スモール&マイクロ・スペース・エイジ
     
   (エアワールド2008年5月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2008年5月号」をお買い求めください


 本稿では、過去の負の遺産が明確になってきたことから、日本の本質的問題に迫りながら新世紀宇宙戦略(New Century Space Strategy)として、宇宙基本法通過後の日本宇宙活動のあり方を考えてみたい。

◎新世紀宇宙戦略の策定

 過去の誌面によって、JAXA宇宙活動を国際評価すると、旧NASDAは遺物技術で宇宙活動している事実があり、ISASは旧NASDAの高コスト体質に巻き込まれ、行動不能になっている事情が判明した。H-2ランチャーはコスト超過・国際常識外れ計画・旧式技術採用しており、衛星もコンセプト遅延に加えて、海外企業丸投げ委託&輸入の横行で、HTVも含めて「ハイコスト・チープリターン」活動となり、無為に宇宙予算が消費されている。今後は構造改革の必要がある。

 この停滞したJAXA宇宙活動の原因は、H-2シリーズの打上失敗により、JAXAロケット担当者が「信頼性向上を最優先」として、周囲が否定できない環境を作り出し、メーカー丸投げでJAXA職員のやる気を失わせ、ランチャー技術の世代交代が進んでいる研究を怠ったことが原因の1つだと考えている。

 また衛星担当者側も、H-2シリーズの打上延期で衛星コンセプトが陳腐化し、その指摘を逃れるための(生産性のない)書類作成に追われ、打上待ち衛星もメーカーへ予算を与えるべく、無理な予算請求項目を作り出したようだ。そうなると、その請求項目が常識化、さらなる高コスト体質を組織全体に蔓延させる。そしてJAXA(旧NASDA)はその悪体質をISASやNALへも蔓延させ、コスト高で中身がない宇宙システムが出来上がる典型的な潮流に発展しつつある。

 聞くところではJAXA出入り業者を旧NASDAファミリー企業に一本化させたことで、部品調達コストが従来よりも3倍になったという情報もある。もともと予算の少ないISASや旧NALにとっては「これでは、実験ができやしない」と悲鳴が上がっている。三機関統合は失敗だったと事後評価できないだろうか?

 日本が国際宇宙ステーション(ISS)の日本モジュール「きぼう」を打上げて歓喜している間に世界はポストISS時代へ向けて動いており、中国・インド、韓国に先手を打たれている中、日本は新世紀へ向けた戦略が必要とされる。

(1)月・火星探査時代から小惑星探査へ(有人宇宙の放棄:ロボスペース)

 まず、月・火星・小惑星探査を考えてみたい。米国宇宙活動のテコ入れでもあったブッシュ大統領によるNASA宇宙探査ビジョンは、月・火星探査を目標とした有人宇宙活動である。これは、月面に有人基地を将来的に建設し、火星への有人探査活動へも展開するという壮大な長期計画だ。しかし、スペースシャトルの維持費や後継機ARES-1と有人カプセルORION開発、そしてISS維持に全予算の6割を費やしているため、新規の宇宙活動に支障をきたしている。このため、シャトルを2010年までに退役させ、それまでに可能な限り宇宙ステーションを完成させて国際協力を完遂し、新世代へ向けて戦略を展開しようとNASAは考えているようだ。また、米国宇宙探査ビジョンに対し、多くの国が乗り遅れまいと宇宙探査計画を発表している。1つのブームと言えるだろう。日本も、SELENE(かぐや)を打ち上げ、次期月探査計画(SELENE-2)も検討されている。中国(嫦娥計画)もインド(Chandrayaan)も争うかのように探査機開発を続けている。中国は月探査2号機を2009年に打ち上げ予定だ。


嫦娥1号(Ce.cn)        チャンドラヤーン1号(ISRO)

 しかしNASA宇宙探査ビジョンは、膨大な宇宙予算を必要としていることは事実であり、月面基地を建設したり、有人宇宙活動を長期展開する開発予算案があるが、日本が追随して今後20年にわたって拠出するのは困難だと考えられないだろうか?

 まず、日本独力で有人宇宙活動や月面基地を建設する経済力はない。年間1兆数千億円を有するNASAでも大変と言われている計画を、日本の宇宙予算(2400億円)の一部を今後20年以上にわたって費やしても、恐らく困難だと考えている。個人としての本音を言えば「有人宇宙・月面基地建設をやりたい」という気持ちがある。だが、現実を見れば日本は予算的・人員的・技術的に無理があることは否定できない。

 またAPPOLO計画のようにコスト度外視で実施できる環境にもない。そしてHTVやH-2シリーズはキー技術が輸入品で技術・コスト共に国際競争力がない。JAXAは、有人宇宙技術の基礎をHTVや宇宙ステーションモジュール(きぼう)で修得したと主張するが、それが真実ではないことは、先月号で述べたとおりである。海外から高価なライセンス料を支払い、作業丸投げ、パッケージ輸入したものを「国産」とラベルを張り替えて実施している組織が有人宇宙開発をすれば、形として出来るかもしれないが、国力消耗をもたらすだけで費用対効果が望めない。

 よって日本の国費による独自の有人宇宙活動は放棄し、国際協力も日本に技術がないことから「資金だけ出す羽目」になる可能性が高いため、米国のように別の次元で民間が資金を投じて実施すべきだろう。

