宇宙公共事業から産業宇宙事業へ(ガバメントからプライベートへ)
        (エアワールド2007年12月号抜粋):詳細は雑誌「エアワールド2007年12月号」をお買い求めください

 本稿では、過去の誌面から標準宇宙システムの動向を整理し、本質に迫りながら内閣府宇宙戦略本部を中心に新しい日本の宇宙組織体制も検討したい。

◎宇宙システムの標準化の加速

 各国では、様々な衛星ミッションに対応できる標準衛星バスを開発、衛星製造の短縮化によるコストダウンと早期ミッション達成を目指している。例えば、フランスではMYRIADEバス(150kgクラス)とPROTEUSバス(500kgクラス)に絞り込んで巧みにサイエンス・地球観測・軍事という様々なミッション装置を搭載、打上げている。日本よりコストをかけずに多くのミッションを実施しているのが現状だ。


フランスはMYRIADEとPROTEUSの組合せで様々なミッションを達成
(CNES)

 技術の世代交代を進めるためには、数多くの宇宙実証実績を挙げておく必要がある。なぜなら宇宙部品は修理が効かないため、壊れないためにも一定の信頼性が要求されているからだ。このため、実績のある部品を採用して信頼性を確保するという論理が先行し、宇宙部品の世代交代が一向に進まないという問題が発生している。具体的には、電子機器メーカーは携帯端末機器で生産が追いつかないにも関わらず、宇宙部品のために、わざわざ旧式の製造ラインを確保して宇宙用半導体を製造しなければならない事態が発生している。古い技術なのにコストは倍以上という、宇宙部品は最新というよりも、“古くて実績があって信頼性があるが高価”という論理で進行しているのが現状だ。

 これら現状を打破するため、近年では民生技術を積極的に取り入れて衛星構成部品のミニチュア化・低コスト化を達成しようと活発化しつつある。だが、唐突に巨大宇宙システムへ組み込んではリスクが高いため、アメリカでは様々なサイズの衛星を製造して打上げている。当面は、新たな技術習得のために小型衛星開発の動きは活発化するだろう。


小型衛星の拡大(大型は倒れるという意味か?)(出典:Small Sat Workshop)

◎今後は民生技術の台頭により小型化が進む(標準衛星バスのサバイバル)

 各国では標準衛星バスをベースに、さらなる高性能化とコストダウンを視野にユニット・モジュール型の「組立式衛星」の開発を進めている。これらの流れが進めば、各国衛星バスの優位・劣化(淘汰)が生まれてくるだろう。現在の標準バスの優位は下表となっているが、今後各国がどのような標準衛星バスを出してくるのだろうか?

 だが、日本はJAXAが一品工芸品の衛星開発を奨励しており、国際的に認知されている日本の標準衛星バスは静止衛星用のDS-2000しかない。周回型衛星については、曲がりなりにも情報収集衛星で採用されているSERVISバスがあるが、国際的認知はほとんどなく、ミッション目的に合わない標準バスを採用しているため、コストをかけた割りに性能は大したことないという意見が大勢のようだ。このため、標準バス開発競争に日本は大きく出遅れている。これには、スーパー301条が背景にあるという意見があるが、技術開発目的は適用除外にもかかわらず、JAXAは標準バス開発をろくせず、意図的にコストのかかる工芸品製造を奨励した。つまりJAXAは日米協定を「拡大解釈」していると見られ、結局はコストをかけ、主要センサーや部品は輸入品で、国際トレンドを外れた衛星開発を奨励しているとも分析できる。CNESの開発したMYRIADEが官で開発されているにも関わらず、なぜ商業販売できているのか?をじっくり分析してみると良いだろう。これ以上のヒントは今回避けておく。

