スマート・サテライト戦略(科学・産業衛星の新世代対応戦略)
  (エアワールド2006年3月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2006年3月号」をお買い求めください

 本稿では、世界とまともに渡り合えるような日本の宇宙産業基盤を整えるべく、科学衛星や産業衛星の新世紀対応戦略を考察したい。

◎科学衛星の発展とマイクロスペース・サイエンス

 日本の科学衛星はアジアナンバーワンであるということは、一般の人々にはあまり知られていない。それは科学衛星が「気象衛星のように国民生活へ直接影響を及ぼし難い」という特徴があるためだ。しかし、科学衛星は誰も世界でやったことがないミッションを目標として製作・打上げられるため、ある意味その国の潜在的技術力を表している背景もある。その良い例が小惑星探査機「はやぶさ」だろう。ここ最近のニュースでは小惑星「イトカワ」へ149カ国、88万人の名前を入れたターゲットマーカーを小惑星へ送り、小惑星からの離陸にも世界初で成功、そしてサンプル採取の可能性もあり、重症を追いながらもチャレンジし続ける研究者の姿勢には心を打たれる。また、海外の例で言えばアメリカ、NASAジェット推進研究所(JPL)の火星探査ローバー「スピリット、オポチュニティー」や、ヨーロッパの火星探査機「マーズエキスプレス」、X線天文衛星「ゼウス」がそれにあたる。したがって、宇宙予算を大々的に投じているわけではないが、これら科学衛星が先端的衛星技術研究であることは否定できないだろう。このチャレンジング・スピリットを貫く科学者やエンジニアがもっと活躍できる環境が整えばと切に願う。


はやぶさ(JAXA)    

 
火星探査ローバー(NASA-JPL)                 X線天文衛星XEUS(ESA)

 さて日本の科学衛星はいったいどういう歴史を残してきたのかと言えば、L(ラムダ)とM(ミュー)ロケット開発と共に発展してきたと言える。それは、L-4Sによって打上げられた“おおすみ”から始まる。“おおすみ“は、最終段のロケットモーターと搭載機器(ビーコン発信器)が一緒に載せられており、全重量は23.8kgである。次に打上げられた衛星は”たんせい1号“は63kgの衛星であり「温度、電源電圧、電流、姿勢、スピン」の衛星基本技術を取得している。そしてその次は66kgの”しんせい“が打上げられ、「電離層、宇宙線、短波帯太陽電波放射の観測」というミッションが実施されている。さらに次の衛星で75kgの”でんぱ“は、地球の電離層から磁気圏にわたる領域の自然現象の観測が行われ、衛星基本技術取得からいよいよ衛星ミッションが行われていったのである。

 このように、段階的に衛星基本技術の獲得と宇宙科学ミッションが実施されていた。ではなぜ、小型であったか?と言えば別に小型衛星を作りたかったのではなく、Mロケットの打上げ性能に大きく依存していたからである。しかし、この限られた打ち上げ能力によって、衛星製造側は限られた重量で結果を出さなければならず、そのために知恵を絞り、結果を出そうとしていたのが背景のようで、その手弁当文化と貧性文化、そしてなによりも「モチベーションが高い事」が日本の科学衛星発展の根源だと考えている。


 おおすみ(出典:JAXA-ISAS)    たんせい1号(出典:JAXA-ISAS)  CUBESAT (出典:東京大学) 

◎ロケットの性能向上が逆に発展の妨げにも

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◎宇宙の利用拡大と産業振興

 したがって、過去のすばらしき実績事例と先月号の誌面で述べた海外宇宙先進国の小型衛星戦略に学んで、日本も学術・科学衛星における活動をもっと展開してはどうだろうか?恐らく、今後は宇宙科学研究本部に加えて、大学や高校の衛星作りが活発化するだろう。現に東京大学はキューブサットを2基打上げ、東京工業大学もキューブサットを1基打上げている。さらに彼らは次々と新しいミッションを創出し、自分達で開発資金の確保と製造をはじめており非常に元気がある。また、大学・高専学生による衛星などの実践的な宇宙工学活動を支援するNPO組織UNISECも結成され、次第に活発化しつつある。

