スマート・ガバメント宇宙時代の到来(世界はスマート宇宙技術確立へ)
   (エアワールド2009年3月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2009年3月号」をお買い求めください

 本稿では、高性能化する小型衛星の技術トレンド動向、日本で騒がれている“早期警戒衛星システム”の国際動向、その技術水準と、周辺技術を見ながら、将来の変革を引き起こす宇宙イノベーションの可能性を紹介したい。

◎軍民両用衛星という存在

 早期警戒衛星とはなにか?まずはこれから説明した方が良いだろう。まず思い浮かぶのは、軍事用として使われているので「見たくない、否定したい、聞きたくない」というのが、大方の日本人の反応だろう。宇宙平和利用の観点で「そういうものは作らないほうがいい」とする姿勢は「日本の軍事宇宙活動を抑制する機能」として、良い流れだと考えている。だが、宇宙システムは「軍民両用」がベースとなっていることも否定できない。もしJAXA衛星ALOS“だいち”の観測データを国土地理院が地図作成のために利用すれば民事利用だし、同じデータを「戦闘機や軍艦の数がどれくらいか?」という利用をすれば、それは軍事利用というようになる。GPS衛星もそうだろう。もはやGPS衛星は軍用主体ではなく、カーナビや地殻変動監視に代表されるように民事利用の比率の方が高く、旅客機のナビゲーションではもはや無くてはならない存在となっている。

 宇宙データは「使う側次第」で軍事利用にも民事利用にもなることを理解しておこう。よって情報の扱いが時には国際問題にも発展する。過去においてJAXAが“だいちの画像”を「綺麗な地球」という主旨で雑誌に紹介したところ、全体写真の一部に軍事基地の写真が写っており、海外の国防機関から「苦情」がきたそうだ。写って欲しくないモノ(工事状況)があったそうで、JAXAの不特定多数配布(雑誌掲載)が問題化した経緯もある。

 このように、見る側次第で軍事にも民事にも化けてしまうのが宇宙システムの事情と言える。無論「はやぶさ」ミッションのように軍事とは遠縁の宇宙システムも存在するが、直接関係する宇宙技術もある。分かりやすく言えば、宇宙で数々の天体を撮像し続けてきたハッブル宇宙望遠鏡は米国偵察衛星KH型と同じ筐体や技術を利用しているということだ。よって宇宙基本法成立前に、軍事利用反対という声が国立天文台の一部から上がっていたのは、「我々の天文技術が軍事へ使われることへの反対」という反対論があったのだろう。だがそれは「日本は宇宙平和利用をしてきたことの証明」でもあり、良い流れだと考えている。しかし、これからは「単に反対」、「批判をかわすためにタブー視」、「雇用対策のために推進」というのではなく、抑制意識を持った上で軍民両用という事実を捉えながら、国家としての宇宙活動システムを議論しなければ、国際宇宙社会の中で生きていくのは困難だろう。要は「宇宙の使い方」について、深く考えて議論する土壌が必要なのだ。ここで答えを出すつもりはないが、日本が宇宙開発利用国として今後生きていく中、まずは最近騒がれている「早期警戒衛星」について、その技術トレンドを見てみよう。

早期警戒衛星とは?

 さて、早期警戒衛星である。すぐに軍事衛星という反応があるが、まずは技術的なものを見てみよう。早期警戒衛星とは、ミサイルやロケット打上時に発する“炎”を発見する目的で作られている。そのため、衛星へ搭載するセンサーは“炎(熱)”を検知できる「赤外線センサー」が必要とされている。そしてこの赤外線センサーを衛星に搭載、高度36000kmの静止軌道へ打上げて複数機配備し、ミサイル発射検知用として運用されているのが早期警戒衛星である。

 現在のところ、アメリカとロシアが打上げて運用している。アメリカ衛星はDSP(Defense Support Program)と呼ばれ、ロシアは軍事衛星“コスモス”群の1部として運用されている。アメリカでの製造はTRW社(現在のNorthrop Grumman社)が担当しているが、同社は私達の生活に欠かせない、気象衛星“ひまわり”の気象センサーをITT社と共に開発していた過去があり、赤外線センサー搭載衛星に関する様々な技術を有している企業なのだ。


初期型DSP衛星(USAF)             DSPセンサーの仕組(MIT)


DSPは回転しながら撮像(National Security Archive) 新型SBIRS(Northrop Grumman)

 このDSP衛星は、1970年代から打上が開始されており、DSPという名称がら、ミッション目的の分からない軍事衛星として存在や用途が殆ど知られていなかった。また打上ロケットは先日引退したTITAN-3、-4やスペースシャトルが利用され、1990年の湾岸戦争でイラク軍が発射したスカッドミサイルに対し、イスラエルやサウジアラビアの民間人避難用とパトリオット迎撃に情報利用されたことで、その存在が一気に知られるようになった経緯を持つ。初号機は1970年11月に打上げられ、以後センサーの改良等を重ねて23機が打上げられている。最近では2007年11月にDELTA-IV Heavyにて打上げられた。

