RESPONSIVE SPACE CONFERENCE 2006(次世代宇宙への核心) 
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 2006年4月24日(月)〜27日(木)の期間、アメリカ、ロサンゼルスにてResponsive Space Conference 2006(即応型宇宙会議)が開催された。本稿では、この会議の最新情報を紹介しながらアメリカが世界から1歩リードするために「早い・安い」の“低価格・即応型宇宙戦略”を実施している実情を紹介したい。

◎即応型宇宙の政策
 空中発射ロケットや1週間で衛星を製造・打上げるシステムをアメリカが開発している背景には、2005年1月にブッシュ大統領が発表したOperationally Responsive Space Policy(即応型宇宙活動の運用政策)の後押しがある。この政策は、「戦場支援をする目的であり、低価格で500kg(もしくはそれ以下)の衛星を短時間で打上げる技術を2010年までに開発し、実証する」というもので、下表の衛星とロケットシステムを目標としている。

2010年までの即応型宇宙技術の達成目標

(出典:AIAA-RS4-2006-4003)

 聞くところによると、現行の偵察衛星はイラク戦争で活躍したが、数が少ないために必要時に撮像できなかった問題が発生し、イラク戦争に関する報告書資料を読むと「戦術レベルでは十分に役立たなかった」そうだ。このため、偵察衛星は“数が勝負”という認識が生まれ、必要時に大量に衛星を打上げた方がいいという考えがあるようだ。
 この政策に基づいていると思われる、低価格ロケット技術開発プログラムである“FALCONロケット計画”や、衛星を量産化させる技術を目指した“TACSAT(戦術衛星)技術開発計画”があり、大手メーカーから宇宙ベンチャー会社まで開発に参加している。このように軍事技術ではあるが、次世代のスタンダードを狙う技術開発をアメリカは進めており、NASAの月・火星探査ビジョンという“夢”以外にもしっかりと宇宙活動を行っている事実を日本の宇宙開発者は把握する必要があるだろう。むしろ筆者はNASAの月・火星探査へ人々の意識を向けさせて、淡々と将来優位に立てる即応型宇宙技術を目立たずにやっているのでは?と思えるぐらいだ。

◎TACSATのコンセプト
 過去の紙面でTACSATを紹介したが、TACSATは近年までにTACSAT-1〜TACSAT-4まで4種類が開発中である。そのミッションの種類は
 ・ TACSAT-1:秘話インターネット・プロトコル・データ通信実験衛星
 ・ TACSAT-2:1m解像度の光学撮像、データリンク、科学ミッション実験衛星
 ・ TACSAT-3:ハイパー・スペクトラルセンサー搭載の光学撮像実験衛星
 ・ TACSAT-4:移動体データ通信リンクと敵味方識別装置搭載の実験衛星

であり、これらは管制センターでしか衛星をコントロールできない従来のシステムをさらに進めて、現地にて直接衛星を制御・利用できるシステムを構築しようとしている。


TACSAT-1               TACSAT-2

TACSAT-3                  TACSAT-4
(出典:AIAA RS4-2006-4006)

 これらTACSAT技術はまだ開発段階である。そして目指す技術はIP通信、画像撮像、データ通信・中継等という次世代宇宙システムには欠かせない要素技術である。さらにこれらの衛星は従来のように開発製造に数年かかる工芸品型衛星ではなく、航空機のように量産化することを視野に入れているため、徹底した規格化を進めている。例を挙げればユニット&モジュール方式だ。TACSATの目指す将来は同じ衛星を同時期に15機以上打上げるため、衛星バスは量産規格化される。つまり自作PC・LEGOブロック・組立家具を作るような発想で衛星を製造する概念を掲げているのだ。そして規格化&装置化された衛星バスを製造し、目的に応じて「光学カメラ、ハイパースペクトラルカメラ、測位捕捉、データ通信中継等」のミッション機器を搭載(組入れる)する方式を採用している。しかもこれらの装置はインターフェースを規格化し、プラグ&プレイ機能も有しており、それぞれの装置を組み付ければ、衛星バス側の内部ソフトウェアで自動認識するシステムを考案している。


衛星のモジュール化(出典:AIAA-RS4-2006-4003)

 つまり、パソコンで言うマザーボードにPCIボード、AGPボード、ISAボード等を組み付けてPCを立ち上げると、Windows(OS)が自動認識してくれる概念を衛星へ取り入れる発想だ。またTACSATのソフトウェア開発にはIBMやサン・マイクロシステムズ社が参加しているそうだ。

