リサーチ・ナノスペース・ランチ・ビークルシステム:RNSLV=
   多目的(気象観測、UAV派遣、高速機開発、小型衛星打上げ)ランチャー開発競争

  
  
    (エアワールド2007年11月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年11月号」をお買い求めください

 本稿では観測・小型衛星・研究開発ランチャーの利用動向に迫りながら、日本の解決案を考えてみたい。

◎新観測ロケット時代とニーズの変化

 観測ロケットは、打上げてから落下するまでの間にミッションを行うロケットである。これらロケットは、高度数百メートルから最大3500kmまで上昇可能なものまであり、主な利用としては、大気観測・宇宙空間観測に加えて、衛星・探査機という本番打上げ前の技術検証、微笑重力実験、「ヨウ化銀」を搭載して人工降雨させるミッションがある。

 観測ロケットの主な利点は、価格が安く構造がシンプルで高頻度利用が可能だが、その反面飛行特性上、観測域に長期間滞在できない関係から長期的な観測には向かない点がある。このため、観測ロケットはU-2、M-55、WP-3D、WC-130Jなどの高高度航空機や気象観測機に取って変わり、宇宙実証実験もロケットの混載打ち上げに取って代わられ、将来は細々と利用されるという意見が大勢を占めている。しかし、それは必ずしも正しい視点とは言えないようだ。

 
観測ロケットのニーズは意外なところで復活(画像出典:ISAS、NASA)

 ここ最近、観測ロケットの存在価値が大きく見直されるようになってきた。新たな利用価値が見出されてきているのだ。それは、今後の気象激変に向けて対応する機能として、観測ロケットによる従来の気象観測業務に加えて、何と観測ロケットの搭載部にUAV(無人航空機)気象観測機を搭載、そこからUAVが発進して気象観測業務を行うコンセプトがNOAAで開発されているそうだ。観測ロケットの苦手としている長期定点観測をUAVとの組合せで克服するコンセプトである。これら急派型UAVを展開し、その間に本土から本格的な気象観測機を派遣して減災措置を講ずるコンセプトだ。

 また、他の用途としては、観測ロケットを航空宇宙試験機材として利用する動きがある。日本ではJAXAが小型超音速実証機SSTをオーストラリアで打上げた実機がそれだ。超音速機は大気中を超音速にて飛行するが、その速度はマッハ4以上もあるため、従来のタービン型エンジンでは到達できない。より高速のエンジンを作るには、新たなコンセプトが要求されるのだ。超高速機開発は、H-2AやM-Vロケットのように、地上からゼロ加速するのではなく、空気中にある酸素を取り込んで水素やケロシンを燃焼して加速するエンジンのため、推進効率が高い。このため、民間航空機の世界では将来の超音速旅客機、軍事用としてはミサイル、宇宙用としてはフライバックブースターや宇宙往還機などで利用が期待されている。この新世代エンジン開発に対し、価格の安い観測ロケットを加速ブースト利用することで、低価格のエンジン開発をアメリカやフランスなどが実施している。つまり新型エンジンの実験ツールとして観測ロケットを使用しているのだ。


NASA観測ロケットシステム                             NASA観測ロケット射場(NASA)

    
NASA観測ロケット種類(NASA)                     搭載ペイロード(NASA)

 そして最後の用途は衛星打上げだ。観測ロケットを高速航空機から打上げると衛星打上げロケットになるのだ。もともと観測ロケットは低コストのため、航空機から打上げれば、小型衛星・低軌道に用途が絞り込まれるが低コストランチャーになるという、いわゆる空中発射ロケットとして魅力がある。このため、観測ロケット以外でも、空対空ミサイルを多段式にして、2段目を翼ではなくTVC制御にしたピコ・ランチャーも計画されている。これら打上げ機としての分野では、観測ロケットと多段式空対空ミサイルが市場を独占する環境になるかもしれない。

 以上、観測ロケットは「従来の観測任務」に加えて「地球環境異常把握のためのUAVランチャー」、「極超音速実験用への利用」、「(空中発射による)衛星打上ランチャー」と新たなニーズが発生している。このような宇宙利用・研究システムをリサーチ・ナノスペース・ランチ・ビークルシステム(Research Nano Space Launch Vehicle:RNSLV)と言うそうだ。

 
UAV派遣(Aerosonde)                                   超音速機開発実験(DSTO)

スペインの衛星打上ランチャー(INTA)
観測ロケット技術を流用した新たな利用ニーズ

◎RNSLVに必要とされる要素は?

