第三次宇宙システム革命(プライベートサテライト・マイクロサテライト時代の幕開け)
        (エアワールド2008年3月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年3月号」をお買い求めください


本稿では国際ベンチマーク衛星とJAXA衛星等を紹介しながら日本が立ち直る上で必要な「政策」、「組織体制」、「戦略」などを考えてみたい。

◎国際ベンチマーク衛星の登場

 旅客機や自動車では、それぞれクラス別に「技術的・価格的にすばらしく、これを目差して上回るコンセプトを目差そう」とするベンチマーク旅客機・ベンチマーク自動車が存在する。それは衛星の世界にも存在するのだ。静止通信衛星はもはや大手5社(ボーイング、ロッキード、SS/LORAL、EADS-Astrium、Thales Alenia Space)と小型静止衛星もプレーヤーが出揃いつつあるため今回は論じないとして、地球温暖化問題対応とプライベート衛星時代へ向けて近年の地球周回衛星はベンチマークが定められつつある。

 それは「TERRASAR・EROS-B・TOPSAT」である。これらベンチマーク衛星はレーダー系・光学系・小型技術系に分類される。これら衛星の性能情報を示す。

国際ベンチマーク衛星

◎ベンチマーク衛星「TERRASAR-X」とは?

 レーダー衛星のTERRASAR-Xがベンチマークとされる所以は、技術的・コスト的・利用的に優れていることである。レーダー衛星は雲がある場合でも撮像が可能なため、技術を持つ国は国際的優位な立場に立てる事情があるため、宇宙先進国では開発に余念がない。このレーダー衛星の中で、国際的に「これは良い」と思われているのはJAXAのALOS「だいち」、ではなくTERRASAR-Xである。

 普通、レーダー衛星はXバンドとLバンドやCバンド周波帯が使用されている。日本はLバンドを得意とし、欧州やイスラエルはXバンドを中心に近年は開発中で、カナダはCバンド(RADARSATシリーズ)、アメリカは様々なものが開発中だ。日本のLバンドは他より透過率が高い特徴があり、比較的地表の奥域まで観測可能だが小型化を苦手としている。しかし透過率が高いと言っても「花壇用スコップで穴を掘る程度のレベル」であって、地中深く見られるものではない。日本のLバンド優位性はその程度のレベルである。一方、欧州やイスラエルでは近年、小型化が比較的容易なXバンドの開発に力を注いでいる。

 そのなかで新型の部類に入るTERRASAR-Xは、ドイツ宇宙機関DLRとEADS-Astrium社が官民共同で開発したレーダー衛星であり、重量は1230kgで形状も小型コンパクトサイズに纏められ、写真を見ても分かるようにモジュール構造型バスで製造されている。TERRASAR-Xはコンセプトが変化しても設計仕様を変更できる拡張仕様で、将来的にもう1基が打上げられ、TANDEM-Xミッションとしてレーダー衛星2基が干渉観測するINSARミッションが計画されている。


モジュール型バス   2基による干渉観測TanDEM-X(DLR)

  また、これら技術をベースに段階的に次世代化させた後に改良を加え、新世代化させることが可能と分析されている。TERRASAR-Xは既存技術ベースだが技術設計は先進的でALOSのように過去の成果物ベースではない。また、同型衛星をもう1基、後日投入して機能拡張するというミッション的にも拡張性(TanDEM-X)を有しており、モジュール・ユニット衛星時代の先駆けを走っており価格も85milユーロという、ロケット打上げ費を含めて圧倒的にミッションコストが安い。

 さらに利用面でもすばらしい。このTERRASAR-X計画は官民共同出資であるが、日本企業を含め、宇宙関連企業以外から出資を集めている。この出資は「(過去の繋がりから)お付き合いとして」ではなく、利用者側が自社の経済活動に寄与する関係から出資している。日本ではセコムグループのPASCOという空間情報提供企業が出資しており、TERRASAR-Xの地理情報を販売している。実は、合成開口レーダーの精密情報は市場性があり、TERRASAR-Xは非常に優位性があるのだ。JAXA-ALOS(だいち)よりもデータ性能が良く、解像度も高いため注目を浴びている。だが一方、JAXA-ALOS(だいち)はJAXAの支援で画像販売をはじめているが、国際的な賞賛は得られていない。無料同然で販売しているが、「高くて買えない企業が仕方なく購入」したり「国際協力で無理やり買わせているか、無償提供」したり「地震後の観測で地殻変動を観測」してJAXAは成果を誇っているのが現状だ。

