革新宇宙技術への転換戦略(スモール・スマートサテライト国際開発競争) 
   (エアワールド2009年7月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2009年7月号」をお買い求めください

 本稿では日々進む海外衛星開発動向を紹介、経済的宇宙時代を目指すための宇宙先進国は今何をしているのかを分析、日本の問題点を考察したい。

◎衛星コンセプト転換(低コスト、小型、極小化技術)

 過去の誌面で紹介したように、小型衛星によるミッション達成度が高まっているため、基幹衛星の世代交代が今後、進んでくるのだろう。そうした中で量産、ミッション達成度、多目的利用の観点で国際ベンチマークと評価できるのは、フランスのMYRIADEとPROTEUSバスであるのは明らかである。MYRIADEは150kg程度、PROTEUSは500kg程度の重量でフランス宇宙活動であるサイエンス(地球、太陽、天文)、光学地球観測、環境地球観測、軍事、測位衛星実証と様々なミッションを遂行している。そのMYRIADEとPROTEUSのミッション実績と計画を示す。

150kg級MYRIADEによる実績と計画


500kg級PROTEUSによる実績と計画

 これら打上実績と今後の計画を分析すると、約10年間の間に商業含めて17ミッション25基の衛星が製造もしくは製造予定である。うち最もミッション数が多いのはサイエンスであり、次に環境地球観測の順番となっている。衛星数では軍事衛星であるが、これはコンステレーションによるミッション遂行や早期警戒実験を目的としているため、3ミッション10基となっている。


 この標準バスの戦略的背景を聞くと「MYRIADEは80〜90年代のISAS科学衛星を参考にしている。小型ミッションで定期的に衛星を打上げて費用対効果の高い宇宙活動をしている動向から学んだ」としているそうだ。聞いた我々が日本人なのでリップサービスかもしれないが、確かに過去のISASは「予算・人・技術」のバランスが優れ、定期的にロケット打上を行い、様々なサイエンスミッションや工学実験を行っていた。フランスはこの事例を参考にコンスタントにミッション成果を出すために、「基本(バス)には手を付けずに様々なミッションへ対応できる衛星作り」をするのが良いという方針を考え、MYRIADEとPROTEUSという衛星バスを使用する戦略を考えたそうだ。しかし、反発の声は存在する。まだ当時の衛星は“高級品、工芸品”という考えが根深く、「衛星は時間と人手をかけて製造する」というのが国際常識であった上に宇宙は国威発揚で予算度外視が許される時代でもあった。

 だが、アメリカのように予算が潤沢にあり、サイエンス・技術開発・地球観測・軍事ミッションをこなすには、予算も人手も足りない。このため、標準バスという基本に手を付けずにミッション・インテグレーションを実施して短期的に衛星を打上げるコンセプトの必要性に迫られ、その結果として登場したのがMYRIADE、PROTEUSである。他にもLEOSTAR(700kg級)などもあるが、成功したと評価できるのは前者2機種だろう。使用ロケットもAriane-VやDELTA-IIを始めSOYUZや低コストランチャーDneprやRockot、インドのPSLVという安くて良いものを使うというスタンスである。『コスト・納期・ミッションのバランス』

 このように、大型通信衛星は別として小型衛星バスがあれば、様々なサイエンス・技術開発・地球観測・軍事・商業ミッションを経済的に展開できるため、費用対効果が高く、ミッションの短期実現、技術継承、量産が可能となる。[日本には小型量産・マルチミッション衛星バスが存在しない] 


◎アメリカも量産・纏め発注体制に

 フランスの経済的な宇宙活動に対抗して、アメリカでも小型衛星の戦略的育成が進んでいる。結論から言えば「纏め発注」だ。それは、先日紹介した早期警戒衛星NFIRE(早期警戒&光通信ミッション)の大成功を受けて、衛星開発会社のGeneral Dynamics社(旧Spectrum Astro)へ早期警戒衛星・環境観測衛星・周回気象・光通信衛星など16基を注文、打上ロケットは4者で競争させるためにTaurus-XL・FALCON-1・Minotaur・Minoatur-IVに配分して打ち上げ、ロケットのスケジュールが合わなければ、Dneprなどの利用も視野にしているそうだ。このGeneral Dynamics社ではSA-200衛星バスがあるが、この拡張性が非常に優れているそうだ。