 今後の激変気象対応や技術実験及び衛星打上げロケットに利用できるリサーチ・ナノスペース・ランチ・ビークルシステム(Research Nano Space Launch Vehicle:RNSLV)に必要な要素はいったい何だろうか?次にこれを考えてみたい。

・「繰り返し利用」というより「即応性」

・ ペイロード比率が高い

・コストが安い

・ニーズの多用途化に対応できること

  (詳細はエアワールド2007年11月号をお買い求めください)

 以上、RNSLV(Research Nano Space Launch Vehicle)に必要な要素は、「繰り返し利用」というより「即応性」という要素が必要であり、ペイロード比率が高いこと、コストが安いこと、ニーズの多用途化に対応できることが必要条件であると言える。では、各国が行っているRNSLVの例を見てみよう。

◎将来の気象観測システム開発

  (詳細はエアワールド2007年11月号をお買い求めください)


AREOSONDEと観測飛行(AREOSONDE)
    
空中展開式UAV:SKYLITE(RAFAEL)                        収納されたUAVと飛行想像図(LM)             

◎UAV追跡装置や自動着陸装置の開発も

 また、UAVの追跡管制装置や着陸(回収)装置も用途に応じて様々なものが開発されている。UAVの飛行制御は自律飛行のものからマニュアル制御のものまで多々ある。例えば、気象観測のように長距離を飛行する場合、UAV制御は“通信衛星”を経由するか“現場付近に船舶”を展開して制御するか“管制機を派遣”する必要がある。このため、船舶ではフラット式とホーン式の複合アンテナを装備するものや、航空機ではビジネスジェット機を改造した管制機などがある。

 またUAVの操縦システムも高価なものから簡易式のものまで存在し、固定式と移動式のものがある。ノートPCとゲーム機コントローラーを組み合わせたものが最も低コストのようだ。また、衛星を通じたUAV制御についてもアメリカはすでに確立しているが、日本も旅客機搭載通信アンテナを三菱電機が開発した実績があるため、これらアンテナを小型・低コスト化してUAVへ搭載すれば、実現可能かもしれない。問題はJAXAが開発すると、輸入品&国際基準の価格の数倍となるのが常識のため、NICTか産業技術総合研究所などが環境省や気象庁などと共同で構築したほうがいいかもしれない。場合によっては、国内のラジコンメーカーらと共同で無人気象観測機を開発したり、データ通信衛星を開発する道も考えられる。これら技術が確立された時点で、さらにMEMSチップ等の使用によりさらに小型化して、観測ロケットから気象観測UAVを発進させるコンセプトもいいかもしれない。これら気象観測UAVを展開すれば、気象衛星を最近購入した韓国や、日本のナショナルプレステージを奪おうと画策している隣国よりも先進的・総合的な気象観測システムを構築でき、日本のプレステージ維持につながる可能性は高い。少なくともJAXAの地球観測計画及びUAV開発動向は、戦略性がなく国力維持という観点で見れば国力低下に拍車をかける計画が平然とまかり通っている。

 しかし、これらUAV技術を調査して悲しい現実があるようだ。JAXAが開発していた宇宙往還機HOPEの技術実証機「アルフレックス」は自動着陸実験機だが、追跡管制システムはTRIDENT SPACE & DEFENCEへ外注依頼していたそうだ。また無人機の自動着陸技術もアメリカのAAI社のものをパッケージ購入していたそうだ。国産宇宙往還技術を謳いながら、H-2AやHTV同様に重要な部分は海外企業から購入していたということになる。さらに現在開発中のJAXA無人機もAAIのものを購入、国産開発をしていない。(事実を隠蔽し、自ら開発せずに)膨大な費用をかけてJAXAはいったい何をしてきたのだろうか?と疑問に感じるのは筆者だけなのだろうか?国内技術育成のはずが、実態は輸入品だらけだったという話が多く、非常に情けないと思う。しかもこれら情報はネット上で見つけることが可能なのだ。