◎TACSAT衛星は2日間で製造
 最近ではプラグ&プレイ機能を持ち、規格化&装置化された衛星製造手法を確立するため、例えば、「1m光学解像度の衛星を作れ」という要求に対応して、工場ではモニターの画面案内に従って、数人の作業員がプラモデルを組み立てるように衛星を製造するツールが開発されている。そしてそれら技術が開発期間から運用ベースとなれば、衛星をたったの2日で製造し、3日間かけて射場へ輸送・打上げをして、軌道上では1日以下で衛星のチェックアウト(機能確認)を終えて7日目には衛星を使用できるようにする。これら驚くべき技術を2010年までに実験しようとNASAの月・火星探査の一方で行われているのだ。


TACSAT実験コンセプト(出典:AIAA-RS4-2006-4003)

これは“衛星を製造しやすいように作り込んでおく技術“を構築しようとしていることを意味し、標準化が確立されれば圧倒的に国際競争力をもったメーカーが誕生するだろう。
軍事目的として開発しているが、将来的には衛星のスタンダードを狙いながら国際競争力ある企業を育成する戦略は見習うべきだろう。日本は軍事技術を見ないようにする傾向があるが、概念やコンセプトという思考方法を学ぶことは決して悪くないはずだ。宇宙開発は決してNASAだけではない。

◎TACSATの運用は?
 TACSATを製造しようとする背景には、従来の大型静止衛星や低軌道の地球観測衛星というシステムだけでは、局地的(被災地や戦場)に必要とされる通信インフラ・現地情報収集のニーズを満たすことが出来ず、「宇宙インフラは使えるが、投資の割には使い勝手が悪い」という問題が実在する。これを克服するため、安価で短寿命(1年)の「安い、早い、上手い」の吉野屋型衛星を製造し、局地的ニーズへ対応するために集中的に大量の衛星を軌道投入させてコンステレーション(群衛星)を構築、衛星間リンク機能も持たせて利用する戦略のようだ。


TACSATの自動運用化(出典:AIAA–RS4-2006-7001)

◎大手衛星メーカーも開発着手
 これらTACSAT開発事情から、大手衛星メーカーの独壇場だった通信衛星や偵察衛星の市場が脅かされる可能性が発生している。将来的には従来の偵察衛星や通信衛星製造需要が減少する可能性は否定できない。このため、実績・既得権益として優位性のあった大手衛星メーカーは、宇宙ベンチャー企業が開発するTACSAT衛星バスやその周辺技術は無視できない存在となってきた。

 
打上時のレイアウト       軌道上展開プロセス
 
6角形モジュール         プラグ&プレイ・アビオニクス・ネットワーク
(出典:AIAA RS4-2006-3006)

このため、ロッキードマーチン社やボーイング社では、モジュール&ユニット型衛星の概念研究を開始している。そして即応型宇宙会議ではロッキードマーチン社が拡張可能式、モジュール型衛星を発表した。
 これはHexPak衛星構造と言われ、6角形のモジュールベイを最小単位とし、この“HexPakモジュールベイ”がそれぞれ組合わさって衛星システムとして成立たせるコンセプトだ。同様概念は東京大学やJAXA宇宙科学研究本部でも検討されているそうで、コンセプト自体は新しいものではない。しかし大手衛星メーカーから見れば、TACSATのように自律機能を持つプラグ&プレイ技術が確立されると、既存衛星はコスト勝負の観点から不利になるため、同社先端研究所のLockheed Martin Advanced Technology Centerが実施している。
 このように次世代へ向けたロッキードマーチン社の衛星概念研究は、規格化されれば将来のスタンダードを狙える事ができ、衛星自身の競争力向上が期待できたる。このため、後追いというやり方は良くないが、JAXA大型衛星の搭載機器の輸入体制脱却を図るならば、これら基本技術は日本として無視できないだろう。2006年即応型宇宙会議では、JAXA陸域地球観測衛星ALOS(だいち)のパンクロマティック立体視センサー(PRISM)はアメリカのGoodrich社が製造したと写真付きで発表されていたそうだ。高機能衛星を目指すのは良いが、立体視センサーの開発が国内企業の育成で開発出来なかった事を残念に思う。


ALOSの光学カメラ(PRISM)はGoodrich社製
(出典:AIAA RS4-2006-5003発表資料)