 しかし長期的将来は、人類が宇宙空間へ乗り出す時代がやってくることは否定しない。宇宙探査の必要性はある。これは、日本が得意とされるロボット探査を中心に実施し、低コストでも着実に成果を挙げる宇宙活動を当面実施して「地道」にやるべきだろう。宇宙予算大国のようなアメリカ、ロシア、中国(将来)と同じ活動はできない事実を認識すべきだ。よって、日本として国際的地位を確立するなら、着実に実績を挙げて、「日本を戦略的パートナーとして引き込んでおいたほうがいい」と思わせる環境を作り出すことが寛容だろう。「予算目的で相手から呼ばれる」のではなく、「実績をもって相手から呼ばれる環境」を作る戦略も必要だ。海外企業や宇宙機関の関係者と話をすると、「JAXA(旧NASDA)は、(資金的に)いいお客さん」と見られており、「技術能力が高い」と思われているわけではない。悲しい現実である。日本が国際社会から無視されない環境にするために、強みである小惑星探査とロボティックスペースで、国際的に注目されるミッションを遂行するほうが、「費用対効果」が高いのではないか?しかし、その議論は文部科学省宇宙開発委員会では殆ど行われていない。

(2)地球観測衛星時代へ(防災宇宙・温暖対応)

 次に必要な宇宙戦略は、地球観測衛星戦略の策定である。異常気象現象が叫ばれる中、過去の観測データベースでは予測できない気象現象が発生、人命が失われる事象が無視できないレベルに達しつつあり、日本でも突風・集中豪雨・暖冬・突発的低気圧発生現象が発生、都心でも強風で列車が運休する事例も目立ち、さらに大気水質汚染も近隣国の影響と思われる事象が発生している。

 また、アメリカでも次期大統領候補らは地球温暖化問題を掲げ、竜巻・ハリケーン被害が甚大なものに発達する可能性から、宇宙探査よりも地球環境問題に力を注ぐ方針を発表、各陣営は宇宙戦略案策定に入ったとのニュースがある。もしかすると、NASA宇宙探査ビジョンが大幅に変更になるか、もしくはNASA以外の組織(NOAA等)で地球観測衛星システム戦略が立てられる可能性がある。

 また、地球温暖化防止のためには二酸化炭素排出削減が必要と指摘されるようになり、マスコミも昨年から注目するようになった。そして国内企業もイメージ戦略としてエコ活動(環境保全、光熱費の節約、カーボンオフセット等)の展開、個人レベル(エコバック、食環境の改善、光熱費の節約)でも意識向上が進められ、二酸化炭素排出削減に向けた努力が静かに始まっている。今後は、二酸化炭素排出を地球レベルで監視するシステムが要求される。しかし、JAXAの二酸化炭素観測衛星はセンサーが国産化できず、海外から購入する有様で、衛星筐体も大型過ぎでコストが増大。国際的に見て恥ずかしい状況だ。組織改革の必要性があるだろう。

 また、気象衛星“ひまわり”の更新及び能力向上が必要になる。海外では、動画中継に近い気象衛星を製造する動向もあり、気象・環境観測衛星として能力向上が進められている。対する日本は1時間に1回の撮像(最大で30分に1回)であり、気象の劇的変化を観測する能力は無い。そしてセンサーも輸入品で国産化されていない。つまり現在の気象観測システムは能力不足である。最近では「当たらない天気予報」と多くの人が思い始めているが、それは予測が困難になっている事情もある。徹底した戦略練り直しが必要なのだ。

 そして、マスメディア衛星やプライベート衛星ニーズ時代へ向けた地球観測衛星時代が到来している。これら時代へ向けて、国としてのメーカー育成及び宇宙外交をも目指した総合的な宇宙政策も必要である。

(3)周回宇宙システム(光学・レーダー・ライダー・通信)の拡大

 これら、防災・温暖化監視・気象・プライベート宇宙システムが必要になる時代にむけて、衛星筐体が必要な一方で様々なセンサーと通信開発能力を有する必要がある。現在の日本の周回宇宙システムは大型衛星をH-2Aで打上げる体制で、観測頻度が悪くコストも高い。そして観測するセンサーもキー技術が輸入品で、独自開発能力が乏しい。

 では、国際動向はどうか?過去の誌面で紹介したように、アメリカとフランスでは国際協同で衛星コンステレーション「A-Train」を構築、先進的センサーで気象観測を実施しながら、水資源発見・粉塵観測(大気汚染監視)・科学観測なども実施している。そして将来はOCOが打上げられ、二酸化炭素発生分布も分かるそうだ。このように、周回衛星は地球環境をより精密に測定するために、ニーズが増大している。この時代へ日本が地球環境保護のために、各国と協力して衛星を出していく体制が必要だと考えている。

 今後は、光のスペクトルごとの観測ニーズに応じられる光学センサー、昼夜・雲の影響を受け難いレーダー、粉塵や大気汚染がより精密に観測できるライダーを開発するセンサー開発体制が必要である一方、観測データを衛星&地上へ送信する光学・電波通信システム開発が必要になるだろう。