 それと同時に一部大手企業である三菱重工も小型衛星開発へ着手している。実のところ先日打上げられた宇宙科学研究本部のINDEX“れいめい”開発はロケットメーカーである三菱重工が主契約者として製造した衛星であり、さらに三菱重工ではNICT(独立行政法人 情報通信研究機構)のSmartsat開発へも参加している。つまり、大手ロケットメーカーである三菱重工が小型衛星開発へも着手しているのだ。

   
           SMARTSAT(出典:NICT)      SmartSat-1a STM熱試験(出典:NICT)

 ここからは筆者の勝手な憶測だが、もしかしたら三菱重工はSmartsatを足がかりに将来を見越して自社でメンテナンスをしているF-15を使った小型衛星ABSLシステム(Aircraft Based Satellite Launch)を考えているのではないだろうか?現にF-15を使った空中発射ロケットは、NASA-JPLと米空軍が共同開発研究した論文が発表され、イスラエルも開発を進めている。

 
F-15 ABSLシステム(出典:NASA-JPL&AFRL)

 そこで目先ではなく長期的視野に立ったH-2A採算化と宇宙市場拡大と宇宙利用者増加を目的とした、小型衛星の産業振興策を実施してはどうだろうか?例えば、今後打上げられるH-2AロケットやM-Vロケットの余剰能力を利用して打上げたり、小型衛星専用打上げロケットAL-520などを利用したりして打上げるのだ。これは、将来的に宇宙産業の需要を増加させる投資として考え、宇宙産業参入と大型ロケット需要も活性化させることを目指しており、長期的視野へ立てば国益に適っている。では、その事例案と方策を考えてみよう。

  


衛星コンステレーション(出典:Rapid eye&イリジウム)

◎小型衛星打上げ手段の確立

 今後活発化が予想される小型衛星においてまず実施しなければならないことは打上げ手段の確立である。では、海外ではどのような事をしているのか論文を調べて見ると、下図のようなアダプターが研究されている。これは、アメリカのEELV(使い捨てロケット)に取り付けるアダプターだ。これはメインペイロードである大型衛星とロケットを結合するアダプター(金属リング)に小型衛星を搭載できるスペースをスタンバイする発想である。これはロケットと衛星の結合装置とその周辺の空きスペースを小型衛星搭載スペースとして確保、米空軍はロケット打上げ時に大学衛星などへスペースを提供するという発想なのだ。この名称はESPA(EELV Secondary Payload Adapter:使い捨てロケット副衛星アダプター)と言われている。さらにSWALES社では、衛星とロケットの結合部をESPAのような小型衛星搭載スペースとして使用する一方で、なんとそのまま宇宙ミッションにしてしまおうという発想だ。これは“結合装置自身が衛星”となり、カメラ撮影や通信実験などのミッションが出来るようになっている。このように有効活用の極みのような考え方は興味深い。


  
        ESPAアダプター(出典:AFRL)      アダプターミッション(出典:SWALES)

 そしてさらに大胆な発想まで出てきた。それは、欧州の主力ロケットアリアン5のペイロード・アダプターを使った軌道上修理サービスだ。これはアリアン5ロケットと衛星を結合装置(リング)が“衛星”となり、ロケットから切離された後は電気推進装置を使って静止軌道へと移動し、あらかじめ契約してある衛星へランデブー・ドッキングして燃料補給などを行うのだ。



ConeXpress(出典:Orbital Recovery)


 以上のように、宇宙機関として小型衛星振興策をするならば、まずは上記のようなH-2AやM-Vロケットに搭載スペースを用意したり、軌道上修理技術を低コストで実証したりするのはどうだろうか?M-Vは前回の打上げで小型衛星を切離す装置の実験をしたことが公表されており、将来的には確立されそうだ。H-2Aにもさらに上図の発想があればすばらしいだろう。