船舶搭載用の小型アンテナと取付風景(出典:ジョンホプキンス大学)

UAV操縦システム(レイセオン)                        簡易式UAV操縦システム(RAFAEL)
  
空中管制システムG550(pbase.com)     UAV自動着陸誘導装置(AAI)
  
UAV回収システム(RAFAEL)               追跡アンテナ(DoE)                自動操縦チップボード(PROCERUS)

 しかし、JAXAが国際遅延状態であっても、世界は待っていてはくれない。技術はJAXAを無視して進化を続けている。UAV開発に殆ど手を付けていないJAXAの現状を見れば、他の研究組織や企業が別の次元で開発しなければ、日本の航空宇宙技術の国力衰退に拍車がかかってしまう。世界第2位の宇宙予算を持ちながら、これから世に出すロケットとして不合格である「H-2B、GX、次期固体」にて膨大な国家予算を浪費し、国際市場でコスト高な上に敗色濃厚のHTVという国力消耗型宇宙開発を実施しているJAXAの組織見直しは急務と同時に、小型衛星育成戦略(本誌2007年9月号)で提案した各官庁や研究組織が重量別の衛星バスを育成するという、今後の地球環境激変時代へ備えて気象庁・環境省・NICT・産総合技術研究所・電子航法研究所らがJAXA抜きで気象観測UAVと急派型UAVシステムを構築するのがいいかもしれない。UAV技術については防衛省の防衛技術研究所が開発している話もあるので、宇宙基本法が通れば、民事利用での上記組織との連携も可能になるかもしれない。つまり、JAXAなしで航空宇宙システム構築が可能なのだ。日本のナショナルプレステージ維持のためにJAXAが必要という論理が将来的に崩壊する可能性は十分考えられる。今後の地球環境対策を考えれば、新たな気象観測システムと気象観測UAVと急派型UAVをぜひ検討してほしいと思う。

◎極超音速機技術の開発(ミサイル流用)

 次に将来の極超音速機開発のツールとしてのRNSLV(Resarch Nano Space Launch Vehicle)動向だ。極超音速域エンジン開発は低速では作動しない事情がある。例えばラムジェットならば、速度ゼロではエンジンが作動しないため、あらかじめ加速してから作動させる必要があるのだ。だが、さらに分析すると、開発コスト削減のために廃棄ミサイルや観測ロケットを利用する動きがある。まずは、ミサイル流用型を見てみよう。

 アメリカでは、マッハ2まではNASAのF-15を使用して実験が行われているが、近年ではマッハ2〜マッハ5までは、長射程空対空ミサイルのフェニックスミサイルを流用すると発表している。余談だがこのフェニックスミサイルは、F-14トムキャット用に開発された射程150kmの空対空ミサイルである。このため、引退したF-14を超音速機実験機とし、200発以上引退したフェニックスミサイルを研究開発実験用にNASAが利用する計画だった。


ミサイル流用型の超音速機開発実験(NASA)             F-15にF-14の発射システムを移植(NASA)

  しかし、F-14を民事利用する場合、滞空証明等の取得に1年半かかることが判明したため、技術開発が遅延すると判断し、仕方なくF-14のフェニックスミサイルと懸架発射装置をF-14から取り外し、システムを丸ごとNASAのF-15へ移植するという策をとったのである。下図の写真を見ると、F-15にF-14の懸架装置が取り付けられているのが分かるだろうか?NASAはこのようにして、ミサイルの弾頭を外して超音速機開発実験に利用すると発表している。技術開発・タイムスパン・コスト(目的・費用・効果)のバランスの取れたすばらしい計画ではないか?日本も参考にすべきだろう。

◎極超音速機技術の開発(観測ロケット流用)

  (詳細はエアワールド2007年11月号をお買い求めください)


観測ロケット流用型の超音速機実験(DARPA、JAXA)    観測ロケット利用によるエンジン開発(ONERA)
 
X-51Aスクラムジェット実験機(USAF)

