎として必要だが“史跡技術”」でコンセプトを立てている状況で、将来性のない開発である。成功率が高くて万能型のDELTA-IIがなぜ引退したのか?という理由を分析せずに、目先の良さに飛びつくMHIとJAXA宇宙基幹システム本部の分析力の甘さが際立つ例だろう。DELTA-IIは低軌道・静止軌道・測位衛星軌道・探査軌道へと、あらゆる軌道投入可能な万能ランチャーだったが、逆に仕様変更の改造コストが膨れ上がったのが引退の理由である一方、RS-68(DELTA-IV)・RD-180(ATLAS-V)・NK-33(TAURUS-II)のようにSRBを必ずしも利用せずに打上げられる液体エンジンが登場したことで、DELTA-IIエンジン(RS-27A)を採用したDELTA-IIIは計画中止されてDELTA-IVへ、トータルランチコストと部品削減が可能になったのが理由なのだ。つまり日本はLE-7液体エンジンシリーズの開発失敗・停滞が足かせになっているのが現状だ。


引退&不採用システム導入で延命を画策するH-2シリーズ(Boeing、geocities)

 H-2Bは、エンジンもソフトも「遺産と知見を混同」した情けないものとなり、根本的問題は無視してH-2B燃料タンクドーム製造設備を広島製作所へ建設、中身のないことを大々的に報道(H-2Aの燃料タンクドームはドイツのMT Aerospace社から輸入)している状況だ。このままH-2Bを作り、宇宙ステーション補給機(HTV)を作って打上げても世界は誰も感心しないだろう。

◎副衛星搭載システムやHTV開発も海外へ丸投げ委託

 過去の誌面(2007年9月号)で紹介したように、H-2Aは振動問題が加わる一方、海外丸投げ委託が横行し、キー技術を海外依存している。このため、小型衛星時代に対応した混載搭載システムもAEROASTROへ丸投げされている。HTVも「ハードウェア」と「内部構造」はドイツのMT Aerospaceへ、ソフトも米国カリフォルニア州のある企業へ丸投げし、ドッキングセンサーもドイツのJena-Optronik GmbHへ1000万ユーロ以上(約16億円)で購入する報道が流れている。

 現状の液体ロケットは、予算を消費している割に、ロケットの原理原則を無視してLE-5はRS-27やRL-10(AJ-10)、LE-7はスペースシャトルエンジン(SSME)を基礎として開発し、ソフトやインテグレーション(組立て)思想はTITANやDELTAという異なる思想を継ぎ接ぎ的に取り入れ、アメリカから入手できないものは欧州(アリアン)から取り入れるという行為で何とかシステムをしてもたせている。つまり、DELTA、TITAN、スペースシャトル、ARIANEシステムを継ぎ接ぎ採用しているのが現状だ。

 これを簡単に言えば、軽自動車に普通乗用車エンジンを載せ、タイヤはF1レース仕様、ソフトは大型トラックをインストールしたものと考えればいいだろう。確かに走行することは出来るだろうが、バランスが悪いモノとなっていると表現すればわかりやすいと思う。

◎H-2シリーズ研究開発費は、特別会計等含めて4兆円(世界ワースト3位)

 このようなH-2シリーズというアンバランスなロケット開発に一体幾ら投じたのか?ロケット本体開発に加え、射場建設費、NASDA職員人件費、研究開発費、特許料支払いも含めて実は4兆円もの巨費が投じられた。一般的に数千億円とJAXAは公表しているが、それは上記コストは一部隠して公表しているからである。これはアポロ計画のサターンロケット、旧ソ連時代の月探査ロケットN-1に次ぐ、歴代ワースト3位の金額規模である。ちなみに4位はエネルギア・ポリウスである。しかし、ロシア、アメリカと違うのは、かけた研究開発コストに対して得られた知見が乏しいことにある。


          サターン                          旧ソ連N-1           H-2シリーズ
コスト度外視型ランチャーの世界ワースト(H-2シリーズは3位)
(画像出典:JAXA、NASA)

 さらに問題なのは、M-Vはコスト高であるとJAXAが報道各社へ情報を与えて中止へ見事追い込んだが、JAXA(NASDA)は、研究開発コストを含んだトータルコストを隠していることだ。H-2Aだけ見ても、実はM-V研究開発費(ロケット開発費、人件費、射場建設費、ISAS人件費)に対して40倍のコストをかけて作られたことを一切公表していない。

 40倍である。H-2Aの研究開発コストでM-Vが40本も生産できるということだ。さらにH-2シリーズ全体の研究開発費で試算すれば、M-Vは約320本分である。固体ロケット技術より、液体ロケット技術レベルの方がいかに高いとしても、異常であると海外の宇宙技術者は口を揃えて言う。その事実を隠してM-Vは高価と謳ったJAXA(宇宙基幹システム本部)は罪深くはないか?M-Vを潰した当事者の責任は追及されるべきだと筆者は思うが、読者の皆さんはどうだろうか?