 しかしこのDSPは近年、引退の方向で進んでいる。その理由として在来技術の延長のコンセプトで実施しているため、衛星が大型化してしまい、高コストで引退したTITAN-4や寿命切れの近いスペースシャトルを使って打上げていた。また、TITAN-4引退後はDELTA-IVのHeavy型というDELTA-IVの中で最も大型サイズのロケットを使わねばならず、「何時打ちあがるとも分からないミサイル発射」のための費用対効果に疑問符がついたのである。そのため、熱源監視という能力から、山火事・タンカー火災・大規模火災・火山噴火発見や衛星の熱源監視など、自然災害や爆発事故及び衛星熱制御の状態監視などの軍民両用で運用されたが、それでも費用対効果を説明しにくい状況となったのである。

 だが、約35年以上にもわたり、蓄積してきた観測データ及び分析技術は世界トップクラスである。そもそも早期警戒衛星は、発せられる熱源が“ミサイル発射”なのか“山火事”なのか“タンクローリーの爆発事故”なのか“巨大火災”なのか「識別する能力」が重要だ。ミサイル発射でもないのに「ミサイル発射だ!!」と避難警報をかければ“狼少年”となってしまう。そのため、アメリカは多くの観測データを元に「見分けるノウハウ」を修得しているのだ。その識別システムは当然ながら日本にはなく、アメリカやロシアの自国優位技術として外部へ公開することはないだろう。

 近年では、センサーや衛星技術の向上で後継機である新型赤外線センサーを搭載したSBIRS(宇宙空間赤外線システム)が開発中で、2009年に打上予定だ。このSBIRSはATLAS-VやDELTA-IVの標準型で打上げられるよう設計・製造されており、重量は非公開だが、ミッションコストの低減は実現している。DSPよりも「安いランチャー(TITAN-4Bとシャトル→DELTA-IVとATLAS-V)」を利用しているからだ。

◎革新的技術で小型化が進む早期警戒衛星

 だが、早期警戒衛星システムはさらなる進化を遂げている。それは小型化・高性能化・低コスト化である。具体的には小型早期警戒衛星NFIRE衛星の成功と、フランスの衛星Spiraleの開発動向だ。

 まずNFIREは、アメリカのGeneral Dynamics社が開発した赤外線観測衛星であり、重量はたったの500kg、ユニバーサル固体ランチャーであるMinotaur-Iを使用し、2007年4月に打上げられた。これを周回軌道へ投入、地上から打上げてくるロケットの検出・トラッキング(追尾)・観測データの高速データ地上転送へ成功している。つまり、ミサイル発射検知衛星として小型レベルで成功したのである。将来はこの小型・高機能技術を静止衛星へフィードバックすれば、専用の早期警戒衛星を有するのではなく、モジュール搭載する方法も考えられ、NFIREの果たした意義は大きい。

 また、NFIREと同型がもう1基、別に打上げられたそうだ。それは、システムは同じでも、検出に関するソフトウェアを変更したそうで、その新ソフトが機能するかどうか確認したとの事だ。NFIREは、小型ながらも従来の2トン級でしか成立しなかった衛星技術をコスト半分以下、重量4分の1で成し遂げたのである。このNFIREの衝撃は米国宇宙企業に衝撃が走ったそうだ。衛星企業として事実上ノーマークだったGeneral Dynamics社が高性能衛星メーカーとして大手宇宙メーカーを脅かす存在になったのだから、、、。だが、General Dynamics社はしっかりと人材確保をしている。実は早期警戒衛星の生みの親であるTRW社の社員を、ノースロップグラマン社へTRWが吸収合併される際に、それを嫌った技術者を引き取り、NFIREを開発した経緯があるそうだ。「技術は会社に宿るのではなく、人に宿る」という言葉があるように、技術者を大切にしない企業・宇宙組織の経営者は、いずれ技術者に泣かされることになるのだろう。