 また、纏め発注はGeneral Dynamics社だけではない。詳細はまだ不明だが、アメリカでは劇的な衛星量産計画があるそうだ。そのプロジェクト名は「アンドロメダ計画」とされ、50kg級、150kg級など4種類の重量サイズ別に“1ロッド最大20基”として“最大5ロッドまでの継続生産”を視野にモジュール・ユニット衛星の提案を受け付けているそうだ。つまり、最大400機衛星の計画を立てているということになる。現在では各社からの提案を受け付けており、大手・中堅・ベンチャーなど様々な企業がチームを組み、提案をしているとのことである。つまり、即応型衛星開発という衛星基盤技術を育成しながらその実利用戦略も展開しているのがアメリカである。対する日本は過去のカンブリア技術ベースで“シリーズ化”と叫んでいるのが現状で、中身不十分といえるであろう。[量産・マルチ利用・小型衛星バス競争の確率] 


◎極小宇宙技術の開発競争

 国際競争力ある宇宙ミッションを達成するには、技術的に何が必要か?答えは部品を小型化し、電力消費を低くした極小宇宙技術を育てることに尽きる。まず、50kg級や150kg級の小型衛星となると、当然ながら太陽電池による発電能力には限りがある一方、搭載スペースにも限界がある。例えばMYRIADEのバス重量は100-120kgとされており、これにセンサーや観測機器等のペイロードを搭載すれば最終的に重量が150kg-180kg程度になるとされている。また総発電能力は150Wとされている。この与えられた条件の中で“衛星基幹部であるバス部”と“搭載機器であるミッションペイロード”を稼働させる必要がある。

 現状のMYRIADEは公表資料を分析すると、バス部が必要とする電力は約100Wのためミッション部が使える電力は50W程度とされている。つまりミッションペイロードを作る側は重量50kg以内、消費電力50W以内でスペースは約60 x 60 x 30cm以内で作らなければならないそうだ。無論、電力は放射線等による出力劣化(つまりマージン)を考慮する必要があるだろう。


モジュール型のPROTEUSバス(ESA)                 モジュール型のMYRIADEバス(CNES)

 この与えられた範囲内でサイエンス、光学地球観測、環境地球観測、軍事、測位衛星などのミッションペイロードを作り上げなければならない。現状では、測位衛星やレーダー衛星など、大幅に電力を必要とするものは150kgクラスではなく、500kg級や750kg級で達成されている。今後はこれら衛星も時間をかけて小型化が進んでくるだろう。それを達成するには“近未来で達成できるレベル”、“中期的に達成できるレベル”、“基礎研究から始めて長期的に頑張れば達成できるレベル”と分けて基盤技術育成と長期戦略の策定が必要であり、過去の誌面(2009年1月号)で示したように米国ではNASAが戦略ビジョンを発表している。ここの目指すところは、究極の衛星バス小型化であり、ミッションペイロード搭載範囲を劇的に高めるため、極小化技術(MEMSなど)を育成するとしている。未来の宇宙技術競争へ向けて「やるべきこと」をしっかり押さえているのがアメリカである。いずれ、フランスもMYRIADEとPROTEUSの次世代版戦略を出してくるのだろう。

 またもし、MYRIADEの“性能向上戦略”が考えるならば、バス部の徹底的な改良であろう。必要な施策は、高効率の太陽電池を採用して発生電力を向上させ、搭載電池も高エネルギー密度のものを採用、プロセッサー・メモリ・GPSレシーバー・姿勢検出等の電子機器を能力向上させた上に小型・低消費電力化させて発生する熱を抑制、衛星バス部の極小化と低消費電力化させるのが良いと考えられる。そうなるとミッションペイロードへ配分できる電力・スペース・重量が向上するため、物理的に小型化できないミッションペイロードが搭載可能となったり、より性能の高いペイロードが搭載可能となる道筋ができる。 

よって今後、開発されるべき衛星開発の目標は

・ 衛星全体重量に対してペイロード比率の高いほうが良い(標準バスの効率化)

・ 衛星全体電力に対してバス部へ配分される電力を最小にする(低消費電力化)