◎20年前の成功に胡坐(あぐら)をかいてしまった日本(JAXA)

 日本のALOS(だいち)はなぜ、世界は評価してくれないのか?結論から言えばALOSは「ふよう2号」に過ぎないというのが海外からの意見だ。かつてNASDA時代、ALOSの前身である“ふよう”は世界を驚かせるに値した。20年前に世界がどんな合成開口レーダーを打上げようか?と考えていた頃に、日本は民事利用において先駆け打上げをした。このとき世界はショックしたそうだ。また太陽電池が展開不十分でも省電力化オペレーションで難なくミッションを成功させ、Lバンドレーダー衛星の成果を見せつけた結果はすばらしかった。しかし急激に「ふよう」を開発したため、組立ては日本であったが合成開口レーダーの重要ユニットはアメリカから購入、組み込んでいた。「ふよう」は国産と言っても中身はアメリカ製だったのだ。この技術をベースに合成開口レーダーの性能を多少ながら更新し、光学センサーを加えて大型化したのがALOSである。

  
     ふよう1号(NASDA)      ALOS「だいち」(=ふよう2号) 
(JAXA/NASDA)

 しかし、「ふよう」の上塗り衛星である「ALOS」は、20年前のコンセプトと同様だったため、世界は誰も見向きしなかった。JAXAはALOSを「既存衛星より解像度は低いが観測幅が広い」と主張するが、20年の年月を重ねる間に、合成開口レーダー衛星は「高性能化・ステレオ観測・小型化・低コスト化・衛星郡化」を進めていたからである。ALOSは大型衛星1基という大艦巨砲主義衛星のため、今の時代から見れば「バランスが良くない・コストもダメ・技術的にもデータ的にも得るものが無い」と評価され、「観測幅が広いこと」は誰も注目してくれなかった。恐らく、20年前に世界を驚かせたことで、NASDA(JAXA)が胡坐をかいて、国際動向を無視していたからであろう。もしくは、ALOSが“ふよう”の在庫技術や在庫部品を処理するために行った計画だったかもしれない。一旦始めたら(国際比較して例えALOSが)悪くても止められない癖がJAXAにはある。

 今後は国際動向を見極めて、コンセプトが変化したら開発途中でも変化させられる開発体制が望ましいだろう。それを実現するには、衛星開発期間を短期化する一方、衛星製造をモジュール化させて、時代変化に対応できる体制が必要だろう。

 暴走機関車のように世界が変化してもコンセプトを変更しなかったJAXA-ALOSに対し、イタリアのCOSMO-SKYMEDはレーダー衛星開発において違った動きをした。これは賞賛すべき動きだろう。

◎コンセプトを変えて成功したCOSMO-SKYMED

 国際動向を見極めて、衛星設計をやり直すことは決して悪いことではない。JAXAもALOSコンセプトが悪いことを気付き、改心して設計変更していれば、違った評価が得られたかもしれない。実際、イタリアのレーダー衛星COSMO-SKYMEDは、1990年代前半から構想がはじまり、1996年に伊政府及び伊宇宙機関ASIの承認を得て正式に開発が開始された。このCOSMO−SKYMEDはXバンドレーダーを搭載したレーダー衛星で、4機を打上げて観測頻度を上げる一方、干渉観測で3次元データ取得も目差した。発表当時は、イタリアの先進的コンセプトとして騒がれた。

 しかし、COSMO-SKYMEDに暗雲がたちこめる。ライバル衛星の登場である。それがTERRASAR-X及びSAR-Lupeであった。この2衛星の登場でイタリアは混乱に陥る。「今のCOMSO-Skymedではダメだ」、「そんなもの出しても世界は評価しない」など、設計仕様を3回変更したと公式に発表している。しかし実際に聞くと「6回も変更した」とフィンメッカニカ社の担当者は述べているほどだ。担当メーカーを変更したり、設計仕様を変更したり、部品を変えたりと努力を重ねた。さらにフィンメッカニカでは、新たな技術発掘のため、世界中に技術者を走らせた。日本では東北地方のある企業まで尋ね、衛星技術が世界的に遅れないよう設計変更を重ねたのだった。この結果、6度の設計変更を重ね、2007年8月6日、アメリカのDELTA-IIロケットにて打上げに成功した。ちなみに、衛星打上げロケットは、国際競争入札で実施された。欧州ならばアリアンVが順当に行くはずだったが、イタリアはアリアンV(相乗)、SOYUZ、KOSMOS-3M、DELTA-IIなど候補に選び、価格と信頼性のバランスでDELTA-IIを選択している。