 Boeing社HyFly エンジンの風洞/RNSLV/航空機搭載実験(JHU-APL)

◎RNSLV(Resarch Nano Space Launch Vehicle)構築に各国が動く

 この新世代の超音速機開発において、RNSLV技術が重要な役割を担うと気付いた欧州とロシアは、近年急激にRNSLVの見直しを行っている。聞くところによれば、 ロシアはSS-26のサイズダウン型(SSS-26)をRH-22との組み合わせでRNSLVの構築に動いている。また欧州では、P-80ロケットモータの小型版であるP40の開発に着手、こちらもRNSLV取得に動いている。欧州やロシアには、マルチ利用が可能な観測ロケットが現存しないため、既存のロケット技術をサイズダウンする方向で進めているのだ。

 一方、アメリカは過去の紙面(2006年12月)で紹介したサンディア国立研究所のStripyロケットの拡大案&コストダウン案を検討開始、また民間ベースではかつて利用されたSCOUTロケットの再製版やオービタルサイエンス社がNANOロケット技術を支援して、観測ロケット分野の再生を始めている。さらにATKサイオコール社では高速実証&小型衛星ランチャーとしてCastor-120モータを利用したRNSLVを使用開始している。さらにATKはCASTOR-120を用いた空中発射ロケットCHIMERA計画にて「航空宇宙試験」・「PICO・NANOの混載打上げ」・「空中発射ランチャー」の開発にも着手しているそうだ。そして上段をATKは

@航空宇宙試験モジュール

AMUAV(機動無人機加速分離装置)モジュール

BSmall衛星(小型衛星宇宙上げ)モジュール

CNANO/PICO衛星(混載打上げ)モジュール


を用意し、既存の固体モータを基盤に技術試験・UAV派遣・小型衛星のシングルor混載打上げをして、RNLVSの最終段を液体or固体にしたコスト・能力・量産力・製造適用を目指している。さらにATKはウクライナの企業とも提携、低価格ランチャーの道も探っている。つまりモジュール・ユニット型RNSLVを構築しているのだ。この方法論に基づき、NASAワロップス射場には工作室が用意してあり、実験モジュールを搭載し軽く調整するだけで打ち上げできるように構築されているそうだ。


NASAワロップスの工作室(NASA)

 またATKのライバル?のオービタルサイエンス社は観測ロケット再生の一方でロケットモータのSR-19を利用したRNSLVの開発に着手、宇宙・防衛・気象観測で利用するとし、NASAやUSAFの予算で実施、搭載するMINIサイズ(500kg未満)衛星製造はオービタルサイエンス社とMAGELLAN AEROSPACE社と共同で開発着手、UAVはレイセオン社とAAI社共同で開発しているそうだ。ロケットと衛星のセット体制を整えつつ、衛星打上・超音速機開発実証・気象観測UAVランチャーとマルチ利用可能なコンセプトで開発検討されている。


搭載ミッションのインテグレーション(NASA)

  アメリカはこれらMINIサイズ(500kg未満)に加えて、さらにピコサイズ衛星(1kg程度)のRNSLVを開発中だ。これは中射程空対空ミサイルAIM-120アムラームと既存小型モータをベースに地上発射型多段式ランチャーを検討しており、 開発主体はNOAA・FEMA・USAF合同でメーカーはレイセオンとノースロップグラマン社だそうだ。衛星製造では先日、ナノ衛星(1kg)で打上成功したBoeing社とGeneral Dynamics社が競争しており、UAVもAAI社とノースロップグラマンが競争関係で進めている。また、空対空ミサイルベースということで戦闘機へもRNSLVが搭載可能というメリットを生かし、F-16かF-15を発射母機として、超低価格のナノ衛星(1kg)ランチャーを開発中だそうだ。ナノ衛星は、MEMS実証・新型ソフト実証・工学的実験・教育とニーズが幅広く、先端技術実証用実験室として利用するそうだ。


ATK高速機実証ロケット(ATK)                   AIM-120(Hughes diagram)                                     

 以上、アメリカは高速機試験から高層気象観測・無人気象観測機派遣・衛星打上ロケットまで利用可能、つまり「マルチ利用が可能なRNSLVコンセプト」を開発着手しており、小型から大型のものまで、低コストから高級仕様機のものまで検討・開発している。