 そしてこれらロケット余剰スペースを有効活用する一方で、AL-520などによるABSL(Aircraft Based Satellite Launch)システムも今後必要となる。なぜなら大型ロケットの余剰スペースを使うことはいいが、打上げ手段が停滞した場合は自動的に小型衛星も延期を余儀なくされるからだ。よって国際競争力のあるABSLシステム構築を「今あるロケットの派生型」で実現できればと考えている。さらのABSLシステムの利点は過去の誌面で述べたように

・ 空港さえあればどこからでも打上げが可能

・ 大規模な施設が必要ないため、比較的低コストで事業化が可能

・ 漁業関係者へ迷惑をかけることなく打ち上げが可能

・ 事前通知すれば、好きな時にいつでも打上げられる


という今までの地上打上げ方式には見られない、新たなアプローチが可能となる。また、カナダでは小型衛星開発を進めているが、その打上げ手段としてC-130輸送機を使い、アメリカのオービタルサイエンス社とイスラエルのIAI社と手を組み、低コストのABSL(Aircraft Based Satellite Launch)システム構築を進めており、カナダの“国家航空宇宙戦略ビジョン2005-2025”でもそれが掲げられている。つまりカナダも独自の打上げ手段を構築しようとしているのだ。

 
               45kgのカナダ小型衛星         C-130(出典:カールトン大学)              シャビット(出典:IAI)

 よってこのようなABSLシステムが確立されれば、続に言う「出張打上げ」が可能となり、日本国内で考えれば全国の空港へ地方自治体・企業や地元大学衛の要請に応じて打上げを実施することができ、一種のイベント的打上げが可能となる。また、出張打上げならば農道空港の有効利用にも繋がる。これにより、地域の大学や企業が作った小型衛星を地元の空港から離陸して打上げることができれば、身近な宇宙活動となるだろう。では次に、小型衛星産業振興策事例を考えたい。


農道空港(出典:梅林建設HP)

◎Google MAPの高性能化

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                      Googleマップ(出典:Google)                              浸水したニューオリンズ(出典:デジタルグローブ)

◎国際査察衛星システム

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寧辺の核施設(出典:Google map)

◎高性能小型衛星時代の到来

 以上のように将来的に日本の宇宙技術が世界的に平和貢献できそうなアイデアを述べてみた。まだまだアイデアが思いつくが、それは別途扱うとして、ここでは小型衛星の可能性を考えてみたい。

 筆者は今後、必ずと言っていいほど低軌道衛星の小型・高性能化が進むと考えている。それは、地球観測衛星においてはALOSやENVISATのような超大型地球観測衛星1機を打上げて同時刻に同一情報を複数取得できるメリットは認めるが、小型高機能の衛星を複数打上げたほうが、観測頻度を高めることができ、故障のよる観測中断のリスクも低くなる一方、衛星製造現場も活況化するため、こちらのほうが超大型主義よりもメリットが高いと考えている。それを表すように海外ではALOS、ENVISATのような衛星を作る兆候は最近見られない。それどころか、地球観測衛星の多くは1t以下となっている。イスラエルが開発した解像度1mの地球観測衛星EROSは350kg、解像度80cmのイコノスは720kg、2008年打上げ予定のフランス高解像度地球観測衛星プレイアデスは1t程度となっている。


             EROS(IAI)                                                プレイアデス(CNES)

  したがって筆者は温室効果ガス観測技術衛星GOSATはALOSやADEOSのような衛星と比較して小型化はしているものの、海外動向から比較してまだまだ大型であると考えている。したがって、このような発想に筆者は疑問を感じると同時に海外の地球観測衛星の傾向をしっかり分析して小型・高機能化を追求すべきだろう。地球観測衛星の類において「大きいことはいいことだ」という時代はもう終わり、衛星もナノテクの時代に突入している。そして小型高機能であればあるほど、その国の衛星技術能力がより高く評価されるだろうと筆者は考えている。聞くところによれば、アメリカでは電子チップサイズの“原子時計”が開発されていると筆者の知人から聞いた。衛星では通信放送衛星、探査機、地球観測衛星には時計が搭載されているが、この米粒サイズの“原子時計”が宇宙用として普及したら間違いなく衛星の小型高性能化に寄与するだろう。また、カナダトロント大でも衛星の姿勢制御用に超小型の推進装置やリアクションホイールが開発されている。このような機器が開発され、キューブサットなどの小型衛星で宇宙実証できれば衛星バス機器の小型化が実現でき、衛星の小型高機能化へ一歩進むのではないだろうか?