 これら新たな戦略によって、周回衛星の展開による観測回数の増加、多極間協力による観測情報の共有、センサーの相乗りや共同開発などによって経済的な宇宙活動を展開し、得られた情報を気象予測・資源管理・紛争防止・外交利用する体制が望ましく、総合的観点で戦略を練る必要がある。

 このように、周回宇宙システムが拡大しているなか、これら衛星打上げに、大型のH-2Aロケットは不用である。詳細は後述するが、コストが高く能力過剰であるからであり、商業化打上げすれば、簿外請求で国民が赤字を背負うロケットだからだ。一方、2007年は、安価な固体ロケット戦略を練り直している動向がヨーロッパ・アメリカ・ロシアでも見られるようになってきた。近未来は固体ロケット主流時代なのだ。

 また、将来は「脱静止衛星システム時代」がやってくる可能性も考えられる。周回衛星が量産によりコストが下がり、固体ロケットの能力向上でミッションコストが下がれば、周回衛星による宇宙システムの展開がより進む可能性もある。無論、それで静止型の通信放送衛星や環境・気象観測衛星が無くなるわけではないが、ニーズが減少してくる可能性は十分ある。

(4)低コスト・高機能・ユニバーサル対応の時代

 海外では、宇宙システムのコスト最適化が進められている。宇宙開発はもはや国威発揚で実施される時代ではなくなり、多極間協力・実利用の次元で製造・運用されている。JAXAが国威発揚型の有人宇宙開発がしたいと広報活動で叫んでも、国民の多くが興味を示さない実情がそれだ。もはや「宇宙開発」という言葉は死語で、「量産に対応できる衛星筐体バス」、「コスト勝負でき、汎用性のある中小型ランチャー」、「減価償却を意識したコスト管理体制」で宇宙システムが構築されている時代だ。

 JAXAと文部科学省宇宙開発委員会が主導する宇宙体制は「国家主導で研究開発がしたい」だけであり、開発された技術の監査・コスト管理・減価償却・経済性・民間宇宙活動育成という概念が殆ど無い。JAXA筑波の技術開発は、審査が殆ど無く、開発したものをメーカーが納品するだけで「開発が費用対効果的にも妥当であったのか?」というチェック機能がない。筑波宇宙センター倉庫やメーカー倉庫に積まれた納品物が物語っている。対する経済産業省のNEDOが開発する宇宙システムは、妥当性を審査・監査する体制で実施されている。つまり、チェック機能があるのだ。JAXAのコスト体質の悪さがまずここにある。そして宇宙開発委員会もこれら事実を把握しているにもかかわらず、改善する動向も見られない。

 海外の宇宙機関・宇宙企業と話をすると、「膨大に予算を保有するJAXAの成果が良く見えない」とよく言われるが、今後は宇宙利用時代と費用対効果を意識して、研究開発という名の下に甘え体質を改善し「研究開発時代からの脱却」が必要になるだろう。

◎新世紀宇宙システムの実用化競争(ハイコスト・チープリターン宇宙システムの淘汰)

 さて、新世紀宇宙システムは衛星を作り、ロケットを打上げて喜んでいる時代ではない。打上成功して当たり前、「利用して何ぼ」の時代である。開発ではなく運用・利用の時代だ。よって、経済原理に基づいて開発される時代となるため、H-2シリーズ・WINDS(きずな)・SELENE(かぐや)・ALOS(だいち)・ETS-8(きく8号)・GOSATのような「ハイコスト・チープリターン」時代ではなく「ローコスト・ハイリターン」を目指したものが勝利する時代であり、それに追随できない衛星やランチャーは淘汰される時代であるのは、まず間違いない。

・実用化競争「小型・超小型衛星の育成(NASA)」

 よって、EROS、OPSAT、TERRASAR、TOPSAT、VENUS、TECSAR、ASTROSAR衛星というSMALL・MICROクラスの高性能衛星時代が到来していること、そして各国が新たな科学技術政策のもと、CUBESAT革命という新世紀技術の基礎を担うNANO・PICO衛星を育成している事実から目を背けてはならない。今後、将来の宇宙システムの最適化・低コスト化のための小型・超小型衛星の開発・実証・利用体制が必要だろう。

 では、どのような育成が行われているか?アメリカNASAや国防省系、ヨーロッパではESAが小型衛星の育成を学術機関や中小企業に実施させている。まず、NASAではサイズ別衛星のコストと開発期間を示している。このコストは、衛星の製造費だけでなく、NASA職員の人件費・試験費・打上げ日等全てのコストが含まれている。これら表を見ると、2000kg以上の大型衛星のミッションコストは約1100億円以上、開発期間10年かかるとしている。対するCUBESATのようなNANO衛星は、約5.5億円・1年程度で開発可能としている。CUBESATは現在、大学中心に開発しているため学生人件費を換算する必要がなく安価に仕上がっている事情があり、このメリットを生かした産官学連携による技術育成戦略を進めている。アメリカでは、PICO、NANO、MICRO衛星の開発を短期間で実施して、MINI衛星やSMALL衛星へ技術をフィードバックさせることで、技術と人材育成、費用対効果を意識した成果を出して、自国の総合宇宙技術力向上を図っている。将来的に小型衛星技術者の中で優秀な学生が起業するか大手メーカーへ引き抜かれていくのだろう。