◎空中発射で低価格化ランチャーの実現をしながらTSTOも

 気象観測、UAVランチャー、高速機機開発にRNSLVが利用されているが、サイズによっては航空機へ搭載できるため、空中発射ロケットとしてRNSLVを利用、衛星打上げにも使用が進められている。これら航空機によるランチャー開発は、2つの目的があるそうだ。それは、

・ 格安の衛星打上げランチャー

・ 簡易・安価・繰り返し利用を目的としたTSTOへの技術蓄積


である。現在、アメリカ、フランス、ロシアはTSTOの開発に力を入れている。

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Pegasus(OSC)                                                            NF-16D(LMTAS)


トーネード(RPS)      EADS-Astriumサブオービタル機体(EADS)

 だが日本は技術の積み上げという考えではなく、お祭り的にプロジェクトを推進(例えばJAXA-RVTなど)して、コスト概念がなくロードマップも描けずに既存計画の主旨を捻じ曲げて正当化する傾向があるようだ。しかし、上記のようにRNSLVの多用途性による低価格ランチャーの実現というコンセプトが出てきている現在、JAXAの将来計画は抜本的見直しが必要な状況に置かれている。もし日本が、TSTO開発や将来輸送技術開発でゼロからコストをかけて開発するようなコンセプトが発表されれば、それこそ欧米露から「日本は民間宇宙時代も含めて何も戦略を考えてないのだろう」と失笑・嘲笑されてしまう。さらには「戦略というより、研究者の思い入れや趣味で開発しようとしている」と分析されてしまうのではないか?

◎様々な将来のためにRNSLVを利用する発想

 以上の情報から整理をするとRNSLV(Resarch Nano Space Launch Vehicle)は以下のニーズを基本に構築されている。

@ 観測ロケット(気象・環境・災害・宇宙教育)・・・・・・可搬式・固定型(低コスト)(多頻度・即応対応・大量調達)

A テストベッド機・・・・・・技術実証・高速機開発試験(低コスト・モジュラー型)

B UAV派遣ランチャー・・・・・・加速・即応(耐衝撃・空中放出・海上投棄or回収対応)

C Small・ピコ・ナノ衛星ランチャー・・・・・・地上&空中発射・小型衛星需要拡大(安価・大量)

D 航空機発射型利用(次世代・新世代・TSTOへ)・・・・・・簡易・安価・繰り返し利用へ(格安ランチャーをシリーズ化)


 欧米露ではこれらRNSLVベースによる実利用・新規開拓・将来への技術開発・量産化という多目的利用コンセプトにしなければ、国際市場で勝てないと水面下で検討・開発が進められている。もっと噛み砕いて言えばコスモスなどICBM派生型ロケットによる価格破壊時代という、自動車で言えばT型フォード・カローラが登場している時代に、RNSLVは“多用途性のあるジープ”を出すコンセプトである。燃費(打上費)至上主義だけに注視せず、性能・多用途性・価格・信頼性バランスの優れたコンセプトを出そうとする発想がRNSLVなのだ。これらRNSLVコンセプトを欧米露が世に出たら、既存の宇宙システムの淘汰がさらに進むだろう。筆者は、過去の紙面で紹介した混載打上げ動向や本稿でのRNSLV時代に対し、JAXAランチャー計画はすべて不合格だと考えている。ロードマップも将来戦略も描けていない。日本の動向に詳しい海外宇宙技術者も同意見である。

◎RNSLVのベンチマークは日本のSS-520だった

 これらRNSLVが出てきた背景には、日本の観測ロケットが大きな影響を与えているそうだ。観測ロケットは、どんなにあがいても弾道飛行しか出来ず、衛星打上ロケットにはならないという認識が80年代は大勢を占めていた。しかし、ISASは固体ロケットの性能至上主義により、S-520という直径52cmの観測ロケットを多段化させたSS-520を開発した。このSS-520は観測ロケットとしては、高度1000kmまで上昇可能であり、キックモータをプラスすれば、ナノ衛星打上ロケットになってしまうという事実に欧米は気付いたそうだ。このため、NASAではS-520とSS-520と同じコンセプトで、ユニット&モジュール型のTalosロケットを2004年に発表、さらに高度3500kmまで上昇できるHASRロケットを発表している。HASRは多目的ランチャーでユニット&モジュール方式を採用、観測ロケットの高性能化と含めてミノトウルとペガサスの後釜とも見られる。画像を見ると、HASRはミノトウル発射台を利用しているようだ。