を目指して衛星バスの極小化・低電力化を進める競争が進むだろう。



◎高性能センサーを開発する各国

 技術進歩は著しいと言える。2005年10月に打上げられたイギリスSSTLのTOPSATは、全体重量130kg(うちバス重量90kg)、白黒2.5m解像度、観測幅25kmという記録を打ち立てた。アメリカでも即応型衛星TACSATシリーズのベンチマークとしてTOPSATをTACSAT-0と位置づけているほどだ。このTOSATのミッションペイロードである高性能光学カメラ“RALCOM”をたった30kgで作ったことで、「高性能の光学望遠鏡を作ると機器重量は重くなる、ゆえに大型衛星となる」という一般常識が崩れた。その先進技術を支えるのは、電子技術の発展によって生まれた小型高性能検出器と、熱変形が殆どせずに軽量なSiC(炭化ケイ素)材料を使用した光学望遠鏡技術である。これに加えて望遠鏡の設計も大きく4つの方式(3枚非球面望遠鏡/TMA、カセグレン型、Korsch型、ニュートン型)から選択して小型高解像度カメラを目指す動向が各国である。ちなみにTOPSATはTMA型、MYRIADE(ALSAT-2)光学カメラはKorsch型、カナダーイギリス共同開発の高解像度カメラRALCAM-4はKorsch型、RapideyeのそれはTMA型を採用している。どうやら欧州側開発中の小型高解像度カメラはKorsch型がトレンドなのかもしれない。SSTL資料によれば、Korsch型望遠鏡は“光を反射する主鏡を小型化”できることで望遠鏡全体を小型化できるメリットがある反面、製造が複雑な上に高精度で鏡板固定する精密技術が必要とされるそうだ。


高性能検出器と軽量望遠鏡(SSTL)                    光学望遠鏡の設計方式による比較(SSTL)

 これら高解像度カメラRALCAMの先を行くべくSSTLが独自に開発する一方、Rutherford Appleton Laboratory(RAL)でも開発が進められている。

  また、RALは個別にカナダMDA社と手を組み、RALCAM-4を開発している。その名の通りRALCAMカメラ(TOPSAT)の派生型であり、解像度は倍の1.2mをターゲットに開発中で数年以内に打上予定としている。また同チームでは0.5m解像度を目指したRALCAM-5カメラの基礎開発にも着手し、小型軽量の高解像度カメラ開発を進めて衛星搭載を目標に開発を進めている。

  ここで判明している事は、商業衛星と軍事偵察衛星の技術差は縮小していることだろう。宇宙基本計画では「商業衛星を凌駕する情報収集衛星を構築」としているが、国際動向認識不足なのかもしれない。問題なのは、日本製情報収集衛星は費用対効果が悪いことではないか?

 フランスもThales Alenia Space社がMYRIADE搭載用にTOPSATカメラ性能(解像度2.5m)と同等のMYRIADE搭載カメラ(NAOMI instrument)をALSAT-2用に開発、アルジェリアへ2機商業販売した(1機が2009年打上予定)。さらにThales Alenia Space社は2008年10月にこのカメラをベースにさらに性能向上したカメラをチリ国防省向け偵察衛星SSOTとして商業販売する予定で、その解像度は1.45mとされている。さらに2008年発表ではさらにセンサーの精度を高めて70cm解像度の衛星計画まで提案している。重量は多少増加して210kgだが、世界トップレベルと言えるだろう。150kg級で解像度0.7-1.45mの衛星が生まれつつあり、実態は1m解像度もないと噂されている日本情報収集衛星のセンサー技術は恐らく、2〜3世代程度古くなるのだろう。以上、フランスやイギリスが証明しているように、解像度や観測幅が出せればいいという話でもなく、小型軽量で製造出来ないと官需依存となり国際市場へは永遠に出られないということだ。

  またSSTLでは300kg級(SSTL-300)で0.6m解像度の衛星を開発する発表も掲げており、ますます小型高性能衛星の仏英開発競争は止まらないと同時に、日本が情報収集衛星開発にかけている費用が国際水準で見合っているのか精査する必要があるのではないか?