 果たして、M-Vの40倍コストをかけたH-2Aはコスト相応の価値・成果があったのだろうか?また宇宙ステーション輸送用としてHTVを開発しているが、このためにH-2Bを開発している現状も見れば、M-V研究開発コストの50倍の費用を使っている価値がH-2Bにはあるのか?HTVが無くとも他の国でステーション輸送手段が日本よりも低コストで開発されているこの情勢下である。欧州はATV、ロシアはPROGRESS、米露連合はシベリア(ATLAS-V+拡張版PROGRESS)、アメリカはFALCON-9が有力だ。この国際競争市場にHTVはコスト・技術競争力もないにもかかわらず、無償提供で打上げさせようとJAXAは画策しているため、欧米露の宇宙企業から反感を買っている。


高価・設計海外委託・ソフト開発海外委託のHTV(JAXA)

◎減価償却をしたM-V、減価償却をしていないH-2A

このように、H-2シリーズに4兆円使われたという金額規模が表にならないのは、科学技術省(文部科学省)が特別会計などを利用したり、別の項目で予算請求をかけてコストを付け替えていたことだろう。さらに問題なのは、減価償却がH-2Aにはなされていないことだ。M-Vは研究開発費を減価償却に上乗せてコストをはじき出しているため、1発のコストは65億円〜80億円である。これは、世界常識から見れば、理に適ったコスト計算をしている。現在のATLAS-VロケットやDELTA-IVロケットは、減価償却コストで実施しており1回の打上げごとに約10億円程度を償却している。M-Vは国際基準でコスト計算がなされたロケットなのだ。

しかし、H-2シリーズは減価償却コストで計算されていない。H-2シリーズは失敗を含めてトータルで20回打上げられた。減価償却という次元で見れば、4兆円を20で割った計算となり、H-2シリーズのコストは1本、約2000億円ということになる。M-Vの減価償却コスト(80億円)概念に従い、H-2シリーズで同様の計算をするとこうなる。この約2000億円を10分の1で請求しているのが現状だが、これは国際比較するとずば抜けた数字である。はっきり言えばかけ過ぎだ。なぜならスペースシャトルの2倍である一方、50年かけても償却できない規模だからだ。さらにH-2Aだけで計算すれば、愕然とする数字も出てくるだろうが、これはもう言う必要はないだろう。

では、減価償却を終えた宇宙システムはあるのだろうか?探してみると、NASDA、ISASと様々なロケットと射場を調査した結果、「減価償却を見事終えた」と判断できるモノがみつかった。それはISASが保有する内之浦宇宙センターのMロケット射場設備である。本射場設備は“貧性の科学”で建設され、M-Vだけに限らずM-4型、M-3型、M-Vと3世代30年以上に渡って同じ射場設備を使用し続けてきた。結果、建設費・維持費・拡張費を全て足し合わせても、減価償却は十分出来たと言えるだろう。これは世界に誇るべき射場である。対する竹崎射場(TR-1)は減価償却を終えているとは言えず、大崎射場(H-2シリーズ)は話にならない額が使用されている。噂ではロケットよりもかけていると指摘されるほどだ。

これは海外射場の減価償却動向が参考になる。アメリカではケネディー宇宙センター(ケープカナベラル空軍基地)のTITAN-IIの発射台を流用してSPACEX社FALCON-9ロケット射場を建設し、引退するDELTA-IIロケットも射場流用してTAURUS-II射場を建設することで、コスト低減&減価償却を図っている。1世代では償却できない金額規模を、何とか別の採算重視型新規開発ロケットでまかなおうと努力している。恐らく、SPACEX社のFALCON-1ロケットは「いかに、液体ロケットシステムを安くできるか?ライフサイクルコストを下げられるか?」のチャレンジだったとも分析できる。この視点はすばらしいと思う。しかし、日本はその努力はせず、異常なコストでH-2シリーズが開発されている事実を隠し続けている。かつての国威発揚型宇宙開発時代だったら容認されたかもしれないが、もう許されないだろう。よって当然といえる話だが今後は、「減価償却を考えたライフサイクルコスト」を弾き出せるランチャー計画が必要である。