 また、日本のSS-520やそれより小さいS-310は高圧燃焼のため、超音速機開発にも使用可能であり、ぜひ使いたいという話がアメリカと欧州で検討に上ったことがある。ISAS観測ロケットを米国内で販売する動きまで起きていたそうだ。しかし、交渉が上手く行かず破談になっり、仕方なくカリフォルニア州の財団が資金を拠出、大学ベースで独自ロケットを開発中だ。ISASロケットは国際市場で出られたのにもったいない話である。

 また、ISASもSS-520やS-310で国際共同開発や有効活用コンセプトを提案したが、ISASランチャーの発展を恐れた当時の科学技術省と旧NASDAの圧力、及び国際動向や固体ロケット技術の潜在性を理解していない宇宙開発委員会によって却下され、コストダウン・次世代化計画は閉ざされ、結局残ったのはNALのSST実験のみだった。国際的には高い評価を得ていたS-310とSS-520はM-V Lite計画同様に旧NASDA(JAXA筑波)の妨害により発展の道を断たれたのである。その間にNASAがユニット&モジュール方式のTalosコンセプトを発表、オービタルサイエンス社らが開発中だ


SS-520(ISAS)                     モジュール型Talosロケット(NASA)                 高度3500km上昇のHASR(NASA)

 世界はISASコンセプトを徹底分析、観測ロケットをベンチマークにしてRNSLV計画を練っていたのだ。今後、コスト勝負時代に備えて衛星が小型高性能化するため、安価な観測ロケット技術を基盤にした衛星打上げロケットが勝利する時代に欧米は気付いているのだ。また、旧ソ連の低価格ランチャーであるICBM派生型ロケットに対抗するには、衛星打上用だけではなく、気象観測・無人気象観測機派遣、高速機技術実証にも使えるコンセプトが必要で、量産・シリーズ化させたRNSLV(Resarch Nano Space Launch Vehicle)が良いという判断をしている。そうしなければ、一品工芸品型の宇宙開発体制を脱することができないからだそうだ。つまり、90年代にISASと旧日産が提案したコンセプトがさらに色を付けて世界潮流になりつつある。日本は世界へ対抗できるコンセプトをもっていたのに、当時のNASDAとISASの対立によって、国際的地位を事実上落としたのである。現状は当時のNASDAが数の論理で圧制を布いている状況だが、今後はNASDA/NAL・ISASの対立を止める必要がある。そして、次世代観測ロケット戦略もしくはRNSLV戦略を練る必要があるのだ。

◎高級化した日産製観測ロケット

 しかし、日本の観測ロケットに問題がないわけではない。ISASの観測ロケット価格は“安いはずが高過ぎる」という問題がある。製造元の旧日産(現在のIHIエアロスペース社)の観測ロケットは、工芸品製造のため量産化がきかず、観測ロケットは一括製造が常識なのに分担製造している。さらに産業化コンセプト不足も加わって異常価格なのだそうだ。一説では、高性能の観測ロケットであるSS-520は3億円と破格だそうで、国際価格の倍、いや5倍以上するそうだ。世界は今、RNSLVを開発して高層気象観測・無人気象観測機派遣・(TSTOまで含む)衛星打上ロケットまで利用するという「多用途・多頻度利用・低コスト」コンセプトを目指している時代に、日産ロケットはコンセプト的に優位な位置にいたにもかかわらず、国際動向を分析できずに新しいコンセプトも出せず、みずから自己崩壊の道を歩んでいる。現在のIHIエアロスペース社には、世界潮流へ回帰するコンセプトを描く優秀な技術者がもういないのかもしれない。折角良い技術をもっているのだから、RNSLVや宇宙の担い手が官から民へ移行するOPEN SPACE時代へついて行かなければ、いずれ国内で格安固体宇宙ベンチャー企業が出現し、「IAの固体技術維持」という大義名分が崩れる時代が遠からずやってくるであろう。今のうちに、