 次にSpirale(スパイラル)である。これも欧州版早期警戒衛星であるが、フランス国防機関ONERAの発注を請けてEADS-Astriumが主契約者となり、センサーやソフトウェアはThales Alenia Spaceが担当、衛星バスはお馴染みのMYRIADEで開発するそうだ。ロケットはAriane-Vのピギーバック搭載で2機同時に2009年打上予定だ。軌道は静止トランスファー軌道(長楕円軌道)であり、ミサイルやロケット打上の検出が出来るかどうか、「まずは小型衛星で実験」するそうだ。どこかの国のように、センサー技術・識別能力もないのに“中東国から識別ソフト輸入、旧式センサーをロシアやアメリカから導入して、(技術開発もろくにせず)大型静止衛星でやる”という費用対効果の悪い活動をするのではなく、段階的に技術を確立するため、「センサー・衛星バス筐体・高速通信・識別ソフト・警報システム」のバランスを追求し、具体的には欧州はベンチマーク衛星バスMYRIADEで「小手調べ」する体制はすばらしい。

 メーカーの発表資料によれば、将来のミサイル発射検出技術を静止衛星へフィードバックさせるための実験であると明記し、しかもその赤外線検出衛星(Spirale)は、熱源を観測することが出来るので、環境気象衛星へも利用できる(軍民両用衛星)であると事実上明記し、観測データを欧州気象機関へ提供する体制で実施するとしている。恐らく、山火事・大規模火災・爆発事故など、海上やジャングル等の人目のつかない地域で発生する自然災害・事故を発見し、被害拡大を最小限にする戦略でデータ提供を考えているのかもしれない。「観測データは何に使う」というのもあるが、「何に使えるのか?」という考え方も衛星を作る上で必要かもしれない。だからと言って、衛星ミッションの主目的を逸脱して性能を落としたり、余計な機能を付加し過ぎたり、過度にコストをかけるのも愚策でもあるが、、、。目的・費用・効果のバランスが重要であろう。


Spiraleは早期警戒静止衛星の小手調べ(EADS)       気象機関へもデータ提供(EADS)

◎将来技術要素も搭載しているNFIRE(光通信技術)

 また、この赤外線検知衛星であるNFIREは、たった500kgの小型衛星ミッションにもかかわらず、将来衛星の新時代を彷彿させる技術も搭載されていた。それは、光通信技術である。

 衛星光通信とは、従来の衛星通信手段である“電波”とは違い、通信速度が飛躍的に向上するため、“衛星間通信”や“(天候制約があるが)地上-衛星間通信”として注目を浴びている。具体的には(通信バンドや距離によって差はあるものの)Mbpsだった通信速度がGbpsと約1000倍向上している。また、通信に直線性があるため、電波とは違って傍受の危険性が低減する利点に加え、装置の小型化が可能(20〜30kg程度)である。その反面、衛星放送のように地上へ広域に放送電波を降らすような利用には向かない。

 つまりパソコンやTVで普及しつつある“光通信インターネット”や“光TV”のように、宇宙でもケーブルを持たない光通信技術が確立され、装置も小型・省電力化が進んで、小型衛星の高性能化へ寄与している。

 その利用拡大はもう始まっている。日本ではNICTが光通信衛星OICETSを打上げてフランス静止衛星ARTEMISと光通信実験をしたり、地上局と晴天時に通信実験をした成果があるが、早期警戒衛星実験機NFIREと高性能地球観測レーダ衛星TERRASAR-Xでは、極軌道と低軌道間で5.5Gbpsの通信実験に成功している。OICETSのように小型だが「通信実験装置だけ搭載」というのではなく、500kgという早期警戒ミッションに光通信装置を搭載して、(ALOSよりも小型高性能のレーダー衛星)TerraSAR-Xとの間で通信するという小型高機能衛星同士による光通信ミッションを実現している。これは異なるミッション目的の衛星がリンク通信で繋がり、ダウンリンク先の上空にいる衛星へリンクすれば、地球観測衛星画像・気象情報・通信データなどを近リアルタイムで情報伝送(XバンドやKu,Kaバンド通信等)できることを意味し、静止軌道を使ったデータ中継衛星の存在そのものを脅かす存在になり得る可能性を秘めている。


NFIREとTerraSAR-Xとの光通信(DLR)     ARTEMISとOICETSとの光通信(JAXA)

 さらには、地上局との光通信システムも検討されている。光通信は大気の歪みや天候により、通信速度が悪化もしくは不可能となる。しかし、天候に比較的左右されない“山の上”や“砂漠地帯”などに固定局を設置して地上光通信とリンクしたり、はたまた小型キャンピングカーを改造して移動式光地上局を作り、天候の良い場所へ移動して光通信環境を確保することで弱点を克服するコンセプトで、新たな利用開拓へと繋がる戦略を立てている。このため、現在は衛星1基に光通信装置1基という流れだが、これを複数搭載して軌道上に上げたら、どんな通信需要を開拓できるか?に注目が集まっている。やり方によっては、静止衛星の需要が“小型衛星の技術進歩と量産コストダウンによる周回衛星網(衛星間は光通信、固定局は光/電波通信併用、移動体は電波)”に市場が奪われる可能性だって将来あり得るという意見もある。