 以上、「小型高性能光学カメラの開発競争」に加えて英国では「次期センサー開発(小型ライダー、放射計など)」が着々と進んでいる情勢が明らかとなった。それと同時にJAXAの地球観測衛星計画は上記国際動向から逃げる姿勢であり、在来技術で実施してセンサーの軽量化・低消費電力化・小型化の戦略が全く掲げられていない事実も我々は認識しておくべきだろう。

◎大容量データ送信システムの開発競争

 また、観測データを地球へ送信する“アンテナ”開発も進んでいる。今後は高解像度化が進み、観測幅も広ければ、当然ながらデータ量は膨大となる。しかし、周回地球観測衛星は“静止衛星のように地上アンテナと常時接続”しているわけではなく、地上受信アンテナ上空へ回帰した短時間(高度によって変わる)でデータを送信する必要がある。

 このため、近年の周回地球観測衛星の観測データは主にXバンドと言われる周波帯を用いて行われており、伝送速度は送信出力によってある程度決まってくるものの数十Mbps〜数百Mbpsある。SSTLでは、送信アンテナにジンバル装置を付与し、小型高速送信機の開発を進めている。一方で日本でも進められており、NECが強いかもしれない。

 その一方、観測データを静止衛星へ電波ないし光通信で送信するデータ通信衛星構築動向も見られる。アメリカでは昔から打上げられているが、近年はイギリスやドイツが打上げる計画を発表している。イギリスではSSTLが災害地球観測衛星網(DMC)のデータ送信用に小型静止衛星GMPをESA産業育成政策の一環により製造する一方、合成開口レーダーや衛星間光通信で最先端を行くドイツが次世代地球観測衛星システムとして、周回地球観測衛星(レーダー衛星、光学衛星など)や無人航空機(UAV)データを小型静止衛星(2500-3000kg)通じてドイツ地上局へ送信する計画を発表している。

 以上、送信機の開発や将来の地球観測衛星網のデータを収集する高性能の小型静止データ中継衛星の開発や計画も進んでいる。一方、JAXAでは小型のデータ送信装置や小型静止データ中継衛星(光通信機能付き)などのコストパフォーマンスを追及した衛星計画はなく、小型高速データ通信アンテナという要素技術開発の話も聞かれない。[小型・軽量・独自技術の送受信技術の確立]


高速データ通信装置は小型&高性能化(SSTL)                  光通信機能付の小型静止衛星(OHB)

◎高解像度のデータを取得するために高度低下する方法も

 光学センサーで高解像度のデータを取得するために、各国は“センサー自身の性能向上”を進めているが、さらに解像度を高めるには高度低下して撮像するコンセプトも存在する。

 SSTLも同型のセンサーを高度700kmで2.5m解像度の衛星高度を低下させることで解像度2m以下にするコンセプトも考えられている。だがこれには問題がある。高度を低下すればそれだけ地球再突入の時間が短くなってしまうため(デブリ防止という観点では良いものの)寿命が短くなることを意味する。そうなると利用期間が短くなれば減価償却を早める必要に迫られ、商業衛星では収益率を高めなければならず画像単価が高騰する。このため、低高度でも寿命を長くするには衛星に搭載されているスラスターで加速し、軌道高度が落ちないよう維持するか、高度落下率を低減する必要に迫られる。


解像度を上げるためには?(SSTL)                       低電力の電気推進搭載衛星(IAI)

 このため、各国では小型推進機(スラスター)に注目している。近年では、キセノンガスを使ったレジストジェットが搭載されているが、最新動向ではTACSAT-2に見られるように本格的な電気推進を搭載している。その理由としてSSTL資料が示すように、推進剤消費量に対してΔV(増速量)が高いからである(比推力が高い)。これに追随する形でイスラエル&フランスのVENUS衛星や韓国サトレック社も地球観測衛星へ電気推進の搭載を進めている。その種類はホールスラスター、イオンスラスター、PPTと呼ばれる電気推進機が有望とされ、低電力で高燃費(比推力)と推力が得られる電気推進の開発を進めている。アメリカではMITベンチャー企業のBusek社(TACSAT-2で実績)があり、イスラエルも独自に電気推進の開発搭載を進めている。日本では東京大学や大阪工業大で小型電気推進の研究開発が進められているそうだ。[小型衛星用推進機の技術確立が急務]



◎光学衛星以外の地球観測衛星も次世代化が進む

(エアワールド2009年6月号をお買い求めください)


 OHBの提案する地球観測衛星計画(OHB)            Terrasar-XとSARLUPEも過渡期(OHB)


センサー基盤技術開発(CEOI) 


小型CO2検出センサーの開発(CEOI)

◎日本の光学衛星計画はコンセプト的に正しいのか?