 
サイズ別衛星のコストと製造期間の相関関係             NASAナノ衛星ロードマップ(NASA)

 また、これら新しい宇宙技術を育成・実証するためにアメリカはSTP(Space Test Program)を実施している。これは、DELTA、ATLAS、Minotaur、PEGASUS、FALCON-1(将来)ロケットの余剰スペースに大学・企業衛星を搭載したり、静止衛星に相乗り(QUICKRIDE)したり、シャトルの余剰スペースや宇宙ステーションのスペースを利用した「宇宙技術試験・育成システム」である。過去の誌面でESPA(EELV Secondary Payload Adapter:使い捨てロケット副衛星アダプター)やCUBESAT放出装置PPODを紹介したが、アメリカでは実験サイズ・目的に応じて、様々な宇宙システムをパラサイト(寄生)搭載支援するコンセプトを立てていた。また興味深いのは、その実験利用の1つに日本の宇宙ステーションやHTVも含まれている。使えるモノは何でも使うという発想だ。

 これには、宇宙技術育成の困難さがある。将来の技術育成には「衛星バス」という根幹システムから、「部品レベル」であるセンサー・推進機・ジャイロ・電池・バッテリなど、「これを試験したい」という要求項目が異なる。これをバス系、ミッション系と分けているが、さらにこれら技術はPICO衛星(1kg以下)でできるもの、NANO衛星(10kg以下)、Micro衛星(100kg程度)で試験できるものと異なる。例えば、太陽電池セル試験ならばNANOサイズ、太陽電池ジャンクション試験ならばMicroサイズ、高性能の地球観測センサー試験ならばMicroサイズ以上、ライダーのように能動型センサー試験ならばMINI(250kg)サイズ以上、また推進系も化学推進から電気推進まで様々存在するためにMEMSサイズならばPICOやNANOサイズ、電気推進ならばMicroクラス以上など、試験可能なサイズが存在する。

 さらにこれら技術は試験サイズが異なることに加えて、開発スパンやコストも異なる。これをもし、1つの衛星にまとめたら大型化して開発期間も長くなり海外に先を越される。バランスよく開発し、いち早く成果を出すためには、PICO、NANO、MICRO、MINIとサイズ別に分けて宇宙実証する戦略の方が目的・費用・効果のバランスがすばらしいと考えているのだ。

・実用化競争「小型・超小型衛星の育成(アメリカ空軍)」

また、国家宇宙戦略を研究しているアメリカ空軍では、将来の宇宙技術者や先進技術育成のため、

・ University Nanosatellite Program(大学ナノ衛星プログラム)

・ Phillips Technology Institute(Phillips技術研究所)

・ Space Scholars Program(宇宙奨学生プログラム)


 という大きく3つの教育活動をしている。

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“大学ナノ衛星プロジェクト”で“宇宙技術者の「卵」を育成(AFRL)


Phillips技術研究所で宇宙技術を開発     2005年の奨学生制度に参加した大学(AFRL)


HANDS-ON教育で実際に衛星製造する学生教育プログラムも(USAFA)

・実用化競争「小型・超小型衛星の育成(ESA)」

 では、ヨーロッパではどうだろうか?ESAでは教育活動として大学に衛星開発をさせている。この活動は2005年のSSETI Express、2007年のsecond Young Engineers’ Satellite (YES2)でテザーミッションを実施、将来はVEGAロケットに6台のCUBESAT搭載、10kg程度のダミー衛星搭載が計画され、2010年にはヨーロッパ学生地球衛星(ESEO、150kg以下)、2011年にはヨーロッパ学生月衛星(ESMO、225kg)が打上予定だ。ESEO開発には13カ国25大学278名の学生が開発に携わり、月衛星ESMOも12カ国29大学300名の学生が参加している。




ヨーロッパ学生地球衛星ESEO(ESA)  ヨーロッパ学生月衛星ESMO(ESA)

 また、観測ロケットによる学生実験計画REXUS、学生気球実験計画STRAPLEX、地球教育ネットワーク衛星オペレーション(GENSO)も実施、ESAもアメリカと同様に宇宙技術者の育成と小型衛星育成を政策的に支援・実施している。ESAの発表によれば、今まで10年以上の間に5000人以上の学生にHANDS-ON教育(モノに触れた実践教育)を実施し、100人以上の博士を輩出したと発表している。

・実用化競争「日本の小型・超小型衛星の育成戦略はまだまだ」

 対する日本のJAXAは最近、宇宙関連の教育予算の減額方針を発表、世界から外れた戦略無し体制を構築、逆に高コスト企業の「育成」にご熱心のようだ。それを指摘されないよう、「JAXA−○×大学の連携協力協定」を発表、中身の無いポーズで官学連携したフリをしている。これは、特定大手宇宙企業の脅威となる小型衛星や教育衛星は絶対にさせない、俺たち以外では衛星・ロケットをやらせないぞというのがJAXAと実施部隊である産学官連携部の真意のようだ。実際、JAXAは特定大手宇宙企業がやらない宇宙食・宇宙衣類・部品開発・データ利用には熱心に予算を出している。無いよりはまだましだが、(衛星・ロケットシステムを開発させない)とんだ「オープンラボ」である。しかも、「自分たちは良いことをしている」と勘違いしているのも問題だ。