大崎射場の減価償却は50年以上かかる(JAXA)           減価償却を終えたM射場(ISAS)

◎H-2Aコストダウンは、経費の付け替えで実質コストダウンにならず

 現状のH-2Aはコストが高すぎることは指摘した。なぜか?調べてみると意外なことが分かってきた。H-2Aは素材換算で80%が輸入品であることを過去述べた。では海外から購入する部品が高価なのか?と思うと実はそうでもなさそうだ。聞くところによれば、H-2Aにかかる15%の部品費で全体構成40%を納入しているのに、残りの85%の部品費で60%構成を処理しているそうだ。これは、公共事業で言うドンブリ勘定というやつではないか?

 また最近、新たな事実が出てきた。H-2Aをコストダウンすると報道されたが、実は打上げに取得できるデータを「従来は無償提供」だったものを、「打上データとして別請求化、10〜5億の請求項目」を作り出している。さらには20億円請求計画もあるそうだ。そしてランチャー施設(補修)を従来は随意契約で請求していたが、固定価格(80億円)で毎回発射ごとに請求するそうだ。海外に問い合わせると現状コストは異常だがそれでも原価は30〜20億円程度だそうだ。このように、無償だったものを有料化し、射場整備請求額を増額している。しかし新聞報道では「H-2Aの参加企業にコスト削減を要請(一率20%の納品価格下げ)」しか報道されていない。このような巧みなやり方でH-2Aは簿外で約200億円の価格を維持するようだ。

 海外からの指摘では、原価55〜65億円のH-2A(201)を15〜5億円の利益で売るなら(国際基準の価格競争として)まだしも、請求を水増しするメーカーの努力では、無理があるのではないか?と述べている。それと同時に、このような世界が失笑するようなことを容認し、M-Vはコスト高だから中止という主張をJAXA宇宙基幹システム本部がしたのは、「これはフェアなのか?」と思うのは筆者だけだろうか?

 国際スタンダードで見れば、研究開発費を無視して作るとライフサイクルコストが上がるのは明らかだ。そうなると、搭載ミッション創出能力さえも失われ、高コストの衛星とロケットが最終的に出来上がる。ある意味、負の連鎖だろう。現状のH-2Aや搭載ミッションのADEOS(みどり号)、ADEOS-II(みどり2号)、ALOS(だいち)、ETS-8(きく8号)、SELENE(かぐや)、WINDS(きずな)、GOSATがそれだ。

 恐らく問題は、「(採算軽視)メーカーおまかせ」の旧科学技術庁政策に問題があるだろう。このまま、H-2Aやその後継機を「基幹ロケット」として位置づけるのが決して正しいとは言えないだろう。にも係らず、文部科学省と宇宙開発委員会は従順な委員のみで構成して反対論を出させない委員会体制を構築、特定企業の技術水準に合わせて、科学技術政策を作成しているのが現状であり、これは非常に問題がある。

◎日本は打上げ手段もなく、筐体バスもない。どうする?

 以上、先月号の第三次宇宙革命が起きている中、衛星もランチャーも世代交代に対応できていないのが日本の現状だ。JAXAは一品工芸品衛星でシリーズ化されていない上にランチャーも技術的・コスト的・政策的にどうしようもない。最近、衛星はやっとシリーズ化が叫ばれているが、H-2Aで打上げることを前提としているため強引に大型化する方針で製造し、コストも増大、センサー独自開発能力も乏しい事実も加わって、国際的に見て恥ずかしい衛星が計画されている。しかもJAXA技術開発は「米国のように膨大な宇宙予算がないから開発できない」という“言い訳”が今まで通用していたが、イスラエルやイギリスという日本よりも低い宇宙予算国が高解像度衛星を実現していることで、その言い訳が通用しなくなり、“実はメーカー丸投げで海外委託組立をしていてサボっていた”という事実で技術力そのものが乏しいことが判明し始めている。

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◎JAXAコンセプトはもう世界から外れている(硬直した人事体制問題)