◎衛星の世代交替
  TACSAT・Linux・JAVAベースの衛星は、一品工芸品で20世紀型と言われる衛星を抜本的に改良するもので、日本でも東京大学や宇宙科学研究本部で研究されている。これら技術的チャレンジが達成されれば、モジュール化が進み、ソフトが統一された衛星が登場するだろう。つまり、一品工芸品生産の衛星製造時代は幕を引き、ロボティクス・トロン・リアルプラグイン機能を有する次世代型衛星が登場するということだ。そうなればモジュール&ユニットによって宇宙システムの修理・補給等が容易となり、宇宙が利用しやすい環境となる。そしてこの標準化活動をしている過渡期が今現在であり、また即応型宇宙活動の核心であると考えられ、華々しいNASAの月・火星探査計画はアメリカの本命ではないと筆者が考える根拠となっている。

◎FALCONロケットプログラム
 過去の誌面において空中発射ロケット等を紹介したが、これらFALCONロケットは2006年現在、ロッキードマーチン社、Airlaunch社、Microcosm社、SPACEX社がしのぎを削って開発中だ。このFALCONロケットの要求は
・ 高度200km、傾斜角28.5度へ重量1000 lbs(450kg)の衛星を$5million(約6億円)で打上げるロケット
であり、各社の打上げ価格は下表となっている


(出典:AIAA RS4-2006-1004)

SPACEX-FALCON      Microcosm-Sprite     Airlaunch-QuickReach
(出典:SPACEX)    (出典:Microcosm)      (AIAA-RS4-2006-2003)

 これは、TACSATの大量打上げ時代へ対応するため、衛星の性能要求とロケット打上げ性能、現状のアメリカ国内技術をトレードオフして弾き出された能力・価格であるが、これらFALCONプログラムに対抗して大手ロケットメーカー等がF-15空中発射ロケット、ミノトウル、ペガサスライト、Hyperion、Eagleなどの固体燃料ロケットが開発中であるが、はたしてOperationally Responsive Space Policy(即応型宇宙活動の運用政策)にて掲げられた要求へ対し、最終的にNASA、アメリカ空軍、NOAA、FEMA等が選択するロケットはどれになるのだろうか?

 過去の紙面で固体燃料ロケットは価格を下げる一方で最終段液体とすれば、複数衛星を軌道投入できるため、国際競争力あるロケットになれると思われるが、液体ロケットについても推進剤の選択と、圧力フィード方式やポンプフィード方式の選択次第では、低価格ロケットが目指せるとしている。
 そうした中でMicrocosm社は、液体の中でも扱い易いケロシン/液体酸素と圧力フィード方式を採用した低価格の液体ロケットを開発している。しかも打上性能を上昇させるために複合材タンクを開発し、液体ロケットであるにもかかわらずLibertyロケットは低軌道へ約1.4tの打上げ性能にも関わらず、打ち上げ価格は約8.6億円、Spriteロケットは約365kgの打上げ性能で価格は約4.6億円と発表している。これはFALCONロケットやTACSATが要求する打上性能(450kg程度)を満たしていない、もしくはオーバースペックのため、大量打上げ需要を確保できるかは不明だが、低価格液体ロケットを実現しているのは事実だ。


推進剤別による特性(出典:AIAA RS4-2006-2002)

◎F-15空中発射ロケットの新コンセプト発表
 対する大手ロケットメーカーも黙って見ているわけではない。大手ロケットメーカーのボーイング社も固体燃料ロケット開発で実績を重ねているオービタルサイエンス社と共にF-15戦闘機を発射母機とした空中発射ロケットシステムを開発、即応型宇宙時代への対応した開発をしている。これらの情報は過去の紙面で紹介したが、2006年4月には新たなコンセプトが発表された。その資料を下図へ示す。


アメリカF-15空中発射ロケット新コンセプト(出典:AIAA RSC-2006)

 コンセプトの大きな変更としては、ロケットが懸架式から背負式へと変更になったことだ。固体燃料ロケットのユニット&モジュール方式による重量バランスを考慮したロケットモータの組合せの結果と、空中発射ロケットのライバルである、Mig-31を使用したIshimロケットとイスラエルのF-15空中発射ロケット動向から、ボーイングとオービタルサイエンス勢は背負式の空中発射ロケットを考案したようだ。
 今回の新コンセプトでは、旧コンセプト型F-15空中発射ロケットと比べてロケットを新調せずにユニット&モジュールを徹底しているようだ。ロケットの第2段目(1段目はF-15)はSR-19ミニットマンICBMの第2段モーターを使用。3段目はOrion 50XLというペガサスロケットの第2段モーターを使用。最終段はOrion38というペガサスロケットの第3段モーターという、全て既存ロケットモータを使用している。