 国際的に競争力ある衛星を作るために、イギリス・フランス・アメリカは「小型衛星バスやセンサー開発」は勿論のこと「低高度でも落下しにくい“低消費電力・小型・高燃費”の推進機」を開発するのが主流となっている。一部報道では「衛星は通常、高度500〜1000kmを回り、推力は持たないのが一般的」とあるが、これは正しくなく、近年は上記表で述べたように推進機を搭載、軌道維持もしくは軌道落下抑制しているのが通常だ。

 一方、日本ではセンサー開発へ注力するのではなく、なぜか低高度衛星開発ばかりに力を入れている。その計画は2つあり、JAXAが電気推進を搭載するコンセプト(超低高度衛星)、USEFが化学推進用燃料を大量に積んで高度低下―上昇させる“高度なマヌーバビリティを有する地球観測監視衛星コンセプト(HiMEOS)”を計画発表している。筆者らの分析では、双方共にコンセプトが不十分と分析している。

 まず、電気推進を搭載する方向性は正しいが、世界は小型・低電力で出来るだけ高推力の電気推進を搭載するのが良いと考えているのに対し、JAXAは意外にも静止衛星用で大電力イオンスラスターをベースにしたものを搭載、大電力消費が必要となる。さらにメリットとして「高度が低いため高解像度が撮れる(高解像度カメラ開発は基本的にせず)」、「高度が低いとアクティブセンサーの消費電力を抑えられる」と主張していることだ。それは一見正しいように見えるが、すでに衛星が大型電気推進の搭載で大型化・大電力化しているため、コスト上昇の懸念がある。また打上費も高騰するため結局は「小型高解像度低電力センサーを開発して小型バスへ搭載する欧州方式」の方が総ミッションコストを低く抑えることになるのではないだろうか。

 「欧州GOCEミッションを参考にした」と一部では言うが、GOCEは“科学ミッション達成するための方法論”として低高度軌道を飛行しているのであって、JAXAの掲げる地球観測ミッションが目的ならば、まずはセンサーを小型・高解像度化して衛星も小型・低消費電力化するのが先ではないか?その衛星が出来てから低高度飛行化するために推進機を開発・搭載するのが適当ではないか?

 HiMEOSも同様だ。高度低下―上昇という“推力があっても燃費の悪い化学推進”を搭載して衛星をブクブク太らせて2000kg級としたため、打上費も高騰し、例え超低高度衛星と共に高解像度画像が取得できても、国際販売されている画像単価に見合う総ミッションコストで減価償却できるのだろうか?まず困難だろう。海賊問題への対応利用を引き合いにしているが、衛星は万能ではない。ソマリア沖の海賊問題では「既存周回衛星とUAVや哨戒機の組合せ」で既に実施可能、無理に衛星が軌道変更や高度変更すれば費用対効果が悪くなるのは明白でコンセプトに経済性が考慮されていない。しかも今から作って打上げる頃には解決している可能性だってある。

 また上記の2ミッションのメリットが国際的な技術発展の影響で意義消失しつつある。欧州で小型高解像度衛星が開発され、今後販売されるであろう画像がより高度化されてくる中、例え3年低高度飛行できたとしても、海外の推進機搭載の高解像度衛星は高度によって3年〜5年はもつ。小型推進機搭載により長い時間をかけて減価償却をかけられるようになってきたため、画像単価はより低価格化する可能性が高い。よってJAXAやUSEF衛星を仮に商業販売した場合、“画像単価が上昇”するか“ダンピング販売”せざるを得なくなることから「技術開発して商業化」するどころか、「技術開発できて国際コスト勝負力のない衛星」が出来上がる可能性が高い。さらに欧州は衛星群化までもが検討されているため、日本コンセプトでは量産性・経済性の観点から評価しても脱落する可能性が高い。国際情勢を分析して実施意義の精査が必要だ。