 その一方、ランチャーや衛星を含んだここ10年の戦略がSTOPしたままのJAXA無策の罪は大きいかもしれない。それは3機関統合しても旧NASDA体制(特に旧NASDA理事が未だ交代しない硬直した人事体制)の維持が原因かもしれない。JAXAの現状は“国際的に必要であったとしても、もはや主流ではない国際宇宙ステーション計画”へ膨大な予算を投入、その後の計画は宇宙探査を掲げている一方、地球環境問題には興味がないのか、JAXA計画は国際常識外れのコンセプト案が提出されている。

 また宇宙はナショナルプレステージとして外交利用される側面があり、JAXA戦略不足の影響は少なからず国際社会における「日本の存在感の薄れ」として顕在化しつつある。JAXAが国際的にオーソライズされなくなりつつあるのは構わないが、別の次元で宇宙戦略・体制を立て直さないと宇宙産業が成り立たたず、技術が育たない上に、外交利用もできない可能性が極めて高くなる。

 一部の宇宙メーカーは防衛産業のように「閉鎖的な国の保護」を期待しているが、国際動向は「オープンスペース」時代へ突入、国独占の時代から民開放時代へ移行するため、コスト競争が激化、軍事産業のような閉鎖産業ではなくなるため、その思惑が外れる可能性が非常に高い。「ロケットはユニバーサル価格でフル規格」、「地球観測はコスト競争拡大、プライベート衛星時代突入」、「静止衛星は製造需用が横ばいか下降、使捨から再利用時代(モジュール交換)へ」という流れが見え始め、技術競争・コスト競争で日本は完全に出遅れている上にプライベート衛星市場でも出遅れている。よってJAXA戦略は国際動向から外れており、研究開発組織として効果的とは言えない非効率な技術開発を実施、国費を浪費してきたと評価できないだろうか?


◎三機関統合でコストダウンのはずが上昇

 もとは、三機関統合したことが問題かもしれない。上の視点から見れば、組織統合すればコストが安くなるという論理が考えられるが、人数も異なり、“コストのかけ方”から“人件費も国家公務員より高い組織”が、“少人数で低人件費の組織”を飲み込めば、コスト上昇を招く。実のところ、ISASではNASDAと合併したことで、NASDA企業がISAS事業の乗っ取りをはじめ、施設維持管理費が上昇したそうだ。確かに、M-Vロケットの40倍や50倍でH-2シリーズを作っているNASDA企業が入ってくれば、どうなるかは想像がつく。しかもその施設維持管理企業にNASDA職員がNASDA退職後に就職しており、ISASという学術分野で育ってきた文化に、NASDAファミリー企業が乱入することで、「貧性の科学&低コストで高い成果を誇ってきた文化」が侵食され、ISASは身動きがとれなくなっている。当然ながらJAXAから分離したい声は上がっているが、それは悲しき民主主義、職員数10倍の旧NASDAに抑えつけられている状況だ。JAXA成果は全体予算10分の1のISASによって支えられているにもかかわらず、(例え技術水準が低くとも)特定組織や企業の利益に結びつかない宇宙計画は予算削減という、いわゆる荒行事を実施しているのが現状のJAXAだと分析している。これは、JAXA(旧NASDA)の権益は守られるだろうが、国益に適っているとは思えない。JAXAの抜本的改革の必要性があるのは、明らかだろう。

◎宇宙外交プレステージ低下の危険性

 また、技術開発主体時代の“旧NASDA理事”を中心とした人事態勢は、国益へも悪影響を及ぼし始めている。それは宇宙外交だ。宇宙外交とは、日本のナショナルプレステージを維持・拡大する方法として、宇宙システムの提供・販売によって他国との同盟関係を構築するやり方や、宇宙以外の分野で同じ思想や価値観を持つ国々との間で協力関係を構築することである。例えば、中国が石油利権をアフリカで取得する際、衛星を売り渡した例がそれだ。原油利権を獲得する変わりに、原油輸出国へ衛星を売り渡すという手法である。また、イスラエルは新たな宇宙プレステージ拡大のため、欧州(フランス)と協力関係を構築し、多極間競争時代へ備えて共同宇宙ミッションを展開している。