打上げの流れ(出典:AIAA-RS4-2006-2001)

 さらにボーイング社では、DARPAのFALCONロケットプログラムの打上げ性能(450kg)に対応するため、固体燃料ロケットに加えて“圧力フィードの液体ロケット”と“ポンプフィードの液体ロケット”を提案している。これにより、打上げ性能を段階的に上げていく方策を提案している。

◎イスラエルのロケット開発と国際提携
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◎今後のロケットは機能分化が進むのか?
 (エアワールド2006年8月号をお買い求めください)

◎デルタ・アトラスも即応宇宙化
 それは大型ロケットのシステム革新化動向が示している。機能分化時代において大型ロケット側も既存体質を維持していては生き残れないとの事情から、大幅に打ち上げシステムを1990年後半から更新していた。ロケットは新しいエンジンを搭載することだけが開発ではない。最新型のアトラスVやデルタWにおいては、過去モデルである「デルタU/V、アトラスU/V」の名前は引き継いでいるものの、抜本的にロケットのユニット化と打上げシステムの簡素化を実施し、即応型宇宙時代へ対応した打上げシステムを確立している。その例を下図へ示す。

 



アトラスU/VとアトラスVの打上作業の比較(出典:AIAA RS2-2004-8001)

 これは、過去のアトラスU/Vと最新型アトラスVのロケット打上げフローを示したものであるが、打上げ費用のコストダウンを行うため、36あった施設を3つに集約、射場人員も1200名から200名へ劇的に減らしている。さらにロケットの打上げシステムの即応化を進めており、Titan-4Bでは打上げ作業に5ヶ月を要していたが、AltasU/Vでは1ヶ月となっている。一方、アトラスVではインテグレーション時間を50%ダウンし、全体では25%のコストダウンを実現したと発表、さらに即応型宇宙システムの方針に基づき、今後は標準型の打上げ準備作業(組立て棟での整備期間)を2週間、ヘビー型は1ヶ月としながら、さらに将来的にはヘビー型・標準型も24時間以内にして、打上げ時間(整備棟から引き出して打上げするまで)何と8時間を実現可能にするそうだ。聞くところによれば、顧客の要求に応じて標準型は8時間打上げの体制を近年確立したとの事である。


打ち上げシステムの即応化(出典:AIAA RS2-2004-8001)

 このように、FALCON開発という即応型宇宙へ対応した小型衛星打上げロケット以外にも大手ロケットメーカーの即応化は実施されており、アトラスのライバルであるボーイング社のデルタロケットも同様な打上げシステムを確立している。
 これら即応宇宙システムが確立する2010年頃には商業ロケット市場でも優位に立つ可能性が高い。最近の報道では、アメリカの大手ロケットメーカーは商業打上げ需要が冷え込んでいるため、商業打上げ事業はあまりしないという報道が流れているが、実態はしっかりと即応宇宙化技術を構築し、コストダウンされた価格競争力あるデルタとアトラスロケットが開発されていたのだ。したがって商業打上げ市場で圧倒的優位性を誇るアリアン5の商業打上需要を奪い取る可能性が十分あり、アリアンスペース社も抜本的に戦略を練り直してくるだろう。

◎日本の現状は?
 一方、日本のロケットはどうだろうか?現在のH-2Aは、製造数が少ないことと信頼性向上を理由として、打上準備や打上作業に大量人数と時間のかかるシステムで運用している。また国民の目もロケット本体と打上げ能力へ注目が行ってしまう傾向があり、実際に射場運用システムにどれぐらいの時間・人員・コストが投じられているか殆ど明らかにされていない。調べて見ると、アトラス、デルタと比較して下表となっている。

打上げシステムの比較

 この表から考察すると、製造数については金力の差があるため比較すべきではないが、H-2Aにおける射場での打上準備作業はデルタの2倍、アトラスの3倍以上であり、それにかかる費用は全体のコストアップ要因に繋がるだろう。また、衛星を搭載して打上げ作業でもH-2Aでは倍以上かかっている。さらに問題なのは、射場へ投入する人員だ。日本のH-2Aは打上げ最大で1600〜2000人かけているのは、デルタVやアトラスU/Vでは大差は見られないが、計画中のH-2Bではさらに人員が増加する事態となっている。対するデルタやアトラスは、射場要員を200名以下と近代化させている。日本もコストダウンと利用者至上主義を目指した次世代化射場システムを進めるべきだろう。しかし現実は厳しいようだ。計画中のH-2Bでは、現行のシステムをさらに複雑化して時間とコストのかかる打上げシステムを構築する模様だ。あまり言いたくないが、明らかに日本のH-2B開発計画は世界から見て時代遅れコンセプトのロケット計画であると言える。