 一方で測位衛星は1000kg以下を目指す時代に、JAXAが中心となって開発する測位実証の“準天頂衛星”は、噂によれば3000kg以上で製造され、主要部品は輸入品だそうだ。明らかに設計コンセプトが古いか、国際常識外れでありこのまま製造すれば嘲笑される可能性が高い。計画のやり直しが必要だろう。また地球観測衛星も同様だ。JAXA地球観測衛星計画は、国際トレンドを大きく外れている。ALOS(だいち)やGOSATを出すJAXAに対し、フランスはMYRIADEとPROTEUSバスで対応している。自国ランチャーにはこだわらず、ミッション数もJAXAの倍以上デビューさせている。この“日本とフランスの差”の対して、NASA内部では 「マンモス・公共事業型の日本JAXA」と「スマート・民間事業型の仏CNES」と表現されている。


画像出典:JAXA,CNES,IAI

 しかし、JAXA衛星開発の技術的・トレンド的遅れに世界は待ってはくれない。最近の報道では、カナダとスウェーデンがナノ・ピコ衛星技術をビジネスとして派生するまえに発生する“デスバレー現象”を解消するため、様々な国際提携をしてコスト効果のある小型衛星システムを目指すとしてCANEUS−NPSミッションコンセプトを掲げて、将来の市場確保へ動いている。

 これら欧米動向に加えて中国、ロシアが相次いで小型衛星を積極的に打上げて、先進的技術を取得すると報道されている。ロシアは将来の商業市場を視野に衛星を小型化・軽量化・低価格化する方針を発表。中国も小型衛星開発企業のイギリスSSTLから、技術移転を受けると発表している。大型一辺倒だった路線から、小型衛星のもつコスト優位性、技術的先進性、ターンアラウンドの良さに気付いたのだ。しばらくすれば、インドも方針転換してくるだろう。

 世界が小型衛星の優位性に気付いた背景には、民生技術が宇宙でも適用レベルに達してきていることがまずある。例えば、物理的インターフェースはUSB接続や欧州リンク規格等、ソフトウェアはJAVAもしくはLinux等、電子部品も携帯端末機器部品などが宇宙環境適応試験に合格してしまう例が多くなってきているという。この民生技術の台頭により、従来の“古くて実績があって信頼性があるが高価”という路線から脱出しようとしているのだ。そして衛星の高性能化・小型化が実現できる道筋が次第に見え始め、衛星をゼロから設計して製造するのではなく、ユニット&モジュールの組合せという“組立衛星”という概念が生まれつつあるようだ。

 具体的には、衛星の姿勢検知の担い手である“スタートラッカー”は、CCDやCMOSの登場と電子基板の小型化及び民生部品の使用で、重量は500g以下で製造されており、日本が独自開発したものよりも、圧倒的に小型化・軽量化されている。軽くていいもので実績があるならば、当然売れるだろう。これら技術が次第に拡大すれば、衛星システムの価格破壊がいずれ始まることは容易に予測できる。

◎必然的に、ユニット&モジュール化が進む。その先にはモジュール型衛星

 宇宙部品の小型・軽量化が進むと、小型衛星でも様々なミッションが出来るようになる。そして各国は“より小型”で“より高性能”の衛星を作ろうとする動きが出てくるだろう。そのいい例が地球観測衛星だ。民事用の地球観測衛星は、イコノス、クイックバード、EROSシリーズ、TOPSAT等が歩んでいる技術トレンドは、軽量化・高性能化の流れである。

 そして衛星の小型化を進めると、今後は余計な装備を搭載することは許されなくなり、目的・費用・効果の最適化により、モジュール&ユニット化を進めざるを得なくなり、衛星はコスト度外視路線からコスト適正化が進んでくるだろう。また、コスト適正化が達成されれば量産の道が広がる。また海外の宇宙技術者の意見では、今後の技術トレンドは「モジュールユニット化=MEMS化が目的となる」と指摘している。具体的に、イスラエルでは、高解像度地球観測衛星の最新版EROS-Cが開発中だが、構造体はEROS-Bのそれを流用しているそうだ。しかし電子機器系の中身はMEMSが多く採用され、内部システムはさらに小型化・軽量化されるそうだ。