      チップ型原子時計(出典:NIST)    15cm四方の推進装置(トロント大) 


リアクションホイール(トロント大)

 また衛星ではないが、宇宙基地内の内部を探査するロボットの研究も行われている。それは「SPHERES」だ。これは自律したロボットを目指して開発され、超音波/赤外線通信装置を搭載し、直径25cm、重量3kgであり、DARPAとMITが共同で開発した。この技術は将来的に宇宙ステーションのクルーの手伝いをするロボットとして活躍するかもしれない。またNASAでも“Fling EyeBALL”と呼ばれる監視ロボットを開発している。これがあれば、与圧部・非与圧部を問わず無重力空間における無人検査ができ、宇宙ステーションや衛星本体の損傷状況などチェックできるであろう。

  
3kgのロボ「SPHERES」(AIAA)  Fling EyeBALL(出典:NASA)

 その一方、日本でも2005年12月に光衛星間通信実験衛星“きらり”がESAのアルテミス衛星との間で高速光通信実験に成功している。打上げに時間がかかり過ぎたが、光通信は電波通信と違って大容量通信が可能となる。例えば電波では比較的大容量通信が可能なKaバンドの通信速度が240Mbpsなのに対し、光通信では2400Mbpsと10倍となり、装置も小型・軽量化できる。この光通信装置をより小型化して小型地球観測衛星へ搭載できれば、高性能の地球観測衛星ができるだろう。そしてさらにデータ中継として静止軌道にサーバー衛星を設置し、そこを介して地球へ送信すれば、小型高機能地球観測システムが構築できる。

◎静止軌道衛星は大型化、低軌道衛星は小型化か?

 以上から、筆者は用途に応じて衛星が小型高機能化、大型高機能化が進むと考えている。例えば静止衛星は大型高機能化がより進むだろう。静止軌道の衛星は、軌道位置が定められており限られている。そしてこの軌道位置は有限・貴重なため、静止衛星運用者は大容量通信が可能な衛星を配置する。つまり衛星に中継器を多く搭載し、通信放送ビームも制御できて大容量通信が出来る大型通信放送衛星が今後作られるということだ。実際、欧州では、さらなる商用大型衛星バスであるアルファ・バスの開発にGOがかかった一方、アメリカでも大容量通信放送衛星の研究が進んでいる。

 その一方、低軌道の地球観測衛星は、過去の誌面で述べたように宇宙先進国が地球観測衛星の短期製造・短期寿命で高機能化の追求が始まっている。しかも既存の発想を打ち破り、デジカメのメモリーカードを使い、市販のソフトウェアや電子機器を使用する発想まで出てきた。またキューブサットは民生品ながらも1年稼動することが既に実証済みである。これは大手衛星メーカーにとっては悪夢かもしれない。なぜなら今までの宇宙はコスト高でも許されていた側面がある。しかし低軌道衛星は空中発射ロケットが現実味を増してきたため、宇宙へのアクセス速度が上がり、価格も下落するため、それに応じて衛星も長い時間をかけて製造して長寿命化する必要がなくなってきた。また、小型マイクロ技術の発達により、小型でも過去の衛星と同等かそれ以上の性能が出せるようになり、小型高機能化のステップが着実に進んでいる。つまり衛星やロケットの「考え方」や「使い方」や「作り方」が時を重ねるにつれて変わってきているのだろう。よって今後の低軌道衛星には民生品がかなり使われるようになり、MEMS(Micro Electro Mechanical System:マイクロマシン)技術によって小型高機能化が進むと筆者は考えている。よってこれらの動向を考慮して日本も宇宙技術を発展させる方策を考える必要が出てきているのだ。

◎小型衛星開発の振興策案

以上から、宇宙という枠組みにとらわれない新たな技術を追求しなけければならない時代がやってきていると筆者は考えている。したがって日本も、これらの基本技術を横目に見ながら切磋琢磨する環境が必要でNASAのように月・火星という“夢”だけに捕われない新たな戦略的発想が必要だ。よって国際競争力が持てる日本の宇宙企業を育てるため、2つの産業振興策を提案したい。