 また、フィンメッカニカではCOSMO-SKYMEDをALOSと比較して有利な点は「2号機、3号機、4号機と打上げるので、1号機の悪いところを改良しつつ、段階的に衛星の改善・向上を図れることが強み」であり、「例え、TERRASAR-X及びSAR-Lupeよりもトータル性能が悪くても、高い解析能力があるので十分勝負できる」と述べている。

 このように技術的に苦労を重ね、約11年かけて打上げられたCOSMO-SKYMEDは、拡張性を兼ねた衛星で性能もALOSより高いため、なんと日本の三菱商事が日本国内での販売権を取得している。三菱商事といえば、高解像度のアメリカ民間商用地球観測衛星「イコノス」の画像販売権を日本で有している。1m解像度の画像を販売しているが、合成開口レーダーのデータ販売では日本のALOSではなく、イタリアのシステムを国内に販売するそうだ。フィンメッカニカの話では、DELTA-IIのCOSMO-SKYMED打上げも見に来ていたそうで、今後COSMO-SKYMEDのデータは国内商社を通じて販売されるだろう。

 このように技術的・コスト的・利用的にコンセプトが高ければ、利用する企業が現れる実態を把握すべきだろう。ちなみにCOSMO-SKYMEDの衛星バス“PRIMA”の性能を見込んで、カナダの合成開口レーダー衛星RADARSAT-2はこのPRIMAバスベースで製造中だ。ALOSのように暴走せずに、冷静に技術を磨いて商用受注も遂げた事例として日本はよく学ぶべきだろう。


COSMO-SKYMEDの撮像モード           軌道上&打上時衛星コンフィギュレーション(ASI)

 今後はTERRASAR-X、SAR-LUPE、COSMO-SKYMEDのコンセプトをよく分析し、「サクラ的企業を作ってデータ販売を装う」のではなく、「イベント主義(PR主義)で世間から目立ちたいという主旨で衛星コンセプトを考える」のでもなく、「真の意味で国際的に評価される衛星コンセプト」をJAXAは出して欲しいものだ。

◎ベンチマーク衛星「EROS-B」とは?


EROS-Bは世界を驚かせた(IAI)

 現在、海外の地球観測衛星は「如何にシンプルで拡張性があるか?」、「EROSが出てきた以上、悪いものは作れないので、EROS以上のものか、せめてそれに近づけるコンセプトを」というテーマでEROSをベンチマークとしている。

 また、アメリカではKH-12という10数トンの偵察衛星時代は終わりを告げ、小型・軽量・高機能の偵察衛星開発に着手しているそうだ。アメリカは将来の偵察衛星をIGSと同等かそれより小型化するよう決定しているそうだ。小型化を磨くことはすばらしいのではないか?その他のベンチマークとしてEROS-Bや最新型のEROS-Cが掲げられているそうで、既存にとらわれない、新たな設計コンセプトで製造するよう、発注者側は要求しているそうだ。また、新型の偵察衛星KH-15Xは、日本のIGSをベンチマークとしているそうだが、IGSはUSEFのSERVISバス筐体をベースにしている。聞くところでは製造元の三菱電機筐体及びセンサーは将来性が乏しく参考にしてないが、偵察衛星を小型コンパクトに纏めた設計思想は参考にしているそうで、もしIGSが今後小型化し、性能強化していれば、国際的に良い評価が得られるだろう。フランスの偵察衛星プレアデスもEROS-Bに似た設計思想を持ち、小型化の追及を進めている。SERVISベースのIGSの今後は、より小型化・より性能向上を図ることが必須であることは、KH-15Xやプレアデス及び海外宇宙技術者からの指摘で明らかである。しかし、センサーは相変わらず、某高高度偵察機搭載の偵察カメラベースの輸入品では、どうしようもないのではないか?SERVISベースのIGSは、短期的に仕上げたことは評価でき、アメリカからも一部参考にされていることは悪くないが、慢心して小型化・高性能化を追及しなければ、三菱電機に今後偵察衛星を開発させる意義は低いようだ。現在進行中のIGS計画が、国際的動向と照らしてどうなのか審査・監査の必要があるだろう。