 これらの技術革新が進むと、大型衛星が高性能・高価というクラス分けや識別論理が崩壊する。そして標準化部品、センサーのモジュール化、標準筐体モジュールなどが台頭してくるだろう。このため、「機能優先・コスト・量産」という概念をもたなければ、衛星の普及時代にメーカーが生き残れなくなるのだ。だが、ユニット・モジュール化が進むと言っても、それは容易なことではない。ユニット・モジュールシステムの知見取得には時間がかかる上に、実績を挙げなければならず、アメリカでも失敗例があるそうだ。よって小型衛星を開発して知見を得ながらじっくりモジュールコンセプトをまとめる体制が必要だろう。

 しかしJAXAでは、“小型衛星=ミッション達成度が低い”と定義をしたがる傾向が強い。だが、小型衛星の国際会議では“Small Satellite≠Small Mission(小型衛星≠ミッションが乏しい)”と明確に示され、JAXAの認識不足が伺える。世界は明らかにJAXAの論理を上回る次元で技術開発が進み、これら技術が習得されれば、大型衛星だからと言って、コスト高でもいいという論理が許されなくなる時代がいずれやってくるのだ。この時点で、JAXAは国際的に外れるため、国策的・技術優位的に国として維持する理由がなくなり、解体がより進むのではないか?若手技術者が路頭に迷わないためにも、時代遅れのJAXAとは違う次元で、ユニット・モジュール型の組立衛星を追及できる組織を筑波宇宙センター以外に設立したほうがいいだろう。現状の筑波宇宙センターはコスト志向がなく、試験設備維持に無駄なコストがかかっている上に、H-2B、GX、HTV、国際宇宙ステーション(ISS)という、国際トレンドを外れているか、世界の本主主流ではないプロジェクトを進行させて国家予算を浪費している。不良債権という言葉は言い過ぎかもしれないが、知見を得るにしても無駄にコストかけ過ぎ組織なのだ。予算が多過ぎて肥大化した組織よりも、予算が少なくてもやることが多い組織を維持したほうが、少子高齢化によっていずれ税収減が見込まれる日本にとって、最善の策ではないか?少なくとも、宇宙基本法によるJAXA解体と組織再構築は、国際動向から見れば避けられないだろう。見世物的な計画しか発表できず戦略性のない組織は日本として必要なのだろうか?いずれ構築される内閣府宇宙戦略本部で、衛星技術の世代交代に対抗できる組織構築と企業育成策を期待したい。

◎衛星量産時代に対応したランチャー(モジュール・ユニットランチャー)

 これら衛星の世代交代に備えて、ランチャーも世代交代・整理統合の時代がやってきている。まず、2007年9月号で説明したように、ロケット1基に衛星1基という時代から、混載打ち上げ可能な仕様を目指す動きが活発化してきており、DELTA-IVやATLAS-VやK-1等にはESPA(EELV Secondary Payload Adapter)が、MinotaurやFALCON-1等にはP-PODが搭載及び計画され、複数衛星をロケットへ搭載しても、振動・音響の干渉を防いで最適搭載させる自動計算システムも確立されている。もっと噛み砕いて言えば、今までのロケットは、衛星搭載が煩雑だったが、今は複数の衛星を簡単に搭載できるよう自動システムが確立されたということだ。

 これら混載打上げシステムが確立されつつあるため、混載システムがないランチャーは淘汰が進む可能性が高い。なぜなら購入者側の判断要素としてランチャーシステムには「機能・能力・価格」が追及されるからだ。どこかの国のように、国産維持と称して実は重要部品・ソフトが輸入品でコストもろくに下がらずに国際動向からも外れたロケットを基幹ロケットとして位置づけている摩訶不思議な宇宙システムは、間違いなく今後生き残れない。

 以上、今後のランチャーは大艦巨砲主義ではなく「機能・能力・価格」が追及される時代となる。日本は相変わらず“信頼性”という言葉を使って本質を追及しないが、今後のロケットには、“混載システム”と“自動搭載計算システム”が必要になるだろう。


2004年DELTA-IVにてESPA試験を実施(AWST)   P-PODは国際標準になった(Calpoly)