 かつて日本は国際紛争の際、国益に影響を及ぼす関係から第3国から衛星情報を提供してもらい、高い分析力で重要情報を紛争国へ提供、問題終結に貢献した経緯がある。その際、データを供給してもらった国と分析情報を提出した国とで新たな経済的・外交的関係を構築でき、後に日本がある経済危機に陥った際に助けてもらった経緯や、ある宇宙活動が国際問題へと発展する前に両国間で検討し、無事解決した経緯がある。詳細は述べられないが、宇宙は単なる技術者の趣味的志向の技術開発ではなく、高度な外交活動として使われる例もある。宇宙は決して軽視してはならないのだ。

 このようにナショナルプレステージとして、日本は国際宇宙ステーション(ISS)へ参加、中国やインドや韓国よりも1歩先へ行く宇宙外交を1985年から実現、宇宙先進国として名を馳せた。そして遅延に遅延を重ねて、日本のISS宇宙モジュールが2008年に打上げられる予定だ。

 しかし、上記のように現状の“旧NASDA理事”を中心とした人事態勢は、日本国宇宙外交の実務機関として、国際的な評価が得られていない状況だ。理由はふよう2号(ALOS)の陳腐化、ETS-8の故障、H-2Bランチャー戦略不足、ドンブリ勘定でライフサイクルコストを無視した計画、国際低評価のGOSATとWINDSを展開、JAXAが国際的にオーソライズされなくなってきている。近年の宇宙活動は、“いかに賢く低コストで宇宙システムを速く組み上げて展開するか?”を追及する時代であり、巨額のコストをかける時代ではなく「大が小を制する時代」から「小が大を制する時代」へとシフトした。その背景は民間宇宙進出によって国威発揚型宇宙活動による説得性が明らかに失われ、既存宇宙技術が必ずしも最新ではなくなったことだ。だがJAXAは巨大宇宙公共事業の維持を主張、戦略性の乏しい研究開発がしたいと言い始め、世界から相手にされなくなってきた。辛うじてISSで国際的面子を保っているが、世界は「ポストISS時代」へ向けて新たな宇宙外交を展開、アメリカや欧州の宇宙先進国からは「中国やインドの方がもはや上」と言われ始めている。また、旧NASDAが実用宇宙技術開発と言いながら実はパッケージ輸入して打上げていたことが発覚、それは宇宙外交を行うにあたり必要な宇宙技術を保有していないことを意味し、日本が宇宙外交展開できない状況に陥っている。

 以上の結果から筆者は、国際情勢や日本の国益を考えれば、「独立行政法人としてのJAXAは、その役割は終えた」と考えており、「我々は研究開発をしていれば、未来はすべてバラ色です」という長期戦略を策定する文部科学省主導型の宇宙活動ではなく、別の次元で宇宙体制を再構築すべきだと考えている。

◎宇宙予算は国民一人当たり2000円。これ以上は無理

 そして予算の問題もある。日本国民総数1億2千万人とすると、子供からお年寄りまで徴収すれば、現状宇宙予算は一人当たりから2000円で実施している。その増額は、一部の賛同を得られるかもしれないが、民間が宇宙開発を始めている現状から見ても、総数の殆どは2000円以上の支払いは容認しないだろう。また、少子高齢化が叫ばれ、人口減が予測される中、現実的に見れば宇宙予算増額を期待することは困難だ。そうしたなか、旧科学技術庁が実施した「メーカーお任せのドンブリ勘定のNASDA型宇宙開発」は、費用対効果をもたらさず、この体制下で有人宇宙開発を進めれば、実際7〜8兆円はかかると試算される。これは、文部科学省が決定できるレベルではなく、宇宙基本法によって設立される、内閣府宇宙戦略本部で論議し、国民投票にかけるレベルの金額規模だ。ましてや4兆円使ってH-2シリーズがろくに育たなかったことや、それが高度経済成長期であったこと、国際情勢から見ても、近未来は小型衛星、小型ランチャーのニーズが高いことから、宇宙探査はISASや国立天文台を主体とする無人ロボット探査で十分世界に胸をはれる。無駄な国費浪費は避けるべきだと思われる。