 以上から超低高度衛星もHiMEOSも“日本のオリジナリティー”と言えば聞こえがいいが、筆者らは“的外れのオリジナリティー戦略”と分析している。軌道や傾斜角を変更したりするコンセプトは全てが間違いではないが、海外では“搭載燃料を節約”するため大気層を利用して軌道変更するコンセプトが発表されているものの、システム開発するというよりは研究レベルで検討されている。日本計画とは違って優先順位は他にあると判断しているのだ。[既存計画は白紙化しての再考が必要]

 フランスやイギリス動向から日本は“実施すべき順序(センサー開発から)”、“設計コンセプト(小型衛星&推進機)”、“マーケットの単価(費用対効果)”の認識不足から、投資に見合わない計画を立案していると考えられる。無理に高コストの大型衛星を作るのではなく、世界動向に習って実施すべき順序を間違えずに地球観測衛星計画を考えて欲しいものである。



◎衛星は小型化しない限り生き残れない(国際開発競争から逃げるJAXA)

 以上コンセプトから言える事は、例え“技術的に成立性”があっても“経済性や減価償却を無視”した衛星計画を実施すれば、結局は小型高解像度衛星を着々と進めるイギリス、フランス、カナダによって淘汰されるのである。このようなJAXAやUSEF計画を精査すると、アメリカFUTORON社が「日本の国際競争力がインド、中国以下」と評価するのも無理ないと納得せざるを得ない。このままではマレーシアとドバイ衛星を複数機商業受注した韓国に抜かれるのも時間の問題だろう。[商業衛星としての価格・性能・納期を無視している]

 少なくとも日本の宇宙開発利用は「経済性を意識した開発が弱い」ということだ。その証明に日本はダンピング販売したロケットと商業静止衛星の受注実績しかない。そもそも日本宇宙活動は他産業(自動車・半導体・エネルギーなど)の経済発展による税収で支えられ、高度経済成長期の予算増加に乗って言わば「やりたい放題」やってきた一方、衛星の製造・技術開発競争からは事実上逃げてきた。上記2ミッション検討も「国際衛星開発競争へ参加」というよりも「低高度衛星は火星探査と軍事ミッションへ応用可能」という“産業化”ではなく“内向きで経済性追求のされ難い分野へ逃げて正当化”しようとしている。この産業化しない姿勢の原因を「文部科学省だから技術開発だけ」、「スーパー301条による障壁」を原因とする意見もある。それもあるだろう。だが、果たして原因はそれだけなのか?恐らく、JAXAとメーカーが技術開発競争を見ずに逃げる姿勢に問題があるのではないか?と考えている。

 文部科学省予算だから「技術開発だけでいい」というのは宇宙基本法の産業化精神からみれば、もはや許されない環境となった。またスーパー301条を理由に嘆いて逃げることも簡単だ。だがもう過去に戻ることはできない。ならばせめて国際競争の中で踏み止まれるように効果的な基盤技術開発政策を進めるべきではないか?

 その最重要キーワードは「極小加工技術」であるのは間違いない。商業衛星は経済性が最も追求されるため、欧州衛星動向が証明するように打上費削減の観点からも小型化しなければならない。また軍事や探査という商業市場とは違う宇宙システムであっても、今後は産業技術へ波及できる“説得性”を示さねば「政府からの開発予算」は獲得できなくなるため、どの道小型化を目指さねばならない。事実、アメリカ国防省が進める即応型宇宙政策により、国防省予算の支援を受けて開発したFALCON-1ロケットは競争力ある商業化を達成し、小型・量産・短納期を目指した即応型衛星も軍事衛星でありながらモジュール・ユニット衛星という商業衛星及び環境地球観測衛星へ産業波及できるコンセプトであるのは過去の誌面で紹介した。よってJAXAのように軍事や宇宙探査機の開発なので産業化無視姿勢ではなく、宇宙システムは全てにおいてどの道小型化を目指さなければ、産業として生き残れないのだ。[小型量産衛星・衛星バス技術の確立]


極小技術を組合せた2.5m解像度カメラ/18.5kg(Thales Alenia space)