 以上、アメリカはNASAと空軍研究所が大学・企業と連携した小型・超小型衛星の育成と打上げ手段まで用意した戦略的産官学連携を実施、ヨーロッパでもESAが教育活動として加盟国の大学を集めて数百人単位で観測ロケット・バルーン・小型衛星&探査プロジェクトで人材・技術育成をしている。

・実用化競争「空中発射ロケットシステムの育成(欧米露)」

 このように、小型・超小型衛星の育成が政策的に行われている中、打上げ手段も新世紀の実用化競争が始まっている。それは空中発射ロケットシステムの育成だ。過去の誌面で紹介したように、空中発射システムによる打上コストダウンの時代が近づいてきた。このロケットは、航空機にロケットを懸架・背負・放出投下方式で搭載するシステムで、今後ニーズが最も見込まれる周回軌道への低コスト打上手段となる一方、(H-2Aは射場建設・維持費に兆単位の資金が投じられたが)空中発射ロケットは空港を利用するため射場が必要ない。地上施設投資削減のメリットがある。アメリカ・ロシア・フランスでは着実に開発が進んでいる。

 この実用化競争の最新動向としては、フランスのPERSEUS計画だ。この計画はヨーロッパの大学を対象とした宇宙科学研究計画として実施、CNESとONERAが予算化し、小型の衛星打上ロケットなどを学生が設計、フランスの中小企業が製造・実験している。CNESとONERAでは、このPERSEUS計画の一環で小型空中発射ロケットを大学生に作らせようと計画している。他よりも時間がかかるかもしれないが、フランスは実用型の空中発射ロケットを自国戦闘機ベースで開発しつつ、将来の再使用機研究としての空中発射ロケット育成を、学生を取り込んで実施している。比較的新しい技術を飲み込みやすい学生に、空中発射ロケットを開発させて「この技術が将来フライバックブースターに繋がるから」という講義をすれば、学生は大盛り上がりでロケット開発をするだろう。フランスのすばらしき人材育成の一旦が見えるような気がする。

 また以前、JAXAがスペースシップワンもどきの計画をしていたが、CNESの動向で戦略性の弱さがさらに露呈した形だ。また、USEFも空中発射ロケットを研究している動向が見られるが、空中発射ロケットのもたらす効果や戦略が研究されているかは不明である。

 以上、将来の低コスト実用技術は日進月歩で進化を続けているのだ。答えは見え始めているが、果たして日本のH-2A、GX、次期固体ロケットは生き残れるのだろうか?


空中発射ロケットは学生も開発(CNES)

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     C-5Bギャラクシーに搭載されたEMランチャー(I. R. McNab)

・ 実用化競争「国際標準基準専用ランチャー(製造工程・量産化)」

 国際競争力があり、需要対応できるランチャーが世界で求められている。そうした中、60億円するフル規格型ランチャーより30億円以下のユニバーサルランチャーの時代がやってきている。そうした時代を意識してMINOTAUR、VEGAシリーズ、STARTの動向に新たな動きが出てきた。MINOTAUR -1は本機をベースにした空中発射ロケットバージョンに加え、MINOTAUR-IVやMINOTAUR-Vが登場した。何と、MINOTAUR-VはM-Vと同様に惑星探査をも可能なコンセプトで計画されている。すでにNASA-AMESがMinotaur-Vを使用した月面着陸船を開発中である。これはM-Vと同じコンセプトがVEGAに加えてアメリカでも登場したことになる。そしてMinotaurシリーズとして固体ロケットバリエーションを出してきたことである。

 JAXA宇宙基幹システム本部のM-V中止が明らかな固体ロケット潰しであったのかは世界が証明しつつあるが、ヨーロッパのVEGAでも“VEGAを大型化したLYRA”“VEGAを小型化したMINI-VEGA”を2007年末にCNESが提案している。これは、固体ロケットのバリエーションをそろえるということだ。さらに VEGAの1段目モータ(P80)の米国輸出に加え、P300やP400というP80をセグメント増加させた超大型固体ロケット計画も発表、日本のM-V技術をベースに育ったVEGAの超大型化計画が発表された。2020年〜2025年にかけて計画されている。また上段は液体であり、「固体は固体、液体は液体」と主張するJAXA論理とは全く逆方向をCNESは掲げた。


    小型は固体が有利(CNES)             サンドイッチ型からグリッド型へ(FIREHOLE)

 そしてベンチマーク衛星EROSを打上げたSTARTロケットも、ロシア・アメリカ・イタリアの宇宙企業間で何とケニア・モンバサ沖合にあるサンマルコ海上射場にSTART-1のランチャーシステムを移設して、衛星打上事業を計画しているそうだ。サンマルコ射場はNASAが観測ロケット「SCOUT」を打上げる目的でイタリアと協同建築したが、これを補修し、ロシア固体ロケットを引き入れて商業事業をしようと計画しているそうだ。

 これら動向に統一して言えることは、固体燃料技術と複合材料利用によるロケット性能向上、そしてコスト管理にある。固体モータケースの複合材料化を進める一方、サンドイッチパネルのフェアリングを止め、グリッド型フェアリングを採用してさらなる軽量化をさせる動向があり、量産とバリエーションでコスト管理をも行う動向なのだ。