◎衛星とロケットの機能最適化(ユニバーサル化)へ向けた業界再編

 欧州や米国のインスタントSAT、即応型SATの開発動向は周回衛星の民間所有の動きが起爆剤になり、加えて“惑星探査バスは特殊だが、その他は汎用時代だ”という認識があるそうだ。そして技術向上とコストダウンを追及する動きは、宇宙産業の再編が進む事実を示唆して可能性がある。現在、世界中にある衛星メーカーは大小含めて30社〜40社、ロケットメーカーも20社あるが、将来的にはユニバーサル規格化による製品提携が進むことによって衛星とロケットのセット企業化が進む可能性が非常に高い。宇宙システムを買う側から見れば、ロケットや衛星だけを売る企業は魅力的ではない。顧客は宇宙システムを使うことが目的であり、魅力的な商談を実現するには宇宙システムをパッケージ購入して“総額で幾ら”というものを要求する。このため、衛星とロケットメーカーは提携の動きを見せている。その事例を挙げれば

・ ロケットのOrbital Science社は衛星メーカーCTA社を買収

・ ロケットのEADS社は衛星メーカーAstrium社を買収

・ Boeing社はロケット会社MDと衛星メーカーのヒューズを買収

・ 衛星のLockheed Martin社はロケット会社GD(コンベア)を買収

・ ロケットのATKサイオコール社は衛星メーカーSWALES社とカナダのMDA社を買収

・ ロケットのSPACEX社は衛星メーカーSSTL社と株式提携

・ 衛星のOHB System社はロケットのCOSMOS International社と提携

・ 衛星のIAI社は、ロケットのRAFAEL社とSTARTと提携


というのがそれだ。これら企業は、衛星のバス化(標準化)とロケット性能適合化を進めて提携もしくは合併をしている。背景は、価格競争の劇化と宇宙市場の変化に加え、米国では2001年に国防総省の宇宙担当機関が空軍に統括された影響もある。この背景には90年代後半にICBM派生型ロケットにより価格破壊で市場構造が変化し、“大型・高性能・コスト高のフル規格型宇宙システム”の転換が叫ばれ、2000年から検討スタートしたそうだ。そして2001年に小型・高性能・コスト最適のランチャー要求と、衛星バス筐体の小型・中型化の方針が示され、ランチャーについては「タイタンW・デルタV・アトラスVA・デルタU」のフェーズアウトが決定された。そして2005年ごろから、衛星バスのプライベートシステム開発競争がはじまっている。衛星のプライベート化はここ数年活発化しており、これらロケット&衛星メーカーの提携は、予想もつかない地球観測衛星需要によって、一部では数百基単位の衛星が打ち上がる時代になるとも考えられ、今後はより大規模に提携・買収が進む可能性がある。

 いずれ、これら買収・提携による「セット企業化」によって宇宙システムのユニバーサル化が進み、衛星30社〜40社、ロケット20社の提携・買収が大規模に進む可能性が考えられ、いずれ10社〜15社へと集約している可能性が十分考えられる。

 これは航空機メーカーの産業再編と同じ流れかもしれない。

 よって、日本も国際協調時代及び民間宇宙時代へ備えて“外と組む”発想が必要である。国内メーカー同士で組む発想(例:MHIとMELCO)もあるが、あまり言いたくはないが“負け組み同士”で組んでも国内官需ニッチ産業では、宇宙予算減額で“いずれ共倒れ”になる可能性が非常に高く、国際市場でも魅力がない。国内技術漏洩の危険性を配慮した上で、宇宙外交時代にも備えてトヨタ、ホンダ、日産のように国内依存から脱却する体制及び、国際潮流から外れないための国際提携戦略が必要だろう。

◎ランチャー戦略の抜本的建て直しの必要性

 以上、杜撰(ずさん)ともいえる日本のランチャー戦略に加えて、第三次宇宙革命時代へ備えた衛星動向から見ても、H-2Aを基幹ロケットとして位置付けるのは、宇宙技術の将来性、発展性、戦略性から評価をすると日本としてメリットが高いとは言えない。上記で示したように、H-2シリーズは“杜撰な予算管理”と“度重なる技術開発に失敗”し、海外の捨て物システムを購入して、旧式のDELTA・TITAN・ARIANEの継ぎ接ぎロケットでもあり、再使用ロケット時代も含めて技術的に取得しておくべき知見戦略も立てられていない。一方、アメリカでは衛星・ランチャーの中長期技術ロードマップを公表した。ロケット型エンジンと空気吸入式エンジンの技術的水準を鑑みながら、将来の衛星&ランチャー戦略を立てている。