TerraSAR-Xに光通信装置の取付(TESAT)       光通信装置は小型・省電力化が進む(TESAT)

◎光通信技術の利用拡大で通信市場変化の可能性も

 (エアワールド2009年3月号をお買い求めください)


光通信装置のスペック(TESAT)              利用が広がる光通信/地上通信にも(TESAT)


光通信衛星網の想像図/地上との通信は電波
(TESAT)

 日本の将来を考えれば、TESATのように圧倒的宇宙技術で世界市場を制覇している部品企業を育成するのが、ナショナルプレステージを維持・発展する上で重要なのだろう。産地偽装の輸入品を“国産”と偽るやり方では、ナショナルプレステージは発展しない。

「“キラリ”と光る技術で市場独占」というOICETS(きらり)ではない、真面目な宇宙産業育成戦略が至急必要なのだ。

◎センサー開発能力が国際競争における勝敗を左右する

 早期警戒衛星にて代表されるように、センサーの使い方次第でミサイル発射監視から災害発見及び環境気象データ配信まで、「衛星は軍民両用の場合もある」という事実を踏まえた上で今後は衛星開発利用計画を考えるべきだろう。間違ってもメーカーが儲かるために“巨大な早期警戒衛星”を計画するのではなく、過去の在庫部品を処分するために無理やり計画を取り繕うのでもなく、軍事目的のみで衛星開発をするのでもない視点が必要だ。基本は「どのようなセンサーを作れば、どういう効果をもたらすのか?」という考えで宇宙計画を立てなければならない。当たり前のことだが、それをやって来なかったのが日本である。

 よって「センサー戦略をどうするのか?」が今後重要なテーマとなるだろう。センサーは受動系・能動系を合わせて主に

・ イメージャー

・ スペクトロメーター(分光計)

・ サウンダー

・ ラジオメーター(放射計)

・ ライダー

・ 合成開口レーダー(SAR)


があるが、日本として得意分野、非得意分野、今後チャレンジすべき分野を分けながら、得意分野は将来ロードマップを考えさせ、非得意分野は継続か中止の決断、今後チャレンジすべき分野は“段階的に開発・達成させるロードマップ”を作らせて開発をさせる政策が必要だろう。無論、上記分野が重なることも想定事項として対応が必要である。そして

・ 今すぐ出来るレベル(高解像度カメラなど)

・ 中期的に達成できる技術(放射計やSARなど)

・ 基礎から積み上げて長期的に達成できる技術(国産静止気象イメージャーなど)


を実施すべきだろう。当然ながら、過去の技術の延長で小型化できないものや、デジタル化が進んでいるのにアナログで開発しようとするセンサーなど国際技術水準よりも明らかに劣る開発はさせるべきではない。この項目にあてはまるのは、現行のGCOM・GPM・JAXA災害監視衛星となるだろう。また、メーカー提案を鵜呑みするのも問題だ。自身で研究・情報収集し、要求スペックを出せる能力をもった宇宙局職員を発掘・育成する必要がある。そこで徹底的なセンサー戦略を立案・実行できれば良いだろう。もし可能であれば特定企業から便宜供与・接待を受けている職員を発見・排除する内部監査機能もあれば理想だ。

 その一方で、利用ニーズが時期的に間に合わないものについて(気象イメージャーなど)は、長期開発計画を進めた上で短期的凌ぎは“国際交渉による輸入”を実施すべきであり、間違っても「国潰れて、メーカー残る」という“国益見ずして自社利益追求”という流れにさせないようコントロールも必要だろう。

 本来ならば、こういう戦略はJAXAが立てるものだが、実態は「輸入でその場凌ぎ主義」で取り繕い、真面目に開発してこなかったため、宇宙用センサー開発能力が極端に低下している。日本が宇宙基本法による「戦略的な宇宙活動」を謳った以上、国際競争で生き残れるセンサー開発体制の再構築が必要なのだ。

◎具体的にセンサー開発をどう進めればよいか?

 これは、ESAセンサー開発プログラムやNASA動向が参考事例としてよいだろう。ESAは「ESA Harmonization Program」が良い例だ。これはセンサー開発計画であり、Imagers、Spectrometers、Sounders、Radiometersの開発プログラムであり、Imagers開発の場合は光学メカニズム装置と検出器開発及び、焦点面冷却技術の開発を進めている。