 このように、固体ロケットが急激に注目を浴びている。部品数・コスト・保存性から見れば、固体ロケットは打上げ環境が厳しいものの、最も量産に適したランチャーだ。よって次期固体もバリエーションや国際提携・事業化の検討をしなければならない環境に追い込まれている。もし単なるJAXA技術開発で実施するならば中止すべきだろう。そして日本の衛星メーカーも「固体ロケットは打上げ環境が厳しいから作れない」と主張すれば、国際競争で生き残れない可能性が非常に高くなってきたため、意識改革の必要がある。

 
            欧州は固体ロケット大型化も計画 (CNES)      START-1のサンマルコ進出計画(puskuslugi)

◎新世紀宇宙システム(衛星)

 欧米がPICO、NANO、MICRO、MINI衛星やランチャー開発に注力している背景には、プライベート衛星時代を見据えた戦略がある。これら需要に対応するためには、コスト勝負能力があり、高性能・高機能な衛星が必要となる。宇宙産業は長年、官需市場に甘えてきた。宇宙は「その国のもつ科学技術能力の象徴である」という定義のもと、コスト度外視開発が比較的容認されてきた。日本の典型例で言えばH-2Aや国際宇宙ステーションJEMやHTVやNASDA衛星だろう。だが、民間が衛星を調達購入するとなると、途端にコストと性能のバランスが要求される。このため、90年後半にコスト度外視型から経済性重視型へとシフトしたのだ。各国は多くのミッションへ対応可能な「プラチナ衛星バス」と作りながら、顧客の要求するニーズに合わせて「Micro衛星やSmall衛星の組合せ」を出すというコンセプトでコスト最適・高機能な宇宙システムを研究・開発する動向がある。

 例えば、SPACE SYSTEM Loral社が提案する、電力送電衛星も興味深い。これは電力を持たない子衛星へ電力を送電するシステムである。送電方法はSバンド、アクティブLED、SUNLIGHTビームが検討されている。衛星は電源系に多くの重量を費やしている。このため、ペイロードを多く載せるために、電源を外側から供給してもらい、子衛星のシステム設計を楽にしようとする発想である。これは、Fractionated Spacecraft Workshop 2006で発表されたが、他でも過去の誌面で静止衛星再使用化(モジュール交換による延命)や群衛星化の実用化へむけて、ORBITAL Expressミッション成功からすでに検討を始めている情報から見ても、電力送電衛星というコンセプトが低軌道実験から開始され、新世紀宇宙システムとしていずれ静止軌道でも登場するかもしれない。


電力送電衛星コンセプト(Space System Loral)



 また、このような電力送電衛星時代を見据えて、母衛星から子衛星を発進させる衛星も打上げられている。それは、小型衛星で先駆的研究を行うスタンフォード大学のOPALだ。この衛星は25kgのマイクロサイズ衛星であり、胴体中央部にPICO衛星収納装置を搭載、2000年にMinotaurロケットで打ち上げられた。OPALは宇宙空間でPICO衛星を放出し、通信実験を行っている。しかもこのPICO衛星が只者ではなかった。MEMS加速計やマイクロスイッチ、マイクロスラスターと先進的技術が搭載されていたのだ。


Micro衛星にPICO衛星を搭載OPAL(スタンフォード大)   ロシアもSMALL衛星バス(600kg)を開発(GKNPC)      

 そして衛星バス競争も小型・高性能化が各国で進んでいる。過去の誌面ではフランスのPROTEUS&MYRIADEバスを紹介したが、ロシアでもEXPRESS-MDという、600kgクラスの衛星バスを開発、PROTONロケットのピギーバックで打上可能としている。


◎新世紀宇宙システム(衛星搭載部品の小型化)

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◎新世紀宇宙システム(ロケット+衛星の組み合せ)

 革新的宇宙システムの登場で、低コスト化が実現してくるのに加え、即応&インスタント衛星を安く・早く打ち上げる宇宙システムが今後生き残るのは、否定できないだろう。それを理解している宇宙先進国では

・ KOSMOS-3M+SMALL・MICRO衛星(例:TOPSAT、SAR-LUPE)

・ EUROKOT+SMALL・MICRO衛星(例:GRECEのデュアル搭載)

・ MINOTAUR-1+SMALL・MICRO衛星(例:TACSATシリーズ)

・ VEGA+SMALL・MICRO衛星(例:欧州大学・中小企業衛星)

・ M-V+SMALL・MICRO衛星(中止)

・ START-1+SMALL・MICRO衛星(例:EROS)


という組合せで、第三次宇宙革命に対応できる「プラチナバス・ランチャー」の実現に向けて各国が宇宙システムを再構築しているのは明らかだ。また、これらランチャーも、これから出てくるロケット動向を見れば、「液体から固体へのコストダウン革命」が発生している。これは自動車で言う「ロールス・ロイスからマーチ級へ」と各国が大型化し過ぎた宇宙システムを見直して小型化へ注力して、その基礎技術を磨くためにナノ衛星・ナノ&マイクロランチャー(スクーター)を開発している。


◎日本の新世紀宇宙戦略(JAPAN Micro&Small Space戦略)