 しかし、日本はロケットエンジンも吸気吸入式エンジンもコストを度外視して「研究者の趣味趣向による視野の狭い戦略ビジョン」を学会誌等で発表し、自己満足に浸るだけで日本として体系的なビジョンを描けていない。日本の技術水準と予算の関係から、どういう技術がどの位のタイムスパンで開発されるべきものなのか?を考えた抜本的な戦略ビジョンを立てるため、H-2シリーズの「基幹ロケットとしての見直し」と「予算管理の徹底監査」、「LNGの将来性を鑑みた、GXロケット戦略の徹底的見直し」、「素地の悪いSRB-Aモータ是正を前提とした次期固体ロケットのバリエーション・国際提携・事業化」が必要だろう。JAXA・文部科学省の示す大中小ロケット戦略は、すでに崩壊している。また、「再使用ランチャー時代と低コストランチャー時代へ備えて空中発射ロケットの育成」及び、「JAXAが優遇する特定企業以外の宇宙事業参入の支援及び育成」も必要だろう。これは、宇宙開発委員会では能力不足であると判断され、また正当な開発が出来ないJAXA宇宙基幹システム本部では戦略立案能力に問題があり、別の次元で戦略を立てる必要がある。これは、内閣府宇宙戦略本部に期待したい。


米国のランチャー・衛星の中長期戦略ビジョン案

◎まとめ

 国際ベンチマーク衛星の登場により、(惑星探査バス以外の)衛星汎用時代へ向けて各国が“プラチナ衛星筐体バス”を開発、サイズクラスによる囲い込み戦略を展開、欧州はインスタント、米国は即応型というフレーズで行われている。また、プライベート衛星登場による“想像もつかない需要”が発生しつつある中、日本は新世代へ対応できる打上げ手段も筐体バスもない状況に置かれている。

 また、Cubesatと革新技術の登場で、衛星の小型・高性能化が図れる可能性から、Cubesatショックによるスモール・マイクロ宇宙革命(第3次宇宙革命)が発生している。既存の優位性が失われる予測から、先進国は科学技術政策を変更、Cubesat育成を開始している。

 同時に、国際的には衛星・ロケットメーカーのユニバーサル規格化による製品提携が進んでいるが、いずれ決定版が出てくるだろう。そして将来的には20億〜30億円のプライベート衛星システムが登場、1イベント(トヨタカップやF1)よりも遥かに安く、得られる情報量も多いため、自動車・鉄鋼・穀物・メディア・ポータルIT業界等が衛星を保有する時代がやってくるだろう。最近はメディア衛星商談がヒートアップしているようだ。

 これら時代へ向けた産業育成戦略が必要だが、間違いだらけの日本宇宙戦略を実施しているJAXAは、研究開発主体で“旧NASDA理事”を中心とした変化の乏しい硬直した人事態勢であるため、日本の宇宙外交活動へも悪影響を及ぼし始めている。よって抜本的な改革が必要だろう。国際動向と日本の宇宙プレステージを考慮すれば、文部科学省主導のJAXAは独立行政法人としての役割を終えたと考えている。

 そして、H-2シリーズも「現役ロケット国際比較でブービー賞を獲得」している状況で、近い将来、「コストで行き詰まる」か「技術で行き詰まる」か、時間の問題だろう。4兆円かけた割には得られた知見・成果が乏しく、H-2Aコストダウン報道も簿外請求で実質的なコストダウンにならず、減価償却に50年以上かかることが明確になった。これを基幹ロケットとして維持すれば、世界中から「H-2シリーズはバベルの塔」と揶揄されてしまうだろう。そしてJAXA宇宙基幹システム本部(NASDA)にはM-V中止論議を言える資格がなく、宇宙開発委員会もH-2Aを基幹ロケットとして定義する論拠が非常に乏しいという認識が必要だ。GXも次期固体も含めてすべての戦略練り直しと減価償却を意識した打上手段開発が今後要求される。それと同時にH-2シリーズの延長線のやり方で有人宇宙開発をすれば、8兆円程度の予算がさらにかかかるため、国民が許容できるレベルではないだろう。

 今後は、JAXA改革に加えて、三機関統合による“NASDAファミリー企業の膨張”でコスト上昇させられたISASの救済策の策定、経済産業省とUSEF(無人宇宙実験システム研究開発機構)らの小型衛星開発の育成、CUBESAT育成戦略など、将来性のない文部科学省「宇宙開発に関する長期的な計画」は戦略策定能力が不十分のため、宇宙基本法によって新たな宇宙戦略・体制を再構築する必要があるのは明らかだろう。


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