[振興策1:コンポーネント実証]

まずは宇宙部品の早期実証だ。宇宙部品で最も重要なのは開発スピードと早期実証である。どんなに「うちの部品は優秀だ!!」と叫んでも宇宙空間で動かなければ誰も買わない。それに加えて価格が高ければ最悪だ。実は日本の衛星部品は昨今の打上げ事情が示すように宇宙実証経験が乏しく一部で価格高なのが現状だ。実績が無く価格高ならば誰も買わないのは当然だ。したがって、競争力のある宇宙コンポーネントを育てるため、太陽電池、マイクロリアクションホイール、バッテリー、小型光通信装置、小型スラスター、小型高解像度CCDカメラなど、衛星バス部品や先端技術を10、100、200kg級の小型衛星へ搭載して早急に打上げ実証するのだ。ここではスピード勝負なのでABSLシステムが望ましい。こうしなければ衛星メーカーの部品は育たないだろう。また、悲しいが技術のない企業はいずれ淘汰される環境にしなければ宇宙予算減少の煽りでいずれ宇宙事業として身動きが取れなくなる。

[振興策2:衛星モジュール育成振興策]

次にコンポーネント育成の一方で、ミッションとして産業育成させる方法が考えられる。その戦略的研究として、重量200kg以下で民生品を多用した設計寿命1年、解像度1mの小型衛星を開発してはどうだろうか?この開発とコンポーネント実証を組合わせて「モジュール組み込み型」の衛星を実現し、超小型・小型衛星の量産基板体制を作る。この体制が出来れば、宇宙以外からの企業から「うちのCCDカメラ作って上げて欲しいのだけどできる?」など、宇宙以外からの新規参入体制を作って提案型衛星開発を行うのだ。価格が下がれば利用者は必ず現れるはずだ。

以上のように上記2項目の宇宙産業振興策は“分けて行う方法”と“統合して同時に行う方法”とがあると考えている。

◎低軌道衛星の低コスト化の予兆

この振興策は、今後の衛星の価格破壊が発生する可能性から考えている。その例がアメリカの空軍研究所(AFRL)が進めるTACSATプログラムだ。


Tacsat-2(出典:AIAA論文2005-4001&WEB)

この衛星はモジュール化を目標としており、ミッションに応じて機器を組替えて数日で衛星製造ができる体制を最終目標としている。したがってこのような概念がもし実現すると、革新的衛星の製造概念が生まれることになる。これを見ると、恐らくこれは民間としてやるにはリスクが高いため、空軍がリスクをとって先行し、開発終了後には成果を民間(公共も含む)が摂って全体で享受するという考えがあるのではないだろうか?このような先駆的立場に立って空軍が小型衛星を開発し、メーカーを育てているならば、その戦略は理に適っていると筆者は考えている。

よって日本でも、「革新的技術の構築策」と「衛星のバイク・軽自動車級」を目的としてまず「重量200kg以下で民生品を多用した設計寿命1年、解像度1mの小型衛星」を開発させるのだ。この衛星が低コストで出来れば次にNICT(独立行政法人 情報通信研究機構)と三菱重工などが開発しているsmartsatのような素晴らしい技術(衛星群ネットワーク技術や光通信技術)もプラスしたTACSATのようなモジュール組込衛星を開発、大量構築して「光通信ネットワークを装備した地球観測衛星群化」をする。そして撮像した画像を光通信で地上へ落とすのだ。これは一見困難に思えるが、電波では周波数申請と容量の問題から大容量通信は困難だ。しかし海外では衛星のデータを光通信で地球へ落とす技術が開発されているため、決して不可能ではない。天候不順なら航空機や飛行船が日本上空へ行き、データを受け取る発想もあり得る。もしかしたら日本がこの分野でTOPを狙えるかもしれない。

さらにC-130・C-27J・F-15航空機を用いた低コストのABSLシステムで打上げ構築すれば、地球観測衛星システムの大幅なコストダウンが期待でき、「小型・光大容量通信・コスト・機能・簡素ランチシステム」の革命が起きる可能性だってある。「(静止通信衛星を除く)さらば、大型衛星の時代」がやってくるかもしれないのだ。

また、衛星については審査と書類作りに膨大な時間がかかるとされており、何らかの規制緩和が必要だろう。よって200kg以下の衛星は、爆発しないなどの最低限のルールを設けて自由に打上げられる環境が出来れば理想だろう。

◎宇宙機関の役割は?