 さて、日本はランチャーも衛星バスもなく、将来へむけて第三次宇宙革命へ対応できる技術育成戦略も立てられてない。激動宇宙時代へ宇宙産業が衰退しないよう対策が必要だ。雇用対策のために実施した巨大公共宇宙活動(H-2B、ISS、HTV、旧NASDA衛星)では、技術も産業も育っていないことが発覚している。今後も海外から技術輸入して「国産ラベル」を貼るのでは、国民は騙せても国益にならない。

(1)新世紀戦略「L-4Sランチャーの新世紀化(複合材料化・ユニット化)」

 では、ランチャーはどうすればいいか?それは唯一、国産技術で育て上げた固体ロケットの復活利用だ。日本発の人工衛星「おおすみ」は、LS-4-S5であるが、このロケットを現代の固体推進薬にし、モーターケースも複合材料化すれば、格段の性能向上ができる。これをマイクロ・ナノ衛星ランチャーにするのはどうか?発射台はオーストラリアにあるため、これを利用者である日米豪の国際協力の一環で小型衛星ランチャーとして国際協力射場として移設する。場所は3国間で話し合えばいいのではないか?ゼロから開発していては間に合わない。史跡技術を有効活用し、世界の第三次宇宙革命技術の開発へ貢献すればいい。

(2)新世紀戦略「S-520(AL-520)のナノランチャー化」

 次に観測ロケットのPICO、NANO衛星ランチャーだ。これは、先のMEMS宇宙部品やCUBESATの爆発的開発により、世界が最も欲しているランチャーだ。何せ、数百単位のCUBESATが世界中で製造されている。現在はPPODによるパラサイト搭載で打上げ需要を確保しているが、当然ながら「専用ランチャー」が欲しい声は上がっている。ある海外の科学技術育成財団は、CUBESAT専用のナノランチャーがあれば、最低でも百機単位で買う用意があるとまで言っている。この国際需要の対応できるナノランチャーは様々な国が開発中であるが、大型ロケットをダウンサイズするやり方はコスト勝負できない。しかし、日本は観測ロケットの性能がもともと良いため、それに上段モータを加えれば、容易にナノランチャーが可能だ。しかもそれを空中発射ロケット化すれば、打上能力は地上打上の「ほぼ倍」になる。このような優れたランチャーの基礎技術を日本は有しているため、国際競争で高い優位性を有している。このS-520ロケットのモータを複合材料化し、観測ロケットとして気象観測用や無人機派遣気象観測に利用しながら、上段をプラスしてナノランチャー利用し、技術開発の一環で空中発射ロケット化する開発をすれば、量産・モジュール化による「世界が求めるランチャー」を実現できるだろう。1本あたりのコストが低くとも、量産効果で利益を見込むスタンスも、宇宙利用時代に不可欠な視点かもしれない。

 
       L-4Sランチャー(ISAS)    S-520ランチャー(ISAS)

(3)新世紀戦略「次期固体の新世紀対応化」

 そして次期固体の見直しだ。国際動向からすれば、今後は固体ロケットが主流だ。アメリカもヨーロッパもM-Vコンセプトを上回るVEGAシリーズ、MINOTAURシリーズを出している中、バリエーション的な発想が無い次期固体には国際競争力がなく、「未来がない」ことが良く分かる。

 またSRB-Aを1段目に使用することでランチャーバランスが悪化している。また国産技術が十分あるのに、わざわざ特許料を支払って製造している一方、優秀なM-V上段を生かせない1段目だ。VEGAのリシーズ化は上記で説明したが、Minotaurもシリーズ化され、月着陸機開発が進行している実情から見れば、「射場運用の簡素化」や「自律飛行」は十分評価できるが、やはりSRB-Aは不用だ。H-2AのSRB-Aとの共通化をJAXAは主張するが、結局のところ推薬は異なり、ノズル制御も新たに付加という、事実上の作り直しとなっている。つまり、部品共通化は見掛け倒しなのだ。よって、新たに複合材モータを開発し、1段目を新造すべきだろう。だが、新造すると時間がかかる。その間は、国際協力としてVEGAかMinotaurモータを輸入し、急場をしのぐ間に新型モータを作る2段構えの戦略の方が、メーカー国際企業化や、ランチャー同盟の足がかりができるため、将来性のある計画だと考えられないか?P80は検証の結果、M-V上段との組み合わせは可能、MinotaurのCastor-120も組合わせも可能である。SR-19モータも可能である。

 SRB-A利用による未来の無い計画よりも、国際的に日本のランチャーが育つ上でJAXA雇用対策を実施する方がすばらしいのではないか?今後は、悪い「足かせ」を外して、まともな固体技術を育て上げる戦略的な計画が必要であり、経営戦略ができない文部科学省宇宙開発委員会の解体とJAXA宇宙基幹システム本部の構造改革が必要だろう。


      固体Minotaurシリーズ(Orbital)         Minotaur-Vでは月面着陸機を打上(固体ロケットで月探査)(NASA)

(4)新世紀戦略「プラチナ衛星バスの開発へ」

 次に衛星戦略だ。ヨーロッパ・アメリカ・ロシアが小型のプラチナバス開発を活発化させている。

・ PICO、NANO、MICROサイズは大学や新興企業

・ MICRO、MINI、SMALLは既存宇宙企業

がメインプレーヤーになっているようだ。今後はJAXA機能を解体し、マイクロ・ナノ衛星でMEMSや超小型先進技術を研究開発する組織をつくり、第三次宇宙革命時代に対応できる体制と人材育成を含めた長期的なビジョンとロードマップを作る必要がある。

 そして短期的にも小型衛星のサイズ別育成戦略が必要だ。目標としては、J-PROTEUS(500kg級)、MINI-SERVIS(300kg級)、J-MYRIADE(150kg級)、Microクラス(50kg級)、NANOクラス(10kg以下)とサイズ別にして、大型は大手宇宙企業へ、MicroとNANOクラスは大学教育や中小企業がプラチナバス実用化開発をすればいいのではないか?