 Imagers開発主体はSSTLであり、公表資料を分析する限り、総合的な赤外線センサーを開発して“地球観測”や“宇宙サイエンス分野”へ適用させることを目的としている。この赤外線センサー開発は、それぞれ観測したい赤外線波長域によってセンサーの作り方が異なる。例えば、天文衛星のように天体撮像の場合は測定したい赤外線波長を観測するために、センサー焦点面を極端に冷却して撮像する場合があり、地球観測分野でも測定したい赤外波長域によって光学センサーの仕様や作り方が異なる。この様々な要求を満たすために世界中にある“CCDディテクター(検出器)”の性能情報と運用温度レンジを分析、焦点面冷却技術も「必要な冷却レベル」別に“Heなどによる吸着冷却法”、“冷却タンク方式”、“スターリングサイクル(可逆サイクル)”、“ラジエターレベルによる冷却”などをリスト化した上で、ミッション目的へ応じたセンサー開発をさせている。目的ごとにいちいち情報収集して設計していたら時間がかかるため、最低限必要なガイドラインを作り上げて、ニーズ発生時に応じてセンサーを可能な限り短期で作れる、「自由度を失わない即応センサー開発能力」を構築している。


赤外線(IR)検出器一覧と性能(SSTL)       温度別冷却装置の一覧とその消費電力(SSTL)

 これは実にすばらしい発想である。このような基本情報があれば、メーカーの一方的な営業で売りつけられるという事態が避けられ、宇宙科学や環境気象観測など、ミッション目的へ応じたセンサーを適時開発できる戦略なのだ。おそらく、赤外線センサーはISAS理学研究者やディテクター研究者及び非宇宙企業の能力に頼ることになるかもしれない。今後、宇宙局設立において少数精鋭のセンサー戦略部を設立し、上記の赤外線センサーに限らず、大気汚染や火山灰監視などに使えるライダーや、合成開口レーダやサウンダーなど、真に日本が宇宙先進国として復帰できる新たなセンサー建て直し戦略が必要だろう。

◎センサー実証体制も重要(航空機とRNSLVの組合)

 そしてセンサー実証体制も重要だ。これはNASAラングレー宇宙センターの動向が日本では参考になる。NASAでは開発したライダーを小型航空機へ搭載して実証実験をしている。過去の紙面で述べたように、ライダーとは観測サイド(宇宙)からレーザー光を発射し、その反射を光学カメラで撮像することで大気中に含まれる“塵”を観測できるため、大気汚染物質の特定や濃度など、従来の光学センサーよりも精密に大気観測が出来る反面、同時に広域観測ができない特徴があり、サウンダーセンサー等と組み合わせると、より精密な大気観測が出来るとされている。すでに米仏共同衛星群(A-train)のCalipsoや、NASA科学衛星IceSATに搭載されている。

 NASAでは、さらに次世代のライダー開発へ着手しており、まず航空機実験による実証・知見を得た後に、実際に衛星搭載して打上げている。この開発実証体制は今後、日本でも参考になるだろう。日本ではJAXA調布に同タイプと言えるドルニエがあり、実験機として有効活用できる体制は整っている。現在は航空機の自動操縦技術の習得に利用されている一方で東京―種子島間の“要人輸送”にも使われてもいる。稼働率は高くないことから、センサー実証飛行で使う枠は十分あり、日本でもセンサー実証機として実験目的に応じて航空機やRNSLV(Research Nano Science Launch Vehicle/固体ロケット)の組み合わせで基礎技術から実用段階技術まで育成する経済的な開発体制が理想であろう。


  NASAのライダー開発(NASA)        センサーを航空機にて実験(NASA)

◎センサーや衛星バスの小型化を支えるMEMS部品育成戦略

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重さ11gのMEMS太陽センサ(JPL)     重さ150gのMEMSジャイロ(JPL)


マイクロマシン技術育成をするDARPA(DARPA)                       宇宙を含む多くのMEMSを育成(DARPA)

◎衛星技術育成戦略が遅れる日本

 以上、センサー開発戦略を進めながら、部品産業育成はJPLが基礎研究で開発したり、DARPAによる民間企業育成により、宇宙に限らず総合的なMEMS部品が育成され、それが宇宙産業へと採用されている。その成功例がTACSAT-2だった。TACSAT-2は小型高解像度光学衛星、即応型衛星システムだけに目が行ってしまうが、そのミッションを支える部品はMEMSを使った実装技術の塊だったのである。

 だが日本は、既存メーカーによる基幹輸入、在庫部品処分、在来技術の延長で衛星作りをしているのが現状で、センサー開発能力や戦略、部品技術育成、実装技術育成が全く行われていない。試しにJAXA主導のμ-Lab SatやSDS小型衛星と、同等重量のフランスMYRIADE性能と比較をすれば一目瞭然だろう。あえてここでは比較表を出さないが、予算だけ使って技術成果が乏しいのは、新規技術開発と称しながら旧式概念で進めているため、その概念が全体の足を引っ張り、最終的には全体性能が劣るのである。