 したがって、これらの宇宙活動が開始されれば、宇宙機関の他に宇宙活動できる企業や組織が出てくるため、国家宇宙機関JAXAの役割も変わってくるだろう。現行のJAXAは、緊縮予算の中であれもこれもやらねばならず、全てを網羅できなくなってきている。したがって、民間へ任せられる分野については民間がやり、JAXAはNASAのように国の宇宙機関でしか出来ない月・火星・惑星探査や、AFRLのように民間でやるにはリスクが高すぎる分野をやるという方向へ特化してはどうだろうか?実のところアメリカでは近年に入って何でもかんでも宇宙機関が実施するのではなく、分野によっては民間からサービスを「お買い上げ」する方針を発表している。例えばロケットや宇宙ステーション物資輸送だ。宇宙ステーションへの物資輸送については、NASAが民間からサービスを購入するという方針を掲げている。つまり、宇宙ステーションへの物資輸送における“ロケット”や“貨物”が「国際競争市場化」していることを意味している。現在のところ貨物システムはプログレス、ATV、HTVとなっているが、もっと低価格の物資輸送サービスを提供しようと開発している企業がある。そうなると日本のHTVは国際価格競争にさらされるため、コストダウンが要求される。また欧州のATVは市場を取るため、ロッキードマーチン社が米国での販売代理をしている。つまり日本のHTVを意識して、欧州企業連合とロッキードマーチン社が貨物市場を取るため、先手を打ってきたのだ。現行のHTVが国際価格競争で勝てるのかどうか分からないが、HTVがATVと比較して価格的・戦略的に有利なのか不利なのか見極める必要があるだろう。


        HTV(出典:JAXA)                    ATV(出典:ESA)                       オービタルサイエンス案(出典:ASDL)

 話を戻すが、今後のJAXAは低軌道への打上げ手段と低軌道地球観測衛星は他の機関や民間に任せて、JAXAはH-2Aの能力をフルに生かせる静止軌道と月・火星・惑星探査などのDeep Space(深宇宙)へ特化してはどうだろうか?これは全ての宇宙活動をJAXAが網羅出来なくなってきている現状と、世界動向に対応するために宇宙企業の新規参入を促して活性化させることを目的としている。これはアメリカの例から学んだことであり、NASAはDeep Space(深宇宙)を担当し、NOAAや国防総省は地球近傍を担当している事例からである。筆者は何でもかんでも日本の宇宙開発はJAXAという考え方ではなく、新時代に対応した防災衛星や環境観測衛星システムは内閣府防災センターや環境庁が主導し、衛星や航空機など様々なインフラも組合わせて“ナショナル・システム”として構築しなければならない時期にきていると考えている。宇宙は開発ではなくツール(手段)として考えることも重要なのだ。よって効率的で理に適った組織体制を実現するため、JAXAはDeep Space Exploration(深宇宙探査)担当とし、地球観測や防災システムは他の機関と民間で構築すればよいと考えられる。JAXAの英語名はJapan Aerospace Exploration Agencyなのだから、、、、。

◎終わりに

約1年半にわたり、サテライト危機管理として気象衛星問題をはじめ、さまざまな海外動向を誌面にて紹介してきた。心ある方々から様々な情報をいただいた一方、ボランティアにもかかわらず誌面を割いていただき感謝に絶えない。そして、エアワールド編集部にも様々な配慮に感謝を申し上げつつ「サテライト危機管理」は1つの区切りとして終了としたい。次回から次世代を見据えた新たな視点・論点で宇宙を考えたいと思う。


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