◎ロケット再使用時代へ向けた宇宙先進国のTSTO規格統一動向

 ロケットの混載打上げ時代に対し、完全使い捨てロケットをやめて一部再使用を目指し、繰り返し利用による打上げ手段のコストダウン追求が活発化してきた。まずは、2007年5月号で示したようにTSTO(Two Stage to Orbit:2段式宇宙輸送機)の開発は、ロケット1段目にはロケットエンジンの他に航空機エンジンを搭載し、燃焼終了後は航空機のように地上着陸回収するコンセプトがロシア・フランス・米国という大型ロケット開発国間で規格統一されつつある。フランスがEVEREST、アメリカはSPACEWORKS-ARESやHLV(Hybrid Launch Vehicle)、ロシアがバイカルコンセプトである。そして2段目以降は使い捨て(部分再使用型)のものもあれば、回収式(完全再使用型)もあり、まずは1段目の規格統一をすべく欧米露で話し合われているようだ。打ち上げ能力レンジは異なるが、双方にとって負担・障害にならない範囲で技術を規格化する動きはすばらしい。打上げ手段として新世代ランチャーの国際的地位を確保するための戦略なのだろう。ちなみに、これら規格統一の動きに、H-2Aという大型ロケットを保有する日本のJAXAは呼ばれていない。将来輸送機を検討するコミュニティーにJAXAはお呼びでないそうだ。RVTやSpace Ship Oneもどきの計画を見て「将来戦略思想が著しく欠如している」と判断しているそうでJAXA宇宙基幹システム本部へ対する国際的評価はかなり低い。

そして、2007年5月号発売後の報道では、フランスが25回まで再使用できるロケットエンジンを開発する報道があった。ロケットエンジンはアリアン5の1段目エンジンVALCAINE-2をベースに開発するそうだ。どこかの再使用観測ロケットのように100回再使用という、知見も技術蓄積も不十分なもとで計画発表するのではなく、得られた知見をもとに見世物的ではなく確実に戦略的積み上げをするフランスはすばらしいと考えている。これら動向から見れば、技術積み上げによる“コスト最適な”ロードマップを描けないJAXA宇宙基幹本部の戦略の甘さは、存在意義そのものが問われるのではないか?


 露バイカル(Russian space web)        仏EVEREST(CNES)     米HLV(Northrop Grumman)
TSTOへ向けて米露仏で規格統一する動きあり

◎小型衛星専用ランチャー(コスト低減)としての空中発射

 このTSTO(2段式宇宙輸送機)の開発はJAXAのように“技術開発主体”で行われているわけではない。TSTO開発にはコスト的・技術的に成立することが前提条件となっている。したがって、TSTOを“唐突に建造”することは無謀であり、当面はCNESのように100回ではなく25回再使用可能エンジンの開発や、エンジン自身の性能向上、製造手法の簡易化、希少材料利用の低減開発、無人機開発などが行われ、来るTSTO実用化へ向けて着実な積み上げ開発が実施されるだろう。

 だが、TSTOという再使用型ロケットの開発を目指すのは大切だが、ニーズ的観点で見れば低価格打上げ手段の待望論は実在する。このため、TSTOの1段目を既存航空機(F-15、F-16、F-18、Mig-25、Mig-31、TND、グリペン、C-17、C-5、An-124、B-747)に置き換え、そこからロケットを空中発射して、打上げ手段のコスト低減を狙う動きが出てきている。これは技術的ハードルが高くなく、開発コストも低く、比較的短期に構築できるからだ。金をかけてゼロから作るよりも、目的・費用・効果が高いとも言えるだろう。

 これら既存航空機を用いてロケットを打ち出す概念は、低軌道向けである上に小型衛星程度しか打上能力がないため、使用可能範囲は極めて限定的という意見がある。またロケット1段目として見た場合に、加速・ブースト能力として既存航空機は「能力不足」であることは否定できない。