 さらに「衛星作り(バス開発)」に目が行き過ぎたため、「どこから着手すべきか?(部品育成など)」が分からず、「ミッションもやらない(やらせない)」ため、作っても何ら魅力のない衛星が出来上がる。そしてそれを東大阪へ技術移転されて作られた「まいど衛星」も商業レベルではなく、教育衛星レベルとなってしまうのである。さらにGOSAT(いぶき)も悪い事例とも言えるだろう。基幹センサーそのものが輸入品であることは言うまでもないが、在来技術の延長で作った衛星は、皮肉にも同時期打上・同ミッション目的のOCOと比較して重量4倍(410kg vs 1750kg)で作られ、ロケットも大型H-2A(OCOは固体TAURUS-XL利用)のため、ミッションコストが3倍以上と、アメリカよりも予算のない日本が世界から笑われる恥ずかしいミッションコストで実施している。不景気で国民生活が苦しい中、贅沢な国家予算を使って中身は乏しい衛星が打上げられているのだ。この事実がある中、今度のH-2A打上でJAXAはどういう成果を記者説明するのだろうか?


CO2観測衛星OCO(左)に対し、重量4倍、費用3倍で打上るGOSAT/いぶき(右)
(出典:OSC、常陽新聞新社)

◎前途多難の静止衛星商業受注

 先日、三菱電機がシンガポール企業より静止衛星ST-2を受注したという報道が駆け抜けた。国外企業から主契約者として商業受注をした初事例という報道で、ETS-8やMTSAT-2という官需で培われた技術が商業販売できたという報道で、お祭りムードだった。「日本の開発成果が商業化を達成」という嬉しいニュースと言える。しかし、現実は厳しい。中国は商業静止市場へ参入済み(軌道上故障したが)、インドもEADSと組むことで2006年に商用静止通信衛星を受注、1基(W2M)はすでに打上げられた。つまり日本は開発コスト(1500億円)と期間(約10年)をかけてETS-8(DS-2000)を開発したものの、中国・インドよりも商業受注実績では遅れていたのである。さらに米国や欧州の知人からもたらされた情報によれば、手離しで喜べる内容ではないことが判明した。

 その内容は、結論からいえば、“在庫品の叩き売りによるダンピング販売”によって1500億円以上の国家予算をかけて開発した衛星技術(ETS-8)が、「重要部品は中身を変更」した上で「商売上手な中国商人」に買われたということだ。 

 まず、欧米のメーカーが見積るには、衛星コストは約160億円が妥当な線であり、三菱電機は120億円程度で契約したとのことだ。事実上の利益が見込めない商談でもある。現地からの情報では、当初は3機で250億円の商談も提案していたのとのことで、在庫処分価格であるのは予測がつく。しかも独自に市場開拓したのではなく、発注者要求の2010年末〜2011年初頭打上までに製造枠確保ができないThales Alenia Spaceの紹介で入札したとのことだ。そして入札競合企業は三菱電機のほかにロシアのクルニチェフ、アメリカ勢のSpace System LoralとBoeing satellite SYSTEMが参加したが、クルニチェフは運が悪く過去打上げた静止衛星が通信途絶したニュースで落選、アメリカ勢は政権移行時による輸出許可申請に時間がかかった上に別の台湾大型静止衛星の商談があったため、入札を降りたという「幸運」が重なって日本勢が受注できたとのことだ。

 さらに、商談を紹介したThales Alenia Spaceは通信システムを三菱電機へ在庫処分したい思惑があったようだ。もともと三菱電機が商業受注したスーパーバードや気象衛星MTSAT-2の通信ペイロードはThales Alenia Spaceのそれを国際標準モジュールとして採用している。

 さらにロケット利用でも前途多難だ。射場までの輸送費は契約者持ちということであり、ロケットも競争入札で実施されるそうだ。ロケット候補としては、プロトン・デルタU・アリアンX・長征・H-2Aが入札予定とされ、現在ではプロトンと引退間近のDELTA-IIが約50億円程度で入札するだろうという情報だ。そうなると、インターフェースは実績のあるH-2A(ETS-8、MTSAT-2)にもAriane-V(スーパーバード)にもならない場合、メーカーは新たな衛星インターフェース開発に数億円程度の自腹出資も見込まれる。

 この海外からもたらされた情報を見れば、日本の問題は明らかだろう。製造保管(在庫)を叩き売りした上で「日本の宇宙産業が成長している」と解釈するのは都合が良過ぎである。むしろ「官需で開発した在庫品を商業市場へ価格不適で放出すれば、市場の秩序を日本が乱す」ことになってしまう。事実、海外からは「今回はいいとして、今後もこのようなことを続ければ、ダインピング行為で日本がいずれWTOへ提訴されるかもしれない」という意見も聞かれる。1500億円もかけて開発した衛星(ETS-8)が“JAXA仕様を取外し(国際標準モジュール組込)”して“バーゲンセール”されるのではなく、正当な国際市場で競争入札できる宇宙産業育成政策を実施しなければ、メーカーが育たない上に国際的非難も浴びる結果となる。ここでもJAXA技術開発戦略の失敗がメーカー国際競争力低下を招いている。