・ 量産コンセプト(国内需要から国際需要対応)

・ NANO・PICO衛星ランチャー

・ 気象観測機(UAVセットランチャー)

・ 超音速機開発試験ロケット

・ 国際提携とコスト・コントロール


というコンセプトを描き、今ある技術を次世代化させてRNSLV(Resarch Nano Space Launch Vehicle)を構築、国際商品化を目指しながら、生き残りコンセプトを目指す必要がある。輸入品で国産技術でもないH-2AのSRB-Aブースターでは将来がないからだ。例えば、過去に旧日産が発表したAL-520ロケットで、航空機はC-130、CX、C-27Jで将来のTSTOを目指したセミTSTOをやってみる方法がいいかもしれない。無駄なコストをかけずに発展性のあるロードマップとビジョンで世界潮流へ行く発想が必要だろう。また、過去に示したように、推薬の低融点化・低毒化や複合材料モータケースの開発をして、性能向上とコスト削減を目指さなければ、先がないだろう。現状のJAXAでは戦略性が極端に乏しいため、やはり将来的に宇宙基本法を通して内閣府戦略本部にて検討すべきだろう。


AL-520(ISAS)

◎RNSLV時代にJAXA-RVTはお呼びでない

 表題の通りである。報道によればJAXA-RVTは100億円かけて再使用型観測ロケットを開発し、100回再使用するそうだ。これら知見を将来の宇宙往還機技術へ結びつけるそうだ。

 一見すると、それらしいように聞こえるが中身は1990年代に得られた知見によって、「公的機関が開発するものではない」と結論を下したアメリカのDelta Clipper計画とそっくりである。つまり、日本の国家宇宙機関を代表するJAXAは、過去の知見を無視して時代逆行すると発表したのと同然である。

 Delta Clipper計画は、1961年から構想がスタートし、DC-Y、DC-X、DC-XA、DC-Liteと流れを作ったが、用途・目的・利便性などが逸脱しており、審査の結果、公的機関では開発するものではないと結論付けられ1990年代後半に完全中止された。大手メーカーも開発は時期尚早だったと公式に求めている。このため、技術に惚れ込んでしまったエンジニアは、民間ベースでサブオービタル機を開発しているものの、すでに垂直離着陸型の問題点を理解したX-CORE社はコンセプトチェンジした。また他の民間企業では、ブルーオリジン、TGV-Rockets、アルマジロアエロスペースなどが開発しているが、“観測ロケット”や“宇宙旅行用”と言うよりも“月着陸機用”として開発が進んでいる。民間開発のコンペティションであるXプライズカップでも月着陸を想定した“Lunar Lander Challenge”として2006年に開催されている。つまり垂直離着陸機(JAXA-RVT)を観測ロケットとして使用することは誰も(海外は)想定していない。上記で示した、NASAが日本のS-520やSS-520コンセプトを真似てTalosを発表している背景や、HASRロケットの上昇性能(高度3500kmまで可能)を見てもJAXA-RVTはコンセプト的に敗北しているのではないか?

 また特許も問題だ。JAXA-RVTコンセプトはすでに多くの特許が取得されており、最新動向ではMICHELLE-Bでは、展開翼型RVTが提案され、空軍研究所でも垂直離着陸コンセプトのパテント取得情報がよせられている。


民間開発MICHELLE-B(TGV-Rockets)                                                                Micro-X(AFRL)          

    民間開発Pixil(Armadillo)                              民間開発Goddard(Blue Origin)                           RVT(JAXA)