 しかし最近、既存航空機に小型のロケットモータを取り付けてロケット1段目としての仕事を担うコンセプトが米国と欧州で計画されている情報が入ってきた。既存航空機にロケットモータを取り付ければ、高度40km以上か速度マッハ3以上は出せるとのことで、ロケット1段目としての仕事が達成できる可能性が高いそうだ。そしてその戦闘機を無人化させ、既存航空機搭載のロケットモータでブーストさせれば、事実上のフライバックブースターとなる。そして高高度からロケットを打上げるのだ。ロケットは先月号で説明したマルチ利用が可能なRNSLVがそれにあたるだろう。また、日本で空中発射ロケットを検討しているUSEF(無人宇宙実験システム研究開発機構)の「マイクロ衛星打ち上げ用 空中発射システムに関する調査研究報告書によれば、空中発射は打上げ時の空気抵抗に加えて重力損失も小さくなるため、より効率的な打上げ手段になるという計算結果を発表している。

 つまり、ゼロからフライバックブースターを作らずとも、既存航空機(戦闘機)をベースに固体ロケットブースターと無人操縦システムを組み合わせれば、打ち上げ能力が限定的だが、

・ 低コストの打上げ手段になる

・ 部分再使用型の打上システム(フライバックブースター)


が短期的に確立できるということだ。そして衛星側も技術革新を続けている。このコストがかからず技術的に着実な方法論で米国はNF-104、F-16で検討開始、欧州はトーネードで多国間協力しようという動きがある。NF-104は、1963年に高度約38kmまで上昇した実績があり、程度の良いF-104を入手し、搭載推進装置を更新すれば、高度約100kmまで上昇可能という発表が2006年9月に発表された。そしてロッキードマーチン社のスカンクワークス出身のメンバーが独立して「宇宙旅行と小型衛星打上げ事業(ロケット・スターフライヤー)」を発表している。これは、過去の実績をそのまま利用するもので新規性はないが、「これがTSTOへのステップアップとして使える」という考えが生まれたようで、これに刺激されてか、F-16に小型モータを取り付けて事実上のフライバックブースターを目指す方法や、欧州がトーネード可変翼機にロケットエンジンを取り付ける方向で検討しているそうだ。恐らく、ロシアも同じことを考えているだろう。打ち上げ能力が限定されるが、既存航空機(特に戦闘機)はコストの安い小型衛星ランチャーとして今後期待できるかもしれない。


NF-104(General Kinetics)

 また、搭乗できる人数は限定されるが(パイロット1名、乗客1名)、これら既存航空機(戦闘機ベース)にブースト装置を搭載すれば、高度100km上昇の宇宙旅行機体としての利用も考えられる。事実、NF-104はサブオービタル旅行ビジネスも計画中と発表されている。上昇できる高度によって地球の見え方は随分異なるので、バージンギャラクティック社やロケットプレーン社が開発するサブオービタル宇宙旅行機と比較することはできないが、NF-104やF-16(NF-16D)やトーネードは、宇宙旅行用パイロット育成機としても利用価値があるかもしれない。事実、NF-104は宇宙飛行士育成用機体だったのだから、、、。


NF-16D(air-and-space.com)            トーネード(ilvolo.net)

 以上、短期的に既存システムを用いて空中発射式ランチャーを開発し、低コストの打上げ手段と、将来のTSTO(2段式宇宙輸送機)へ向かうための知見を得るべく、アメリカとヨーロッパがコンセプトを急速に検討している情報は興味深い。さらに議論を重ねると、「EADS-Astriumのサブオービタル宇宙旅行用の機体は、弾道飛行宇宙旅行も目的だが、フライバックブースターの先行研究の意味合いもある」という興味深い話を聞いた。確かに、先日発表された機体を無人機化し、窓を無くして燃料タンクを大きくすれば、フライバックブースターになるのは事実である。商業宇宙開発を謳いながら、賢く新世代技術を追求するEADS-Astrium社の考えはすばらしいと考えられないだろうか?