  
  偵察を含む周回地球観測衛星は十数トンの時代から“1トン以下&数”を目指す時代へ

 すこし話が外れたが、EROS-Bは拡張性があり光学システムがよく、各国がベンチマークとして位置づけている。また、イスラエル企業も各国の追い上げに備えて、EROS-Bのカメラ性能の焦点距離を2倍にした衛星OPSATを開発中、時代の先を行こうとしている。重量は増加するが、それでも同等性能の80年代偵察衛星よりも10分の1で製造されているのは間違いなく、将来はOPSATがベンチマークとされるかもしれない。

  
OPSAT(IAI)

 このように世界から注目されるコンセプトが必要と同時に、日本も国際的に遅れない衛星コンセプトが重要だろう。

 海外技術者と話をすると「かつて日本は、国際的に影響力ある衛星を登場させていたが、最近は“はやぶさ”くらいしかない。あれは、航行距離が長く、しぶとく、地球に帰ってこようとしている」と述べている。「他は、見掛け重視で中身が無い」と率直な意見である。将来計画も、在庫部品を放出するためのミッションなのか分からないが、解像度を1mにまで高めた「だいち後継機4機」計画がある。だいちの光学センサーはもはや国際常識外れの上に輸入品であり、それをベースに製造することは、国家宇宙機関として許されないだろう。2000億円以上の国家宇宙予算に加え、さらにJAXA職員人件費を含めば、各国が羨む膨大な宇宙予算がある日本として恥ずかしいのではないか?よってコンセプトの悪い既存のJAXA地球観測衛星計画は抜本的見直しが必要なのは明らかだろう。

◎ベンチマーク衛星「TOPSAT」とは?


(詳細は雑誌「エアワールド2008年3月号」をお買い求めください)

  
TOPSAT(SSTL)

◎CUBE衛星ショック(第3次宇宙革命/マイクロスペース革命)

 各国宇宙機関や諸企業は、上記のTERRASAR-X、EROS-B、TOPSATの設計概念、採用部品、利用コンセプト、民間出資動向の情報を分析、今後の自国・自社戦略として参考にしている。いくつかの企業や組織から情報を整理すると、新世代の衛星バス筐体の基本は「汎用技術=デジタル化」の採用がキーテーマとして考えられているそうだ。今までの衛星・ロケットは、信頼性という名の下に高価で旧式技術を採用し、一定の成果を収めていた。しかし近年は「80年代、90年代の技術ベース」では達成できない衛星コンセプトが出始める一方、非宇宙用として開発された技術を宇宙用へ転換することで、小型・軽量・高性能化を実現、画期的な成果を収めるに至りはじめた。

 そのドラスティックな変革をもたらしたのがCubesatであり、一部の宇宙先進国では第3次宇宙革命とも言われている。Cubesatはたった10cm四方、重量1kgで“衛星としての機能”を果たしたのだ。これは従来の宇宙技術では達成し得ないコンセプトで設計されていた。だが、性能面から評価をすれば高くないため、JAXAや宇宙企業は「大学教育」、「玩具」という扱いをしている。「1kgの衛星に何が出来る」、「我々の脅威にはならないが、新参者は気に入らないので無視してやろう」というスタンスが見られた。

 しかし、別の方面からCubesatを分析する動きが出始めた。それは、新しい技術を比較的吸収しやすい若手技術者や欧米宇宙戦略家などである。彼らはCubesatを「大学が衛星を作れるという点」のみで評価するのは大きな間違いであると考えた。もし、200gにも満たないカメラ付携帯電話という“省スペースに電子基板・ソフト・電池・通信装置がギッシリ内包されているシステム”と比較すれば、Cubesatの機能や性能は大したものではない。だが、携帯電話テクノロジーをベースとするものが、もし今後Cubesatへインストールされたらどうなるか?そして、その技術をベースに大型化した場合、既存宇宙技術の脅威か淘汰される危険性があり、積み上げてきた宇宙技術が淘汰・崩壊するのではないか?と考えた。所謂、オイルショックならぬ“Cubeショック”である。トランジスターラジオの登場で真空管ラジオが皆、淘汰されたように、宇宙の世界にも革新技術の出現で優位性が崩壊・失われる危険性に欧米宇宙戦略家は気付いて警告を発して“自国の科学技術政策”へ取り入れる一方、新しい技術へ興味を抱く若者はCubesat開発へ夢中になった。