 また、これら再使用機RLV(Reusable Launch Vehicles)を実際に開発した方面からの情報では、現状の技術ではコストバランスが取れない問題が発生し、再使用と言っても 燃料タンクを使い捨てにするしかない事情があり、複合材料タンクも10回がいい所だそうで、スペースシャトルの複合材タンクも10回に1回交換しているそうだ。また再使用機は補修交換費が増すことと、バルブなどの交換が重なり、リペア代が膨大となる問題を抱える。さらにDC-Xの問題ではスタンドなどの偏磨耗(脚が折れる)の問題が発生、再使用機を製造するにはまだまだ未解決な問題が沢山しているそうだ。このため、バルブのコストダウンと長寿命化技術が必要になるが、再利用に耐える金属技術である合金は希少金属に依存しなければならず、コスト・メンテナンス性・ターンアラウンドが極度に悪くなる。

 これら知見から考察すると、日本はRLV(RVTなど)を実現する基盤技術がまだ未成熟だと言える。複合材タンクでさえ国産技術が弱くバルブも輸入品だ。国産技術取得と称して結局は海外から(重要部品は)輸入という事態になりかねない。またエンジンの性能(推力重量比)も悪い。

 さらに、使い捨て型(RNSLVや観測ロケット)は超音速試験・気象観測・UAV派遣、大気圏試験など多用途化が可能であるのに対し、JAXAが提案する再使用型のRVT観測ロケットは「用途制約」が多い。さらにRVTはペイロード使用率が非常に悪く、1.5%がせいぜい観測ロケットのペイロード比が9%前後であることも考えると、コスト・ミッション・汎用性(マルチ対応が不能)の観点から意味が無いと分析でき、観測ロケットとして「お呼びでない」と考えられる。RNSLV時代に対応できない挙句に、観測ロケットの技術トレンド遅れにも拍車がかかり、国力消耗型開発に陥る可能性が高い。

 国際的なRNSLV動向や日本の将来戦略を考えれば、新世代に移行する時代に日本は研究者の個人的な野心で寄り道をしていると分析できないだろうか?折角、S-310、S-520、SS-520という国際的にベンチマークされている観測ロケット技術があるのに、それを生かしきれていないのが現状だ。再使用機開発を否定するつもりはないが、日本は実機を作る知見がまだまだ不十分なのだ。米国複合材料タンク会社へ購入依頼をして、H-2AやHTVやアルフレックスのように、「国産と断言できない」ことをせずに、日本はじっくり技術開発したほうがいいのではないか?

◎まとめ

 宇宙システム開発は、たとえ見通しがついていても、“必ず”と言っていいほど残り数%の壁にぶちあたり、この壁を乗り越えられずに敗れ去っていった例が多くあるそうだ。この壁を乗り越えるには過去の知見が重要な要素を握る。このため、欧米露ではゼロから開発することをやめ、既存技術を組み合わせて、“速く・安く”作り上げる手法こそがすばらしいという認識となりつつある。上記で説明した「高速航空機+キックステージ+無人機化=TSTO」がそうだろう。打ち上げ能力は制約されるが時間的・技術的・コスト的に最も早く達成できる手法である。すでに欧米露は動き始めている。

 また、RNSLV(Research Nano Space Launch Vehicle)を構築、安くて量産が効いて簡易構造の観測ロケット技術をベースにユニットとモジュールの組合せで多目的ミッション(気象観測、UAV派遣、高速機開発、小型衛星打上げ)を実施する動きがある。RNSLVは、性能・多用途性・価格・信頼性バランスの優れたコンセプトを狙うものであり、これら国際動向からJAXA-RVTは「お呼びでないコンセプト」であることが分かった。JAXAは戦略ロードマップを描くよりもイベント・お祭り的な宇宙プロジェクトを推進しているようだ。日本は再度、観測ロケット技術の徹底的見直しと、将来輸送技術確立のために“コストを意識した現実的なロードマップ”を作りRNSLV構築を図ることが今後必要だろう。

 日本は高速試験機・高層観測・SS-520へキックステージ追加による衛星打上手段を提示しながら脱落している。初代宇宙開発者世代の偉大な成果に慢心し、堕落・思考欠如してしまった宇宙開発委員会の責任は問われるべきだろう。また大型宇宙システム豪華主義のJAXAも国際的に見ればレベル低下が進みもはや限界である。宇宙基本法によってJAXA組織の全面的な見直しは、国益と科学技術立国の観点で見れば必須であろう。将来設立される内閣府宇宙戦略本部による宇宙活動法制定が1つのハードルとなるだろう。


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