商業利用をしながらフライバックブースターの先行研究も含まれている(EADS)

◎TSTOを目指しながら、RNSLV戦略も立てられている

 フライバックブースター開発の一方、上段の小型衛星打上げロケットとして、そして気象観測、UAV派遣、高速機開発としてRNSLV(Research Nano Space Launch Vehicle)の利用が検討されている。つまりTSTOへ搭載されるロケットは、衛星打上専用的なロケットを開発するのではなく、マルチ利用可能な仕様で開発されているのだ。恐らく、その理由は量産をかけなければコストが下がらないという論理があるからだろう。

 このRNSLV構築戦略は、

「既存のNASAが保有する “Terrier Malemute”、“Nike Orion”、“Black Brant XII”、“Terrier Orion”、“Orion”、“Black Brant IX”という6種類の観測ロケットをベースにユニット・モジュール化を整理して次世代化させる案」

「既存のロケットモータであるSR-19(Mod3)やCASTOR-120の組合せでATKサイオコールが開発したALV-1を極超音速実験や小型衛星兼用ランチャーとして使用する案」

「完全新規開発でHASR(High Altitude Sounding Rocket)を開発して最終段(プラグインランチャー)を用途別でモジュールを交換利用する案」

が検討されている。これら複数の固体ロケットモータを組み合わせることで、「サイズ別衛星打上げロケット、気象観測、大・中・小型UAV派遣、極超音速機開発」という様々なミッション対応を狙いながら、開発・運用コスト低減を図る戦略を立てているようだ。しかも衛星打上げロケットは、地上打上げと空中打上げ双方で使用可能なものが検討されている。これは賢い戦略と言えるだろう。目的別に専用ランチャーやシステムを構築するのではなく、ユニット・モジュール的な概念で組み合わせる発想をもっているようだ。

 これは、日本の次期固体ロケット計画の問題点が露呈しているかもしれない。JAXA宇宙基幹システム本部(旧NASDA)は“謀略”と“国際的に非常識な論理”でM-V抹殺を図ったことは、過去の誌面で述べたが、その後継となる次期固体ロケット計画は、“衛星ランチャー”としてしか定義しておらず、さらに観測ロケット計画もRVTという国際的にもお呼びでないコンセプトで進めようともしており、小型衛星打上、気象観測、UAV派遣、高速機開発というマルチ利用へ対応した観測ロケット・次期固体コンセプトはJAXA内では検討されてない。もはや特定目的へ絞り込んだ固体ランチャーを作る時代ではなくなったにもかかわらずだ。よってJAXA組織の謀略も問題があるが、JAXA組織そのものも限界を示しているのではないか?このままでは、世界から遅れる一方だ。今後は、内閣府宇宙戦略本部で、コスト削減とマルチ利用を視野にRNSLVのようなランチャー戦略を期待したい。


Minotaur発射台を利用したALV-1(ATK)                HASR(NASA)   

◎宇宙システムの産業革命がはじまった

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◎衛星メーカーの淘汰・整理が始まる。生き残るための方策は?

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射場+ロケット+衛星+運用コストでの国際企業とJAXAの比較

 
◎JAXA以外で宇宙企業を育成する戦略が急務

 JAXAはコスト概念が著しく欠如している。この組織が国際競争力ある宇宙企業を育成できるのだろうか?と考えると、筆者はかなり悲観的に見ている。衛星バス、標準衛星放出機能、モジュール化、新世代LVS(RNSLVやTSTOなど)の開発にすべて出遅れているのだ。JAXAには現状を見て将来を展望しながら、どこへ集中投資をして国際的地位を確立するという戦略家がいないからだろう。目先のプロジェクトに飛びつき、その先にもたらす物は一体何か?を熟慮せずにH-2B、GX、HTV、RTV、次期固体(イプシロン)を計画、衛星も国際的に見てコスト高の計画を平然と発表している。宇宙開発委員会も過去の栄光に慢心して適正な評価ができない組織へと成り下がってしまった。世界第2位の宇宙予算を保有しているにもかかわらずだ。よって、JAXAを解体・再編し他の宇宙関連組織と併合をしながら宇宙組織再構築が必要だろう。