(画像出典:トロント大、NASA、Apple、Aeroastro、Telestial)

 よって、日本と欧米ではCUBESATの扱いが大きく異なる。上記で示したように前者は“無視・排除”という姿勢を事実上取り、後者は事実を受け入れて“政策立案・育成”へと取り掛かったことだ。これら革新技術は2、3年先には花開かないが、今後5年から10年かけて洗練されてくるだろう。そして、現在は“無視・排除”をしたJAXA及び既存宇宙企業が今後どうなったのか?は読者の皆さんが10年後に振り返ると、面白いかもしない。

 今後は、新しい技術が登場したらそれが宇宙用として使えるのかどうか、そして技術思想が優れているのかを分析し、使えるなら柔軟に取り入れる姿勢が要求されるだろう。新世代の衛星バス技術を今後開発する上で、これが最低限必要な要素だろう。

◎ベンチマーク衛星を横目に“囲い込み戦略”を進める欧米

(詳細は雑誌「エアワールド2008年3月号」をお買い求めください)


TACSATシリーズは革新技術実験衛星(出典:AIAA)

◎マスメディア衛星商談がヒートアップ(グローバル・メディアの登場)

 この囲い込み戦略の背景には、商用静止通信放送衛星の需要とは違い、地球観測衛星の急激なニーズ変化がある。先月号や過去の誌面で示したように、マスメディアやIT企業及び穀物系の企業が衛星を保有する動向について紹介したが、新たな情報を加えて整理すると、イギリスのSSTLはTOPSATの性能向上バージョンを目差した10cm解像度のTOPSAT-LITEにKOSMOS-3Mやトーポリ(START-1)ランチャーへ3基〜6基搭載したセット・システム販売を顧客提案している。2009年〜2012年に実現予定としているそうだ。顧客は不明だが、手を挙げている企業がいるとの情報が入ってきている。

 次にEROS-Bで成功したIAIとELOP社は、5cm〜10cm解像度を目標にした新型EROSを3〜6基と、ランチャーはSTARTやKOSMOS-3Mとしたをパッケージ提案し、BBCは調達の動きをみせている。2009年〜2011年に実現すべく商談及び開発が進行中だ。

 またロシアのクルニチョフは10cm解像度の衛星3〜6基と、ランチャーはKOSMOS-3MやDneprとしたパッケージ2010年〜2011年に実現予定としてCNNへ提案している。

 米国メーカーもノースロップグラマン社が、SA-200C(commercial)衛星筐体に光学・気象センサーを搭載した10cm解像度の衛星6基と、ロケットは相乗りとしてPROTONやATLAS-Vか、シングル打ち上げでTAURUS-XLを利用するパッケージをABC/NBCに提案、商談が行われている。

 さらに、Orbital Scienceも二酸化炭素監視衛星OCOの筐体をベースに10cm解像度の光学衛星3〜6基と、ランチャーはTAURUS-XLをシングル打上げする提案をFOX・CBS・NBCへ提案、2009年〜2011年実現に実現すべく、商談及び技術開発が進められている。

 これらマスメディアが高解像度の衛星を保有することで、地球環境問題や戦場中継を実施し、フィルタリングのかからない情報を報道することを目指しているそうだ。これは、NHK・JAXAの月探査衛星“かぐや”コンセプトが崩壊していることを意味している。


メディア衛星調達(画像出典:BBC,Puskovie Uslugi ,IAI)

◎想像もつかない需要が生まれつつある地球観測衛星

 このため、爆発的な衛星需用が見込める関係から、スペース・アース・キャステング衛星として衛星価格は1基あたり約10〜50億円($1=100円)程度で提供する流れが起きているようだ。このほか、マスメディア以外にもOrbital Science社がマイクロソフトと、ノースロップグラマン社がグーグルと、Space System Loralがスカイプ・AOLと、クルニチェフがYAHOOと商談を進めているという情報が入ってきている。