◎日本宇宙技術の独創性・国際性(市場)の対応が先

 民間がロケットや衛星を開発している中、「子供達の夢」で有人開発を推進する主張は日本として恥ずかしい。何処の世界を見ても政策的に「夢」で有人開発を実行している国はない。ましてや金融情勢の悪化による景気後退で失業者が溢れるこの情勢に、国家公務員より高給与のJAXA職員や外郭組織が税金を世界へばら撒いて産地偽装型の有人開発する行為は明らかに愚策だ。それよりも、「事実を認めて建て直す対応が先」だろう。

 具体的にどうするか?過去の誌面から見れば、欧米は在来宇宙技術に変わるものとして

・ 衛星は小型化(もはや世界常識)

・ 軌道は試験・実用段階含めて周回軌道利用で基盤強化

・ 宇宙システムは低コスト・適正費用・短期納期が目標


が主流となっているのは明らかだ。過去の宇宙開発プロセスが大きく変化し、衛星もロケットもダウンサイズで高性能化が進んでいる。

 一方で大型静止衛星開発も進んでいる。アメリカでは米国空軍中心に実施され、欧州でもアルファバスをESAが開発している。だが将来展望は厳しい。まず既存の静止衛星が予想より長寿命化しており、基数としては需要が減っている。無論、無人航空機(UAV)技術の発展により民間自動フライトなど、今後のモバイル通信需要拡大は見込まれているが、周回通信衛星の拡大も将来展望として見えるため、メーカーは供給過多な情勢だ。

 このためアルファバス開発は、欧州大手のEADS AstriumとThales Alenia Spaceが一緒になって開発するという“需要減”を見込んだ開発シフトとなっている。この情勢下でダンピング販売・基幹輸入で商業受注した日本の情勢を見れば、ETS-8のような技術試験衛星開発プログラムを新たに実施しても費用対効果は見込めない可能性が高い。静止衛星技術の必要性は否定しないが、この分野は欧米レベル(大型静止)を追っても意義が低く、大型に行かずに“あえて中型静止で止める戦略”で日本は十分だと思われる。むしろ機能分散などの独創性を目指すのが良いだろう。


静止スロットに機能分散衛星を配置(AIAA)

 いや、むしろ大型衛星開発は中止させるべきだ。世界は小型高性能を目指している。この小型技術が大型衛星へインストールした瞬間、大型しか出来ない企業は市場淘汰される。実は、ロッキードマーチン社やボーイング社も同じ危機感を抱いているようだ。Orbital Science社、Microsat Systems社、General Dynamics社、SpaceDEV社、SPACEX社等の登場で、衛星もロケットもマーケット競争力が厳しくなる未来を鑑みて、大手は小型宇宙システムや小型ランチャーへ注目、開発着手している。さらには即応型宇宙技術と組み合わせて、静止衛星という限られたスロットに機能分散衛星を配置して、大型衛星故障のリスクを低減するコンセンプトも海外で検討されている。「大型じゃないと儲からない」という理由で自ら自滅の道を歩んで10年後に消滅するのか、生き残るためにチェンジするのかメーカーを天秤にかけさせるような政策も面白いかもしれない。

 宇宙産業を衰退させないため、今後は宇宙局が中心となって「将来の種」を育てるために、徹底的なスマート小型宇宙システム開発へシフトすべきだろう。「小さく見せて大きく化ける戦略」が必要だ。よって経済的な宇宙活動を展開するため

・ 小型部品の育成(宇宙企業・非宇宙企業問わず)

・ センサー戦略体制の構築(基盤技術育成の体制作り)

・ 実装技術の確立(小型インテグレーションの確立)

・ センサーや部品の試験体制の構築(RNSLV、ドルニエ)

・ 国際動向を分析してコンセプトを研究し続ける先端研究

・ 液体エンジンは基盤技術から再生し直し(ソフトも含め)


を実施して

・ 第三の衛星企業育成(大手人材配置転換+新規人材で構成)

・ モジュールランチャー体制(RNSLV・空中・地上との組合せ)


という、「書類作りで実施したフリ(JAXA)」をするのでもなく、「産学官連携のように予算ばら撒きで理念・基盤戦略無し」でもない、真面目な小型宇宙産業育成政策が必要だ。その目指すビジョンは