 そうした中、経済産業省が小型衛星をJAXAより低コストで開発する方針を示し、予算申請したとの報道があった。内容が不明なため現状では評価できないが、SERVISバスを開発した経済産業省を評価できるが、コストと時間のかかるミッションを遂行するよりも、フランスのMYRIADEバス(150kgクラス)やPROTEUSバス(500kgクラス)のように、サイエンス・地球観測・軍事というマルチニーズ対応型衛星バスを開発してはどうだろうか?そして将来のユニット・モジュール型の組立衛星時代へ対応できるように、衛星企業を育成してはどうか?時代遅れのJAXA方式ではなく、国際競争時代に生き残れるマルチミッション対応型標準衛星バス(日本版MYRIADEか?)を第一段階としてやるべきではないか?そのほうが、関係企業の競争力は向上すると考えられる。また、これは大手衛星メーカー中心の開発では失敗する可能性が高い。中小企業を中心に別の次元で行うべきだろう。

◎衛星メーカーを育成させながら、公共衛星システムの展開

 今後は、公共事業だけで生きていこうとする衛星メーカーは淘汰されるだろう。だが、メーカーもJAXAの膨大な宇宙予算に縋っており、段階的にJAXA組織と予算を削減し、メーカーも国際競争へついていける公共事業で打ち出して技術を育て上げなければならない。

その公共衛星として有望なのは、地球温暖化対策のためのCO2監視衛星である。GOSATが開発中だが、技術もコストも国際常識外れですでに本計画は「目的・費用・効果のバランスが崩壊」しており不合格確定だ。将来的には経済産業省が開発する国際競争力ある衛星標準バスにセンサーを搭載する方式で、ロケットもH-2Aより安いランチャーを利用すれば、トータルコスト削減になるだろう。次期固体ロケット利用がまだ幾分かましだ。

 次に公共衛星として有望なのは、作物・洪水などを監視できる衛星が望ましいだろう。将来の企業所有衛星時代へ対応するための対策だ。JAXAにはセンサー開発能力がなく、海外からパッケージ購入しているため、国内の企業をあつめてセンサーを開発できる宇宙組織を構築し、ここがセンサーを開発する体制が必要だろう。

 これら公共衛星を展開しながら、場合によっては宇宙外交としてNGO・NPO衛星を提供する方法も考えられる。日本が国際的地位を確保するため、宇宙を外交ツールに使って、新たな経済的・外交的枠組みを作るという戦略だ。最近、韓国が欧州から気象衛星を購入し、中国や日本に依存せず、さらに他国への提供によって韓国の国際的地位向上を狙う戦略が発表された。日本の気象衛星“ひまわり”のナショナルプレステージが低下していることを意味している。今後は韓国よりも高性能のデータを提供する必要があり、これを怠れば、日本のアジア・オセアニア地域におけるプレステージが低下してしまうだろう。このため、衛星コストを削減し、限られた予算の範囲で日本のナショナルプレステージを確保する戦略が必要になる。これは、内閣府宇宙戦略本部と外務省の連絡会が必要になるだろう。

◎宇宙産業革命の普及時代へ(衛星とランチャーの今後は?)

 “静止通信放送衛星”に加えて“宇宙旅行”と“地球観測衛星”のプライベート(私)企業保有が進むとコスト概念が追求されるため、衛星の整理・統合が始まる。このため在来型・標準バス・組立型衛星が登場し、これら3つが複雑に絡み合いながら知見が蓄積され、将来的にコスト意識された機能最適化衛星が登場するだろう。JAXAのように余計な機能を搭載して複雑・巨大化する衛星は技術トレンド的に許されなくなる時代がやってくるだろう。その兆候は、月探査機“かぐや”と海外の月探査機を並べれば、答えは見えてくるはずだ。それを指摘されては困るため、JAXAは「アポロ計画以来、最大規模の観測を行う月探査機」と言って誤魔化しているが、海外は月探査機“かぐや”を反面教師的に見ているそうで、真似はしてこないだろう。