 このような民間企業が衛星購入をしている流れの中、日本も情報収集衛星を保有している関係から、「高解像度カメラが開発できるのではないか?」、高解像度カメラ部品に日本の企業が採用されている情報から「日本が作れるのではないか?」という期待から三菱電機へシステム検討を依頼した、とある海外企業の話を知人が聞いている。しかし、コストも性能も満足できるものではなかったそうだ。確かにH-2AとSERVISバスやALOS衛星技術の組み合わせでは、上記と比較すればコスト勝負能力がない。JAXA技術開発の怠慢とコストダウン意識の乏しさのツケが回っている状況だ。

 また、上記のようにマスメディアやポータルサイトが衛星保有へ動きを見せている一方、他にも衛星へ興味を示す海外企業が出始めている。それは、自動車や鉄鋼企業だ。現在、地球環境問題の関係から、二酸化炭素排出量が問題となっているが、米国が打上げ予定の二酸化炭素監視衛星OCOが打上げられれば、どこの国、どこの工場で、どれぐらいの量の二酸化炭素が排出されているかが明確になる。自動車産業や鉄鋼企業からすれば、これら情報は企業イメージ戦略として非常に重要な情報であり、自社よりも競合企業が二酸化炭素量を排出していれば、国際社会へ訴えて減産措置を実施させて自社の優位性を確保するという企業戦略も考えられる。情報を握り、それをタイミングよく公表して利用する企業戦略として、非常に価値が高い。

 また、ハイパースペクトラルセンサーや合成開口レーダーを利用すれば、製造工場の稼動状況の変化や生産能力の情報収集も可能だ。自動車業界ならば、テレビCM製作コストを数本回せば、衛星調達できるまでコストが下がってきた。下手なイベントやCMへコストをかけるより、得られる情報は価値が高いため、十分投資に値する。

 これは、企業戦略以外にも国家外交ツールとして利用できる。これが21世紀の情報戦争時代なのだろう。優位性を確保するために宇宙から情報を握り・分析・利用する時代へむけて民間企業が投資する時代がそこまでやってきている。

 また、一個人が衛星保有する商談も海外であるそうだ。先日、中東の王族がエアバスA380を「空飛ぶ宮殿」として購入した例があるが、俗に言う「お金持ち」が趣味で「あの家を覗いてみたい」という主旨で衛星購入する動きもある。これは倫理的に問題があり、喜ばしいものではないが、90年代までには想像もつかなかった衛星需用が明らかに生まれている。近い将来、低軌道の民間企業衛星が宇宙空間を飛び交う日はそう遠くなさそうだ。

 だが、問題がある。JAXAの技術開発怠慢の影響で、海外と比較してコストに見合う衛星を国内メーカーが製造できない事情がある。もし、日本の自動車・鉄鋼メーカーが海外で衛星調達した場合、妨害行為によって入手できなかったら、日本の経済を支えている自動車・鉄鋼産業が「情報入手の遅延(情報格差)」によって、競争力が厳しくなる可能性も想定される。

 恐らく将来は、自動車・鉄鋼・穀物・メディア・ポータルIT業界等は“衛星を保有する企業”と“そうでない企業”とで情報格差が生まれてくる可能性は十分考えられる。これら「グローバル経済活動を支援するための技術安全保障」という観点で評価をすれば、JAXA組織は今後の国益や非宇宙企業の利益に対応できる組織体制になっていると言えるのだろうか?

◎欧州はインスタントSAT、米国は即応型SATで勝負

 小型衛星技術をもともと追求しているイギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンでは、それぞれ国家宇宙機関や企業らが筐体バスやセンサーを開発しているため、非常に有利なポジションにある。加えて欧州域内のマスメディア衛星保有動向もあり開発は盛んだ。これを一部の企業では「インスタント・サテライト時代が到来する」と表現している。インスタントラーメンを排出した日本としては、非常に考えさせられる表現だ。短期間で衛星を製造して打上げるという考えなのだが、それはアメリカの即応型宇宙政策に似た考えで、軍事という意味合いを外せば、欧州も米国も今後の衛星製造方針の大枠は同じである。