◎ソフトウェアはハードに付随するものではない

 また、データ処理において重要なのはソフトウェアだ。衛星産業化に伴い、衛星自動運用化技術が必須となる。JAXAは1台の衛星運用に20〜30人もかけているが、数人で運用できるような「高度な自動化」で運用コスト軽減が必要である。海外では軌道投入後の初期運用でも人数をかけないよう、自動運用のノウハウを蓄積している。即応型衛星開発の目標も高度な自動運用であり、数台の衛星を1人で管理する能力を目標にしている。

 画像なりのミッションデータを地上局なり中継衛星を介して送信するのも高度な自動運用が必要となる。これはソフトウェアの開発能力そのものに依存するため、自動運用のノウハウを小型衛星開発と同時に進める必要がある。

ちなみにASNAROはSSTLの自動運用を開発した英国企業へコンタクトしたとの話を聞いている。これも今後の“開発課題”となるのだろう。

 日本はハードばかりに目が行くが、それに同じくしてソフトウェアも重要であるという認識が必要だ。すでに衛星の設計概念は世代交代が進んだ。レジュームが変わればデータ処理システム変わる。日本が高度運用技術を修得して「衛星運用を宇宙先進国と共有」できるレベルを構築すべきだろう。

 また、地球観測データのデジタルデータ化が海外で進んでおり、その時代へ対応できる解析システムも必要になってくる。そのデジタルデータは、パスコらが海外衛星(TERRASAR-Xなど)を購入しているが、与えられたデータを解析しているのに過ぎず、そのデータが本当に正しいデータなのか検証できない立場で購入しているのが現状だ。

今後は衛星データの偽情報が混入されてくる可能性を考慮すれば、国産基盤技術を着実に育て上げて比較・判別できるノウハウ(ソフトなど)を構築する必要がある。ハードばかりに目が行くのではなく、データ利用体制と検証をどう進めるのかも育成課題となるだろう。[独自の衛星分析・解析・利用技術が必要]

 以上のように、小型衛星バス開発、センサー開発、通信、データ処理のコスト&サイズ最適利用を目指して、小型周回衛星によるセンサー基盤技術育成ミッションを展開し、CUBESATによる小型基板技術育成もかけながら高性能センサーを徐々に開発するのが良いだろう。背伸びをせずにじっくり技術育成をかけて気象衛星センサーまで行かれれば良いだろう。


SSOT(150kg/PAN1.45m@620km)(EADS Astrium)

◎まとめ

 世界は「大型宇宙システムは生き残らない」という観点の元、極小宇宙技術追求へ走っている。高解像度カメラ機器ならば、解像度1m以下で重量は30kg級で製造できるようになってきている。150kg級で解像度1m以下の時代もすぐそこだ。また、衛星バスも小型シリーズの開発競争が勃発、重量は変わらずに発生電力向上、通信速度向上、推進機搭載、機能追加が進んでおり、フランスがMYRIADEとPROTEUSで多ミッションを実現、アメリカでも重量別で4種類、1ロッド20基で最大5ロッドまでとして最大400機の纏め発注体制の検討と民間提案が進められている。

 近年は小型・量産・民間開発という流れで衛星開発が進んでおり、商用・民事・サイエンス・軍事すべてにおいて、小型でなければ生き残れない情勢となっている。今後は極小技術を磨いた企業が生き残れるのだろう。だが、日本の宇宙基本計画は時代に逆行しており、なぜか「早期警戒衛星」という技術的成立性が困難な安全保障計画中心に騒がれ、“具体的な商業化プラン”もない遅世代公共宇宙計画が発表されている。このままJAXAを内閣府へ機能移管しても、国際的に日本は脱落、孤立することに変わりはないだろう。

 日本は今、大きな分岐点にいる。メーカーと政治家が結託して大型公共宇宙事業を継続して堕落するのか、世界が進める極小化技術(低電力&小型バス、オンボードチップ技術等)を磨いて国際技術競争の舞台へ復帰するのか決断の時とも言える。前者を選択すれば日本は「金で呼ばれる国」となり経済衰退すれば消滅、後者を選択すれば「技術力のある企業が生き残れる」ことになるだろう。

 日本に必要なのは公共宇宙から商業宇宙対応への転換が正しいと考えている。現行技術での公共宇宙計画を廃棄し、そろそろ真面目な宇宙戦略ビジョンの提案を望みたい。


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