国際非常識のJAXAミッションコストを脱して「国際基準のミッションコストで宇宙活動を展開する」

が良いだろう。経済的でスマートな宇宙システムを開発することが最優先事項であり、それを怠れば衛星もロケットも有人もYS-11や戦艦大和と同じ道を歩むことになる。個人として言えば、有人開発は魅力あるテーマだが、「JAXAやメーカーの実績や真実」を見れば「実施は不可能、その前にやることをやれ」という結論となっている。どうしてもやりたいならば、民間で資金を調達して実施すべきだろう。その自由度は宇宙活動法で制定すればよい。日本は“崩壊した宇宙技術体制”を建て直し、“産地偽装というライセンス体質”を脱して国際基準レベルへ行くのが先である。


◎空中発射ロケットが未来ランチャーのカギを握る(低コストで未来技術育成)

 報道では、経済産業省が空中発射ロケット開発に着手するそうだ。コスト削減宇宙開発(衛星・打上システム・管制)の始まりである。しかもJAXA主導ではなく、民間主体によるランチャー開発の模様だ。無論、優秀なISAS職員は呼ばれて一緒に開発するのだろうが、ランチャー開発はJAXA主導ではない時代とするのが良いだろう。それはJAXA自身が証明している。エンジンが非力で高コストのH-2Aシリーズを主力ロケット(基幹ロケット)として維持するためが故に、GXロケットは大型なのに中型化、M-Vは中止、次期固体も小型へ押しやられている。玉突き事故のようにH-2A、H-2Bという国際コンセプトの外れロケットの存在が未来ランチャー開発の足かせとなっている。

 また研究開発のためにランチャーを作る時代でもない。作られるロケットは「国際市場参入」することが見込めるのが当然であろう。恐らく、空中発射ロケットは国内技術からみれば固体ロケット技術が妥当だが、国際情勢をみながら固体モジュールロケットを目指した上に、国内に留まらずに国際的にも出られる戦略が良いだろう。

 空中発射ロケットは将来ランチャー研究も兼ねている。過去の誌面(新世代・将来宇宙システム展開/2008年2月号)で述べたように、空中発射ロケット技術は再使用ロケット技術開発の一端を担う。日本は液体エンジンがダメだが、システム開発や知見獲得実験を固体空中発射ロケットで実験する価値はあり、小型衛星打上に加えて「低コストの未来技術修得手段(再使用ロケット技術)」として有効だろう。贅沢にコストをかけずに未来ランチャーを地道に積上げるスキームがあれば良く、ある程度の知見が得られた時点でGXの1段目を使って空中発射・フライバックの実験を日米共同で実施するのも国際的インパクトがあって面白いだろう。

 その一方で、空中発射ロケットをミサイルとしてネガティブに見ることも否定できない。中国は爆撃機搭載のコンセプトを発表、韓国もF-15Jよりも高性能のF-15Kで実施したいと提案書を提出しているそうだ。よって日本一国で開発するのではなく、欧米の宇宙先進国同士の企業で実施して「悪の道」に進まないのであれば問題にはならないだろう。


空中発射ロケット(Orbital)

◎まとめ

 早期警戒衛星は軍民両用という側面を有しており、ミサイル発射監視目的でも、環境気象利用や自然災害発見にも利用されている。また、その技術開発は、「実績のある国は小型化(NFIRE)へ」、「技術のない国は小型バス(MYRIADE)でまず実験」という動向が見られ、センサー、識別ソフト、警報システムがない国が「いきなり大型静止衛星で開発」というのは明らかに愚策であることが判明した。

 加えて、小型衛星の高性能化が止まらない。低軌道衛星同士が光通信でデータをやり取りしている動向(NFIRE、TERRASAR-X)が見られ、15年前よりも「打上コストが下がり、性能は向上」した周回衛星の登場で、静止衛星のマーケットがさらなる変化に見舞われる可能性は否定できない情勢となっている。

 だが日本は「センサー開発力」、「観測・識別ソフト開発力」、「低コストの試験・実証体制」、「ナノ・マイクロ開発戦略」、「基礎研究体制」が枯渇もしくは衰退している。

 今後は、日本宇宙技術の独創性・国際性をめざして、宇宙局を中心に新たな宇宙体制を至急作らねば、日本が「旧式宇宙技術の売却市場」となるか、「国際宇宙社会から弾き出される」であろう。小型宇宙システム、短期納品(製造・開発・打上)、国際市場(米・欧州・中国・日本・インド)を意識して日本再生を目指してJAXA組織抜本改革を断行し、未来の後輩達のために“正しき道”を作ることが現行世代の我々に課された課題と言える。事実を認めて改心するか、産地偽装で継続するのか、宇宙業界で働く人々の倫理観が今、問われている。


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