 一方、アメリカでもプライベート衛星調達の動きが活発化した背景から、即応宇宙型衛星開発を進める一方、軍事宇宙システムのダウンサイズ計画を進めているそうだ。15トン近くあったKH-12などは、今後MINIキーホールとして5トン未満にする方針でロケットはDELTA-IVやATLAS-Vで2010年程度に実現、次段階でさらに小型化して2トン程度とし、ロケットはFALCON-9を想定して2013〜2015年に技術実証衛星を打上げた後に実用化する。そして第3段階として1トン程度を目標、2015〜2017年にかけて技術実証して実用化するという方針を検討しているそうだ。世界最大の宇宙開発国が、ついに衛星小型化へ本格的に舵を切りつつある。

 これに加えて、即応型宇宙政策によるTACSAT衛星(150〜250kgと350kg〜500kg)という大きく分けて2種類のバスを開発させ、ランチャーはMinotaur-IVやMinotaur-Vを想定している。

 その下のサイズでは、ライトクラスと定義してCOTS−SAT(50〜150kg)、PICO-TAC(10kg)、Micro-TAC(5kg)で技術を育ててTACSAT基盤技術も育てる戦略のようだ。これらランチャーはセミTSTOやMSLV(マイクロランチャー)が検討されている。

 各々の衛星は即応型宇宙政策で示されたモジュール・ユニット・プラグイン構造が主体となるそうだ。一品工芸品路線ではなく、大型偵察衛星は段階的に小型化をさせつつ、小型衛星の世界では囲い込み戦略を進めて、量産時代を意識した衛星設計コンセプトが掲げられている。つまり、通信放送衛星以外は全て2020年までに小型高性能衛星へと転換する路線を立てている。

恐らく、衛星需用の変化から、衛星情報が国家占有時代から民間所有時代へ、他国でも高解像度が製造できる時代へ向けて「コスト勝負時代へ突入した事実」を認めたうえで、既存宇宙企業へ「今のままでの調達は許されないぞ」というスタンスで、競争開発させる体制を目差しているようだ。事実を見つめて舵を切る宇宙大国へ対し、日本は事実に目を瞑って見ないフリをする体制はどちらが正しいのだろうか?

◎打上げ手段も「フル規格ランチャー」から「ユニバーサルランチャー」の時代へ

 この小型衛星の戦略展開の情報に気付いたロケットメーカーも戦略の練り直しに迫られている。このまま衛星が小型・高性能化すればコスト負担能力が無くなるからだ。ロケットエンジニアからすれば、「大きなロケットを作りたい」という願望があるだろうが、それは技術者の興味であって市場が欲しているものではない。事実、衛星打上げ市場は、60億円の「ATLAS-V、Ariane-V、DELTA-IV」というフル規格ランチャーから、30億円以下のロコット、ドニエプル、START、コスモスというユニバーサルランチャーのニーズが増大している。このため、ATLAS-VとDELTA-IVは小型衛星の規格打上げが容易に可能なESPA混載システムを構築、ユニバーサルランチャー市場へ打上げ需用が奪われないように展開している。

では今後、どのようなランチャーが要求されるのだろうか?それは、30億円以下のユニバーサルランチャーをベンチマークとして、「ユニバーサル価格でフル規格を目差す」コンセプトが勝利する時代だと考えている。それが、近年開発着手されている「Minotaur-IV、Minotaur-V、TAURUS 、TAURUS-II、K-1、Eagle(E’Prime)、FALCON、Angara、新型Pegasus、VEGA(改)」などだ。サイズは各々異なるがユニバーサル価格でフル規格を目差している。その市場にGXロケットはもはや敗北、次期固体ロケットはコンセプトが失敗作J-1の領域を脱しておらず、素地の悪いSRB-Aモーター流用が足かせとなっている。総合技術会議で次期固体ロケットは不合格の評価が出ており、M-Vを潰して固体ロケットの命脈を切りたいという旧科技庁と旧NASDAの思惑通りの展開が進んでいる状況だ。やはり、正当な技術開発が出来ないJAXAとは違う次元でユニバーサルランチャーを開発する戦略・体制が必要だろう。

次号では、液体ロケットの真実をさらに深掘りしてJAXA液体ロケットの問題点を明らかにしたい。

(次号につづく)


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