◎H-2B計画の問題点
 以上のように、H-2B計画は打上げシステム全体で評価をすれば時間のかかり過ぎるシステムであり、将来的に国際競争力のないロケットになってしまうことが明らかとなった。また、先月号で述べたように、H-2Bは国際宇宙ステーションへ物資(水)を輸送するHTVを打上げるために開発中であるが、“欧州・ATV”や“ロシア・プログレス”、“アメリカ・Eagleロケット等”と比較をすれば価格上で“日本のH-2B・HTV”コンセプトの敗退は決定的だ。また、技術的にもH-2Bで新たにチャレンジする注目技術はエンジンのクラスター化によるマウント技術があるが、これも殆どが海外で特許を取られているため、開発の意義はあっても世界から見て先進的ではない。さらに直径5.0mに高出力エンジンを2機配置すると、熱処理の問題が発生することは明らかで、技術的にクリアできるかは微妙である。ただでさえ少ない優秀なロケットエンジニアの人的浪費に繋がってしまわないか心配だ。また、H-2Aにて数を上げて信頼性を獲得したとしても、したころには価格的・射場運用システム的に競争力は低く、H-2AもH-2Bも世界へ太刀打ちできないロケットとなるのが予測できる。ましてや商業ロケットの道も遠いだろう。すでに海外の射場システムは200人体制が確立されつつあるのだ。よって日本は現行のH-2B計画を続ければ、折角の液体ロケット技術は海外ロケットの運用標準から大きく外れて時代遅れとなり、いずれ国として維持することが困難となり、消滅する危険性がある。これは、筆者よりもH-2B開発に関わっている現場の職員が最も感じているのではないだろうか?

◎日本の液体ロケットが生き残るために
 したがって、下表へ示すように射場システムを国際基準に見合うようシステムを新世代し、H-2Bのようなコンセプト力不足のロケットを製造するのではなく、システム近代化とコスト・機能の最適化を目指した世界に対応できるH-2Cコンセプトを考えてはどうだろうか?そして先月号で述べたフライバック技術というロケット再使用技術を取得し、「やっぱり日本は無視できない存在だよな」と言わせる戦略を練るべきではないだろうか?また、国際基準の国産ロケット(標準型)で独自製品を維持し、超大型ロケットは日本一国では需要も大してなく維持も困難なため、液酸液水連合を組んで国際提携で開発して共同製品化する。こうすれば日本独自の技術を維持でき、産業的にも回る体制が目指せる可能性があるかもしれない。
しかし射場システムについては、下表を実施しても「やっと世界へ追いついたレベル」であることを理解しなければならない。現状の種子島射場システムは内之浦射場のような低コスト射場でもなく、宇宙先進国が保有する最新ロケットと比較しても高コスト・大人員型の時代遅れ射場である。さらに地上輸送体制も十分ではないため、抜本的な低コスト射場へ移行し、トータルコストを下げて経済効率良くした国際スタンダードLVS(Launch Vehicle System)にしなければならない。こういうシステムを構築する際には、宇宙関連企業ですべてまかなおうとする談合体質が横行し、一向にコストがさがらない射場となる可能性が高い。したがって、次世代射場をもし建設するならば、オートメーション化を専門とする企業や自動車生産システム(トヨタ方式等)を取り入れた斬新な射場システムを目指すべきだろう。


   H-2A                         世界標準型H-2X

◎日本の宇宙予算は世界第2位
 日本国内では宇宙予算が少ないということを耳にするが、世界における日本の国家宇宙予算は世界第2位であるという事実は殆ど語られない。第1位はアメリカで年間民事宇宙予算だけで1兆円以上を使用するダントツで1位だ。第2位はESA(欧州宇宙機関)であるが、そもそもこれは準加盟国含めて17ヶ国が拠出しているため、国単位で国家宇宙予算を評価すれば、欧州各国を抜いて日本は第2位である。また、中国が第2位という意見があるが、宇宙予算として公的資料が発表されない事と海外資料を見ても明確な数値がない。また、宇宙大国ロシアは日本の宇宙予算よりも少ないのが現状だ。このため、フランスCNESが発表した過去の宇宙戦略レポート(Annual Report)には、「日本は膨大な宇宙予算を消費している割に、成果がよく見えない」とはっきり書かれてしまっていた。