 このようにバリエーション的な発想で、「NANOの実績はMicroサイズへフィードバック」、「Microの成果はJ-MYRIADEへフィードバック」させるように、隣サイズ同士の成果技術をキャッチボールできる体制が必要だ。互いの技術をやり取りできる関係を構築しなければ、技術が総合的に育たない上に、開発速度向上も期待できない。JAXAは巨大衛星ばかり作った影響で、小型衛星製造までも海外企業の2倍以上の時間をかけている。20年、30年先の衛星産業を見据えて、今から技術と産業全体を立て直し、育成する方策が必要なのだ。

 これら衛星技術を育成し、「足かせ」を外した次期固体と、L-4S、S-520ランチャーを新世紀化させてコンパクトな宇宙活動を展開し、世界に無いウルトラ技術を磨くスペースシステム体制がJAXA解体後に必要になるだろう。

◎JAXA構造改革と宇宙技術基盤再生へ向けて

 肥大化しすぎたJAXAは構造改革と宇宙基盤再編の必要がある。最近では基幹ロケットではなく、主力ロケットと名前を変えたH-2シリーズは、キー技術を海外依存していることと、技術開発に失敗しているため前途多難だ。次期基幹ロケット計画も、種子島射場を脱して本土のある半島へ移動する動向やエンジンの本質をまた理解せずにケロシンへ手を出そうとする動向が見られるが、コストが容認できるレベルではない。

 国際動向から見れば、宇宙活動は「独力」・「グループ(例、プロジェクト提携、TRMM、A-train)」・「国際同盟(例、ISS、有人、欧米露測位衛星同盟、気象衛星)」として構築すべきものを、各国はそれぞれ分けて実施している。しかし日本はすべて単独でやろうとしているのが問題だ。今後はアライアンスを考えてPROJECTを考えるべきだ。

 よって、国際動向を見れば、H-2Aのような大型液体ロケットは、日本が単独で保有するには負担額が大きすぎる。日本が単独保有できるロケットはサイズ的・予算的にM-Vサイズがせいぜいである。液体ロケットもキー技術が輸入品ならば、体面にこだわることなく、B-767、B-777、B-787のように国際同盟ランチャー化したほうが、量産もできるため良いのではないか?もしくは、ポストISS時代に向けた戦略を練り直さなければならない中、日本がアジアで宇宙のリーダーシップを取るならば、宇宙版のAPEC(アジア太平洋経済協力)を作り、アジア諸国と米国、ロシアを巻き込んでDELTA、SOYUZ、次期基幹ロケット、ANGARAでラインナップとして位置づける政治的工作をしなければ、生き残れないのではないか?誰がどう見てもH-2Aは単独では生き残れないのは明らかだ。(技術水準が十分でない)事実を認めて国際アライアンス戦略で共同生産体制を進めた方が、MHIが生き残れる可能性が高い。原子力のように液体ロケット産業の世界連合はもう始まっている。よって、21世紀に向けた戦略的発想力が文部科学省やJAXAには無い中、宇宙基本法通過後に内閣府宇宙戦略本部にて、液体ロケット生き残りと再生の戦略が今後必要だろう。

◎まとめ

 アメリカや欧州では、学生月・地球観測宇宙プロジェクト、実際に衛星を作る教育プログラム、学生による空中発射ロケット開発が体系的に行われている。また、産学官連携で新規宇宙企業の育成も実施されている。しかしJAXAは「本質的な教育プログラム無き宇宙教育」を実施、JAXA産学官連携部も本質を意図的に無視して実施している。今後は構造改革の必要がある。

 また、新世紀宇宙システムとして固体ロケットのラインナップ化、プラチナ衛星バスの開発、第三次宇宙革命の旗手になる超小型宇宙部品開発が盛んである。日本は唯一の国産固体ロケットでランチャーを整え、衛星もサイズ別の育成戦略による実用化戦略が必要である。

 国民生活が厳しくなる中、今後は宇宙予算の減額が見込まれる。今までは国力があるため支えられたが、H-2シリーズやHTVなどの高コスト宇宙システムは維持困難になる。よって日本単独ではなく、国際連合で構築して液体ロケットを生き残らせないと、いずれ宇宙財政が破綻するだろう。これら原因は、日本(JAXA)が予算・技術を鑑みながら

・「日本独力」
・「グループ」
(センサー持ち寄り衛星)
・「国際同盟」
(液体ロケット同盟など)

と分けて実施すべき宇宙活動を理解せずに実施しているからだ。「ハイコスト・チープリターン」の宇宙システムが今後国際的に淘汰される中、JAXA構造改革の必要があるだろう。


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