また、ロケットも淘汰時代がやってくる。今後ロケットには標準衛星放出機構(混載システム)に加えて、フライバックブースターを考慮したAir-Launch時代と地上発射ロケットが開発され、多種多様なチャレンジが行われるだろう。そのため、ロケットの原価償却のターンアラウンドが短期となり、償却に30年かかるH-2Aのような打上げシステムは許されなくなってくる。筆者は、H-2AとH-2Bは抜本的に戦略を見直さない限り、先はないと考えている。国際競争力のないHTV以外に需要のないランチャーに国民の税金を使う説得性はなく、打上げも海外ロケットを使ったほうが安上がりであり、H-2シリーズは基幹部品が輸入品という事実を隠していたツケが回ってくるだろう。次期固体もマルチ利用可能なRNSLVが登場すれば戦略性の弱さが露呈する。SRB-Aという輸入パテントで日米間で拘束条件付のロケットモータを使用する方針を示した、宇宙基幹システム本部には、近い将来その決定の責任が問われるかもしれない。GXももはや既存計画が陳腐化しており、抜本的戦略転換ができなければ存在価値がなくなるだろう。以上から、JAXAには将来輸送戦略を立てる組織として能力不足である。RVTやスペースシップワンもどきの計画を発表すれば、「日本は戦略をなにも考えていない」と笑われてしまうだろう。先日も航空宇宙学会誌にコンセプトが発表されたが、「技術積上・コストミニマム」

 今後、日本の宇宙関係者は宇宙需要が“公共・事業体”から“企業・個人需要”へ次第にシフトしてくるという認識が必要だ。また、公共組織(JAXA)がゼロから衛星を製造・打上げするのではなく、軌道上にある時点で購入・調達する体制も考えられ、JAXAのような宇宙開発組織は必然と規模縮小をしなければならなくなる可能性も出てくる。またランチャーも性能本位の追求も必要だが、RNSLV動向からモジュール・ユニットランチャーが台頭してくるため、減価償却に30年ではなく、「開発に3年、量産7年」という10年ターンアラウンド体制ができる可能性が高いだろう。新世代へ向けた戦略と組織作りが日本には必要だ。

 

◎まとめ

 “古くて実績があって信頼性があるが高価”という宇宙部品は、民生品技術が台頭してきたことと、小型衛星製造の活発化によって実証機械が増加することで、世代交代が進むだろう。この世代交代により、衛星の価格破壊が進む可能性が考えられる。これら衛星を安く仕上げるためにユニット・モジュール型の組立衛星を目指す動きが出てきており、機能最適化衛星が生き残る時代となる。

 またロケットも完全使い捨て時代を脱すべく、TSTOを目指す動きが出てきており、欧米露ではフライバックブースターの規格統一が話し合われている。また、段階的に知見を積み上げるため戦闘機にロケットエンジン(もしくはモータ)を搭載、打ち上げ能力は限定されるがTSTOを目指してコストと納期を意識した小型衛星ランチャー開発が欧米で進められている。そして、搭載するロケットもマルチ利用(衛星打上、気象観測、UAV派遣、高速機開発)が可能な仕様で量産・コストダウンを目指したRNSLVを筆頭にユニット・モジュールランチャーが既存・新規と戦略的に開発されている。

 これら数ヶ月の筆者誌面内容を整理・分析すると、JAXA戦略は明らかに時代遅れだ。組織解体を含めて抜本的な改革をしなければ、日本の宇宙プレステージは地に落ちるだろう。宇宙活動は技術開発ではなく、国家間の新たな枠組みを生み出すツールであるという認識が日本には必要なのかもしれない。韓国・台湾・イランなど宇宙開発国が次々登場している背景には、国威発揚ではなく宇宙活動は外交ツールになるという認識があるからだ。過去の遺産の延長線上で宇宙活動を行うJAXAのような既存路線か、21世紀の宇宙普及時代へ向けて新たな道を進む新規路線か、日本は選択の時を迎えている。それが宇宙基本法登場の本質であり、内閣府宇宙戦略本部で検討される課題なのかもしれない。


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