◎コスト・機能のバランスを目指したLVSを
 固体燃料ロケットに加えて液体ロケットでも即応宇宙(Responsive Space)化が進められている実情を紹介した。よって液体ロケットのH-2シリーズも固体ロケットと同様に国際スタンダード化する必要があるのだ。そうした中、時代遅れコンセプトと思われるH-2B計画に加えて、何とケロシン(灯油)/液体酸素を推進剤とするロケット開発をしようとする動きがあるそうだ。しかし5年前に着手していればまだ良いが、今から日本が着手しても技術的ギャップが大きく、ノウハウ取得に膨大な時間がかかり、技術特許料も膨大となった挙句に最新技術は当然開示されないため、ライセンス生産も厳しいものとなる事情が存在し、手をつければ国力消耗型ロケット開発になる可能性がある。
 今後は経済効率を無視し、国際要求基準を大きく外れたロケットを開発することはもう許されない。また射場システムの即応化という必然について行かなければ、商業ロケット市場への本格進出は不可能である一方、高コストの打上げシステムを運用することは納税者の納得も得られない。よって、時代遅れでコンセプト能力の弱いH-2B計画は早急に見直しすべきだろう。

◎ロケット1基に衛星1基時代の終焉
 また、大型ロケットに大型衛星1基〜2基という通例がなくなる可能性が予測できる。静止環境観測衛星(気象衛星等)や大容量通信放送衛星はそのまま存在するだろうが、低軌道の地球観測・データ通信衛星は、規格化・量産化へ向けてロボティクス・トロン・リアルプラグイン機能を有する次世代型衛星が開発中で、既存のデルタ・アトラスのような大型ロケットは、衛星を集団・共同打上げ可能なマルチアダプターやマルチバスのニーズが発生、現在開発中だ。


アトラスVのマルチ型ペイロード搭載装置(出典:Lockheed martin)

 そしてこれら次世代ロケットによって打上げられた大量衛星の補充用として空中発射ロケットが開発されているとも考えられ、恐らく“ロケットの機能分化”と“衛星の次世代化”時代突入の節目を迎えようとしているのだろう。したがって、M-VロケットやH-2Aロケットの後継は、上記の海外事例を見て少なくとも国際基準を満たした次世代化を進める必要があり、小型衛星搭載用の“マルチアダプター”や“複数回使用可能なキックステージを搭載したマルチバス”が必要になるだろう。

◎まとめ
 即応型宇宙会議(Responsive Space 2006)の発表から、アメリカでは数日で衛星を製造するためにTACSAT計画のもと、画像撮像・データ通信中継衛星が開発中であり、ユニット&モジュール型でプラグアンドプレイ機能を有する次世代量産型衛星が開発中であることが分かった。これは20世紀の一品工芸型衛星時代の終焉と、ユーザーイノベーションを目指した衛星であるが、これは次世代のスタンダードを獲り、競争力ある企業を育成する戦略でもあるため、日本も衛星製造手法を抜本的に見直す必要に迫られるだろう。
 また、ロケットは大型ロケットだけを開発する時代は終わり、衛星・貨物・有人という用途に応じてロケットが機能分化される時代に突入する可能性が高いことが明らかとなった。このため、$5mil(約6億円)の小型ロケットが近年開発中であり、空中発射ロケットから固体・液体ロケット等さまざまな格安打上げ手段が開発中だ。デルタ・アトラスも射場システムやロケットシステムの即応化とコストダウンを実施、射場200人体制を実現し、最短であれば8時間にてロケット打上げができる体制を構築、マルチアダプターやマルチバスを開発して次世代化を実現しつつある。
 このようにNASAの月・火星探査という“打上げ花火”の傍らで即応宇宙技術が淡々と開発されている実情を私達は知っておくと同時に、読者の皆さんも即応型宇宙活動が将来において利用的・産業的・コスト的・国際競争的に何をもたらすか想像してほしいと思う。JAXAも時代遅れと思われるH-2B計画よりも、ロケット・射場・輸送システムを抜本的に見直して、コストとユーザーイノベーションを目指したロケット開発をして欲しいものだと切に願う。


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